魔族と人間

  北側諸国──グラナト領。

  魔王が滅びた今も、この地では人と魔族の争火が消えることなく燻り続けていた。

  そんな中、魔族の一派を率いる〈断頭台のアウラ〉は、突如として3人の魔族を和睦の使者として送りつけた。

  そして今、アルタたち3人は、

  その和睦の使者に杖を向け、"和平の妨げ"として牢に囚われたフリーレンの面会に来ていた。

  「フリーレン様…」

  「二、三年は反省しろってさ」

  「なんでこんなことに…」

  牢の外で肩を落とす三人を見て、フリーレンは飄々と答える。

  「思ったより短いね。あとで魔導書の差し入れ持ってきて。」

  いつも通りの調子──だが、

  次の瞬間、その瞳が氷のように冷えた。

  「…それにしても、悪手だね。魔族との対話なんて無駄な行為だ。」

  「無駄ってことはないだろ。話し合いで解決できるなら、それが一番じゃねぇか」

  「解決しないから無駄なんだよ。魔族の祖先は、物陰から"助けて"と人を呼ぶ魔物だ。…奴らにとって言葉は、欺くための道具でしかない。」

  その言葉の温度に、誰も反論できなかった。

  冷え切った牢の空気の中で、ただフリーレンの横顔だけが静かに沈んでいた。

  ──あんな表情、初めて見た。

  地下牢を後にしたアルタはその光景を、なぜか忘れられずにいた。

  ──

  少し日が落ち、フェルンとシュタルク、アルタの三人は再びグラナト伯爵の屋敷へ向かっていた。

  「直談判っていっても、どう説得すればいいのかな……“フリーレンを解放しないと殺すぞ!”って感じ?」

  アルタがぼそっとつぶやく。

  「いやそれ、直談判じゃなくて脅迫だろ、俺たちまで牢屋行きになっちまう」

  シュタルクが額を押さえてため息をつく。

  他愛もない会話をしながら歩く三人。

  そのとき、フェルンがふと立ち止まった。

  「……フリーレン様?」

  通りの向こうを、深くフードを被った小柄な影が横切る。

  フェルンが駆け寄ると、その影が振り返った。

  「フリーレン様ですよね」

  「こっち」とフリーレンは人気のない路地裏へと足を向けた。

  三人は慌ててその後を追う。

  路地裏にたどり着くと、フェルンが息を整えながら問いかけた。

  「牢から出られたんですか? 一体どうやって……」

  フリーレンは軽く肩をすくめた。

  「牢屋にいたらドラートとか言う魔族が襲ってきてさ、一応倒して、死体も霧散したんだけど…そいつ、牢屋の見張りの衛兵を殺しててさ。めんどくさいことになりそうだったから、逃げてきた。」

  「面倒くさいことって…?」

  アルタが聞き、フェルンが答える。

  「"衛兵殺し"は、国家転覆とみなされ基本的にどの国でも極刑です。そして、牢屋に残されているのがフリーレン様とその衛兵の遺体なので…」

  「だから、私は街をでるよ。」

  そう言って歩き出すフリーレンをフェルンが引き留める。

  「待ってください。それだと残りの魔族が野放しになります。

  町を見捨てるつもりですか…」

  「フェルンたちで倒せばいいじゃん」

  振り返ってさも当たり前のように返すフリーレン。

  「俺たちが戦ってかなうような相手じゃねぇって…」

  「相手が強かったら戦わないの?…それに私は、2人があいつらより弱いなんて微塵も思っていないよ」

  フェルンとシュタルクの目を見てそう返すフリーレン。

  「…あれ?…私は?」

  申し訳なさそうに自分を指さすアルタ。

  「アルタは…さすがにあの魔族より弱い。だから、私についてきて。」

  そう言って町の外に歩き始めるフリーレンの後を、「だよね…」とつぶやいて追いかける。

  フェルンとシュタルクと別れた後、しばらくしてフリーレンがつぶやく。

  「ちょっと言い方がストレートすぎたかな。そんな顔しないでよ。」

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  「うん」とは返しながらも、はっきり弱いと言われて落ち込むアルタにフリーレンが続ける。

  「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ。もちろんフェルンやシュタルクにはできない。適材適所ってやつだね。」

  少しいつもの尻尾を振ってそうな笑顔が戻るアルタだった。

  日が傾き、町が焼けるように色を変える。いつもより赤く。