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日が落ち、赤く大きな月が空に上がる。
朽ち果てた、天井もない壁だけの教会。
青年が、魔法陣を広げ、何かを作っている。
そのそばにある、祭壇。
かつて、異国の僧侶が教えを説いた祭壇の上に、善逸は横たわっていた。
相変わらず、人形のように表情がなく、目に光はない。
「………」
「さて、できた」
出来上がったばかりの、漆黒の魔鉱石。
それを握りしめ、青年はチラッと善逸へと視線を向ける。
「最後にもう一度だけ、煽っておくか。冷静なんだか短気なのかわからない、あの愚兄の為に…」
そう言って、善逸に近づいた。
するり──
「……っ…」
ビクン!
青年が足を撫でただけで、何も身につけていない下半身が跳ねる。
その様に、この教会で善逸の体をくまなく調べあげた青年は、呆れたようにため息を吐いた。
下半身が野晒しなのはその為だ。
下腹部の痣が、妖しく発光している。
上半身については、自我を取り戻されては不都合な為、前だけ開いた状態になっている。
騎士服の合間から、黒百合の痣が顔を覗かせる。
「どれだけ、この雌と交尾したんだよ。もう、いつでも孕める状態じゃないか」
先程、善逸の体の状態を念入りに調べた青年が下腹部の痣に触れ、愚痴る。
呪花の証は、確かに繁殖を目的とした呪術だ。
しかし、この術をかけられたからといって、対象者は最初から孕めるわけではない。
そこには、術者と対象者の、肉体的かつ精神的な深い繋がりが必要となるため、長い時間がかかる。
だから、宇髄一族の長い歴史の中で、この術は子を増やす為に多用されたのだ。
対象者を閉じ込め、肉体的に屈服させれば、いくらでも子を増やすことができるから。
まさか、聖杯を宿して僅かな時間で、ここまでの完璧な雌に仕上がっているとは……
「兄さんによっぽど可愛がられたんだね、アンタ。この具合だと、一発で孕むかもしれない──これなら、宇髄の血も救われる」
ピクッ
青年から発せられた、“宇髄”という名前に、善逸の指が震える。
「ここがいいかな?やっぱり、普通の雌と違って硬いけど、なかなかイイ足をしているし…」
善逸の、よく鍛えられた足。その太ももに手をかけ、持ち上げる。
青年は気付かない。
人形と化したはずの善逸の手に、刀が握られていることを──
「ここに、唇の痕を残したら、絶対勘違いするな。目に浮かぶよ、アイツの怒り狂った姿…」
そのまま、青年が善逸の内股の柔らかい肉を吸おうと唇を寄せた。
その時だった。
「雷光よ、我を戒めし糸を断ち切れ…」
「…!?」
「霹靂一閃」
ドオオオォォォン!!!!!
瞬く間に、一つの雷が二人目掛けて落ちる。
かろうじて、避けた青年。
しかし、雷が周囲を破壊し、粉塵が視界を覆う。
その粉塵を払うように、一筋の光が青年へと突っ込んだ。
キン!!!
(こいつ…)
魔鉱石の短剣でなんとか首を狙った刃を受け止める。
目の前には、目を瞑ったまま、刀を握る善逸がいた。
その身に纏っていたはずの騎士服は焼け焦げ、ほぼ原型は無くなっている。
善逸は自身に雷を落とし、自我を封じる騎士服を焼ききったのだ。
けれど、完全に意識が戻ったわけではない。
(この雌…意識のない状態でも戦えるのか)
青年が善逸の刃を振り払い、距離をとる。
善逸もまた後退し、再び刀を鞘に収め、構えをとった。
一度、刃を受け止めたからわかる。
この一撃、受けたら無事ではすまなかった。
雷属性の魔法使いは、得てして攻撃力が高い上に、どんな闇も瞬く間に照らし、祓ってしまう。
だから、十年前に魔王は雷属性を含めた五大属性の魔法使いの殲滅を命じたのだ。
さらに、善逸は魔法使いではなく、魔法騎士。
物理的攻撃力があるため、青年からすれば何かと厄介である。
そうこうしているうちに、再び善逸の刃が青年目掛けて振り抜かれた。
(速さが尋常じゃない。術や罠を仕掛ける隙もない)
善逸の刃をギリギリで避けながら、青年は思考を巡らせる。
(乗り気じゃないけど、試してみるか…)
青年は、スタッと着地し、善逸を見据えた。
善逸は、目を瞑ったまま、再び構えをとる。
一瞬で、青年の間近に迫る善逸の刃。
「……っ!」
それと同時に、青年の紅い目が妖しく発光した。
雷狼のBEAST 第九話 恥辱に穢される想い
ドオォォン
「!?」
近くで鳴った雷鳴に、宇髄はバッと顔を上げる。
この魔力は、善逸のものだ。
「善逸!!」
教会の壊れた扉を蹴破り、宇髄が飛び込む。
次の瞬間、彼の足が凍りついた。
「善逸…」
「ン……」
宇髄の前で、善逸がくぐもった声を漏らす。
朽ち果てた祭壇の上。
周囲で蠢く、棘付きの蔦。
その蔦が、宇髄が愛して止まない滑らかな肌に食い込み、縛り上げる。
「ンン…ッ…!」
覆われた口から漏れる、くぐもった悲鳴。
宙吊りにされた白い体を、蔦が蛇のように這っていた。
「ン…ぅ…」
かつて僧侶が祈りを捧げた神聖な場所。
その真上で、各々の手首と足首を縛られ、大の字の格好で宙に浮く青年。
項垂れた金髪が汗で額に張りつき、涙で濡れている。
「ン…ン…ッ…」
「……っ!」
善逸は、神聖な神の祈り場である場所で、無慈悲にも体を開かれた姿で縛り上げられ、その裸体を晒されていた。
黒百合の痣が、赤黒く発光している。
「ンン…ッ…」
ポタ、ポタ──
聖杯を表すハートの痣が、黒百合の痣と呼応するように妖しく光る。
その下にある善逸の秘部は、足を開かれたせいで剥き出しになっており、まるで見せ物にされているかのようだった。
その花弁の中心…彼の蜜壺から、止めどなく溢れ落ちる、透明な蜜。
焼け焦げた騎士服はボロボロに裂け、宇髄しか見たことがない、汗と蜜にまみれた善逸の体が、月明かりに濡れて光る。
自尊心を傷つける屈辱的な姿に、宇髄は震えながら彼の名前を呼んだ。
「ぜん…」
「ンンッ……!」
口を蔦で塞がれ、くぐもった悲鳴だけが、善逸から漏れる。
同時に、制御を失ったように小刻みに震え、仰け反る体。
次の瞬間、白目を剥き、首をのけぞらせた善逸の雄芯から放たれた白濁が、勢いよく弧を描いて飛び散った。
「ンンンン!」
あまりの恥辱に、目を閉じ、大粒の涙を流す善逸。
そんな彼の心とは裏腹に、絶頂とともに秘部から溢れた蜜が、太ももを伝い、祭壇へと滴り落ちる。
床に突き刺さった善逸の刀が、カラン……と寂しく音を立て、倒れた。
「遅かったね、兄さん」
闇の中から、弟がゆっくりと歩み出る。
「驚いたよ、この雌、自力で自我の呪いを解いて、斬りかかってくるんだから」
「……やはり、お前の仕業か」
宇髄の言葉に、弟は小さく笑った。
「実の弟との再会が嬉しくないの?」
「馬鹿言え」
宇髄が二本の太刀を召喚する。
「……俺達に、兄弟の情はねぇだろ」
そのまま、太刀を振るう宇髄。
しかし、弟は難なくそれを避け、善逸のそばに立った。
「それ以上、近づかないほうがいいよ?兄さん、この雌がどうなってもいいの?」
「………チッ」
怒りを露にしながらも、宇髄は舌打ちし、動きを止める。
「………」
「そんなに大事なんだ?十年前と変わらずに、この人間が…」
「うるせぇ。お前に関係ねぇだろ」
唸る兄に、弟は口角を上げた。
「兄さんが呪花の証を刻んでいてくれて助かったよ」
「………っ…」
「そのおかげで、ほら…」
「ンンン!!?」
「やめろ!」
青年が無遠慮に、善逸の蜜壺に指を挿れる。
怒りを露にする宇髄。
けれど、目の前に殺傷力のある結界が張られている為、無闇に動けない。
善逸に被害が及ぶ可能性がある。
「ン!!!」
ブシュッ!!
そんな宇髄の前で、青年がわざとらしくグリッと指を動かすと、善逸が再び白濁を噴き出した。
ビクン!と全身を痙攣させる善逸。
そのまま、彼は意識を失ったように、ぐったりと項垂れた。
青年が指を引き抜くと、溢れる蜜が滴り、濡れた指が糸を引く。
「ずいぶんと淫乱な雌に育てたね?兄さんの趣味?」
「………やめろ、善逸を玩ぶな…」
今にも爆発しそうな怒りを何とか抑え、宇髄が弟を睨む。
けれど、そんな兄の姿に、弟は鼻で笑った。
「発情で勝手に動けなくなってくれたから助かったよ。こんなことから、最初からこっちを使えばよかったな」
「ンンンンン!」
「やめろ!!!」
青年が目を赤く発光させると、善逸が再び意識を取り戻し、勢いよく吐精する。
二人の目の前で仰け反り、絶頂する善逸の姿に、弟の目が嘲るように細められた。
「……ぁ……ぅ……」
はらはらと、善逸の瞳から涙が溢れ落ちる。
「兄さん、本当に良い逸材を見つけたね。イイ雌じゃないか。一族の慰みモノとして有効活用できるよ」
「ふざけんな!これ以上そいつを辱しめてみろ、只じゃおかねぇぞ!!」
「兄さん、馬鹿なの?そんなこと言われたらさ………」
弟の紅い目が楽しげに発光する。
善逸が再び白目を剥き、首をのけぞらせた。
「ンアアアアッ!!」
ビクン!ビクンッ!!
激しく体を痙攣させ、吐精する善逸。
彼の口から、蔦だけでは塞ぎきれない悲鳴が迸った。
その様に、弟は挑発するように宇髄を見やる。
「もっと玩ぶものでしょ?」
「……ァ……ァ……」
目を見開いたまま、全身をひくつかせる善逸。
強制的に発情させられ、そんな恥辱にまみれた姿を、一番見られたくない人の前に晒しながら、絶頂する。
善逸は宇髄の目の前で、絶望したように無表情で涙を流していた。
そんな彼の表情とは裏腹に、だらだらと蜜を溢れさせる蜜壺が、雄を求めてヒクヒクと痙攣している。
光を失った、琥珀色の瞳。
その瞳が、顔面を蒼白させた宇髄を捕えた。
その瞬間、戻った瞳の光。
けれど、すぐさま彼の目は悲しげに細められた。
(見ないで……)
悲痛な表情で、善逸が宇髄を見て涙を浮かべる。
(見ないで……宇髄さん……)
ポタッ……
頬を伝う涙が、音を立て、祭壇へと落ちた。
その瞬間、宇髄の堪忍袋の緒が切れる。
ブチッ
「てめぇ……」
殺意で燃える、紅い瞳。
その瞳が、唯一の肉親であるはずの青年へと向けられる。
「ぶっ殺す!!!」
アオオオォォン!!!
獣の咆哮と共に、宇髄の姿が消えた。
同時に、弟の姿も消える。
キィィン!ガキィィィン!
教会の中で、金属がぶつかり合う音が響く。
空気が揺れ、その衝撃で、辺りの壁や椅子、神の像が破壊される。
二人の姿は見えない。
時折、刃を交える二人の残像が、空中に映る。
「兄さん、初めて見る顔だね」
弟が短剣で刃を弾きながら、どこか楽しそうに笑う。
「昔は感情を剥き出しにしなかったのに。そんなに腹が立った?兄さんの大事な雌を辱めたことが…」
「うるせぇ!!」
キィィィン!!!
「てめぇはもう喋んな!!」
宇髄の太刀が、弟目掛けて突き出される。
スッとそれを避け、弟が横から宇髄の太刀を片手で掴んだ。
「っ!」
途端に動かなくなる刃。
まるで、強い力に押さえつけられているかのように、宇髄は何とか腕を動かそうとする。
そんな兄の横に移動し、弟は耳元で囁いた。
「何も聞かないの?兄さん」
「あ?」
「俺が何でこんなことしたのか、とか…」
弟の言葉に、けれど宇髄は青筋を更に濃く刻むと、太刀を離した。
「しゃらくせぇ!!!」
ドカッ!!
宇髄は空中で弟の腹に拳を打ち込む。
「てめぇの都合なんて知ったこっちゃねぇ!興味なんて微塵もねぇからな!」
「………」
「だが、俺達を巻き込むな!こっちはもう獣人として楽しくやってんだからよ!」
その言葉に、弟のこめかみに青筋が浮かぶ。
「っ!?」
ドオォォン!
「かはっ!!!」
宇髄の体に衝撃が走り、地面に叩きつけられた。
一瞬、息がつまる宇髄。
その拍子に、二本の太刀が遠くに飛ばされ、善逸の刀のそばに突き刺さった。
「ぐふっ!」
そんな兄の体を、弟がやってきてドスッと踏みつける。
「……あんたが楽しくやってる間、俺達がどんな思いで生きてきたかわかる?」
「ぐっ!」
宇髄の腹を踏みつけ、弟は冷たい眼差しで見下ろす。
「魔王が討たれてから、俺達は魔族のレッテルを貼られて神域を追い出された。それは仕方ない。父上の判断ミスだ。けれど、その後一族はどんどん数を減らした。今や俺を含めて一族はほんの僅か」
グリッ
「ぐはっ!」
腹を踏まれ、宇髄の口から苦しげな声が漏れる。
「あんたが、獣人としてのうのうと人生を楽しむ間、俺が一族を支えてきたんだ。俺がどんな思いで今まで過ごしてたか、あんたにわかるのかよ?なあ…」
「…ぅっ…ぐ…!」
「あんた、長男だろ?責任果たせよ。跡取りだったんだからさ!」
弟が手を翳し、魔力の光の玉を宇髄へと落とした。
すぐさま、離れる青年。
すると、宇髄の顔の上で光の玉は盛大に爆発した。
ドオォォン!
爆炎とともに、凄まじい爆風が善逸へと襲い掛かる。
「ンンンン!!!」
宇髄に向かって声をあげる善逸。
爆風が収まり、静寂とともに、煙が落ち着いていく。
すると、その奥から揺らめく人影が現れた。
その姿に、善逸は涙を浮かべ、安堵の笑みを浮かべる。
「ン…」
「安心しろ、俺は元神だからな。これくらいどうってことねぇよ」
宇髄は額から血を流しながらも、何とか立ち上がった。
善逸に向かって、安心させるように微笑む宇髄。
目だけで会話する二人の姿に、青年は蔑むように冷たい視線を向けた。
「この雌にはそんな顔するんだ?酷いな、肉親のことなんて興味ないくせに、薄情な兄さんだよ」
弟の言葉に、宇髄はおかしそうに肩を震わせる。
「……何笑ってるの?」
「いや、別に…ただよ…」
宇髄は悪役のようなニヤリとした顔で弟を見据えた。
「ずいぶんと勝手なこと言ってんなと思っただけだ」
「は?」
「先に捨てたのはどっちだ?お前ら宇髄の奴らだろうが」
ボロボロになった宇髄がニッと笑う。
「長男?跡取り?いつの話だ。そもそも、俺はとっくの昔に追放された身。そんな奴に手を差しのべないんだろ?お前らは」
「………」
「それなのに、こういう時だけ肉親だの兄弟だの言いやがる…てめぇらの都合で切り捨てたクセに、こういう時だけ兄貴呼ばわりしやがって」
一瞬、ふらっとよろける宇髄。
けれど、彼はよろめきながらも足を踏ん張っていた。
「あぁ、そうか…お前…」
宇髄はニカッと笑った。
実の弟をからかうように、悪戯っ子の顔で。
「お前、本当は頼る相手が欲しかったんだろ?可愛いとこあるじゃねぇか」
その瞬間、無表情な青年の顔が一瞬歪んだ。
バタン!
「くっ!」
しかし、地面から無数の蔦が這い上がり、宇髄を引き倒すと、うつ伏せに縫い止める。
「言い様だね、兄さん。惨めに地面に這いつくばってさ。色男が台無しだ」
「……ハッ、馬鹿言え。俺はどんな時でも派手で華やかな色男なんだよ」
「……まだ、そんなことを言う余裕あるんだ?」
弟はスッと目を細めると、そのまま踵を返し、ゆっくりと善逸に近づいた。
「ンッ」
蔦に縛られた顎を掴み、無理やり顔を上げさせる。
その光景に、宇髄は弟が何をしようとしているか、すぐに理解した。
「やめろ……!!」
宇髄が踠き、蔦を引きちぎりながら、起き上がろうとする。
けれど、蔦は際限なく現れ、宇髄を縛り付ける。
「ンンンッ」
善逸もまた嫌がって身を捩るが、弟の指が蔦を外すと同時に目を発光させた。
その瞬間、善逸は白い喉を晒し、絶叫した
「アアアアアッ!!!」
もう何度目かもわからない絶頂に、善逸の意識が再び飛ぶ。
もはや、彼の雄芯は吐き出すものがなく、透明な液をだらだらと溢していた。
ぐったりと項垂れる善逸。
その顎を、形の良い長い指が掬った。
「やめろ!そいつに触るな!!!」
宇髄の叫びに、青年は宇髄を見て、フッと笑った。
そして──
「!!!」
目の前で奪われる、愛しい存在の唇。
深く、ねっとりと、まるで所有権を刻むように、善逸の唇を吸う。
その光景に、宇髄の怒りが爆発した。
グルルルル!!!
目を赤く光らせ、唸り声とともに、宇髄が力任せに蔦を引きちぎった。
グオオオォォ!!!
空気を揺るがす、獣の咆哮。
青年が蔦を使って上空へと退避すると、独りでに祭壇が破壊された。
鋭い爪の跡が、くっきりと祭壇にあった場所に刻まれている。
ガルルルル!!!
上空を見上げ、威嚇する宇髄。
その様は、本能に身を任せる、ただの獣だった。
再び伸びた、宇髄の爪。
彼は腕を振りかざし、上空にいる弟目掛けて飛びかかる。
だが──
「っ……!」
目の前に突き出された、愛しい金色。
その姿を目で捕えた瞬間、宇髄の動きが止まる。
ドカッ!!!
「かはっ!?」
その隙に、弟の蹴りが腹にめり込み、宇髄は再び地面に叩きつけられた。
沈み込む兄の姿に、弟が冷たく笑う。
「ダメじゃないか、兄さん。この雌は一族の大事な孕み袋なんだから、丁重に扱わないと」
「なん…だと…?」
恐ろしい言葉に、宇髄が何とか身を起こしながら、弟に問い返す。
「明日の満月の夜、宇髄一族代々の聖窟で復活の儀式を行う。そこで、石像に封じられている先祖達の魂を器に憑依させて、この雌を孕ませる……大いなる神の力を取り戻すこと、そして子孫を残すことが、ご先祖様達の悲願だからね」
「ふざけ…な…!これ以上….善逸に…..手出しは…!」
「そんなボロ雑巾みたいな姿で何ができるのさ。それに、この雌にとっても名誉なことだろ?一族のご先祖様方と生涯交わり続け、更に世継ぎまで産むことができるんだから。快楽に弱い淫乱には良いことしかないだろ?」
「お前…!」
「止めたかったら、聖窟に来なよ、兄さん。来なかった時は、この子は一族の雌として、生涯、死ぬまで孕み袋だ」
意識を失った善逸とともに、弟は影のように異空間へと溶けていった。
何とか立ち上がり、善逸へと手を伸ばす。
しかし、再び蔦に足を捕まれ、引き倒された。
その合間にも、善逸は宇髄の前で闇に溶けていく。
「ぜん!」
「………」
伸ばされた宇髄の手が、虚しく空を切る。
完全に闇に溶けてしまった、愛しい金色。
「ぜーん!!!」
宇髄の叫びだけが、教会内に木霊する。
同時に、蔦が枯れ、ようやく解放された宇髄。
けれど、宇髄はがっくりと肩を落としたままだった。
「ぜん…」
キラッ──
直後、煌めく小さな何かが二つ、宇髄のそばに落ちてきた。
輝くそれを、宇髄が震える手で拾いあげる。
「……っ…」
それは、ピアスだった。
宇髄の瞳を思わせる紅色と、善逸の瞳を思わせる琥珀色の石が嵌められた、二人分のお揃いのピアス。
はらり──
すると、一枚のカードが頭上から舞い、宇髄の目の前に落ちてくる。
書かれていたメッセージが、宇髄の紅い瞳に映った。
“宇髄さんへ。恋人の日の記念日に贈ります。これからもオレの隣にいてね”
バン!!!
「善逸!宇髄さん!」
「宇髄!」
直後、炭治郎と煉獄が駆けつけ、教会内に飛び込む。
だが、そこに善逸の姿は、もうなかった。
そこにあるのは、ピアスとカードを抱え、座り込む宇髄の背中。
「宇髄さん…善逸は…」
そう言いかけ、炭治郎は口を噤んだ。
匂いを嗅がなくともわかる彼の悔しさに、かける言葉が見つからない。
「宇髄…」
旧知の仲の煉獄が、そっと肩に触れる。
旧友の声に、宇髄は肩を震わせた。
「善逸…」
宇髄の声が、助けられなかった想い人の名を呼ぶ。
「善逸……ぜん……っ………!!!」
ウアアアアァ!!!
宇髄の慟哭が、周囲に響き渡る。
赤い月が昇る夜空の下、宇髄は拳を振り上げ、地面に叩きつけた。
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