【関西けもケット11】Good - bye my cradle 外伝・「カノープス前日譚」
「それじゃあ!カプチーノ!また明日!」
「う、うん、ベーニィ……!またね……!」
グリフォンであるベルナルドゥスが右の前足を大きく、引っ込み思案な人間の少年であるカプチーノが右手を小さく、お互いに相手へ向かって振り合いました。それから、カプチーノの新しい友達でもあるベルナルドゥスは空を見上げると、上半身の羽毛と同じ、西日を受けて輝く薄茶色の大きな翼をはためかせながら地面を蹴り上げます。
[[rb:不来方 > コズカタ]]城跡公園の広場に、砂埃の突風が巻き起こりました。それによって首筋まで伸ばした黒いウルフヘアの前髪がめくれたカプチーノは、思わずローブに包まれた左腕を顔の前にかざしました。しかし、グリフォンが飛び立つ姿を瞳に焼きつけるため、腕をわずかに下げ、上目遣いの視線でベルナルドゥスを追従します。
広場の地面から垂直に飛び立ったベルナルドゥスは、空中でさらに大気を両方のうしろ足で蹴って、上昇に勢いをつけます。その途中で、ベルナルドゥスは体を丸めると、縦に一回転し、再び四肢を伸ばし羽ばたきました。薄茶色の鷲の上半身と白銀の獅子の下半身、その両方の毛並みが一瞬だけ混じり合います。カプチーノに対するパフォーマンスだったのでしょう。
「やっぱり……ベーニィはすごい……!」
グリフォンは羽ばたきも使って、またたく間に上昇していきました。数秒前まで自分の眼前に四本足で立っていた幻獣が、今はあんなにも小さな姿になっています。針に似たわずかな痛みがカプチーノの胸のうちに生まれますが、それでも夜魔道士の瞳は輝いています。
「あ……あれ……?」
夜にうろつく甲虫ほどの大きさに錯覚するほど上昇したベルナルドゥスは、不来方城跡公園の上空で、接近してきた何者かと出会いました。カプチーノはその姿に見覚えがあります。
その者はベルナルドゥスとともに、円を描くように上空で旋回をはじめました。その姿にノズルの噴射炎はありません。[[rb:天峰 > テンポウ]]山の山頂部で見かけた時から機体の表面に、ジェットやロケットなど反動推力系エンジンノズルが存在していないのを確認しています。あのときは、背の中央で上下に並ぶヒレのような構造、その一部の半透明な箇所が、地面に足を着けていても淡い黄色に発光していました。おそらく、機体姿勢制御と飛行時の推力や揚力を担っているはずです。
ベルナルドゥスが旋回を中断し、天峰山や[[rb:姫神 > ヒメカミ]]山の方角へ飛行を始めると、その者も旋回をやめました。カプチーノが見上げる先で、前傾になっていた姿勢が起き上がります。
「わっ……‼︎ わわっ……‼︎」
予想はしていましたが、それでもカプチーノは驚愕しました。すぐさま広場の隅に立つ一本の木の陰に隠れ、身の安全を確保します。
その者は原理不明の力を用いて、垂直降下を始めました。間違いなく着陸地点はこの広場です。強い風によってカプチーノの前髪が再びめくれ、それに弄ばれます。機体降下によって、あの力の力場の中に入ったのでしょう。
「あ……あ、あの……! つ、通報はしないでください……! あ、あの人は、あ、人じゃないかも……あのパイロットは、あ、自律AIかも……と、とにかく……僕に用事があるだけです……! たぶん……」
広場の周辺で慌てて携帯電話を取り出す者たちに向かって、カプチーノは自分の喉に拡声魔術をかけながら、慣れない大声で叫びました。夜魔道士の高校生であり、引っ込み思案な性格のカプチーノには、基礎実習以降は使う機会がなかった魔術です。
カプチーノや遠巻きに眺める見物客の前で、その者は折りたたんでいた四つの膝部を開き、着陸態勢に入りました。その姿はとある宗派の宗教画としてよく描かれる、「月面に降り立つ太陽神」に少しだけ似ています。
「んん……?」
夜魔道士は訝しげに首を傾げました。その者の背には、先ほど天峰山で見かけたときには存在していなかったはずの構造物が、背の右側にマウントされています。その者の体に阻まれて全貌は確認できず、まるで二叉路のような独特の形状を持つそれの用途も不明です。
カプチーノたちが見届ける中、その者は四つの脚をバネのように動かし体をわずかに上下させると、無事に公園の広場に降り立ちました。飛行を終えて力場の出力を抑えたのでしょう。カプチーノのローブや前髪を弄んでいた強風が消えました。
「…………」
それでもカプチーノは引っ込み思案ゆえに木の陰から出ず、様子を窺い続けます。まさに艶を抑えた漆黒に包まれた、四脚の人型機動兵器の姿を。
四方で地を踏みしめる下半身、前後に伸びた独特の胸部、頭部には小さく伸縮を繰り返す三つのレンズ。背丈は人間のそれをゆうに超えており、屋根を省いた二階建ての家屋ほどの巨体です。
イーハトーブ国の首都である不来方のここでさえ、その姿は明らかに異質です。おそらく、歴史上の大戦で戦場を駆けていた兵器たちの系譜か、あるいは現存機そのものかもしれません。
その兵器の所属をカプチーノは知っています。新しい友達であるグリフォンの同僚、もしくは先輩の、銀河鉄道の運行を守る護衛団の一員です。しかし、あまりにも戦うことに特化した人型兵器の姿に気圧され、カプチーノは木の幹に体を隠して頭を覗かせるだけです。
「夜魔道士カプチーノの姿を確認。対話を希望」
「はっ……はい……‼︎」
カプチーノの予想は残念ながら的中し、人型兵器の目的はカプチーノでした。カプチーノは木の陰から急いで退き、静かに人型兵器へ歩み寄ります。学生用ローブに包まれた男子用セーラー服の胸元で手首を十字にし、スラックスに包まれた両足も閉じ気味なカプチーノは、まるで身寄りのない子猫のようです。
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