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第8話  夏祭りの夜

  ベスティアに平和が戻った翌日。

  町には以前にも増して活気が戻り、人々の笑顔があふれていた。

  そんな朝、運営からのお知らせが届く。

  空に淡い光の文字が浮かび上がる。

  『期間限定イベント開催!』

  『納涼花火大会イベント』

  『開催場所:イベント特設会場』

  『参加者には限定ファンドレを配布します』

  「イベントだ!」

  リュミエが目を輝かせる。

  「戦いが終わったと思ったら、今度はお祭りなんて。」

  ユリシアも思わず笑みをこぼした。

  直後、二人の身体が優しい光に包まれる。

  装備が淡く輝き、姿が変わっていく。

  「わぁ……」

  ユリシアは思わず声を漏らした。

  いつものハイプリースト装備ではない。

  涼しげな浴衣を思わせるファンドレ。

  帯や髪飾りも夏祭り仕様になっている。

  「似合ってる。」

  リュミエが素直に言う。

  「そ、そう?」

  少し照れながら微笑むユリシア。

  リュミエもまた、浴衣風にアレンジされた騎士用ファンドレへと変わっていた。

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  「普段と雰囲気が違うね。」

  「期間限定らしいわ。」

  二人は顔を見合わせ、祭りの賑わう中央広場へ向かった。

  ◆

  広場には色鮮やかな屋台が立ち並び、多くの冒険者や住民で賑わっていた。

  焼き串の香ばしい匂い。

  甘い果実飴。

  子どもたちの笑い声。

  「すごい人だね。」

  「イベントは皆楽しみにしていたのね。」

  その時だった。

  「リュミエさん!」

  元気な声が飛んでくる。

  振り向くと、レント、ショータ、カノの3人が駆け寄ってきた。

  [uploadedimage:25146104]

  「おー! 3人とも浴衣じゃん!」

  「似合ってる!」

  「限定ファンドレって聞いて急いで来ちゃった!」

  3人はいつもの調子で大はしゃぎしている。

  「みんなも楽しんでるみたいね。」

  「もちろん!」

  ショータが射的の屋台を指差した。

  「勝負しようぜ!」

  ◆

  射的では景品を狙って歓声が上がる。

  「やった!」

  レントが小さなぬいぐるみを手に笑う。

  一方のショータは狙いが外れ続け、周囲を笑わせていた。

  「なんで当たらないんだー!」

  カノは器用に景品を射抜き、得意げに胸を張る。

  「ふふっ。」

  ユリシアも思わず笑う。

  続いて金魚すくい。

  リュミエは真剣な表情で挑むものの、あっという間に紙が破れてしまう。

  「あ……。」

  「下手ね。」

  ユリシアが小さく笑う。

  「そっちは?」

  「見てて。」

  そう言って器用に一匹すくい上げる。

  「すごい!」

  「これくらい簡単よ。」

  夏祭りの穏やかな時間が流れていく。

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  ◆

  日が沈み始める頃。

  人々は自然と広場の中央へ集まり始めた。

  「もうすぐ始まるみたい。」

  空を見上げるユリシア。

  やがて。

  ヒュゥゥ……

  夜空へ一筋の光が昇る。

  ドォン――

  色鮮やかな大輪の花火が夜空いっぱいに咲いた。

  「きれい……」

  思わずユリシアが息を呑む。

  その横でリュミエも夜空を見上げていた。

  「こういうイベントも悪くないな。」

  「ええ。」

  二人はしばらく何も話さず、花火を眺め続けた。

  夜空を彩る光。

  人々の歓声。

  平和になったベスティアだからこそ迎えられた夏祭りだった。

  ◆

  花火も終盤を迎え、人混みも少し落ち着き始める。

  その時、いつの間にかセラが2人の隣に立っていた。

  「楽しめた?」

  「セラ!」

  「あなたも来てたのね。」

  少女は静かに頷く。

  「ええ。」

  しばらく三人で花火を眺める。

  静かな時間が流れる。

  ふと、ユリシアが口を開いた。

  「ねえ、セラ。」

  「あなたって、これからもずっと私たちを案内してくれるの?」

  セラは答えなかった。

  一拍。

  ほんの少しだけ夜空を見上げる。

  そして静かに微笑んだ。

  「……さあ、どうかしらね。」

  いつものような即答ではなかった。

  「案内役なんて、いつまで続くか分からないものよ。」

  そう言って笑う。

  けれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。

  「なんだ。」

  リュミエが苦笑する。

  「辞めちゃうのかと思った。」

  セラはもう一度だけ笑う。

  「……さあ、どうかしらね。」

  同じ言葉。

  同じ笑顔。

  しかし、その表情にはどこか寂しさが滲んでいるようにも見えた。

  「変なの。」

  ユリシアは首を傾げたが、それ以上は深く考えなかった。

  やがて最後の花火が夜空に咲く。

  ドォォン――

  大輪の光がベスティアの空を照らした。

  人々の歓声が夜空へ響く。

  セラも静かに花火を見上げていた。

  その横顔は、どこか儚く見えた。

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  ◆

  祭りが終わり、人々は名残惜しそうに家路につく。

  「明日はいよいよ出発ね。」

  「次はプエリタか。」

  二人は夜風を感じながら歩き出す。

  平和なベスティアを後にして。

  新たな冒険が、もうすぐ始まろうとしていた。

  ――第8話 了

  第9話 8/11(火・祝)公開予定

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