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ベスティアを後にしたリュミエとユリシアは、新たな目的地であるプエリタへ向かって街道を歩いていた。
獣人たちの国は平和を取り戻し、行き交う人々の表情も明るい。
「ようやく落ち着いたわね」
ユリシアが振り返る。
「うん。今度こそ、本当に旅の続きだ」
リュミエも笑みを浮かべた。
今回の目的地は、次なる結晶が眠るとされる地――プエリタ。
二人は緩やかな丘を越え、海沿いへ続く街道を進んでいく。
しかし。
「……あれ?」
リュミエが足を止めた。
街道の先に架かっているはずの石橋が、無残に崩れ落ちていた。
橋桁は川へ沈み、対岸へ渡る術はない。
「完全に崩落してる……」
ユリシアも静かに状況を確認する。
修復の気配もなく、人が通れる状態ではなかった。
「これじゃ進めないな……」
その時だった。
「やっぱり、ここで止まったわね」
聞き慣れた少女の声が響く。
「セラ!」
小柄な魔道士の少女が、二人の前へ歩み寄ってくる。
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「橋はしばらく直らないわ。」
「じゃあ、どうやってプエリタへ?」
リュミエが尋ねると、セラは海の方角を指差した。
「港町ノスタリアから定期船が出ているわ。」
「船?」
「ええ。それが今、一番安全な道よ。」
ユリシアは小さく頷く。
「ノスタリア……聞いたことのない町ね。」
「大きな港町よ。」
セラは静かに続ける。
「少なくとも、町そのものには結晶はないわ。」
その言葉だけ残し、少女は微笑んだ。
「船は毎朝一本だけ。
急いだ方がいいわ。」
そう言うと、風が吹き抜ける。
次の瞬間には、セラの姿は消えていた。
「……相変わらず神出鬼没ね。」
「でも、行き先は決まった。」
二人は顔を見合わせ、新たな道を歩き始めた。
◆
夕方。
二人は港町ノスタリアへ到着した。
潮の香り。
停泊する帆船。
桟橋では漁師たちが網を片付け、商人たちが荷物を運んでいる。
「平和な町だね。」
「ええ。」
ユリシアも辺りを見回す。
「今まで訪れた結晶のある町とは雰囲気が違うわ。」
ここには魔物に怯える様子もなければ、不穏な空気もない。
ただ、人々の日常だけが流れていた。
港の案内所で話を聞くと、プエリタ行きの定期船は翌朝出航だという。
「今日はここで一泊ね。」
「たまにはこういう日も悪くない。」
二人は宿を確保すると、町を歩いて情報を集めることにした。
◆
まず向かったのは冒険者ギルドだった。
受付の女性が地図を広げる。
「この航路は比較的安全ですが、海上ではPKは禁止されていません。」
「船の上でも?」
リュミエが驚く。
「はい。ただし定期船を襲うような行為は重罪になります。」
さらに潮流や寄港地について説明を受け、二人は礼を言ってギルドを後にした。
◆
続いて立ち寄った酒場は、多くの船乗りで賑わっていた。
席に着くと、近くの船員たちの話が自然と耳に入る。
「そういや昨日も聞こえたぜ。」
「汽笛か?」
「ああ。あの船だよ。」
「また始まった。」
誰かが苦笑する。
「四十年前に沈んだ定期船が、夜になると港へ帰ってくるって話さ。」
別の男が笑う。
「そんな船があるなら、とっくに大騒ぎだ。」
「でもよ、嵐の夜になると見たって奴がいるんだ。」
「しかも汽笛まで鳴るらしい。」
「乗客も乗員も、一人も見つからなかった船だ。」
「まあ、酒の肴にはちょうどいい。」
船員たちは笑い合い、話題は別の仕事の話へ移っていった。
リュミエは静かに呟く。
「幽霊船……か。」
「都市伝説でしょう。」
ユリシアはそう言ったものの、どこか気になっている様子だった。
◆
夕暮れの港。
人通りの少ない桟橋の先で、一人の老人が海を見つめていた。
古びた帽子。
擦り切れた外套。
足元には、小さな白い花が供えられている。
二人が近付くと、老人は穏やかに笑った。
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「旅の人かい。」
「はい。」
リュミエは会釈する。
「毎日ここに?」
「四十年になるかな。」
あまりにも自然な返事だった。
「待っている人がいるんだ。」
老人は海を見つめたまま話し始める。
「名前はミレイユ。」
「結婚の約束をしていた。」
「だが、あの日、彼女は定期船に乗ったまま帰ってこなかった。」
ユリシアが静かに尋ねる。
「四十年前に沈んだ船……ですか?」
老人はゆっくり頷く。
「嵐だった。」
「船は海へ消えた。」
「誰一人戻らなかった。」
それでも老人の表情は穏やかだった。
「皆は諦めろと言う。」
「でもな。」
老人は小さく笑う。
「夕暮れになると、今でも聞こえる気がするんだ。」
「『もう少し待っていて』って。」
リュミエもユリシアも、何も言えなかった。
「今日は帰ってくる気がする。」
老人は海へ向かって呟く。
「だから、私は待つ。」
その姿は、港の風景の一部になっているようだった。
◆
夜。
二人は宿へ戻り、早めに休むことにした。
「明日は朝が早いわ。」
「寝坊できないな。」
灯りが消え、静かな時間が流れる。
――どれほど眠っていただろうか。
突然。
ボォォォーーーーーー……
低く長い汽笛が、夜霧を震わせた。
リュミエが飛び起きる。
「……汽笛?」
隣ではユリシアも目を覚ましていた。
「聞こえたわ。」
二人は急いで窓を開ける。
港一面を、白い霧が覆っている。
そして、その霧の向こう。
一隻の大型船が、静かに港へ姿を現していた。
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古びた船体。
風もないのに揺れる帆。
リュミエは息を呑む。
「まさか……」
ユリシアも船から目を離せない。
「酒場で聞いた話……」
二人は言葉を失ったまま、その船を見つめ続けていた。
霧の中の船は、まるで誰かを待ち続けているかのように、静かに港へ佇んでいた。
――第9話 了
次回第10話 8/15(土)更新予定
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