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「ゼボットさま」
エリーとは乳兄弟。そのためか幼い頃から兄弟のように過ごしていて彼女に慕われていた。
実母は物心つく前に病気で亡くなり、エリーの乳母でもあったから同じように彼女も、寂しい思いをしたのを覚えている。
寂しさを埋めるように、互いに話をするようになりエリーはゼボットを慰め 癒す存在になった。
活発な王女エリーと、本の虫になったゼボット
正反対だけど正反対だからこそ、惹かれ合った。
気づくといつも声をかけるエリー。
「今日はとても気持ちのいい天気です。馬でも乗りませんか」
「僕は遠出、ましてや馬なんかに乗りたくない」
「なら、歩いて行きましょうか。時間はかかっても途中で休みながら行けばいいわ」
エリーは別の方法を考える。
「君は姫なのに、何故そんなに活発なんだ。大人しくしたらどうだ?」
あの手この手でゼボットを外へ誘い出すが、彼の返事は いつも『NO』一択。
エリーは知っていた。
ゼボットが馬乗りが嫌なのは、遠出で馬を酷使するのが可哀想だから
歩くのを止めるのは、お姫様のエリーが足にマメを作り、痛めてしまうことを心配してるから
大人しくしろというのは、侍従たちお付きの人たちに世話ばかりやかすなという、周りへの気づかい。
本当は とても優しくて不器用な人。
だからエリーは 彼を好きになった
「ねえ、ゼボットさま。私は あなたとずっと一緒にいます」
いつしか二人は自然と恋仲になる。そして……
エリーは夢みていた。フォロッド城の王女でありながら、近い将来 彼と結ばれて生きていくのだと。
ゼボットも同じ気持ちで二人は結婚を誓った。
「お腹をすかせて楽しみに待っていてください。
わたしもあなたにお会いできる日を 楽しみにして
います。 ーエリー」
たった一通の手紙だけ残して、エリーは帰らぬ人になった。
ゼボットの兄と共に鹿狩りに出かけたその先で、事故に遭い命を落とした。
【たくさんの獲物より、君がいてくれればーー】
ゼボットには、彼女の笑顔があればよかったのに。
ずっと、そばにいてくれると思っていた。
国中が王女の死を嘆き涙に暮れる日々に、ゼボットは怒りの涙を流していた。
1度目の別れはまだ幼い自分、遠い記憶になったそれを今度は最愛の人を亡くす辛さを重ねる。
母を亡くしたときはエリーがいてくれた。なのにそのエリーがいなくなった。
「ずっと一緒だと言ったのに……僕を置いていくなんて、君は残酷だ」
兄のトラッドやエリーを憎むことでしか、生きていけなくなった。
祖国を離れ、一人 西のひとけのない辺境で暮らし研究だけをして過ごした。
エリーと名付けた二足歩行のロボットは失敗作。話す事も出来ず、ただパネルに挨拶の文字が出るだけ。
人が嫌いと言いながら、からくりメイドに
『こんにちは!』と言わせようとしてる自分に、反吐が出る。
「こんなもの!」
怒りに任せてグシャグシャと乱暴に、その文字を消した。
それから様々な事があり数年がたった。
フォロッド城の長年の戦いは終わり、エリーと名付けた からくり兵を連れてやっと静かに暮らせると、また一人あの家へ戻った。
どんなに愛する人の名前をつけても、目の前のからくりは機械。心は虚しさを増すばかり。
「ルンルン」
エリーの仕草や言葉をプログラムしても偽物だ。
兄や人間に嫌気が差して、これ見よがしに『エリー』と名付けただけ。
触れれば冷たいオイルの匂いがする、機械のそのボディ。
「ぜぼっと すーぷ。ツクッタ」
目の前には どこで手に入れたのか、香草や山菜やらの地味な具材のスープ。
「ああ」
ひとくち食べれば 塩味のみの旨味などない、まずいスープ。
なのに 何故か、心が温かくなった。
「コレを食べたら少し散歩をしよう、エリー」
ギギギッと音を鳴らしエリーは、サンポ、スルと応えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「またか」
「ギギギッ……」
たまにからくりの部品が外れてエラーを起こしたり、止まったりする。単純でもろい。なのにーー
エリーの身体は、からくりに魔の力が注がれて作られた物で、特に燃料を必要としない。
あれから長い時が経つのに、たまにメンテナンスが必要だが それでもずっと動いている。
ーーそれからまた、長く時は流れて
ここ数年、寝たきりになって研究すら出来なくなったゼボットは、元々痩せていた身体は、すっかり骨と皮になり、ただ1日 部屋の天井を虚ろに見つめるだけ。
部屋の掃除ロボットも全て動かなくなり、床に埃がたまっている。
ーーそれなのに
そばには、今も欠かさずスープを作っているエリー。
「すーぷ ツクッタ。タベテ ゲンキダス」
いつも通りスープを運ぶエリー。
「あり、がとう う、れし……いよ……」
絞り出す声は、のどに張り付きガラガラとしゃがれるが 何とかエリーへと感謝を述べる。
「すーぷ、タベル」
結局食べる事も出来ず、冷めてしまったスープ。
「すーぷ サメタ。ツクリナオシ……。」
「も、いい、エ……リー……」
食べる気力もないのに、淡々と作り直しを繰り返すエリー。
このまま自分が死んだら、エリーはどうなるのだろう。普通のからくりと違い、動力源が魔の力である。いつ切れるか分からない。
もしかしたら、永遠に動き続けるのかもしれない。
自分が一番恐れてた、いつか一人になる事をエリーにさせてしまう。
「……ッ、ハァ……」
最後の力を振り絞り重い体を起こして、這いつくばり何とかエリーへと手を伸ばす。
エリーを停止させるために。
あと少し ほんの少し……
指先が少し、ざらついた冷たいエリーの身体を掠めると、ゼボットの身体はそのまま倒れ込み、2度と動かなかった。
「ぜぼっと ウゴカナイ。すーぷ ツクル」
その声はもう届かない。
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