AdAd
  
イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【76】

  今年も、花火大会の日がやってきた。

  「わあ、すごいねえ!」

  俺の隣で。嬉しそうな歓声を上げながら、フラフィーが川沿いに並んだ屋台を見遣る。

  去年から始まったこの街の『花火大会』は、今年は出店する屋台も更に増えて、益々賑やかだ。辺りを彩る角灯や灯火の数も増え、下手をしたら昼間よりも眼に眩い。きっと、遠目からこの場所を見遣れば、夜闇に浮かび上がるように明るく見えることだろう。

  俺たちの格好も、去年と同じに浴衣姿だ。下駄でバランスを取ることも、今までに比べたら大分慣れただろうか。からん、と足元で涼しげな音を奏でながら、フラフィーが俺の手を繋いで嬉しそうに笑った。俺のこの子は、まだ下駄が履き慣れないのか、その足元は去年と同じにたどたどしい。時折バランスを崩しそうになる身体に手を回すと、そのふくふくとした柔らかな頬をほころばせながら、フラフィーが照れたようにはにかんだ。そんな俺の可愛い妻に、…このまま抱き上げて、腕に抱いたまま歩きたくなる衝動を、密かに抑える。

  この子の、去年よりも少しだけ長く伸ばした髪には、向日葵の髪飾りが更に映えていた。…本当に、俺の妻は幾つ歳を重ねても変わらず、…いや、更に幼く愛らしく、艶やかになっていくな。髪を彩る向日葵よりも、尚鮮やかに目映い笑顔で俺を見上げるフラフィーに、俺も眼を細めて笑い返した。どれほど時が経っても、俺の眼をこれほど惹きつけ奪うものなど、この子以外には人だろうが物だろうが、他に無い。

  しかし、この浴衣もこの子にはよく似合っているが、…そろそろ、違う浴衣も新調できれば良いのだが。俺と揃えてくれたという紺地の色も、そこに描かれた向日葵を際立たせる意匠となっているが、…矢張り、違う色合いのものも見てみたい。そうだな、この子に似合う色なら、なんと言っても白だろうか。水色も涼し気で好いかもしれない。この子の、春の陽だまりのようにあたたかく、柔らかで優しい雰囲気には、同様に柔らかな色合いのものが似合うと思うのだが、…逆に濃い色はどうだろうか。例えば赤。そこに、白色の柄が描かれた意匠など、この子に似合うかもしれない。いや、この誰よりも愛らしく、幾つになってもいとけなく、それでいて優艶な俺のこの子に似合わないものなど在りはしないが。

  誰にともなく優越感に浸りながら。この浴衣を初めて着た花火大会、俺たちの想い出の海岸を思い浮かべて、感慨に耽る。俺たちが初めて遠出をし、唇を重ねたあの海岸。俺たちの中でも特別なあの場所は、…俺たちの大事な長男であるロバストを授かった場所でもある。そんな大切な海の景色を思い出しながら、…今度、またあの海岸へ旅行に行けないだろうか、と、そんな想いが脳裏を過ぎる。

  子どもたちにも、あの青く美しい海を見せてやりたい。俺たちの大切な場所へ、俺たちの大事な家族を連れて行きたい。一緒に泳いで、海岸を歩いて、…ああ、海に浮かび舞う花火も一緒に観よう。きっと子どもたちは大はしゃぎで、あの砂浜を駆け回るだろうな。その光景を、…俺の何よりも愛しい妻の肩を抱きながら笑って見ることが出来たら、どれほど幸福だろうか。その情景を脳裏に描いて、口端が小さく上がった。

  それに、あと数年もしたら、あの子たちも一緒にこの花火大会へ来られるだろう。今年はまだ、22時と言う時間から始まる花火大会は、子どもたちの参加は難しかったが。この時間まで起きていられるようになれば、皆で花火大会に来られるようになる。その日の為にも、子どもたちにも揃いの浴衣を誂えてやりたい。…ああでも、この花火大会へ来られるようになるころには、親よりも友達と一緒に行きたいと言うだろうか。特にロバストは、学校に友達や、…気になる少年がいるようだしな。

  そう思うと、感慨深いような、…面映ゆいような、少しだけ寂しいような、そんな感情が入り混じる。子供の成長は、本当に早いものだ。俺の両親は、俺が親離れをする前に、…この世界から在なくなってしまったが。もし、…俺がフラフィーと出逢うまで、生きていてくれたならば、二人もこんな気持ちになったのだろうか。

  聴いてみたかったな。親となった俺の話も、二人にしてみたかった。…そんなことを思いながら、繋いでいるフラフィーの柔らかな手を、強すぎないよう緩く握れば。フラフィーが、そのあたたかな丸い目に俺を映して、優しく笑う。繋いでいる手に、フラフィーからも力が込められて、…寄り添うように、柔い身体が俺に寄せられた。

  まるで、俺の考えていることが分かったかのように、俺に寄り添ってくれる優しいこの子に。俺も眼を自然と細めながら、そのふくよかであたたかい身体に身を寄せた。…そうだな、もし子どもたちがいつか、俺たちから離れて、巣立つとしても。俺には、この誰よりも愛しいこの子が、ずっと傍にいてくれる。そう想うと、ただそれだけで、胸に去来していた寂しさが溶け落ちるようだった。代わりに、身体中にあたたかなぬくもりが満ちていくようで、その心地好さに小さく笑う。

  そんな俺に、フラフィーも優しく目を細めたまま、ふふ、と息だけで笑って。…繋いでいた手を一瞬解いて、俺を抱き締めるように、その腕が俺に回った。そんな可愛い妻の肩を抱きながら、…矢張りこのまま抱き上げて、この愛しい妻を腕に抱いて歩きたくなる衝動を、またも抑えた。

  そのまま屋台を見て歩く俺たちの目に、一軒の屋台が過ぎって映った。フラフィーが、俺に抱き着くようにして歩いていた体勢から顔を上げて、その屋台を指さす。…離れてしまった柔い身体に、少々名残惜しい気になりながらも、俺もその屋台を見遣った。フラフィーの柔らかな手が、自然な手つきで俺の手をまた、繋いで握る。…それだけで、俺の機嫌が急上昇した。我ながら現金なものだと内心で苦笑しながら、もう一度屋台に眼を向けた。

  「ねえ、見てリジットさん!かき氷?だって!なんだろう、アイスクリームとは違うのかな?」

  そう言って、フラフィーが目を輝かせながら俺を見上げる。他の屋台と比べても、一際人の多いその屋台には、確かに『かき氷』と書かれている。見れば、屋台から出て来る者たちは皆、手に黄金色のシロップや色とりどりのフルーツを乗せた透明なものを持っていた。この透明なものが、何もある通りの氷、だろうか?砕くよりも更に繊細に薄く細かな氷は、削るか何かしたものなのだろう。かき氷と言う名からしても、こちらの食べ物ではないことは瞭然だった。

  

  「美味しそうだね!すごく綺麗だし!これも、あっちの地方のお菓子なのかな?」

  そう言いながら、弾んだ声を上げて笑う俺の妻の笑顔は、輝かんばかりに目映い。そんなフラフィーに俺も笑いながら、繋いだ手をしっかりと握ってその屋台へと足を踏み出す。からん、と互いの足元から涼し気な音が鳴った。

  「そうだな。一つ買ってみるか」

  「えっ、いいの?」

  屋台へと歩きながら、そう告げれば。愛らしい、大きく丸い目を更に丸くしながら、フラフィーが俺を見上げる。そのまま、嬉しそうにその大きな目を惜しげもなく細めた、俺の誰よりも可愛い妻に。俺の口角も薄く緩んだ。からころと、木板と煉瓦が擦れる音が、耳に心地好い。

  列に並ぶと、前に並んでいる人間がこちらをちらり、と見る。俺と眼が合うと、その視線が慌てたように眼を逸らされた。…こういう反応も久々だな、と、寧ろ苦笑が口に浮かぶ。

  …ほんの数年前までは、このような反応が何よりも怖かったというのに。今では、そんな反応をされていたことすら、懐かしいと思える。これもこの子が傍にいてくれるからこそ、思えるようになったことだ。俺が、…周りからの視線も、反応も、何も気にすることなく人前に居られるようになったことも。当時は、全てを思い出せないほどに辛く、こころに閉じ込めたまま凍らせていたような記憶を、…今は穏やかな気持ちで思い返せることも。全てが、この子が俺に寄り添って、優しく笑っていてくれるから。

  そんなことを、安らいだ心地で感じ入っている俺に。

  「…あの」

  前にいた人間の女性の一人が、こちらをもう一度振り返って声を掛けてきた。ぎゅ、と、フラフィーの俺の手を握る柔らかな指に、力が籠るのが分かる。見れば、俺を庇うようにフラフィーの身体が一歩、俺の前へと踏み出されていた。その表情は、穏やかながらも少しだけ硬い。…きっと、俺が何か言われないかを、相手に傷つけられないかを、何よりも心配してくれているのだろう。そんな誰より優しい妻に、安心させるように小さく笑ってから、前の女性へと向き直る。

  「自分たちに、何か用だろうか」

  「あ、不躾でごめんなさい。ええと、そのお洋服、何処のお店のものですか?凄く素敵ですね」

  そう言って、彼女の目が俺たちの着ている浴衣に向けられる。予想外の言葉に、一瞬眼を丸くしてから、…ああ、と納得した。フラフィーも、一瞬目を丸くしてから、安心したように表情をほころばせる。

  「あ、この衣装は浴衣、って言うんです!俺たちは、ここからそんなに遠くない海岸の街の旅荘でこの浴衣を戴いたんですが、元々はもっと遠くの国の、民族衣装なんですって。その衣装は、この国ではそこでしか扱ってないかもしれないって、聞きました」

  いつものように、にこにこと屈託のない、愛らしい笑顔に戻ったフラフィーが、浴衣の袖を握りながら示すように腕を上げた。袖にも描かれた�向日葵に、目の前の女性が感嘆したように声を上げる。

  「そうなんですね!だから見かけたことがないのかあ…そのお洋服がこの雰囲気にとても似合っていて、凄くいいね、って話してたんです」

  そう言って、ね、と彼女の隣にいる女性に話が向けられた。その女性も、笑いながら頷いて、こちらの浴衣に眼を向ける。その顔には、矢張り何の嫌悪も畏怖も浮かんではいなかった。

  「ええ、本当に。お二人ともその装いが素敵で、仲睦まじい雰囲気も相まって、とてもお似合いだと目を惹いてますよ。私もその洋服…浴衣、ですっけ?を着て歩きたいですもの」

  その女性は、もう一人の女性の姉か何かなのだろうか。よく似ていながらも、声を掛けてきた女性よりも落ち着いた態度で、俺たちにそう言って笑う。…例え世辞だとしても、その言葉は俺の胸に、素直に響いた。俺たちが仲睦まじくお似合いだ、と言うその一言が、何よりも。

  思わず口元を緩める俺に、はにかんで笑うフラフィーが、照れたように俺を見上げた。その口が、『お似合いだって』、と小さく動いて、幸せそうに笑う。そんな俺たちを横目に、目の前の二人も会話を弾ませていた。

  「今度、私たちもその海岸の街に行ってみようよ!こんな素敵なお洋服で街を歩いてたら、皆に羨ましがられちゃう」

  「そうね!来年は私も浴衣を着て、この花火大会を歩きたいわ」

  そう楽しそうに話しながら、俺たちに礼と頭を下げて、二人の女性がまた前を向く。私はこんな色がいい、柄はどんなものがあるかしら、と浴衣の話に花を咲かせている二人の話を漏れ聞きながら、フラフィーと目を合わせて笑い合った。

  …獣人、しかも肉食の狼獣人である俺と。人間の、きっと歳よりも幼い少年だと思われるだろうフラフィーが、お似合いだ、と。そんな風に、…見知らぬ誰かから言われる日が、言ってもらえる日が、来るとはな。その言葉を噛み締めるように反芻しながら、面映ゆい気持ちで眼を細める。フラフィーも、嬉しそうに笑いながら、繋いだ手をゆるゆると揺らしていた。きっと、並んでいる前の二人には、何気ない言葉だったに違いない。けれど、俺たちには、…俺、には。何よりも、言われて嬉しい言葉だったのだ。

  並びながらも、繋いだ手は、当たり前のようにそのままで。目を合わせて笑いながら、順番が来るのを待つ。…この子と一緒ならば、どれだけ並んでいても苦ではない。寧ろ、…並んでいる時ならば、その身体を抱き締めていても良いのではないだろうか。そんなことを頭の隅で考えながら、フラフィーと笑い合っていると、あっと言う間に番が来た。

  

  「一つもらおう」

  そう言うと、屋台の女性が笑顔で頷いて金額を口にする。それに、浴衣の懐から財布を取り出して、言われたとおりの金額を払いながら、何気なく屋台の中を見遣った。見れば、そこではもう一人の男性が、手回し式の機械に氷を入れて、力いっぱいその取っ手を回している。そうすると、細かく削られた氷が、厚紙で出来ているような器に落ちては降り積もっていく。どうやら、この機械は氷を削るための機械のようだ。…このような機械は、少なくともこの国では見たことがない。これも、花火と共に大陸の端の国から伝わって来たものなのだろうか。屋台の中には氷の入っている木箱が多く積まれており、この木箱も氷が溶けないような工夫がされているようだった。

  …矢張り、同じ大陸にあると言えども、この国とは文化が全く違うものなのだな。そう感心ながら見つめる先で、山のように降り積もった氷に黄金色のシロップがたっぷりと掛けられた。その横に、色鮮やかな果物が乗せられて、笑顔でこちらに差し出された。礼を言って受け取って、隣で目を輝かせているフラフィーに手渡す。

  「うわあ、すごいねえ!」

  持ってみて分かったが、氷と言えども中々しっかりとした重量だ。フラフィーも両手で器を持つと、その見映えに尚も目をきらきらと輝かせる。…俺のこの子がこんなにも、目を輝かせて嬉しそうな顔をを見せてくれるのならば、並んででも買ってよかった。そんな想いを噛み締めながら、小さい木べらのようなスプーンを手に持つ妻を笑って見つめる。

  フラフィーのふくふくとして可愛らしい手が、さくり、と微かな音を立てながら、氷を掬って口へと運ぶ。その目が一瞬大きく見開かれてから、蕩けるように細められた。

  「…わあ!冷たい!甘くて美味しいよ!」

  アイスクリームと感じが全然違う!やっぱり氷なんだね、でもシロップが甘くて、口のなかで直ぐに溶けて、すごく美味しいよ!目を細めて笑いながら、フラフィーが俺にそう伝えてくれる。その顔は、蕩けそうに幸せそうで、…俺があの日恋に落ち、今でも焦がれて止まない、あの幸せそうな笑顔そのものだった。

  ああ、やはり俺のこの子には、こんな風に幸せそうに笑う顔が、よく似合う。そう想いながら、俺の顔にも笑みが浮かんだ。フラフィーの、包容力に溢れてどこまでも優しい表情も勿論愛して止まないが。いとけなく幼い様で無邪気に、幸せそうに笑うこの表情も、俺は何より愛していた。…例え子どもたちの前であっても、いや、子どもたちの前だからこそ決して見せることのない、幼い子どもの様に無邪気な仕草。夫である俺にだけ見せてくれる、どこまでも幼く、愛らしいこの子の表情。…俺だけの、何よりも愛しい妻の顔。

  そんなフラフィーの笑顔を、見惚れるように見つめている俺に。

  

  「はい、あーん」

  屈託のない手つきで、フラフィーが氷を掬ったスプーンを俺へと差し出す。そんな妻に思わず眼を見張ってから、…その眼を薄く細めた。この花火大会の空間は、ある種の非日常だ。少しくらい、羽目を外したって構わないだろう。それに、…こんなに可愛らしい仕草で、誰よりも愛しい妻にスプーンを差し出されて、断れる男がいるだろうか。いや、いまい。

  俺の顔よりも少々低い位置に差し出されたスプーンへと少しだけ身体を屈めて、躊躇いなくそれを口に含む。冷たい氷の感触と、甘いシロップの味が口に広がって、あっという間に溶けていく。…ああ、確かに美味いな、と、脳内で納得した。味のない氷と、甘いながらもさっぱりとしたシロップで、寧ろアイスクリームよりも好みかもしれない。頷きながら口の周りを小さく舐めて、フラフィーへと笑って見せる。

  「ああ、美味いな」

  「ね、美味しいよね!」

  俺の言葉に、更に嬉しそうに笑いながら。フラフィーがもう一口、とばかりにまた俺にスプーンを差し出した。…そんなに俺に食わせようとしたら、お前の分がなくなってしまうだろう。俺はいいから、お前が食べてくれ。お前が幸せそうな顔で食べているところを見ることこそ、俺の至福なんだ。そう、俺の想いを口にしようとして。…けれどあまりにも、俺のこの子が嬉しそうに、俺へとスプーンを差し出しているものだから。その言葉を、密かに小さく呑み込んだ。

  きっと、この子も俺が、何かを食べて美味いと言うところを、…嬉しいと想ってくれているのだろう。それこそ、この子が自分で食べて、美味しいと思うのと同じ程に。そう思うと、この一口を断ることなど出来なかった。こんなにも嬉しそうな顔で、…俺にも美味いものを食べさせたいと、そう想ってくれているこの子には。

  だから、俺ももう一度、素直に口を開いて。その一口を、舌で味わう。…同じかき氷の筈なのに、先程よりも更に甘く、美味く感じた。それはきっと、…この子の、俺へのあたたかく、優しい愛情の味なのだろう。それを感じて、俺の眼が先程よりも自然と、更に細まった。

  「美味い」

  万感の思いを込めて、その一言を口にすると。それが伝わったかのように、フラフィーが嬉しそうに、…幸せそうに微笑んだ。そのまま、更にもう一口掬おうとするその手を止めて、丈夫な厚紙らしきもので出来た器をフラフィーの手から取る。不思議そうな顔で、フラフィーが首を傾げて。そのあどけない仕草に笑いながら、小さい木べらのようなスプーンも受け取る。

  「今度は俺が食べさせてやろう」

  そう言いながら、氷の小山へとスプーンを挿せば。俺の隣で、そのふくふくとした幼い顔が、一気に赤へと染まる。えっ、と驚いたような声を小さく上げて、自分を見上げる可愛い妻に、氷を掬ったスプーンを差し出した。…その顔が、益々鮮やかな赤に染まった。

  「ほら」

  眼を細めつつ、促すように声を掛けると。少しだけ困ったように下がっていた眉がふわり、と解けた。そのまま、照れたようにはにかんで笑ったフラフィーが、小さく口を開けて、スプーンを口に含む。細めた目が、幸せそうに蕩けた。

  「…さっきよりも、ずっと美味しい」

  ふふふ、と息だけで笑いながら。フラフィーが口にした言葉は、…俺が先程、想ったことと同じだった。その言葉と、幸せそうに笑うその何よりも愛らしい表情に、俺も笑い返しながら。

  この子さえ俺の傍にいてくれたら。俺は、それだけで幸せなのだ、と。…今までに何度も想ったことを、噛み締めるようにまた、想った。

  花火大会が始まるまでは、まだもう少し時間がある。…それまでは、こうして手を繋いで、珍しい屋台を眺めて歩こう。

AdAd