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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【13】
まだ、起きるには早すぎるだろう時間に。意識が浮上して、目が覚めた。
ぼんやりと目を開くと、部屋のなかは大分暗い。カーテンの隙間からも、ひとつのひかりも漏れていなくて。それで、まだ陽の出る時間じゃないことが分かった。口元まで掛けられている布団に埋もれながら、小さく吐いた息の音すら、耳に響く。
何度か瞬きをすると、目が暗闇に慣れてくる。未だ、完全に目が覚めきっていないこともあって、ぼんやりと辺りを見回した。その拍子に身体も動いて、毛布よりも心地好い肌触りの感触が、裸の膚に触れる。あったかい。膚に馴染んだその感触に、思わず顔が緩んだ。隣に眠る彼を起こさないように、そうっと身動きして、彼を見遣る。
そこには。俺の『旦那さま』が、俺の方を向いて、眠っていた。
綺麗な琥珀色の四白眼は、今は、漆黒の艶やかな毛並みのなかで、閉じられて。眠っていてすらも、峙つようにぴんと立てられた耳と、規則正しい寝息を立てる口元。その口元は少し開いて、隙間から犬歯が覗く様すら、格好良い。彼の纏う漆黒の獣毛は暗闇に溶け込むようで。俺の上には布団越しに、彼の腕が、俺の胸元を通って、俺を抱き込むように肩へと回っていた。心地好い重みに、自然と笑みが零れた。
…ああ、リジットさんはかっこいいなあ。こんな時にしか見られない彼の寝顔を、覗き込むように眺めながら、ひとりでにやけてしまう。本当に、俺の旦那さまは、寝ていてすらも世界一格好良い。
にまにまとにやけながら、向かい合うようにして、彼の寝顔を堪能して。…枕とは違う、俺の頭の下の感触に、遅ればせながら気づいた。寝る前にはなかった感触。それに、少しだけ顔を俯けて、下を見遣れば。
俺の頭の下には、彼の二の腕。…腕枕だ、と思って、顔が更にほころんでしまう。しなやかな筋肉のついた腕に、ふかふかとした綺麗な毛並みの獣毛。腕の内側の獣毛は、表に比べて柔らかい気がする。その毛並みに顔を摺り寄せて、ますます顔が緩んだ。
…でも、いつから腕枕してくれてるんだろう。ふと気づいたそんなことに、今度はなんとなく心配になった。ずっと腕を伸ばしてるだけで、曲げるときに痛くなるというのに。その上、俺の頭が乗ってたら、更につらいのではないだろうか。
そう思ってしまうと、…頭を乗せているのが、申し訳なくなって。彼を起こさないように、そうっと身体を起こして、頭をずらす。…リジットさんの身体からも離れてしまうことになるけど、それは仕方ない。ちょっと寂しいけど。
そんなことを思いながら、ごそごそと身体をずらしていると。裸の膚に、ふわりとあったかい感触が巻き付いて、抱き寄せられる。…リジットさんの、もう片方の腕だ。
「…どうした?」
彼の口元が耳に触れて。濡れた鼻と、囁くような声が、耳に触れる。それが擽ったくて、笑いながら首を竦めた。そのまま頬に口づけられて、鼻先が俺の首元に埋まる。
「…リジットさんが、俺に腕枕してくれてたから。腕が痛くないかな、って」
「気にするな」
起きているのか、それとも意識は眠っているのか。判断しづらい程はっきりとした、簡潔な彼の一言に、俺の言葉は一蹴される。じゃあせめて、って、彼にも、首の上まで布団を掛けようとするけど。…それすらも、俺に掛け直されて。布団の上から彼の腕が、また俺に回る。
そのまま、彼の寝息が耳元で聴こえて。それを聴きながら、俺も、彼の背に腕を回した。…本当に、リジットさんは俺に甘いなあ。そんなことを思いながら、口元がにやけてしまう。口元まで潜らされた布団と、それを上から押さえるかのようなリジットさんの腕。…さっきと変わらず、その腕から上は、布団から出たままだ。
リジットさんは寒くないのかなあ。心配になって、俺からもっと身を寄せた。二の腕から、もっと腕の付け根に近いところまで、頭がずれて。そんな俺の頭を包むように、俺の髪に、彼の手が回った。そのまま撫ぜるように、リジットさんの指が俺の髪を、往復する。ざらざらとして、少し硬い肉球の感触が心地好くて、彼の腕のなかで、目を細めた。
鈍く伸びた爪が、俺の髪を梳く。決して、俺の頭は傷つけないような力加減に、もしかして起きてるのかと思ったけど。…耳元で聴こえる彼の寝息は、さっきから変わってない。やっぱり、寝てるのか。
そう思うと、…寝ててすらも、俺を気遣ってくれてるのかなって。嬉しくなって、更に彼の身体に身を擦りよせる。お腹も太腿も、彼のふかふかとあたたかい獣毛の感触で包まれて、毛布よりも何倍も心地好い。
その心地好さに、全身があったかくなって。うとうとと微睡んできた、俺の。…その首筋に埋まる、彼の口が、俺の肩を食むように動いた。首筋に舌を這わされて、背筋が粟立つ。微睡んできた頭が、一気に覚醒する。
「り、リジットさん?おきてるの?」
息だけの声で、密やかに問いかける。そんな俺の声に、返ってくるのは寝息だけだ。…やっぱり、寝てるのかな。そう思うけれど、俺の首筋に這う舌は止まらない。
「ひゃっ」
犬歯が膚に当たって、きつく吸われた。ちゅぅ、って濡れた音が、聴こえるくらいに強く。首筋が熱くなって、それが波紋のように、身体中に広がった。布団の上から、俺に回っていた彼の腕の力も、強くなる。
「んんっ」
ちゅ、と音を立てて、彼の口が離れて。じんじんと疼く首筋に、また舌を這わされた。きっと、さっき吸われたところは痕が残るほどだろう。そこに、ちろちろと滑る舌先が這って、…大きく身体が跳ねてしまった。声まで上げてしまったことに、彼を起こさないか心配になる。…って、原因はリジットさんなんだけどね!
「…リジットさん?」
やっぱり起きてるんじゃないか、って、もう一度名前を呼んでみる。…返ってくるのは、さっきと同じく寝息だった。リジットさんは、どんな嘘だって吐くひとじゃないから、やっぱり寝てるんだろう。
じゃあ、何か夢でも見てるんだろうか。美味しいものでも食べる夢とか?…そしたら、俺を食べ物と間違えてるんだろうか。別にいいけど。
でも、どうせ食べ物に間違えられてるんなら、美味しいものがいいな。ケーキとか。あ、でもリジットさんは甘いものがあんまり得意じゃないからな、やっぱりお肉の夢でも見てるんだろうか。…お肉と間違えられるんだとしたら、やっぱり体型の所為だろうか。…否定できない。
とりとめもなく、そんなことを考えているうちに。彼の、俺の首筋を這う舌は止まった。その代わりに、布団の上から、弄るように、リジットさんの手が動く。俺の肩から背をなぞって、お尻から太腿。布団の上からだから、そんなに感覚は伝わらないけど。彼の指が、俺の身体の上を撫ぜていると思うと、それだけで身体が熱くなる。さっきの、吸われた首筋の疼きも収まってないから、余計に。
何度も、彼の手が、布団の上から俺の身体を往復する。弄るような手が、なんとなく、戸惑うような手つきになってきた気がして。彼の腕のなかで、首を傾げた。…本当に一体なんの夢を見てるんだろう?
「リジットさん?」
返ってくるのは寝息だけ、と分かっていながら。彼に向かって、また名前を呼ぶ。喉奥で、何かを言うように、音が鳴って。
「…フラフィー…」
呼ばれた、俺の名前に目を円くした。あれ、やっぱり起きてる?
「うん、ここにいるよ」
布団の中から、小さな声で、彼の声に応える。けれど、俺のその言葉には、返ってくる声は無くて。寝言のような音が、また喉奥からぐるぐると聞こえて、それから。
「フラフィー…」
もう一度。密やかな声で呼ばれた、俺の名前。布団の上から、俺の身体を弄る指が、強くなる。そこで、思い当たった。…あれ、もしかして。リジットさんは。
「…もしかして、俺の夢見てるの?」
つい、そんなことが口から出てきて。音になって部屋に響いた声が、改めて耳に届く。…その言葉に、自分で赤面してしまった。…な、なに言ってるんだろう俺!リジットさんの夢に俺が出てるとか、自意識過剰すぎなんじゃないだろうか!
自分の思考が、恥ずかしくて。赤くなった顔を隠そうと、反射で彼の胸元に顔を寄せた。勢いがついて、ふかふかとした獣毛に額を擦りつけてしまう。
また、彼が、布団の上を這う手に、力がこもった。…気が、した。何かを確認するように、…探すように、彷徨う指。健やかだった寝息は、いつしかぐるぐると、唸るような音に変わっていた。俺の枕になってくれている方の腕が、俺の髪を撫ぜる手を止めた。そのまま、俺の頭を、囲うように抱き締める。
…なんとなく。違うかもしれないけど、…彼の探しているものが、分かった気がして。彼の背に回していた腕を、ゆっくりと離して。布団の上の、彼の腕を、その中に引き入れる。…彼が、夢のなかで、確認するように探して、…求めて、くれているものが。…俺だったらいいな、って。そんな願いも込めて。
ごそり、と布団のなかで、彼の片腕が動いて。さっき、布団の上からしていたように、俺の身体を彼の指が弄る。肩に触れて、背筋に伸びて、お尻を撫ぜて、太腿へ。俺が在るのを確認するように、裸の膚を、彼のざらりと硬い肉球が、俺の身体をなぞっていく。それが擽ったくて、身を竦めた。
いつしか、首筋に這わす舌も復活していた。食むように口先だけで甘噛みして、ちゅう、と音を立てて吸って、そのまま舌先で舐められる。そこだけ、腫れあがっているような気すらするほど、じんじんと熱を持って疼く。
身体を撫ぜ這う指は、それでもそれ以上にはならない。それでも、撫ぜられるうちに過敏になってしまう裸の身体は、ざらざらと硬い肉球が這うだけで、びくびくと震えてしまう。そんな身体を、彼の背に手を這わせて爪…というか、指を立てることで、なんとか耐える。
俺が、彼に爪を立てても。それこそ強く吸っても、例え噛みついたとしたって。その発条のようにしなやかな筋肉と、漆黒で少し硬めの獣毛に遮られて、傷どころか痕もつかない。…それは、前にも実証済みだ。そもそも、俺の爪も丸くて短いし。無理に伸ばさない限り、引っ掻いて痛いほど伸びない。
だから、遠慮なく彼の背に指を立てられる。今も、俺の行動なんて意にも介さないように、リジットさんは眠ったままだ。…寝てるんだよね?
彼に抱き着いて、俺も、その首筋に噛みついてみた。ふわふわで少し硬い獣毛が、口のなかを擽る。はむ、とその首筋に、少しだけ歯を立てると、獣毛の下で、少しだけ柔らかい感触がした。…じんじんと、彼につけられただろう首筋の痕が、切なく疼く。俺も、リジットさんにこんな痕をつけたいなあ。そんなことを思いながら、口のなかで湿った獣毛をちゅ、と吸った。
そうしている間に、リジットさんの、俺の身体を撫ぜ弄る指が、止まった。俺が在るのを確認して、…ほっとしたみたいに。首筋に当てられたままの彼の口から、息が漏れる。
俺を撫ぜていた手が、俺の肩を抱いた。そのまま、ぎゅう、と抱き込まれて、俺の背まで、彼の腕が回る。俺の枕になってくれているもう片方の腕は、ずっと俺の頭へと回っているから。…俺は、正しくリジットさんに抱き込まれる体勢になっていた。俺の腕も、彼の背に回っているから、余計にぎゅう、と密着して抱かれている。…ちょっと照れてしまう。でも、彼に抱かれているのは、あったかくて、獣毛の感触が心地好くて、…とても、幸せだ。
「…リジットさん、俺はここに在るよ」
回した腕に、俺も力を込めて、彼の背を抱いた。それが聴こえたかのように、布団のなかで、彼の尻尾が揺れて、彼の足に絡めた、俺の足を擽る。ぐるぐると、喉奥から響く音が、俺を呼んでくれている気がして。それが嬉しくて、応えるように、彼の唇に、顔を寄せる。
彼が、寝ているうちに。気付かれないように、こっそりとキスをして。
小さく笑って、彼の胸元にまた、額を擦りよせながら、目を閉じた。
…寝ているのに。俺がキスしたことを、気付いたみたいに。リジットさんが、俺をぎゅう、と抱き締めてくれるのが、嬉しくて。
幸せだなあ、と息だけで漏らした声は。布団のなかに、あたたかく沁み込んだ。
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「リジットさん、昨夜何の夢見てたの?」
朝になって。朝食の席で、彼に問いかける。いつも通りの、主人席に座るリジットさんに、一番近い席。…本当は、俺が座るべきは、リジットさんの向かいの席だって知ってるけど。この長いテーブルで、端と端に座ったら、気軽に話も出来ないから。2人きりのときには、リジットさんの一番近くを、俺の席にさせてもらった。…お客様をお招きするときには、ちゃんと端の席に座るから。2人きりの時だけは、リジットさんの傍に居させて欲しい、って。そうお願いしたら、リジットさんは嬉しそうに笑って、許してくれた。だから、2人きりの今は、ここが俺の席だ。
パンに手を伸ばしていた彼の手が止まって、…綺麗な琥珀色の四白眼が、戸惑ったように俺を見た。固まったように凝視されて、俺まで彼を見つめてしまう。
「え、ど、どうかした?」
「…いや、何故そんなことを聞く?」
「…えっと」
まさか、そんなに戸惑われるとは。軽い気持ちで、…さらに言えば、少しだけ期待をして。そんな気持ちで問いかけたことを、どう言ったらいいのか分からなくて。とりあえず、正直に話を続ける。
「昨夜目が覚めたら、リジットさんが、…なにか、夢を見てたみたいだから。何の夢かな、って」
…嘘は吐いてない。ただ、俺の首筋に痕をつけたり、俺の名前を呼んだりしたってことを言ってないだけで。…今も、服の下に隠した首筋に、くっきりとついている彼の痕を、思わず手で撫ぜながら。言葉を選んで、彼に言う。
…一瞬、彼の眼が泳ぐように逸らされて。それから、また、俺を凝視する。
「…そのとき、俺は何か、寝ながら言ったりしていたのか?」
そう聞かれてしまうと、嘘が付けない。俺を見つめるリジットさんの眼が、あんまりにも真剣だから、余計に。
「ええと、…俺の名前を、言ってました。」
そう口にすると、俺の方が、なんだか照れてしまう。ちょっとだけ頬が熱くなるのを感じながら、そこまで言うと。…彼が、俺から眼を離して、片手で顔を覆った。いつもは、ぴんと張り立っている耳の先が、まるで照れているように、少しだけ垂れて。漆黒の獣毛の下の、彼の顔まで、…なんだか赤くなっているような気さえして。俺の顔まで、ますます熱くなってしまう。…ていうか、照れるリジットさんなんて、そんなに見られないから。なんだか得した!なんて、そんな気持ちすら湧きあがって、知らず俺の顔が緩んだ。
「…だから、その、…もしかして、俺の夢とか、見て、くれてたのかな、って」
多分、今、俺の顔は耳まで赤い。それを自分で分かりながら、俺も、彼から目を離して、自分の手元を見つめた。自意識過剰、の言葉が脳裏を過ぎる。…でも!でも、だって!…あんな風に、寝言で俺の名前なんて呼んでくれたら、期待するじゃないか!もしかして、俺の夢を見てくれたのかな、って!
もだもだと、俯いた先で、自分の両手を組み替えながら。ちらりと、横目でリジットさんを見遣る。…片手で顔を押さえていたリジットさんも、同じように俺を、隙間から見ていて。目が合ってしまって、慌ててまた、目線を下に戻した。…ただでさえ赤い顔が、更に熱くなる。
こ、紅茶でも飲もうかな!そんなことを、脳内で大声で宣言して。メイドさんの淹れてくれた紅茶に手を伸ばした。…その手を、リジットさんに、掴まれる。指先と手のひらの、ざらざらと硬い肉球の感触。
「…そうだ」
その声に、顔を上げる。…触れるくらいに近い位置に、彼の顔があった。もう片方の手の、指が、俺の頬を撫ぜる。
「…お前の夢を、見ていた」
囁くように言った、そのあとで。内容は聞いてくれるな、って。俺の頬を撫ぜた手で、また顔を覆ってしまったリジットさんに、思わず笑ってしまう。
でも、…そうか。やっぱり、俺の夢を見ていてくれたのか。そう実感すると、じわじわと、嬉しさが込み上げてきて。こころを満たす、幸せな気持ちに、また頬が緩むのを感じながら。俺の手を掴む彼の手に、俺の手も重ねた。
「照れることないのにー。…俺の夢、見てくれてすごく、嬉しい」
そう言って、彼の手を両手で持ち上げて。今度は、俺の頬に彼の手を重ねる。熱くなった俺の頬に、少しだけ低い体温が、じんわりと気持ち好い。
そのまま、彼を見遣って、満面で笑うと。…漸く、覆っていた手を下げて、彼も、俺を見てくれた。琥珀色の四白眼を細めて笑う、優しい笑顔。
そのまま、彼の顔が近づいてきて。俺の頬に重ねていた彼の手に、少しだけ力が込められた。頬に沈む、彼の指の感触を感じながら。俺も、ゆっくりと目を閉じて。
触れるだけのキスをしながら。幸せだなっ、て。こころのなかで、その幸福を、噛み締めた。
「…もしかして、他にも俺は、何かしただろうか?」
「…この痕を、俺につけてきたよ」
顔を寄せたまま、問いかけられた言葉に。服を少し伸ばして、隠していた首筋の痕を、彼に見せる。
それを見た彼が、照れたような、笑うような、…何処か悔しそうな。複雑な表情を、顔に浮かべた。…え、なんでそんな顔?
「どうしたの?」
「…いや。そんな痕をつけるほどのことをしたのに、…俺の記憶には全くないのが、口惜しくてな」
そう言う彼の顔は、言葉通りに残念そうで。あまり見ることのできないその顔に、思わず笑ってしまいながら。未だに少し腫れて、熱を持つその痕を、今度は直に指で撫ぜる。
…ていうことは、ほんとに、あのとき寝てたのかー。…あの時の、何度も繰り返し、俺の首筋に舌を這わせてきつく吸ってきた、あの感触を思い出してしまって、密かに照れる。ああ、俺の顔は朝から熱くなりっぱなしだ。
「でも、夢で俺にしたんでしょ?」
照れ隠しのように、そう問いかけると。…獣毛の上からでも分かるくらいに、リジットさんの顔が赤くなる。漆黒の毛並みまで、赤くなるように。でも、今度はそれを隠すことなく。その顔で、…まあな、って彼が頷いた。あ、ほんとに、夢で俺にしてたんだ。自分で言ったことなのに、認められると気恥ずかしくなって。今度は、俺の方が、手で顔を覆ってしまう。指で触れると、自分の頬がほんとに熱い。
そんな俺を。リジットさんが、眼を細めて見つめていた。俺が、その目線に気付いて、彼を見ると。今度は、口角を上げて薄く、笑う。食堂に降り注ぐ朝の透明なひかりが、琥珀色の眼に差し込んで、綺麗に輝いた。
そんな彼に、見惚れてしまう俺に。彼の手が、俺へと伸びて。ざらざらと硬い肉球の指先で、俺につけられた痕をなぞる。少し腫れたままで、過敏になっている膚は、必要以上にそのざらりと硬い感触を受け止めてしまって。喉奥で、「小さく声を上げてしまう俺に、リジットさんが、また眼を細める。
その、薄く笑った顔のままで。彼の指が、また俺の頬に触れて。
「…やはり、本物の方がいいな」
そう言って。今ついている痕と、全く同じところに口を寄せると。未だに鈍く疼くその痕を、昨夜と同じように、きつく、吸われた。
このときに。リジットさんにつけられた首筋の痕は、暫く経っても消えなくて。
そこに痕を着けるのを、気に入ってしまったリジットさんが。それが消える前に、繰り返し、重ねて同じ痕を着けるものだから。…それから先、俺の首筋から、その痕が消えることはなかった。
…この痕が、彼からの所有印みたいだから。
消えなくて良かった、と、嬉しく思ってしまったことは。
…恥ずかしいから、彼にも秘密にしておこう。
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