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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【15】

  リジットさんのお休みの日は、二人で一緒で過ごすのが。婚姻する前、婚約してた時から。…いつの間にか当たり前になっていた。

  今日も。お屋敷の一室で、一緒にお休みの日を過ごす。

  ここは、大きな本棚がメインのように置いてある部屋だ。でも書庫、というか図書室は別にあって、そこから特に好きな本や、今読んでいる本を持ってきて、この本棚に置いている。他には、その本を読むためのテーブルと椅子が本棚の前に置いてあって。それから、窓際にサイドテーブルと、ゆったりとしたソファ。三人掛けだけど、たぶん四人でも支障なく座れる。そのくらい余裕のある大きなものだ。リジットさんはこのソファが好きで、この部屋に来ると大抵このソファに座るか、時には寝転がってお昼寝とかもする。その時には、俺の膝に彼の頭を乗せて、彼の毛並みを撫ぜながら寝顔を見ているのが俺の至福の時間だ。いつもは俺が甘えさせてもらってばかりだから、…この時ばかりは、俺が、彼に甘えてもらっているようで。

  俺の方が10も年下だし、リジットさんは風格もあるし高潔で豪胆な、世界一格好良いひとだから。そんな彼が、俺に甘えてくれるって、そうはなくて。だから、少しでも、俺の方が彼にしてあげられることがあると。それを、彼に求めてもらえると。俺はすごく嬉しくって、なんでもしてあげたくなる。

  だから、何でも言って欲しいんだけど。…リジットさんは、『俺の方が、お前に何かしてやりたいんだ』、って。『お前が、俺のそばにいてくれるだけでいいんだ』、って、優しく抱き締めてくれて、…俺にあんまり何もさせてくれない。リジットさんの言葉は、とっても嬉しいんだけど。抱きしめてもらえるのも、こころが蕩けるくらいに嬉しいんだけど。…俺だって、そうなのになー。リジットさんのことが好きだから、彼の為に何かしたい。勿論、ご飯やお弁当を作るとか、彼の服を繕うとか、掃除やお洗濯やこのお屋敷のみんなのお手伝いをするとか、それだって彼の為なのかもしれないけど!そうじゃなくて!もっと、もっと、こう…こう!リジットさんが俺に優しくしてるくらい、俺も、彼になにかしたいのに!

  

  そんなことを考えていると、自分の何も出来なさに凹んでしまう。頭を垂れそうになるのを隠すように、目の前の本棚から一冊を選んで抜き取った。俺の家庭教師のスティケート先生からお借りして、今読んでいる、先生お勧めの小説。

  このお屋敷の図書室というのは、庭園同様、代々の近衛兵長さまたちが集めて、でも退官後に全ての本を持っては行けなくて、ここに置いて行った結果の部屋らしい。俺も本を読むのは好きだし、よくその部屋に入るけど、確かに図書室と呼んでも差し支えのないくらい、そこそこ膨大な量の本が置いてある。

  婚姻時に、愛読していた本を持ってきてもいいって言ってもらったから。俺も小さな本棚一つ分くらいの本を、一緒に持ってきた。その本も図書室に置いてもらって、特に好きな本を、ここに置かせてもらっている。

  リジットさん自身は、小説とかはあんまり読まないみたいなんだけど、兵法的な本はよく読んでいる。でもそれも、以前の近衛兵長さまが集めて置いて行かれた本みたいで、リジットさん自身が集めたものは少ないそうだ。対して、俺が好きな本とか、家から持ってきた本は、小説とか、小さい頃から読んでいた絵本とかも多いから。よかったら読んでみて、って勧めてみたりしている。

  

  今も、リジットさんが読んでくれているのは、俺が勧めた小説だ。窓際の、ゆったりとしたソファの端に、足を組んで座って。ひじ掛けに腕を置いて、片手で本を開いている様は、何よりも格好良い。

  ソファから少し離れた本棚の前で、ぽうっと彼に見惚れてから。…折角真剣に読書をしてるのに、俺が邪魔をしたら悪いな、って思って。テーブルと組になっている椅子に座ろうと、椅子の背を引いた。きぃ、と床に椅子が擦れる音が微かに響く。それが聴こえたのか、彼の耳がぴくりと揺れて。読んでいた本が、音をたてて閉じられた。

  「どうした?こっちへ来ないのか?」

  そのまま、心底不思議そうな声で、俺の彼が。…俺に手を差し出しながら、そんなことを聞いてくるものだから。行く!と、静かな部屋に不相応な大声で、頷きながら。慌てて椅子を戻して、彼の隣に走り寄る。

  そんな俺を、満足そうに眼を細めたリジットさんが迎えてくれて。差し出されていた手を取ると、促されるように彼の隣へと手を引かれる。

  ソファの端に座る、彼の隣にそのまま腰かけると。リジットさんの腕が、俺の肩に回って、強く引抱き寄せられる。彼の肩も越して、胸のあたりに完全に凭れる体勢になりながら、彼を見遣ると。ひじ掛けに置いていた方の手で、本を開いて読書の続きに戻っていた。

  俺も本を読もうと、持ってきた本を開く。授業にも使われている、先生の私本。それを開いて、…けれど一ページどころか何行も読まないうちに、俺の目は彼の方へと戻ってしまう。

  座っているときは、いつもよりも目線が近い。けれどやっぱり少し差が出てしまって、俺よりも幾分か高い位置にある彼の顔を、見つめるように眺める。彼の顔を見始めてしまうと、ほかのものなんて目に入らなくなってしまうのは、俺の癖だ。…いや、癖というかなんというか。

  でも、俺の旦那さまは、世界一格好いいんだからしょうがない!もう何度となく想ったことを。今も、内心で、そう強く想って頷きながら。それでも目線を隠すように、本を顔の前に寄せて、彼を見遣る。窓から降り注ぐ獣毛が、日の光を吸収して、更にあったかい。

  

  琥珀色の四白眼が、俺が好きだと勧めた本を、熱心に読み進めてくれているのを見やりながら。こんな格好良いひとが、俺の旦那さまなんだ、と。今日も幸福に浸りながら、顔が緩んだ。

  リジットさんは、軍人だし、兵長という立場だし。だから、いつも忙しいんだけど。それでも、…こうやって、お休みの日には、俺と一緒にいてくれる。それが、俺には一番嬉しい。

  婚約して直ぐの頃から、リジットさんはお休みのたびに俺の家に来ては、一緒に過ごしてくれたし。俺の親は、俺に早く『近衛兵長の嫁』になって欲しかった方だから。リジットさんが家に来てくれるのも大歓迎で、寧ろ泊まって行ってくれって引き留めるほどで。それもあって、俺の家に泊まってくれて、そこから出勤することもあった。

  最初、俺の家に泊まってもらった日には、王城まで出勤なんて、大変じゃないかな、って思ったんだけど。『俺も、お前と一緒にいたいから、泊まらせてもらえるのは嬉しい』、って、優しく言ってくれた。…思えば、初めて逢ったときからずっと、婚約時代も勿論、リジットさんは俺に優しくしてしてくれたなあ。たまにしかない連休や、年に二度ほどしかないまとまったお休みも、俺と過ごしてくれて。『お前がつらくないように』、って。俺の身体を、彼を受け入れられるように、時間をかけて、俺を気持ち好くして、慣らしてくれた。おかげで、初めて彼のものを挿入してもらった時も、初めてだったけど、…すごく気持ち好くって。俺は何度も絶頂してしまったし、すごく幸せだった。

  …そんな、婚約時代から初夜のことまで思い出してしまって、身体が甘く疼く。それを感じて、彼には分らないように、本の陰で赤くなって頭を振った。そのまま彼の胸に頭を凭れて、目を閉じる。

  婚姻しても、リジットさんは、優しくて。お休みの日には、俺と一緒にいてくれて。最初の頃は、いつもお屋敷にいる俺を気遣ってか、リジットさんは、お休みの度に、街に買い物に誘ってくれたり、お芝居や音楽会に連れて行ってくれたり。時には、日帰りの出来る範囲で、少し遠くまで観光に連れて行ってくれたりしたけれど。リジットさんも毎日忙しくて、疲れてるだろうし、何より。

  …俺は。こうやって、彼に寄り添って、くっついていられれば。場所がどこだろうと、とても幸せだったりする、から。やっと、お休みの日だけじゃなくて、毎日、彼と一緒にいられるようになったんだから。何度目かに外出に誘われたときに、正直にそう伝えた。

  『何処に行かなくても、リジットさんが一緒だったらそれだけで嬉しい』、って。『それだけで、俺はすごく幸せなんだよ』、って。

  そうしたら、リジットさんは。少しだけ驚いたように、眼を見開いて。

  …それから、嬉しそうに笑うと。『そうか』、って笑って、俺をやさしく抱き締めてくれた。

  それからは、時には外出することもあるけれど。こうやって、部屋で読書をしたり、くっついてお昼寝をしたり、庭園で日向ぼっこをしたり。…前日から部屋にこもって、抱き合って愛し合うことも、度々ある。そんな風に、お屋敷で、2人でゆっくりと過ごすことが増えた。

  そんな時間が。俺には、大切で、嬉しくて仕方ない。彼が隣にいてくれたら、どこだって、何をしていたって、楽しくて浮かれてしまう。

  だから、今日も。こうやって、彼に肩を抱かれながら読書できるのが、俺には嬉しくて仕方ない。彼の腕が、俺に回って抱き寄せてくれているだけで。俺のこころは、高鳴って弾む。

  …いつだったかの、授業中の先生の言葉が、不意に頭を過ぎった。貸して戴いた、この本のテーマだったとも思う。『恋は盲目』。悪い意味に捉えられることもあるけれど、いい意味もあるんですよと言って、教えてくれた言葉。

  『要は、あなたに夢中ってことです』

  特徴的なモノクルを押し上げながら、そんな風に笑って。『まるで、あなたたち夫婦のようですね』って。そう、言ってくれた言葉。

  思い出に浸るように、閉じていた目をゆっくりと開けて。彼を上目で見遣りながら、あなたにむちゅう、と、喉奥で音に出した。あなたに夢中。少なくとも、…俺はそうなんだけど。きっと、彼に初めて逢った時から、俺は、彼に夢中なんだけど。

  リジットさんの、窓から降り注ぐ日の光を反射して、白く輝く漆黒の獣毛に見惚れながら。そんなことを、こころのなかで呟いて。

  …彼も、そうだったらいいな、と。本を読む、その涼しげに端正な顔を見つめてしまう。俺ほどじゃなくても。ていうか、俺の方がきっと、ずっと、彼を好きなんだろうけど。それでも。

  少しでも。リジットさんも、俺に夢中だったら、いいな。

  そんなことを想いながら、。俺の視線に気づいたのか、リジットさんが、俺の方を向いて。

  「どうした?」

  そう言って。俺を抱き寄せる方の手で、俺の髪を撫ぜてくれた。その手が心地好くて、思わず笑みを浮かべながら、なんでもない、と首を振る。

  そのまま、また、彼の胸に顔を寄せれば。リジットさんも、俺に凭れるように、顔を寄せてくれて。髪に触れる、ふかふかとした獣毛の感触に、幸せの息を一つ、零した。

  ******************

  「そう言えば、庭園のさ、ブルーベルが綺麗に咲いたね」

  「ああ、今が見頃だな。そろそろ早咲きの薔薇も咲く時季だが、それまで咲いてくれると見事なんだが」

  「え、一緒に咲くときもあるの?」

  「ああ、たまにな。さすがに薔薇の盛りまではもたないが、この庭には早咲きの薔薇も幾種類か植わっているからな」

  読書も一段落したところで、2人でサイドテーブルに本を置いた。くっついて本を読むのもいいけど、そろそろ彼と話したいな、って。俺も思ったんだけど、彼もそう思ってくれたらしい。

  以心伝心!とか、先生から前に習った言葉を思い浮かべながら、そんな他愛もない会話を彼と交わす。それだけで楽しい俺の身体を、彼が造作もなく抱き上げた。そのまま、彼の上に座らされて、後ろから抱き込まれる。

  最初は、彼の上に座るなんて、俺重いのに!って慌てたものだけど。『お前の重みなど、重いうちに入らない。それよりも、お前の柔らかさや心地好さを感じていたい』って、リジットさんが真顔で言うものだから。それからは、俺も、素直に彼の膝に乗せてもらっている。本当は、リジットさんに後ろから抱き締められると、彼に包まれているみたいで、俺も大好きだから。

  「薔薇も綺麗だろうなー!見るの楽しみだよ!」

  知らず弾んでしまう声で、窓の外を見遣った。この部屋は2階だけど、窓も大きいこともあって、庭園となっている中庭は薄っすらと見える。

  「このお屋敷で初めて見る薔薇だもんね、一緒に見ようね!」

  婚約時代は、俺はこのお屋敷に来たことがない。だから、初夏に咲くこのお屋敷の薔薇も、俺は見たことがない。今年の薔薇が、ここで初めて見る薔薇だ。

  青紫のブルーベルが、今が盛りとばかりに見事に咲き誇る傍で。鮮やかな緑色の葉を茂らせた薔薇が、内側の色がわかるくらいに大きな蕾をつけて、膨らんでいる。庭園の水やりを手伝ううちに見慣れてしまったそんな様が、鮮明に脳裏に思い描けて。あの薔薇はピンクかな。そんなことを思いながら、楽しみに顔が緩む。そんな俺の、後ろから。

  「ああ、そうだな」

  そう頷く彼の声が、耳に響いた。俺を抱き込む腕に、力がこもる。少し首を捻って、間近にある彼の顔を、覗き込むように振り返る。窓から降り注ぐ午後の柔らかい日差しに、彼の眼の琥珀色が反射して、更に輝く。…綺麗、とこころのなかで嘆息した。

  その眼が優しく細められて、口角が上がる。それから。

  「今年も、来年も。その先もずっと、一緒に見よう」

  眼と同じに、優しい声が、耳に溶ける。そのまま、俺の頬に、彼の頬が寄せられた。あたたかくて、ふわふわと心地好い、獣毛の感触。

  それに、ぶんぶんと勢い込んで頷きながら。声でも『うん!』と大きく応える。勝手に顔が緩んで、満面の笑顔になった。それに、リジットさんが笑う声が、微かに聞こえて。

  そのまま。俺の首筋に、彼の顔が埋められて。俺の胸を、彼の手が這うのを感じながら。

  俺は。リジットさんと、こんな風に。寄り添って、くっついていられる、こんな一日が、一番好きで。

  …こんな風に。彼と過ごせるこの時が、なによりも。幸せだな、って、実感した。

  

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