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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【20】
珍しく。休日の前日に、『明日、一緒に行きたいところがある』、と、可愛い妻から誘われた。
「いきなり誘っちゃって、ごめんね?」
「そんなことを気にするな。お前からの、外出の誘いなど珍しいからな。…とても楽しみだ」
その日の出発は、朝も大分早かった。少々厚く曇った空に、がっかりしたような顔をしながらも。それでも嬉しそうに笑う妻に手を引かれて、馬車に乗り込む。
いつものように、隣り合って座りながら。申し訳なさそうに俺の顔を覗き込む俺の最愛の妻に、その髪を撫ぜながら口角を上げた。唐突だろうが何だろうが、この子からの誘いにこの俺が異論など在るわけもない。夕べも二つ返事で快諾して、それから密かに心躍らせていたほどだ。
俺の返答に安心したのか。ほっとしたように笑うと、俺の腕に柔らかい身体が抱き着いた。そのまま、俺を見上げて胸に凭れる。その円い肩に腕を回して更に引き寄せながら、誘われたときから気になっていた疑問を口にした。
「ところで、どこに行くんだ?」
「ないしょ」
俺としては当然の問いかけに。間髪入れずに、円い目をぎゅう、と細めながら。フラフィーが子供のような仕草で、口の前に人差し指を立てる。その愛らしい様子に、思わず口の端を緩めながら。そうか、と俺も頷いて、抱いた肩に指を滑らせた。
馬車の中は、ご丁寧にカーテンまで閉められていた。…余程、俺には行き先を秘密にしておきたいのか。年齢よりもしっかりしていながら、幼いところは歳不相応に幼い俺の可愛い妻に、更に相好が緩む。俺には内緒だが、馬丁には、勿論行き先を伝えてあるのだろう。何の躊躇いもなく進む馬車の音に、何気なく耳を澄ませていると。フラフィーが、俺の胸に凭れたまま、ゆっくりと口にした。
「ちょうどさ、今くらいだよね」
「うん?」
主語のない言葉に。その髪を撫ぜながら、今度は俺の方が妻の顔を覗き込む。俺の眼の中で、はにかむようにフラフィーが笑って。
「…俺と、リジットさんが、その…お、お付き合いするようになったの」
照れたような声色で、言われた言葉。それと同じように、その柔らかな頬が紅潮する様に見惚れながら。
「そうだな」
笑って、そう頷くと。俺を見て、ぎゅう、と目を細めて笑う、その愛らしい顔に額を寄せる。
今でこそ、こんな風に。いつでも、俺に幸福の詰まったような顔で笑ってくれる、俺の最愛の妻は。…それでも、最初はいつも俯きがちだった。
2人でいることにもぎこちなくて、この子が声を発することも少なくて。あの頃で、この子が俺を真っ直ぐに見てくれたのは、俺の求婚に笑顔で頷いてくれた時だけかもしれない。そのくらいに、当時、俺と2人でいるときのフラフィーは、俯いていることが多かった。
けれど、その俯く姿が、…俺が嫌だとか、怖いとか。そういう意味でないことも、俺は知っていた。俺と一緒にいるときには、この子の柔らかそうな頬が、…いつも上気するように赤く染まっていたから。
時には、耳まで赤く染めて。俯きながらも俺に、懸命に耳を傾けてくれていた。時折、こちらを伺うように、上目でそうっとこちらを見るときもあって。ずっとこの子を見つめていた俺と目が合うと、音が聞こえるほどに赤くなって、慌てた様子でまた、目を伏せる。その様子が堪らなく愛らしくて、俺は緩みそうになる顔を抑えることに必死だった。
こちらにも分かるほどに、緊張した態度と面持ち。何かを懸命に話そうとしては、声にならずに口を閉ざす。そのときの、俯き加減でも見えるその目は目元まで真っ赤で、泣き出しそうで。…そのたびに、俺は伸ばしそうになる手を幾度も抑えた。多分、あの状態で触れたら、あの子は逃げ出してしまうかもしれなかったし。…触れたら、箍が外れそうになるだろうことを、俺も、自分で分かっていたから。
例え言葉がなくても、こちらを見ることがなくても。フラフィーは、そんな風に、俺への好意をずっと伝えてくれていた。それは、無意識かもしれないし、無自覚だったかもしれない。けれど、だから
こそ、俺は不安になることもなかった。
勿論、俺が焦がれてやまないあの、幸福そうな笑顔を。…見なくてもいい、と言ったら嘘にはなる。けれど、俺と一緒にいて、真っ赤に頬も耳も染めて緊張してくれているのは。…俺を、少しでも意識してくれているのだと。こっそりと、上目で俺を見遣っては、目が合うたびに更に赤くなって、また俯くのは、俺に、好意を寄せてくれいるからだと。それを、あの子の態度は、何よりも雄弁に俺に伝えてくれていた。
そんなフラフィーを見るたびに、俺のなかで、あの子が愛しくて仕方がなくなって。あの子に触れたいと、そう思ってしまう感情が、…日に日に積もっていった。今まで、誰にも抱いたことのない感情に、自分で随分と驚愕したものだ。…その感情を、どう対処したら良いかも分からずに、ただ、理性と葛藤していた日々。
…思えば、初めて俺があの子に触れたのは。夏になる直前の、雷の酷い日だった。フラフィーが、雷が苦手だと初めて知った日。雷を怖がって蹲るあの子が痛ましくて、初めて、あの子に手を伸ばした日。その震える身体を、少しでも安心させたいと心底願った、その感情の片隅で。…あの子に触れる免罪符を手にしたような想いに駆られたことも。…そんなことを思い返して、ふと思い当たる。
「…そういえば、初めて一緒に出掛けたのも、今の時期だったな」
思い出すように口にした言葉に。フラフィーが弾かれたように、凭れていた身体を起こして、俺を見上げた。
「…リジットさんも、覚えてるの!?」
「当たり前だろう」
驚いたように、円い目を更に丸くして俺を見つめる可愛い妻に。思わず笑いながら、その柔らかい頬に指で触れた。
雷の日を経てから。フラフィーは、少しずつ、俺と一緒にいることに、慣れてきてくれた。まだぎこちない部分はありつつも、上目ではなく、俺を見てくれるようになったし。フラフィーから、話もできるようになっていた。相変わらず、俺と一緒にいるときには、その顔は真っ赤で。俺と目が合った瞬間は、弾かれたように俯いて、耳まで紅潮させていたけれども。…その様も、とても愛らしく、俺は非常に好きだったことも加えておく。
けれど、それまではいつも逢瀬は部屋の中で。街に行くことは、…俺の方が避けていた。
街には、王城や貴族の集まり以上に、人の目がある。そして市井の人々は、そのほとんどが獣人を知らない。それでも、犬獣人や猫獣人なら、そこまで怯えられないのだが。現に、休日に街に赴いて、買い物を楽しむ者や、そこで人間と仲良くなるものもいる。
けれど、…俺は、肉食獣人だった。彼らが、そんな俺をどう見るかなど、…そこに赴かなくても、予想出来た。そしてその予想は、少なからず当たっていた。見慣れない獣人のなかでも、更に見ることのない肉食獣人。…そんな俺を、恐れ、怖がる目。得体のしれないもの、とばかりに忌み嫌う眼差し。俺の過去を浮き彫りにする、憎悪とも嫌悪ともつかないもの。それを見るのが、理解するのが嫌だった。…怖かった。
フラフィーと出逢ったばかりのあの頃は、今以上に、俺は街や、人目の多い場所は苦手だった。今は、いつでもフラフィーが、俺に寄り添って、手を繋いで、時には腕を組んで。俺を見つめて、幸せそうに笑ってくれるから。だから、街だろうが何処であろうが、避けることなく赴いて、人目を気にすることなく楽しめるけれど。…今でも、俺の妻が傍に居ないのならば、そういった場には行こうとも思わない。この子のいない場は、どこであろうと苦痛なだけだ。
…だから。あの時、そろそろどこかに一緒に行くのはどうか、と思った時に。浮かんだ場所は、自然と海だった。
勿論、そこに誰もいない、という可能性の方が低い。けれど、部屋の中に降り注ぐ日差しだけではなく、…何も遮らない陽の下で、のびやかに笑うあの子を見たいと思ったのだ。
そんな想いで提案した外出。それに、フラフィーも嬉しそうに笑って頷いてくれて。早速、次の休みに遠出の手配をした。勿論日帰りになるから、そこまで遠くには行けなかったが。それでも海の見える場所までは問題く行けるだろうと、城塞都市からもほど近い海岸に決めた。それでも、少々朝早く夜遅いことにはなったが。
馬車の中でも、今のように隣に座るのではなく、向かい合わせだったことは、今でも鮮やかに覚えている。いつもよりも狭い空間に、更にフラフィーが顔を赤くして。ほんの少し前までと同じように、膝の上できつく手を握り締めたまま微動だにしなかったことも。
『そんなに気を張らなくてもいいぞ』
そう声を掛けても、掠れた声で『はい』、とだけ頷いて。けれど緊張は解けることなく、ずっと俯いたままで。…その真っ赤に染まって、呼吸に合わせて緩やかに動く柔らかそうな頬に。俺が触れたい、と思って。…それでも、この狭い空間でこの子に触れることを、俺の理性が躊躇ってしまったことも。…鮮明に、覚えている。
今では、もう戸惑うことも躊躇うこともなく、この子に指を伸ばして触れられることの幸福を噛み締めながら。確かめるように、フラフィーの頬を丁寧に指でなぞった。俺の指の肉球がくすぐったいのか、その円い目をぎゅう、と細めながら。…俺の手に、そのふくふくとした手を重ねて、おかしそうにフラフィーが笑った。
それから。何事もなく、馬車は順調に進んで。ほどなくして、馬車が停まった。カーテンを開いても、丁度木陰で全体像が分からない。多分、うまい具合に周りが見えない場所に停めたのだろう。そう、馬丁にフラフィーが頼んだのかもしれない。
…けれど。ここがどこだか、予想がついた。開けられた馬車の扉から吹き込む風に、ますますその予想を強くする。
馬車から降りると。フラフィーが俺の手を繋いで、跳ねるように駆け出す。手を引かれながら、俺もフラフィーに合わせて、軽く駆けた。足元の感触は独特だ。土ではなく、さらりと粒の小さい砂が、足元で音を立てる。潮の混ざった風の匂いに、無意識に鼻がひくついた。…ああ、やっぱり。俺が小さく笑ったのが、分かったのだろうか。走りながらも、フラフィーが俺を振り向いて、嬉しそうに笑う。
小さな木陰を抜けて、もう少し走った。波の音が心地好く耳を打つ。目の前に広がる光景に、眼を細めて息を吐いた。…海岸線に近づいてから、前を走っていたフラフィーが、足を止める。
「…ここ、覚えてる?」
「ああ、勿論」
そう言って。振り向きながら笑う愛らしい俺の妻に、俺も笑って頷いた。
曇天の空を反射しながら、それでも青く、大きく広がる海と、白色の砂浜。耳を打つ波の音。
…忘れるわけもない。ここは、俺とこの子が、初めて一緒に訪れて。…初めて、口づけを交わした場所だ。
あの日も。海について、馬車から降りた後、一緒に海岸を散歩した。長い海沿いを、波に足を取られないように気を付けながら歩く。それだけで、今よりも幾分幼かった俺のこの子は、楽しそうな声を上げて嬉しそうに笑った。…俺の望んでいた、幸福そうに笑うのびやかな笑顔。それでも、…まだ、その手は取れなくて。お互い一歩分の距離が開いたまま、それでも並んで波打ち際を歩いた。
あの日の空は、抜けるように青くて。『綺麗だな』、と呟いた声が、フラフィーの『綺麗だね』、と上げた感嘆に重なって、思わず笑った。
多分、夏も盛りとなれば、泳ぐ者もいるのだろう。けれど、まだ海に入るには早かったのか、海岸にはちらほらとしか人は居ず。それも、俺たちの、…いや、俺の、か。人間には見慣れない獣人が、しかも肉食の獣人がいきなり現れたことにだろう、そこにいた者も潮が引くように居なくなった。
そういう状況は、王城や舞踏会ではない場所では、珍しいことではなく。俺は、寧ろ他の者の視線を感じずによくなったことや。…この子と2人きりになれて、好都合だとしか思わなかったのだが。
それに、…聡いこの子も気づいたのか。一歩分の距離を、この子の方から、踏み出して。柔らかい手が、そうっと、俺に触れた。驚いて、弾かれたように隣を見遣れば。…耳まで真っ赤に染めたフラフィーが、躊躇う指で、俺の手を、…ぎゅう、と繋いだ。
『お、俺は、…リジットさん、と、一緒で、すごく嬉しい、…です!』
そのまま。たどたどしい言葉で、けれど懸命に。フラフィーが、俺に、…そう、伝えてくれた言葉。その後で、俺を、上目でそうっと見遣って。…それから、顔を上げて、にっこりと笑った。俺の眼を奪う、いつでも焦がれてやまない、幸福の詰まったように笑う顔。
『俺は、リジットさんが、』
そこまで言うと。爆ぜるほどに赤くなって、また俯いた。リジットさんが、と、もう一度、俺の名を繰り返す甘い声。…堪らなくなって、今度こそ手を伸ばした。温度を感じにくい肉球からも伝わるほどに、柔らかい頬の体温は高くて。俺が触れたことに、驚いたようにその顔が跳ねあがって、それからまた、俯きそうになった。
…その顔の動きを、遮るように。両手でその頬に手を伸ばして、上向きで固定するように、指を這わせた。俺の行動にだろうか、戸惑ったようにその円い目が動いて。…それから、そうっと伏せられた。その様が、まだ幼い子どもだというのに、…俺には、酷く扇情的で。
淡い色をした唇が、何かを紡ごうと動くのを、ただ見つめた。俺の手の中で、柔らかなその頬が、一段と熱を高めて。…伏せられた目が、また、ゆっくりと俺を見上げる。
その愛らしい唇が。だいすきです、と、幼い声で俺に囁くのを。福音のように噛み締めながら。…その、淡い唇に、自分の唇を近づけた。
…避けられるかと、心の隅で覚悟をしていたその顔が。一瞬だけ、戸惑うように目を揺らしながらも、…俺の行為を受け入れてくれるように、ゆっくりと、その目が閉じられる。その様に、歓喜に身が震えるのを感じながら。
その、淡く甘い唇に、自分の唇を、ゆっくり重ねた。
「…俺もね、ちょうど今くらいの頃だなあって思ったんだ」
思い浮かぶ記憶に浸る俺に。同じ記憶を思い出していたのだろうか、フラフィーが。海を見つめながら、密やかな声で俺に言う。それから、俺を見上げて、照れたように笑った。
「だから、ここに来たかったの。…曇っちゃったのは予定外だったけど」
はにかみながら、そう言葉を続ける、愛らしい俺の妻に。言葉の代わりに、笑いながらそのあたたかい身体を抱き締めることで応じた。
そのまま、海岸を、手を繋いで歩く。矢張りこちらの地域も、残念なことに少し雲の厚い曇天で。けれど、その隙間から差す一筋の光は、あの日の晴天と同じほどに美しい。
「綺麗だな」
「綺麗だね」
懐かしむように、あの頃と同じ言葉を呟けば。隣からも、同じ言葉が上がって、目を合わせて2人で笑う。
今日は、そもそもの曇天の所為か、俺たちの他に人出はなかった。波打ち際を半分ほど歩いた頃、…ぎゅう、と、俺の手を握るフラフィーの手に、力がこもる。それから、その足が止まった。それに合わせるように、俺の足も止まる。
どうした、との疑問が俺の口から出る前に。…フラフィーが、身体ごと俺に向き直った。空いている方の手も、俺の手をぎゅう、と握る。潮の混ざって少し湿った風が、頬を撫ぜた。
「…あの頃の俺さ、まともにリジットさんの顔も見られなかったでしょ」
少しだけ目を伏せて、俺の妻が静かに言う。言外に滲ませる申し訳なさそうな声色に、その伏せられた目を見遣った。…あの頃と同じように、俯き加減の顔と、緩やかな頬のライン。
「ずっと俯いてばかりで、何も上手に話せなくて、…でも、リジットさんは、いつも優しい眼で俺のこと、見ててくれたよね」
目を伏せたまま、そう、言葉を続ける俺の妻に。いつものように、…ここに初めて来たあの日と同じように。その頬に指を伸ばして、そうっと這わせた。肉球にもじんわりとあたたかく伝わる、この子の優しい体温。…そんな俺の行為に、フラフィーの俯き加減の顔が上がって、俺を見る。俺の手に、フラフィーの柔らかな手が、重ねられた。
「ほんとに嬉しかった。俺も、もっと、リジットさんのこと好きだって伝えたかった。いっぱい話したかったし、リジットさんの顔も見たいって思ってた」
あの頃から変わらず、俺に、懸命に気持ちを伝えようとしてくれているこの子の。その言葉が、耳から体内にまで溶けて、拡がる。愛らしく細められるフラフィーの目の中で、俺の顔もぎゅう、と細まる。普段の俺よりも、幾分も優しい表情をしている、俺の顔。
…無意識に、フラフィーの額に、顔を寄せていた。こつん、と微かに額が当たる感触が、獣毛も越して身体に響く。
「俺、あの頃から今もずっと、リジットさんのこと大好きだよ!…昔は、それがうまく伝えられなくて、ごめんね」
間近の距離で。顔中に浮かべた、飛び切りの笑顔で。あの日のように俺へと素直に告げてくれる、真っ直ぐな言葉。…けれど最後に、その円い目が少しだけ潤んで、滲む。それが、目尻から頬に滑る前に、舌を這わせて舐めとった。泣き笑いのような顔で、擽ったそうにフラフィーが目を細める。…その表情に安堵しながら、もう一度、額を合わせた。
「…馬鹿だな。そんなことは、全くないぞ。お前は、あんなに雄弁に、俺に伝えてくれていたじゃないか」
少しだけ潤んだままの目で、俺を見つめる、愛らしい俺の妻の。その目を俺も見つめ返しながら、囁くように言葉を紡ぐ。俺の言葉に、フラフィーの目が、見開かれて瞬いた。
「ほんと?」
「ああ、本当だ。言葉がなくても、俯いていても、お前はずっと、…俺のことが好きだと、俺に告げてくれていた」
言いながら頬を撫ぜると。よかった、と、安心したようにフラフィーが俺に笑って。…そのまま、飛び込むようにぎゅう、と俺に抱き着く。
その柔らかい身体を、俺も抱き込みながら頭を撫ぜれば。…俺の胸から、顔だけ上げたフラフィーが。円い目を、ゆるりと潤み揺らしながら。
「…リジットさん、だいすきです」
そう。甘い声で、囁くように、俺に告げた。そのあとで、ゆっくりと伏せられた目は、…俺にとって、矢張り酷く、扇情的で。
「…ああ。俺も、お前を愛している。俺の全ては、永遠にお前のものだ」
もう、何度となく、誰よりも愛おしい妻に告げた言葉。けれどあの日には、この子に告げることのなかった言葉を、口に出して伝えながら。
あの時のように。波のさざめく中、淡く甘い唇に。ゆっくりと、自分の唇を重ねた。
「ね、また来年も、この時期に一緒にここに来ようね!」
「ああ、そうだな」
波打つ海岸を。足が濡れるのも構わずに、跳ねるように俺の妻が楽しげに歩く。その身体を同じように、弾む声で、フラフィーが俺を見上げて目を細めた。
その言葉に、頷く俺に、満足そうに笑いながら。
「そのときは、その、…もうひとり増えてるといいね!」
そんなことを。真っ赤になった顔で、更に嬉しそうに笑って言うものだから。俺は、堪えきれずに、その場でもう一度。…俺を煽るのがとても上手い、俺の最愛の妻に、噛みつくようにキスをした。
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