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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【32】

  「こんにちは。本日は、お招きありがとうございます」

  出迎えた、エントランスで。流れるような声で、俺たちにそう言ってから。深々と綺麗なお辞儀をする金髪碧眼の青年に、俺も、同じように頭を下げて返す。フラフィーの幼馴染みだという彼が、顔を上げて眩しい笑顔を見せた。…俺たちと共に彼を出迎えているメイドたちの、感嘆の息を漏らす音が、微かに、けれど確かに辺りに響く。

  「こちらこそ、来てくれてありがとう!今日はゆっくりしていけるの?良かったら、夕ご飯も食べて行ってね」

  俺の隣で、フラフィーもにこにこと笑顔を浮かべる。もう、すっかり食欲も戻った俺の妻は、今まで通りにふっくらと愛らしい。その下腹部も、ぽこりと前に突き出るように膨らんで、そこに俺たちの子が在ることを、如実に表していた。その片手で俺の腕に凭れて、もう片手はその下腹部に優しく当てられている。その様を、隣で見つめているだけで、言い表せないほどの幸福で満たされた。

  「うん、ありがとう。君とリジット様さえよければ、そうさせてもらおうかな」

  フラフィーの言葉に、頷きながらまた、その彼が微笑う。…俺に、美醜はあまり良く分からないが。というよりも、俺の最愛の妻以外に、可愛いも美しいも感じることは無いのだが。それでも、この目の前の青年が、美しいと言われる類の顔立ちだということは判断がついた。まるで、絵物語に出てくる『白馬の王子』。俺でも、幼い頃に一度は読んだことのあるその王子様とやらが、具現化したような目の前の青年。それは、今のメイドたちの反応でも明白だ。美しい芸術品でも見たような、感嘆の表情。…これを見れば、この青年が美形だということは、誰にでも分かるだろう。

  そのまま、彼を促して、メイドとともに用意した部屋へと向かう。紅茶とこの子の焼いたケーキをセッティングした、少し大きめの丸テーブル。四席用意した内の一席に座ってもらってから、俺たちも席に着いた。

  そのタイミングで、メイドの一人が紅茶を淹れてくれてから、場を辞する。それを見計らうように、向かい側に座った彼が、口を開いた。

  「リジット様とは、結婚式にお逢いした以来ですよね。あの時は、まともにご挨拶もできずに失礼致しました」

  「ああ、いや、こちらこそ。あの時は、俺の方が別の対応に追われていたのだ。まともに話すことも出来ずに、大変申し訳なかった。こうして改めて来てもらえて、俺も、この子も喜んでいる」

  そう言って、またも頭を下げる彼に、俺も再度返礼する。このような、優雅で礼儀正しい物腰は、俺の昔からの友人を思い起こさせた。頬に触れる長さの白金に近い金色が、さらりと揺れる。

  それを、俺の隣でにこにこと見遣っていた俺の妻が。俺と彼を交互に見遣ってから、覗き込むように俺を見つめた。

  「アステールはね、15歳の時からついこの間まで、ずっと隣国に留学してたんだよ。俺たちの結婚式のときは、わざわざ一時帰国してくれたの」

  覚えてる?と、愛らしく首を傾げた俺の妻に、笑い返しながら頷いた。彼の存在は、前からこの子から聞いている。留学の話も、彼を招きたいとこの子から相談されたときに、勿論聞いた覚えがあった。

  彼の名はアステール・ウィンザー。フラフィーと同じく男爵家の生まれで、歳は20。背は、俺とフラフィーの間…というくらいだろうか。筋肉質ではなく、けれど、決して鍛えていないわけではない身体。立ち姿だけでなく、座っても正しい姿勢は、ますます王子然とした印象をこちらに与える。

  彼は次男であり、『いいご縁』の為に学識を拡げようという親の勧めで、15の頃からつい先日まで隣国に留学していたそうだ。…要は、彼の両親も、フラフィーの両親と同じく、地位や権力や影響力に傾倒する者なのだろう。

  フラフィーとは、同じ男爵家の息子、ということもあり、昔から仲が良かったと聞いていた。彼が留学しても、途切れることなくずっと文通を続けていたというくらいだから、なかなかのものだろう。

  …正直、俺の知らないフラフィーを知っている男、という時点で、俺としては多少面白くはない。更に言えば、幼い頃から今も変わらずフラフィーと親しい、というところも、引っかかるところではある。この子と共にいて、この子に心惹かれない者など、存在する筈がないのだから。

  けれど、そんな妻の『親友』を前にしても。俺がまだ平静でいられるのは、…彼が、この子に恋愛感情を抱いていないと、分かっているからだ。

  「フラフィー、妊娠おめでとう。君からの手紙を読んで、すごく驚いたけど、それ以上に嬉しかったよ。早く僕からも、お祝いの言葉を言わせて欲しかったんだ。本当におめでとう」

  

  どこかの国では、アステールとは『星』、と言う意味らしい。その言葉通りに、まるで眩いばかりの笑顔で、アステールがフラフィーの手を取った。まるで当たり前のように自然な行為に、…無意識に、俺の眼が勝手に眇まった。ぴくり、と俺の耳も、勝手に前方へと傾いて揺れる。

  それに気づかれたのだろうか。アステールの青色の眼が、俺をちらりと見遣って、それから笑んだ。あっさりとその手が俺の妻から離れて、その空色の眼が俺へと移る。

  「フラフィーからの手紙には、いつも貴方のことばかり書いてあるんですよ。貴方に初めてお逢いしたという時から、どれだけリジット様が格好良くて凛々しくて素敵な方なのか、ずっと手紙で僕に惚気てくるんです。実は、貴方にもお見せしたくて何通か持ってきているのですが、…リジット様にお見せしてもいい?フラフィー」

  そこまで言うと、揶揄うように眼を細めてアステールがフラフィーを見た。一気に、爆ぜるように真っ赤になった俺の妻が、その言葉に勢いよくぶんぶんと顔を横に振る。その様子で、…彼の言った言葉が嘘ではないと知れた。俺の可愛いこの子が、親友に、…俺のことを、そんな風に伝えてくれていることも。眇まっていた眼が、またも勝手に緩んで、耳が今度は後ろへと揺れた。…我ながら現金なことだ。

  「い、いい訳ないでしょ!リジットさんに見せたら怒るからね!」

  フラフィーが、愛らしい円い目を懸命に三角にして、アステールに怒鳴る。それでも、普段から怒ることなどない俺の妻は、声を大きくしても全く迫力がなかった。それどころか、そんな姿すらも愛らしくて堪らない。

  ただでさえふくふくと柔らかな頬を、更に膨らませるフラフィーの、幼い子どものように可愛らしい怒り姿に。ごめんごめん、と楽しそうに笑うアステールの声を聴きながら、俺も、目元を緩ませた。

  「そうなのか?それは残念だな。お前が、友人に俺のことをどう話してくれているのか、見てみたかったのだが」

  「そ、それなら…あとで、俺がリジットさんにお手紙書くから!」

  アステールの言葉に乗って、俺もそう言ってみる。そんな俺の言葉に、フラフィーが俺を見遣って。…まだ赤い頬のままで、そう言って、また照れたように膨れた。それは楽しみだな、と、その赤い頬をなぞるように、指を這わせれば。今度ははにかんだように笑った俺の愛らしい妻が、その円い目をぎゅう、と細めて俺を見つめる。

  …そんな俺たちを。微笑ましそうに見遣っていたアステールが。ひとつ、咳払いをしてから、言いづらそうに口を開いた。

  「…ところで、その」

  「ああ、奴ならもうじき来るだろう」

  『奴』。彼の問いかけに、その途中で会得して。つい、気兼ねなくそう表してしまった俺に。…目の前のアステールが、その眼の空色を少し濃くして俺を見遣った。…咎めるような、羨望のようなその眼差しを、俺は知っている。ついさっきには、同じ眼差しを、俺が彼に向けていただろう。

  この、目の前の。まるで絵本の王子を思わせる、金髪碧眼も鮮やかな俺の妻の『親友』は。…俺たちの結婚式で見たという、俺の親友のスティケートに、恋をしている、らしい。

  そもそも今日の集まりも。留学も終わって帰国したアステールが、フラフィーの妊娠を祝いたい、と申し出てくれたことがきっかけではあるのだが。アステールをスティケートに紹介する目的も、多分に含んでいる。

  スティケートはもう退役したとはいえ元軍人であるし、彼の家は軍人のなかでも名門だ。そして、アステールはフラフィーと同じく、男爵家の息子になる。が、…この国の貴族の中では、爵位が低い者が、上の者に紹介もなしに声を掛けてはいけない、というしきたりが、暗黙の了解としてあるそうだ。とすれば、男爵家と言う立場の彼では、自分からスティケートに声を掛けることは出来ない、ということになる。

  …俺たち軍人からすれば、そんなしきたりなどどうでも良いのだが。自分も貴族として、そういう世界を嫌と言うほど知っている俺の妻が、『良かったら、アステールに先生を紹介しても良いだろうか』、と俺に相談してきたのだ。勿論、俺もその申し出に異論など無かった。俺の親友は、俺から見てもとても優しく面倒見の良い、『いい奴』で。フラフィーの親友だという彼も、これだけフラフィーが友として慕い、信頼しているのだから、いい人間に違いない。この2人が恋に落ちるにしろ、それが無理だったとしても、少なくともいい出会いになるだろう。

  スティケートが。昔から、俺のことを心配し、心を砕いてくれていたことを、知っている。俺がフラフィーと出逢えた時に、まるで自分のことのように喜び、祝福してくれたことも。

  …たった独りでこの国に来た、俺にとって。…スティケートは、兄のようでもあり、父のようでもあった。もし、俺の家族は、と問われたら、勿論フラフィーと。…それから、スティケートの名も出すだろう。

  何の血の繋がりなど無くても、…この国での彼の存在は、俺にとってそれほどに大きかった。いつだったか、スティケートが、『貴方は子供のようだ』、と称し、俺はそれを笑った。…けれど、それを聞いたとき、本当は嬉しかったんだ。俺が、彼を、…親とも兄とも思っていた様に。彼も、俺をそう思ってくれているのだと。本当に、嬉しかったんだ。

  だからこそ、俺は、俺の親友の幸せを心から願っている。俺が、フラフィーと出逢えたように。この子を、俺の最愛として、ともに在りたいと願ったように。彼にも、…この先の未来を、一緒に歩んでいきたいと。そう、想える相手と出逢って欲しいと。

  今日の出逢いが、スティケートにとって、そうなるかは、分からない。けれど、…少しでも、その助けが出来たらいい。そう思って、俺たちは、今日の場を設けたのだ。

  そんなことを思いながらの、俺の返答に。そうですか、と、眼の空色を僅かに、けれど確かに昏くしながら。そう頷いて、紅茶のカップにアステールが指を伸ばす。それにつられるように、俺も、カップの持ち手もなんとなく摘まんだ。そのまま、カップを口に運ぶ俺の、隣で。そういえば、とフラフィーが、明るい声を上げた。

  「アステールが先生を好きだって言うことは、戴いたお手紙で教えてもらったけど。先生の、どんなところを好きになったの?」

  そう彼に問いかける、屈託のない俺の妻の言葉に、一瞬含んだ紅茶を詰まらせそうになる。ぐ、という音が喉奥から聞こえて、咽そうになるの寸前で堪えた。けれども、張本人であるアステールは、そんなフラフィーの問いかけに、当たり前のように微笑う。

  「どこだろう、全部かな」

  困惑はおろか、照れすらもなく。とても自然な口調で口にした、妻の親友に。聞いているこちらの方が、思わず眼を丸くしてしまった。…これが、惚気というものだろうか。だとすると、もしかして俺もスティケートに、いつもこんな思いをさせていたのだろうか。そんなことを頭の隅で思って、少しだけ彼に済まなく思う。

  そんな俺たちの前で。更にその笑顔を輝かせながら、アステールが言葉を続けた。

  「勿論、僕があの方をお見かけしたのは、君たちの結婚式でだけだし。僕の家も男爵家な上に、僕は留学してたからね、あの一時しか、あの方とご一緒できなかったけれど、…それでも、あの方の素敵さや素晴らしさは充分に伝わったよ。それに」

  

  言いながら、その手が陶器のカップを包む。段々と熱を帯びていく口調は、…彼が、俺の友に恋い焦がれていることを、何よりも如実に表していた。

  「あれほど、優雅で気品があって気高い方だったら、…一目見ただけでも、誰でも恋に落ちると想うんだ。あの方が微笑まれただけで、心が空まで舞い浮かぶようだった。あんな幸福を、僕は今まで味わったなんてなかった。あの優しい笑顔のなかに、…僕が在ることが出来たら、と。そう、想ったんだよ。…願ったんだ」

  そう言って。その空色の眼が、何かを想うように、遠くなる。…スティケートのことを、その出逢いを想っているんだろうということが、こちらにも伝わるようで。…俺のなかにも、この子との出逢いが鮮明に蘇った。あの舞踏会の別室で、この子を初めて見た、あの光景。幸福が詰まったように笑う顔に、眼を、心を奪われた一瞬。あの視界に、俺が映らないかと想ったこと。

  「ですから、あの方と長く一緒に居て、…好きにならない人なんて、いるわけないと思ったのですが」

  俺に言うようで、けれども独り言にも聴こえる口調で呟いてから。…その青い眼が、伺うようにちらりと俺を映す。少し濃く昏くなったその眼差しで、…彼が、何を言いたいのかが手に取るように分かった。思わず、可笑しくなる。…あまりにも、彼と俺が。その思考から、恋に落ちただろう瞬間までも、似ているものだから。

  だとすれば。…彼を安心させることなど、簡単だった。俺が、彼とこの子の信頼関係を知っても、冷静になれたように。…きっと、アステールも。

  「確かに、スティケートは博識で誰にでも優しく、面倒見も良い。俺とは真逆の、とてもいい奴だと思う。…だから、俺は、奴に幸せになって欲しい」

  言いながら、俺の隣に座る、フラフィーの柔らかな手を取った。そのふくふくと滑らかで愛らしい指に、俺の指を這わせれば。…少しだけ不思議そうに、けれど嬉しそうにはにかんで。俺の最愛の妻が、その円い目をぎゅう、と細めて、俺を見遣る。その眼を俺も見つめ返してから、言葉を続けた。

  「俺にとっては、この子こそが、俺の全てだ。この子と出逢えて、妻に出来たことこそ、俺の今生での最高の幸福だ。…スティケートにも、そのような存在ができるといいと、心から思っている。その相手が、…君であればいいと。俺にとってこの子がそうであるように、スティケートにとって、君が。その最愛の存在となることを。…心から、願っている」

  そこまで告げて。眼を細めて、彼を見遣った。疑惑を含んで仄かに昏くなっていた彼の眼が、鮮やかに明るい空色に戻る。そのまま笑んだ妻の親友の顔は、眩いほどの笑顔だった。

  「有難う御座います、リジット様。…僕も、あの方にとって、そうなれたらいいな、と思います」

  そう言って、座ったままで、それでも優雅に彼が俺に頭を下げる。その顔を上げて、もう一度彼が、俺たちに微笑んだ時。…こんこん、とドアがノックされた。

  彼にとっては待ち侘びた瞬間だろう。反射というべき速さで、アステールが姿勢を正した。それと同時に、どうぞ、とフラフィーの明るい声が、部屋に響いて。一拍置いて、ドアが開いた。前に立つメイドが俺たちに一礼をして、口を開く。

  「スティケート様がいらっしゃいました」

  その一言で、…アステールの顔が、一段と輝いた。思わず眼を見張る俺と、嬉しそうに細めたフラフィーの円い目が合う。…同時に笑い合う俺たちの前に、当の本人が姿を現した。

  「すみません、遅くなりました。ごきげんよう、リジット、フラフィー」

  そう言って、部屋に足を踏み入れたスティケートが、アステールの姿を認めて目を細める。スティケートにも、アステールも招いていることは了承済みだ。勿論、彼がスティケートに焦がれている話はしていないが。

  そのまま、スティケートがアステールの前へと歩み寄った。彼の方も、今にも駆けだしそうな勢いで、その場に立ち上がる。それでも、椅子の音を立てなかったのは、流石と言うべきか。そんな2人を見遣りながら、フラフィーがにこにこ笑った。

  「スティケート先生、紹介しますね!俺の親友の、アステールです。アステール、こちらはリジットさんのお友達で、俺の家庭教師をしてくださってるスティケート先生だよ」

  フラフィーの言葉に、2人の視線が見つめ合うように交わる。ただそれだけで、アステールの喜びが、こちらにまで伝わってくるようだった。

  「お久しぶりです。この2人の結婚式でお逢いしましたよね?フラフィーから、貴方のお話は兼ねがね伺っておりました。お逢いできて光栄です」

  「こちらこそ!貴方のお姿を、結婚式で拝見してから、ずっとゆっくりお話しさせて頂きたいと思っておりました。今日、お逢いできて大変嬉しく思います」

  言いながら、アステールがスティケートに向かって両手を差し出す。それに気づいたスティケートも、笑いながら手を差し出した。それを、両手で握ったアステールが、溶けるように相好を崩す。きらきらとした青い眼が、一層輝いてスティケートを見つめていた。

  …その眼差しだけで、スティケートにはもう恋慕の情がばれているのではないだろうか。実際、彼のそのある種の勢いに、スティケートは圧倒されているようだった。向けられている好意に、どう応えていいのか分からないように、その垂れ耳が僅かに揺れる。…そう言えば、スティケートの浮いた話など、もう付き合いも随分長いが聞いたことがない。

  「先生、どうぞ座ってください。えっと、アステールの隣でいいですか?」

  「ええ、勿論」

  フラフィーの促す言葉に、スティケートが頷く。そのまま席へと向かうスティケートの手を、アステールがまた、取った。

  「スティケート様。宜しければ、僕にエスコートさせてください」

  そう言って、恭しく、優雅にアステールが一礼する。少しだけ驚いたような顔をしたスティケートが、苦笑しながら彼を見た。頭を上げたアステールが、スティケートのその顔に、それでも輝かんばかりに破顔する。…その気持ちは、痛いほどに分かった。『最愛の者の視界に映っている』。その幸福が、彼の全身から溢れているようだ。

  「エスコートと言っても、たったの数歩ですよ?」

  「その数歩でも、貴方の手を取って歩きたいのです。…如何でしょうか、僕にその栄誉をお許しいただけますか?」

  王子然としたその顔が、真っ直ぐにスティケートを見つめる。何の計算もないように、懸命な表情。数秒、見詰め合ってから、…ふう、と。観念したように息を吐いたのは、俺の親友の方だった。

  「それでしたら、お任せしましょう。どうぞ、よろしくお願い致します」

  言いながら、スティケートが微笑んだ。モノクルの奥の目も、柔らかく細められる。その顔に、…彼の目の前で、アステールの頬が紅潮する。青い眼が見開かれて、…それから、溶けるように幸せそうに、その整った顔が笑み崩れた。

  …ああ、と心のなかで、声を漏らす。俺が、フラフィーを娶りにその屋敷を訪れた日に、…この子が俺に向かって笑ってくれた、幸せそうな笑顔が鮮明に浮かんだ。あの時、改めて俺が、この子に恋に落ちた、あの瞬間。…彼にとっては、それが、今なのだろう。

  …俺が、この子に恋に落ちたように。彼が今、スティケートに対して、改めて恋に落ちているように。

  少しでも、スティケートも。彼にして、恋に落ちるといい。

  俺と、真逆のようで。…その実、俺とよく似ているように思える、俺の最愛の妻の『親友』に。思わず感情移入してしまう俺を、自覚しながら。

  俺の隣で、嬉しそうに2人を見遣っている、可愛い妻の。その柔らかな手を優しく握って、口元を緩めた。

  博識で面倒見がよく優しい、俺の自慢の親友に。彼を心から想う『夫』ができるのも、もうすぐのようだった。

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