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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【35】

  腕の中で。みゅうみゅうと泣く、リジットさんと俺の子を。時間が経つのも忘れて、見つめて過ごす。

  今日も。寝室のベッドの上で、俺たちの子どもを抱っこして。その寝顔を、俺といてくれるメイドさんと一緒に、見つめた。

  生まれて一週間経った俺たちの子は、まだ目こそ開いていないけれど。それでも、一週間前からは見違えるほど、大きくなった。産まれたときは、俺の両手に乗ってしまうんじゃないか、ってほどに小さかったのに。…あっという間に大きくなって、もう両手なんかじゃ収まらない。もしかしたら、人間の赤ちゃんくらいに大きくなってるんじゃないだろうか。

  最初はピンク色の膚に、薄っすらと黒色の獣毛が見えているようだった身体も。すっかり柔らかな獣毛に覆われて、すごくふわふわになったし。鼻も彼に似て、黒くて格好良くなったし、耳も、その先端は少し垂れてるものの、綺麗な黒色に覆われている。綺麗なピンク色だった肉球も、その外見は黒色に変わっていた。でも、まだ這ったり立ったりは勿論できないから、肉球の感触は柔らかくてぷにぷにだけど。

  「…やっぱり、リジットさんに似てるよね」

  顔を緩ませながら、誰にともなく口にする。全身を、綺麗でふわふわな黒色の獣毛に包まれた俺たちの子は、…まるでリジットさんのミニチュアのように、彼によく似ていた。目こそまだ開いてないけど、その目もきっと、彼に似て綺麗な琥珀色なんだろう。…そうだといいな。そんな、願いもこもった俺の言葉を拾うように、隣にいるメイドさんが、力強く頷いてくれた。

  「はい、とっても!きっと、旦那様に似て、とても凛々しく精悍な男の子になられると思いますわ!」

  拳まで握って、そう同意してくれるメイドさんに、俺の顔もますます笑み崩れる。やっぱりそうだよね!って声を弾ませる俺に、メイドさんも嬉しそうに笑ってくれて、…それが、更に俺の顔を緩ませた。

  

  あっという間に、ふわふわの獣毛に覆われるくらいに大きくなった、俺たちの子だけど。這ったりできるようになるには、やっぱりまだ少し時間が掛かるらしい。そうできるようになるのは、だいたい生後3週間くらいからだそうで。それまでは、ごはんとおむつ以外には、ずっと寝て過ごすものなんだって。それでも、人間の子に比べたら、やっぱりかなり早い成長スピードなんだけど。

  だから今は、お包みに包んだこの子を両腕に抱っこして、日々を過ごしている。勿論、よく眠ってるときには、ベビーベッドに寝かせたり、俺たちのベッドに寝かせたりもするけど。やっぱり、自分で抱っこしてる方が、自分でも安心できるし。何より、日に日に大きく、重くなっているこの子の成長を、膚で感じられるから。…そのほうが、俺が嬉しくて、すごく幸せなんだ。

  

  日中は、メイドさんたちが入れ替わりに一緒にいてくれたりもするし、夜はリジットさんが一緒にいてくれるから、俺もこの子も寂しくなんてない。この子を抱っこしながらメイドさんたちと一緒に庭園を散歩したり、寝室でこの子を見ているだけでも楽しくて、あっという間に一日が過ぎてしまう。メイドさんたちは、どうやら俺たちと一緒にいてくれる時間、って言うのを交換で決めているらしくて、代わるときにはものすごく名残惜しそうな顔をしてくれる。『あ~っ!もっと坊ちゃまと奥さまと一緒に居たい~っ!』って、俺と年の近いメイドさんがいつも言ってくれるのが、すごく嬉しくって、擽ったい。

  このお屋敷に勤めてくれている使用人さんたちはリジットさんと同年代か、プラスマイナス5歳くらいのひとがほとんどで、まだ独身のひとも多い。だからだろうか、…リジットさんは、乳母さんをお屋敷に招いて、みんなに『新生児をお世話するには』という講習まで開いてくれた。勿論、それには俺も、…リジットさんも、お仕事で忙しいのに、参加してくれて。おかげで、このお屋敷にいるみんな、お世話する基本的なことは身に着いた。特におむつ替えは、布おむつに手間取ってしまって、みんなでああでもないこうでもない、って言いながら覚えたのも、いい思い出だ。

  …本当なら、例えば乳母さんに講習を開いてもらうんじゃなくて、そのまま乳母さんに、俺のお手伝いに来てもらうことも出来たんだと思う。でも、…お屋敷のみんなが、『乳母を雇うのではなく、自分たちが坊ちゃまのお世話のお手伝いをしたい』、ってリジットさんに申し出てくれたんだって。…それを聞いたときには、嬉しくて泣いてしまった。俺は、自分の家では、…実の両親にも、メイドさんたちにも、誰にも振り向いてもらえなかったけど。今は、こんなに俺と、俺たちの子を想ってくれるひとたちに、出逢うことが出来たんだな、って。…彼の子を授けてもらえるくらいに、こんなに俺を愛してくれる旦那さまと、出逢うことが出来たんだな、って。

  リジットさんと、出逢えたことで。リジットさんが、俺を、彼のお嫁さんにしてくれたことで。俺の世界は、とてもあたたかくて、とびきり優しい幸せに彩られて、満ち溢れてる。それを感じるたびに、…俺も、彼に。俺が彼からもらった以上に、俺が、彼を幸せにしたいって。…こころから、そう、想うんだ。

  そんなことを、噛み締めるように想う俺の、耳に。壁掛け時計が、3つ、時を打ち鳴らす音が、響いて聴こえた。その音に、笑顔でこの子を見遣っていたメイドさんが、あ、と小さく声を上げる。

  「…あら、もうこんな時間。奥さま、坊ちゃま、名残惜しいですがそろそろ屋敷の仕事に戻りますね。なにかありましたら、遠慮なく私たちをお呼びください」

  そう言って、言葉通りに名残惜し気な顔でメイドさんが立ち上がった。そのまま俺たちに一礼したメイドさんが、後ろ髪を引かれるように振り返りつつ寝室から出て行く。その姿を、お礼を言いながらベッドの上から見送って。腕の中で小さな、小さな寝息を立てる可愛い息子をまた、見つめた。

  ふわふわと柔らかい、生えたての獣毛をそうっと指でなぞれば。みゅう、と小さな声を上げて、同じように小さな手を、微かに動かす。その様さえ、可愛くて堪らない。

  「やっぱりロバストの目は、リジットさんみたいな…お父さんみたいな綺麗な琥珀色なのかな?お父さんは世界一格好良いから、お父さんに似てたらロバストも嬉しいよねぇ!」

  

  小さな声でそう話しかけながら、ふわふわの獣毛を、また指で優しく撫ぜる。産まれた時よりは大きくなったけれど、まだまだ壊れそうに小さな指が、俺の指をきゅう、と握った。…その小さな指からは思いつかない程強い力に、俺の顔が笑み崩れる。まだ柔らかな、ぷにぷにの肉球の感触が更に可愛くて、心地好い。

  ロバスト、っていう名前は、リジットさんとたくさん話して決めた。どんな名前がいいかな、って、産まれたこの子を挟んで見つめ合って。リジットさんの名前をもじったり、俺の名前を組み替えたり、綺麗な響きの名前やいい意味を持つ名前や、…そんないろんな名前を出した、そのあとで。

  『…この子が元気で健康なら、それでいい』

  そう、この子を見つめて、噛み締めるように言った、リジットさんのその、言葉で。…そういう意味を持つ、ロバストって名前に決めた。『逞しい』、とか、『元気』、とか、『壮健』、とか。そういう、健康に育ってくれるように、願いを込めた名前。いろんなことを思って、いろんな名前を出したけど。…やっぱりリジットさんも俺も、願うのはそのひとつだから。

  『この子が、元気で健やかに、大きくなりますように』

  そう、願って。ロバストって名前をつけた。…今では、この子に一番似合う名前は、これだった、って確信してる。…リジットさんと少し名前も似てるし、って、そこも気に入ってるのは、俺だけの秘密だ。

  そんなことを思い返しながら、口元を緩める俺の、腕の中で。淡い声で、みゅうみゅうとロバストが声を上げた。産まれた時よりも、大分大きくなった、ロバストの泣き声。最近は、その泣き方で、おなかがすいたのか、おむつを替えるのか、なんとなく分かるようになってきていた。…この泣き方は、ごはんかな。

  「どうしたの?おなかすいたかな」

  声を掛けながら、服をたくし上げて右胸を出した。俺のただでさえ厚かった胸脂肪は、…身体が造り替わったときに、母乳が出るようになったからか少し大きくなって。それから、この子を産んで、また更に少し大きくなった。前よりも、母乳が出る量が多くなったからだろうか。今では、この子が泣くだけで、胸が張って乳首から母乳が滲むようになった。時には服が濡れるくらいに零れてしまうこともある。

  この子が咥えやすいようにだろうか、何もしなくてもぷくりと大きくなっている乳首を、その小さな口が吸い付くように銜える。そのままちゅうちゅうと、小さな身体で一生懸命におっぱいを飲む息子の姿にに、零れるように笑みが浮かんだ。…ああ、可愛いなあ。なんて可愛いんだろう、俺たちの子は!まだ開かない目が、それでも俺を見上げるように上を向いたような気がして、…彼の顔を覗き込みながら、幸せで胸がいっぱいになる。

  「おなかいっぱいになった?ふふ、いっぱい飲めたね」

  口から乳首を離したロバストが、またおとなしく眠りにつく。俺も、たくし上げた服を戻しながら、その寝顔を飽かずに眺めた。まだ生えたての、ふわふわの獣毛は、何度触っても心地が好い。…リジットさんみたいな、少し硬めの、ふかふかの獣毛になるのは、もう少し先かな。それが待ち遠しいような、まだこのふわふわのままでいて欲しいような気持ちで、眠っている俺たちの子を、何度も撫ぜた。

  それから、おとなしく眠っているロバストにつられて、…俺も、彼を抱っこしたまま、少しうとうとしてしまったらしい。

  こんこん、とドアをノックする音がして。その音に、はっと目が覚める。ぶんぶんと頭を振って眠気を覚ます俺の、視界の端で。かちゃり、と静かにドアが開いた。

  「今帰った。…変わりはないか?」

  「リジットさん、おかえりなさい!」

  そこから覗いた、俺の大好きな旦那さまの顔に、弾かれたように彼の方を向く。満面の笑顔を自然と顔に浮かべながら、抱いたままのロバストを落とさないように、片手だけをリジットさんに伸ばした。そんな俺を片手で抱きしめてくれながら、もう片方の大きな手が、ロバストのふわふわの獣毛を撫ぜる。

  「ロバストはね、今日もいい子だったよ」

  「…そうか。偉かったな」

  優しい声と一緒に。彼の手が、ロバストの小さな頬を、指の先でゆっくりと撫ぜる。それにだろうか、ロバストの小さな紅葉みたいな手が、何かを掴むようにきゅ、と握られた。

  「褒められたのが分かったのかな?」

  笑いながらそう言うと、リジットさんも優しく眼を細めて、…俺とロバストを見遣る。初めて逢った時から、ずっと俺に向けてくれている、俺の大好きなリジットさんの優しい眼差し。…その眼が、この一週間で、更に優しく、力強くなったことを、俺は知っていた。リジットさんが、この一週間で、…すっかり、『お父さん』の顔になってることにも。

  リジットさんは、自分では気づいてないかもしれないけど。…でも、俺には分るんだ。だって、俺が世界で一番、リジットさんのこと大好きで、彼のことを一番よく見てるから。

  俺は、…リジットさんが、その優しくて力強い眼で。俺とロバストを見つめてくれる、そのあたたかくて格好良い、…優しい顔が、とても、好きだ。

  今日も。その優しい眼が、俺たちに注がれることに、こころが蕩けそうになりながら、彼を見つめる。…俺の視に気づいたのが、リジットさんが俺を見遣って、また眼を細めた。それに、頬が熱くなるのを感じながら、俺も彼に笑い返した。

  「あ、ロバスト抱っこする?」

  「ああ」

  最初は、ロバストを抱っこすることに。『俺が抱いたら、壊してしまうかもしれない』、って、すごく躊躇っていたリジットさんも。この一週間で、すごく抱っこが上手になった。もう躊躇うこともなく、優しい手つきでロバストを俺の腕から受け取って、その胸に抱いてくれる。

  愛おしそうな眼が、ロバストに優しく注がれて。大きな腕の中で、ロバストは安心しきったように眠っている。俺たちの子を見つめるリジットさんの顔は、…何処までも優しく、格好良くて。俺は、そんな2人を見つめながら、泣きたいくらいの幸せに満たされる。

  みゅうみゅうと、また淡い声をロバストが上げた。…この泣き方は、おなかの減ってる声だ。少しだけ困ったように、リジットさんの顔が俺に向いた。やっぱり、こうやって泣かれると、リジットさんはまだ少し狼狽えてしまうらしい。俺は、いつも格好良くて凛々しくて力強くて、いつだって頼りになるリジットさんの、…あまり俺には見せてくれないこんな一面が見られるこの一瞬も、とても好きだ。少しだけ困ったような、彼には珍しい、少しだけ頼りなげな表情。…その顔が、すごく格好良くて、ちょっと可愛い、って言ったら、リジットさんは怒るかな?なんて、…こんなことを俺が想ってるっていうのも、リジットさんには秘密だけど。

  「おなかすいたのかな?おっぱい飲んだの、少し前だもんね」

  言いながら、彼の手から俺たちの子を受け取った。ベッドに座ったまま、さっきみたいに右胸だけたくし上げる。…そこに、彼の視線を感じて、少しだけ身体が熱くなった。

  リジットさんは、…何故だか、俺がロバストにおっぱいをあげるところを見るのが、好き?らしい。いや、好きっていうか、なんだろう、興味深い?の、かな?でも、俺がロバストに授乳するたびに、彼の強い視線を感じるから、多分そうなんだと思う。

  俺は、リジットさんになら見られたって全然構わないし、彼が見たいならいくらだって見て欲しいんだけど。…でも、やっぱりちょっと、彼に見つめられると、恥ずかしい。

  今も、ちゅう、とロバストの小さい口が、俺の乳首に吸い付くのを感じながら。彼の視線を一身に受けて、人知れず赤くなる。…授乳してるところがどう、っていうんじゃなくて。…彼に凝視されること自体が、俺には、…すごく嬉しくって、でも、恥ずかしくて、照れてしまうことだから。彼の視線を感じるだけで、俺の身体は熱くなってしまうんだ。

  赤くなってしまうのを隠すように、顔ごと伏せてロバストを見つめる。ちゅうちゅうと、懸命に俺のおっぱいを吸う俺たちの子に、自然と笑みがまた、零れた。

  そんな俺に、…彼の手が伸びて。おっぱいを飲んでるロバストごと、俺を抱っこしてくれるように、彼の膝に抱えあげられる。後ろから彼の手が俺に回って、身体が彼へと寄せられた。俺の頬に

  触れるほどの近くに、彼の顔が寄せられて、掠める獣毛が少しだけ擽ったい。でも、俺を包んでくれるそのあったかいぬくもりが、堪らなく心地好かった。

  そのまま、俺に顔を寄せながら。リジットさんが、おっぱいを飲むロバストを、凝視するように見つめる。…ロバストは、これだけリジットさんに凝視されていても、全く気にならないのか。元気に俺のおっぱいをちゅうちゅうと吸っていた。…これは、この子は大物になるんじゃないのかな、なんて、そんなことを思って小さく笑う。俺と言えば、彼に見つめられていることに、心臓飛びが跳ねて仕方ないって言うのに!

  それでも、…彼に見つめられるのは、例え授乳中でも、すごく嬉しいから。やっぱり『見ないで』、なんて言えずに、彼に見つめられるまま、何でもないふりをしてロバストにおっぱいをあげる。それでも、顔がどんどん熱くなってしまうのだけは、止められない。…俺の頬に、彼の頬の獣毛がふかふかと触れて、それだけで頬が緩んだ。

  ちゅう、と最後に乳首を吸ってから、ロバストの小さな口が、乳首から離れる。露になった乳首に、リジットさんの視線が一層強くなった気がした。…それに、ますます頬を熱くしてしまいながら、たくし上げていた右胸の服を元に戻す。ロバストは、おなかがいっぱいになったのか、俺の腕の中で、また可愛らしく眠りについていた。

  「また寝ちゃった」

  小声で、すぐ真横にあるリジットさんの顔に、リジットさんに笑いながら小さく囁く。それに応えるように、リジットさんの眼が、俺を見つめて優しく細められた。…そんなリジットさんに、さっきから熱く火照る頬が、更に熱を持つ。俺の頭を撫ぜるように、彼の手が、俺の髪を滑って、それから。

  「もっと俺に寄り掛かるといい」

  言いながら、リジットさんの腕が、俺の腕へと重ねられた。まるで、一緒にロバストを抱っこしてるみたいな体勢。それが嬉しくて、俺の顔は更に笑み崩れてしまう。

  笑いながら彼を見上げれば、優しく俺を見つめてくれる眼と、視線がぶつかって。…そのまま、優しく唇が重ねられた。触れるだけの優しいキスに、うっとりと目を閉じる。

  そのまま。メイドさんが、『お食事の支度が出来ております』、って俺たちを呼びに来てくれるまで。ロバストを腕に抱いて、リジットさんに抱っこされる体勢のまま。彼の腕の中で、溢れるような幸福に、身を浸した。

  もう少ししたら、この子も更に大きくなって。たくさん動くようになって、ずっと抱っこしていられなくなるんだろう。…だから、今だけは、って想いながら。

  俺の、世界一大好きな旦那さまに抱っこしてもらったまま。世界一可愛い俺たちの息子を、大事に、大切に胸に抱いた。

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