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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【37-1】
本来より、一か月くらい遅いけど。うちでも、『ハロウィン』をやってみた。
「リジットさん、おかえりなさい!」
今日も。エントランスで、俺の大好きな旦那さまを出迎える。勿論ロバストも抱っこして、一緒にお父さんをお出迎えだ。いつも、俺と一緒に彼を出迎えてくれるメイドさんたちも、俺たちの少し後ろで綺麗にお辞儀をしてくれている。
いつもの光景。…だけど、リジットさんが綺麗な琥珀色の眼を少しだけ見開いて、俺たちを見詰めていた。その眼が何度か瞬きをして、それから可笑しそうに細められる。薄っすらと上がる口角に、俺の口も思わず緩んだ。
「…一体、これはどうしたんだ?」
彼の言葉に、俺の顔がますます緩む。自然と上がってしまう口元もそのままに、『せーの』、って大きく口にした。後ろで、メイドさんたちの息を吸う音が、微かに聴こえて。
「ハッピーハロウィン!」
大声で口にしたその一言が、エントランスに賑やかに響く。呆気にとられたようなリジットさんが、それでも可笑しそうに相好を崩して。…その顔が嬉しくて、俺も、満面に笑顔を浮かべて、彼を見つめた。
きっかけは、数日前にメイドさんのひとりが街で買ってきてくれた、っていう、子ども用のかぼちゃパンツだった。
おむつの上から履けるもので、橙色にカボチャのようなプリーツが入ってて、お尻のところにジャック・オー・ランタンのような三角の眼や口が書いてある、可愛いパンツ。ハロウィンの売れ残りだったのか、それとも可愛いからいつも売っているのか分からないけど。街の洋品店で見つけて、つい買ってきてしまいました!って、メイドさんが目を輝かせて持ってきてくれて。『これを坊ちゃまにぜひ!』って、すごく楽しそうに俺に渡してくれたものだから、俺もすごく嬉しくなってしまって。それなら、って急遽ハロウィンをやろうと決めた。
超特急でそれに似合うような衣装や、かぼちゃを使ったお菓子もをみんなでつくって。もうハロウィンも終わって久しいけど、逆にそういうものの売れ残りが、安く手に入るんですよ!ってメイドさんが言ってくれたから。街に行くついでにでも、なにかいい衣装があったら見てきて、ってお願いもして。
最終的に、準備ができたのが今日の昼間。俺は紺色で三角の大きな、魔女の被るような帽子に、同じ色のワンピース。…のはずが、俺の横に太い体型で、大分上に丈が上がってしまったので。その下に、やっぱり紺色のかぼちゃパンツ?を履いた。それでも、そのパンツも太腿が半分以上見えてしまってるくらいに丈が短いから、太腿まで隠れるような大分長い靴下を履いて、足を覆っている。…だって寒いんだもん。
ロバストは橙のかぼちゃパンツと、それとお揃いの、橙色のジャック・オー・ランタンの帽子。その帽子には、俺の魔女帽子を小さくしたような三角帽子も被せた。橙色が、ロバストのふわふわで黒色の獣毛に鮮やかに映えて、とっても可愛い。…って思うのは、親のひいき目だけじゃないはず!だって、メイドさんたちもロバストを見て、『坊ちゃま可愛い!世界一可愛い!』って言ってくれてたし!…あれ、これはメイドさんたちの贔屓目ってことなんだろうか。まあいいや!だってロバストが可愛いのは本当だし!
そんなメイドさんたちは、みんなでお揃いの、お化けメイドの格好をしている。…お化けメイドってなに!?って思ったんだけど、お化粧の道具で傷とかをリアルに描いて、死人が復活したみたいにしたんだって。…あんまり怖くしないでね、って最初にお願いしたからだろうか。そのメイクもデフォルメしてあって、少しだけ怖いけどとても可愛らしい。…だって俺、そういうの苦手なんだもの!
それとは対照的に、門番さんや馬丁さんたちの男性陣は、『シーツ被って幽霊やります』とか、『包帯を適当に巻いてミイラ男やります』って話だった。…男のひとは、あんまりこういうの好きじゃないのかな?いや、俺も男なんだけど!…でも、それでも楽しそうに、俺たちの話に乗ってくれるんだから、やっぱりみんな優しいなあ。そんなことを思いながら、ドアを開けて入ってきた彼らを見遣った。その話通りに、馬丁さんは古いシーツに三角の眼と口を描いたものを被って、門番さんと庭師さんはお揃いのミイラ男。リジットさんを迎えに行く馬車の運転や、外でのお出迎えのときはこの格好をしていなかったから、帰ってきてからすぐに用意してくれたんだろう。…そうか、少しでも早く仮装できるように、この格好だったのかな。
そう思いながら、みんなを見遣って顔が緩みっ放しの俺に。リジットさんが、眼を細めたまま俺の頬に指を伸ばした。いつの間にか手袋の外されたその指が、俺の頬を優しく撫ぜる。
「随分可愛らしい格好をしているな。今日は、いったいどうしたんだ?」
俺の頬を撫ぜてから、その指がロバストに移る。そのまま、ロバストを、俺の代わりに抱っこしてくれる、リジットさんの力強くて優しい腕。俺も目を細めて、その腕に俺たちの息子を託しながら、彼の問いに弾む声で答えた
「ハロウィンだよ!本当は、10月の終わりなんだけど、…楽しそうだから、今日やってみたんだ!」
笑顔でそう言う俺に、彼も口角を上げながら、そうか、って頷く。彼の片腕に抱っこされたロバストは、安心しきったようにその腕で小さく欠伸をしている。そんなロバストを、リジットさんの指が優しく撫ぜて。それが擽ったかったのか、ロバストが、その大きな琥珀色の眼をきゅっと細めた。…ああ、やっぱりリジットさんによく似てる。その光景に、幸せで胸が詰まりそうになりながら、彼を見上げた。
「さっきも、ハッピーハロウィンと、そう言っていたな。…ハロウィンとは、何かの祭りなのか?」
彼にそう聞かれて、あ、そうかって喉奥で呟いた。この国には、獣人と人間が一緒に存在してるけど、その暮らしはあまり交わってない。この国の獣人の方は、ほとんどが王城に勤める軍人っていうのもあるんだろう。だから、こういう人間のお祭りとか、文化とか、リジットさんは知らないことも多かった。ハロウィンも、そのひとつなんだろう。それに思い至って、彼に向かって大きく頷く。
「うん!確か、秋の収穫祭だったかな?あとは、悪霊が来ないように、って意味もあったと思うけど、今はみんなで仮装して楽しむお祭りみたいになってるんだよ。あ、でも、おばけや悪霊の格好をするのは、悪霊が来ないように、っていうことの名残なのかな?それでね、みんなで『トリックオアトリート』って言って、お菓子をもらったり、もらえないときは悪戯したりするんだ」
俺も、正直ハロウィンの由来ってよく知らない。だから、すごく曖昧な説明になってしまったけど。それでもリジットさんは納得してくれたように、『そうか』、ってまた笑って頷いてくれた。
「だから皆、そんな恰好をしているのか。…正直、少々驚いた」
リジットさんの言葉に、思わず『やった!』と声を上げてしまった。やった!リジットさんを驚かせるのに成功した!そんな俺に、リジットさんがますます可笑しそうにその眼を細める。
「…なんだ、俺を驚かせたかったのか?」
「そうだよ!リジットさんに驚いて欲しくて、内緒でこの衣装も用意したの。リジットさんの衣装もあるんだよ!」
俺がそう言うと。それを見計らったように、メイドさんが、後ろから、光沢のある黒色の布包を渡してくれる。それを有難う、って受け取りながら、彼に改めて向かい合った。
「リジットさんはね、この衣装だよ!良かったら着てね」
そう言って彼に渡したのは、光沢のある黒色の生地で作成した、真っ黒くて長めのマント。裏地にはやっぱり光沢のある赤色の生地を使って、襟のところが立つ仕様で、りぼんではなくチェーンのような留め具でマントを留めている。丈を長めにしただけあって、普通に着るだけでも、全身がマントに隠れてしまうほどだ。…彼が着てくれたら、絶対に格好良い!
俺の差し出したマントを見て、彼が不思議そうに眼を眇めた。その黒色を少し見つめて、それから視線が俺に移る。
「…一体、これは、何の仮装になるんだ?」
「吸血鬼だよ」
彼にそう問いかけられて、笑いながらそう答えた。俺の返答に、彼が更に不思議そうに首を傾げて、耳を揺らす。…あ、もしかして吸血鬼も知らないのかな?そうか、吸血鬼とかって人間の世界の言い伝えとか、物語だものね。そう思って、俺の知ってるだけの知識を彼に伝えた。…と言っても、俺もあんまり詳しいわけじゃないんだけど。怖い話は苦手だから。
「ええとね、人間の生き血を啜ってずっと生きる、吸血鬼って存在の言い伝えがあるんだよ。血を吸われた人も吸血鬼になっちゃうとか、何をされても死なないけど、おひさまの光で消滅するとか、銀の銃弾を心臓に打ち込まれると死ぬとか、十字架が苦手とか、いろんなお話があるんだよ。あくまで言い伝えで、本当にいる存在じゃないんだけど、昔からすごく人気があるんだ」
他にどんなお話があったかな。頭のなかに、俺の知ってる知識を総動員しながら、彼にそう説明する。それを聞きながら、リジットさんがますます不思議そうな顔をした。
「…それを、俺が仮装するのか?」
「だって吸血鬼って、格好良いのが定説なんだよ!そしたら、リジットさんしかいないでしょう?だってリジットさんは世界一格好良いんだから!」
彼の問いかけに、思わず手を大きく振りながら、そう力説してしまう。どの物語でも、吸血鬼、というひと?は男女ともに美形に書かれている…らしい。俺は、怖いお話が苦手だから、吸血鬼の物語は読んだことがないけれど。それでも、表紙を飾る吸血鬼らしい肖像は、確かにどの作品も格好良かった。だからだろう、ハロウィンの仮装でも、吸血鬼は一番人気だし、道を歩く人たちもみんな格好良く美しいって、メイドさんたちが言っていた。
…それなら、吸血鬼の仮装は、絶対にリジットさんしかいないじゃないか!お屋敷のみんなにも、そう力説してしまう俺に、否を言うひとは誰も居なくて。めでたく、リジットさんにしてもらう仮装は、満場一致で吸血鬼に決まったんだ。
…でも、確かにそれは、リジットさんがいないときに、俺たちが勝手に決めてしまったものだし。もしかして、リジットさんはそういう、仮装とか自分がするのは嫌だったかな?もし、リジットさんが嫌なら、勿論無理強いする気なんてないけど。…でも。やっぱり、少しだけ見てみたい。リジットさんが、このマントを羽織ってくれるところ。だって、…絶対格好良いに決まってるから。
「…あの、だめ?」
伏せてしまいそうになる顔で、それでも目だけは上げて彼を見つめた。自然と眉が下がってしまうのを自覚しながら、上目で彼を息を飲んで見遣る。…そんな俺に、リジットさんが、ふって息だけで笑った。その眼が蕩けるように優しく細められて、俺を見つめ返してくれる。
「駄目な筈がないだろう。誰よりも愛しいお前に、そんな風に愛らしくねだられて俺が断れる訳もない」
そんなことを、眼と同じほどに蕩けるような甘い声で囁かれて。一気に熱の上がってしまった俺に、貸してみろ、ってリジットさんがその光沢のある黒色を受け取ってくれる。でも、リジットさんは今、片手にロバストを抱っこしてくれてるから、『俺がやるよ!』って、彼にマントを羽織ってもらうのを手伝った。
艶のある黒色が、軍服の上から彼を覆う。軍服の硬質な黒色とも、彼の獣毛の艶やかで、けれどあたたかな黒色ともまた違うその色は、けれど彼によく映えた。前の部分をチェーンについているピンで留めて、手を離す。…裏地の赤色をはためかせながら、マントが彼の踝まで覆った。メイドさんから、感嘆のようなため息が漏れるのが、エントランスに微かに響いた。
「…如何だ?」
「かっこいい!」
彼の問いかけに被さる勢いで、彼に大きな声でそう返した。かっこいい!ほんとにリジットさんは格好良い!思わず両手を口元のあたりで組んで、大きく跳ねた。頭に被った魔女帽子が大きく傾いで、慌てて帽子のつばを両手で掴む。頬が上気してるのが、熱くなる感触で分かった。…こんなマント一つで、こんなに格好良いなんて!その腕に、ジャックオランタンのロバストが抱っこされてるのが、ますます可愛くって、格好良い。ああ、俺たちの息子は世界一可愛い!そして俺の旦那さまは、やっぱり世界一格好良いなあ!そんなことを全力で想いながら、彼を見つめた。顔が緩むを越して、崩れていくのが止められない。
「すごいよ、リジットさんすごく格好良い!」
帽子のつばを掴んだまま、その場で飛び跳ねて彼にその感動を伝える。俺の様子に呆れることなく、蕩けるような優しい眼のまま、見つめ返してくれていたリジットさんが、少しだけ照れたように口元をほころばせた。…そんな顔にさえ、心臓がぎゅうっと掴まれるように高鳴ってしまう。顔が更に熱くなるのがやっぱり止められなくて、俺まで照れたように、彼に向かってはにかみ返した。
「あ、あのね、今日のご飯もね、ハロウィン仕様なんだよ!」
みんなで、味も美味しくて、外見も可愛くなるように頑張ったんだよ!はやくご飯にしようね、あっでもその前に軍服を着替えなきゃだよね!そんなことを、照れ隠しのように矢継ぎ早に言いながら、空いている方の彼の手を両手で掴む。…そんな俺に、身を屈めてリジットさんが、その顔を俺へと寄せた。
「皆面白く興味深い格好だが、…やはり、お前が一番愛らしく、肉感的だな。そろそろ、…俺は期待してもいいのだろうか?」
いつもよりも、幾分も低くて、甘い声。その声で囁かれたその言葉に、…爆ぜるように、全身に熱が回った。それは、…久しぶりに、俺が彼に愛してもらうことを、意味していた。彼は、そうとは言わなかったけど、その声の甘さで分かる。ロバストを授かってから、暫く、彼を受け入れることのなかった俺のお尻が、彼の熱さを思い出すようにじゅん、と疼いた。
ロバストを産んで、一月と少し。でも、もう俺の身体は産後を越して、前と同じに戻っていた。ロバストも更に大きくなって、人間の赤ちゃんで言うと生後3、4か月くらいにはなるらしい。
勿論、ロバストのご飯はまだ母乳で、夜中もおっぱいを欲しがるんだけど。今後、ロバストを連れていけないところに夫婦でお呼ばれされる可能性あるから、って言うことで、生後一月に少し前くらいから、母乳以外にもミルクを飲ませる練習をしていた。…もちろん、ロバストと一緒に行けないところには、なるべく行かない方向で考えてはいるけれど、…どうしても、お断りできないご招待も、存在するから。
だから、夜に俺の手から離れて、メイドさんたちと過ごす練習も、同時にしていて。もう既に2度ほど、ロバストは、夜にメイドさんたちだけで過ごしている。すごくいい子で、ミルクでも美味しそうに飲んでるし、安心だって、彼女たちから教えてもらった。…きっと、今夜もお願いしたら、みんな快く引き受けてくれるだろう。ロバストは、俺たちだけじゃなくて、このお屋敷のみんなに好かれて、すごく愛してもらってるから。
…だから。
「と、トリックオアトリート」
既に火照り始めてしまった身体を抑えながら。口にした俺の言葉は、一文字目が掠れた。ハロウィンでお決まりのフレーズ。それを聞いたリジットさんが、一瞬だけ不思議そうな顔をしたあと、…
その琥珀色の眼を、薄く細めた。黒色の瞳が、その眼のなかで大きく開く。
「お、俺はお菓子持ってないから、…後で、俺にそう言ってね?」
続けて声にした言葉は、まるで囁くように小さくなった。更にその眼を愉しそうに細めた俺の旦那さまが、俺の言葉に笑いながら頷いた。
「…それは、俺がお前に悪戯をしてもいいということだな?」
顔を寄せたままで、彼の低くて甘い声が、俺の耳に吹き込むように囁かれる。…その声にすら、反応してしまいそうになる身体を、尚も抑えて。俺も、彼の言葉に大きく頷く。
「うん、…リジットさんが、好きなことして?」
そう、応えた俺の声も、我ながら溶けるように甘く響いて。俺の返答を聞いたリジットさんが、満足そうに。声と同じに、蕩けるように甘く、笑った。
(このあとのことを考えると、それだけで身体が疼いてしまって。いつも通りにロバストにおっぱいをあげる姿を、リジットさんに見られることでさえ、身体が蕩けそうになってしまって仕方がなかった)
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