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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【40】
クリスマスまで、あと二週間と少し。
「ロバスト、このオーナメントはどっちがいいと思う?」
食堂に置かれた、まるで天井にまで届きそうな、大きなツリー。それを前に、両手を頬の前まで上げて。俺の隣でクッションに寝かせているロバストに向かって、赤色のボールと銀色のボールを掲げて見せた。
リジットさんとお揃いの、琥珀色の大きな眼が。赤色と銀色のボールをきょときょとと見遣って、それを掴みたいかのように、こちらへと小さな手をいっぱいに伸ばしてくいる。そんな俺たちの息子の可愛い様に、俺の目が溶けるように細まった。
このオーナメントは、この間リジットさんと街で選んできたものだ。ツリーが大きいから、オーナメントもたくさん飾り付けようと思って、可愛いものをたくさん選んできた。…流石に、お店にあるオーナメントを、リジットさんが全種類買おうとしたときは止めたけど。それだけ、リジットさんもクリスマスが楽しみだって思ってくれるんだって想うと、俺も嬉しくて仕方がなくなる。
「ね、ロバスト。このツリーはね、おとうさんが俺たちの為に、採ってきてくれたんだよ?ね、すごいよね!おとうさんは、世界一格好良くて素敵なんだよ。ロバストも、きっとおとうさんに似て、すごく優しくて格好良い、素敵な人になるんだろうなぁ」
手に持っていたオーナメントボールを置いて、ロバストを腕に抱っこして。それから、ツリーがよく見えるように立ち上がる。俺の背なんかよりも、全然大きなクリスマスツリー。大きすぎて、その先端は俺の背じゃよく見えない程だ。
リジットさんが採ってきてくれた、この立派なクリスマスツリーを。飾るのは食堂にしようと、このツリーを見せてもらった時から決めていた。お客様をお招きするのも、最初は食堂だし。ここなら厨房からも見えるし、厨房ならみんなが食事の時に必ず来る場所だから、他の場所に置くよりも、みんながツリーを見られるだろうと思って。
リジットさんも、そう思ってくれていたのか、俺の提案に笑って頷いてくれて。その日のうちに、この食堂に、このツリーは置かれることになった。
ロバストも、そんなツリーを前に興味津々だ。琥珀色の大きな眼にツリーを映すと、その手を伸ばして、可愛い指でもみの木に触れる。…その途端に、驚いたようにその手がもみの木から離された。もみの木は、見かけよりもちくちくとしているから、びっくりしてしまったんだろう。ふにゃあ、と声を上げて、そのまま俺の胸にしがみつく。
「ごめんごめん、びっくりしたね」
そんなロバストに、少し垂れてしまった耳から頭を撫ぜた。産まれたばかりの頃は、ふわふわと柔らかだったこの子の獣毛も、今ではしっかりとした硬さの、ふかふかの毛並みになりつつある。手に溶けてしまうんじゃないかと思うくらいに、ふわふわだった毛並みも心地好くて大好きだったけれど。今の、手に馴染んであたたかい、ふかふかの毛並みも大好きだ。
「そうだ、これね、おかあさんがつくったんだよ」
未だに、びっくりしたのが収まらないのか。それとも、少しだけ俺に甘えているのか。すんすんと鼻を鳴らしながら、俺にしがみつくロバストに。可愛いなあって想いながら、もう一度頭を撫ぜて。オーナメントのなかから人形を3つ取り出して、ロバストの前に吊るして見せた。
黒色の狼獣人と、それよりも少しだけ小さくて丸い人間と、それよりもさらに小さな黒色の狼獣人の人形。…これは、勿論リジットさんと俺と、ロバストだ。こんなに立派なツリーを、リジットさんが採ってきてくれたんだから。…俺も、このツリーに何かしたいな、って思って。彼のセーターを編む合間に、少しずつつくったんだ。
リジットさんにはサンタさんの格好をさせて、ロバストは天使。俺は、トナカイの格好にしてみた。本当は、3人全員サンタもいいかな、って思ったんだけど。…やっぱり、俺にとってのサンタクロースは、リジットさんだけだから。サンタさんは、彼だけにした。赤い服に、縁取りに白いもこもこ。勿論同じ作りの帽子も被せて、手には袋も持たせた。サンタクロースの格好をさせても、彼はやっぱり格好良くて。…俺の、密かなお気に入りだ。
ロバストは俺たちにとって、誰よりも大事な子だから、やっぱり天使で。天使って言うと、上半身裸のものが多かったから。下におむつを模したものを履かせて、羽をつけた。この子が笑っている顔を思い浮かべて、縫い上げた表情も、可愛らしく仕上げられた!と自負している。
それで、…俺がトナカイなのは、サンタと対になるのがトナカイだから。だって、…やっぱりリジットさんの隣に在るのは、俺がいい。なんて、ただの俺の我儘で、自己満足かもしれないけど。でも、やっぱり、…俺が、いつも、いつでも彼の隣にいたいから。その願掛けも込めて、トナカイにした。トナカイの割には、角が無くて、…少しだけ、狼っぽい耳や尻尾になっちゃってるんだけど。それも、…これからもずっと、彼の番いでありたいっていう、俺の願いを込めたから。だから、色も、薄い茶色にした。ぱっと見で、白に見えるくらいの、薄い茶色。トナカイは茶色だけど、…彼の対だったら、白がいいな、って思って。だから、俺のトナカイは、全然トナカイっぽくない。でもいいんだ!これには、…俺の願いが、いっぱい詰まってるんだから!だってクリスマスだし!オーナメントには、たくさんの意味や願いが込められてるんだから、俺だって!…オーナメントとして作った人形に、たくさんの願いや想いを込めたって、いいじゃないか!
そんなことを、勢い込んで思いながら。ロバストの前に吊るした人形を、俺も見つめた。
たくさんの想いを込めて、しっかり縫い上げたこの3体の人形は、我ながらよく出来たと思ってる。その人形たちを目の前に吊るされたロバストが、俺の胸から顔をあげて、その人形を大きな眼で見つめた。…その顔が、輝くように笑顔になった。
そのまま、掴みたいと言うように、人形にその小さな手を懸命に伸ばす、俺たちの可愛い息子に。ロバストの人形を握らせてあげると、それを力強く掴みながら、段々と生えてきた前歯を見せて、俺に笑う。
そのまま、きゃあきゃあと可愛らしい声を上げて、その人形と遊び始めたロバストに、俺も笑って。さっきまで寝かせていたクッションに、またそうっと寝かせる。ロバストは、自分を模した人形を、よほど気に入ってくれたんだろうか。にこにこと機嫌よく笑いながら、握り締めた人形を見つめたり、ぶんぶんと振ったりしながら遊んでいて。それに目を細めながら、俺も、ツリーの飾りつけに戻った。
俺が一人で飾り付けをしていいって言われたのは、下半分までで。それより上は、危ないからリジットさんと一緒じゃないと駄目だって言われてる。…確かに、上の方は俺だともう届かなくなっちゃうから、どうしても脚立が必要になるし。そしたら転がりそうだって自分でも思うから、リジットさんの言うことも最もだと思う。何より、リジットさんに心配なんて掛けたくないから、今日は下だけやったら飾りつけはおしまいだ。
そしたら、リジットさんのセーターを編もうかな。彼のセーターは、やっぱりまだ編み終えられていない。…クリスマスまで、あと二週間ほどだ。頑張らないと、間に合わない!…これはやっぱり、最終手段の『リジットさんがお休みの日も独りで頑張る』を決行しなければ駄目だろうか。それは嫌だなあ。リジットさんに、内緒でセーターを編んでることがばれちゃうかもしれないし、…それよりなにより、俺が寂しい。
だからやっぱり頑張らないと!そんなことを、オーナメントを握り締めて、改めて決意しつつ。俺たちの人形はどこに飾ろうかと、クリスマスツリーを吟味した。
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その日の夜。お仕事から帰ってきたリジットさんを、エントランスまで出迎えて。そのまま、一緒に寝室に向かう。
ごはんの時は、メイドさんたちが、ロバストを見ていてくれることになっているから。今日も、お礼とお願いを言って、この部屋に来る前に、メイドさんにロバストを預けて来た。だから、この部屋では今、俺と彼の2人きりだ。
彼が着替え終わるのを、彼の傍らで待ちながら。彼から受け取った軍服をハンガーに掛けつつ、声を弾ませて彼に声を掛けた。
「あのね、リジットさん。今日ね、食堂のクリスマスツリーに少し飾りつけしたんだよ!」
俺の言葉に、リジットさんが俺の方を向いて、眼を細める。艶やかな獣毛に包まれたしなやかな身体が、部屋着のシャツを纏っていく、その姿に密かに見惚れながら、言葉を続けた。
「あっでも、ちゃんと約束通り、飾りつけしたのは下側だけなんだけど。でも、可愛く出来たと思うんだ。食堂に行ったら、良かったら見てみて?」
思わず、身振り手振りのように手をばたばたと振りながら、彼に言う。そんな俺に、リジットさんが楽しそうに口角をあげて。
「勿論だ。食事の前に、お前が飾り付けてくれたツリーを是非俺にも見せてくれ」
そう言って。俺に向かって、手を差し出してくれるものだから。…俺も、満面に笑顔を浮かべて、その手を取って。繋いだ手に、ぎゅう、と力を込めながら、彼と一緒に食堂へと歩いた。
食堂へ入って。メイドさんたちが、お辞儀をして迎えてくれるなか、2人でクリスマスツリーの前まで向かう。
下半分だけ、と言う約束に加えて、とても立派で大きなクリスマスツリーはすごく飾り甲斐があるものだから。今日飾り付けられた分は、結果として三分の一ほどだ。それでも、俺なりに配置を考えて、オーナメントボールやキャンディケインや、ベルや天使たちを、バランスよく飾り付けられた…と、思う。…ど、どうかな!?俺、芸術とか、美的な感性みたいなものが壊滅的だからなあ。
俺の家では、クリスマスはいつもパーティーに行くだけで、自分の家でクリスマスなんてしたことないし。去年は、リジットさんのお休みの日に一緒に飾りつけをしたから。だから、俺が一人でクリスマスツリーの飾りつけをするのって、そう言えば初めてだ。…去年はリジットさんのおかげで、すごく綺麗なツリーに出来たけど。これは、どうなんだろう?リジットさんの感性はすごく高くて、こういう飾りつけもすごく綺麗にしてくれるから、…もしかして俺の飾りつけに呆れたりしてるかもしれない。内心で、どきどき、と言うよりもはらはらしながら、彼の顔を恐る恐る盗み見る。
…リジットさんの眼は、とても優しく、俺の飾り付けたツリーを映してくれていた。その顔の優しさに、心のなかで大きく安堵の息を漏らしつつ、彼に問いかける。
「…ど、どうかな?」
繋いだままの手を揺らしながら、口に出した声は。…我ながら、自信なさげに小さいもので。それに応えるように、リジットさんが俺を見遣って、笑ってくれる。
「何故そんな不安そうなんだ?愛らしくて、あたたかく優しい、お前らしいツリーじゃないか。…俺は、とても好きだ」
眼と同じに、優しい声でそう言われて。頬がじんわりと熱くなるのを感じながら、俺も彼に向かって笑い返した。
「…これは、どうしたんだ?」
そのまま、眼を細めてツリーを見ていてくれた彼が。ふと眼を止めたのは、俺のつくった俺たちの人形だった。本当は、ちゃんと一体ずつ、交互になるように飾ろうと思ったんだけど。…離すのがなんだか寂しくなって、この3体だけ並べて吊るした。
「あ、それはね、俺がつくったんだ!可愛いでしょ?」
茶化すように自分で言いながら、彼の顔を覗き込む。…見るだけでも分かるほどに、愛おしさを含んだ眼で。彼が俺を映して、優しく笑った。その眼に、…一瞬息すら止まってしまって。一拍置いて、爆ぜるように熱くなった頬を、慌てて押さえる。ただでさえあたたかい室内で、俺の顔は今、茹っているように赤いだろう。
俺を見つめていた優しい眼が、また3体のオーナメント人形へと移る。その手が、トナカイとは名ばかりの、…ほとんど狼の格好をした俺の人形に触れた。
「これは、お前か?」
「う、うん…そう…。あの、リジットさんがサンタさんだから、俺がトナカイがいいな、って、その…」
確認されるように問いかけられて。…はっきりそうだと断言するのがなんだか恥ずかしくて、もごもごとつぶやくような声は、口のなかで消える。それね、一応トナカイなんだよ。ほとんど狼に見えるんだけど、でもやっぱり俺、獣人になるならトナカイよりも狼がいいな、って思って。だって俺、リジットさんのお嫁さんだし!ロバストのお母さんだし!だから。まるで言い訳のような言葉が、勢い良く頭に浮かんで。それでもそれを口に出す前に、…リジットさんが、繋いでいる俺の手をきつく握った。まるで、俺の言いたいことが、彼に伝わってるみたいに。
「とてもいいな。お前によく似ていて、可愛らしい」
そのまま、人形に伸ばしていた指が、その輪郭を確かめるようになぞっていく。…その指が、俺の人形に着けた耳や尻尾をなぞるたびに、彼の眼が嬉しそうに細められて。…それを見て、俺も、すごく嬉しくなった。…俺が、これからもずっと。願わくば、永遠に。彼のお嫁さんで、…リジットさんの番いで在りたいって。その想いを、リジットさんが、…他でもない彼が、分かってくれたみたいで。
何度もなぞるように、人形に這わせられていた指が。…そのまま、俺の頬へと移った。彼の指が、今度は俺の頬を、…まるで確かめるようになぞっていく。少し冷たくて、ざらりとした肉球の感触が、燃えるように熱を持ったままの頬に、心地好かった。
「トナカイなのに、狼にしてくれたのか?」
「う、うん…、だって俺、リジットさんのお嫁さんだから。やっぱり俺が獣人になるなら、トナカイよりも狼がいいな、って」
彼の問いかけに、目を閉じながらそう答える。俺の言葉に、リジットさんが小さく笑うのが、気配で分かって。…そのまま、緩やかに優しく、彼の腕に抱き締められた。俺の身体を包むように回される、彼の腕の感触に、うっとりと身を委ねながら。俺も、彼の胸に頬を寄せて、その背に自分の腕を回す。
「あの人形にね、いっぱい願いを込めたんだ。…これからも、ずっとリジットさんのお嫁さんでいられますように、とか。これからも、俺がリジットさんの隣に在れますように、とか。…リジットさんと、ずっと一緒に居られますように、とか。そういう気持ち、いっぱい詰めたんだよ」
それこそ、他の意味あるオーナメントのように。他のオーナメントにも負けないくらいに、たくさんの願いと、想いを込めた俺たちだけのオーナメント。
彼の腕のなかが心地好くて、まるで微睡むような口調でそう、告げる俺に。耳元で、彼が笑う声が、小さく響いて。
「それは、願う前に俺に言ってくれ。神に願うよりも、俺にそう伝えてくれ。その願いなら、…誰よりも、俺が叶えてやれるのだから」
そう、俺に囁きながら。俺を抱きしめる彼の腕に、力がこもる。限りなく優しく、でも力強い腕が、俺をきつく抱き締める。
「…何があろうと、俺は、お前を離さない。俺の妻は、未来永劫お前だけだ。だから、…どうかお前も、俺の傍にいてくれ。神ではなく、俺に、…そう約束してくれ」
熱を以て甘く響く、いつもよりも低い声。その声が、俺の耳を打って、…蕩けるように、全身へと拡がっていく。もう、幾度となく、彼が俺に囁いてくれるその愛の言葉は。…それでも、例え何度聴かせてもらっても、それに聴き慣れるなんてことがある訳もなくて。いつだって、俺のなかに、色鮮やかに響いては。俺のこころを甘く蕩かせて、何よりの幸福を与えてくれる
今日も。彼の言葉に、甘く蕩ける胸を、熱く震わせながら。…彼の言葉に、強く、大きく頷いて。彼に、約束するように。神様じゃなくて、他の誰でもなくて、…俺の彼に、誓うように。精いっぱいの背伸びをして、彼のその口に、…自分から、唇を重ねた。
まだ半分も飾り付けられていないツリーは、それでも。俺たち家族の人形を、その身に仲良く揺らしながら。…綺麗に、あたたかく輝いていた。
「でも、その耳と尻尾付きの俺の人形、そんなに気に入ってくれたの?」
「勿論だ。この人形を、ツリーではなく俺の鞄に着けたいくらいだ。お前の狼姿も、とても愛らしいな。…お前に耳や尻尾も、きっと似合うんだろうな」
「えっ!そっ、それなら…あの、今度耳だけでもつけてみようか!?」
意気込んでそう言うと。リジットさんが、驚いたように少しだけ眼を見開いて。…それから、可笑しそうに、…嬉しそうに破顔した。
そんなに、俺の彼が、嬉しそうに笑ってくれるなら。…今度、本当に狼の耳と尻尾に似せた飾りをつくって、彼に見せてみようと。こころのなかで、密かに強く、決意した。
ちなみに。このクリスマスが終わったら、俺の人形はリジットさんに。リジットさんとロバストの人形は俺に、ってことも約束した。…彼の鞄に、俺の人形が付けられることを思うと、今から少しだけ恥ずかしくて。…すごく、すっごく嬉しかった。
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