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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【42】
今年のクリスマスは、朝からとてもよく晴れた一日だった。
「雪、降らなかったね」
「そうだな」
雲の一つも見えないような、月明かりの綺麗な夜。
寝室で。2人で、窓を開けて外を見遣った。みんなが外まで飾り付けてくれたおかげで、庭園の樹木にも、可愛らしくクリスマスのオーナメントが飾り付けられている。窓から見える夜の庭園は、そんなオーナメントが月の光を浴びてきらきらと光って、すごく幻想的できれいだった。
窓を開けているから、外の空気が少し肌寒い。柔かくてふかふかのブランケットを羽織っても、少しだけ震えてしまった俺に。そのあたたかな腕を回して、リジットさんが、俺の肩を抱いてくれた。そのまま、彼の胸に抱き寄せられて、…さっき俺が贈ったばかりのセーターに、俺の顔が触れて、埋まる。少しだけ編み目の覚束ない、けれど、…俺の精いっぱいの努力と。これ以上ないくらいの彼への想いを、いっぱいに詰め込んだセーター。愛だけは詰まってる、って、それだけは自負できる!…逆に言うと、それ以外は何の自慢も出来ないけれど。
「雪が見たかったのか?それなら、来年のクリスマスには、何処か雪の見られる場所にでも行こうか」
俺の言葉を受けて、リジットさんが、白い息と一緒にそう言ってくれる。白い雪のなかでのクリスマス、というものを、俺は今まで、一度も経験したことがない。だから、リジットさんが言ってくれたことは、すごく魅力的な提案だったけれど。…一拍置いてから、小さく首を横に振った。
「ううん。やっぱり今日みたいに、このお屋敷で、みんなと一緒に過ごしたいな」
そのまま、俺を抱き寄せてくれる彼の肩に。俺も、自分の頭を凭れさせて、彼の眼を見つめてそう返す。そんな俺に、リジットさんが。俺の肩を抱く手で、俺の頭を優しく撫ぜてくれながら。優しく眼を細めて、笑ってくれた。
待ちに待った、クリスマスの今日。
俺も、朝から張り切って、ジンジャーマンクッキーを焼いてはツリーに飾ったり。今日の為にと、今月の頭から寝かせていたドライフルーツを使って、大きなプディングを完成させたり。勿論、クリスマスの定番のローストチキンも焼いたし、あとリジットさんは鹿肉が好きだから、いい鹿肉を用意してもらって、ローストも拵えて。
綺麗に飾り付けた部屋の中で、そんな料理の数々を、今日はみんなで揃って食べた。いつもは、使用人のみんなは、俺たちとは違う部屋で、違う時間にご飯を食べているけれど。…今日だけは、ってお願いしたんだ。今日だけは、みんなで一緒にご飯を食べよう、って。最初は、すごい勢いで固辞されてしまったけれど、諦めずにお願いして。その甲斐あって、最後はみんな、喜んで了承してくれた。
だから、さっきまで、みんなでクリスマスパーティーだったんだ。みんなすごく楽しそうで、たくさん話しては、みんなではしゃいだ。もう成人してるメイドさんやほかの使用人さんたちは、ワインを開けたり、シャンパンを開けたりして。リジットさんも楽しそうに、グラスに注がれるがままに、そんなお酒を一緒に飲んでいた。…俺はまだ、成人してないから、一緒に飲めないのがちょっと悔しい。成人したら、そのときには、みんなと一緒にお酒を飲むんだ!なんて思いながら。俺はロバストを抱っこしながら、お酒の飲めないメイドさんと一緒にジュースを飲んで、盛り上がった。ロバストにも、賑やかで楽しい雰囲気が分かるのか。ずっとにこにこして、きゃっきゃって声をあげてはみんなから歓声を浴びて、嬉しそうに笑っていた。
そのあとで。はしゃいで疲れてしまったのか、眠ってしまったロバストに。『坊ちゃまは私たちで見させて頂きます』、って、メイドさんたちが言ってくれて。そのまま後片付けに入ってしまったみんなに、俺も手伝おうとしたんだけど。…『ここはお任せください』、って、そのまま流れるように、俺たちは、食堂から出されてしまって、…今に至る。
「寒くないか?」
「大丈夫!リジットさんがぎゅってしてくれてるし、それにリジットさんがくれたブランケット、すごくあったかいんだよ!」
そう答えながら、羽織っていたブランケットを手で摘まんだ。暖色で、チェック柄で、毛布みたいにふわふわと柔らかい生地で、全部広げると俺のお尻の下まで届くくらいに大きくてあったかいブランケット。今は半分に折って羽織ってるから、更にあったかい。端のところに狼のワンポイントがついてるのもすごく可愛らしくて、一目で気に入ってしまった。これは、さっき…彼から贈ってもらった、クリスマスプレゼントだ。
パーティーの終わったあと。この寝室に来て直ぐに、無事に編み上がったセーターを、彼に贈った。勿論、夜中まで起きて編んでた、なんていうのは彼には内緒だ。でも、努力の甲斐あって、ちゃんとセーターには出来た、と、思う。…まあ、その出来栄えはなんとも言えないものなんだけど!でも、自分で、綺麗に包装もして、贈り物っぽく出来たと思う。
俺の差し出したその贈り物を、リジットさんは嬉しそうに眼を細めて、受け取ってくれた。優しく笑いながら、『ありがとう』、って、俺の頭を撫ぜて、優しく抱き締めてくれて。直ぐに、その包みを開けてくれた。
彼のその笑顔だけで、俺は、すごく嬉しくって満足だったんだけど。…自分のセーターの出来は、俺が一番よく知ってたから。彼がどんな表情で、俺の編んだセーターを見てくれるのか、…喜んでくれるだろうか、って。密かにどきどきしながら、伺うように顔を伏せて、上目でこっそりと彼の表情を見遣った。
…でも、そんな俺の不安は。丁寧な手つきで包みを開けた彼の手が、まるで宝物でも扱うみたいに、セーターを取り出した瞬間に、…跡形もなく、吹き飛んだ。大きく眼を見開きながら、…すごく嬉しそうに、リジットさんが。俺の大好きな旦那さまが、誰が見ても、すごく、…幸せそうだ、って想ってくれてるような顔で、眼を細めて笑ってくれた、から
その笑顔が見られただけでも、俺は幸せで仕方なかったのに。その場ですぐに上着を脱いで、それを着てくれた。でも、彼の着ててくれたそのセーターは、…袖や丈は丁度良かったけれど。やっぱり身に着けると、編んでいた時よりも、編み目のがたつきが強調されるようで。
『ごめんね。やっぱり、あんまり上手じゃないね』
少しだけ、凹んでしまった気持ちで、独りごちるように、そう言った俺に。…リジットさんは、俺をぎゅう、って抱き締めてくれて。
『何を言う。お前が、俺の為に、俺を想って編んでくれたものだろう?これ以上のセーターなど、何処を探したって在りはしない。…ありがとう、最高の贈りものだ』
そのまま、耳に口づけるように、俺の耳もとでそう囁いてくれるものだから。それだけで、俺はセーターの出来も忘れてしまうくらいに、嬉しくって、幸せで、…胸がいっぱいになってしまった。
それから。リジットさんが、俺に贈ってくれたものが、このブランケットだ。包装も可愛らしくて、とてもあたたかくてふかふかで、触り心地の好いブランケット。
でも、なんでブランケットなんだろう?確かに、俺は寒いのはあんまり得意じゃないけど。お屋敷のなかはあたたかいし、リジットさんと一緒の時は、いつも彼にくっつかせてもらってるから、ブランケットをお屋敷のなかで使った覚えは、あんまりない…と、思う。いや、セーターをこっそり編んでた時には、いつもブランケットに包まってたけど、それはリジットさんは知らないはずだし。
不思議に思いながら、隣を歩く彼を見上げた。…まさか、俺が夜に起きて、あのセーターを編んでたことに気づかれてたとか!?いや、でもさっきセーターを渡した時のリジットさんは、すごく驚いてくれてるみたいだったし!多分気づかれてはないと思うんだけど!
そんな想いのまま、じっと彼を見つめてしまう俺に。リジットさんが俺を向いて、眼を細めたまま小さく笑った。その口から漏れる息が、白く、細く窓の外に舞って、ふうっと消える。…その光景が、すごく綺麗で。思わず感嘆のように漏らした俺の息も、同じように上にのぼって辺りに消えた。
その、息の消える様が合図だったかのように。肩へと回っていない方の彼の手が、…俺の手に触れた。肩を抱いてくれている彼の腕にも、力がこもるのが分かる。力強い彼の腕が、俺を包むみたいに、身体に回って。俺の頬が、更に強く、彼の胸へと押し当てられた。柔らかな毛糸の感触と、彼の心臓の鼓動が、頬を通して、俺に伝わる。
リジットさんに包まれてると、すごくあったかくて、幸せで、…なんだか眠くなってくる。このところ、夜に起き出して、ずっとセーターを編んでたからもあるだろうか。そんなに長いこと起きてたわけではないんだけど。…やっぱり、寝不足にはなってたんだろうか。編み上げることに必死だったからか、今日までそんなこと感じてなかったんだけどな。…やっぱり、なんとか編み上げることが出来て、彼にちゃんと渡すことが出来たからか、…一気に安心してしまったみたいだ。
このまま、眠ってしまうんじゃないか。なんて、ぽわぽわと微睡んできた思考の隅で、そんなことを思う。とろりと落ちそうになる瞼が、更に下がって。あたたかくて心地好い、彼の腕のなかで、幸せな眠りにつきそうになる、…その直前。
俺の、…左手の薬指に。なにか填められたのが、感触で分かった。
その、少しだけ冷えた感触に、思考よりも先に心臓が大きく跳ねた。その跳ねる心臓につられるように、俺の身体も急激に熱が上がって、微睡んでいた意識が一気に覚める。弾かれるように目を開けて、…彼に取られていた手を見遣った。
そこに、填められていたのは。…白銀のリングが三重に重ねられた、綺麗な指輪だった。
「え、…え?」
自分の指に填まっているものに、驚いてしまって。何度も、何度もその指輪と、俺の彼の顔を見遣ってしまう。そんな俺に、まるで悪戯が成功したような顔で、彼が笑った。嬉しそうで、楽しそうで、…とても幸せそうに笑う、俺の大好きな旦那さまの顔。
「どうだ?…俺たちを思い描いて、三重に連なったものにしたのだが。気に入ってくれただろうか?」
そんな笑顔のままで、言われた言葉に。…このみっつのリングが、俺たちを表しているんだと、漸く分かる。見開いてしまった目と口が、滲んで、緩んだ。冷たい空気に晒されている頬が、それでも、火が灯ったみたいに熱くなっていく。
3本が絡むように連なった、綺麗なリング。…これが、俺たちを表しているのか。リジットさんと、俺と、ロバストと。こうやって、ずっと仲良く一緒に居られるように。…きっと、リジットさんもそう、想ってこれを、俺に贈ってくれたんだろう。その想いだけで、幸せで、泣きそうになる。そんな俺の手を、彼が優しく包んでくれた。
「お前は、婚約指輪も婚姻指輪も、大事に取っておきたいと言って、仕舞い込んでいるだろう?それなら、気負わずに着けてもらえるかと思ってな」
苦笑するように言われた言葉に、一瞬だけ言葉に詰まる。…俺が、彼から婚約しているときにもらった指輪も、婚姻式の時にお互いに着けた指輪も、仕舞い込んでるというのは、その通りだった。だって、…どうしても勿体なくて。失くしたらどうしよう、って考えたり、汚したらどうしよう、って心配になってしまって、どうしても着けられなかったんだ。リジットさんも軍人ということもあって、そういうものは指に填めていたらいけないし。だから、その指輪は、鍵のかかる引き出しに、大事に、大切にしまってある。
「あの、で、でも」
「お前の指に、何も填まっていないと、…誤解されるかもしれないだろう?お前が婚姻済みだと、…俺のものだと、お前に関わる全ての者に知らせたいんだ」
そう言って。指輪ごと、俺の薬指を、彼の指がなぞるようになぜる。何かを思い出すような口調は、…まるで、俺が誰かに想われたことがあるかのようなもので。そこに滲んだ、彼の、…俺への独占欲に。俺のこころが、蕩けるように熱く弾んだ。
本当に、リジットさんは心配性だなあ。…俺が、誰かに想われるなんて。俺を想ってくれて、俺を好きになってくれて、…俺を愛してくれるひとなんて、リジットさんだけなのに。この世界で、俺が、誰かを想うのなんて。好きだと思うのなんて、愛しているひとなんて、…リジットさんしかいないのに。
俺の大好きな旦那さまが、存在しない誰かにまで、そんな風にやきもちを妬いてくれることが嬉しくって。…俺の顔は、勝手に緩んでしまう。
数度、俺の指を、彼の指が撫ぜてから。リジットさんが、自分の首元に指を伸ばした。ふかふかの獣毛にその指が触れて、そこから何かを、絡めるように取り出す。細くて銀色の、華奢な鎖。そこから、滑るように彼の指先まで通ってきたのは。…俺の指に填められたものとお揃いの、三重に連なる白銀の指輪だった。
「俺も、同じものを身に着けている。軍の規律上、指には填められないが、…こうすれば、肌身離さず着けていられるからな」
俺の指を取ったまま、彼が、囁くような口調で、俺に言う。肩を抱き寄せられたままの体勢は、彼の顔がとても近くて、…俺の身体は、どんどん熱が上がっていく。まるで、耳に直接囁かれているように、彼の熱い息が、俺の耳を擽った。
俺の手を取る彼の指が、俺の手を持ち上げる。そのまま彼の口元まで俺の指が持ち上げられて、…指輪の上から、彼の口が、指に触れた。まるで指に口づけるように、重ねられた唇。
「…俺が、お前のものだという証だ」
低い声が、まるで打つように、耳に響いた。低くて甘い、彼の声。…その、声と言葉に、胸がいっぱいになってしまって。詰まるように声が出せずに、ただ、何度も何度も頷く。
そんな俺に、リジットさんが優しく眼を細めて、俺を見つめた。俺の大好きな、優しく笑ってくれる彼の顔。
そのまま、俺に寄せられる顔に。俺も、彼の身体に腕を回しながら、うっとりと目を、閉じた。
目を、閉じる直前に。窓の外に一筋、流れる光が見えたような気がして。
ずっと、彼と一緒に居られますように、って。目を閉じながら、3度唱えて、密かに祈った。
(あれは、流れ星だと思ったけれど。…もしかしたら、空を駆けるサンタクロースだったのかもしれない)
でも。俺のサンタさんは、もう俺の目の前に、いてくれるから。…きっと、また違う子たちに、幸せを運んでいたんだろうな、って。そう思って、小さく笑った。
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