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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【54】

  王城の、軍事施設での、訓練中のことだった。

  「リジット兵士長、奥さまがお見えとのことです」

  今日の門兵だろう犬獣人の軍人からそう声を掛けられて、思わず懐中時計を取り出して見遣った。…もう昼も疾うに過ぎて、けれどまだ終業には遠い時間だ。勿論昼にはあの子の作ってくれた弁当を食べたから、前にあの子がここに来てくれた時のように、昼食を届けに来てくれたということもないだろう。

  懐に懐中時計を仕舞いながら、分かった、とだけ返事をする。そうすると、こちらです、と促された。どうやら案内をしてくれるようだ。俺の歩調を気にしつつ、前を歩いていく門兵の犬獣人の、揺れる尻尾を見遣りながら、脳内に思考を巡らせる。

  …まさか、あの子や子供たちに、何かあったのだろうか。真っ先に、そんな不安が渦を巻いて、けれど、それならもっと緊迫した空気になるだろう、と自分を落ち着かせる。現に、今俺の前を歩く門兵からは、そういう空気は微塵も感じられなかった。…だとすると、いったい何が?巡る思考は、ぐるりと一周して、またそこにたどり着く。

  そんなことを考えていると、ゆっくりと前を歩く彼の足の歩調が緩まった。そのまま、その場で足踏みをしてから、綺麗に止まる。別に、今はそこまで気を遣わずとも良いのだが。これも習慣だろうか、それとも矢張り上官である俺が、後ろにいるからだろうか。…悪いことをした。

  案内された場所は、入り口にほど近い、来客用のエントランスのような場所だった。この軍事施設に訪れる外部の人間や獣人は、それがこの軍の関係者だろうが来客だろうが、一度ここに通される。勝手にこの軍事施設を歩き回られては困る、という理由も一応あるが。それよりも、この内部が入り組んでいる為だという理由のほうが強い。一度や二度訪れたくらいでは、ここを自由に歩き回るなどできないだろう。…現に、前に俺のあの子が来てくれた時も、帰りをここまで送ってやれなかったために、迷ってしまったのだから。…本当に、あれは今でも悔やまれる。あの時に俺がきちんとここまで送ってやることが出来たなら、あの子もここで迷うこともなく。そうしたならば、…あの者とあの子が逢うことも、きっと。

  「あちらでお待ちです」

  今更考えても詮無い思考に陥り掛けた俺に。くるり、と綺麗に回れ右をした彼が、エントランスの一方を手で示した。その掛けられた声で、思考が中断される。…それに有難いと思いながら、示されたほうに眼を向けた。エントランスに備え付けてある革張りのソファ。その隅に、縮こまるように座っているその姿を認識して、…思わず固まった。ひとつ瞬きをして、それからその姿を凝視する。…誰だ、あれは。

  そこに座っていたのは、まだ十代半ば程だろう、人間の少年だった。見るからに所在なさそうに俯いて、身を縮めるように丸まっているその姿は、俺のあの子でないことなど一目瞭然だ。その姿に見覚えもない。ただ、…強いて言えば似ている、だろうか。勿論俺にとっては、誰よりも可愛い俺のあの子に並ぶものなど、足元に及ぶものすら存在しないが。そこに背を丸めて座っているその姿は、特徴だけを抜き出せば、俺の最愛の妻に、確かに似ていた。

  例えば、座っていても低いだろうと思える身長。柔らかそうにふくよかな体型。どう見積もってもまだ十代半ばだろう、幼く見える顔。そして、『人間』の少年。…なるほど、と納得した。

  ここに所属している軍人の多くは、俺の妻の正確な名や姿を知らない。勿論名を聞かれれば答えるし、逢いたいと言うならば、家に招くことも吝かではないのだが。俺に面と向かって、そのようなことを申し出てくる者は、今のところ居ない。

  ただ、俺に、誰よりも愛している妻がいるということは、皆に知られているし。フラフィーのことも、そのような特徴だけはなんとなく伝わっているらしい。もうフラフィーは成人してはいるのだが、あの子は幾つになっても前と違わず幼くあどけなく、堪らなく愛らしいから。今でも俺の妻は、『幼く愛らしい、ふっくらとしてふくよかな少年』、と言う話になっていた。そしてそれを、俺も訂正するつもりはない。何故なら、その通りなのだから。

  だとすると、この特徴だけで、あの彼はフラフィーと間違えられたのだろう。『背の低い、ふくよかで幼い人間の少年』。それが表すのは、少なくともここでは俺の妻しかいないのだから。

  

  とりあえず、俺をここまで案内してくれた犬獣人の彼に礼を言って、下がってもらった。彼がまた、入り口の門へと戻っていく姿を見送ってから、その少年に向き直る。俺に気づいたのだろう、少年が顔を上げてこちらを見る。それから、弾かれたようにソファから立ち上がって、直立した。

  「す、っすみません!ごめんなさい!立ち入るつもりなんてなかったんです!」

  そのまま、風を切る音が聴こえそうなほどの勢いで、少年が俺へと頭を下げる。90度を越して、膝に頭がつきそうなほどに深々と頭を下げられて、慌てて彼へと歩み寄った。

  「いや、こちらこそ申し訳ない。あの門兵が、俺の妻と君を間違えて、君を連れてきてしまったようだ。悪いのはこちらだ、頭を上げてくれ」

  言いながら、身振りでも頭を上げてくれるようにと伝えてみる。彼は頭を下げているのだから、そんな俺の様子などは見えないだろうが、…雰囲気だけは伝わったのだろうか。それとも、俺の言葉で納得してくれたのだろうか。腰から深く曲げられていた上半身が、ゆっくりと上がる。正に恐る恐る、と言った態で、その目が伺うように俺を見上げた。

  その団栗のように円い形の目に、…なるほど、と思った。目の円いところまで、俺のあの子と似ている。これでは、フラフィーを遠目から見たことがある程度の者ならば、間違えても仕方ないだろう。勿論、そっくりと言うわけではない。この少年の目は、俺のあの子よりも深い色合いで、少し強気で元気そうな印象だが。フラフィーは、明るい色の目に、何もかもを包み込んでくれるような、ふんわりとした優しさを持った目をしている。いつでも屈託なくその目を細めて笑う、愛らしい表情。こころの強さを表すようにしっかりとしていて、それでいて頼りなく、無防備な。そんな、あの子の愛らしい目を思い出しながら、目の前の少年を見遣った。

  そんな俺に、伺うように俺を見上げている彼が、不思議そうに首を傾げた。

  「…俺と、その、…奥さん?を、間違えてですか?」

  「ああ。俺の妻と、君は体躯が似ていてな。俺の妻も、背が低くてふっくらとした少年なんだ。いや、もう成人して子もいるのだから少年とは言えないのだが、歳を重ねても変わらずにあどけなく、優しい円い目をした可愛らしい子でな。特に笑うと歳よりも幼く見えて、とても幸福そうに笑う顔が堪らなく愛らしい。そういうところが話として出回ってしまっている所為か、妻を見たことがない者も、俺の妻はそういう子だと知っているんだ。だから、話だけを知っている者が、特徴が似ている君と間違えたのだろう」

  

  そう説明すると。目の前の彼の目が、きょとん、と 更に円くなってから、可笑しそうに細められた。…何か、俺はおかしなことを言ったのだろうか。俺のほうも、少し眼を開いて彼を見返すと、笑ったままでごめんなさい、と謝られた。…いや、それはいいのだが。

  とりあえず、分からないままにひとつ咳払いをして、話を続けた。

  「して、君は何処で、俺の妻だと門兵に間違えられたのだろうか」

  そう問いかけると、笑っていた顔が、はっとしたようにまた、慌てた顔になる。それから、わたわたと腕を振って、口を開いた。そんな仕草も、なんとなく俺のあの子を連想させて、少しだけ口端が緩む。

  「あ、えっと…その、俺の家、揚げ物屋をやっていて、配達もしていて…で、あ、いやそれで、この王城に軍事施設があるって聞いていて…。近くまで来たから、ここがそうなのかー、って、ちょっと外からでも見てみたくて、それで、外から見てたら…」

  しどろもどろ、と言う口調で、彼がそう説明する。どれだけ緊張しているのか、…いや、俺が緊張させているのか。たどたどしくあやふやな言葉だったが、言いたいことはなんとなく分かった。きっと、この軍事施設に、彼の関係者がいるのだろう。家族…ではないな。この子は人間のようだし、先程家は揚げ物屋をしていると言っていた。それならば、知人か友人か、…恋人か。配偶者なら、ここまで慌てることはないから、多分この3つのどれかだろう。

  「…誰か、この軍に知人か友人でもいるのか?」

  

  何気なくそう問いかけると。…その顔が、爆ぜるように一瞬で赤くなった。あ、と喉から絞り出すような声を上げて、その円い目がぐるりと黒目を一蹴させる。その様子に、…先程の予想の3つ目が正解なのだと、俺でも分かった。ますます口の端が緩んで、何気ない仕草で口元を覆う。このような場面に立ち会ったことは終ぞないが、…なんというか、面映ゆいものなのだな。

  「あの、っこっ……っ、友達です…」

  けれど。俺の予想に反して、最初に意気込んで、それから尻すぼみになっていく語尾。きっと、『恋人』だと言いかけたのだろう。それでも、最後には友達だと口にしたその少年に、…緩んだ口元が自然と締まる。

  …もしかして、俺が軍の者だからだろうか。人間である彼と、獣人だろうその者が、どんな関係かを口にすることを、躊躇っているのだろうか。…もしかして、人間である彼と何かあったら、獣人だろうその軍人に迷惑が掛かるとでも、思っているのだろうか。

  そう考えると、…心臓が、緩く掴まれたように、きしりと軋んだ。そんなことは、気にすることではない。いや、…気にさせるなど、してはいけない。それは、きっとこちらの落ち度だ。人間と関わったらいけないと、獣人が考えていると、…そう思わせているのだとしたら。

  不意に、俺のあの子の笑顔が脳裏に浮かんだ。いつでも、俺を大好きだと。幸福そうな笑顔でそう伝えてくれる、誰よりも愛らしい俺の最愛の妻。…あの子がほかの誰かの前で、俺のことを友人だと。…ただの友達だと、そんな風に口にする光景を、想像するだけで胸が軋んだ。もし、そんなことがあるとするなら、そんな風に口にせざるを得ない状況にも、そんなことを言わせる俺自身にも、…腹が立って仕方がない筈だ。

  きっと、この少年の相手も、そう想う筈だ。俺が軍でも上の人間だと、気を使って遠慮をして、…恋人だと口に出来ないこの状況にも。そんな風に、恋人に気を遣わせる自分にも、腹立たしくて悔しくて、仕方なくなるだろう。だから。

  自然と、その少年へと手が伸びる。くしゃり、と、俺の手のひらの肉球で、その髪が擦れた。驚いたように、目の前の彼が、俺を見遣る。

  「気にすることはない。その者は、君の恋人なのだろう?俺の妻も、人間だ。ほかにも、人間を伴侶に選ぶ獣人は数多くいるぞ。そもそも、そんなことで罰せられたり、査定に響くことなどない。この国の軍は実力主義だからな、護るべきものが在ることで強くなるのなら、相手が誰だろうと誰も気にもせんさ」

  そう言って、その頭をわざと、少し乱雑に撫ぜた。まるで息子たちを撫ぜるような手つきになったことに、少しだけ口の端が上がる。なんというか、…フラフィーの弟でも、相手しているような気持ちになったのだ。勿論あの子は末子だから、弟などいるわけもないが。…俺のあの子と似た体躯をしたこの彼に、僅かなりとも親近感を覚えたのは確かだった。

  俺の言葉に、目の前の少年が更に顔を赤くした。少しだけ、照れたように黒目を回転させて、…それから、嬉しそうに笑う。まるで弾むように笑うその顔は、…矢張り、俺のあの子を連想させた。俺が好きだと、そう言って笑ってくれる、あの子の愛らしい笑顔。

  この彼と、あの子の体躯が似ているから、だけではない。それは、アステールのことを話す俺の親友のように。スティケートを見つめる、あの絵本の王子さながらの彼のように。きっと、…誰かを想って笑う顔は、皆、このように顔を輝かせて笑うのだろう。

  …それは、俺もなのだろうかと。そんなことを考えて、可笑しくなった。緩む口をまた隠しながら、嬉しそうに笑っているその少年に言葉を続ける。

  「…ここまで来たんだ、その『恋人』の様子を少し見ていくといい。訓練中だろうから呼ぶことは出来んが、遠目から見るくらいなら邪魔にもならんだろう」

  案内なら俺がしてやろう、と口にすると。俺の言葉に、少年の顔が、目も口も驚いたように円くなった。その素直さが、…俺のあの子を再度連想させて。緩むように、また口端が上がった。

  「えっ、いいんですか!?」

  「ああ、その者の名と、出来れば所属団名も分かるか?」

  そう言うと、何故か彼が直立するように姿勢を正した。指先までぴん、と伸ばして、まるで指導兵に応える訓練兵のように、綺麗に起立する。…俺は、何か相手を威圧するような空気でも醸し出しているのだろうか。前は自分でも自覚していたが、あの子と婚姻してからは、そんな空気も大分薄れてきたと思っていたのだが。

  「えっと、名前はハンデットです!黒豹の獣人で、…確かせいえい?師団だって言ってました」

  綺麗に直立したまま、弾けるような声で言われた、…その名前に。思わず眼を見開いて、目の前の彼を見遣る。忘れるわけもない。その名は、…例え一瞬でも、俺のあの子に恋をしたのだろう、あの黒豹の獣軍人の名だったからだ。

  フラフィーに似ていて、…けれど矢張り、確かに違う、目の前の少年。ハンデットの『恋人』と名乗る、彼。凝視するように見遣る俺を、直立したまま不思議そうに、その彼が見返す。…ふ、と、こころの奥底で、何かが解けた気がした。知らずと口元がほころんで、息が漏れる。

  

  「…そうか。ハンデットは、君の恋人なのか」

  呟くようにそう言うと。嬉しそうな顔をますます輝かせて、はい!と大きく頷いた。その顔は、…ハンデットを恋人だと、そう名乗れる喜びに満ちているようだ。

  「そうです!ハンデットの、っ恋人、の!シイスって言います!」

  先程とは違う、誇らしそうに大きな声。きらきらと、眩いほどに輝いているその顔が、…ハンデットをどれだけ愛しているのかを、表している気がした。

  …嗚呼、一つ白状しよう。ここで、俺が一番に感じたのは、…他でもない安堵だった。

  勿論、他所属とは言え同じ軍の仲間である部下の幸せを喜ぶ気持ちも、確かにあった。けれど、…もう、これであの黒豹の獣人に、あの子を奪われることがないと。もう、…俺とあの子の間を邪魔するものは在ない、と。…俺は、心底安心したんだ。

  思わず浮かんだ笑みを、この少年はどう思ったのだろう。照れたように笑って、宜しくお願いします!と、勢いよく俺にまた、頭を下げる。それに笑って返しながら、ハンデットのいる精鋭師団まで、彼を促しつつ足を進めた。

  

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  「…ハンデットを覚えているか?」

  その日の夜の、寝室で。二人きりになったことを見計らってから、フラフィーに膝に抱いて、そう問いかける。俺の腕のなかで、フラフィーが一瞬だけ思い出す素振りをして、それから思い出したように頷いた。

  「うん!俺が前に、リジットさんにお弁当を届けに行った帰りに迷っちゃったのを、助けてくれた黒豹の獣人さんでしょ?覚えてるよ!」

  にこにこと愛らしく笑って、そう返してくるこの子の顔には、何の屈託もない。それに、ひとつ息を漏らしながら、その柔く滑らかな膚を撫ぜた。あたたかなぬくもりが、指先の肉球に沁みていくようだ。

  「…今日、ハンデットの恋人に逢ったんだ。軍に来たところを偶然、な。それで、俺がハンデットのところまで案内した」

  「えっ、そうなの!?」

  ハンデットさん、恋人いたんだね!弾む声で、嬉しそうに言うフラフィーの声が、耳に響いた。俺とは違う、…心底からそれを喜んでことが分かる、素直な声。ふわりと柔らかな髪に顔を寄せて、眼を閉じる。

  

  「…お前に似て、ふくよかでふっくらとした体躯の、明るい少年だったよ」

  そう言葉を続けながら。柔らかな身体を抱き締める腕に、力を込めた。この意味を、…この子はどう受け取るだろう。こころの奥底が、少しだけざわめいた。あの黒豹獣人の彼が、…自分を好きだったことに、気づくだろうか。それに気づいたとき、…この子は、どう想うのだろうか。こころに微かに巣食うざわめきは、…紛れもない不安だった。

  

  「そうだったんだね!そっか、だから俺に親切にしてくれたんだ!」

  それを吹き飛ばすかのように。明るい声が、俺の耳から全身に響く。柔らかな頬が、子猫のように愛らしい仕草で、俺に摺り寄せられた。そこから、優しい熱が俺の身体もあたためていく。

  「…どういうことだ?」

  「え、ハンデットさんの恋人さんに似てたから、俺にも優しくしてくれたんでしょ?俺だってきっと、リジットさんに似たひとが困ってたら、やっぱり特別親切にしちゃうもの」

  一瞬、フラフィーの言葉を捉えられなかった俺に。納得した、とでも言うように、フラフィーの明るい声が、更に言葉を紡いでいく。それは、…あの彼が自分を好きだった、と言う思考では微塵もなく。あの彼の『好きな人』に自分が似ていた、と言う、…この子らしい思考。この子らしく前向きで、真っ直ぐで、…俺以外から向けられる好意には何処までも鈍感な。まるで、俺以外からの愛情になど見向きもしないように、俺だけを愛してくれる、誰よりも愛おしい俺のこの子に。一瞬眼を見開いてから、…思わず破願した。全く、俺と言う者は、何度不安になれば済むのだろう?そして何度、…この子の溢れんばかりの愛情に、救われているのだろう。

  「…そうだな。きっと、そうだ」

  フラフィーの言葉に、頷きながら。今日の、シイスと名乗ったハンデットの恋人に対する俺の態度も。…きっと、そうだったのだろうと不意に思う。あの少年に対する態度は、我ながら親切だった。それは、…まるでフラフィーの弟のように、親近感を抱いたからだと思っていたが。…きっとそれも、もっと簡単なことだった。

  ただ俺は、あの少年が、…俺のこの子に似ていたから。だから、優しくしたくなったのだ。この子が、俺に似ている者には、特別親切にしたくなる、と言ってくれたように。、俺も、…きっと、そうだった。

  

  気づいたそのことに、小さく笑いながら。俺の誰よりも愛おしい妻の、その柔らかな身体を抱きなおして、ベッドへと横たえる。そのまま被さる様に顔を寄せると、薄っすらと仄赤く染まった顔で、照れたように。けれどとても幸福そうに、フラフィーが笑った。

  「それで、ハンデットさんはどうだったの?」

  「ああ、本当は遠目から見るだけ、と思っていたのだがな。矢張り、恋人の気配には気づくんだろう。俺とその少年を見て、雷に打たれたような顔をしていた」

  「え、なんで?」

  「さあな。…もしかして、恋人を俺に奪われるとでも思ったのかもしれん。勿論そんなことはある筈もないのだが。その後で、鬼のような形相と、竜巻のような勢いでこちらに来てな。物凄い勢いで俺とその彼を引き離してきたぞ」

  「えー、見たかった!ふふ、ハンデットさんは本当にその子のことが好きなんだね!」

  「そうだな。…まあ、俺がお前を愛している想いには、誰にも敵わんだろうがな」

  「…そ、おれは俺のほうが、リジットさん好きだから!俺のほうが世界一なんだからね!」

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