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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【61】
俺の休日が、カレンダーの休日と珍しく重なっている日の、前夜。俺たちの寝室のドアが、こんこん、とノックされた。
夜と言ってもまだそんなに遅くはない時間だ。俺たちも、まだベッドに寝ている状態ではなく。ベッドの上で、俺の最愛の妻を後ろ向きに膝に乗せ、そのまま後ろから、その愛らしく柔らかな身体を抱き締めるという至福の時を過ごしていた。こうやって、誰よりも愛しく愛らしい俺のこの子を、腕に抱き。俺の腕の中で、楽しそうに俺に話してくれるこの子の様を見ることが、何よりも俺を癒し、幸福にしてくれる。
そんな時間に聞こえたノックに、自然と目線がドアへと向いた。俺の腕の中からフラフィーが、そのノックにどうぞ、と応える声すら愛らしく。ただでさえ緩んでいるだろう俺の顔の、口角が更に上がる。
当然だが、今のこの体勢を変える気など毛頭なかった。この時間だ、俺たちの子どもか、気心の知れた使用人しかこの部屋には訪れないのだから。そうであれば、この愛おしく柔らかなぬくもりを俺の手から離す必要なぞ、何処にもない。
フラフィーの声を聞いてだろう、寝室のドアがゆっくりと開く。そこに居たのは、予想通りに俺たちの長男だった。まるで俺をそのまま小さくしたような、小さな黒狼の獣人の姿に、俺の眼も自然に細まる。
俺たちの様子は、ロバストにとっても日常と映っているのだろう。特に臆することなく部屋のなかに入ってきて、ベッド脇へと小走りで駆け寄って来る。フラフィーも、俺の腕の中から離れようとすることもなく。俺の腕に収まったまま、花がほころぶように愛らしく笑った。
「どうしたの?眠れない?」
「ううん!あのね、おとうさん、おかあさん。明日、なにか用事がある?」
フラフィーの問いかけに、ロバストが首を横に振る。それから、俺と同じ琥珀色の眼を輝かせて、俺たちにそう聞いてきた。…珍しい、と密かに思う。
元々は無邪気でやんちゃだったロバストは、成長するごとに大人っぽく振舞おうとすることが増えていた。何処に行きたい、と言う要望や、我儘なども鳴りを潜め、寧ろ弟妹を諫める立場へと、姿を変えている。それは、弟であるアレクが、幼い頃のロバストに輪を掛けて掛けてやんちゃなこともあるのかもしれないし、…俺に憧れている、と言ってくれたことが起因するのかもしれない。
ロバストの目に、俺がどう映っているのかは分からないが、…どうやら、俺はこの子にとって『いつもクールで、でも優しくて、すごく格好良い』んだそうだ。俺の誰よりも愛おしい妻が、息子たちに、俺がどれだけ格好良いかと言う話をしてくれていることも、きっとあるのだろう。いや、俺自身は自分が格好良いなどと感じたことはないのだが。…この、感情の乏しく愛想がない顔は、見方を変えると冷静で格好良く見えたりするのだろうか?…謎だ。
それでも、…俺の最愛の妻や、大切な子どもたちに、格好良い、と思ってもらえることは、勿論嬉しいし、喜ばしい。特に、…フラフィーには、俺を世界一格好良いと、いつでもそう想っていて欲しい。他の誰もその目に映らないほどに、俺だけを見ていて欲しい。俺が、この子以外の者など、誰も目に映らないように。
そんなことを想いながら。俺たちの、大人びながらもまだまだ可愛らしい長男の、珍しい要望に口元を緩ませる。ロバストが行きたいのならば、街でも何処にでも連れて行こう。アレクもジーニャもこの長男が大好きなのだから、ロバストが行きたいところならば喜んで行くと言うだろう。俺の可愛い妻も、息子の言葉に、同じくらいに目を輝かせて嬉しそうに笑った。
「ううん、ないよ!ロバストは、何処かにお出かけしたい?何処に行こうか?」
「ほんと!?おれ、きれいなびんせんが欲しいんだ」
…『びんせん』?
弾むような、フラフィーの言葉に。同じように、勢い良く返ってきた、ロバストの声。…その口から出た『びんせん』の一語に、一瞬その言葉が何物とも変換できず、疑問符となって頭を過ぎる。フラフィーも、その愛らしい円い目を不思議そうに瞬かせてから、…ことり、と幼い仕草で首を傾げた。
「びんせん、って、お手紙を書く便箋?」
「うん!おれ、てがみを書きたいんだ!」
フラフィーの言葉に、ロバストがぱ、っと顔を輝かせる。そのまま、勢い込んで続けられた言葉に、漸く俺の頭の中でも合点がいった。…ああ、便箋か。手紙を書く時に使用する、綺麗な模様が入っていたり色のついていたり罫線が入っていたりする紙。俺にはほとんど縁のなかったものだが、…この子と出逢ってからは、『手紙』という遣り取りも、幾度もした。
俺のこの子は、昔アステールと文通をしていたと言うこともあってか、手紙と言う文化に馴染んでいて。婚姻前も、一緒に暮らすようになってからも、俺に度々手紙をくれた。綺麗な色の便箋に、あの子らしい愛らしく丁寧で、少し丸めの優しい文字。そこに綴られた 文章は、文字と同じ、あの子と同じにとても優しい、あたたかいものばかりで。俺を気遣う言葉、労わる言葉、感謝の言葉、それから、…俺を溢れんばかりに愛してくれている、それが伝わってくる内容。何度読み返しただろうか。特に婚姻前の、いつも一緒に居られなかった時期は、…長い夜を、あの子の手紙を読んで過ごした。まるで、あの子の声で聴こえてくるように、丁寧ながらも飾ることのない、優しく素直な言葉。それに、眠れない夜の中、どれだけ励まされ、勇気づけられたか分からない。あの頃は、…俺にとって夜は安らぐものではなく、襲ってくる罅割れた過去に、立ち向かわなければならない時間であったから。あの頃の俺を支えてくれた、あの子からの深い愛情に満ちた手紙は、今でも、俺の宝物の一つだ。
俺が初めてアステールと逢った時にも、あの子がアステールに俺のことを手紙で沢山話してくれていた、という話を彼から聞いた。それを聞いて、それは是非見てみたかった、言った俺に。真っ赤になって、『俺がリジットさんにお手紙書くから!』と慌ててこの子が口にしたことも、今でも覚えている。その後で、言葉通りに俺に書いて渡してくれた手紙は、…勿論、他の手紙と同様に、今でも大事に取っておいてある。
…そう言えば、俺もこの子に少しでも喜んでもらおうと。そういったものを扱う店に、スティケートに頼んで一緒に訪れてもらったこともあったな、と、そんな懐かしい過去が、頭を過ぎった。俺は文具など、軍から支給される紙やペンで事足りていたから。あの子が俺に送ってくれるような、綺麗な便箋など、それこそそれまで、何の縁もゆかりもなかった。けれどまさか、素っ気も何もない軍支給の用紙にあの子への想いを綴るなど、俺が自分で許せるわけもなく。俺の親友は、そう言う文具にも詳しく、拘りもあったから、…頼んで店を紹介してもらったんだ。
あの子に似合う柄は、色は、どんなものかと。ああでもないこうでもない、と頭を悩ませ、親友にも付き合ってもらって、納得できる便箋を探し回った。そんなことまで、懐かしくも擽ったい過去として、思い返しながら。腕に抱く俺の愛おしい妻の膚へと、密かに指を這わせて、眼を細める。
「その手紙は、誰に書くんだ?」
「あのね、このあいだ、おれのクラスに新しく来た子!おれとおなじとしの子で、おとうさんもおかあさんもにんげんだって言ってて、でもおとうさんが”ぐん”に入ったんだって。だから、その子もおれたちのがっこうにきたんだ」
辿々しくも、要点は押さえたロバストの言葉。その言葉に、ああ、と思わず納得の声が出た。…そうか、季節はもう春。確かに、そんな時期だ。
この国の軍に従事する者は、ほぼ獣人だ。特に前線で戦う者は全員が獣人だと言っていい。けれど、軍の中でも後方支援にあたる者や、参事を行う者には、人間が配属されることもある。そのような者は、特に優秀であったり人格者であることが多いと言うから、その子の父親も軍からの期待を受けて配属されたのだろう。俺も、近衛兵団と言う王直下の団の為か、そのような人間の参事や事務官とも、幾度か逢ったことがある。他の兵団になると、あまりそういう者とは逢うことはないそうだが。
そして、軍への入隊や配属、異動も、基本的にはこの月だ。勿論、例外があることもあるが。…俺が、そうだったように。俺がこの国に着いた時の記憶は、…今でもほとんど無いが。それでも、あの時は春ではなかった。俺の誕生日が冬であるし、…俺を打ち付けていた身を切るような寒さは、薄っすらと覚えている。…きっと、冬のうちには、この国に着いていたのだと思う。その後、…多分、肉食獣人は希少だと言うこともあるのだろう。春を待つことなく、先に軍へと入隊した俺が、その春に新しく入隊した訓練兵を何の感慨もなく見ていた記憶が、朧げにある。
けれど、そのような例外は、そう多くはない。大体が入隊試験を受け、4月から訓練兵やその他の業務に配属される。その多くが年の若い者で、入隊時に妻帯者や子連れの者はほとんど居ない。両親や兄弟がいる者は多いが、そういう者は大半がこの国の出身で。入隊する為にこの国へと来た、と言う者は、…その多くが独りだった。全てをなくして、この国へと来た者。大切なものを、誰かを、護れなかった者。たった独りで入隊する者は、…そんな過去を持った者も少なくない。
それでも、獣人と人間の待遇に差異がない、差別もない。そんな国に居られることは、ただそれだけでも救いなのだろう。独りだった者が、仲間を作り、厳しい中でも楽しそうに軍に従事している姿も、幾度も見てきた。そのたびに、口には出さなかったが、…密かに安堵したものだ。俺と同じ眼をしていただろう者が、その眼を段々と明るくしていく姿。俺が、…誰よりも愛しいこの子と出逢って変わったように。世界が、鮮やかに優しく、色づいて見えたように。きっと、彼らにも、そのような出会いがあったのだろう。
…何を思い出しても、俺の記憶はこの子へと結びついていく。そんな自分におかしくなりながら、それでも、…そんな自分を好ましくも思う。あれだけ世界を、周りを、…俺自身ですらも。疎んで、嫌って、厭わしく思っていたと言うのに。
この子の存在は。俺に向けてくれる、何よりも深い愛情は。…本当に、俺を変えてくれた。それを、何よりも愛おしく想いながら。ロバストの言葉に、そうか、と頷いた。
「でも、同じ教室にいるんでしょう?お話じゃなくて、お手紙でいいの?」
フラフィーが、愛らしく首を傾げたまま、また不思議そうにロバストに問いかける。
…確かに、獣人学校の教室は、年齢で分けた三クラスしか教室がない。人数も、一クラスで十数名ほどだろう。この国に住む獣人自体が、そう多くはいないからだ。その中で、子を成している者は更に少なく、その子が教育を必要とする年齢であることは輪を掛けて少ない。
その為、ロバストと同じ7つ、8つの子たちが集まる教室と、8つ、9つの子達の教室、10歳、11歳の子の教室と分かれており、その上の子達は18歳までを、また別の獣人学校で過ごすのだそうだ。そちらは、普通の教育の他に軍としての教育も行う士官学校のようなものであり、幼い頃からこの国で軍人を目指す獣人の子たちの為の、学び舎となるらしい。
例外としては、スティケートのような、この国に古くから住む名門の軍人獣人の一族だろう。スティケートは獣人学校ではなく、人間の貴族のように家庭教師を着けてもらって学んだのだそうだ。そこから改めて学校へと入学する者もいれば、そのまま軍へと入隊する者もいるらしい。どちらにしても、その後は軍の要人としての道を歩む。…スティケートも、怪我さえなければその道を進んでいたのだろう。まあ、彼は要人や上に立つ、と言うことに興味のない奴であったし。とても博識で面倒見の良い、教え上手な奴でもあるから。今の教官としての立場のほうが、きっと奴には似合っているし、…危険もない。自分でも、この方が性に合っている、と笑っていたから、きっと、そうなのだろう。まして今は、あいつだって一人ではないのだから。
そんな、他の国の人間の軍から見れば、圧倒的に数の少ない我が軍の人数だが。そもそも獣人と人間では、その比率が人間の2割から3割しかいないのだから、それも当然だろう。
けれど、獣人の能力は、犬獣人や猫獣人であっても人間の数倍の力がある。それが肉食獣人にもなれば、それこそ一騎当千…とまではいかなくとも、一人で人間を何十人と、簡単に相手に出来るだろう。だからこそ、この国では軍人には、例え役職のない一般兵であっても、伯爵と相当の地位が与えられる。
それは、人間の軍人でも同じだ。特に、わが軍では稀ともいえる程に人数の少ない人間の軍人は、人間と獣人の橋渡しのような立場でもある。だからこそ、他の者よりも人一倍優秀であり、人格も優れたものが選ばれる。…きっと、その子の父親も、そうなのだろう。となれば、その子自身も、獣人への差別意識など無い、…筈なのだが。
何ともなしに、胸に不安が訪れて。俺の妻の柔らかな身体に回した腕に、知らず力がこもった。俺の感じたような、人間からの嫌悪や恐怖や軽蔑を、…俺の子どもたちには決して味合わせたくない。けれど、まだ子どもであるならば、そのような獣人への恐怖や嫌悪を隠すのは、難しいだろう。…大人だとしても、そのような悪意や負の感情を隠すことなく、向けて来る者は少なくないのだから。
そんな俺の、胸の内を。…誰よりも優しい俺の妻は、俺の些細な雰囲気からも、分かってくれたのだろう。そのふくふくと柔らかな手が、フラフィーを抱き締める俺の腕へと触れる。そのまま、優しい指が、俺の獣毛を慈しむように撫ぜてくれて。…それだけで、胸に渦巻く不安が、多少なりとも落ち着いていく。
…この世界の人間が、全てこの子のような人間であったなら。きっと、…俺のような思いをする者は、誰一人として居なくなるのだろう。勿論、そんなことは在り得ないと、そうではないと知っている。分かっている。だからこそ、俺が、この子に逢えたこと、それこそが。…俺の人生で、何よりも一番の幸福であり、奇跡そのものなんだろう。
俺の妻の、優しい指先を享受しながら。…ロバストから続けられる言葉を、慎重に待つ。どうか、俺たちの大事な息子が、…傷つくことのないように。この子のクラスの獣人の子たちが、逆にその人間の子を、差別するようなことも、ないように。どうか、誰もが理不尽に苦しむことの、ないように。
「うん。…その子、あんまりおはなしするのがとくいじゃないみたいなんだ」
「そうなの?」
「うん。いつも、おれがそばにいくと、困ったようなかおで、うつむいちゃうんだ。おとなしい子でね、いつも本をもってて。他の子とは少しおはなしもしたりしてるんだけど、おれがはなしかけると、まっかになって、ごめんねってどこかに行っちゃって」
そう言って、ロバストも少しだけ口を尖らせた。怒っているのではなく、…きっと、もどかしいのだろう。その表情と、ロバストの言葉に、内心でほっと安堵の息を吐いた。…どうやら、その子から一方的に悪意を向けられたわけでも、逆にその子がいじめられていると言うわけでもないようだ。
それと同時に、…ロバストの言葉に、俺のこの子との過去が、脳裏をよぎった。『いつも困ったような顔で、真っ赤になって』。それは、…まだ俺たちが婚約したばかりの頃の、フラフィーの様子にそっくりな表現だったから。
…あの頃。俺と一緒にいることに、まだ慣れていなかっただろう俺のこの子は。俺と一緒の時にはいつも緊張したように俯いて、赤くなって、困ったように目を伏せていた。それでも、そろりと視線を上げては、俺と目が合っただけで、更に爆ぜるように真っ赤になって。…また俯いてしまった、愛らしいあの姿。
…もしかしたら、と思うのは、親の欲目か性急すぎるだろうか。けれども、おとなしい子だとロバスト自身も感じているんだ。きっと、その子が緊張しているか、恥ずかしがり屋であるのは間違いないだろう。
「だから、本がすきみたいだから、てがみならきっと読んでくれるんじゃないかなって!だってもったいないんだよ、せっかくすごく可愛いのに、いつも困ったかおでさ」
ロバストが、楽しそうに生き生きとした表情で。その人間の子について、俺たちにも話してくれる。クールに格好良く振舞おうとする、最近の大人びた様子ではなく。もっと幼い頃の、やんちゃだったロバストの顔が見え隠れするような、俺たちの可愛い長男の様に、…こんなロバストを見るのも久々だな、と、またも口角が上がって、緩んだ。
成長し、格好良くなりたい、と頑張っている今の長男も、とても頼もしく、格好良くも可愛らしいが。あの頃の、無邪気にやんちゃだったロバストが、今のロバストのなかにも在ると言うことが、何故だか堪らなく嬉しい。成長の中にも、幼い頃の面影が見えると言うのは、…これほど懐かしく、愛おしいものなのだな。そんなことを再認識して、眼を細める。
「背はおれよりもちいさくてね?かおもまるくてやらかそうで、からだもまるくて、おかあさんに少し似てるの。目もおっきくてまるくて、わらったら絶対に可愛いんだ」
楽しそうに話していたロバストが、勢いよくそこまで言って。…何かを想うように、口を閉ざす。耳の先が揺れて、俺と同じ色の眼が、ここには居ない誰かを見つめるように、遠くなった。まだ幼いはずなのに、一人前の男の様に、しっかりとした表情。まるで、護りたいものを見つけたような。…それは、きっと。
「…あの子が、おれを見て。おれにわらってくれたら、いいのになあ」
その、何処か大人びた表情のままで。ぽつり、と呟くようにロバストが言った。…その言葉に、思わず眼を見張る。それは、その言葉は、感情は。…かつて、俺がフラフィーを初めて見た時に想ったことと、同じであったから。
『あの子の視界に、俺が映らないだろうか』。『あの顔で、俺に笑わないだろうか』。今でも、鮮明に覚えている。初めて見た、俺のこの子の。まるで幸福の詰まったように、幸せそうに笑う、その笑顔に。…初対面であったと言うのに、こころから想ったこと。…そう、切実に願ったことを。
全く、俺の息子は、本当に俺とよく似ている。そんなロバストに、思わず口元が緩むのを感じながら。…腕に抱く、俺の誰よりも愛おしい妻の。その手に、俺の手を重ねて、包んだ。俺の行為に、フラフィーが腕の中から俺を見上げて、…蕩けるように幸福そうな顔で、俺に笑う。その惜しげもなくぎゅう、と細められた、丸い目には、…誰でもない俺が映っていて。あの時、祈るように想った、あの願いは。…今でもこうして叶っていると言うことを、噛み締めるように実感する。
俺たちの、大事な息子にも。…こんな風に、願いが叶ったと、実感する日がくれば、いい。そんなことを、また祈るように思いながら。
「…それでは、一際よい便箋を選ばなければな」
そう言って、今度はロバストへと手を伸ばし、その頭を撫ぜる。そんな俺に、もう子どもではないと言いたげに口を尖らせて。けれど、何処照れたように、面映ゆい顔をしたロバストが、それでも素直にうん、と頷く。
「そうだよ!ここは、ロバストがその子に似合うなって想う便箋を選ばないとね!どんなのがいいかな、ロバストは、どんなのがその子に似合うと思う?」
フラフィーも、俺の腕の中から身を乗り出して。楽しそうにロバストへと、その人間の子への質問を続けた。そんな俺の妻の言葉に、照れたようなロバストが、ますますはにかんで笑う。…けれど、その顔は、もう子どものものだけではなく。僅かに、けれど確かに、一人の男としての片鱗を覗かせていた。
その後。出かけた先で無事に便箋を選び、その子へと手紙を書いたらしいロバストが。その子から返事が来た!と、喜んで俺たちに報告に来てくれたことを、加えておく。その子と手紙のやり取りをすることになったから、また新しい便箋が欲しい、と。そう、輝くように嬉しそうな笑顔で、俺たちに言ってきたことも。
その返事は、俺たちに見せてくれることはなかったけれど。…きっと、ベッドの中で、毎夜読み返しているのだろう。あの頃の俺が、そうであったように。
俺たちの可愛い息子が、今、その人間の子に抱いている想いが。…どのようなものかは、ロバストにしか分からないだろう。
けれど、…それがもし『そう』であるならば。無事に芽吹いて、…いつか、その想いが結ぶといい。
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