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イケメン狼獣人がぽっちゃり少年を娶るはなし。【62-アステールと先生の話】

  大分暖かくなってきた、春の日の午後。アステールとスティケートが、揃ってうちに訪れることになった。

  「こんにちは。お邪魔致します」

  「アステールおにいちゃん!せんせい!ようこそいらっしゃいませ!」

  「いらったいあせー!」

  約束の時間から程なく、二人が俺たちの家へとたどり着く。そんな2人を、まず張り切って出迎えたのは、俺たちの長男と次男だ。今まで、フラフィーの為にスティケートに頼んでいた家庭教師は、今はロバストの家庭教師も兼ねてもらっている。と言うよりも、今ではほとんどスティケートはロバスト専用の家庭教師になっていた。

  フラフィーがロバストを授かってから、一時休ませていたスティケートの家庭教師は、ロバストが成長してからまたお願いしていた。けれど、フラフィーがアレクやジーニャを授かったことと、ロバストの成長に伴い、ロバストの勉強を見てもらう時間のほうが長くなっていき、今ではロバストは、スティケートの立派な生徒だ。

  だから、ロバストにとっても彼は敬愛すべき『先生』なのだろう。その家庭教師の時間、兄と『先生』が何をしているのか気になって仕方のないアレクも、ちょくちょくそこに乱入してはロバストに叱られている、と。俺の誰よりも可愛い妻が、笑いながら俺に教えてくれた。世話焼きで面倒見の良い俺の親友は、俺たちの息子にとっても、良い先生であり、友であるようだ。

  アステールも、スティケート程は逢う頻度は多くないが、それでも数度、俺たちの家に遊びに来てくれている。その穏やかで柔らかな物腰と面倒見の良い性質に、その数度で子どもたちもすっかり懐いたようだ。

  …本当に、アステールはその気質も、俺の親友とよく似ている。だからこそ、この二人は惹かれ合ったのだろうか。そんなことを思って、密かに笑う。

  俺から見ても、スティケートとアステールは、良く似合っていた。二人とも優しく穏やかで、物腰も優雅で柔らかい。スティケートは今でも教官として軍へ来るたびに、現訓練兵や元教え子に囲まれるほどに皆から慕われている、面倒見の良い奴だし、アステールもきっとそうなのだろう。その外見も相まってなのだろうか、社交場ではいつも人気者だったと、俺の可愛い妻が笑いながら教えてくれた。

  …それと同じくらいに、俺の妻も皆に好かれ、囲まれていたのだろうと。その話を聞くたびに、俺の胸中はさざめくのだが。そんな時、心境が顔に出てしまっているのだろうか。そんな俺にフラフィーは、花がほころぶように笑いながら。『俺は全然人気なかったよ』と、優しく俺の獣毛を撫ぜてくれるのだ。

  『俺のこと、好きになってくれたのはリジットさんが初めてで、…リジットさんだけだよ』

  

  俺を好きになってくれて、ありがとう。俺も、リジットさんのこと大好きだよ!と、いつだってあどけなくも優しく笑って。俺にそう告げて、俺の膝に乗って優しくキスをしてくれる、何よりも愛しい俺の妻。…こんなにも愛らしく、誰よりも優しいこの子のことを、俺以外の誰も好きにならなかったなど、あるわけがない。きっと、俺以外にもこの子のことを愛していた誰かは、存在していた。現に、…少なくともその中の一人を、俺は知っている。

  だからこそ、誰よりも優しい愛おしい、…この世界でたった一人の俺のこの子が。他の誰でもない俺を選んでくれて、…俺だけを愛してくれるこの幸運を、溢れんばかりの幸福を。今も、限りない感謝と共に、噛み締める。

  「おや、ジーニャはおやすみですか?」

  優しい微笑を含んだスティケートの声が、エントランスに穏やかに響いた。それに、俺の隣でフラフィーが、ふんわりと優しく笑って、小さく頷く。

  元気な兄たちと、朝からはしゃいで疲れたのだろう。俺たちの末子の小さなジーニャは、フラフィーの柔らかな腕の中で、スティケートの言葉通りに熟睡中だ。そんな小さな娘を、妻の腕から受け取って、片手で抱いた。

  子どもらしい、ふくふくとした体型に、今は閉じられている大きな円い目。子どもたちの中でも、特に俺の可愛い妻によく似ている俺たちの可愛い娘は、まだまだ小さく、幼く、軽い。特にジーニャは人間であるフラフィーの血が色濃く出ているだけあって、成長も人間の子と変わらない為だろう。

  今も、俺の腕の中で安心したように眠っている末娘の、赤ん坊の面影を残した幼い寝顔に、自然と眼が細まる。まだ小さなその身体は、手も足もふっくらとして肉付きが良い。…フラフィーは、『体型も俺に似ちゃった』と、ジーニャに申し訳なさそうな顔をしているが。何故申し訳なさそうな顔をするのか、俺には解せない。何故なら、この世界で誰よりも愛らしくいとけない、俺の妻に似るのならば。世界で二番目に愛らしい子になるに、違いないのだから。現に、ジーニャはふくふくと愛らしく、幼いながらも俺の妻の次ほどに可愛らしい娘へと成長している。

  

  そんな末娘を、密かに自慢に想いながら。同じく俺の自慢である、息子たちへも眼を向けた。ロバストやアレクは獣人である俺の血が濃いからか、成長も早かった。あっという間に赤ん坊から幼児になり、今も、大人への一歩を踏み出している。学校へ通うようになって、更にしっかりしてきたロバストは勿論、アレクも妹が出来てから、すっかりと『兄』の顔だ。

  とは言え、俺からしたら子どもたちは皆、まだ小さく、可愛らしい。例えば子どもたち3人を、全員まとめて俺が腕に抱いても、まだ余裕がある。…まあ、もうロバストは俺に抱かれるよりも、自分がアレクの面倒を見たり、ジーニャを抱っこするほうが楽しいようだが。そう思うと矢張り、少し寂しい気もするが。…空いた手で、俺のあの子に触れられると想えば、それも悪くはないだろう。俺の手は、いつだって俺の大事な家族と、…何よりも、誰よりも愛しい妻の為にあるのだから。

  そんな、自分の想いの通りに。空いているもう片方の手で、俺よりも小さなフラフィーの手を、包むようにしっかりと繋ぐ。そうすると、フラフィーがその丸い目を瞬かせて、俺を見上げた。ふっくらとした頬を、薄っすらと上気させて、…照れたようにはにかんで笑う。まるで花のほころぶように、ふんわりと優しいその笑顔は、出逢った頃から変わらずに幼く、愛らしい。

  二十歳を過ぎ、三人の母親となった俺のこの子は。誰よりも愛情深く、歳よりもしっかりとしつつも、…俺には、俺だけにはこのように、変わらず幼く、愛らしい様を見せてくれる。ふとした時に、俺にだけに見せる、出逢った頃と変わらないような幼げな表情や。俺が、あの頃から今でも焦がれ続けている、まるで幸福が詰まったように笑う、幸せそうな笑顔。見ている者にも幸せを分けてくれるようなその笑顔に、…俺は、どれだけ救われてきただろう?俺の生きる意味を、存在意義を、…この子の笑顔に、その存在に、どれほど与えてもらったのだろう。

  そう伝えると、きっと俺のこの子は、驚いたような顔をして。『そんなことないよ!』と。『俺のほうが、リジットさんにたくさんもらってるんだよ!』と。…面映ゆそうにはにかんで、けれど嬉しそうに。あの幸福の詰まったような顔で、笑ってくれるんだろう。

  その光景が、ありありと脳裏に思い浮かんで。自然と眼を細めながら、手の中のぬくもりに指を這わせる。少しだけ照れたように、フラフィーが俺を見上げて、その円い目を惜しげもなくぎゅう、と細めた。それから、…俺と同じように、柔らかな指が、俺の指に絡められる。

  そんな俺たちの前では、ロバストとアレクが。こっちこっち、と言わんばかりに、アステールとスティケートの手をそれぞれ引いて、サロンへとエスコートして歩いていく。…いや、エスコートと言うには、少しばかり勢いがよすぎだろうか。楽しそうに声を上げて、子どもたちに引っ張られていく2人の後を。その柔らかな妻の手を、堪能するように繋いだまま。フラフィーと笑いながら、ゆっくりと追った。

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  「今、お茶を淹れるね」

  サロンに着いて。2人に座ってもらいながら、フラフィーがテーブルに用意してあるポットを手に取った。その言葉に、スティケートとアステールが、嬉しそうに笑って頷く。今日のゲストであるこの2人は、特に紅茶を好んでいるからだろう。だからこそ、今日用意した飲み物も紅茶なのだが。そして、俺の誰よりも可愛い妻も、紅茶が好きだ。

  『俺、紅茶が好きなんです。ストレートもミルクティーも、どっちも好き』

  そう、幸せそうに笑いながら俺に教えてくれたこの子の笑顔が、鮮明に脳裏に浮かぶ。まだ婚約者だった俺たちが、…初めてキスをした頃。俺のこの子が、緊張せずに、俺に笑ってくれるようになった頃。あの子の家だった屋敷のサロンで、向かい合って座った俺の前で。湯気の立つ紅茶のカップを、両手で包むように持った、幼い指先と。…まだ照れと緊張の残る顔で、それでも。俺に、あの幸せが詰まったような顔で、笑ってくれた、あの笑顔。

  それまでは、好みも何もなく、ただ軍で支給される飲み物だからと言う理由でコーヒーばかり飲んでいた俺が。幾らスティケートに勧められても、如何とも思わなかった、この紅茶と言うものが。…あの子が、好きだと笑ったあの瞬間から、急に身近になった様に感じた。軍でどれほどコーヒーを飲んでも、豆の種類の一つも言えない俺が。…あの子の好きな紅茶の銘柄なら、幾つも覚えられるほどに。

  きっと、フラフィーは、俺が昔からコーヒーも紅茶も好んでいるものだと思っているだろう。それくらいに、俺も、…この子が淹れてくれて、一緒に飲む紅茶がとても、好きだ。この子が好きだと思うものは、俺も、…自然と好きになっていく。無理にではなく、あくまで自然に。

  けれど、…だからだろうか。カフェや、誰かに淹れてもらう時には、コーヒーばかりを選んで、紅茶を頼もうとは思わない。それは、きっと、…俺がこの子の前では格好をつけたいと思ってしまうことと。この子の淹れる紅茶以外は、それほど好きだと思っていないからなんだろう。そう思うと、俺は矢張り、ただの紅茶ではなく『あの子と共に飲む紅茶』が好きなのかもしれない。

  そんなことに頭を巡らせながら。フラフィーが紅茶を淹れてくれるのを、ジーニャを片手に抱きながら、俺も手伝う。とは言っても、俺に出来ることは、注ぎやすいようにカップを並べることくらいだが。

  それでも、たったそれだけの俺の行動にも、…俺のこの子はとても嬉しそうに笑って。『ありがとう、リジットさん』と、甘く優しい声で、そう言ってくれるから。その笑顔を見たくて、その甘やかな優しい声を聞きたくて。どんな些細なことだろうと、俺の身体は、この子を手伝うために動いてしまう。…全く、これではフラフィーに褒められたくて手伝いを申し出る、俺たちの息子と大差ない。そんな自分に苦笑しつつも、…そんな俺が嫌いではなかった。

  大人用の紅茶のカップを並び終えた後は、子どもたちの為の、甘いココア用のカップだ。…しかし、最近はロバストにココアを渡すと、『おれはもう子どもじゃないから、こうちゃがいい!』と膨れるからな。その様が、まだまだ子どもだと、その可愛さに微笑ましくなってしまうのだが。そんなことを思いながら、ロバストにと出したココア用のカップを、紅茶用のそれへと変える。フラフィーも、それを分かったようで、笑いながらそのカップに紅茶を注いでくれた。

  「して、今日はどうしたんだ?」

  俺たちの様子に、きっと手伝ってくれようとしたのだろう、2人が椅子から腰を浮かしかける。それを手で制して、代わりにそう問いかけた。…とは言っても、用件は分かっている。自然と口端が上がるのを、咳払いをして誤魔化した。俺の隣では、フラフィーも、その愛らしい顔を花の様にほころばせて、嬉しそうに笑っている。…まるで幸福の詰まったように、幸せそうに笑う、俺の何よりも好きな笑顔。俺の、誰よりも可愛い妻のその笑顔に、上がった口角が更に深まった。

  子どもたちにも、俺たちの期待や高揚は伝わったらしい。今から何が始まるのかと、行儀よく俺たちの隣の席に座りながらも、きょときょとと俺たちの顔を見比べている長男と。今にも座った椅子から飛び上がりそうに、わくわくとそわそわした素振りを隠そうとしない次男。今までぐっすりと眠っていた末っ子の長女までもが、ふくふくとした頬を震わせながら、小さく欠伸をして。俺の妻によく似た円い目を、ゆっくりと開いて瞬きをした。

  

  きっと、期待に満ちている俺たちの表情にだろう。目の前の2人の顔が、揃って薄っすらと上気した。照れたような、それでいて幸せそうな顔で、2人が顔を見合わせて。…それから、こちらを向いた。

  スティケートが、1通の綺麗な封筒を取り出して、…丁寧に、俺たちの前へと置く。見覚えのある、俺の親友の優雅で誠実な文字と。それから、多分妻の親友のものだろう、丁寧で気品のある文字。その文字で、綴られた俺たちの名前。

  その一通の封筒に、まるで自分たちの時の様に。俺のこの子まで、頬を愛らしい薔薇色に上気させながら、それを見遣った。テーブルの上で、スティケートの手の上に、アステールの手がとても自然に重ねられて。

  「私たちの婚姻が、決まりました」

  予想通りの。そして、俺たちにとっても、とても幸福な報告が。俺の親友の口から、告げられた。

  

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