八月⑥_おむつバレ? 玄関前の大冒険

  リョウは濡れたおむつ一丁で立ち尽くした。

  じっとりと濡れた股間が次第に冷たくなってきたが、できることはユウタを待つだけだった。

  窓からはギラつく太陽が、カーテンを越えて照らしつける。雲一つ無い青空。フローリングの床に眩しい陽光が照り返す。

  とりあえず、風邪をひく心配はなさそうだ。

  グシュ……

  「う……」

  身動きを取ろうにも、思いの外おむつが湿っている。

  ずっしりと重い感触を受け止めながら、ただ呆然と立つことになった。

  宅配便が来たらどうしようかと気が気でない顔で、インターホンをちらりと見る。

  数分後して、シャワーの音が止まった。

  ガチャ

  脱衣所の扉が開き、下着姿のままでユウタが顔を出した。

  「なあ、おい……」

  「Hi. YES, this is ……」

  リョウが引き留めようとするが、聞き慣れない英語が返ってくる。

  片手にはスマートホンが握られている。

  「あ、で、電話か」

  「Just a munute, please.」

  ユウタは喋りながら片手を上げてリョウを静止する。

  “待っててくれ”と言われたことだけなら、リョウでもなんとなく分かった。

  「あ、ああ……」

  自室へ向かうユウタの背中を渋い顔で見送った。

  ぐっしょりと濡れたおむつ姿で、また立たされることになった。

  リビングに一人取り残され、沈黙が流れる。

  あれから数分経ったものの、ユウタが戻ってくる気配がない。

  寄る辺なくただ立って待っているせいで、いつもより時間が長く感じられる。

  ピンポーンッ

  不意に家中に響く大きな音が鳴った。

  「ひやっ!」

  リョウは背筋を凍らせて飛び上がった。

  ちょっとちびったかもしれない。

  インターホンの電子音が来客を知らせる。

  ピンポーン

  再度音が鳴り響く。

  もう少し待てば、ユウタが戻ってくるかもしれない。

  そう思いながらも電話の様子からして、どれくらいかかりそうか検討もつかない。

  「うぅ……」

  少し戸惑いながらも、リョウはインターホンに応答した。

  「あっ、すいませーん。宅配でーす」

  モニタの向こう側から、若い青年の声が尋ねる。

  「あー。置き配で、お願いします」

  一瞬の沈黙が返った。ほんの少しの間だが、リョウの心臓はバクバクと音を立てていた。

  「わかりました。品目は生理用品……おむつですね」

  「あっ……は、はい」

  「じゃあ、置いておきますんで、失礼しまーす」

  「あ、はい。お疲れ様です……」

  ほっと胸をなでおろしたものの、すぐにリョウは顔を赤くした。

  配達人は背を向け、人の走る音が遠ざかっていく。

  プッ

  インターホンを切った。

  配達人と対面する最悪の事態は避けたものの、玄関先におむつが置かれたままだ。

  この恰好で外に出るか?

  視線を下げると、ぐっしょりと濡れたおむつ一丁の自分が目に入る。

  「うー……、それでも外におむつが……」

  色々と思いあぐねた結果、すぐに取りに行くことに決めた。

  サンダルに足を入れて周囲を気にしながら、そっとドアに手をかける

  ガチャ……

  まばゆく照り返す光、セミの大合唱が全身に飛び掛かる。

  「うっ……」

  その明るさに思わず目をしかめる。

  玄関から数歩歩いた先に、大きな段ボールが置かれていた。

  単色ながら鮮やかなパステルカラーで彩られ、遠目からもキッズ用品であるくらいは分かる見た目だ。

  「なんでこんな、目立つような……」

  ぶつぶつと文句を言いながら、リョウは玄関に出た。

  おむつのせいで足は強制的にがに股にされ、濡れそぼったそれが垂れないように慎重に歩く。

  ズリ……ズリ……

  グシュグシュ……

  真っ白な陽光に照らされ、それはあまりに滑稽な様子だった。

  「うっくう……」

  バクバクと早鳴りする心臓を押さえつけ、なんとか歩みを前に進める。

  さわさわと涼しい小風が通り、股間のおむつがひんやりする。

  重たい重たいおむつをぶら下げて、足取りは遅々として進まない。ほんの数歩程度の距離だと言うのに、何時間も歩いたかのようだ。

  玄関から遠ざかるにつれ、誰かに見られていないかが気が気でない。

  リョウは誰も来ないようにと願いながら、段ボールまで歩いた。

  「ふっ……よっと」

  そそくさと段ボールに手をかけて、持ち上げる。

  見た目よりもだいぶ軽い。

  「あー、ぱんついっちょ、おむついっちょだー」

  「ひゃっ!!」

  どこからか、子供の声が聞こえた。

  リョウはとっさのことで身を凍らせた。手が段ボールでふさがれて何もできず、がに股ポーズで固まってしまった。

  「こら、馬鹿なこと言わないの」

  遅れて母親らしい声が聞こえる。

  「だって、おむつだったもん。おむついっちょ、赤ちゃんみたい」

  「えー。おむつだけー?」

  心臓の音とはーはーと荒い呼吸音だけが頭に鳴り響く。

  今まさに、リョウはおむつ一丁で立ち尽くしているのだ。

  ポタ……

  街路に背を向けたまま、濡れそぼったおむつから水滴が垂れ落ちる。

  リョウは視界が真っ白になって固まった。

  「ほんとだもん。ほんと、ほんと」

  「はいはい、分かったから。ちゃんと歩かないと危ないよ」

  「やだよー。ぶーん……ぶーん……」

  「こらっ、待ちなさい!」

  小刻みに走る靴の音と共に、親子の声は遠ざかって消えた。

  「っつ……はあっ!!」

  大きく息を吐き出す。

  心臓がバクバクと、耳鳴りがしそうな爆音で鳴り響く。

  白く明滅した視界が、涙で滲みながらも少しずつ色彩を取り戻し始める。

  「み……見られて……」

  口をパクパクとさせながら、乾いた呼吸をヒューヒューと繰り返す。

  ショロロロ……

  下半身からはまた漏らした音が聞こえるが、リョウの耳には入らなかった。

  セミの鳴き声だけが周囲に響き渡る。

  「も、戻ろ……とにかく……」

  ふらふらとした足取りで、玄関に向かって踵を返す。

  しかし、なぜか体に力が入らない。

  ショロロ……

  「あ……お、おしっこ……」

  気づいたものの、おしっこは止まらない。

  かといって、こんな姿でいつまでも外に出ていられない。

  チョロロッ……

  下腹部に力を込めて少しだけ我慢してみる。

  「ふーっ、ふーっ」

  腰をかがめて内股によちよち歩きで進む。

  玄関ドアまで数歩の距離が遅々として進まない。

  「ふぅっ、ふぅー……」

  ズリ……ズリ……

  ゆっくりと体を動かす。

  心臓はバクバク鳴り響き、体まで揺れているようだ。

  チョロッ……

  「やっ、だ、だめ……」

  我慢したのも束の間、今度は尿意を感じることなく、おしっこがおむつに漏れ出していく。

  下半身から力が抜け、膝ががくがくと揺れる。

  「やだっ、止まって、だめ……」

  ショロロ……

  おむつはすでに限界近くまで溜まっており、太ももの間からみるみる染み出していく。

  「や、やだ……見られちゃ……」

  リョウは震える膝に力を込めて、無理にでも歩みを進めようとした。

  ベシャッ

  しかし力が入らず、玄関目の前で大きく尻もちをついた。

  打ち付けたお尻がじんじんと痛む。

  シュウウウ……

  おむつの中から、恥ずかしいおもらしの音が絶えず聞こえてくる。

  「ふぐぅ……」

  リョウは力なく、地面にへたり込んでしった。

  立ち上がろうとするが、おもらし中の下半身にはまるで力が入らない。

  唇がプルプルと震え、視界が涙で滲む。

  心臓の音は、いまだ鳴りやまない。

  シュウ……

  玄関先に、おしっこの水たまりが広がっていく。