九月①_ひみつのおむつ 学校編

  また数週間が過ぎた。

  キーンコーンカーンコーン

  授業の終わりを告げる鐘が、校舎に響き渡る。

  じっとりとまとわりつくような、残暑を色濃く残す空気が教室内に漂っていた。

  長い夏休みが明け、日に焼けた者、髪を染めた者、各々それぞれに姿を変えた級友が、また校舎に通う日常へと戻されてからすでに数日が経った。

  「最近はやけに静かになったなー」

  授業が終わり、担任の教師が親しげに話しかけてきた。

  「べつに、なんでもねーよ」

  リョウはむすっと、そっぽを向いた。

  「ま、少しは素行がよくなったみたいだし、多少の校則違反は見逃しておくな」

  いつもの制服の下、履いているズボンが時代錯誤なボンタン姿になっている。

  たっぷりとした布が垂れさがり、下半身の形が分かりづらい。

  「あっそ……」

  リョウは唇を尖らせて、曖昧に返事した。

  顔は真っ赤になってうつむき、唇を噛んでいる。

  「夏休みはどうだ? 何か良いことでもあったか?」

  「うう……」

  リョウは黙ってうつむいた。

  ショロロロ……

  彼の股の間から、くぐもった水音が小さく流れる。

  夏休み、何度となく繰り返されたユウタのトレーニングによって、おもらしは治るどころか悪化の一途をたどってしまったのだ。

  「まあ、やんちゃが落ち着いたみたいで良かったよ。居眠りは減らそうな」

  顔を赤くして目を背ける。

  ショロロ……

  今では毎日のようにおむつをつけられたまま生活させられ、学校にもおむつを穿いたまま登校することになっている。

  「ん……」

  リョウは精一杯の悪態をついて見せる。

  チョロ……

  その下で、おしっこを吸収したおむつがぐっしょりと膨らみ始めている。

  誰かに気づかれたりしてないか。

  そんな不安に駆られ、心臓の鼓動が早鳴る。

  「はは、呼び止めて悪かった。もうちょっとで昼休みだ。居眠りせずに頑張れよ」

  「へいへい」

  悪態交じりで返答すると、教師は朗らかな顔をして立ち去った。

  チョロ……

  おしっこの音もとなり、股の間がグシュっと音を立てる。

  「ちっ……」

  ガタッ

  リョウは肩を怒らせながら、立ち上がる。

  両足が不自然に開いたがに股になっているが、だぼだぼのボンタンのせいで違和感は隠されている。

  ドスドス

  がに股のまま肩で風を切って闊歩し、廊下の人気の少ない場所へ移動する。

  おむつのせいで、足を閉じることができないのだ。

  周囲を見回しながらスマホを開き、ユウタへのメッセージを入力する。

  “頼む”

  恥ずかしくて、何をとは言わない。

  しかし、すでに何度となく交わしたやり取りだった。これだけで要件は十分に伝わる。

  “次は移動教室なんで”

  リョウの頭からさっと血の気が引いた。

  “そうか”

  唇を噛みながら、返信する。

  “次のお昼休みの時に、変えてあげますから”

  「くっそ……」

  リョウは周囲をギロりと睨みつけながら、両足を大きく開いてのしのしと歩く。

  クシュ……

  股の間からはおしっこを吸ってずっしりと垂れた感触が伝わる。

  幸い、ほとんどが吸水ポリマーに吸収されたらしく、それほど不快感は大きくない。

  それでもこの状態で、もう1つ授業を受けなくてはならない。リョウは顔を伏せ、なんとか目立たないようにすることだけ考えていた。

  キーンコーンカーンコーン。

  「じゃあ、君、読んでくれる?」

  国語の教師に指名されて、リョウは音読を促された。

  ガタッ

  席を立って教科書を手に取る。律儀に授業を受けるのは久しぶりだが、今は変に目立たないことだけが第一だ。

  「えっと……毛皮が濡れたのは、夜露のためではない」

  「うん、まあ、いいだろう。この、夜露のためではないの一文は、どう解釈すればいいと思う?」

  教師は続けて、質問をした。

  「えっと、夜露ためじゃない……から、それ以外の理由?」

  「お、そうだ。例えば何だ思う?」

  ブルッ

  夜に濡れたシーンを想像したせいか、体に寒気が走った。

  それと同時に、尿意がこみあげてくる。

  ついさっき漏らしたばかりなのに、しかも今は授業中だ。

  「つまり、何かで濡れてたってこと」

  唇を尖らせながら、平静を装う。

  それでも、頭の中では濡れた水のイメージがぐるぐると回り、連想するように尿意が高まってしまう。

  「おお、良いな。解釈はそれぞれあるが、思ったことを口に出してみろ」

  「えーっと、その……」

  頭の中は尿意を我慢することで一杯だった。

  顔を真っ赤にして、膝がプルプルと震える。

  ユウタのトレーニングのせいで、尿意を感じてから漏らすまで、耐えられる時間はほとんどなくなってしまっていた。

  「登場人物の心情とか、濡れるもので連想してみるんだ」

  濡れる。おしっこ……おもらし……

  催眠術のように、言葉の連鎖が何度も頭に繰り返される。それに反応するかのように、体も尿意が高まっていいく。

  「う……」

  口を真一文字に結ぶ。

  周囲をちらりと見回した。

  正午を目前に迫る、退屈な授業の一幕。生徒たちは銘々に

  机の上に突っ伏したり、居眠りをしたりしていたが、それでも教室の注目はリョウに向けられたままだ。

  リョウは必死に尿意に耐えている。

  顔は赤く、息遣いが荒い。

  「まあ、間違えても構わないからな」

  教師の言葉が、やけに遠くに聞こえる。

  リョウは両手で股間を押さえつけた。

  グシュ……グシュ……

  すでに一度おしっこを吸収した、おむつの感触が股間に伝わる。

  もう限界だった。

  「あ……その……」

  ショロロ……

  漏らしてしまった。

  「何か、思いついたか?」

  教師は熱心な顔で覗き込んできた。

  「お、おしっこ……しちゃった」

  思わず口をついてでた言葉に、ハッと顔を赤くした。

  いつものトレーニングだと、おしっこしたらすぐにユウタに知らせなくてはならないのだ。

  ……ドッ、ワハハ

  一瞬の沈黙の後、クラス中から笑いが巻き起こる。

  リョウは顔を真っ赤にして、慌てて身を縮こませた。

  「お、おしっこか。た、たしかに……な。ハハッ」

  教師までもつられて笑い出した。

  クラス全体が笑いに包まれるなか、リョウは肩を丸めて縮こまった。

  シュウウウ……

  身を縮めて立ったまま、おむつにおもらしをしてしまっている。

  「うっ……」

  顔を真っ赤にしてうつむく。

  「フフッ……笑ってすまない。まあ、虎だからな、おしっこで濡れることもあるだろう」

  「あ、いや……」

  幸いにもおもらしの音は、クラス全体の爆笑にかきけされたようだ。

  ショロ……

  水音が止み、おむつがまた一層重くなった。

  もこもこと膨らみ、いままで以上にがに股にさせられる。

  「おふざけも、ほどほどにな。多くの場合、このシーンは涙で濡れたと解釈されている」

  「お、おう」

  「ありがと、座っていいぞ……次」

  グシュ……

  二回もおもらししてしまった。

  何の気なしに椅子に座ってしまったが、横から漏れていたりしないだろうか。

  リョウの心配を他所に、授業は淡々と進んでいく。

  グシュ……グシュ……

  固い教室の椅子と、ぐっしょりとしたおむつの感触が伝わる。

  たぷたぷとやわらかく、まだほんのりと暖かい。

  リョウは漏れないよう祈りながら、授業が終わるのを待った。