日が傾き始めた夕暮れ。
晩夏の黄昏はこぢんまりとした銭湯にかかる大きな煙突を、一本の光の柱のように煌煌と照らした。
「ひ、一人で入れるってーの……」
リョウは口ごもるように言った
「おむつもとれない赤ちゃんが何言ってるんですかー?」
「こ、声がでけーよ!」
ユウタに怒られながら、リョウは銭湯ののれんをくぐった。
「恥ずかしそうにしてるほうが、かえって目立っちゃいますよ」
「う、うっせーよ……」
下駄箱で靴を脱ぐ。今どき珍しい木の鍵を見て、ユウタは少し嬉しそうだった。
それから、番台でお金を払い脱衣所へ入る。
「本当に裸なんですねー」
やや年配の人がちらほら見えるくらい、閑散としながらそれなりに賑わいのある客入りだった。
「銭湯なんだから、当然だろ」
誰もリョウたちを気にかけることはなく、ニコニコと談笑している。
「荷物とか、脱いだ服はどうするんですか?」
「棚が有るだろ、空いてる場所使うんだ」
「カギは?」
「こんな田舎の銭湯で、そんなのねえよ。でかい銭湯とか行けば鍵付きのやつもあったりするけどな」
「へ、へえー」
「番台さんも見てるし、よほどのことは起きねえよ」
「治安がいいんですねえ」
ユウタ物珍しそうに関心した。
「じゃあ、ここにしましょうか」
空いた棚の一つを指して、ユウタが言う。
「そっか、俺はあっちのにするわ」
リョウはそれに背を向けて歩こうとしたところだった。
「何言ってるんですか、こっちきて」
ユウタに首根っこを押さえられ、引き戻された。
「な、なに?」
「はい、ばんざ~い」
いつものようユウタが服を脱がせる催促をする。
「は? い、いやそんな……」
慌てて周囲を見回す。
心なしか目線を感じる気がする。
「赤ちゃんが、なにを大人ぶってるんですか」
ユウタは呆れた顔でスマホを取り出し、なにかのアプリを立ち上げた。
「い、いや、その、こんな場所で……」
「赤ちゃんがそんなこと気にしなくていいんですよ。、それとも、今月何回おねしょしたか、もう一度教えて欲しいですか?」
スマホ片手にニヤニヤ顔を覗かせる。
「うぅ……」
「リョウくんはおしっこが我慢出来ない赤ちゃんです。皆もそう思ってますよ」
「そ……んな」
ぷるぷると唇を噛む。
周囲の視線が刺さるが、過剰に反応するほど悪目立ちはしていないみたいだ。
「この前、おむつしてるって自分で近所に叫んだじゃないですか」
「あ、あれは、お前が勝手に窓を……」
「このあたりには、リョウくんが赤ちゃんだって、ちゃんと知られちゃってるんですよ」
「そんなこと……あるわけ……」
スマホをカバンに入れて、ユウタがぐいっと近づく
「さ、脱ぎ脱ぎしますよ。ほら、ばんざーい」
「や、やだ……」
リョウはもじもじとユウタの手を退ける。
「それともー?」
ペンペン
ユウタの手がお尻に伸びて、諭すよう軽く叩かれる。
「うぐぅ……」
お尻がキュッと縮こまる。
両手をへその前でぎゅっと握る。思わず目尻に涙が浮かぶ。
「しょうがないな、、そのままたっちしてめ」
ユウタは仕方なくリョウのズボンに手をかけた。
「わっ……ちょっと!」
思わず声を上げたが、いつもの調子のせいで体が咄嗟に動かない。
カチャカチャ……
手早くベルトが外される。
「おもらし赤ちゃんは、動かないでねー」
「うぅ……」
何も言い返せず、シャツの裾を握り直した。
シュルッ……ストンッ
ボンタンのようなダボダボのズボンが地面に落ちた。
そして大きなテープタイプのおむつがあらわになる。
「うーん。おもらしはしてないみたいですね」
クシュッ……
ユウタは前部を握り込みながら確かめた。
「うう、言うなよお。みんな、見てるって……」
チラチラと周囲の視線が刺さる気がするが、誰もが暖かな目でリョウを見つめている。
「ほら、誰も気にしてないですよ」
「うぅ……そんなぁ……」
まるで本当に子供だと思われているみたいだ。
「はい、ばんざーい」
ユウタがもう一度催促する。
「ん……」
肩を縮ませながら服を脱がせてもらう。ついにおむつ一丁の姿になった。
「ちょっとちびっちゃってるかなー?」
ユウタはおむつのゴムをぐいど引っ張って中を確かめる。
「お、おい」
引っ張られた隙間から、白い吸水部に包まれたおちんちんが見える。
その小さな蕾の先端周辺、吸水ポリマーがほんの少し黄色く染まっている。
「やっぱりー、気づてた?」
ユウタがゴムを引っ張ったまま、顔をあげる。
「あう……そ、それは……」
リョウは顔を赤らめて目を背けた。
「しちゃったら気付けるように、これから頑張ろうねー」
パチン
腰ゴムがおなかにぶつかる。
それから、くしゃりとユウタに頭を撫でられる。
「うぅ……」
小さな唸り声で返事した。
「じゃあ、僕も脱ぎますんでちょっと待ってください。」
「え?」
リョウは涙がにじんだ眼を持ち上げた。
「何を驚いているんですか? 僕も服を脱がないと、一緒に入れないですよ」
「で、でも、この恰好……」
全裸におむつ一丁。他には何も身に着けていない。
「待ってる間、おもらししちゃうかもしれませんからね」
「そんな……こと……」
しない。とは言い切れない自分が情けない。
リョウはおむつ一丁のまま、唇を尖らせて押し黙った。
まるで父親の着替えを待たされ、不貞腐れた赤ちゃんそのままの様子だ。
「じゃあ、良い子で待っててくださいね」
ユウタはロッカーへ向き直った。
カララ……
浴室の扉が開き、何人か子供たちが風呂からあがって来た。
高い声色があふれ出し、脱衣所が少し賑やかになる。
「あれー? おむつー」
少年の一人が小馬鹿にした様子でリョウの姿を見とがめる。
「あ……う……」
リョウは口をパクパク言わせながら、一瞬で耳の先端まで真っ赤になった。
「おや、にぎやかになってきましたねー」
ユウタがロッカーからスマホを取り出すと、何かのアプリを操作しているようだ。
「こんな……おれ、格好……」
「んー? 赤ちゃんがおむつ姿なのは当たり前ですよー?」
ユウタはニヤニヤ顔でアプリを操作しながら答えた。
「はら、早く体拭きなー」
少年の父親らしい声が通り、子供たちはそれぞれ体を拭いたり、パンツに足を通したりと脱衣所へと散った。
誰もがリョウのおむつ姿を見ているが、まるでそれが当然であるかのような眼差しだった。
「ほら、リョウくんはまだ赤ちゃんなんですよー?」
「いや……そんな……」
クシャ……
身じろぎするとおむつが衣擦れした音が響く。
「あ、トイレ行ってくるんで、ちょっと待っててくださいね」
「んなっ……」
反論の声も待たずに、ユウタはそそくさとその場を離れた。
リョウはおむつ一丁の姿で、脱衣所に立ち尽くすことになった。
「ちっ、見んなよガキども」
聞こえないような小声で悪態をついて見せる。
そんな様子など意に介さず、パンツ姿の子供たちはコーヒー牛乳なんかを飲みながら、楽しそうに談笑している。
同じ場所でリョウはおむつ以外すっぽんぽんの姿をさらけ出したまま、真っ赤な顔で立たされている。
まるで、どっちが子供かを見せつけられているみたいだ。
子供たちに「おむつ、取れてないんだ」なんて、クスクスと笑われたような声が聞こえる。
そのたびにリョウは顔を真っ赤にして俯いた。
「うう……」
恥ずかしさに顔伏せながら、ユウタが戻るのを待った。
地平へ落ちることをためらう太陽が、オレンジの光を落とす。湯気交じりの空気に触れ、周囲の風景を柔らかく光らせる。
視線の下で床に落ちた陽光を眺めながら、リョウは足の指をもじもじと所在なさげに動かした。
周囲の視線を否が応でも感じてしまい、はーはーと息が荒くなる。
わざと時間をかけているのか、ユウタはなかなか戻って来ない。
実際は数分程度だろうが、何時間も立たされているように感じる。
クシュ……
がに股に広げられた脚の間で、おむつが情けなく衣擦れた。
「くそっ」
恥ずかしくて今すぐ逃げだしたい気持ちだ。
バクバクと心臓の音が響く。
不思議なことに誰もリョウのおむつ姿を見咎めようとはしなかった。しかしリョウ自身は、真っ赤な顔で下唇を噛み締め、うつむいて周囲の視線を避けた。
ブルルッ……
秋の初めりを感じる爽やかな風が、ふわりと浴室を駆け抜ける。
リョウは太腿をこすり合わせ、ぶるっと震えた。
ショロ……
おむつの中から、ほんの少しだけちびった水音が聞こえた
「あぅ……」
おちんちんの先端が薄く湿るくらいの感触が伝わり、思わず唇を噛んだ。
外側からは分からないだろうが、それでも羞恥で頬を染め、目には涙を浮かべる。
子供たちのにクスクスと笑われる声が、また聞こえた気がした。
「ユウタ……まだかよ……」
肩を丸めて、へその手前で手をぎゅっとにぎる。
カサッ……
お尻に当てたおむつが、情けない音を立てる。
周囲ではリョウの半分の年齢にも満たないような子供たちが、各々自分の手で服を着替えて帰り支度を始めている。
そんな中、リョウはおむつ一丁のまま、真っ赤な顔で立ち尽くしていた。