次のリョウの出番は騎馬戦だった。
騎馬戦出場者の集まりに顔を出すと、リョウはクラスの中で特別体格の良い男子達と組まされた。
ガシッ
クラスメイトの組まれた肩を跨ぎ、リョウ騎馬の上に乗り込む。
リョウの騎馬の立ち位置は副将クラス。大将騎馬とは別に強力な騎馬を作り、切り込み隊長に使おうという作戦だ。
体躯の伸びたリョウは、さらに大柄なクラスメイトたちに持ち上げられ、出来上がりは周りの騎馬よりも一回り大きい。
「おおーっ!」
「いいぞーっ!」
クラスメイトからの声援が飛び交う。
「フンッ」
不機嫌に鼻を鳴らしながらも、片手を軽く上げて応える。
両足はピンと伸ばし、騎馬の上で立ち上がったままだ。
騎馬役のクラスメイトは「座っても良いぞー」といって肩を差し出してくれる。
「威嚇してんだよ」
リョウはそう言って、ギリギリと歯を軋らせながら断った。
それらしい言い分だが、ただ単に座れないだけだ。
クシュ……
身じろぎすると、体操服の下に隠れたおむつが衣擦れた音を鳴らした。
もし誰かがこれに触れたら、その感触にきっと違和感を持つことだろう。
「くそっ」
小声で悪態をついた。
いつもならリョウは体躯の良さを活かして騎馬役に回るところだ。
しかしながら今回の騎馬戦は、大将に良いように言いくるめられてしまった。
「では手筈通り、副将班と大将班に別れてください」
体躯の良い騎馬に乗ったユウタが、周囲に指示を出す。
頭にはチームに一騎の大将騎馬を示す金色のはちまきが乗っている。取ったら、他のはちまきより5点高い。
他のチームの大将と比べると、ユウタの体格はいかにも貧弱だが、手早く周囲に指示を回す姿は智将の風格だ。
「チッ……」
そのユウタの口車にのせられて、リョウはこうして騎馬の上に立たされている。
お尻を包むふっくらとしたおむつは、体操服の下でなんとか隠せているものの、その数センチの下にそれを知らない同級生達の腕が股の間をくぐっている。
クシュ……
身をよじると、体操服の下のおむつが音を立てた。
聞こえてないよな……?
周囲の歓声に打ち消され、ズボン下の小さな衣擦れたの音は誰にも聞こえていないのだが、リョウは一人顔を赤くする。
「魚鱗で中央突破します。副将は先駆けですから、くれぐれも落ちないように頑張ってください」
ユウタが一瞬だけ、あのニヤニヤ顔をリョウに見せた。
「フンッ……」
鼻を鳴らして悪態をつく。
何が、落ちないように。だ。
大将、ユウタのせいで、こんなところに担ぎ上げられてしまったのだ。
ぎぎぎ……
牙を剥き出して歯軋りする。
「やる気まんまんじゃん」
「怖えー……」
「頼んだぞー」
周りのクラスメイト達から、応援や軽口が飛ぶ。
クシュ……
視線を落とすと、おむつで膨らんだ股の間に、同級生の腕が二本通されている。
ここにぶつかってしまったら、体操服の下がおむつだとバレてしまうんじゃないだろうか……
リョウは唇を噛みながら、不安に身を震わせた。
パァンッ!!
乾いた空砲と共に、騎馬戦が始まった。
一列に並んだ互いのチームの騎馬がゾロゾロと動き出す。
「中央突破、狙うは大将だコラァ!」
威丈高に体を伸ばし、雄々しく声を上げて、リョウは自分の騎馬を進める。
その後ろに副将班として組分けされた幾人かの騎馬が続く。
「副将の後ろが一番安全です。大将班は続いて下さい」
ユウタの騎馬がリョウの後ろに続き、三角形に陣形が伸びる。
リョウはその突き出した先頭に位置する。
「かかってこいよ! なあ!」
日頃の鬱憤を晴らすように大暴れした。他の騎馬より頭一つ抜けたリョウの騎馬は、他の仲間に囲まれながら、次々と敵のはちまきを取り上げていく。
やられる前にやるし、負けるなら派手に倒れる。それならこの尻が誰かにぶつかる可能性も少ない。
それがリョウに考えられる限りの最善手だった。
「上がって来た!」
「勝ち目ねーぞ、囲め!」
「あいつ落とせば勝てる」
「足の骨折れ!」
わーわーと声を上げながら、相手の騎馬たちがリョウを取り囲み始める。
「集まって来やがった……」
すぐさま取り囲まれ、リョウの進軍が行き留まる。
ユウタは遠巻きにその様子を眺める。
「うーむ。大将班、ついてきてくたさい」
手早く言い放つとユウタの騎馬はリョウたちの背後を離れ、敵大将へ真っ直ぐと歩みを進めた。
「おい、敵大将出て来たぞ!」
「狙いに来た! 大将狙いだ」
「これ、一騎打ちか!」
想定外の行動に、敵も味方もざわついた。
リョウの副将班とユウタの大将班が2つに別れてしまったのだ。
「おい、どうなってる!?」
騎馬の先頭で肩を組む同級生が、リョウに指示を仰ぐ。
ユウタが自分から陣形を崩した。なんのために?
一騎打ちなんてそんな堂々としたこと、ユウタは絶対にしねー。
そもそも、まず大将が狙われないように陣形を組む作戦だったはずだ。
だからユウタの騎馬はそれほど強くない。相手大将と組み合ったところで、一分と持たずに負けることは目に見えている。
くそっ、考えるのは性に合わねー。
「ええーい、知るか! このまま前に行くぞ、狙いは最初っから敵大将だ!」
オウッと力強い返答が返り、リョウの騎馬がジリジリと進軍する。
「旋回します。大きく回り込んで下さい」
ユウタは数騎の味方を従えて、グラウンドの端へ端へと歩みを進めた。
味方も慌てて後を追うせいで、陣形もバラバラだ。
「大将が逃げた」
「追え! 倒せー!」
「大将戦だー!」
敵チームがゾロゾロとユウタの騎馬目掛けて、向きを変え始めた。
その先端が敵チームの大将騎馬だ。
「勝てないので逃げましょう。距離を開けつつ広がってくたさい」
前進したり後退したり、ユウタの率いる騎馬郡はグラウンドをふらふらと蛇行した。
「ここだ! 囲い込め」
その逃避行も虚しく、敵チームの大将がユウタの前に立ちふさがる。
選りすぐりの生徒で固められ、ユウタの騎馬より二回りは大きい。
「まず勝てないでしょうから、回り込みつつ様子見でお願いします」
ユウタは指示を出すとサッと身をかがめた。
ガッ
たちまち距離を詰められ、両大将騎馬が衝突する。
いくら小細工を弄したところで、高い体躯で頭上を抑えられ、ユウタの大将騎馬が崩れるのは時間の問題だった。
シュバッ
大将が持つ金色のはちまきが宙を舞う。
「おらー! 大将取ったぞー!」
高らかに上がった勝鬨は、リョウ声だった。
その手に敵大将のはちまきが握られている。
「あー、お疲れ様です。このまま包囲を狭めて、少しずつ削り取って下さい」
ユウタは何気ない顔で言い放った。
ユウタの大将騎馬に敵チームが目を奪われている間、リョウはそのまま敵陣を中央突破して大将まで真っ直ぐに走った。
そしてリョウとユウタ、それぞれに随伴した騎馬たちがその後に続く。
その先端が繋がり、陣形は円を描く。気づけばすっぽりと敵チームは周囲を取り囲まれていたのだった。
「よっしゃ、取り囲め!」
「押せ! 押せー!」
味方チームの掛け声と共に、みるみると敵の数が減っていく。
ピピーッ
終了の笛が鳴るころには、勝敗は歴然としていた。
「全員、整列!」
残っている騎馬は、騎馬のままグラウンドの中央に並ばされる。
リョウとユウタ、それぞれ騎馬も悠然と立っていた。
「いやー、うまくいって良かったです。さすがリョウくんですねー」
ユウタがへらへらと言う。
「フンッ……」
いつもの悪態をつく。少し照れくさい。
結果を聞くまでもなく、リョウたちの勝利だった。