「シミズ……でしたっけ?」
ユウタは観光パンフレット片手に眉をしかめる。
「これはキヨミズだ。清水寺」
ぶっきらぼうな顔のまま、リョウが横から口を挟んだ。
「むむむ……。どうしてこんな不可解が、頻繁に出てくるんですかね……」
「不可解なのは、俺の班分けだよ」
「え?」
今回の修学旅行は、行き先ごとにクラスバラバラの班編成になっていた。
そしてまた何の因果か、ユウタのクラスと同じ班に、リョウがまとめられていた。
「お前、何かやってねーか?」
「いやー、何のことでしょう」
ユウタはニヤニヤ顔で話をはぐらかした。
「ま、良いけどよ」
リョウはフンと鼻を鳴らす。
不可解ではあるが、少しありがたくもあったのだ。
クシュ……
お尻の下でおむつが衣擦れする音が聞こえる。
こんな下着を来て修学旅行に来ていることが、クラスメイトにだけはバレたくない。
いや、学校の誰にも知られたくないが、いつも顔を合わせている連中よりは、別のクラスの連中のほうがいくらか助かった。
「リョウくんは、仲良しのクラスメイトと一緒が良かったですか?」
「べつに、そんなに仲良くもねえし……」
リョウは唇を尖らせて、頭の上で手を組んだ。
「じゃあ、今回は僕たちと一緒に楽しみましょうよ」
「けっ……」
リョウはぶっきらぼうに一瞥した。
「そういや、この班は特進クラスばっかなのか?」
「そうですねー。まず僕と……」
ユウタがニコニコ顔で答える。
「僕も」「俺も」と周囲の同級生たちが賛同する
リョウ以外の全員が同意を示した。
「へーへー。そりゃ邪魔したな」
「もー、素直じゃないんですから」
隣でユウタが頬を膨らませている。
「はいはい。じゃ、二泊三日? よろしく」
リョウはぶっきらぼうに、むすっとした顔で一同を見回した。
ユウタの所属する特進クラスといえば、難関大学進学を前提にした編成で、授業も別カリキュラムになっている。
リョウのクラスとはどうやったって同じ教室にはならないし、学校には生徒数もそれなりにいる。
修学旅行が終わったら、もう会うこともないだろう。
「うんっ。よろしくねー」
一回り背の高い少年が、朗らかな人懐こい顔で返事した。
名前もいちいち覚えてなかったので、取り敢えずノッポと勝手に頭に入れた。
以前にどこかで会った気もするが、思い出せない。相手も覚えていないようなので、気にしないことにした。
「うん。そうだね」「よろしく」「おーう」
いの一番のノッポの言葉につられて、他の面々も歓迎の言葉を述べた。
秀才どもの集まりだからか、リョウのクラスメイトたちと比べて語気が柔らかい。
「リョウくん。よろしくお願いしますねー」
「お、おう……」
古式ゆかしい焦茶の木造に、紅葉を迎えた山々が美しく色彩を添える。
歴史ある古都は色鮮やかな季節を満面に称え、修学旅行生たちの活気に溢れた喧騒が、辺り一面に響いていた。
「キヨミズのブタイですか?」
「あー、なんだっけ? それ」
「何かの……ジオールド・セーイング……」
「俺も聞いたことあるな、清水寺の話だったはず」
二人で眉をしかめながら、清水寺の舞台を歩いた。
「キヨミズのブタイが、飛び、落ちる」
「多分。違う」
「飛び……る? 飛ぶ。キヨミズのブタイ」
「離れてる。多分。きっと」
「ここからキヨミズのブタイが飛んだんですかね」
「舞台は飛ばねーよ?」
「パラシュート部隊?」
「そっちのブタイか。知らねーけど、多分ちげーよ」
「ニンジャがやってるじゃないてすか。大きなカイトで」
「あれはフィクションだ。それに、忍者なんていねーの」
ポリポリポリと頭をかくユウタの隣で、リョウはくっくと笑う。
二人の間に、ノッポがぬっと顔を出してきた。
「『清水の舞台から飛び降りる』って言うのはー。大昔の俗習が慣用句になったらしいねー」
「飛び降りる。ニンジャがですか?」
ユウタは首を持ち上げて返事する。
「忍者はいなないよー」
「えー」
「だってー……あー」
ノッポはポリポリと頭を搔いて、一瞬だけ考え込んだ。
「じゃあユウタの国にはー、ダブルオー諜報機関が居るのー?」
「それは、“居ない”と答えることになっています」
ユウタは両手のピースサインを曲げるジェスチャーで答えた。
「じゃあ、忍者も“居ない”よー」
同じポーズをノッポがやってみせる
「なるほど」
ユウタの顔がパッと明るくなった。
よくわからんが、何かの話が成立していたらしい。
「リョウくんは、ユウタと仲良いのー?」
ノッポが、朗らかな顔でリョウに話しかけてくる。
一瞬、うっとなった。
「別に、仲良いわけじゃねーよ」
リョウはぶっきらぼうに返答する。
実際はハウスシェアで一緒に住んでいるんだが、余計な詮索はされたくない。
「えー、そう?」
ノッポは変に訝しむ顔を見せた。
「そう。べ、別に、こいつとは何もねーよ」
しどろもどろに、適当なごまかしを返す。
ユウタがいつもの調子で話しかけて来るので、つい応じてしまったが、この班でユウタとだけ仲が良いのもおかしいか……
とはいえ他のやつと馴れ合うつもりは無い。
「リョウくんとは、体育祭で知り合ったんですよ」
ニコリとした顔でユウタが、助け船を出してくれた。
「あ……あー。そういえば、騎馬戦出てたねー」
ノッポの顔が綻ぶ。誰にでも尻尾を振りそうな、人当たりの良さがにじみ出ている。
「ま、まあ。そういうこと」
リョウが早々に話を切り上げる。
隣でユウタがニヤニヤ笑いを浮かべながら、いつものスマホをいじってた。
少し歩くと開けた庭のような空間が広がり、樋に水が通され、3本の滝になって落ちている。
「多分。なんか、有名なやつ」
落ちてくる滝を見ながら、リョウは何の情報もない言葉をこぼした。
「フーリュウ、と言うものなんでしょうかね」
「知らねー」
チョロチョロ……
二人ほうけた顔で、流れ落ちる水を眺めた。
「何かを思い出しますねー」
ポンポン
ユウタは言いながら、お尻を叩いてくる。
ふっくらとしたおむつにあたり、軽い音が響く。
「なっなんだよっ」
リョウは真っ赤な顔で振り向く。
「リョウくんのは、もっと弱々しいというか、小さいというか」
「う、うるせっ。何の話だよ」
慌てて周囲を見回す。
騒がしい学生や観光客が、銘々に賑わいを見せる。
「そういえば、新幹線を降りてから、結構時間が経ってますよね?」
ポン……ポン……
今度は言い聞かせるように、ゆっくりとお尻を叩かれた。
クシュ……
身じろぎすると、お尻から衣擦れの音が聞こえる。
「あ、そ、そうだな」
チョロ……チョロ……
静かな賑わいのなか、水音が脳裏に響く
「あ、あ……」
気付いたときには、ほとんど限界といった様子だった。
足がガクガクと震えてくる。
「しーしー、大丈夫ですか?」
「あ、あう……」
リョウは顔を赤くして俯いた。
すぐ近くには観光客に同級生だって居る。こんな場所でお漏らしなんて……
「しーしー。どうですか?」
「やぅやめって……」
チョロチョロ……
滝の水音が、脳裏にこだまする。
内股に縮こまり、股間をギュッ都抑える。
厚手のおむつのせいで、中途半端な内股になった。
「あーあ。もう限界なんですねー」
状況を悟ったユウタは、楽しむようなニヤニヤ顔を浮かべる。
視界が滲み、周囲の雑踏が大きく聞こえる。
「あ、あぅ……」
くしゃっ
ユウタに頭を撫でられる。
「ほら、リョウくんのおトイレはそこですよ。赤ちゃんらしく、きちんとお漏らししましょうねー」
優しき言葉に顔がトロン都綻び、口元が緩む。
「い、いやっ」
ショロ……シュロロロ……
口先だけは威勢を保ちながら、下半身が温かい感触に包まれていく。
リョウは頬を真っ赤に染めて、唇を噛んだ。
ユウタの顔にはいつものニヤニヤ笑いが浮かんでいる。
「お漏らし、出来たみたいですねー」
おしっこで膨らんだおむつがズボンを押し上げてくる。
ポンポン
ユウタに股間部を軽く叩かれる。
「う、うう……」
リョウは顔を赤くし、無抵抗に直立している。
「おむつ換えてって、ちゃんと言えますかー?」
人前であることも憚らずに、ユウタが顔を近づける。
「そ、そんな……」
口に出そうとするが、ちらちらと周囲を見回してしまう。
あたりにはまだまだ人気が多く、同じ班の同級生たちもうろうろしている。
ゴクリと唾を飲み込むが、乾いた口が軽く鳴っただけだ。
はーはーと息を荒らげた。
「良い子ですから、ちゃんと言えますよねー」
くしゃくしゃ……
ユウタに頭を撫でられると、思わず顔が緩む。
言い返す気力も失せ、思わず言われるがままに従ってしまいそうだ。
「お……おむ……」
リョウが口を開きかけた時、後ろからまたノッポの呑気声が飛んできた。
「おーい、そろそろ移動するよー」
「あ、分かりました。すぐに行きます」
ユウタが顔をパッと入れ替え、返事をした。
「あ、そ、その……」
リョウは口をパクパクと動かした。
「ほら、他の皆が呼んでますし、行きますよ?」
「あ、あ、ああ」
グシュ……
お尻には濡れたおむつの感触。
頭の中はぐるぐるになって、考えがまとまらない。
「たくさん吸収できるタイプですから、大丈夫ですよ」
「い、いやっ……」
ポンポン……
ユウタにまたお尻を叩かれた。
お尻に湿った感触が伝わる。
「ちゃんとお願いできないなら、皆と一緒に行きますよ」
「う……うぅ。お、おむつ」
「んー?」
「おむつ。替えてくだ……さい」
消えそうな声を、なんとか喉からしぼりだした。
顔が真っ赤になって熱くなる。
「うん。よく言えましたねー」
クシャクシャ
「ん……」
ユウタに頭を撫でられる。
「じゃあ次の場所で、ちょっとだけ自由行動しましょうか」
ユウタは向き直りながら、クラスメイトたちの輪に入っていく。
グシュ……グシュ……
リョウは濡れたおむつのままユウタの後に続いた。