十一月⑯_そして、お漏らしをする

  修学旅行の集団は二階席へと通されていく。

  ドアの内側へと足を踏み入れると、緞帳のかかった舞台も広く、オーケストラが余裕を持って配置されていた。

  まばらに観客が入った客席からは、期待に満ちたざわめきが立ち上っている。

  「歌劇、楽しみですねー」

  案の定、隣の席はユウタだった。

  「僕は初めて見るなー」

  反対側はあのノッポだ。

  班組から席順まで、何かの意図を感じるが、もう邪推しても仕方ない。

  「僕も、こんなに立派な劇場は初めてですよ」

  朗らかな口調でリョウを挟んで喋る。

  子供扱いしないと言ってからのユウタは完璧だった。

  リョウとは話したことすらない風を装い、リョウの望み通り学校での関わりを最小限に留めている。

  「お弁当配られたけど、劇見ながら食べていいのかなー?」

  「トラディショナルスタイルですかね。落語は劇を見ながら弁当を食べるんでしたっけ……?」

  「寄席は色々特殊だから、作法が違うかもねー」

  「ふーむ。劇場もブリティッシュですし、判別が難しいですねー」

  頭上で二人の会話を聞き流しながら、リョウも手の平に置いた弁当に思い巡らす。

  生徒全員分、配られてたから受け取ったが、こんな場所の振る舞いなんて知るわけない。

  「うーん。おべんと休憩があるとか?」

  「ああ、インターバルですか。長い観劇にはインターバルがあるものです」

  「プログラムに、何か書いてあるかなー?」

  「これですかねー。マク……マ?」

  「幕間〈まくあい〉、かなー。」

  「インターバルに弁当。合理的ですね」

  「そーだねー」

  なるほど、晩飯を食う時間があるのか。などとひとりごちてるいる所に、開演のブザーが鳴った。

  場内の電灯が静かに明かりを絞っていく。

  程なくして緞帳が上がり、音と光に包まれた絢爛の舞台は、めくるめく広がった。

  息を呑む間もなく、リョウは舞台の世界へと没入した。

  時間はあっという間に過ぎ、劇場内に拍手が響く中、幕間の幕が下ろされた。

  「bravo!」

  湧き上がる歓声の中、隣でユウタも声を上げる。

  リョウも何か言ったほうが良いかと思ったが、一瞬気恥ずかしくなったので黙って拍手を送った。

  「ブラボー! すごーい!」

  反対隣のノッポは朗らかな顔で、口々に称賛の声を送る。

  次第に拍手の波は過ぎ、劇場に静寂が戻る。

  場内アナウンスが過ぎると、また静かなざわめきとともに、銘々に客席を離れたり、弁当へと箸を進める。

  「bravo? あれ? bravo-aでしたっけ?」

  ユウタが弁当に手を付けながら、リョウを挟んで反対側のノッポに笑いかけた。

  「えー、知らなーい。ブラボーは英語だから駄目だったかなー?」

  美味そうに弁当を食べながら、ノッポが呆けた顔で返す。

  「英語でも通じます。でもたしかbravoは男性名詞ですね。今回はbrava……でしたっけ?」

  「知らなーい。多分気にしてないよー」

  「日本語だと、何と言えば良いでしょう?」

  「たーまやー!」

  「なるほど、聞いたことがありますよ!」

  頭上で聞き流しながら、リョウがふっと吹き出してしまった。

  「嘘を教えんな!」

  いてもいられず二人会話に、リョウは思わず割って入ってしまった。

  ユウタとリョウ、そして修学旅行の一行は、大きな劇場で観劇を続ける。

  幕間が終わり、再度劇場が暗くなる。

  グビッ……

  弁当に付属していたお茶を一息に飲み干し、リョウは座席に腰を落とした。

  そう言えば、今日はほとんど水分をとってなかった。

  クシュッ……

  おしりの柔らかい感触が、恥ずかしい下着を思い出させる。

  ポンポン……

  隣からユウタの手が伸び、股間を軽く叩く。

  「……んだよ?」

  ショーが再開されるので、なるべく声を落として返す。

  「そろそろかなー、と思いまして……」

  「チッ……」

  華やかな音楽とともに、緞帳が上がる。

  豪華な衣装と艶やかな、歌と踊りが舞台を彩る。

  圧巻のパフォーマンスに目を奪われながら、どうしても集中力が削がれてしまっていた。

  クシュ……クシュ……

  音楽が耳元を抜けて行く中、リョウは苦々しい思いで太腿をさすっていた。

  いままで気にしていなかった尿意が、一気に下腹部に溜まってきた。

  「くっ……」

  幕間が終わってすぐの手前、このタイミングで席を立つのはバツが悪い。

  それでも、やっと普通の扱いに戻ったのに、また漏らしてしまったら……

  クシュ……クシュ……

  ふっくらとしたおむつの感触が、股間を揺らす。

  悶えるように、小さく足踏みしながらリョウは唇をきゅっと閉じた。

  ポンポン……

  隣から伸びた手に、ズボンの上から股間を軽く叩かれる。

  視線を上げると、ユウタがステージを見ながら、手だけを伸ばして股間を叩いている。

  ポンポン……

  こちらをチラとも見ないで、子供をあやすような手付きで、ユウタに優しく股間を撫でられる。

  無言で何かを諭すかのような手付きだ。

  「しー……しー……」

  ほんの小さな声でおしっこを促す言葉を、ユウタに耳元で囁かれた気がする。

  「うぅ……」

  意識した途端、尿意が一瞬で限界に達した。

  むしろ、いままで我慢できていたことが不思議なくらいだ。

  ポンポン……

  「あぅっ……うぅ……」

  小さなうめき声と共に、股間はいとも容易く決壊した。

  ショロロロ……

  ユウタに握られた手の平の内、柔らかなおむつの中に、おしっこを垂れ流す。

  音楽にかき消され誰にも聞こえないような小さな水音が、リョウにはありありと感じられた。

  ショロ……

  それでも、一度堰を切った尿意は止まらず、ゆっくりと時間をかけておしっこを吐き出した。

  まるで今日一日の分が、ようやく流れていくようだった。

  クシュ……クシュ……

  おむつはぷっくりと膨らみ、時折ユウタに揉みしだかれる。

  その刺激に促されるように、とめどなくお漏らしを続けた。

  「や、やめろよ……くそっ……」

  ショロ……ショ……

  少し経つと次第に勢いは削がれ始めたものの、自覚できないお漏らしがゆっくりと続いた。

  股間がじっとりの湿り、生暖かい感触に包まれる。

  リョウはおむつを隠すように内股に座り、両手で押さえこんだ。

  濡れたおむつの感触と共に、ユウタの顔が頭から離れなくなってきた。

  懐かしい記憶が止められた堰を切ったように、溢れてきたみたいだ。

  おむつが濡れたら、ユウタに言わないと。

  「うぅ……う……」

  情けない顔で隣の席に目をやると、ユウタがこちらを向いて、人差し指を一本立てた。

  シィッ……

  ユウタは音もなくリョウを嗜める。

  そして、股間を撫でていた手が離れ、頭へと伸びた。

  クシャクシャ……

  優しくユウタに撫でられる。

  久しぶりの感触に、トロンとまぶたが落ちそうになる。

  ステージには、煌煌と煌めく衣装が踊る。

  じわりと涙で歪んだ視界で、あらゆる情報が通り抜けていく。

  「あぅ……」

  クシャクシャ……

  頭を撫でるユウタの手に身を任せる。

  外界は音と光の明滅で覆い尽くされ、半開きの口からはよだれが垂れそうだ。

  ポフッ

  重い頭を傾げると、ユウタの肩に乗っかった。

  「ふふっ」

  ユウタは隣で軽く笑うと、何も言わずに肩に手を回してきた。

  それから視線を舞台に戻す。

  クシャクシャ……

  リョウは頭のてっぺんから顎にかけて、あやすように撫でられた。

  ポンポン……

  時折おむつで膨らんだ股間も、優しく撫でられる。

  ジワッ……

  何度目かも分からないお漏らしが、股間を濡らしていく。

  「あ……」

  ぼんやりとした視界と心地良い音楽。ユウタに股間を揉まれる感触。

  湿ったおむつが、グジュグジュと音を立てている。

  クシャ……

  ユウタに撫でられると、また顔が緩む。

  ショ……

  おしりから太ももにかけて温かく湿り、じんわりと外側に広がっていく。

  もしかすると、ズボンの外側までも濡れてしまっているかもしれない。

  それでも、華やかな舞台に魅入られた頭では、何も考えが回らなかった。

  頭では駄目だと分かっていながら、呆けた様子で口をぽかんと空け、ユウタの肩に体を預けてしまった。

  幕が降りるまでのことは、よく覚えていない。

  お漏らしは、おしりまでま濡れ広がり、シートまで湿っていることは恐らく間違いないだろう。