修学旅行の集団は二階席へと通されていく。
ドアの内側へと足を踏み入れると、緞帳のかかった舞台も広く、オーケストラが余裕を持って配置されていた。
まばらに観客が入った客席からは、期待に満ちたざわめきが立ち上っている。
「歌劇、楽しみですねー」
案の定、隣の席はユウタだった。
「僕は初めて見るなー」
反対側はあのノッポだ。
班組から席順まで、何かの意図を感じるが、もう邪推しても仕方ない。
「僕も、こんなに立派な劇場は初めてですよ」
朗らかな口調でリョウを挟んで喋る。
子供扱いしないと言ってからのユウタは完璧だった。
リョウとは話したことすらない風を装い、リョウの望み通り学校での関わりを最小限に留めている。
「お弁当配られたけど、劇見ながら食べていいのかなー?」
「トラディショナルスタイルですかね。落語は劇を見ながら弁当を食べるんでしたっけ……?」
「寄席は色々特殊だから、作法が違うかもねー」
「ふーむ。劇場もブリティッシュですし、判別が難しいですねー」
頭上で二人の会話を聞き流しながら、リョウも手の平に置いた弁当に思い巡らす。
生徒全員分、配られてたから受け取ったが、こんな場所の振る舞いなんて知るわけない。
「うーん。おべんと休憩があるとか?」
「ああ、インターバルですか。長い観劇にはインターバルがあるものです」
「プログラムに、何か書いてあるかなー?」
「これですかねー。マク……マ?」
「幕間〈まくあい〉、かなー。」
「インターバルに弁当。合理的ですね」
「そーだねー」
なるほど、晩飯を食う時間があるのか。などとひとりごちてるいる所に、開演のブザーが鳴った。
場内の電灯が静かに明かりを絞っていく。
程なくして緞帳が上がり、音と光に包まれた絢爛の舞台は、めくるめく広がった。
息を呑む間もなく、リョウは舞台の世界へと没入した。
時間はあっという間に過ぎ、劇場内に拍手が響く中、幕間の幕が下ろされた。
「bravo!」
湧き上がる歓声の中、隣でユウタも声を上げる。
リョウも何か言ったほうが良いかと思ったが、一瞬気恥ずかしくなったので黙って拍手を送った。
「ブラボー! すごーい!」
反対隣のノッポは朗らかな顔で、口々に称賛の声を送る。
次第に拍手の波は過ぎ、劇場に静寂が戻る。
場内アナウンスが過ぎると、また静かなざわめきとともに、銘々に客席を離れたり、弁当へと箸を進める。
「bravo? あれ? bravo-aでしたっけ?」
ユウタが弁当に手を付けながら、リョウを挟んで反対側のノッポに笑いかけた。
「えー、知らなーい。ブラボーは英語だから駄目だったかなー?」
美味そうに弁当を食べながら、ノッポが呆けた顔で返す。
「英語でも通じます。でもたしかbravoは男性名詞ですね。今回はbrava……でしたっけ?」
「知らなーい。多分気にしてないよー」
「日本語だと、何と言えば良いでしょう?」
「たーまやー!」
「なるほど、聞いたことがありますよ!」
頭上で聞き流しながら、リョウがふっと吹き出してしまった。
「嘘を教えんな!」
いてもいられず二人会話に、リョウは思わず割って入ってしまった。
ユウタとリョウ、そして修学旅行の一行は、大きな劇場で観劇を続ける。
幕間が終わり、再度劇場が暗くなる。
グビッ……
弁当に付属していたお茶を一息に飲み干し、リョウは座席に腰を落とした。
そう言えば、今日はほとんど水分をとってなかった。
クシュッ……
おしりの柔らかい感触が、恥ずかしい下着を思い出させる。
ポンポン……
隣からユウタの手が伸び、股間を軽く叩く。
「……んだよ?」
ショーが再開されるので、なるべく声を落として返す。
「そろそろかなー、と思いまして……」
「チッ……」
華やかな音楽とともに、緞帳が上がる。
豪華な衣装と艶やかな、歌と踊りが舞台を彩る。
圧巻のパフォーマンスに目を奪われながら、どうしても集中力が削がれてしまっていた。
クシュ……クシュ……
音楽が耳元を抜けて行く中、リョウは苦々しい思いで太腿をさすっていた。
いままで気にしていなかった尿意が、一気に下腹部に溜まってきた。
「くっ……」
幕間が終わってすぐの手前、このタイミングで席を立つのはバツが悪い。
それでも、やっと普通の扱いに戻ったのに、また漏らしてしまったら……
クシュ……クシュ……
ふっくらとしたおむつの感触が、股間を揺らす。
悶えるように、小さく足踏みしながらリョウは唇をきゅっと閉じた。
ポンポン……
隣から伸びた手に、ズボンの上から股間を軽く叩かれる。
視線を上げると、ユウタがステージを見ながら、手だけを伸ばして股間を叩いている。
ポンポン……
こちらをチラとも見ないで、子供をあやすような手付きで、ユウタに優しく股間を撫でられる。
無言で何かを諭すかのような手付きだ。
「しー……しー……」
ほんの小さな声でおしっこを促す言葉を、ユウタに耳元で囁かれた気がする。
「うぅ……」
意識した途端、尿意が一瞬で限界に達した。
むしろ、いままで我慢できていたことが不思議なくらいだ。
ポンポン……
「あぅっ……うぅ……」
小さなうめき声と共に、股間はいとも容易く決壊した。
ショロロロ……
ユウタに握られた手の平の内、柔らかなおむつの中に、おしっこを垂れ流す。
音楽にかき消され誰にも聞こえないような小さな水音が、リョウにはありありと感じられた。
ショロ……
それでも、一度堰を切った尿意は止まらず、ゆっくりと時間をかけておしっこを吐き出した。
まるで今日一日の分が、ようやく流れていくようだった。
クシュ……クシュ……
おむつはぷっくりと膨らみ、時折ユウタに揉みしだかれる。
その刺激に促されるように、とめどなくお漏らしを続けた。
「や、やめろよ……くそっ……」
ショロ……ショ……
少し経つと次第に勢いは削がれ始めたものの、自覚できないお漏らしがゆっくりと続いた。
股間がじっとりの湿り、生暖かい感触に包まれる。
リョウはおむつを隠すように内股に座り、両手で押さえこんだ。
濡れたおむつの感触と共に、ユウタの顔が頭から離れなくなってきた。
懐かしい記憶が止められた堰を切ったように、溢れてきたみたいだ。
おむつが濡れたら、ユウタに言わないと。
「うぅ……う……」
情けない顔で隣の席に目をやると、ユウタがこちらを向いて、人差し指を一本立てた。
シィッ……
ユウタは音もなくリョウを嗜める。
そして、股間を撫でていた手が離れ、頭へと伸びた。
クシャクシャ……
優しくユウタに撫でられる。
久しぶりの感触に、トロンとまぶたが落ちそうになる。
ステージには、煌煌と煌めく衣装が踊る。
じわりと涙で歪んだ視界で、あらゆる情報が通り抜けていく。
「あぅ……」
クシャクシャ……
頭を撫でるユウタの手に身を任せる。
外界は音と光の明滅で覆い尽くされ、半開きの口からはよだれが垂れそうだ。
ポフッ
重い頭を傾げると、ユウタの肩に乗っかった。
「ふふっ」
ユウタは隣で軽く笑うと、何も言わずに肩に手を回してきた。
それから視線を舞台に戻す。
クシャクシャ……
リョウは頭のてっぺんから顎にかけて、あやすように撫でられた。
ポンポン……
時折おむつで膨らんだ股間も、優しく撫でられる。
ジワッ……
何度目かも分からないお漏らしが、股間を濡らしていく。
「あ……」
ぼんやりとした視界と心地良い音楽。ユウタに股間を揉まれる感触。
湿ったおむつが、グジュグジュと音を立てている。
クシャ……
ユウタに撫でられると、また顔が緩む。
ショ……
おしりから太ももにかけて温かく湿り、じんわりと外側に広がっていく。
もしかすると、ズボンの外側までも濡れてしまっているかもしれない。
それでも、華やかな舞台に魅入られた頭では、何も考えが回らなかった。
頭では駄目だと分かっていながら、呆けた様子で口をぽかんと空け、ユウタの肩に体を預けてしまった。
幕が降りるまでのことは、よく覚えていない。
お漏らしは、おしりまでま濡れ広がり、シートまで湿っていることは恐らく間違いないだろう。