四月②_今夜からはおむつです

  学校が終わり、リョウは帰宅した。

  「ただいまー」

  「はいはい、おかえりー」

  先に帰ったユウタの声が聞こえる。帰宅の時間もわざわざずらしている。

  「もう少しでご飯出来るから、ちょっと待ってて」

  「おーう」

  リョウは部屋に戻って制服から着替える。

  少しすると、鼻孔をくすぐるいい匂いが漂ってきた。

  「いただきます」

  「おう、いただきます」

  食卓には少し不格好なスコッチエッグと白身魚のフライ、筑前煮、ごぼうの白和えが並んだ。

  「お手伝いさんの作り置きに、二品加えてみみましたけど、どうでしょう?」

  「いや、ふつーにどれも旨いよ。お前、料理上手じゃん」

  揚げたてのスコッチエッグをザクザクと口に放り込む。少し焦げついた所もあるが、素朴な味で十分旨い。

  「ありがとうこざいます。こっちはお皿が多くて大変ですねー」

  「ちょっと張り切りすぎじゃねーか? 俺は構わねーけど、そのへんの家より凝った晩飯だぞ」

  「ふむ……。ピザの出前も最近多かったですし、たまには日本らしい食卓を頑張ろうかと」

  「俺は毎日ピザでも良いけどなー」

  「僕は嫌です」

  取り留めのない話をしながら食事を終えると、それぞれ風呂に入る。

  風呂上がりにパジャマに着替えながら、リョウは普通のパンツに足を通す。起きてからベッドに入るまでの間は、普通のパンツを穿くことを許されていた。

  部屋に戻るとゲームをやったり、マンガを読んだり、下らないことで時間を過ごした。

  コンコンコン

  軽いノックの音がきこえる

  「おー、おう」

  リョウは渋った顔で返事をした。

  「さ、寝る前にお着替えですよー」

  部屋に入ってきたユウタの手には、見慣れないポップなパッケージが握られていた。

  「お、お前、それ……」

  「やだなー、紙おむつですよ。まだおねしょが続くなら穿いてもらうって、昨日約束したじゃないですかー」

  「そ、それは……」

  「夜は冷えますし、おねしょで風邪引いても困りますから」

  「うぅ……」

  「ほら、早くズボン脱いでください」

  ユウタがにっこりと笑いながら言った。

  「くっそ……」

  「自分でしないなら、無理やり脱がせますよ」

  「くぅ……わ、わかった」

  「ほら、早く」

  聞く耳持たず、ユウタはリョウのズボンに手をかけた。

  「わ、わかった、わかったよ」

  「んー? 何がですか?」

  ユウタがニヤニヤと顔をのそきこんで来る。

  「お、おむっ……穿けばいいんだろ!」

  「うんうん」

  「じ、自分で穿くから、よこせ、それ」

  「んー、まあパンツタイプですし、良いでしょう。」

  「ふん!」

  手渡されたおむつのパッケージを、リョウは半ば奪い取るように受け取った。

  中を開いてみると、まさに子供向けといったパステルカラーの可愛らしいイラストが散りばめられている。

  「こ、これを穿くのかよ……」

  「そうですよ」

  「なんで、こんな……子供みてーな」

  「子供向けのほうが手に入りやすいんですよ。値段も安いですし」

  「だからってこんなの、恥ずかしい……」

  「嫌だったら、自分で買いに行ってもらいますよ?」

  「う……」

  想像しただけで顔から火が出そうだった。

  「どうしますか?」

  恥ずかしいが、この家には俺とユウタしか住んでない。そらくらいなら……

  「分かった、分かったよ! 穿けばいいんだろ!」

  少しの逡巡の後、半ばヤケクソ気味に叫んだ

  「うんうん。良い子てすね」

  「うっせ。着替えるから出てけ」

  「はいはい。リビングに居ますから、着替え終わったら必ず来てくださいね」

  「う……そ、それ、要るのか?」

  「僕が迷惑するんです。それとも、トレーニングパンツを適当に穿いて、ベッドを盛大に濡らしたこと、忘れました?」

  「わ、分かったよ」

  「では、待ってますね」

  ……パタン

  ユウタはニヤけた顔で去って行った。

  「くそっ」

  ユウタが立ち去ったことを確認すると、リョウは勢い任せにズボンを脱いだ。

  そしておむつを広げる。

  薬局とかでたまに見かける、幼児向けの紙おむつだった。サイズはかなり大きめで、小柄な大人なら穿けそうなくらいだ。

  触るとクシュクシュと小気味良い音がする。

  「くっそ、マジかよ……」

  あまりの気恥しさに、目頭が熱くなる。夜風が冷たさを帯びてきて、パンツ姿でいると少し寒い。

  「だからって、こんなのて……」

  しかし、泣き言を言ったところで何も変わらない。

  リョウは意を決してパンツを脱いだ。

  「ほ、ホントに、穿くのか……」

  恐る恐る足を通す。

  柔らかい感触が太股まで包み込む。

  「くっ……」

  思い切っておむつを引き上げると、股間にふんわり包まれる感触が伝わってきた。

  リョウの顔が真っ赤に染まる。

  「こ、これで、いいんだよな」

  上も着ているし、下半身だけとはいえ、まるで幼稚園児のような姿だ。

  股間の前に大きな布の塊が置かれてるみたいで歩きづらいしなんだか慣れない。

  リビングに行くと、ユウタがなにやら難しげな本を読んでいた。diureticとかhypnotherapyとか何とか、ただでさえ苦手な英語のうえ見慣れない単語ばかりで、リョウにはちんぷんかんぷんだ。

  「こ、これでいいか?なんか動きづれーんだけど」

  おずおずとはなしかけると、ユウタは顔を上げた。

  「ぷっ」

  そして姿を見るなり、ユウタは吹き出した。

  「な、なんだよ! 笑うな!」

  「ごめん、ごめん。だって前と後ろ、逆なんだもん」

  「はぁ!?」

  リョウの顔が、尖った耳の先端まで赤くなった。

  「まえって書かれてる方がお腹側です。こっち、背中側ですよ。」

  「え、あ、そんな、書いてあるのか」

  「もう、しっかりしてくださいよ。ひらがなくらい読めますよね?」

  「は? い、いや、そんなの書いてあるとか、知らなかったし……」

  「ここでちゃん着せてあげましょうか?」

  「い、いらない! それくらい自分で分かる!」

  リョウはそそくさと自分の部屋に戻った。

  少し経って、もう一度リビングへ足を踏み入れる。

  お腹の前には、まえと書かれた文字がちゃんと見えている。

  「今度は大丈夫ですか?」

  「お、おう」

  リョウはユウタの前に立った。

  「パジャマの裾は持ち上げてください」

  「ええっ」

  「ちゃんと見えないじゃないですか」

  ユウタが有無を言わせぬ口調で言う。

  「う、うん」

  リョウは肩を丸めてパジャマの裾を握った。

  「手はここです」

  ユウタはリョウの手をパジャマごと、グイッと持ち上げた。

  ちょうどリョウの胸の前あたりの位置だ。

  「いや、これじゃ、丸出しじゃないか」

  リョウは恥ずかしそうにもじもじしている。

  「チェックですから、当たり前でしょう」

  ユウタは眉一つ動かさす言う。

  「そ、そりゃ、そうだけどさ」

  「ほら、動かないでください」

  リョウは腰を付き出すポーズでピンと立った。

  「まず腰のゴムはおヘソまで持ち上げること」

  ユウタがおむつの裾を持ち上げた。

  「うぅっ……くっ」

  勢い余って、リョウの股間がキュッと引き上げられた。

  「それから、ギャザーがあるはずです。」

  太ももの付け根からおむつの中に指を入れ、具合を確かめた。

  「ふぅ、ふっ」

  おしりから太ももの内側まで、物心ついてから誰にも触られたことのないような場所を撫でられ、思わず声がでた。

  「おちんちんの具合は良さそうですね」

  ユウタがおむつの上から股間をクシュっと握り込んだ。

  「ひぁっ」

  リョウはたまらずビクッと反応してしまう。

  「まあ、あそこがおむつからはみ出るような心配は、まず必要ないですけどね」

  「うぅ……」

  ユウタはニヤニヤしながら、満足げにおむつをポンポンと撫でた。

  これについては何も言い返せないのが悔しい……

  「さ、今日はもう寝ましょうか」

  ユウタが頭を撫でてくる。

  ガキみてーに扱うな。と言いたいところだが、こんな姿では言い返す気力もなくなる。

  「ああ……」

  リョウは力なく返事して、トボトボと自分の部屋へと戻りベッドに入った。

  「お今夜はおねしょしないと、いいですね」

  部屋の戸口に立ったユウタがにっこりと笑って言った。

  「う、うん」

  「おやすみなさい」

  「おやすみ」

  ユウタは電気を消し、ドアを閉めて去っていった。

  明日、おねしょが治ってるといいな……

  リョウは静寂のまどろみの中に落ちていった。