~Hero_Desire~番外編「黒に染まる」

  ディザイア。この世界に突如として現れた超能力だ。人の強い願いに応えて発現し、願いを叶える為の力を与えてくれる力。けれど、願いは欲望でもあり、その身勝手な欲望を叶えるためにディザイアを揮う者達、ヴィランが現れ始める。

  ヴィラン達はただ己の欲望を解き放つ者が多かったが、中には徒党を組んで悪事を為す者が現れ始めた。それらは悪の組織と呼ばれた。そんなヴィラン達と戦うために立ち上がったディザイア能力者、それがヒーローだ。

  そんなヒーロー達が集まりヴィラン達と戦うため、正式な国家機関として立ち上げられたヒーローの組織、ヒーロー協会。凶悪犯罪の多くがヴィランによるものとなり、警察に成り代わりヒーローが治安を維持するために戦う。

  これはそんな世界の、あるヒーローの物語。

  S県S市。かつては首都からこそ離れていたが政令指定都市であったものの、今やその首都から離れていることもあってヴィランによって多くを破壊され、そして復興されてきた街である。今は最前線からも少し外れて、ヒーローの手により治安も維持されつつある。

  しかし、決して平和ということはないのだ。

  ウーーーーーーーーーーー!

  『緊急警報!緊急警報!ヴィラン出現!一般市民の皆さんはすぐに非難して下さい!繰り返す……』

  陽炎が揺らめき蝉の鳴く季節の炎天下に、警報音と共にスピーカーからはけたたましい警告が流れ出す。それと共に市民の叫び声や悲鳴が聞こえてくる。悪の組織が現れたとあってはこの喧騒も止む無しだ。

  「とう!」

  騒ぎの中心へと空から飛び降りる。

  「燃え上がる勇気の炎、ブレイジング・ブレイブ!只今参上!」

  赤と黄色の燃える炎のような模様をあしらった、鍛え上げた体躯を惜しみなく見せ付ける、全身タイツタイプのボディスーツが身体を覆い、真っ赤なグローブを着け、ブーツを履いている。目元を緑色のレンズのバイザーが隠している、橙色の鬣を持つガタイのいい獅子獣人。それが俺、ヒーロー、ブレイジング・ブレイブの姿だ。

  周囲には全身を光沢する黒いスーツに覆われた雄の獣人達が俺のことを取り囲っている形になっている。まぁ、中心に自分で突っ込んだわけだけど。どいつもこいつも顔まで黒いラバー質に覆われていて、種族の判別すら難しくなっているものの、ガタイが良く、股間部にバキバキに勃起したモノがスーツに覆われながらもその存在を主張していることは同じだ。

  見ればすぐに分かる。【ザ・ブラック】という悪の組織の戦闘員だ。黒タイツの戦闘員は数いれど、頭までキッチリ覆い隠しているのは【ザ・ブラック】しか知らない。

  「来やがったな、ブレイジング・ブレイブ!」

  その中心に、他の奴らと同じく黒いスーツを着ているものの、頭はラバーで覆われておらず代わりに目元を覆う黒い覆面のようなマスクをした、灰毛の狼獣人だと分かる。他の奴らと同じくガタイが良く、腹筋の変わりに馬鹿デカいモノがいきり立ってその存在を主張している。

  「マスター・ブラック様に楯突く生意気なヒーローめが!このブラック・サンダーが貴様を始末してやる!」

  そう吠えると、ブラック・サンダーの身体から電撃がバリバリと放出され、スーツの胸元から股下に掛けて黄色くて太いギザギザの稲妻模様が現れる。無駄に凝ったスーツ作りやがって。さすがにブラックの名前を与えられてるだけはあるな。【ザ・ブラック】の構成員でブラックのコードネームを与えられている奴は他の名も無き戦闘員より格上だ。

  「やれ、戦闘員共!」

  「名乗り上げといていきなり部下任せかよ……!」

  サンダーが命令すると周囲の黒スーツの戦闘員達がわらわらと迫ってくる。粗雑な武器しか持ってない戦闘員達なんて、何人来たって同じことだ。

  「燃え上がれ!ブレイジング・オーラ!」

  両手から炎を吹き出して、右手に拳を作り左手の手の平に打ちつける。手の甲で炎が弾け、炎のオーラとなって俺を包み込む。そこに突撃してきた戦闘員達は炎に阻まれて足を止める。

  「ファイア!」

  そのまま両手を振り払えば、炎のオーラは周囲に飛び散り戦闘員達を吹き飛ばす。熱いだろうし痛みもあるだろうけど、全身ボディスーツに包まれてるから毛がチリチリにならないだけマシだろ。

  これが俺のディザイア。全身から炎を放つ力だ。単純な力ながら戦闘面での応用も利くし、何より強力な力だ。

  「[[rb:黒蝕の雷撃>ブラック・サンダー]]!」

  黒い電撃がサンダーの身体から放たれる。俺は両足から炎を吹き出して飛び上がり、雷を回避する。そのままブーツで炎を制御して飛行状態を維持する。見た目通りの雷の力か。俺が避けたことで閉じられたシャッターに向かって雷が直撃して、シャッターは音を立ててぶち壊れて黒焦げた跡を残す。直撃は確実にまずいな。

  「まだまだぁ!」

  飛び上がった俺に更なる雷撃が飛んでくる。速いし威力もバカ高いとはいえ、所詮直線の攻撃。来るのが分かれば避けるのも容易い。

  ドォンッ!ガシャァンッ!

  後ろでビルの側面に当たり、壁が壊れ窓ガラスが割れる音がする。あんなの身を挺して庇おうものならこちらが危ないが、これ以上被害は出せない。ならば速攻を仕掛けるのみだ!

  「炎の鉄拳、食らわせてやるぜ!ブレイジング・ナックル!」

  ブーツに炎を溜めて爆発を起こして、空から高速で飛び出した拳を一発、サンダーの頬にお見舞いしてやる。反応こそしていたものの間に合わずに、サンダーは大きく仰け反る。

  「もう一発!」

  着地した直後にもう一発、今度は腹を狙って拳を放つ。肘から炎を吹き出して加速した一撃も、サンダーの腹に綺麗に入り、その身体が宙へと浮いて、背中からコンクリートの地面に叩きつけられる。

  「へっ、もう終わりか?」

  挑発してみるも、サンダーは仰向けに倒れたまま起き上がってこない。本当に一発ボディに入っただけで落ちたか。まぁ、手ごたえは十分あったし……。

  バチリッ

  倒れていたはずの雑魚戦闘員達が一斉に立ち上がる。その身体の周囲には黒い雷光が静電気のように纏わり付いている。クソッ、ただの雷の能力じゃなかったか!

  「クタバ……レェ……!?」

  黒い雷を纏って俺に飛び掛らん勢いだった戦闘員達が再び倒れていく。

  「今度こそ、くたばれ!」

  再度炎を右手に集中させて、サンダーの腹を殴り付けると共に炎を噴出する。インパクトと共に火柱が上がり、サンダーの身体を燃やす。ここまですりゃ、さすがに気絶するだろ。

  「相変わらず詰めの甘い奴だ」

  後ろからいきなり嫌味を言われる。振り返れば、青をベースに紺や空色を散りばめた迷彩模様のボディスーツを着た、黒っぽい羽に黄色い嘴の大鷲鳥人が歩いてきていた。ゴーグルタイプのジャミングマスクをしていて、手にはスナイパーライフルを二丁、両手に持っている。

  「おせぇよ、何やってたんだガンズ」

  こいつはインフィニティ・ガンズ。銃を生成するディザイアを持つヒーローで、まぁ、俺のバディだ。腕は確かなんだけどなぁ……。

  「ここ以外に現れた戦闘員を片付けていたら、詰めの甘いお前がピンチだったわけだ」

  「一言余計だっつうの」

  冷静で頭の回る切れ者、とは言われちゃいるし、まぁ事実でもあるが、とにかく口が悪い。腕は立つし正義感も十分でヒーローとしての資質もあるんだけど……なんかなぁ。

  「今日は殺してないだろうな」

  「今回はゴム弾だ。それよりさっさと確保するぞ」

  「分かってる」

  事後処理のために警察が既に来てるから、任せればいいといえばいいんだけどな、数も多いし負傷してない時くらい手伝ってやらねぇとな。それも、ヒーローの仕事だ。

  ---[newpage]

  この世界にディザイアが発現して、十年が経った。

  俺、[[rb:赤獅子>あかじし]][[rb:豪火>ごうか]]がヒーローになったのは十二歳の時、ヴィランに襲われた際にディザイアが発現したを切っ掛けに、新設されたばかりのヒーロー協会にスカウトされて少年ヒーローとなった。当時はまだ少年ヒーローの制度も、それどころかヒーロー協会の制度すらちゃんと出来てなかった時代だったから、子供だろうが最前線でヴィランと戦っていた。

  ヒーローは俺の天職だった。理不尽な悪と戦い皆を救う。感謝されないことなんていくらでもある。いわれのない誹謗中傷を受けることもある。けど、わずかな感謝の言葉だけで、俺は十分に頑張れる。金やら待遇やら、そんなのどうでもいい。ブレイジング・ブレイブとして戦えるのは俺だけなんだ。正義の心を燃やして得た願いの力をヒーローとして揮う。それこそ俺の生き甲斐だ。

  「何を黄昏ているんだ」

  夕方、ヒーロー協会S市支部の屋上の手摺りに身を預けてぼんやりしていると、大鷲獣人が俺にそう声を掛けて来る。インフィニティ・ガンズこと、[[rb:青鷲>あおわし]][[rb:十紀>とうき]]だ。夏場なのもあってノーネクタイで半袖のカッターシャツにスラックスだけど、何処か固い印象がある。俺がTシャツ一枚にジーパンなせいだろうか。

  「俺が黄昏てちゃいけねぇか?」

  「珍しいと思っただけだ」

  そう返してきて、十紀は俺の隣に来る。こいつも俺と同じ二十二歳で同期ということになる。十六でディザイアに覚醒した十紀よりも、俺の方が少年ヒーローとしての実績はあるからヒーローとしてのキャリアは長い。けど、十紀はそんなことお構いなしに、俺をぞんざいに扱う。まぁ、バディから変に畏まられても困るけどさ。

  「火を貸してくれ」

  何を言って来るかと思えば、いきなり煙草の先を向けられてそう頼まれる。ぞんざいっていう扱いじゃねぇだろ……いつものことと言えばいつものことだけど。

  「テメェなぁ……いっつも言ってるけど、俺のディザイアをなんだと思ってるんだよ」

  「ライターから灼熱の猛火まで、自由自在な炎の力だろ」

  それでも皮肉の一つ言ってやらないと気が済まなかったけど、淡々と事実を告げられて俺は諦めた。指先からライター程度の小さな炎を呼び出して、十紀の煙草の先に火を点ける。それを確認してから、十紀は嘴で煙草を咥えて、一度大きく息を吸ってから、俺に掛からないように上へと煙を吐き出す。

  「吸うか?」

  「吸わねぇよ。身体が資本なんだから、ちったぁ自分の身体に気遣えよな」

  箱から一本突き出してから俺に向けて、喫煙を勧めてくるのを俺は丁重に断る。わざわざ自分で健康を害するようなことは出来ない。

  「抑圧ばかりでストレスを溜めても、それはそれで身体に悪いと思うぞ」

  「そもそも吸いたいと思わねぇから、それはねぇよ」

  「そうか。それは悪かったな」

  十紀は飛び出した煙草を箱に戻してから、煙草の箱をスラックスの後ろポケットにしまう。いつもなら一緒にいるときに煙草を吸う場面もないから、勧められたのは初めてだ。

  「てか、なんでここで吸ってんだよ」

  「喫煙所がこの支部にないから、屋上で吸う他ないからだが」

  「ってことは、いつもここで吸ってんのか?」

  「そうなるな」

  俺が知らなかっただけのようだ。確かに、支部のビルの中で喫煙所なんてなかったな。まだS県が最前線だった頃の名残で多少広い地下のあるビルとはいえ、上は三階建ての小さなビルだし、無くても不思議じゃない。

  「【ザ・ブラック】の出現、今月だけで既に五件目か」

  「まだアジトの場所も掴めてねぇんだよな……」

  【ザ・ブラック】の構成員達は街中にいきなり現れている。テレポーターによって突然現れているとも、一般人の中に構成員を紛れ込ませて、襲撃の際に変身しているとも言われている。とにもかくにも目撃証言が少なくて、それらも過去の事例からの推測に過ぎないのが問題だ。

  「俺達には探索能力はほとんど無いんだ。焦ったところで出来ることは知れている」

  「分かってるよ。分かってるから、余計に歯痒いんだよ」

  「そうだな……被害者も多い。アジトを発見し次第強襲したいところだな」

  サラッと言ってるけど、こいつはたまに過激だ。俺には冷静に振舞えとか言うくせに。まぁ、意見としては賛成だけどな。

  「しっかし……拉致の手順さえまだ分からないのはなんとかなんねぇのかって思っちまうな。このままじゃ注意喚起も具体的に出来やしねぇ」

  困ったことに今のところ行方不明者に共通点がない。戦闘員として表に出て来ている洗脳された一般人は、総じてムキムキの筋肉の男という共通点はあるものの、それ以外は特にない。ブラックのコードネームを持ってる幹部らしき奴らも、概ね同じ特徴だ。

  「そういや、逮捕した奴からの聞き込みは進んでねぇのか?」

  「ああ。戦闘員は身体からスーツを分離するだけでも一苦労な状態で、ディザイアによる洗脳のせいか、まともに口を聞ける者もいない状態だ」

  「クソッ、なんてことしやがるんだ……!」

  何にも関係ない一般人を拉致して戦闘員にするだけでも十分過ぎるくらい非道な悪行だというのに、再起不能状態にするなんて……絶対に許せない。

  「コードネーム持ちは。ブラック・サンダーだっけか、あいつは殺さずに捕まえただろ」

  あいつ『は』だ。向こうの抵抗が激しすぎて、【ザ・ブラック】のコードネーム持ちを生きて捕らえられたのは、これが初めてだ。戦闘員とは違って荒々しいとはいえ意志はあったから、危機的状況にあったこともあって、ヴィランとして処理するざ終えなかった。

  「残念だがヒーロー協会への恨み言を喚き散らすばかりで、何も話す気が無いらしい。銃を向けても『殺すなら殺しやがれ』と言う始末だ」

  「はぁ……となると、マインドハック能力持ちが来るまでは進展しないか……」

  本部になら心を読めるディザイアや記憶を覗くディザイアを持っている調査員がいるんだけど、如何せん色んな支部、ばかりか警察でさえ調査の依頼をしてくるもんだから、どこからも引っ張りだこですぐすぐ来てもらえないんだ。

  「……一度、取り逃がして泳がせることも検討した方が良いかも知れないな」

  「んなこと……!いや、作戦としてはいいのかもしれねぇけど、ヴィランを見逃すなんて、俺にはできねぇ」

  アジトの場所を把握するために、ヴィランを逃げ帰らせる。作戦としてはいいんだろうけど、それはヴィランとの戦いに手を抜けと言っているようなものだ。逃げる意志のある、つまり自分の意志でヴィランとして行動しているヴィランを、逃がすわけにはいかない。

  「全く……融通の利かない奴だ」

  一度大きく煙を吐き出して、十紀は半笑いながら呆れ気味にそう言ってくる。

  「まっ、そういうところは嫌いではないが……」

  「え?」

  「なんでもない」

  一瞬らしくない言葉が聞こえた気がしたけど、それを誤魔化すように十紀は銀色で筒状の携帯灰皿に、短くなった煙草を放り込む。まさか、十紀が照れ隠し?そんな馬鹿な。

  「まぁいいや。ともかく、戦力の殆どが最前線に持って行かれて、街の防衛が出来るのは俺達だけなんだ。そんなリスク犯して一般人への被害が拡大しちゃ、元も子もねぇだろ」

  「……そうだな。たった二人しか戦力がいない今、敵に情報を持ち帰られるくらいなら、しっかりと殲滅しておいた方が賢明、か」

  「……お前、たまに物騒だよな」

  何もそんなこと考えて言ったつもりは無かった。たまーにだけど、十紀ってダークヒーロー寄りなんじゃねぇかなって思うことがある。

  「物騒と言われる筋合いはないだろう」

  「ヒーローが殲滅なんて言うかよ、普通」

  「口にしようがしまいが、やることには変わりないだろう。だったら自覚がある方が、まだまともだと思うが」

  「むぅ……そう言われれば確かにそうだろうけど、ヒーローらしくないことはしたくないし……」

  十紀の言わんとすることも分かる。自分の行動に責任を持つという意味でなら、ちゃんと何をしているかの自覚のために言葉にするというのは大いにありだろう。けど、それでも俺はヒーローだ。ヒーローである以上、常にヒーローらしくあらないとだ。

  「はぁ……少しは気を抜いたらどうだ。いつもヒーローで疲れないのかお前は」

  「疲れなんかしねぇよ。俺はずっとヒーローだったんだ。ヒーローでなかった時の方が短いくらいなんだぜ?」

  認識ジャミングマスクがあるとはいえ、ブレイジング・ブレイブが赤獅子豪火であることを知ってる人は多い。まだそんなものなかった時代から、ブレイジング・ブレイブの名前で活動してきたから、それも当然だ。だから、俺がヒーローであることは当然じゃないといけないんだ。オフだからって俺がヒーローであることには変わりない。

  「……まぁ、お前がそれでいいならいいんだけどな……」

  なんだか寂しそうにそう呟くと、十紀は振り返りそのまま屋上を後にするよう歩いて行く。

  「なんだったんだ?」

  十紀が出て行って完全に姿が見えなくなってから、俺の口から自然と言葉が零れていた。本当になんだったんだろう、あいつ。ちょっと変だった気もするけど……少し変わってるのはいつものことか。

  俺はもう一度夕焼けに染まる街を見る。復興したばかりで高い建物も少ないこの街は、三階のビルからでも十分見回せる。俺達が守るべき街。俺が守り続けてきた街。その街を眺めて、拳を握り、俺は改めて【ザ・ブラック】の討伐が進むことを願う。

  ---[newpage]

  「ブラック・ホール、報告を」

  「ハッ、マスター・ブラック様。ブラック・サンダーと戦闘員はヒーローに捕縛されました」

  「ふむ、まともな戦力はたった二人だというのに、侵略が進まないのは由々しき事態だな」

  「やはり、大規模侵攻のためにしばし力を溜めなくてはならないのでは……適性者もそう多くありませんし」

  「それでは遅過ぎる。お前の言う通り適性者が少ないのだ。いくら雑兵を増やしたところで戦力にはならん」

  「では、今度は私が……」

  「いいや、お前が正面からブレイジング・ブレイブとインフィニティ・ガンズにぶつかったところで、百の雑兵を率いたとしても勝ち目はない」

  「……でしたら、しばらくは……」

  「そこでだ。これよりこちらの戦力の増強と敵の戦力の低下、両方を同時に行う策を決行しようではないか」

  「そのような策がおありなのですか?」

  「何、やることはいつもとそう変わらない。我が力を以ってして新たなる兵を作り出す。その新たな兵は……ブレイジング・ブレイブだ」

  「なるほど……しかし、そのためにはまず、ブレイジング・ブレイブを捕獲しなくてはなりませんが……」

  「何、打ち倒して連れてくる必要はないのだ。既にブレイジング・ブレイブを捕獲しておくための装置は作っている。罠に嵌めるのは、お前の仕事だ」

  パチンとマスター・ブラックが指を鳴らせば、ブラック・ホールの後ろがスポットライトで照らされる。

  「……これは……?」

  「これは……のためのものだ。安直なものだが、奴には効果覿面だ」

  「さすがは我らがマスター・ブラック様。分かりました。必ず彼奴、ブレイジング・ブレイブを貴方の策に貶めましょう」

  「期待しているぞ、ブラック・ホールよ」

  それまで淡々としていたブラック・ホールの頬が吊り上がる。新たなる悪意が、今動き出そうとしていた。

  ---[newpage]

  その日の夜。いつものように見回りがてらランニングをしていた。拉致されている時間は昼夜関係ないようだが、やはり夜が多いだろうというのは、安直だろうけど確実じゃないかと思ってる。

  明かりの少ない路地を選んで走っているから、人とすれ違うこともない。一応夜の一人歩きはなるべくしないようにという注意喚起が効いているのだと思いたいところだ。

  人気のない公園で、俺は足を止める。街灯もろくにないこの公園なのに、妙に人の気配がする。こちらを見る視線を感じる。

  「俺に何か用か?」

  「さすがはヒーローだ、気配には敏感なのですね」

  手の中に炎を呼び出して暗闇を照らせば、胸元に白で三日月のようなマークの描かれた、真っ黒なボディスーツを着た、顔の半々が白毛と黒毛の兎獣人が立っていた。細身で、しかしボディスーツに浮かび上がる筋肉からすれば、細マッチョというやつのようだ。目元にはブラック・サンダーと同じく黒いマスクをしている。

  「テメェ、【ザ・ブラック】の奴か?」

  「いかにも。私はブラック・ホール。我が主マスター・ブラック様の命に従い、貴方を……拉致させていただきに来た次第です」

  「んなっ!」

  ブラック・ホールが喋っている間に、急に足元が消える。咄嗟に足から炎を吹き出して飛び上がることでなんとか落下は避けられた。変身してない時にディザイアを使うと服も靴も靴下も、全部燃えちまうってのに何してくれやがんだ。

  「おや、さすがにこの程度ではブレイジング・ブレイブは捕らえられませんか」

  「[[rb:変身>トランスフォーム]]!ブレイジング・ブレイブ!」

  右手に装着した腕輪に手を当てて、俺は変身を宣言する。瞬間白い光が一瞬身体全体を包み込み、すぐに光は弾けて変身は完了する。昼間と同じ、赤と黄色の炎のスーツだ。

  「拉致なんてされるか!テメェをとっ捕まえて、アジトの場所を吐かせてやる!」

  「おお、怖い怖い、ヒーローというのは野蛮なのですね」

  ブーツから炎を吹き出して飛行していき、そのまま殴り掛かるも、ホールの姿が掻き消える。おそらくあの穴を開いて別の場所へと移動するのがあいつのディザイアなんだろう。そういう力なら、戦闘員が何処から現れたか分からない謎も解ける。となれば次に現れる場所を予測……なんて必要ねぇ。

  「ブレイジング・オーラ!」

  炎のオーラを身体に纏えば、あいつからの攻撃は防げるはずだ。ついでに炎で視界も確保出来て、奴を捕捉できる。さぁ、何処に居やがる……!?

  「こちらですよ、ヒーローさん」

  後ろの雑木林の中から、ホールの声がする。振り返ればその姿を確かに捉えられる。だが、さっきのように逃げられては無駄に消耗するだけになるから、ここは一気に仕掛ける。

  「どうしたのですか?あまり悠長にしていては、また一人行方不明者が出ますよ?」

  ホールがぱちんと指を鳴らす。そうか、こいつの力でいきなり拉致されたなら、一般人は抵抗しようがない。こいつは絶対に捕らえないと、最悪の場合排除しないとまずい。

  よし、これなら十分だ。

  「ブレイジング……」

  バァンッ!

  「ロケットォ!」

  ブレイジング・オーラを一点に集中させて爆発させることで、急加速を行い突っ込む。いくらあいつが反応しても、飛び降りる前に届くはずだ!

  バシャァンッ!

  「!?」

  一瞬、何が起こったか理解できなかった。ホールに拳が届く直前で、いきなり水にぶつかってそのまま水中に飛び込んでしまったのだ。勢い余ってガラス面らしきものに頭からぶつかってしまい、ガラス越しに醜態を晒してしまったことだろう。

  「短期決戦を狙ったのでしょうが、無用心過ぎましたねぇ」

  ガラスの向こう側に、ホールが降りてくる。俺はガラス面を何度も殴り付ける。しかし炎の加速もなく水の抵抗で減速した拳では、ガラス面に罅すら入れられない。

  「いくら貴方が強かろうとも、水の中では無力に等しい。何、窒息死なんてさせるつもりはありませんから安心してください」

  何が安心してくださいだ!クソッ、とにかく支部に信号を送ってこの場所を……。

  「っ!」

  バイザーに手を伸ばそうとすると、背面からアームが飛び出してきて、俺の四肢と胴体を掴み拘束してくる。水の中でディザイアも使えないし、身体に力が入らないせいで強引に引き剥がすことすら出来ない。

  「がばっ!」

  急に身体に電流を流されて叫び声を上げそうになるも、水中では声が出ず、口の中に水が入り込んでくる。マズイ、これじゃ溺死して……?あれ、呼吸できる……?

  「存外容易く捕らえられたものだな」

  電流を流されたせいでか、まだ目がチカチカするもなんとか声のする方へと目を凝らす。見れば黒一色のボディスーツに黒い翼を背中に背負った鳥人、恐らく鴉鳥人だった。黒い身体に黒いボディスーツのせいで、影が歩いているような、そんな風にさえ見える。

  「よくやった、ブラック・ホールよ」

  「お褒めに預かり光栄です、マスター・ブラック様」

  先ほどまでの冷静な態度とは打って変わり、ホールはマスター・ブラックと呼ばれた男の前に跪き、色の篭もった言葉を吐き出す。

  「後で褒美をやろう。今はこのヒーローに話しをする必要があるのでな」

  マスター・ブラックの股間に顔を近づけようとしていたホールを手で制して、マスターが俺の前へと歩いてくる。

  「単刀直入に行こう。ヒーロー、ブレイジング・ブレイブよ。我らが【ザ・ブラック】の下僕となれ」

  「っぼごがばっ!」

  ふざけんな!と声に出したつもりだったが、水中ではただ気泡が零れるばかりだった。いきなり何を言い出すかと思えば、ふざけてんのかこいつは!誰がヴィランの下僕になんかなるもんか!

  「ふむ、随分と反抗的だ。あまり時間を掛ける暇はないが仕方ない。まずはじっくりと痛め付けることにしようか。電流を流せ」

  「がああああ!」

  マスター・ブラックの宣言と共に、アームからか電流が流れ始めて、水中だというのに身体が焼け焦げそうな痛みが全身を駆け巡る。クソッ、たかだか痛み如きで屈するもんか。

  「さて、しばらく見物するとしようか。ブラック・ホールよ、ご褒美だ」

  「はい、マスター・ブラック様」

  ブラック・ホールが答えると、穴から豪奢な椅子がすぐ側に現れる。そこにマスター・ブラックが肩肘を着いて座る。待ってましたと言わんばかりにホールがマスターの股間へと飛びつく。俺は何を見せられてるんだ……。

  クソッ……呼吸こそ出来ているようで、息苦しくなって来た。俺のそんな状態などお構いなしに、ホールはマスター・ブラックの股間を艶めかしく舐め回している。うえぇ……スーツ越しとはいえ、男のナニを舐めるとか……どんな神経してんだよ……しかもあんな息荒くして恍惚の表情で。

  「ふむ、調教の内容が決定したな」

  ダメだ……意識が飛びそうだ……このまま意識を手放した方が楽だろうけど、それじゃ何されるか……いや、そもそもヒーローがこんな程度で屈するわけにはいかない……!

  「耐えても苦しいだけだぞ?」

  「ごぼっ……がばっ……」

  誰が……屈する……もんか……。

  ---[newpage]

  「んっ……」

  気付けば意識を失ってしまっていたようだ。霞む意識の中であいつらの行為を見せ付けられていたけど、何なんだよ……。

  薄暗い中で現状を確認する。水槽からは出されたものの、天井からの紐状の黒いゴムで腕を吊るされて、足にもゴム質の枷がされて床と繋がれている。目視こそ出来ないものの首は冷たい感触があるのは、首輪がされているということか。ヒーロースーツはそのままみたいだが、俺の力でも焼けないスーツが所々煤けている。視界からしてバイザーは取られているようだ。

  ゴムを引いても手ごたえはまるでない。ディザイアを使おうとしても、まるで発動しない。首輪か手足の枷か、或いは両方がディザイアを封じているんだろう。ヒーローに支給されている手錠にも、ディザイアを封じる効果のあるものがあるから、不可能ではないことだ。

  「遅いお目覚めだな、ブレイジング・ブレイブよ」

  声と共に上から強烈なライトで照らされる。目を細めながらも、周囲の状況を確認する。だだっ広い部屋のようで、殆ど何もない。眼前にはこちらへと歩いてきている黒いボディスーツを着た鴉鳥人、マスター・ブラック。昨日は良く見えなかったが、体格は筋骨隆々というほどではない。今までの戦闘員共とは違い、その股間はいきり立っている様子ではなかった。

  「さてと、少しは大人しく従うつもりにはなったかね」

  「死んでも従うもんか」

  いくら痛めつけられたところで、ヴィランになんか絶対に従うもんか。ただで死ぬわけにはいかないにしても、自分の命惜しさにヴィランに従うようなこと、ヒーローとして絶対にしない。

  バシンッ!

  「ぐっ……」

  「いつでも殺せる状況だというのに、随分と余裕ではないか」

  マスター・ブラックの右手から、黒い鞭のようなものが伸びてきて、頬を思いっきり叩かれる。

  「へっ、痛みに負けるような、柔なヒーローじゃねぇんだよ」

  バシンッとまた鞭が俺の頬を打つ。見た目以上に衝撃が強いようで、口の中が切れて血の味がする。

  「全く、自分の立場も分からぬ負け犬の分際で、よく吠えるものだ」

  「なんと言われても、俺はヴィランに屈したりしない!」

  毅然としてマスター・ブラックを睨み返す。俺がいなくなったことに気付けば、ヒーロー協会だって本格的な捜査をする。そうすれば救援だって期待できるんだ。まだ何も諦めることはない。

  「ふむ、そうでなくてはな。124号、125号、素体を連れて来い」

  右手首を嘴の前へと当ててそう言う。デバイスを仕込んで、何処かへと連絡しているようだ。すぐにマスター・ブラックの入ってきた両開きの扉が開かれて、頭まで黒いスーツに覆われた戦闘員が、全裸にされて後ろ手に拘束された群青の毛の牛獣人と白毛の馬獣人を連れてくる。スーツを着ている方は筋肉質で股間をいきり立たせているけど、連れてこられた方は背はそこそこ高いもののそこまで筋肉質ではない。

  「なんだよ!なんなんだよお前ら!」

  「クソッ、とっとと家へ帰せよ!」

  二人とも状況に混乱しているようで、大声でそう喚き散らしている。そんなことはお構い無しに、戦闘員達は二人をマスター・ブラックの側へと強引に跪かせる。

  「さて、余興といこうではないか。せいぜい自分の無力さを噛み締めるがいい、ブレイジング・ブレイブよ」

  「ブ、ブレイジング・ブレイブ!?」

  マスター・ブラックの言葉に反応して、牛獣人と馬獣人が顔を上げて俺の方を見る。一瞬だけの希望の表情は、一気に絶望へと叩き落された、一番見たくなかった表情に変わっていく。

  「さぁ、黒く染まるがいい。それを拒むのならば心に強く願いを持つことだな」

  牛獣人にマスター・ブラックが手を翳すと、その手の中からドロリと黒い液体が零れ出てくる。あれが、マスター・ブラックのディザイア……?

  「や、止めろ!来るな!」

  マスター・ブラックの手の中から零れ出てくる黒い液状のそれが、牛獣人の身体を包み込んでいく。なんとかしてその黒い液体から逃れようと身じろくも、すぐに全身を黒いそれに包まれる。

  「あがっ……ああああああああああああああ!!」

  身体が完全に黒い液体に包まれ、それが固まり戦闘員のスーツのようになってしまう。牛獣人は必死にスーツを引き剥がそうとして足掻き、苦しそうに悲鳴を上げる。

  「クソッ、止めろ!」

  何とかして強引にでもゴムを引き千切ろうと腕に力を入れて精一杯引っ張るも、天井から伸びるゴムはびくともしない。ゴムの性質もそうだけど、身体に力が入らない。

  「あ……あがっ……」

  「この程度で自我を失うとは。確固たる意志も持てぬのならば、絶対服従の奴隷となるがいい。我が貴様を導いてやろう」

  白目をむいて涎を垂らしていた牛獣人の頭も黒い液体が呑み込んで行き、全身の全てが黒いラバーに覆われてしまう。少しの間ぶっ倒れていたものの、急にすくっと立ち上がり、マスター・ブラックの前で跪く。

  「貴様は今この瞬間から戦闘員126号だ。我に隷属することを快楽とし、絶対服従を声に出して誓うのだ」

  「ハイッ!私、戦闘員126号はマスター・ブラック様の忠実なる奴隷として絶対服従を誓います!」

  マスター・ブラックの言葉に、戦闘員となってしまった牛獣人はその場で立ち上がり右手を上げてそう大声で宣誓する。言わされている感じは一切なく、心の底から嬉しそうにそう言っている。

  おぞましい光景に目を背けたくなるが、とにかくこの状況から脱出して、その諸悪の根源を滅さなくてはいけない。いけないというのに……。

  「クソッ、動け!動け俺の身体ぁ!」

  何度も何度も強引にゴムのロープを引くも、ゴムはびくともしない。緩んだ気配すらまるでない。絶望感漂うこんな状態でも、俺はヒーローとして、一般市民を助け、悪しきヴィランを殺さなければいけない。いけないんだ!

  「次はお前だ」

  「い、嫌だぁ!」

  後ろでに拘束されながらも立ち上がって、なんとか逃げようとする馬獣人の胸倉へと手を当てて、マスター・ブラックは馬獣人を突き飛ばす。その馬獣人が、丁度俺の足元へと尻餅を着く。

  「た、助けてくれよ!あ、あんたヒーローなんだろ?!なぁ!」

  大の男が涙を流して俺の足へと縋り付いて来る。俺だって助けたい。情けないなんて言わない。一番情けないのは他ならない自分なのだから。

  「嫌だ、俺、あんなのにされたくねぇよ……!」

  馬獣人が懇願している間にも、黒いラバーが馬獣人の全身を覆っていく。クソッ、この拘束さえなければ……ディザイアさえ使えれば……!

  「クッソォオオオ!」

  有らん限りの声を吐き出して気合を入れて、願いを燃やす。正義の心を燃やす。ディザイア封じの枷さえも上回る願いの力があれば、こんな拘束だってぶっ飛ばせる!ぶっ飛ばせるんだ……!

  「あ、あ、ああああああああああああああああああ!!」

  けど、思いは虚しく、馬獣人も先の牛獣人と同じく叫び声を上げたかと思えば、白目をむいて泡を吹く。泡を吹いている口へと黒いラバーが入り込み、そのまま頭全体を覆ってしまう。

  しばらくして、馬獣人はまた急に立ち上がり、マスター・ブラックの側へと歩き跪く。

  「今より貴様は戦闘員127号だ。絶対服従の誓いを言葉とし、その快楽を感受するがいい」

  「ハイッ!私、戦闘員127号はマスター・ブラック様の忠実なる奴隷として絶対服従を誓います!」

  先ほどと全く同じように立ち上がり右手を上げ、数字以外一言一句先の牛獣人と違わぬ言葉で忠誠を誓う馬獣人。嫌だと拒絶していたのにも関わらず、その声は真剣ながら艶っぽく色を帯びていた。

  「では命令だ。126号、127号、そこにいるヒーローを、犯せ」

  「「ハイ!ご命令のままに!」」

  絶望の命令を、承諾する二人。さっきまで抵抗しようとしていた一般人が、ヴィランに男を犯せと命じられて躊躇なく実行しようとする様に、俺は寒気を覚える。敵を侮っていたわけではない。ただ、あんなにも凄まじく、そして簡単に人の心を支配してしまうディザイアが存在するなんて、想像していなかった。

  辛うじて頭の形でまだそう把握できる牛獣人と馬獣人がこちらへと迫る。顔まで完全に黒いラバーに覆われて表情というものが存在していないのが不気味で堪らない。

  「クッ、目を覚ませ!お前達だって、こんなこと望んじゃいねぇだろ!」

  「無駄だ、そいつらは既に我が命令をこなすこと以外の存在意義を持たない、志し無き奴隷に過ぎない」

  俺の言葉など意に介さず、俺の身体をまさぐり始める二人。今までの戦闘員と違い股間部はただ勃起しているだけではなく、黒いラバーに覆われた巨大ないきり立つモノが、表に出てその存在を主張しているのが、この後の最悪の展開を嫌でも思い起こさせる。

  ビリッ

  防刃性のあるヒーロースーツが素手で破られる。尻の辺りが空気に晒されて、そこだけひんやりとさえした気がした。けど、そんなのはどうでもいい。このままだと本当に最悪なことが始まってしまう。

  パチンッ

  「うおっ!」

  マスター・ブラックが指を鳴らすと、いきなり手を縛るゴムが緩まり、半ば宙吊りにされていた俺の身体は、力が入らないのもあって膝と両手を床に着け、四つん這いの姿勢になってしまう。

  「126号は口へ、127号は尻へ挿入しろ」

  その命令に従い、牛獣人が俺の鬣を掴み、馬獣人が俺の腰を掴む。嘘みたいに力は強いものの、腕は殆ど自由になった今ならチャンスも……。

  「いっ……!」

  ゴムが急に引き上げられて、また腕を吊り上げられる。急に腕を持ち上げられたせいで肩が脱臼しそうな痛みが走る。

  「がぁああああああああ!」

  けど、そんなの気にしていられないような激痛が、後ろから襲い掛かってくる。馬獣人がマジでブツを尻穴に捻じ込んできたのだ。解かしてもない穴にすんなり入るわけもなく、ミチミチと音を立てて抵抗が生まれる。けど、そんなのはお構い無しに、強引に押し込まれていく。

  「がああんぐっう!」

  叫び声を上げて口を開いてしまったせいで、目の前で擦り付けられていた牛獣人のブツも口の中に捻じ込まれる。

  「んぐっ、んぐぅ……!」

  うげぇ、気持ちわりぃ……せめてゴムの臭いだけならまだしも、しょんべん臭さと汗臭さを混ぜて更に酷く癖の強い臭いが口の中から鼻に突き刺さる。けど、そんなことが瑣末なことに思えるほど、尻から来る激痛は今まで戦ってきて負った傷以上に、屈辱も相まって痛みを感じている。

  「不用意なことは考えないことだ。まさか自分の守るべき市民に危害を加えたりはしないだろうがな。それとも、ヴィランの手先となった者はヴィランか?」

  牛獣人のブツに牙を突き立てようとした時、それが分かっていたかのようにマスター・ブラックがそう皮肉を交えて釘を刺して来る。クソッ、こんな奴に浅ましい心を読まれたくなかった。

  「うげっ、ぐぅっ……!」

  前後の二人が腰を振り始め、激しい痛みと嗚咽感が込み上げてくる。喉の奥まで届いてくるモノと腹の内側を抉る凶器のようなモノに前後から犯され、視界が涙で滲む。

  「そろそろ一度目の射精と行こうか」

  有り得ない前フリがマスター・ブラックから飛び出す。そんなことまで支配出来るっていうのかよ……!

  「126号、127号、射精しろ」

  その言葉と共に、完全に奴隷と化した二人は一際大きく腰を打ち付けて来てから、熱い精液を喉の奥と腹の奥にぶちまけてくる。嗚咽感と腹の圧迫感と一緒に、凄まじい屈辱感と恐ろしい嫌悪感が湧き出てくる。何が悲しくて男なんざに犯されねぇといけねぇんだ。それもこれも、全部マスター・ブラックのせいだ。

  ---[newpage]

  「離れろ」

  マスター・ブラックがそう命じれば、戦闘員二人は余韻など無視してすぐに俺の尻と口からチンポを引き抜く。べっとりとついたままの精液が顔に垂れて来て、嫌悪感が加速する。

  「げほっ、ごほっ……」

  腕が動かせずに喉に手を突っ込めないからそんなに吐き出せないだろうけど、せめてこの口の中に残った臭みが少しでもなんとかなればいい。

  「127号、そこで椅子となれ」

  「はい、ご命令通りに」

  マスター・ブラックがそう命令すれば、側に控えていた馬獣人は俺のすぐ近くで四つん這いになる。その背にマスター・ブラックが腰掛ける。

  「くっくっくっ、いいぞ、屈辱に塗れながらも諦めのない眼だ」

  少し上から俺の目を見て、声を抑えるように笑ってそう愉しそうに言ってくる。その行動原理の分からない行動に不気味なものを感じる。なんなんだ……こいつは俺をどうしたいんだ……?

  「テメェは、俺をどうするつもりだ」

  なんとか心を強く保ち、マスター・ブラックを睨み付けながらも、どうにか真意を聞き出せないかと問い掛ける。

  「言っただろう、我が下僕となれと。貴様らヒーローが度々我が下僕を殺すせいで手駒が足りないのだ。邪魔なヒーローを排除できて戦力も手に入る。一挙両得というわけだ」

  得体の知れない雰囲気からはあまり想像していなかった、悪意こそあれど合理的な理由だった。悪の組織を立ち上げるヴィランなんて狂人ばかりだと思っていたのに、まともな思考も出来るのか……。

  「だが、そんなものは二の次というもの。我の興味はそう、ヒーローというものが堕ちる様だ」

  マスター・ブラックは理知的な態度から一点、狂気を孕み高笑いを抑えるようにしてそう言ってくる。前言撤回、こいつもやっぱり狂人だ。

  「堕ちる様というのは何時見てもいいものだ。こうして絶対服従の奴隷と化して奉仕する存在になるのも、己が暗き欲望を爆発させて理性をかなぐり捨てる様も、どれも愛おしい」

  椅子にしている戦闘員の尻を一度叩きながらそう語るマスター・ブラック。言っていることとやっていることが激しく矛盾しているようだが、当の馬獣人はただ本能のように嘶くばかりだった。

  「貴様はどんな姿を見せてくれるだろうな?」

  マスター・ブラックの手の中から、ドロドロと黒い液状のラバーが零れ始める。あの二人をあっという間に戦闘員へと変えてしまった、あの液体だ。

  「戦闘員128号になりたくなければ、せいぜい抗うがいい」

  ドロドロと零れた液は床へと落ちるも、まるでそれ自体が意志を持っているように、俺の足元へと這いよってくる。クソッ、さっきの行為のせいもあって、身体がロクに動かせずに、ラバーの接近に抵抗出来ない。

  ゴム質のそれがブーツを這い、身体をまさぐるように這い上がっていく。まだ、ただ少しこそばゆい程度のものだが……。

  「いぎぃっ……!」

  また、尻に強烈な異物感が訪れる。黒いラバーが破られた尻の部分からヒーロースーツの中へと入り込んでくる。

  「あっ……な、なんだこれ……」

  身体をラバーに包まれる感触自体は、元々ヒーロースーツを着ていた関係もあって大差を感じず、股間部と尻、乳首に対してやたらと刺激が与えられて、快楽が身体を走る。けど、そんなのどうでもよくなるような、おぞましいものが身体を駆け抜けていく。

  『なんで俺がこんな目に遭わねぇといけねぇんだよ!クソヴィランの分際で俺を捕らえやがって、絶対ぶっ殺してやる!つか、いつもいつも守ってやってるくせに何ヒーロー様をぶち犯してやがんだ一般人の分際で!テメェらなんてヒーローがいねぇと生きてけねぇくせに!テメェらが俺の慰め者になりやがれってんだ!』

  「ちが……う……!」

  『俺、このままこいつらと同じように戦闘員にされちまうのかな……。ヒーローなのにヴィランにされて、悪の組織の手先として一般市民を、ヒーローを襲うなんて……。ああ、ヒーロー失格の存在になっちまうな……。そんなことになるくらいだったら……いっそ……』

  「それは……ダメだ……」

  次から次へと怒りや不安の声が頭に流れ込んでくる。俺の中にある負の感情を爆発させて声にしたものが、俺自身を苛む。ただただ従えと洗脳してくるだけならまだしも、あらゆる方向から感情を揺さぶられるせいで心がグラグラしていく。

  「こんな、ものに……屈するかよ……!」

  それでもなんとか心を強く保ち、負の感情を跳ね除ける。俺はヒーローなんだ。多少イラつくことがあろうが、不安があろうが、ヒーローの心は常に強くあるものなんだよ……!

  「ほう、壊れることも堕ちることもなく抗い切るか。自らの心の闇に抗う様もまた、愛おしい」

  マスター・ブラックが何か言っている間にも、俺を貶めようとする声は鳴り止まない。クソッ、こんなものは雑音だ。罵詈雑言なんて聞き飽きてるくらい聞いて来た。他人から向けられる悪意に比べれば、こんなものただの煩い騒音だ。

  「そんなヒーローには褒美を与えてやらなくてはならないな。126号、127号、ブレイジング・ブレイブに性的快楽を与えてやれ」

  その命令の直後、腕をゴムで引っ張り上げられて強引に立たされる。それと共にマスター・ブラックが立ち上がり、下でずっと椅子として四つん這いになっていた馬獣人が立ち上がり、俺の後ろへと回り込んでくる。快楽とか言ってやがったけど、やることはさっきと同じじゃねぇか……!

  「っ!」

  目の前に来た牛獣人の方が、俺のヒーロースーツを胸元から破り捨てる。更に細かく残ったスーツも破り捨てられて、裸にされる……かと思ったけど、下にはマスター・ブラックによって着せられた、戦闘員達と同じ黒一色のスーツが存在していた。俺の身体にピッタリと張り付き毛皮の下の体型をクッキリと浮かび上がらせている。チンポにもピッタリと張り付いていて、黒いディルドにでもなってしまっているようだ。

  「んっ……!」

  急に訪れた刺激に身体がビクンと反応する。前にいた牛獣人が俺の乳首を舐め始めたのだ。くぅ、こんなもので感じるなんて最悪……。

  「ぐうっ!」

  後ろにまた、あの馬鹿デカイ馬獣人のチンポが挿入される。さっきはあれだけ入るのに抵抗があったのに、むしろ抵抗が増えそうなゴム同士なのにすんなりと入り込んでしまう。

  「あぐっ……!」

  巨根を挿入されて激痛が……走らなかった。さっきは堪らず叫ぶほどの痛みだったのに、今は声を抑えないとありえてはいけない嬌声が零れそうになるほど、全身が快楽に震えている。なんだっていうんだよ……このスーツの効果はさっきの負の感情の爆発じゃねぇのかよ……。

  「んんっ、あぅ……んくぅ……」

  馬獣人が腰を打ち付ける度に、目から火花が出そうなほど気が狂いそうな快感が身体を駆け巡る。必死に歯を食い縛って声を抑えこそするものの、抗いがたい刺激に堪らず声が零れる。

  「クックックッ、尻穴で感じているなら素直に声を出してもいいのだぞ?」

  誰が出すかと言い返したかったものの、口を開いてしまえば認めたくない事実が嬌声という形で零れ出てしまう。

  「いくら耐えたところで、ここをこんなにさせていては滑稽なばかりだぞ?」

  「あぁんっ!」

  マスター・ブラックに勃起してしまっていたチンポを握られて、その直接的に与えられた刺激に俺は堪らず声を上げてしまった。自分の口から出たことが信じられない、色を帯びた声を。

  「んふっ、あうっ、んにゅぅ……!」

  すぐにマスター・ブラックは手を離す。けれど快楽の波は弱まるばかりか一層強まり、俺の理性を確実に削り取っていく。

  「身体に、本能に正直になるがいい。快楽を貪り、己が欲望をその身から溢れ出るまで満たすのだ」

  壊れそうな快楽の中でも耳に残るような、ねっとりとした悪の言葉が俺を追い詰める。けど、それは同時に危機感を生み出し、絶対に屈するもんかと心を奮わせる。

  牛獣人はなおも俺の右乳首を舐め、左乳首を指で摘み捏ね繰り回してくる。馬獣人もまるで機械のように果てることなく腰を打ち付けて、俺の内側をゴリゴリと責め立てる。触れられてもいない俺のチンポからはドクドクと先走りが零れていて、射精の瞬間を今か今かと待ちわびている。

  「粘るな、余程男に犯されて絶頂を迎えるのが嫌と見える」

  「あふぅ、んなの、んあっ、当たり前、だろ……」

  「ならばこうしようではないか。126号、ブレイジング・ブレイブのモノをその尻穴で慰めてやれ」

  その命令を聞いた途端に牛獣人が俺の乳首を弄り回すのをピタリと止めて、クルリと後ろを向いてから俺のチンポに跨り、解かしもせずにずぶずぶとその尻に俺のチンポを沈めていく。

  「んがああああああ!」

  今まででさえ壊れそうだった快楽が一瞬で臨界点を突破して、牛獣人の尻肉が下腹部に当たった直後に、牛獣人の中に射精してしまう。

  「あがっ、やめっ……!」

  射精の余韻になんて浸る暇などなく、馬獣人が腰を振り続ける。馬獣人が腰を引けば俺も腰を引くこととになり、腰を打ち付ければ俺もまた牛獣人へと腰を打ち付けることになる。乱暴なケダモノの行為の間に挟まれて、犯し犯され前後から絶え間なく快楽が襲い掛かる。

  「クハハハハハッ!そうかそうか、貴様は公僕である以上に、他者の[[rb:願い>ディザイア]]を蹂躙する[[rb:偽善者>ヒーロー]]というわけだ!」

  マスター・ブラックの高笑いをバックに、なおも行為は続く。ぺちんぺちんとゴムのぶつかる音と精液を潤滑油にぐちゅぐちゅという水音だけが耳に届き、快楽だけが頭を埋めていく。ダメだ、心を強く保たなくては……。

  「ならば、127号……」

  何かマスター・ブラックが命令を下しているのさえ、もう判別が利かない。腰が、止まらない。我慢しようにも、絶頂が止められない。ダメだ、もう……!

  「がああああああああああ!」

  二度目の射精。頭が完全に真っ白になるほどの強い快楽に、危うく意識が飛びそうになる。なんとか意識を保てたものの、凄まじい疲労感に俺は立てずに目の前に牛獣人の背中に倒れ込む。

  「クックックッ、クハハハハッ!」

  「何が……おかしい……」

  「何がおかしいだと?クックックッ、気付きもせずに目の前の男を犯して、快楽を貪り食っていたわけか!これは傑作だ!」

  「な……に……?」

  冷静になって、ふとした違和感に気付く。俺の後ろにいたはずの馬獣人がいない。霞みそうな視界のままマスター・ブラックに目を向ければ、その下で再び椅子になっている馬獣人の戦闘員の姿があった。

  ---[newpage]

  「どう……なって……」

  「貴様は途中から自分だけの意志でそいつを、我が下僕

  ……いや、貴様らヒーローの言い方で言おうか。一般人を犯していたのだ!」

  マスター・ブラックから突き付けられる事実に、心がグラリと揺れるのを感じる。

  「嘘だ……そんなの嘘だ……!」

  「嘘なものか。126号、こちらへ来い」

  マスター・ブラックに命令されて、俺が倒れこんでいた牛獣人は立ち上がる。それと共に俺のチンポが牛獣人の尻穴からずるりと抜け落ちて、ぽたぽたと白い液を僅かに零す。俺はそのままうつ伏せに倒れてしまう。

  「あっ……」

  おぼつかない足取りながら、牛獣人は尻から俺の放った精液を零しつつもマスター・ブラックの命令通りにその側へと歩いて行く。目の前に悪の親玉がいるというのに、俺は牛獣人の尻から目が離せない。

  「そら見たことか。その名残惜しさは、貴様がまだ犯したりないということだ」

  「ち、違う……違う……!」

  どうにかマスター・ブラックの言葉を否定しなくては。俺はヒーローなんだぞ?ヒーローが守るべき、救い出すべき市民と性行為に耽っていたばかりか、自ら腰を振っていたなんて、あっていいわけがない。ましてやそれを望んでいるなんて有り得るもんか。

  「認められないか?だが、それが貴様の本質なのだ。他者を蹂躙して快楽を得るケダモノ。それが貴様の本当の姿だ」

  「違……う……違う……!」

  『違わねぇだろ?ぶち犯して最高に気持ちよかったじゃねぇか。テメェがオナニーの一つもしねぇせいで溜まってんだよ。とっとと続きやろうぜ?まだまだ出るだろ?』

  マスター・ブラックの言葉も、内から湧き出てくる言葉も、全部全部嘘だ。嘘じゃないといけない。こんな浅ましいヒーローがいてはいけない。濫りに性行為に耽って、快楽を貪るなんてヴィランのすることで、ヒーローがしていいことじゃない。

  「俺はヒーローだ!ヒーローじゃないと……ヒーローじゃないといけないんだ……!」

  十年、人生の約半分をヒーローとして生きてきた。罵倒されようが石を投げられようが、ヒーローとして人々のために戦い続けてきた。人々が求める高潔にして豪傑なヒーローになるために、いっぱい努力してきた。酒や煙草なんてもっての他、恋愛だって捨ててきた。プライベートの殆ど全てを、ひたすら禁欲して、トレーニングに励み続けた。それでもヒーローであり続けることが俺の生きがいだったから、それでも我慢できた。

  「貴様はそうやって、己を騙し続けてきたのだな。自らをヒーローであるという枷で縛り付けて、己が欲望の本質から目を背けてきた、哀れなる閉鎖社会の古き法に縛られし獣よ」

  『そうだそうだ!禁欲なんてうんざりなんだよ!なんで俺がこんな目に遭ってるってのに、一般人の心配なんてしないとなんねぇんだよ!こいつみたいにケツでも差し出すか、股開いておまんこ差し出すくれぇしろよな一般人共が!』

  「煩い煩い!俺はヒーローなんだ!ブレイジング・ブレイブは正義のヒーローなんだよ!」

  強引に声を荒げて全てを拒絶する。しないとダメだ。ヒーローであることが枷だって?ふざけるな!俺はヒーローとして生きてきて、ヒーローであることが生き甲斐で、そのために存在しているんだ。頭の中で響く声の訴えなんて論外だ。

  「ああそうだとも、貴様はヒーローだ。他者の願いを強者の立場から合法的に捻じ伏せることが出来る存在、それがヒーローなのだから!感じたことがあるだろう?ヴィランに勝利した時の喜びを。他者に暴力を振るって尚得られた喜びを!それこそ貴様の蹂躙への欲望の具現そのものだ!!」

  違うと言い返したかったのに、矢継ぎ早に投げ掛けられる言葉に、俺は押し黙ってしまう。俺は、確かにヴィランに勝って喜んでいた。だってそれはヒーローなのだから、その役目を果たしたのだから……けど、正義のためとはいえ拳を振るって得た感情が喜びなんて、おかしいんじゃないか……?

  「だが、このままでは生涯貴様はその願いを満たすことは出来ない。ヒーローという名の鎖に縛られ都合よく首輪を掛けられたままでは、一生叶わない」

  「俺は……俺は……」

  「さぁ、この手を取るがいい。貴様がヴィランとして己が意志の元に我が手を取るならば、その枷から解放してやろうではないか」

  うつ伏せに倒れる俺の前に、マスター・ブラックは右手を差し出してくる。絶対に受け取ってはいけない、悪魔の誘い。ヒーローとしてなら、絶対に払い除けなくてはならない手。だけど……俺の中で感情がぐらぐらと揺れている。意識して止めないと、手を伸ばしてしまいそうになる。

  「ダメ……だ……俺は……ヒーロー……なんだ……ヴィランに……屈しちゃ……」

  「……貴様もまた、ヒーロー協会の哀れなる被害者というわけか」

  「被害……者……?」

  俺が、被害者……?何言ってんだ……?

  「貴様の人生に、ヒーロー以外の選択肢はあったか?」

  「そんなの……俺は、ヒーローになりたくて、ディザイアを願ったんだ。だから……」

  『ヒーローになりたくて?おいおいおいおい、随分とまぁ、願いを美化しちまってよぉ!』

  「っぐ、煩い!」

  嫌味たっぷりの言葉が頭に響いてくる。こいつは本当に何なんだ……。

  「どうした、本心に耐えられないか?」

  「これが、本心だって?違う、こんなもの……」

  『ひでぇなぁ、テメェが願っておいて、こんなものはねぇだろ?テメェだって分かってるはずだ。けど、自分にも他人にも、嘘を吐き続けて来た。何が『正義の心を燃やした炎』だ。テメェがあの時欲したのは……』

  「黙れ黙れ黙れ!」

  強引に頭を振って、必死に声を聞かないように現実から逃避を続ける。違う、違うんだ。俺のディザイアは正義の心を燃やした炎の具現なんだ。そうじゃないと、そうじゃないと……。

  『全てを薙ぎ払い捻じ伏せるだけの、圧倒的な力だろうが!ヴィラン共が一般人を蹂躙していく様に、憧れを抱いて得た力だろうがぁ!』

  「あああああああああああああああああああああああ!!」

  ただ叫ぶことしか出来ない。口で否定しても、心から否定出来ない、浅ましい事実。ずっと隠し続けている、恥ずべき秘密。ヒーローとしてあってはならない黒歴史。俺のヒーローとしてのアイデンティティが壊れてしまう。

  「貴様も哀れな者だ。自らの欲望を押さえ込んで、持たざる者達の法により縛られた社会で生きるために、その法を掻い潜るためにヒーローであり続けてきた」

  「止めろ……!」

  「だが、それならば何故、好き勝手暴れ回るダークヒーローと呼ばれる者にならなかった?誰が、貴様に品行方正なヒーローであるよう仕向けたのだ?」

  「止め……ろ……」

  誰が?カッコイイヒーローになろうって言ったのは……ああ、ライジング・ホープだ。誰にでも胸を張れるように、カッコイイヒーローとして振舞おう。決して悪いことには手を染めずに、皆の手本になれるように努力しよう。そんなことを言っていたのは、間違いなくあいつだ。

  疑念が深まり、心に影が落ちる。違う……違う……よな……?俺は、ヒーロー協会に利用されてたわけじゃねぇよな?ずっと、ヒーローになりたかったのは、ヒーローでありたかったのは……ありたかったのは……。

  「俺は……ただ……皆のために……」

  『本当はただ戦いたいだけ。敵を捻じ伏せる快感だけで、なんとか続けて来れただけ。ホントはやってみたいことだって、やりたいことだってあるのに、ヒーローとして振舞うために普段からヒーローを演じてるだけ。綺麗事で頭をいっぱいにして、自分を騙し続けてきたんだ!』

  「だがもうその必要はない。我が手を取り、【ザ・ブラック】の一員となるがいい。さすれば貴様は、ヒーローという重い枷から解き放たれ、内に秘めるその欲望を解き放てるのだ」

  欲望……あの時見た、ヴィラン達が一般人を襲い蹂躙していく様が頭に過ぎる。俺は怯えていたはずだった。だけど、だけどその時、ああ、俺もああやって皆を捻じ伏せたいって、思ったんだろうな……。

  ふつふつと、心の奥から黒いものが溢れ出てくる。抑えなくては、抑え……抑え……。

  「あ……が……」

  歪んだ心の闇が、俺の心を覆っていく。暴力を欲して、力を揮いたくて堪らない。今すぐにでも目の前にいる輩に拳を叩き込んで、その顔が悲痛に歪むのを見たい。

  「グルァア!」

  獣の雄叫びを上げて、重く動かない身体を強引に奮い立たせて、目の前の鴉へと拳を振るう。

  「ふん」

  「グアッ!」

  マスター・ブラックが手を翳すと、腹に胃の内容物を全て吐き出してしまいそうな凄まじい衝撃が走り、俺は堪らずその場に蹲る。ぐぅ……なんなんだ、あいつは何をしたんだ。

  「ふむ、これでは少々手駒としては不出来なものだ。調教の必要があるな」

  「ングッ……!」

  黒い液体が俺の身体を覆うスーツから首を駆け上がってきて、そのまま口の中へと入り込んでくる。口だけじゃない、耳の中にまで入り込んできやがる。目も塞ぐように覆い隠され、頭の全てが黒に侵蝕されていく。

  「ッ……!」

  声さえも発することが出来ない。もがくことさえも、許されなかった。

  マスター・ブラック様を讃えよ!マスター・ブラック様に忠誠を誓え!全てはマスター・ブラック様の為に!マスター・ブラック様の為に力を揮え!マスター・ブラック様に身体を捧げよ!マスター・ブラック様の為なら命をささげる!マスター・ブラック様に魂を捧げよ!マスター・ブラック様を愛するのだ!マスター・ブラック様の目的を果たすために!マスター・ブラック様に従うことこそ至上の快楽だ!マスター・ブラック様万歳!マスター・ブラック様は全てを与えてくださる!それに応えるのだ!マスター・ブラック様のお望み通り、世界を黒く染め上げるのだ!

  頭の中を埋め尽くす、マスター・ブラックという絶対的な存在を讃える言葉達。心が瓦解して理性を失っていた中で、その言葉の群れの激突がトドメとなり、俺の思考は止まり、意識を失った。

  ---[newpage]

  ガキが出しゃばるな!

  そう言って俺を突き飛ばして前に出た親父は死んだ。何の力もない親父はヴィランにあっさり殺された。その後で俺は、そのヴィランと戦い、殺した。

  バカだった。自分にろくな力もないくせに、俺がディザイアを持ってることも知ってたくせに、あんなことを言って、結局あっさり殺された、馬鹿な親父だ。自分ならなんでも出来ると信じてたくせに、願いに見棄てられた、しょうもない父親。

  この人殺し!

  親父を殺したヴィランの母親に罵倒された言葉。すみませんでしたと頭を下げたとき、俺は……目の前にいるクソアマを灰にしてしまいたいと思っていた。クソ親父でも父親を殺されたのに、なんで俺が謝らなきゃなんねぇんだ?お前もあのヴィランと同じように灰にしてやろうか?喉まで出掛かった言葉を止めたのは、ヒーローという立場だった。ヒーローだから、人を救うヒーローだから我慢する。

  おかしい。何でだ?殺さなきゃ良かったのか?

  うちの子がヴィランなはずないでしょ!

  ヒステリックに叫んだ母親は次いでこう言って来た。ダメだ、これじゃあただ逮捕しても同じことだった。逮捕権自体まだなかった時代だったからそれは無理にしても、このクソアマは逮捕さえ納得しなかっただろう。

  家族を返せ!この街から出て行け化け物!

  そう言って石を投げられることもあった。まだ社会がヒーローという存在を受け入れなかった時のことだ。ライジング・ホープの力で一年程度でヒーロー協会が設立されてからは、手の平を返してヒーロー万歳とほざいていた。俺は覚えている。石を投げた奴と同じ奴が、確かにそこに存在していたことを。

  恨み辛みがフラッシュバックしていく。俺はただ戦いに明け暮れることで忘れていたんだ。聞かないフリをしていたんだ。そんなの関係ないって思い込もうとしていたんだ。ありがとうなんて薄っぺらい言葉で支えられてるんだって、自己暗示してたんだ。

  そう自覚してしまった途端、全てがどうでも良くなっていく。何故ヒーローであることにあんなにも拘っていたんだ?それこそマスター・ブラックのいう枷なのか?俺が拘りだと思っていたものは、俺を縛り付けるための枷に過ぎなかったと……。

  ああ、マスター・ブラック様は正しかったんだ。あの方は俺をヒーローという枷から解きはなってくれる、鍵となる方なんだ。マスター・ブラック様の手を取って、ヴィランに身を堕として俺のあるべき姿になるんだ。欲望を曝け出すんだ!

  ゆっくりと目を開いて身体を起こす。ただ目を覚ましただけじゃない。長い間ずっと見ていた夢から覚めたようだ。

  「目は覚めたか、赤獅子豪火よ」

  「……ああ。やっと、目が覚めた」

  また拘束されているかと思ったけど、どうやら俺はベッドで寝かされていたようだ。意外とまともな部屋なようだが生活感は一切感じられない、ベッドと机があるだけの小さな部屋。

  目の前には黒いボディスーツを身に纏った、何処までも暗い暗い黒の羽を持つ鴉鳥人、マスター・ブラック様の姿があった。俺も目覚める前と同じく、身体にピッチリと沿った真っ黒なスーツを着ている。頭を覆っていたものはなくなっているようだ。

  「ならば、この手を取って、我が配下に加わるがいい。さすればお前は、ヒーローという枷から解き放たれ、今まで押し殺してきた欲望を果たせよう」

  すっと目の前に、マスター・ブラック様の手が伸ばされる。一瞬だけ躊躇が生まれる。今までの人生を否定することになる、その恐怖に手が竦む。けど、思い起こした俺の人生に、未練なんてなかった。

  「今は貴方に従おう、マスター・ブラック」

  俺は差し出された手を、マスター・ブラックの目の前に跪いてから受け取る。

  「けど、俺は俺の欲望のために【ザ・ブラック】に加わるんだ。もしヒーロー共と同じように俺の欲望を縛り付けようものなら、俺はテメェらを焼き尽くす」

  「ああ、それでいい、それでいいのだ」

  反抗心などマスター・ブラック様にはお見通しで、それさえも折込済みのようだ。ヒーローを仲間に加えようという大胆な策を実行する方だ。胆力も懐の広さも、清く正しくなんてほざくヒーロー達とは全然違う。

  「お前に新たな名前を与えてやろう。ヒーローに与えられた忌まわしき名に変わる、新たな名だ」

  マスター・ブラック様が俺の手を握っていた手で、俺の頭を、鬣を掻き分けながら撫でてくれる。そうだ、ヒーローでないなら、俺はもうブレイジング・ブレイブではなくなるんだ。ブレイジング・ブレイブという名の重荷から解放されるんだ。

  「今この時より、お前の名前はブラック・ブレイズだ。その欲望を燃やした黒き炎で、全てを捻じ伏せるがいい」

  ブラック・ブレイズ……マスター・ブラックと同じブラックの名を貰えるなんて光栄だ。興奮して身体が熱くなってくる。いや、本当に身体が燃え上がるような……ディザイアが発動している?

  パキンッ

  「お前のディザイアを抑えるためのものだったが、これはもう必要ないだろう」

  俺の首元から、外れた黒い金属製の首輪を取るマスター。ディザイアが使えるようになって、ある程度抑えられていた欲望がふつふつと湧き上がってくる。

  「111号、八号室に素体を連れて来い」

  マスターがそうデバイスに向けて命令すると、すぐに戦闘員と、それに連れられた全裸の赤みを帯びた茶毛の犬獣人が部屋に入ってくる。連れてきた戦闘員に比べれば身体は貧弱に見えてしまうが、程よい肉付きで何にとは言わないが丁度いいくらいの身長だ。

  「な、なんなんだよ……」

  犬獣人は怯えた様子で周囲を見回し、マスターと俺の姿を見て、怪訝そうな顔をしている。

  「燻り続けた欲望を放ちたいだろう。手始めにこいつを好きにするといい」

  その言葉に、怯えている哀れな犬獣人が急激に得物に見えてきた。ああ、もう丁度いい欲望の捌け口にしか見えなくなった。

  「な、何言って……!」

  マスターの言葉に抗議しようとする犬獣人の愚か者の手を掴み、強引にさっきまで俺が寝ていたベッドに押し倒す。

  「へへへっ、いいんだな?ぶっ壊しちまうかもしれねぇぞ?」

  「構わないぞ。何、死んでいなければどうとでもなる」

  よしよし、マスターのお墨付きも頂いたことだ。さっきからチンポがビンビンして痛ぇくらいになっちまってる。さっさとこいつのケツにぶち込んで、一発ぶちかましてやるか。

  「そんじゃ、まずは一発イこうじゃねぇか」

  「や、止めてくれ!」

  何とか身じろいて逃げ出そうとする犬獣人の両足を掴み、ガチガチに勃起した俺のチンポを尻へとあてがう。

  「い゛ぎぃ!痛い痛い痛い!」

  先走りでちょいと濡れてるとはいえ、ただですら解かしてないラバーに覆われたチンポは物凄い抵抗を生み出す。それでも強引に犬獣人の足を引っ張って、尻の穴をミチミチ言わせながらもなんとか挿入していく。

  「嫌だ!やめでぐれぇ!」

  「男がギャーギャー喚いてんじゃねぇよ!オナホはオナホらしく黙ってな!」

  俺は適当に布団のシーツを破いてから、犬獣人の口へと捻じ込む。んーんーまだまだ騒いでるものの、さっきよりは全然マシだ。

  「そうら、やっと半分だ。まだまだ、いくぜ!」

  「んぐぅー!」

  太もも辺りを掴んで、更に奥へとチンポを強引に押し込んでいく。犬獣人は痛みのせいか恐怖のせいか、ボロボロと涙を流してその顔をぐしゃぐしゃに汚している。それがまた、捻じ伏せている感覚が強くなって興奮する。

  「おーし、全部入ったぞ。そんじゃ、おらっ!」

  「んふぅっ……!」

  一度抜けない程度に腰を引いてから、思いっ切り腰を打ちつける。なかなかいい具合だ、腰がカックカク動いてやがる。チンポが摺れる度にビリビリと身体に電流が走るような快感がチンポから流れてくる。犬の方は……白目むいてるな。まぁどうでもいい。俺が気持ちいいならこのオナホがどうなろうが関係ねぇや。

  ぐちゅぐちゅといい感じに濡れて来たようで、厭らしい水音が更に興奮を誘い、更なる快楽を求めて動かす腰も早くなってくる。

  「あ゛ーっ、いいぜいいぜぇ!オナホにしちゃ上等だぜぇ!」

  聞こえちゃいねぇだろうけどどうでもいい。快楽と一緒に貪りつくさちまうならそれまでだ。あと少し、あと少しで絶頂まで辿り着く。

  「があああああああああああああああああああ!!」

  ビクンとチンポが大きく脈打ち、小便を出すような、けどそれとは比較にならないほどの強い快楽に頭が真っ白になる。少しすれば熱い俺の精液で犬の腹がいっぱいになったようで、チンポがねっとりと濡れる。

  「あーあ、完全にぶっ飛んじまってらぁ」

  真下で白目をむいて涎を垂らし、涙と唾液でぐちゃぐちゃになった犬獣人を見下して、俺は他人事のようにそう呟いた。

  「どうだ、お前の守ってきた一般人を、その手で犯した感想は」

  「ああ、こんなにも無力な奴を蹂躙するのが愉しいことだって、初めて知ったぜ!」

  思えば今まで俺は、無抵抗な相手を甚振るようなことをしてこなかった。それもまた、ヒーローの矜持とやらのせいだ。でも今はもう、そんなものには縛られねぇ。これからはヒーローに頼ることしか能のねぇ一般人だってなんだって、全部蹂躙してやったっていいんだ!

  「やはりお前は、こちら側の存在だな」

  言いながらマスターは、意識の無い犬獣人に黒いラバーの液体をその手から掛けて、戦闘員を作り始める。意志薄弱そうだし、戦闘員化するのは目に見えてるな。

  126号や127号みたいに抵抗することすらせず、っていうか気失ってるからできず、黒いラバーが完全に犬獣人を包み込む。しばらくは倒れたままだったけど、やがてロボットのようにムクリと上半身を起き上がらせて、すぐにベッドから降りてマスターの前に跪く。

  「貴様は今より戦闘員128号だ。絶対服従を声に出して誓い、我に隷属することを快楽とするのだ」

  「ハイッ!私、戦闘員128号はマスター・ブラック様の忠実なる奴隷として絶対服従を誓います!」

  あいつらと同じように、犬獣人も右手を上げて高らかに忠誠の言葉を宣言する。既に腹には勃起したチンポが浮かび上がっていて、その忠誠が本物であることを示している。

  「さて、これを玩具にしたいなら好きにすればいいが……」

  「いいや、抵抗もしないオナホはちょっと退屈だ。それよりマスター・ブラック様。俺には狩りたい奴がいるんだ」

  口端が吊り上がり、鋭い牙が煌いていることだろう。そいつを蹂躙することを考えると、自然と歪んだ笑みが浮かぶというものだ。

  「ほう、ブラック・ブレイズよ、そいつは何処のどいつだ?」

  「インフィニティ・ガンズ。この街の最後の砦だ」