~Hero_Desire~番外編「黒の爪痕」

  「これで……161本目……」

  ディザイアを使い、バズーカのような見た目の銃、ブラックガンを作り出す。今、マスター・ブラック様にこの俺、ブラック・ガンズが命令されたブラックガンの製造に、全てを費やしている。

  今いる一般兵達に持たせるなら十分な量が確保できた。だけど、侵略によって新たにマスター・ブラック様の配下となった一般兵達に持たせるためのブラックガンはいくらでも必要だ。だから、まだまだ複製しなくては……。

  カシャン

  さっきまで作っていたブラックガン五本を武器庫へ続くベルトコンベアへと乗せて、シャッターを閉める。構造はともかく弾が特殊で量産が難しい。もっと早く量産して、マスター・ブラック様の侵略を開始できるようにしなくては……。

  バンッ!

  「おらぁ、作業は進んでるかぁ?!」

  勢いよく音を立てて扉が開かれ、乱暴な物言いの獅子獣人が俺の作業室へと入り込んでくる。ピッチリとした黒をベースに白い炎の意匠のあるスーツを着ており、やたらといい体躯を惜しげもなく晒している。全身の筋肉もさることながら、股間にそそり立つ巨根が目立つ。

  「今百六十一本目を納品しました、ブレイズ」

  彼はブラック・ブレイズ。我ら【ザ・ブラック】の幹部の一人で、酒と煙草と暴力とセックスを愛する欲望の化身のような男だ。素行は悪いし力が強く、他の幹部にも手の付けられない存在だが、しかし我らのボスであるマスター・ブラック様には従順である、【ザ・ブラック】の主戦力だ。

  「けっ、ようやく雑魚に持たせる必要分かよ。俺はとっとと暴れてぇんだよ、ガンズ!」

  「は、はい……勿論、最大限に力を使って複製してますが、ディザイアは有限で……」

  「んなこと分かってんだよ!」

  ブレイズは怒鳴ると共にこちらの胸倉を無理矢理掴んでくる。ピッチリとしたスーツに覆われているため、皮膚を引っ張られるような痛みすらある。怒鳴られるのも殴られるのもあまり問題ではないが、それでもブレイズの機嫌はあまり損ねたくない。

  「ブレイズ、今はもう限界なんです。だから……」

  「はんっ、肉便器の癖して自分から誘ってくるとはなぁ!」

  胸倉を掴む手を放したかと思えば、代わりに下嘴を掴まれてブレイズの方へと向けさせられる。ギラギラとした、野心と欲望に満ち満ちた目と目が合う。ああ、マスター・ブラック様、貴方様と以外の男と交わることに快楽を得ること、どうかお許しください。

  「おら、跪けよ。そんで、テメェの大好きなチンポしゃぶりやがれ」

  ブレイズがそう言って手を放してすぐに、その命令に従って両膝を床に突いて、目の前に来た巨根に齧り付く。顎が外れそうなほどのチンポが口膣を占有して、チンポの小便臭さとチンポ全体を覆うゴム質の味と臭いが飛び込んできて、鼻を抜けて頭に電撃が走るような快感に見舞われる。

  大鷲鳥人故に嘴のせいでしゃぶるのに非常に難儀してしまうのだが、幾度と行為を重ねてコツは掴めてきた。舌を這わせて自分で頭を動かして、喉を使って先端を締め付けて刺激する。

  「んっ……いいぞ……そろそろ放せ」

  先走りが零れ出始めたところで、ブレイズはフェラを止められる。もっと舐めて精液を飲み干したい欲求もあるものの、マスターの命令で、許可がない時は一度しか射精できない我々としては、交わってより大きな快楽を欲することで意志が一致している。ブレイズは射精も出来ないのに俺を犯してはくれないんだ。

  チンポを口から吐き出してからブレイズに背を向けて、そのまま四つん這いになる。ちょうど、ブレイズに尻穴を見せ付けるようにして腰を突き出す。既に解かさなくてもいいくらい穴がぐちゃぐちゃになっている。

  「ど、どうかこの淫乱な肉奴隷めにその巨根をください」

  ラバーで覆われた尻穴をヒクつかせて、精一杯甘い声でブレイズを誘う。こんなことをしなくたってブレイズは問答無用で犯してくるだろうが、今この瞬間もブレイズの太くて大きいチンポが欲しくて欲しくて堪らないんだ。

  「へっ、すっかり淫乱な肉奴隷じゃねぇか!ほら、よ!」

  「んひぃっ!」

  ブレイズのチンポが突き立てられて、一気に腰を打ち付けられてチンポが尻に、腹に入り込んでくる。捻じ込まれただけでもう射精しそうになりそうなほどの快楽が全身を走り抜けて身体がビクンと震える。

  パンッパンッ

  「あんっ、ああんっ、んほぉっ!」

  チンポが出入りする度に頭がショートしそうな快楽に、嬌声が零れ涎が零れ落ち、スーツ越しに先走りがドクドクと流れ出す。もう、今すぐにでも射精したい。最高潮の快楽を解き放ってしまいたい。

  でも、それはぐっと堪えて、ゆるゆるの尻穴をなんとか締めてブレイズに少しでも快感を与える。イクならせめてブレイズと一緒にイかなくては。こんな肉奴隷が先にイっていいはずがない。

  「ふんっ、ふんっ!いい、ぜぇっ!最高に厭らしいケツしやがってよぉ!」

  息を荒げ興奮を顕にし、快楽を貪るべくがくがくと腰を振るブレイズ。いつも罵声と怒号しかその口から発せられないブレイズの口から感じていることを伝えられて、それだけで背筋がゾクゾクするような興奮を覚える。

  「クッ、そろそろイクぞおらぁ!」

  一際強く腰を打ち付けられ、ブレイズのチンポが前立腺に突き刺さり、我慢の限界を迎えた。

  「んああああああ!」

  頭が真っ白になると共に、自分のチンポから勢いよく白濁液が飛び出す。ああ、気持ちいい。キモチイイ……。

  「がああああああ!」

  射精の余韻に浸る暇も与えられないうちに、ブレイズが咆哮を上げると共に、腹の中に多量の熱いザーメンが注ぎ込まれる。身体が内側から焼けてしまいそうな熱さが腹をあっという間に満たしてパンパンになり、それでもなおブレイズの射精は収まらずに、尻から精液が零れ出す。ああ、勿体無い……折角の精液が床に零れて……。

  ずるりとブレイズのチンポが抜けて、俺の身体は自分の精液で汚した床へと力なく倒れる。でも、そんなのどうでもいい。気持ちいい。キモチイイ。気持ちよすぎて全部どうでもよくなってくる。ああ、このまま溶けてしまいそう……。

  「なぁに吹っ飛んでんだよ」

  うつ伏せに倒れている俺の腹を、ブーツのつま先で軽く蹴り、仰向けにされる。蹴り飛ばされないだけブレイズにしては随分優しい方だ。

  「おら、とっとと……」

  「はぁ……はぁ……えへへぇ……」

  ブレイズが何か言ってる……おそらく催促だろう。けど、今はそれどころではない。たとえブレイズに罵倒されようが暴力を振られようが、この快楽の波が収まるはずがない。マスター・ブラック様の御力によって改造されたこの身体は精液を摂取してディザイアを回復させ、その際に溢れんばかりの快楽をもたらすのだ。

  「えへぇ……ますたー……」

  快楽の波と共にマスターの御姿が浮かんでくる。黒を体現したその神々しい御姿……ああ、さっき射精したばっかりなのに、またチンポが痛いくらいにその存在を訴えてくる。【ザ・ブラック】の一員になったその時から勃起が収まったことはないのだが、それでも血の巡りに差はある。今は射精寸前のはち切れんばかりの状態だ。

  自然とブラックガンを両手に作り出していた。手の平に現れたそれを握る力さえないけど、快楽の前にそんなの瑣末事だ。

  「ますたー……おれ、がんびゃりましゅぅ……」

  まだまだがんばらないと……がんばったら、ますたーからもザーメンいっぱいもらえるんだ……がんばろう……うん、がんばる……。

  ---[newpage]

  「ふわぁ……退屈だぜ」

  【ザ・ブラック】の一員になってどれくらい経ったか。折角暴れまわれると思ってたのに、大規模侵略の準備のために待機と来たもんだ。やることと言えば一般人の拉致と調教、盗み出してきた酒や煙草をやって、後はガンズや他の一般戦闘員をぶち犯す。ガンズをボコボコにするとますます侵略の準備が遅れてロクなことにならねぇもんだから、いい加減イライラしてきた。

  『ブラックの名を持つ我が精鋭達よ。至急我が元へと集うがいい』

  側頭部に装着しているデバイスから直接マスター・ブラック様の声が聞こえてくる。ブラックのコードネームは【ザ・ブラック】の幹部にのみ与えられる特別なコードネームだ。

  んなことはいい。幹部全員集めてマスター・ブラック様直々にお話とは……いよいよ侵略の準備が出来たか?

  俺は吸いかけの煙草をディザイアで完全な灰に変えてから、すぐに自分に宛がわれた部屋から出る。どこぞの地下に作られた、迷路のような廊下を進んでいく。電灯が少なくて薄暗く、無機質な廊下はいかにも悪の組織の施設と言わんばかりの様相だ。

  複雑な廊下を進み、エレベーターを降り、マスター・ブラック様の部屋の重厚な扉の前に辿り着き、すぐに中へと入る。

  「全員揃ったか」

  マスター・ブラック様の部屋……と言っても、ここは司令室兼作戦会議室のような部屋だ。薄暗い僅かな照明とモニターだけが部屋を照らし、お互いの顔もハッキリ見えないくらい暗い。こんなにもイメージ通りの悪の組織というのもなかなかないんじゃないか?

  「期は熟した。これよりS市へと侵攻を行い、S市市民を我ら【ザ・ブラック】の支配下に置く」

  「へっ、やっと暴れられるってわけだぁ!」

  ようやく暴れ回れるわけだ。もうそろそろストレス溜まってアジトの壁でもぶっ壊しちまいそうだったぜ。

  「作戦を伝える。各員、心して聞くがいい」

  『ハッ!』

  右手を胸に当てて、幹部全員マスター・ブラック様へと跪く。平和ボケした一般人共がマスター・ブラック様のものになるのだと思うと、興奮が止まらない。

  マスター・ブラック様より作戦が告げられる。大胆で、我ら【ザ・ブラック】の力を見せ付けるに相応しい方法だ。さすがはマスター・ブラック様。素晴らしい作戦だ。

  「……以上だ。これより作戦を決行する」

  『ハッ!全てはマスター・ブラック様のために!』

  ---[newpage]

  ブラック・ホールのディザイアにより、俺はとある建物の屋上へと単身降り立つ。どうやらここに立つのは二週間ぶりらしい。懐かしくもあるが、そんなことはどうでもいい。今からここは、火の海に変わるのだから。

  「さぁ、破壊の始まりだぁ!」

  両手を屋上の床に当ててディザイアを発動させてやれば、真っ黒な炎が周囲に広がり、屋上に設置されているアンテナやら給水塔やら室外機なんかがボンボン爆発していく。まだまだこんなんじゃねぇぜ。

  「[[rb:黒炎の凶撃>ブラック・ストライク]]!」

  グローブに黒炎を纏わせ、肘から炎を一気に噴出して、超高速の拳を屋上に叩き込む。

  ズドゴンッ!

  轟音を立てて床が崩れ落ちる。床を二枚ぶち抜いて、最上階、っつってもたった三階建ての小さなビルだ。最上階の会議室には混乱している獣人達が何人もいた。どうやら会議室のテーブルのど真ん中に降りたみたいで、丁度会議中だったみたいだ。

  「なっ、あ、アカジシ!?」

  「お前、今まで何処に……いや、それよりその姿……!」

  「ガタガタうっせぇ奴らだ。こい、ブラックランチャー!」

  有象無象が何か言ってるがどうでもいい。この後の破壊のために、まずは命令を果たす必要がある。俺は作戦通り、ブラック・ファクトリーの野郎に作らせた特注のブラックガン、四角い巨大な砲身の、誘導弾丸を多数搭載したブラックランチャーを二丁、両手に呼び出す。

  「ほうらまずは一発、プレゼントだぁ!」

  カチャリと引き金をデタラメに引いて、ブラックランチャーを発射する。一見デタラメなように放たれたロケット弾は近くにいた種族のバラバラな獣人達の元へと飛んで行き、そいつの目の前で爆発する。

  「なっ、なんだこれんぐっ!」

  ロケット弾の中からはブラックガンと同じく黒いラバー液が入っていて、勢いよく対象にぶち当たってラバーが獣人達の身体全体を包み込んで、さながら黒い繭のようになる。

  「き、緊急事態発生!ヴィランが三階会議室に出現!所員は退避しんがっ!」

  「おうおうご苦労さんっとぉ」

  一匹残っていた燕鳥人が館内放送で緊急連絡をしたのを確認してから、俺はブラックランチャーをぶち込んでやる。そのまま放送の繋がったままのマイクを手に取る。

  「あー、聞こえてるか?ヒーローの腰巾着ども。今からこのビルは火の海になる。丸焼けになりたくなけりゃあせいぜい逃げ惑うんだなぁ!」

  館内放送に俺の声が響く。よし、これで後はこのビルを焼き尽くすだけだな。っと、その前に……。

  「起きろ奴隷共!テメェらにはこれからマスター・ブラック様のためにキリキリ働くって使命があるんだからよぉ!」

  黒いラバーの繭と化していた奴らに変化が起こり、それぞれの身体の形へと変わっていく。腕が、足が、尻尾が、頭が形作られ、完全に身体の全てを覆う黒のラバースーツを着た奴隷へと変貌していった。

  そこにいた九人の獣人全員が、ブラックランチャーの力で【ザ・ブラック】の戦闘員へと生まれ変わった。一様に黒く光沢を放つラバースーツに全身を覆われ、辛うじて頭の形で元の種族を、股間部に勃起しているチンポが浮かび上がっているかないかで性別が想像できる程度で、個人の判別など出来ない状態だ。

  「さぁテメェら、マスター・ブラック様への忠誠の言葉を捧げろ!」

  『ハイッ!私はマスター・ブラック様の忠実なる奴隷として絶対服従を誓います!』

  全員スクッと立ち上がり、右手を上げて忠誠の言葉を唱和する。よしよし、ブラックガンの力は正常に作用しているな。

  「よぉし!今からこのヒーロー協会S市支部のビルを焼き尽くして、我らが【ザ・ブラック】の侵略の狼煙とする!テメェらは逃げ遅れたマヌケ共を捕らえてこい!マスター・ブラック様は一人でも多くの奴隷を求めている!」

  『ハイッ!全てはマスター・ブラック様のために!』

  命令もしっかりと聞いてるな。俺のようなコードネームを持っている奴には、一般戦闘員を命令する権限が与えられているから、ちゃんと言う事聞かねぇ奴がいたとしたら、そいつは奴隷化したフリをしてることになる。まっ、マスター・ブラック様の力を受けて平然としてられる奴なんていやしねぇだろうけど。

  「……さぁて、ここは屋上よりずっと、燃えやすいもんだらけだなぁ?」

  戦闘員共が散開していったのを確認してから、俺はブラックランチャーを捨てて自分の手の平に黒い炎を灯す。会議室には資料やら机やら本棚やら、いくらでも燃えるものはある。さぞかし煙を上げてくれることだろう。

  「燃えろ燃えろ!」

  両手から炎を放ち、燃えそうなものに片っ端から炎をぶつける。すぐに黒い炎が引火して、辺りは火の海と化して、黒煙がもくもくと壊れた天井を抜けて空へと立ち上っていく。

  炎を手に宿したまま、会議室の扉を吹き飛ばして廊下に出る。ジリジリと耳障りな消火栓の非常ベルに拳を叩き付けてから、雑に炎を放って廊下を火の海に変える。

  「さぁさぁ、逃げねぇと丸焼けになってお陀仏だぜぇ?」

  まだ三階にいて避難できてないようなとろい奴がいたら、さすがに焼き払っちまってもいいよな?いくらマスター・ブラック様の力で強化できるって言ったって、役にも立たない不良品混ぜるくらいなら処分しちまった方がいいだろ。

  扉を片っ端から開いては黒炎を投げ込んで、火の手を広げていく。パッと見逃げ遅れた奴はいなかったが、いたらどうせ丸焼けだ。

  三階はあっという間に火の海になる。二階にいる逃げ遅れた奴がいれば戦闘員共が捕まえてるはずだから、そっちに降りる理由はねぇな。となれば、そろそろ面白いことになってるだろう入り口へ行くとするか。

  廊下の窓ガラスを殴って破り、そこから外へと飛び出す。ブーツから炎を吹き出して、滞空して下の様子を見る。

  「なっ、なんだ?!」

  「ここにもヴィランがっんぐぅ!」

  「戻れ!ヴィランがあがぁ!」

  入り口からわらわらと出てきたヒーロー協会の職員共目掛けて、その入り口のすぐ前で待機していた戦闘員達が、ブラックガンで撃たれて黒いラバーに捕らわれていく。

  「おうおう、やってるねぇ」

  戦闘員達が出てきた職員達を片っ端からブラックガンで撃ってラバーの繭に変えている。中に逃げようとしていた奴らも、ビルの中から出てきた戦闘員達に捕まったようで強引に引っ張り出されている。

  「クソッ、放せ!放っうっ!」

  抵抗しようと暴れていたもののすぐにブラックガンを撃たれてラバーに包まれて大人しくなる。会議室で九人、外に……今のところ七人か?おっ、もう二人出てきたからこれで全員か。十八人も職員いるくせにヒーローが二人しかいなかったってのもふざけた話だ。

  「まっ、そんな役にも立たない奴らは、せいぜいマスター・ブラック様の為にキリキリ働くんだなぁ!」

  ビルの前に降り立って、今まさにブラックガンの力でマスター・ブラック様の奴隷へと生まれ変わろうとしているその様を見届けてやる。

  「……っ!」

  身体を覆われているうちは胸元やら首元やらを掴んでスーツを引き剥がそうと抵抗していたものの、頭までスーツに覆われてしまえばピクリとも動かなくなる。さすがにヒーロー便りの寄生虫共だ、どいつもこいつもディザイアに目覚めやしねぇな。

  「そろそろか?おら、立て!奴隷共!」

  俺がそう命令してやれば、ビルから逃げ出してきた職員共がスクッと立ち上がる。燃え盛るビルの中からさっき会議室で戦闘員にした奴らも全員出てくる。意外と見付けるの早かったな。まぁ全員纏まってたからそりゃそうか。

  「さぁ新人共!マスター・ブラック様への忠誠の言葉を捧げな!」

  『ハイッ!私はマスター・ブラック様の忠実なる奴隷として絶対服従を誓います!』

  新たに奴隷にした九人も、一言一句違わず忠誠の言葉を宣誓する。

  それにしても、てっきり新しいヒーローが支部にいると思ってたんだが、どうなってるんだ?まぁ、いねぇならいねぇでいいか。

  「こちらブラック・ブレイズ。第一作戦完了しました」

  『ご苦労。では、本番と行こうか』

  ああ、いよいよ本格的な侵略が始まる。ヒーロー協会の支部を真っ先に潰したのなんて、宣戦布告に過ぎねぇ。今からこの町を、【ザ・ブラック】が支配するんだ。そう考えると、興奮が収まらない。

  「さぁ奴隷共!片っ端からブラックガンで市民共をマスター・ブラック様の奴隷にするぞ!」

  『ハイッ!全てはマスター・ブラック様のために!』

  ---[newpage]

  町は阿鼻叫喚になっていた。

  「キャァー!」

  「た、助けてくれー!」

  「ヒーローは何をしてるんだ?!」

  S市のあちこちにホールの力でブラックガンを持った戦闘員が現れて、老若男女関係なく片っ端から一般市民をブラックガンで戦闘員に変えていく。

  「ほらほら、逃げられるものなら逃げて見せなよ!」

  戦闘員に変えられていく様を見て、我先にと逃げる一般市民達の背中に、独りでに動くブラックガンが向けられて放たれる。幹部の一人、念動力のディザイアを持つブラック・サイキックの手によるものだ。いくつものブラックガンを同時に念動力で操って、逃げる市民に追い討ちを掛けている。

  「ハッハッハッ!素晴らしい!素晴らしいぞ!」

  マスター・ブラック様もご満悦のようで、車も人もおらず、今やマスター・ブラック様を讃える戦闘員達で溢れかえる交差点の真ん中で高笑いしている。皆マスター・ブラック様が降り立った際に、直接その御力で奴隷に変えた奴らだ。すぐにブラックガンが転送されて武装し、また新たに奴隷を生み出すべく近くのビルへと侵入していく。

  「おらぁ!」

  当然防犯用のシャッターが下りて立て篭もるためのセキュリティはあるのだが、それも俺の力でぶっ壊してしまえば何のことはない。後は戦闘員に任せていても、すぐにビル内に立て篭もってる連中も戦闘員となって出てくることになる。

  「ハッハァ!これならすぐにでもS市を制圧して、県内だって制圧出来ちまうんじゃねぇか?」

  「クハハハッ!このまま世界を黒に染めてやろうではないか!」

  ドォンッ!

  突然、爆発が起こる。見れば、煙がもうもうと立ち上がり、戦闘員達が爆発に巻き込まれたのか吹き飛ばされて倒れている。

  「見付けたぞ」

  煙の向こうから歩いてきた黒い影。ボロ布のような黒いマントを羽織り、頭も目元以外、耳さえも黒いターバンのようなボロ布で覆われ、厚手の布製に見えるインナーに身を包む、長いマズルだけでしか判断出来ない犬系の獣人。その手には二丁の黒いライフル銃のようなものが握られている。

  ヴィランにしか見えない風貌だが、その姿には見覚えがあった。

  「へっ、ようやくヒーローのお出ましか!」

  ヒーロー。そう、あれであいつはヒーローだ。名をダーク・トレイター。黒のヒーロー。最強のダークヒーロー。ヴィラン殺し。悪の組織殲滅兵器。異名は様々だが、かつてヴィランであったことがこれらの物騒な異名を生み出したって噂もある。

  「フハハッ!単身乗り込んでくる勇気は讃えよう。だが!」

  マスター・ブラック様の言葉と共に、周囲にいた戦闘員達が一斉にブラックガンを構えて、ダーク・トレイターへと向ける。いくら最凶のヒーローといえど、ブラックガンの前では無力だ。

  「撃て!」

  その号令と共にブラックガンの一斉掃射がトレイターへと放たれる。しかし、それがトレイターに届く前に、突然現れた黒い壁にブラックガンのラバー弾はあっさりと防がれる。けど、壁くらい……!?

  「[[rb:黒き鉄雨>シャドウバレッド]]」

  壁から機関銃の銃口が飛び出し、それが一斉に弾丸の雨を降らせ、戦闘員達ばかりか俺達へと飛んでくる。

  「チィッ!」

  俺はマスターの前に出て、黒炎を展開して弾丸を打ち落とす。けど、なんの力も持たない戦闘員達は為す術もなく弾丸の雨に曝され、次々に地面に倒れ伏す。

  「ブラック・ブレイズよ」

  「ハイッ!」

  弾丸の雨が止んだのを確認してから、ブーツから火を噴かせて飛び出す。戦闘員共はともかく、マスター・ブラック様にまで手を出そうなんざ、不敬にもほどがあるぜ。

  「[[rb:黒炎の凶撃>ブラック・ストライク]]!」

  黒い影の壁に向けて黒炎を宿した高速の拳を叩き込む。想像していたよりはずっと脆く、あっさりとぶち壊れて壁が文字通りに霧散する。ダーク・トレイターのディザイアによって造られた影を実体化させた物は形が崩れると霧散するとは何処かで見たことはあったが、実際に見たのは初めてだ。

  「[[rb:赤獅子>あかじし]][[rb:豪火>ごうか]]だな」

  「そんな名前は知らねぇなぁ。俺はブラック・ブレイズだ!」

  両手から黒炎をトレイター目掛けて噴き出す。普通に受ければ全身大火傷で簡単にくたばるような炎だ。防御するなり炎から逃れるなりするだろう。その隙を突いて拳を叩き込んでやればイチコロだ。

  「[[rb:狼の咆撃>ウルフハウリング]]」

  黒炎を貫いて、レーザー状の闇の塊が飛び出してくる。俺は咄嗟に上へと飛び退いて、レーザーを回避する。クソッ、あんなのまともに食らえるわけねぇだろ!無茶苦茶過ぎ……!

  「グッ……!」

  飛び上がった直後に、右足に激痛が走る。俺の足を正確に狙って来たってのかよ……!黒炎からほんの少しだけ下がり、広がる火の手には最低限の影の箱状の足場を作って対処している。煙だって上がってるってのに、その足場から片手で構えたライフルで、的確に狙えるとか化け物かよ……!

  「っざけんなぁ!」

  こうなりゃこの辺一帯火の海にしようが仕留めてやる。あいつの方ならマスター・ブラック様を巻き込むことはねぇだろ!

  「[[rb:出力全開>フルパワー]]![[rb:黒炎の太陽>ブラックコロナ]]!!」

  両手から自分の身体の何倍も大きい、超巨大な黒い火炎球を作り出して、それをトレイターに目掛けてぶち込む。単純明快、一撃必殺の灼熱地獄だ。いくらあの化け物だって……。

  「喰らえ、[[rb:魔狼の一噛>フェンリルバイト]]」

  トレイターが右手を構えたかと思えば、影で作られた漆黒の巨大な狼の頭が現れ、着弾前に俺の全力の攻撃に喰らい付かれる。黒炎が有り得ないほどあっさりとその巨大な口に飲み込まれ、僅かながらの炎が口端から飛び散っただけに終わった。終わってしまった。

  「なっ……!」

  驚愕している内に、狼の頭に乗ってトレイターが空中にいた俺の目の前まで来ていた。ダメだ、逃げなくては……。

  「眠ってろ」

  右手に狼の頭が口を広げていた。そこからレーザー砲が放たれ、俺の腹にぶち当たる。一瞬で意識を失いそうなほどの痛みに、悶絶する間も無く意識を手放し掛けた。

  ドンッ

  だが、コンクリートの地面に背中から叩きつけられた痛みに、再度意識が覚醒し掛ける。し掛けた。結局は、その凄まじい痛みでとうとう意識を手放すことになってしまった。

  お、俺はまだ……マスター……ブラック……様……。

  ---[newpage]

  捕らわれていたヒーロー、ブレイジング・ブレイブこと赤獅子豪火はヴィランの手駒となっていた。少々時間を取らされてしまったが、幸い目標には逃げられなくて済んだ。

  漆黒のボディスーツに頭以外の全身を覆う黒い羽の鴉鳥人。黒に黒が重なり、黒を激しく主張しているように見える存在。これが今回の騒動の中心、【ザ・ブラック】のボス、マスター・ブラックらしい。

  「ブレイズがやられるとは……是非とも我が配下に加えたいものだ!」

  「下らない」

  引き際も分かっていない、か。既に策の成功を確信して増長しているようだ。作戦の実行が遅いと思えば、こういうことか。

  「お前はここで終わりだ」

  「有象無象の王だと、見くびるでない!」

  マスター・ブラックが右手を翳せば、その腕から黒い液状のラバーが飛び出してくる。不意打ちでも何でもない、雑な攻撃だ。

  しかし捕らえられれば精神的に重篤なダメージを受けるものであるのは一般人やそこに転がっているブレイジング・ブレイブを見れば明らかだ。

  飛び掛ってくるラバーを、狼の頭を作り出して噛み付かせる。[[rb:魔狼の一噛>フェンリルバイト]]に比べれば随分小さいが、ラバーなど噛み千切って隔離するだけならば十分だ。

  「ほう。では、これならばどうだ。ブラック・ウェーブ!」

  黒の波の名の通り、何処からか今度は黒い液状ラバーが波のように高く広がり迫ってくる。先ほどに比べてあからさまに範囲が広く、この距離では回避の難しい攻撃だ。

  「[[rb:狼の咆撃>ウルフハウリング]]」

  俺の影から狼の頭の形のレーザー兵器のストックを取り出して、目の前のラバーの波に向けて放つ。影のレーザーは波に大穴を開けて、その殆どを蒸発させる。頂点辺りはまだ残っている。恐らくそれも制御対象だろうが、それは問題にはならなかった。

  「ガハッ……」

  ラバーの波に阻まれて威力の弱まった[[rb:狼の咆撃>ウルフハウリング]]のレーザーに当たったようで、マスター・ブラックは膝を付いていた。この程度も予測できないとは……戦い慣れていないのは明白だな。

  「早急に終わらせる」

  「ぐっ……だが、我が奴隷達が既にこちらに向かっている。我を捕らえたところで……」

  何か言っているがどうでもいい。こいつの愚策など実行される前に、事は済む。

  俺の影をマスター・ブラックへと纏わり付かせ、そのままある装置を具現化して拘束した状態にする。

  「なっ、なんのつもりだ……!」

  端的に言えば電気椅子のようなものだが、手足は椅子に拘束され、頭の上半分を覆うような装置が取り付けられている。普通に考えれば処刑道具、良くて拷問道具にしか見えないものだ。

  「この事態の収束に、お前の状態は問われていない」

  器具を作動させる。俺は取り込んでおいた影をそのまま使用できるため、これも見掛けだけでなく現物と同等の機能を有している。

  「なっ……!あがががががががががっ!」

  頭に取り付けられた装置から青白い電流が飛び散る。見掛けや状況こそ電気椅子のそれだが、これはただの電気椅子ではない。対象のディザイアを消し去るために、欲望諸共精神を破壊する、ヒーロー協会開発の非人道兵器だ。

  「あがっ、やめっ、ややっ、やめっ……!」

  「悔いる間もなく、全てを失うんだな」

  暴れ回ろうと足掻き、最後には止めるよう懇願しようとしたが、そんなものはお構いなく一切の躊躇なく器具を作動させ続けた。最後は泡を吹き出し、意識と共に精神を失う。マスター・ブラックと呼ばれたヴィランの最期は、なんともあっけないものだった。

  ディザイアが消えたことによって、すぐにその影響が出始め、人々の身体を覆っていたラバースーツがドロリと溶けて消えていった。マスター・ブラックの着ていたものも、ブレイジング・ブレイブの着ていたものも、全て無かったように消えていく。

  それでも、壊れたビルや道路、ブレイブの炎は消えないままだ。目に見えて災禍の爪痕は町に残っているが、それもいずれは修復される。だが、ヴィランを倒したその後のことは、俺の管轄外だ。

  「こちらダーク・トレイター。目標のディザイアの消失、無事完了した」

  『お疲れ様。もう撤退してもいい……って言いたいところだけど、ヒーローだけは回収しておいてくれないかな。本部の処理係が来る前に』

  「……了解した」

  意図は読めないが、こいつが言うからには何かあるのだろう。仕方ない……手間だが連れて帰るか。

  俺はその辺に乗り捨てられていた車を影を具現化させて、ブレイジング・ブレイブを放り込んでから、その場を後にした。

  ---[newpage]

  んっ……意識がぼんやりとしている。瞼が重くて開かない……ここは何処だ……?俺は……。

  「先生、意識を取り戻しました!」

  そんな慌しい声に、少しずつ意識が覚醒していく。手に触れているのは柔らかい布のような……ベッドに横たわっているのか?薬品特有の匂いと、どうにか開こうとした目に映る、霞む光景の多くが白であることを見れば、ここは……病院なのだろうか?そういえば、左腕に違和感がある。何かが刺さりそこから冷たいものが入り込んでくるような感覚……多分点滴液だよな?

  あれ、俺、なんで病院に……。

  「大丈夫ですか?ブレイジング・ブレイブ」

  「ぶれい……じんぐ……ぶれ……いぶ……」

  ぶれいじんぐ、ぶれいぶ……ブレイジング・ブレイブ?

  ブレイジング・ブレイブ……正義のヒーロー……。

  段々と、意識がハッキリしていき、記憶が戻って来る。

  「単刀直入に行こう。ヒーロー、ブレイジング・ブレイブよ。我らが【ザ・ブラック】の下僕となれ」

  ブラック・ホールの策略により炎の使えない水槽に閉じ込められ、一番最初にマスター・ブラックに言われた言葉。そう、ここから全てが始まった。

  「さて、余興といこうではないか。せいぜい自分の無力さを噛み締めるがいい、ブレイジング・ブレイブよ」

  目の前で、一般人が【ザ・ブラック】の戦闘員に変えられる様をまざまざと見せ付けられた。その力のおぞましさと、己の無力さも……。

  「では命令だ。126号、127号、そこにいるヒーローを、犯せ」

  そのまま、戦闘員と化してしまった市民達に犯された。尻を初めて掘られ、口に尻に射精された。屈辱以外の何ものでもなかった。

  「戦闘員128号になりたくなければ、せいぜい抗うがいい」

  そして、俺自身にもマスター・ブラックのおぞましい力が向けられ、あの黒いラバーに包まれた。性的快楽と共に、おぞましくドス黒い感情が目まぐるしく迫ってきた。認めたくない心に、なんとか抗った。

  「貴様は途中から自分だけの意志でそいつを、我が下僕……いや、貴様らヒーローの言い方で言おうか。一般人を犯していたのだ!」

  そうだ……俺は、初めは強引だったとはいえ、戦闘員化した一般市民をこの手で犯してしまった。犯して、あろうことか快楽を感じて中出ししてしまったんだ……。

  「認められないか?だが、それが貴様の本質なのだ。他者を蹂躙して快楽を得るケダモノ。それが貴様の本当の姿だ」

  ただ、否定することしか、喚くことしか出来なかった。ただ違うとしか否定できなかった。合理的な答えなんて何も出せなかった……。

  『全てを薙ぎ払い捻じ伏せるだけの、圧倒的な力だろうが!ヴィラン共が一般人を蹂躙していく様に、憧れを抱いて得た力だろうがぁ!』

  「あ、あ……」

  リフレインしてきた言葉に、耐え切れなくなって来た。

  『本当はただ戦いたいだけ。敵を捻じ伏せる快感だけで、なんとか続けて来れただけ。ホントはやってみたいことだって、やりたいことだってあるのに、ヒーローとして振舞うために普段からヒーローを演じてるだけ。綺麗事で頭をいっぱいにして、自分を騙し続けてきたんだ!』

  「ああ……」

  「今は貴方に従おう、マスター・ブラック」

  「けど、俺は俺の欲望のために【ザ・ブラック】に加わるんだ。もしヒーロー共と同じように俺の欲望を縛り付けようものなら、俺はテメェらを焼き尽くす」

  覚えている。覚えてしまっている。俺は……俺は……自分の意志で……マスター・ブラックの手を取ってしまったんだ……。

  「ブレイジング・ブレイブ?どうかしましたか?」

  ブレイジング・ブレイブ……正義のヒーロー……。ヒーロー……ヒーローなんだ……なのに……なのに……俺は……俺は……!

  「ああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

  「ど、どうしました?!ブレイジング・ブレイブ!」

  「違う!違う違う違う違う違う!俺はブラック・ブレイズだ!ブラック・ブレイズなんだ!ヒーローなんかじゃねぇ!ヴィランなんだよぉ!」

  ヒーローであっていいはずがない。皆を守るヒーローが、一般人を犯して、かつての仲間を暴行して、建物を焼いて、町を破壊して……そんなことをしたヴィランが、ヒーローの名前で呼ばれていいはずがない。

  「お、落ち着いてください!」

  「ダメだ、鎮静剤を!」

  「触るんじゃねぇよ!」

  俺を押さえつけようとする医者共を焼き払ってしまおうとディザイアを発動させようとした。けど、力は上手く揮えず、何かを注射されてしまう。

  「落ち着いてください、ブレイジング・ブレイブ。貴方は、ヒーローなんです」

  違う、俺はヴィランだ……もう……ヴィランでしかないんだ……。

  反論しようとする言葉は口から出る事無く、そのまま俺の意識は闇に溶けていった。

  「……ブレイジング・ブレイブが意識を取り戻した。が……」

  『錯乱している、よね』

  俺が要件を伝える前に、電話の向こうの声の主、ライジング・ホープは先んじてそう言ってくる。回収しろと言ってきた時点で、あいつがこの事態を分かっていたことは大方予想出来ていた。

  「『見た』んだな」

  『まぁね……殺しちゃったんだ、彼。さすがに、ずっとヒーローとして尽くしてきてくれた彼を、本当のヴィランにするわけにはいかないから、先手を打たないといけなかったんだ……』

  殺した、か……あのまま放置していれば、当然一般病棟だったわけだから、錯乱したブレイジング・ブレイブがディザイアで医師を殺す状況は目に見えている。

  「これからどうなる」

  『まだ一回目だよ。だけど、恐らくはもう、直接的な原因を取り除けるタイミングはないから、彼の心次第になる、かな』

  一回目か。こいつが言うことを信じるしかないが、気の長い話になりそうだ。殺人やら自殺やら、抑えないとならないことが多過ぎる。

  『すぐに探せればよかったんだ……なのに……』

  「お前の手でも、全てを救えはしない。何度も言っているだろう」

  『分かってる……分かってるんだけど……』

  「……そんな力を手にしたために、後悔が一層強くなるのだろうが、切り捨てたわけでもあるまい。悔いるには早すぎるだろう」

  『……そうだね。ごめん、ゲツエイ』

  「俺に謝る必要はない。アカジシにもそうだ。本来ならば救いようがなかったものを、どうにかなるようにしただけでも十分だろう」

  最強のヒーローだの、世界の希望だの言われているヒーローだが、[[rb:廻>めぐる]]だって人なのだ。あまりにも強大な力を持ってしまった、人に過ぎない。

  「俺はもう行っていいな」

  『うん。わざわざ、ありがとう』

  「気にするな。これも仕事の一環だ」

  個人的な頼みならまだしも、悪の組織の討伐のついでだ。個人的に感謝されるいわれはないはずなんだがな。

  そのやりとりを終え、俺はS市から去り、また最前線へと戻った。後は、あいつの問題だ。

  ---[newpage]

  「うっ……」

  身体中が痛い……特に背中が痛い……翼を背に横になっているようで、とにかく起き上がりたかったのだが、信じられないほどだるくて身体に力が入らない……。

  仕方無しに頭だけ動かして周囲を確認する。見覚えのない天井。周囲はカーテンで覆われ、左手側には自分の左腕に続く点滴……どうやら、病院のようだな……。

  だとしたら、枕元にでもナースコールはないものか。自力で身体を起こすのが難しいなら、誰かに起こしてもらうしかない。この痛みは翼の骨が折れないか不安になるから、早めになんとかしたい。

  「アオワシさん?」

  もぞもぞと動いていたからか、カーテンが開けられ白毛の兎獣人の看護師らしき人物が声を掛けて来る。丁度いい、早く起こしてもらおう……。

  「す……すまない……身体を……背中が……」

  声を出すだけのはずなのに、異常な疲労感がある。どうなってる……?何日眠っていたんだ、俺は……それを聞くことさえ出来ない。

  要点を伝え切れなかったものの、看護師はすぐに俺の上半身を起こしてくれた。ひとまず翼からの痛みはなくなったものの、身体のだるさが抜ける気配は無かった。

  「大丈夫ですか?何処か痛いところはありますか?」

  「身体の節々が痛いが……俺は何日眠っていたんだ……?」

  「えっと……今日で二週間目でした」

  二週間……二週間か……それならこの痛みは寝過ぎでは済まない期間横になっていたせいだな。傷のあるような痛みではないのは感覚で分かる。

  「先生を呼んできますね」

  そう言って看護師は部屋から出て行った。どうやらこの部屋は個室の病室のようで、ベッドは一つだけのようだ。点滴のみならずバイタル測定器も取り付けられているようだ。二週間も眠っていたのであれば当然か……。

  二週間……そもそも、いつから二週間だ?記憶が曖昧だ……最後に何をしていたのか、思い出す必要があるな。

  豪火が突然いなくなった。それで、豪火が最後にいなくなった場所を探していて、そこで……そこで、洗脳された豪火に遭遇したんだ。戦いはしたものの、実質敗北して【ザ・ブラック】のアジトへと拉致され、そこで……。

  「……っ!」

  思い出そうとして頭が痛くなってくる。あまり思い出したくない情景がフラッシュバックして、記憶を辿ることを拒絶しているようだ。もはや思い出す必要もないかもしれないが、確かに洗脳された豪火に犯されたという事実は覚えている。その後も幾度か豪火に暴行されていたか……。

  マスター・ブラック……そのディザイアは心の闇を増幅させ精神を破壊し、自らを崇拝する思想を植え付け洗脳する、おぞましい力だった。負の感情の爆発は大して効果がなかったのは普段から色々な事に対して斜に構えているところがあるからだろうが、その先に耐えることが出来なかった。今は頭の中にガンガンと響いていたマスター・ブラックへの崇敬の言葉は消えている。ラバースーツも、跡形もなく消えて、病院着の下は紺色の羽毛に覆われていた。

  ラバースーツは当然にしても、あれだけ強烈な洗脳を受けて大した後遺症が残っていないということは、マスター・ブラックのディザイアは消失したのか……?でなければ対処出来ない状況だった可能性は……大いにある、か……。

  「失礼するよ」

  扉がノックされて入って来たのは、白衣を着た初老の山羊獣人だ。白い毛に長い髭が、年齢を感じさせるものの背筋は伸びている。

  「気分はどうだね」

  「随分身体はだるい、ですが、そのくらい……です」

  一瞬自分の状態を再度省みたものの、それ以外の状態は問題ないように思える。洗脳されてからの記憶がほぼ欠落しているために、その際にした怪我も分からないが、特に痛みや違和感はないように思える。

  「ふむ……身体的なことだけではなく、精神的な問題はないかね?」

  「精神的な問題……ですか。そうですね……恐らく、聴取のために必要な記憶が殆ど欠落していること、くらいでしょうか」

  「なるほど……それは、不幸中の幸いというべき、かな」

  不幸中の幸い……か……。確かに、思い出すだけで自殺を選びたくなるようなことがあったのは、直前の洗脳からして容易に想像できることだ。何も覚えていないことが幸せなのは確かだろう。

  医師の表情を見ると、少しばかり複雑な表情をしているように見える。表情だけでは詳細は読み取れないが、記憶がないことに問題がある……か。マスター・ブラックのディザイアが消えているということは、当人からまともな話が聞ける状態ではないため、被害者からの聴取以外で状況の判断が付かない可能性が十分想定出来る。

  「二週間眠っていたと聞いたのですが……今は何月何日なんですか」

  「ああ、九月二日だよ」

  「九月……そう、ですか……」

  豪火がいなくなったのが八月上旬。まるまる一ヶ月経過していると考えれば、【ザ・ブラック】にいたのは約二週間か……。全く実感が沸かないな。

  「しばらくはこちらでも様子を見るが、リハビリもしなくてはいけないだろう」

  「はい……え?こちらで、というのは……」

  「ああ、私は精神科医でね。ここは精神科病棟なのだよ」

  「精神科……?」

  精神科か……いや、判断としては間違っていないか?身体に異常がないとすれば、通常の医療施設よりは、目覚めた後のケアの方が重要であると考えれば……。しかし、ヒーローに限れば集中治療室や、それこそ治癒カプセルなどの未来技術による急速治療も検討されたのではないだろうか。

  「……その、だね……随分早く目を覚ましたんだ……君のバディである、赤獅子豪火君は。ただ……異常なまでに錯乱してしまっていてね……君も、そうなってしまうのではないかと危惧されていたんだ」

  「ゴウカが……錯乱……?」

  どういうことだ?何故、豪火がそんな……豪火だって洗脳されていただけのはず。確かにあいつはヒーローであることに異常に拘っていたから、ヴィランにされたという事実だけでもその対象にはなるだろうが、それにしても錯乱……。

  「彼は今もこちらの病棟に入院している。今も、まだ錯乱状態が続いている、のだろうね」

  「そんな……ゴウカは、いつ目覚めたんですか?」

  「事件から二日後だね」

  二日後?一週間どころか、もう二週間も?あいつが、そんなに引き摺っているのか?あまり想像が出来ない。俺にさっさと目を覚ませと文句を言っている光景ならば想像が付くが、一体……。

  「……彼の状況は、追々説明させて貰うことにするよ。歯痒いことだが、君の力を借りなくては、彼を救うことは出来ないだろうからね」

  救えない……そんな状態、なのか……。豪火に一体、何があったというんだ……。

  それから、身体的なリハビリが始まり、二週間全く動かしていなかった身体を慣らしていった。日々のトレーニングの甲斐もあってか、日常生活に戻るのにはさして時間は必要なかった。ヒーローとして活動を再開するには時間を要することになりそうだったが、それより先に解決するべき問題があった。

  身体に害はなかった。精神的な後遺症も、ほとんど残っていなかった。ただ、それでも一つ、大きな後遺症が残っていることに気付いたのは、目を覚ましてしばらく後のことだった。

  ---[newpage]

  ただベッドでぼんやりとする日々を送っていた。

  あれから何日経った……。俺は未だ、病院に入院させられたままだった。いや、ここがむしろ監獄なのかもしれない。丁度窓に鉄格子が掛けられてるし、部屋の扉も外側から鍵が掛かっている。おまけに手錠までされてるのだから、監獄と変わらない。

  それでいい。さっさと本物の監獄にぶち込んでくれればいいんだ。いつまでもこんなところで無意味な治療なんてされたって、何も変わらない。そんなことで、過去が変わるわけじゃねぇんだから……。

  コンコン

  扉がノックされる音がする。なんだ?飯にしてはまだ早いぞ?また性懲りもなく無駄な話をしにきた医者か?どうせ無意味だ。返事してやる義理もない。

  「入るぞ」

  その声に、俺の身体がビクリと震える。聞き間違えでも、他人の空似でもない。何故か、そう確信が持てた。

  「ま、待て……!」

  拒絶する言葉などまるで意に介さんといわんばかりに、容赦なくその扉は開かれて、病室へと一人入ってくる。青緑色の病院着を着た、黒に近い紺色の羽の大鷲鳥人。[[rb:青鷲>あおわし]][[rb:十紀>とうき]]だ。

  一番会いたくなかった……会いたくなかった?確かにそうだ。だけど、今、こうしてこいつが来たということは……。

  「へっ、やっと、ヒーローがヴィランを捕らえに来たわけだ」

  そうだ、こいつはヒーローだ。ヒーローが来たからには、ヴィランは逮捕されて投獄されるんだ。この精神病棟とは違う、正真正銘の牢屋行きってわけだ。

  「何を言っている。ここにヴィランはいない」

  「いるだろうが目の前に!テメェは俺をおちょっくってんのかぁ?!」

  あまりにもいつもと変わらない十紀の態度に、俺は堪らず吠えてしまう。なんでこいつは平然としてんだよ!こいつのことだ、何も聞かずに俺のところへ来たなんてことはねぇはずだ。むしろ、念入りに調べて来ているって可能性の方が高い。

  「はぁ……聞いていた以上に重篤なようだな」

  十紀は一つ溜め息を吐いてから、俺が横になっているベッドの側まで歩いて来ようとする。

  「く、来るんじゃねぇよ!」

  クソッ、手が自由なら物でも投げつけてやるってのに!今初めてこの手錠が恨めしく思えて来た。

  「何があった。医者に聞いても、お前が話しは要領を得ない話ばかりだと聞いた」

  「何がって……分かってんだろ!?それとも何か?テメェは何一つ覚えてねぇってのかよ!」

  そうだ、何も覚えてねぇなら、十紀がこうして平然としていられるのも納得できる。覚えてて、俺のところへ来ようなんて、それこそ俺を逮捕するか、殺すかしようとしてでもねぇ限りありえない。

  「そうだな……洗脳された後のことは、殆どあやふやな状態だ。マスター・ブラックのディザイアが消滅して、その影響がこの世界から消滅したから、だろうな」

  「だとしても……だとしても洗脳される前に、俺がテメェにしたことくれぇは覚えてるだろうがぁ!」

  俺は、十紀に暴力を振るって、犯しまでしたんだ。バディを、何より最悪な形で裏切ったんだ。なのに、なのにどうしてこいつは変わらないんだ……。

  「ああ、お前に暴行されたことも、強姦されたことも覚えている。出来れば思い出したくはなかったがな」

  「だったら!だったらそれだけでも十分逮捕できる理由になるだろうが!」

  「それは洗脳されて行ったことだ。であれば……」

  「違うんだよ!」

  何か言おうとしていた十紀の言葉を遮り、一際大きな声で叫ぶ。

  「俺は……俺は、全部覚えてる。マスター・ブラックの手を取ったのだって、それこそお前をぶち犯したのだって、全部俺の意志だったんだ……」

  十紀の記憶がなくて、俺がハッキリ全部覚えてるのが、何よりの証拠だ。今、こいつの話を聞いて確信が強くなった。俺はヒーローとして、どころか人としてやってはいけないことを、自分の意志でやったんだ……。

  「本当に自分の意志だと言えるものなのか?」

  「なんだって……?」

  「マスター・ブラックのディザイアは心の闇を増幅させるものであり、それと共に自らに都合のいい思想を上書きする力でもあった。お前が自分の意志だと思っていたものは、ただマスター・ブラックのディザイアで捻じ曲げられただけのものに過ぎない」

  過ぎないと、十紀はそう断言してきやがった。確信のないことを、嘘でも断定するような奴じゃないってのに……。

  「だからなんだってんだよ……たとえそうだとしても、俺は……俺がディザイアに全てを捻じ伏せる圧倒的な力を願ったことには変わりねぇ……ヴィランのようになりたくて力を願った事実は、消えねぇんだよ……」

  ずっと認めたくなかった。認めたくなかったけど、ハッキリとしてしまったんだ。俺がディザイアに目覚めた時、ヴィランが無力な一般人を蹂躙していた。その様に憧れて、力に目覚めた。その後はヴィランを捻じ伏せて、結果的に人を助けただけだったんだ……。

  「……切っ掛けはともかく、お前が正義の心でディザイアに目覚めたわけではないことくらい、見ていれば分かっていたことだ」

  「なっ……!テメェに俺の何が分かるってんだ……!」

  「ずっと、ずっとお前を見続けて来た。確かに、四年程度の付き合いでしかないと言われればその通りだが、それでも戦っているお前と、日常のお前を知っている」

  俺が怒鳴るのも気にせず、十紀はそうあくまで冷静に答え、言葉を続ける。

  「俺が知る限り、お前が一番楽しそうな時は、ヴィランと戦っている時だ。というより、他に楽しみを持とうとしていなかった、と俺にはそう見えていた」

  全くオブラートに包まれない言葉がグサグサと突き刺さってくる。相当意識して隠してきてたつもりだったのに、十紀にすら……いや、一番近くにいたこいつだから気付いたんだろうな……。

  「だとしても、俺に、ヒーローの資格なんてねぇんだよ……」

  「ヒーローの資格か……年齢十六歳以上、高校卒業相当の資格を持ち、ディザイア能力を保有していること」

  「……は?」

  突然真顔で何を言い出してるんだ?こいつは。

  「後は所定の面接を受けた後実地研修を一年以上行いヒーローライセンスを受け取れば、晴れて正式なヒーローになれる。ライセンスを剥奪されたわけではない以上、お前にヒーローの資格がないなんてことはない」

  そう言って、十紀は病院着のポッケから、ヒーローライセンスの入った、俺のパスケースを取り出す。ブレイジング・ブレイブ。その名前と顔写真、何時からヒーローであるか、次の更新が何時か、そういった情報が表に書かれている。

  「って、テメェ、ふざけてんのかよ!そういうことじゃ……!」

  「ふざけてなどいない。至って真面目だ」

  ずっと距離を置いていた十紀がベッドの横まで歩いてきて、俺のすぐ目の前、掛け布団の上に俺のライセンスを置いてくる。

  「ゴウカ、お前の言わんとすることも分かる。だが、お前の願いは以前から変わったわけではないんだ。それでも、願いが何だったにせよ、お前はずっとヒーローだった」

  「……それがなんだってんだ……結局、俺がお前に暴力振るったのも、強姦したのも、支部を焼いたのも、事実じゃねぇか……」

  どれだけ十紀が慰めようと、事実は消えない。俺の記憶からも、まして世界からも。本当だったらしこたま十紀に怒られることのはずなのに、なんでこいつは俺を慰めようと、擁護しようとしてくるんだよ……。

  「俺がしたことは、ヴィランそのものなんだよ……ヴィランは、ヒーローになんかなれない……」

  「……要するに、お前はもうヒーローとして責任を負いたくないから、ヴィランとして裁かれたいと、そういうことだな」

  「っ!」

  一瞬頭が沸騰して手を上げようとしたものの、ガチャリと手錠が鳴ってその手を止めた。

  「んなわけ……!んなわけ……」

  「……らしくもない。一度手酷くやられただけで、逃げ出すとは」

  「ぐっ……」

  凄まじく棘のある、心にぶっ刺さる言葉に、何の反論も出来なかった。逃げてると言われて、納得してしまった。このまま喚き続けてヴィランとして処分されるなら、たった一度、凄まじい罵声を浴びせられることはあるかもしれないが、投獄されればそれでお終いなんだ。

  「確かに、復帰したならまず間違いなく罵詈雑言を吐かれるだろう。それが収まっても、敗北を期して悪の手に堕ちたヒーローとして揶揄され続けるだろう」

  「俺は……」

  俺は、本当は批判されるのが怖かったのか……?今まで守ってきたものが、手の平を返して牙をむいてくることが、怖くて……。

  「俺だって、そのことを考えれば辟易するところはある。批判されることは、俺も同じだからな」

  「トウキ……」

  「……辞めたいなら、それでもいい。自分で言い辛いなら、そう伝えておく。そのライセンスも返納しておこう」

  珍しく、思い悩んでいるように見えた。俺の前に置かれたライセンスをジッと見て、何処か辛そうな表情をしている。

  「なんで、なんでお前がそんなに辛そうなんだよ……いい、じゃねぇか……俺が、ヒーロー辞めれば、こんなバカのバディ、辞められるんだから……」

  「……はあぁ、バカだと分かっているなら、もう少し思慮を持って欲しいものだな」

  俺なりに気を遣って掛けた言葉に、十紀はそりゃもう盛大にわざとらしい溜め息を吐いてそう言ってきやがった。こいつ……!

  「……俺は、お前と一緒にヒーローをしていたいんだ……」

  「……え?な、なんだって……?」

  「っ!何度も言わせるな!」

  今、ありえないことが聞こえて来なかったか?十紀も、黒羽のせいで分かり難いけど、今まで見たことないような赤面してるし。あ、そっぽ向かれた……。

  「まったく……なんで俺はこんな奴を……」

  「な、なんか悪い……」

  「……謝るくらいなら、早く決めろ。ヒーローであることから逃げ出して楽になるか、不名誉を、汚名を被ってでも、俺とヒーローを続けるか」

  「い、今かよ……」

  でも、今決めなかったら、多分一生グダグダし続けること、だな……。

  ずっと、ずっと医者の話も、ヒーロー協会の職員の話も、聞く耳持たずに、ただ叫んで拒絶して……思えば逃げることしか考えて無かったんだ。受け入れて、復帰するなんて、ちっとも考えられなかった。ヒーローの資格だなんだ、ヴィランでしかないだのなんだ言って、結局俺はただ、他人から批判されるのが怖くて、自分を貶めてたんだな……。

  「……やってやるよ。俺は逃げねぇ。批判からも、自分の願いからも、ヒーローであることからも、逃げねぇ」

  「……それでこそ、ブレイジング・ブレイブだ」

  十紀は何故か正面から抱きついてきて、背中をポンポン叩いてくる。背中の羽が鼻に当たってくすぐったい。っていうか、なんでいきなり抱き着いて来たんだ?こいつ。

  ---[newpage]

  「ト、トウキ……?」

  「……」

  どういうわけかいつまでもそうしていたから、さすがに疑問に思って名前を呼ぶと、十紀はゆっくりと俺から離れて行った。

  「な、なんだったんだ……?」

  「……この朴念仁に期待した俺が馬鹿だった、か……」

  ボソリと十紀はそう呟く。ぼくねんじん……ってなんだっけ?聞いたことはあるような気がするけど……。

  「……」

  「な、なんだよ……」

  ただ黙ってジッと俺の顔を見ながら、難しい顔してる十紀に、思わずそう聞いてしまう。

  「……好きだ」

  「……はい?」

  え?好きだ?は?え、何を言い出してるんだ?こいつは。

  「お前のことが好きだって言ったんだ」

  「……え?」

  思考が吹っ飛んで、頭が真っ白になった。好きって、好きだよな?は?友達として?こんな真顔で?っつうか、赤面して?確かにあいつのキャラじゃないから、友達としてでも言うには恥ずかしがりそうだけど、どうもそんな感じじゃない。いくら俺が鈍くても、違うってことは分かる。

  ってかそうじゃん、朴念仁って鈍い奴とかのこと言う言葉じゃねぇか?ってことは……。

  「え、え、ええええええええええええええ!?!?!?」

  十紀が、俺のことを好き!?!?い、いやいやいやいや!こいつがそんな素振り見せたことあったかぁ!?

  「え?は?ちょっ、ちょっと待ってくれ……マジで言ってんのか?それ」

  「……俺がそんな冗談を言う奴に見えるか」

  「……いや、ぜってぇ無いって言い切れるけど……いやだからこそ!ってか、お前が俺に惚れる要素何処にあったんだよ!」

  今まで散々思慮が足りないだの冷静に行動しろだの、詰めが甘いだのなんだの……いや、マジで惚れる要素あるか?ここまで言われて……。

  「確かに色々言ってはいるが……そういう危なっかしくて放っておけないところも一つの要素になるか」

  照れくさそうにそう言ってくる十紀。あれか?母性をくすぐるとか、そういうやつなのか?いや、そういうキャラじゃねぇだろ……。

  「……お前にとっては助けたうちの一人だから、覚えてないだろうが、お前に助けられて以来、ずっと憧れてたんだ……」

  「助けたって……俺がお前を?……ああっ!」

  色々記憶をサルベージしてたら、確かに大鷲鳥人で銃器ぶっ放してるディザイア能力者助けた覚えがあった。

  「え?じゃあ、あん時から?」

  「……そうだ」

  う、うわぁ……俺が高三の時だから、五年か?俺とバディ組む前から片想いしてたってことか?つか、ずっととか……やっぱそんな素振りねぇって……。

  「……どう、なんだ……」

  「へ?どうって……ああ……」

  いきなりのことですっげぇ動揺しちまったけど、そうだよな、告られたわけだから返事しないといけないよな……。

  「……フラれる覚悟はしている。両思いなんてことは絶対にないことくらいは分かっているから……」

  十紀の奴、覚悟してるって言ってるくせに、今まで見たことないような寂しそうな顔しやがる。クソッ、断るに断れないじゃねぇか……っつっても、断る理由はあんまりねぇか……?いやいやいや、こいつと付き合うなんてなったら、私生活にまで説教されるんじゃねぇか?んでも、あの顔見たら……。

  もう一度十紀の顔を見る。覚悟してるって割りに後悔してるのか、今まで見たことないようなしょぼくれっぷりだ。そりゃもう、こいつがこんな表情するのかよってくらい。

  「……いいぜ」

  「!?ほ、本当にいいんだな……?」

  「おう」

  ガバッ!

  すぐに十紀が俺のことを抱き締めてくる。今度はベッドに上って、俺の身体に乗っかるような形で。十紀がこんなに感情を顕にしてるなんて、ちょっと信じられないところもあるけど、案外可愛いところもあるなって、ちょっと思ってしまった。

  「すまない……」

  「なんで謝るんだよ。そりゃちょっと驚いたけど、別に同性愛に偏見はねぇし……」

  「違う、そうじゃないんだ……」

  「うん?」

  見れば、十紀は病院着をはだけさせていた。その下には服はおろか、シャツも着てなかった。これ、上下一体型だから下も見えてるんだけど、パンツも穿いてないみたいだ。

  「ってぇ!なんで下穿いてねぇんだよぉ!」

  「もう、限界なんだ……二週間も眠っていたせいもあってか、異常に性欲が溜まっている」

  「だ、だったら抜けばよかっ……」

  「自慰は何度か試したんだが、どうしても満足できなかった……こんなことは死んでも言いたくなかったが、尻穴が疼いて仕方ないんだ……」

  十紀は、いつもからなら想像の付かないような、紅潮して蕩けたような、けど死ぬほど恥ずかしそうな表情をしている。でも、見た事が無いわけじゃない。【ザ・ブラック】にいた二週間で散々見てきた表情に近いものがある。あの時はここから恥じらいも取っ払ったものだったけど……ていうかこれ、絶対俺のせいじゃん……。

  「……分かった。俺のせいだし、責任取るよ。俺も、溜まってるし……」

  「ゴウカ……!」

  布団を剥ぎ取り、すぐに病院着を脱ぎ捨ててから、俺の病院着を脱がせに掛かってくる十紀。やべぇ、普段エロいことに興味なんか全然なさそうな十紀がこんなに積極的なの、なんかいいな。

  ただまぁ手錠されたままだから、結局病院着は脱げずにはだけさせるだけになった。シャツもそのままに、俺のボクサーパンツだけ脱がせるてくる。

  「ゴウカ……」

  十紀は特に迷いもせずに、俺のチンポを舐め始める。しかも、嘴で咥え込んで、その中で舌を上手く使って丁寧に刺激してくる。意外とそういう経験が?なんて馬鹿なこと思ったけど、俺が仕込んだのが記憶に残って無くても身体が覚えてしまってるんだろう。そう思うと本当に申し訳なくなってくる。

  「んふぅ……トウ、キ……いい……ぜ……」

  やばっ、普通に興奮してきた。すぐにチンポに血が巡っていって、ガチガチに勃起して始めた。やばい、このまま口に出してもいいくらいじゃね?って、ダメだダメだ、俺も抜きたい気持ちでいっぱいだけど、第一目的は十紀の昂ぶりを治めることなんだから。

  「トウキ、放せ……」

  「あ、ああ……」

  十紀は名残惜しそうに嘴を離して、俺のチンポを見ていた。やばっ、普通にエロいぞ……?

  「っちぃ、これ邪魔だな……」

  「確かに、邪魔だ」

  そう言って何を思ったか十紀はディザイアを発動させる。まさか手錠の鎖を壊すのにハンドガンぶっ放すつもりか!?

  「腕上げて、頭を下げろ」

  言われた通りにしてると、マジでいきなり撃ちやがった。幸いサイレンサー付きのやつだからそんなに音しなかったけど、さすがに室内でいきなり撃ったのやばくないか?

  「誰か来たらどうすんだ!」

  「一応、何があっても俺が出るまで扉を開くなとは言ってある」

  そういう問題かよ……って若干呆れてたら、周囲のカーテンを閉められた。そういう理性は働くのに、セックスは続けんのな……。

  「気になるなら、早く済ませてくれればいい……」

  十紀は再度ベッドに乗り、わざとらしくM字開脚して俺を誘ってくる。そのチンポは触っても無いのに既にガチガチに勃起していた。男がこうして誘ってエロいのかって思ったけど、エロいな、うん。

  「解かさなくて平気か?」

  「悲しいかな、なんとかなりそうだ」

  もう既にチンポを尻穴にあてがっといて今更なことを聞いたものの、返って来た答えにまたグサリと責任って言葉が胸に突き刺さる。こうなりゃとことん善がらせてやるしかねぇな。

  「んじゃ、いくぞっ!」

  「んあぁっ!」

  思ってた抵抗は一切無く、十紀の言った通りすんなりとチンポは十紀の尻穴にずぶりと埋まっていった。十紀も苦しそうな声を上げるばかりか、艶めかしい声が十紀の口から零れた。さっきまで澄ました顔してたのに、今はとろっとろになってて、普通に興奮してきた。

  「わりぃ、これ歯止め利かねぇわ」

  「いい、滅茶苦茶にしてくれぇ……!」

  十紀のその言葉を合図に、俺は思いっきり腰を振り始める。M字開脚している十紀を正面から抱いていて、その顔がよく見える。腰を打ちつける度に快楽で声を上げて、でも何処か気恥ずかしそうにしている十紀が愛おしくなって来た。

  「トウ、キ……」

  俺は腰を振りながらも、十紀の嘴にキスしてみる。硬い嘴に唇が触れるだけのキスだけど、鳥人は嘴が性感帯だって話をうろ覚えだけど聞いたことあるから、感じてる、のか?

  「あっ、やめっ、ないで……」

  疑問に思って口を離すと、十紀の方からキスをせがんで来た。けど嘴にキスするだけじゃ俺が気持ちよくないし、なんとかディープキスできねぇかなと、ちょっと強引に嘴の先端に齧り付くように口を広げて咥えてから、舌を無理矢理嘴の隙間に捻じ込んでみる。

  「んっ、あっ……」

  「ふぅ、んはぁ……」

  慣れない鳥人とのキスだけど、これはこれで十分感じるな。下半身で繋がってる状態だと、そっちからの刺激が強過ぎるけど、それに比べればキスは甘い刺激とでもいうのかな。

  「ゴウ、カァ……もう……!」

  「っ、俺も、イク……!」

  ペース配分なんて考えずに貪ってたら、気付けば限界まで来ていた。それは十紀も同じだったみたいで、甘えた声を出してイクことを伝えてくる。

  「あああああっ!」

  「がああああっ!」

  声を抑えることをすっかり忘れて、俺は咆哮を上げて十紀の中にザーメンをぶちまける。やべっ……散々中出しはしてたけど、今はラバーに覆われてるわけじゃねぇから、正真正銘生なんだよな……。てか、病院着に十紀の精液ガッツリ掛かっちまったし……。

  「ゴウ……カ……」

  か細い声で俺の名前を呼ぶ十紀。繋がったまま俺の方へと抱きついてきて、そのまま押し倒される形になる。

  ああ、なんか賢者タイムなのもあって、眠くなって来たな……。セックス後の疲れと、十紀の柔らかい羽毛に包まれてるせいもあって、瞼が重くなって来た。色々やらなきゃなんねぇことだってあるのに……。でも、起きてからでいいか……。

  当然だが、俺達はそりゃもうこっぴどく怒られることになるのだが、それはまた別の話だ。