~Hero_Desire~番外編「心さえ服従するまで」
俺の名前は[[rb:吾平>あいら]][[rb:来人>くると]]。ラブラドールレトリーバーの犬獣人だ。年齢28歳、身長179cm、まぁまぁ筋肉のある方で、でも種族柄なんか愛嬌あるって言われてしまう。別に悪い気はしないけど、おやっさんみたいな威厳のある男にも憧れる。
おやっさん。そう、おやっさんこと[[rb:狼代>かみしろ]][[rb:範真>はんま]]が行方不明になって、もう一週間以上経っている。あれから幸いにしてヴィランの活動が収まって、俺一人でなんとかなってたものの、そんな問題ではなくおやっさんが心配だ。
「なんで、急に旧住宅地なんて……」
昨晩、旧住宅地に現れたヴィランは、町に残る家を次々と壊して行ったという。通報が遅れたのもあって、着いた時には破壊活動の大部分を終えてたようだった。
「いや、そんなことよりあの能力。あれは……」
俺、ヒーローブリッツ・ライトニングとしてはあの子供ヴィランが使っていたディザイアが気になって仕方なかった。確かに見た目の印象はかなり違うものではあったものの、ハンマーという点では共通している。行方知れずとなっている、俺のバディであるおやっさん、ハンマー・ブレイカーのディザイアと。
ずっと見付からなかったおやっさん。最後に会ったという[[rb:獅子代>ししよ]][[rb:明護>めいご]]の話では、本家からの急な呼び出しで一度狼代家に戻ったと言っていた。おやっさん、狼代建設ってとこの長男で、本当だったら割とガチめな御曹司らしい。そんなこと聞くまで全然知らなかった。
けど、どうやらおやっさんが家に呼び戻されたというのはおかしいらしい。直接狼代建設の本社に行った時はヒーローってだけではアポもないしで門前払い食らったから、現場でちょっと話を聞いたとこ、おやっさんは勘当されてて家とは絶縁してるって話だった。人伝の噂ってのもあって絶対に本当っていう補償はないにしろ、現場監督どころか職人さんまで普通に知ってたから、多分これが本当なんだろう。
じゃあ、獅子代が嘘を吐いている? となれば、獅子代明護がおやっさんを攫った犯人ということに? っていうのは少し調べてすぐに辿り着いたわけだ。しかし問題は、この獅子代というのがまた厄介で、獅子代銀行と言ったらK県最大の銀行なわけで。ヒーローの捜査権は刑事事件に関与出来るものではないから、おいそれと手が出せないのだ。
っていうか、なんで獅子代があんな破壊活動を? 旧住宅地っていうのは、いわば他の県やK県の中にもある、瓦礫町の一種で、ゴーストタウン状態なんだ。ただ、住んでる人も当然いたし、なんなら誰も帰らない家に勝手に住んでた不届き者もいた。土地欲しさ……っていうのもなんか違うよなぁ。
「おっと、来たか?」
今、俺は事務所でとある調査の回答を待っていた。地元の探偵とかは一切宛に出来ない案件だから、わざわざ首都のヒーロー協会本部にいる知り合いに頼んだ。
「えーっと……なんだって?」
思わず誰もいないのにそんな声が出てしまった。あそこの土地、どうやら更地にして飛行場を作る計画があったらしい。事業を行うのは狼代、融資は獅子代、そしてそれを推し進めようとしていたのは、政治家の[[rb:鷲代>わしろ]][[rb:誠司>せいじ]]。K県では日常的に見る名前だし多分地元民からすればまたかって感じだけど、ここまで出来た話があるか?
「……いやぁ、キツいな、これ……」
別に俺は権力に迎合する気なんか更々ないけど、正直こんなに権力側に手を組まれてるとなると、現行犯逮捕以外どうしようもない。そもそもあの子供自体がおやっさんって確証はないし、どうしたもんか……。
「あーもう、犯人の目星は付いてるってのに、なんにも出来ねぇのかよ……」
地元警察も宛にならない。警視総監が[[rb:虎代>こだい]]って名字の時点で察してしまった。K県で代の字が入ってるとこは十中八九地元有力者だ。おやっさんが、代替わりしないと何も変わらないって言ってたの、今になって痛感することになるとは……。
「でも、さすがにヴィラン使って地上げ、にしても強引すぎないか……」
地元民が反対してたってのは分かる。無断で住んでた奴らは言う資格ないよなぁって思う部分はあるけど、それでも雨風凌げる場所を失うのは辛いのも分かるし。ただ、反対されても金で説得出来そうなもんなのに、わざわざ足の付きそうな方法を取るんだ?
追及されても追い詰められないとタカを括ってるからか? その可能性もゼロではないにしても、さすがに雑過ぎるしなぁ……ちょっと、鷲代議員について、調べてみるか。その前に本部にも頼んどいてっと……。
……。
うーん、どうも黒い噂が絶えないというか、これ全部疑惑ってことになってるけど、本当だとしたらよく辞めてないなぁ……。眉唾ものも多そうだし、どれくらい尾ヒレ付いてるのか知らないけど。いや、この暗殺とかはさすがに嘘だろ。……嘘か? さすがに国政復活前のとかだし、嘘だと思いたい。
とりあえず配下にヴィランがいて、そのヴィランが動いてる線もゼロではなさそうだ。かといってなんの証拠もなしに動けるような案件ではない、か。そもそもこの人国会議員だよな。今地元にいるのか?
「まだ獅子代に当たる方が現実的っぽいなぁ、こりゃ」
以前事情聴取はしてるけど、獅子代明護に関しては全然、ヴィランっぽさはなかったように思えた。俺の経験と勘なんて大してあてにならないような気もするけど、少なくとも狂ってるように見えなかったというのは確かだ。
正攻法でダメなら尾行でもするか? ディザイアがあるから車でも走って追い付ける……いや、バイクより目立つよな、それじゃあ。とはいえ、何か手掛かりが欲しいから、今日にでも決行するか。
それまでにヴィランが出なきゃいいけど。張り込んでるのバレると行動変えられる可能性も高いし、銀行ならまず早上がりもないし定時間際まで待つとしますか。
---[newpage]
そんなこんなで十七時三十分。そろそろ移動しないとな。閉まるの十八時だから、合ってるよな? まぁ、ダメならダメでしばらく張り込むか。
と、しっかり意気込んで張り込みを始めたものの、獅子代明護は特に警戒する様子も見せず、一人だけで乗る車での帰宅のようだ。車種はよく分かんないけど、多分古い外車っぽい。今輸入なんて出来ないから、外車ってだけで相当の高級品だ。古い家だからこそのものかも知れない。
極力バックミラーに映らないよう建物の上だったり見えなさそうなとこを飛んで跳ねて追いかける。案外乗用車くらいなら追い付けるけど、これ、何処に向かってるんだ……? 住宅地もそのまま抜けていくし……。
とうとう山の中に入ってしまい、いよいよきな臭さが増してきた。山奥の小屋に監禁なんてパターンなのか? 家が金持ちなんだし、地下とかに監禁してるのかとも思ったんだけど……さすがに実家に堂々と監禁はしてないか。
さすがに車の通りもない山道だと林道を走っていかなくちゃいけないのもあって、バレないか不安になる。ここまで来たら最初から気付かれてたわけでもないなら、バレてもいい気はするけど。
しばらく進んで、細い道に入り、そのまま進んでいくとようやく建物が見えてきた。あれ、旅館か……? 今はやってる雰囲気ないから、跡地ってことになるんだろうけど……無断……ではないんだろうな、相手が相手だし。
奥に車を停めて、玄関から入るようだ。んだけど、そこでピタリと動きを止めて、獅子代は俺のいる方へと振り返った。
「いつまで隠れているつもりですか、ブリッツ・ライトニング」
さすがに気付かれたか。出ていくべきか? おっさんが捕まってるなら、獅子代はディザイア能力者と見ておいた方がいいだろう。迂闊に出ていくのは危険かも知れないけど……いや、そうだ、まず事実確認からだよな。
「意外と気付かれちゃうもんっすね」
とりあえず出て話をするかと、茂みの中から姿を現す。青ベースに稲妻模様が胸元に描かれてて、体の側面に沿うように黄色のラインが入ったボディスーツに、両手足は銀のグローブとブーツに覆われている。目元は青い布性マスクに覆われていて、長い余りがヒラヒラとしているものだ。ぶっちゃけファッションだな。
それが俺、ブリッツ・ライトニングのヒーローとしての姿だ。さすがに公務でないのにストーカーなんてしてられないから、追いかける際には変身しておいた。
「昔から付け狙われることも少なくなかったので、視線には敏感なんですよ。それで、わざわざヒーローが尾行してきた理由をお伺いしても?」
「おやっさん……狼代範真さんについて、あんた俺に嘘吐いたよな」
回りくどく問答しても、相手の方が口は上手いだろうから、まずは単刀直入に切り込んで動揺を誘う。あんまり露骨に反応はしてないけど、微動だにしない、ってほどでもなさそうだ。
「嘘、というのはなんのことでしょうか」
「範真さんは実家に戻ったってあんたは言ったけど、おやっさん、狼代家から勘当されてるって話じゃないか。それが急に呼び戻されて一週間音沙汰無しってのは、無理があるだろ」
さて、とりあえず調べたことを突きつけてみよう。これに対する返答は、言い訳してくるならある程度予測出来てるけど。
「だとしても、僕は推定最後に範真さんと話しただけで、僕がどうこうしたという証拠は皆無でしょう?」
「勿論、疑惑しかないからこうして着けて来たわけだからな。後は家宅捜索すれば、白黒はっきりするだろ」
普通であれば、これで後は中に入って捜索すればいい。ただ相手が相手だ。こちらの事情を把握していないとも思えない。
「令状はお持ちですか? なければお引取り願えますかね」
「うっ……それは……」
やっぱり、分かってるよな。そもそもヒーローは警察機関じゃないから、ヴィランと確定していない限り令状を取れるわけじゃない。しかもその場合、調査対象はちゃんとディザイア能力者として登録されていないとダメなのだ。制度自体は必要なんだろうけど、面倒この上ない。
「……別に、疚しいことが無ければちょっと家の中、見せるくらいわけないでしょ。人探すだけなんだから、細かいとこ調べるわけでもないし」
「お断りします。正規の手続きを踏めば済むことを、無断で追跡してきた挙げ句令状なしに踏み入れさせろというような、強引な捜査は認められません」
これじゃあ埒が明かない。そりゃあ強引に突破しようと思えばできるんだけど、正直なところかなり疑わしいだけで確証があるわけじゃないから、もしここにいなかった場合今後の捜査が行き詰まることが確定してしまう。立場が弱いのも、向こうが分かってるのが厄介だな……。
仕方ない。これもかなり強引だけど、やるしかない。これが通れば、一気に事情が変わる。
ディザイアを発動させて、足に電流を流し地面を蹴り、獅子代との距離を一気に詰めて拳を振り上げる。さぁ、これでどうだ?
「!?」
獅子代は、動かなかった。結構速度は落としたつもりだったから、反応出来なかったということはないはずだ。それでも咄嗟にディザイアが出ないのは冷静なのか……いや、そもそも洗脳系のディザイアで、防ぐ手立てがなかったのか?
「な、何するんですか!」
「チッ……さすがにボロは出ないか」
「いい加減にしてください。脅迫で訴えますよ」
参った、冷静になるには十分過ぎる時間を与えてしまってる。もう強行突入以外手段がないけど、それはさすがに焦りすぎか。何か別の手段を考えて……。
ガラッ
急に横開きの入り口が開かれたかと思えば、そこから小さな影が飛び出して来た。それは真っ直ぐこっちに突っ込んできて、明らかな敵意を俺に向けて来ている。
「ハンくん!」
「パパをイジメるな!」
「うおっ……!」
間一髪で避けた直後に、俺のいた場所に特大のピコピコハンマーが振り下ろされる。まだおやっさんとは断定出来ないものの、これで別件捜査が出来るのが確定したのは僥倖か? まずは目の前の推定おやっさんを無力化するのが先だけど。
しかし、今日はまた一段とおかしな格好をしている。赤い赤ん坊の着るような服を着せられてる、本当に狼なのかと思ってしまうような、灰毛の狼獣人の子供。首元には涎掛けがされていて、ただそれでも体格が赤ちゃんではないのだけは分かる。
「おやっさん!」
とりあえず呼びかけてはみるけど、反応なく更にハンマーを振り抜いてくる。いくらおやっさんでも姿まで変えられて洗脳されちまったら、抵抗もなにもあったもんじゃないか。仕方ない、荒い手にはなるけど、気絶させる。そんで連れ帰って治療すれば、おやっさんの証言で全部解決まで持っていけるはずだ。
「少し、痺れるぜ!」
振り下ろされたピコハンを掴んで、思いっきり電流を巡らせる。見たところおやっさんのスーツに着いてたようなラバーグローブはないみたいだから、これで感電させれば……!?
パァンッ!
「おわっ!」
すぐに終わる、そう思っていたら、俺のグローブの方が弾け飛んだ。一瞬何がどうなってるのかって混乱したものの、すぐに分かった。見た目こそふざけたピコピコハンマーだけど、おやっさんの物を壊す力が溢れ出て、触れた先からぶっ壊されたんだ。人体に影響がなくてよかったと思うべきだけど、あのピコハン、見た目通りの素材みたいで感電してないようだ。となれば直接やるしかないか。
「大人しく、してくれ!」
全身に雷を走らせ、トップスピードで近寄るべく地面を蹴る。一瞬で距離を詰めてしまえば、巨大ハンマーを振り回すおやっさんの隙を突ける。それで……。
「いっ……!」
振り下ろされたハンマーはそのまま振り下ろした場所に残っている。だけど、高速で突っ込む俺の真正面から、別のハンマーの頭がぶつけられていた。身体が子供になって弱くなるどころか、反射神経良くなってるのかよ……!
勢いよく吹っ飛ばされて、そのまま地面に叩きつけられる。痛ぇ……いつもより痛みが激しいのは、ヒーロースーツが破けてるから、か。それなら身体もバラバラになってそうなものだけど、外傷は多分、背中が擦れてるのくらいだ。衝撃はそのままに破壊だけ出来る武器って、あんな姿になってんのに、おやっさんの理想に近付いてるのは皮肉だ……な……。
ズドンッ
起き上がる俺に、もう一度容赦なく一撃、バカでかいハンマーが振り下ろされる。あ、こりゃダメだ……意識まで吹っ飛ぶ……。
「おやっ……さん……」
---[newpage]
「お前から俺に会いたいなんて、どういう風の吹き回しだ? 鷲代のぼっちゃんよ」
「退屈な用事ではありませんのでご安心を、[[rb:史博>ふみひろ]]さん」
史博さんこと[[rb:虎代>こだい]][[rb:史博>ふみひろ]]警部。K県警察のトップである虎代の長男であり、気性が荒く恫喝紛いの捜査をするという悪評の持ち主である。細身の鷲代など軽く捻ってしまえそうな体格差が二人にはあったが、歳はそこまで大きく離れているわけではない。
「何処から話しましょうか……とりあえず、これでも見て貰いましょうか」
そう言い、鷲代は一枚の写真を懐から取り出して、虎代に見せる。そこには赤い赤ん坊の着るような上下一体の服を着た、狼獣人の可愛らしい少年が写っていた。
「なんだ? 何処のガキだ」
「狼代の範真さんの、今の姿です」
「狼代ぉ? 何の冗談だよ」
「冗談ではありませんよ。ヒーローとして邪魔になりそうでしたので、退場して貰ったのです」
「おお怖い怖い、散々親父の事嫌ってるくせに、お前も鷲代ってことか」
「あれを相手にするのに、手段を選んでは居られませんよ」
虎代の嫌味を鷲代は一蹴した。見せていた写真は近くのデスクの上に置き、そのまま話を続ける。
「で、実行は明護さんにしてもらったのですが、その明護さんのところにもう一人のヒーローが疑いを持って訪問して来まして。話し合いで退けていただければ良かったのですが、この小さい範真さんが捻じ伏せてしまいましてね」
「こんなガキになっても戦えんのかよ、あのおっさんは。んで、死体の処分でもしろってか?」
「いえ、生きていますよ。かと言ってそのまま帰すわけにも行きませんが、始末するよりこちらの手駒にした方が都合がいいと思いまして」
「あん? じゃあなんで俺のところに来た……!?」
怪訝そうな表情だった虎代の表情が、鷲代の取り出した一枚の写真を見て驚愕し、その表情が一気に怒りの形相になる。
「おまっ……! その写真どっから……!」
「そう怒らないでください。別にこれで脅そうというわけではありませんから」
その写真は、虎代史博が鹿獣人の男の尻に挿入しているのを見せ付けるようにして撮った、ハメ撮り写真だった。鹿獣人の角は乱暴に切られ、その首にはキツい首輪がされていて、首輪に繋がるリードを短く、虎代が握っている。
「それにしても、明護さんが少年趣味というのも驚きましたが……御代家の方は性癖が尖っていないと気が済まないのでしょうか」
「脅す気がどうこう言いながら皮肉言ってんじゃねぇよ」
「ああ、そうでしたね。こういうこと、一人や二人の話ではないのでしょう?」
「ああそうだよ! それがなんだっていうんだ」
「性癖か確認しておきたかったのです。では問題なさそうですね」
「何がだよ……」
秘密を暴かれ怒りの感情が溢れ出していたものの、虎代は鷲代が何を言いたいのか理解出来ずに困惑していた。家の付き合いのある同年代の友人が、変態だと突然教えられたことも困惑の原因としてあるのだが。
「史博さんに、私のディザイアで力に覚醒してもらいたいのです。ヒーローを調教出来る力に」
「あ? お前、そんな力持ってんのか? つか、明護に実行させたってのはそういうことか」
「ええ、そうです。ディザイアに覚醒させる力、というと違いますが、これからすることはそういうことです。さすがに、断りはしませんよね?」
「結局脅す気まんまんじゃねぇか……まぁいい。ディザイアは興味がある。お前の頼みも、受けてやるよ」
「そうですか。では契約しましょう。『貴方に望むディザイアを覚醒させてあげます』ので、『ヒーロー、ブリッツ・ライトニングこと吾平来人を従属させ、問題ないと報告させてください』」
「なんだ、いやに具体的だな?」
「必要なことです。私のディザイアはそういうものなので」
「ふぅん……まぁいいぜ」
「では、契約成立ですね」
二人の間に契約が締結される。それと共に虎代の身体が微かな光に包まれ、ディザイアに覚醒した。
「既に連れて来ているので、後は手筈通りお願いしますよ」
「ああ、任されてやろうじゃねぇか」
---[newpage]
いってぇ……背中が主に痛い。腕も、何かで拘束されてるみたいで、こっちも痛い。
油断してたわけじゃない。ない、はずだった。けど、あんな子供の姿って思ってた時点で、何処か油断があったんだろう。さすがに洗脳されて子供になったのに強くなるとは思ってなかったけど……。
「よう、お目覚めみてぇだな」
天井からロープで手錠を吊るされてる状態で拘束されて、目の前には目元を覆うマスクで正体を隠す人物。悪の組織に捕まった時に、決まって助かったヒーローの言う文言だ。
「この俺が直々に調教してやろうっていうんだ、感謝しろよな」
そう、ガタイのいい、縞模様からして虎獣人の男が言ってくる。警官みたいな帽子を被ってて、上半身は裸だし、なんならビキニしか穿いてない。黒くテカるブーツとグローブにそれだけの格好は、どう見ても変態というか、サディスティック方面な趣味の持ち主だろうことを察してしまう。
「お前がボスなのか」
答えの代わりに、鞭が飛んでくる。しかも、長いのじゃなくて馬用みたいな短いやつで、めちゃくちゃ痛い。
「誰が口利いて良いつった。これからお前が上げていい声は叫び声と呻き声と喘ぎ声だけだ」
こりゃあサービス精神の無い方のSだな。有言実行してくるのは確実だ。とはいえ、説得は出来ないにしてもなんにも喋らずには情報も得られない。鞭でしばかれるくらいで躊躇するわけにもいかないからな。
バシィッ!
「……っ!」
いきなり胸元を鞭で叩かれて、痛みで声が出そうになるのをなんとか抑える。クソ、これただの鞭の痛さじゃねぇな……。鞭自体がディザイアの産物って考えた方がいいか。
「ほぉ、意外と根性あるじゃねぇか」
「痛みには慣れてんでね」
バシィッ!
もう一度、今度は鼻っ面に鞭を当てて来やがる。わざわざ痛いとこばっか狙って来やがって。電撃身体に流すのとは違う痛みがあって、ちょっと涙が出そうだ。
「ほほう、痛みに慣れてる、ねぇ。そりゃあ、良かったっていうべきか? お前にとっては、悪いかも知れねぇけどな」
「あ? 何言って……」
今度は下顎を打ち上げるように鞭を打ってくる。こいつ、絶対舌噛むの分かっててやってやがるな。痛めつけるだけ痛めつけて殺してもいいとでも思ってんのか?
「おっと、舌噛まなくて良かったな」
「テメッ、わざとだろ……」
「当たり前だろ? てか、少しは危機感持てよな」
「日々身体に電流流してるんだ、これくらいどうってことないぜ」
少し強がりも入ってるけど、実際ただ痛いだけなら耐えられないこともない。こんな痛みだけで屈服させようなんて思ってるなら、さすがに見立てが甘いし、大人しく従うのは慣れない一般人くらいのものだろう。
「それじゃあ俺の楽しみが半減すんだろ。いや、待てよ。そうかそうか……」
ハタと何かに気付きを得たように、思案顔で呟く。なんだ? そもそもこいつの目的自体が謎だ。調教するとか言ってたのは確かだけど、範真さんをあんな姿にしたのはこいつではないのか? やるならもうやってそうだし、何より嗜好が違う気がしてならない。
「俺のディザイアは、しばいた奴を従順な下僕にする鞭を呼び出すディザイアだ。今はまだギャーギャー文句だって言えてるけどよ、それも今だけだぜぇ?」
さっきまでの短い鞭から、如何にもな長い革の黒い鞭に変わっていた。どうやらこいつに範真さんを変えたディザイアはないみたいだが、結局洗脳能力には変わらないみたいだ。状況の悪さが分かっても、いい気分になれる要素はまるでない。
「ああ、やっとらしい顔したじゃねぇか。ヴィランが自分の力をご丁寧に説明するのはアホらしいと思ってたが、存外意味があるんだな」
ビシッとわざとらしく鞭を伸ばして、ニタニタ笑いながらそう言ってくる虎獣人。ただ、今の言い草からして、こいつがボスってわけではなさそうだ。ディザイアに目覚めてかなり日が浅くて、手探りにやってるように感じる。それが分かっても、状況の悪さは全く改善しないわけだが。
バシンッ!
「いい顔も見れたことだし、次はアヘらせてやるよ」
長い鞭が太股を打ち付ける。ここだって十分痛いはずだけど、鞭が変わったせいかそこまで痛くない。なんなら痛気持ちいいって感じるくらいだ。さっきまで本気じゃなかったのか、ディザイアが効いて来たのか。どっちにせよ、せめてもう少しだけ情報を引き出してからにしたいとこだ。こいつが犯人じゃなきゃ、候補は……。
「鷲代が、黒幕なのか?」
鞭を振り上げようとしていた腕が、ピタリと止まる。この線はかなり薄いと思ってたけど、まさか当たってるのか? だったら少しは書きかけのレポートが役に立つか……?
「……それ、誰かに言ってんのか?」
「言ってる、って言ったらどうする気だよ」
「いやぁ? 別にどうもしねぇな。なんなら都合がいいことこの上ねぇことだ」
都合がいい? 鷲代そのものじゃなくて、そのせいにしたい奴の犯行ってわけか。けど、さっきの反応は、明らかにそういう下卑た感情の現れたものじゃない、もっと図星を突かれた時の焦りに近いものだったけど……。
「ま、どの道俺の下僕として都合良く報告してもらうことになるんだ。今更下らないこと気にしたって、意味ねぇんだよ!」
「いひんっ!」
下から上に振り払われた鞭が俺のタマに直撃して、痛いはずなのに身体がビクンと跳ねて、どっか変な興奮が襲いかかってくる。
「おいおい、キンタマしばかれてそんな声上げちまうのかよ!」
「そ、それはおっ……っ……!?」
お前のディザイアのせいだろって言おうとしたのに、お前って言葉が発せない。そんな呼び方してはいけないと、俺の意志に反してるはずの、そんな意識が働いている。
「お? どうしたどうした。俺に対する態度を改める気になったか?」
「うっ……あっ……」
ふざけんな! お前がそうしてるんだろうが! そう思うだけで頭が痛くなる。反抗心を抱けば抱くほど、そんなことはしてはいけない、したくないと思ってしまう。ダメだ、意志を強く持て。心を奪われるな。俺はヒーローで、この方はヴィラン……。
バシッバシッ!
「ふぐっ……いぎっ……!」
「へへっ、ブツしばかれておっ勃てちまうド変態に仕上がって来てるな!」
バシッバシィッ!
立て続けに剥き出しのチンポを鞭で叩かれる。叩かれる度に、痛いはずなのにむくむくとチンポに血が巡っていき、ガチガチになった竿を叩かれた時にはもう、痛みが気持ちよくなっていた。
「上も下も涎垂らしちまってよ、随分気持ちよさそうじゃねぇか」
「うっ……あっ……」
自分の中には無かったはずの快楽に、脳が痺れる。こんなあっさり屈しちまうなんて、ヒーローの恥だというのに、なのに、抗えない。チンポから叩き込まれた快感が、脳髄まで支配してくる。
「こんなあっさり堕ちちまうのもそれはそれでつまらねぇが、時間もねぇからよしとしてやるよ。おい下僕」
「うっ……は、はい……」
「お前はこれから先、ご主人様である俺の下僕として、俺の命令に絶対服従しろ。俺が誰かを殺れっつったら殺れ。死ねっつったら死ね。いいな」
ずきずきと痛む部分から、ビリビリと身体を、心をご主人様の言葉が俺を塗り替えていく。俺はご主人様の下僕で、絶対服従。何を命令されても、絶対にこなす。頭が痺れる。ダメだ、こんなもので、支配されて堪るか……。
「は、い……」
「よしよし。とはいえ、このまま帰すのも面白くねぇな。おい下僕、ケツ掘らせろ」
「ううっ……はい……」
---[newpage]
心ではなんとか抗おうとするも、口からは勝手に肯定の言葉が出てくる。最悪なことにブツも反応して、ビクンと大きく震えているのが分かってしまう。
ロープを降ろされて、床に膝を着く。今ならたとえ手錠はされたままでディザイアが使えなくとも、そのディザイアを使わないで抵抗すればいいのに、身体が動かない。主の命令を待たねばならないと、あらぬ思考に身体が止まってしまう。
「心で抗ってても、身体は抗えないわけだ」
俺のマズルを掴んでから俺の目を覗き込んで、ヴィランはニヤッと嫌な笑みを浮かべる。
マスク越しでさえ分かる、ギラギラとした目に射抜かれるだけで、萎縮し、敬服し、腹を晒して服従を誓おうとする、俺のものとは思えない本能が出現してきた。少しでも気を抜けば、一瞬でその本能に俺が上書きされてしまいそうだ。
「そんじゃ、犬にはきちんと首輪とリードを着けてやらねぇとな」
いつの間にか手に握られていた赤い首輪をキツく嵌められて、首輪に繋がるリードを強引に引っ張られる。抵抗するための力も入れられず、立ち上がった虎獣人の股間へとパンツ越しに鼻先を押し当てられる形になってしまった。
「ほうら、お前の大好きなチンポだぞ、下僕」
パンツ越しにでも既にチンポ臭いそれから、頭を、鼻先を逸らすことさえ出来ず、むしろ臭いと思いながらも、このチンポの臭いを嗅ぎ続けたいと思ってしまう。気付けば、涎が口の中に溜まってしまっている、
「お前は俺のチンポが欲しくて欲しくて堪らない。そうだろ?」
「……ぅぅっ」
「おら、ちゃんと欲しがれよ」
「どうか……チンポを、下さい……」
口を開いて溜まった涎を垂らしながら、考えたくもないような言葉が勝手に口から出てくる。口にした途端思考がどんどんチンポに塗り替えられていく。小便、先走り、精液、雄の象徴からする臭いが頭を埋め尽くし、それが欲しくて堪らなくなってくる。そう、目の前のそれが……。
「ほらよ、意地汚く、畜生のように這いつくばって、お前の欲しいモノを舐めな」
パンツがずらされて、目の前に生のチンポが現れる。既に固くなりつつ、パンツから解放されたそれから、脳を刺激するチンポの臭いが飛び込んで来た。
最後の理性が舐めるなんてとんでもない、絶対に止めろと言う。しかし、身体はそんなことお構いなしに、ずる剥けのチンポを舐める。
美味しいはずのないそれが、愛おしくて堪らない。一度舐め始めれば、俺の意志とは関係なく舌が動き続ける。チンポの存在を感じる度に、俺の最後の自尊心が、脆くも崩れ落ちそうになっていく。ダメだ、俺は、ヒーロー……なんだ……チンポなんかに、負けるわけには……。
雄の臭いが強くなっていく。半勃ちだったチンポが、硬く聳え立ち雄汁を出していた。舌に先走りが触れると、雄臭さに全てを支配されていくような、そんな感覚に襲われる。
「そろそろいいな。おい下僕、着いてこい」
ぐっと首輪を引っ張られて、動くことを促される。すると、さっきまで頑なにチンポを舐めることしかしなかった身体が動くようになった。ひとまず言われた通りに……。
バシィッ!
「キャインッ!」
「おい、犬畜生が何立ってんだよ。お前みたいな畜生は、地面を四足で這いつくばって歩くのがお似合いなんだよ」
チンポをしばかれた痛みで思わず蹲ってしまう。両手が手錠されたままで上手く受け身も取れなかった。でも、来いと言われて、今も首輪に繋がるリードを引っ張られている。早く、言われた通りに四つん這いになって、着いていかなくては、また……。
「そこのベッドに上がれ」
案外すぐ近くにあったベッドを指して、ヴィランはそう言ってきた。もはや抗う気にすらなれないまま、四つん這いのままベッドに這い上がり、そのまま四つん這いの姿勢をキープする。
「チンポしばかれて喜んでるマゾ犬だ、ケツだって今や俺の下僕にふさわしいもんになってる、といいな!」
ズブッミチィッ!
「いぎぃ!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 鞭でしばかれるのとはわけが違う、本当の痛みが身体を貫く。自尊心はおろか忠誠心も崩れ去りそうな痛みだ。
「おうおう、キツキツにしても、ホントに入れられる余地があるとはな! おら、鳴き叫べ犬畜生が!」
「キャインッ! わううううう!!」
命令されて大きく声を上げていると、不思議と尻の力が抜けていき、さっきまで死ぬほど痛かったのに、痛みの質があっという間に変化していった。
「いい声で鳴くじゃねぇか。しっかりケツでチンポ咥え込みやがって、この淫乱マゾ犬がよ!」
パァンッ
「うひぃい!」
虎獣人の下腹部が俺の尻に激しくぶつかり音を立てる。一発突かれただけで、もうビンビンのチンポがブルンと揺れて、先走りを撒き散らす。負ける、このままじゃ、チンポに俺の最後の自尊心も負けて、心まで下僕に堕ちてしまう。
「おらおら! しっかりケツ締めて、御主人様に奉仕しなぁ!」
ガンガン乱暴に腰を振って、俺の最後の自尊心と一緒に快楽を貪るヴィラン。奥を突かれてチンポに蹂躙される度に、チンポと一緒に快楽を捩じ込まれていく。
「ヒンッ、アッ、アヒィ! お、俺、俺、は……」
「お前は、御主人様である、俺の、下僕だ! 物覚えの悪い下僕が!」
バシンッ!
チンポが奥深くに突き刺さったまま、後頭部に鞭を叩き込まれる。俺は御主人様の下僕。その事実が、揺るぎない真実として頭に刻み込まれたようだった。
「ほら、お前の口から言ってみろ」
「俺は、御主人様の、下僕です……」
「もっと声張って、もう一回だ!」
バシンッ!
「俺は、御主人様の下僕、です!」
「ハッ、下僕風情が俺なんて言ってんじゃねぇよ! もう一回!」
バシンッ!
「自分、吾平来人は、御主人様の忠実なる下僕です!」
自分、吾平来人は、御主人様の忠実なる下僕。最後の自尊心はチリと化して、ついに認めてしまった。いや、ネガティブなことは何もない。ようやく認めることが出来たんだ。喜ぶべきことでしかない。
「それでいい! ご褒美だ、思いっきりぶちまけなぁ!」
ギュッと首輪を引っ張られると共に、御主人様のチンポが大きく俺の中で跳ねて、熱いものが俺の腹の中を満たす。ああ、今俺、御主人様にザーメンを注いで貰ってるんだ。
そのまま今まで我慢してた俺も、嬉ションならぬ嬉射精してビュービュー精液をベッドにぶっ放す。俺、なんで今までこんなに我慢してたんだろう。我慢なんてせずに、ヒーローのプライドなんてさっさと捨てて、御主人様の下僕になってれば良かったのに。
「ふぅ、なかなか使い心地いいな」
ズルリとチンポが抜けて、俺の身体もベッドの上に崩れ落ちる。だくだくとケツから御主人様のザーメンがこぼれ出るのを感じて、勿体ないと思いながらも幸せに感じる。
「さてと、お前はこれからは俺の下僕として生きていくわけだが、専属肉便器は別にいらねぇ。お前には吾平来人として、ブリッツ・ライトニングとして、この俺、虎代史博の下僕になって貰わねぇと意味がねぇからな」
御主人様は俺の首輪のリードを引いて、御主人様の顔の前に俺の顔を強引に向けさせてから、そのマスクを取る。御主人様は、虎代警部だったのだ。
「目が覚めたら、お前はいつも通りの生活に戻って、狼代のことも獅子代のことも、勿論俺のこともお前のことも、全て異常なしと、ヒーロー協会に報告しろ。いいな」
「はい、分かりました!」
「よし、次だ。表社会にいる間は、俺のことはあくまで虎代警部として扱え。俺が元に戻れと言った時だけ、犬畜生の下僕として振る舞うんだ。いいな」
「はい、分かりました!」
しっかりと頭に御主人様の命令を刻み込む。狼代範真は実家に帰り、獅子代明護のことは俺の思い違いだった。虎代史博警部とは今日何もなかったし、俺、吾平来人はちょっとディザイアの使い過ぎで倒れたところを送って貰った。うん、これでいいだろう。
「よしよし、素直な下僕には、下僕の印をくれてやろう」
そう言って御主人様はベッドから降りて、部屋の奥にある扉へと入る。印とは、一体なんなのだろうか?
「よっと、じっとしてろよ」
「は、いぃっ!?!?」
ジュッ!
と、確かに毛皮が、皮膚が焼ける音がする。いきなり、俺の尻に何かトンデモなく熱いものが押し当てられて、尻の右側が焼かれた。御主人様の命令が無ければ飛び跳ねて逃げ出すところだ。
「尻にしっかり、俺の物だってマーキングしてやったぞ」
そういう御主人様の方を見れば、黒い金属の棒に、先が赤く焼けているものを手に持っていた。焼印を付けるためのものだと、今の状態からすぐに分かる。どんなものが刻まれたのか、ここには鏡がないから分からない。
「これでお前は正式に俺の所有物の下僕だ。俺に恥かかせるような無様を、他で晒すんじゃねぇぞ?」
「はい!」
「よし、そこで眠れ」
「はい……」
眠れと命令され、俺はそのまま自分の精液で汚れたベッドに横たわる。目が覚めたら俺は下僕の犬畜生から、吾平来人になるんだ。他ならぬ、御主人様のために……。
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それからのことは、あまり詳しく覚えていない。翌日、御主人様こと虎代史博の命令通り平常通りであるとヒーロー協会に報告を入れ、その日にはご褒美に虎代史博にぶち犯されて、行為の後に乳首にピアスを空けられた。更に次の日には、チンポにもピアスをされていた。
あの烙印を幸福に思っていた自分が気持ち悪くて仕方ない。焼印もピアスも、それで空いた穴もディザイアなら治せこそするものの、心を蝕んだ洗脳の爪痕は、なかなか消えるもんじゃない。戻ってからも痛気持ちいいのが癖になってるし、無意識に乳首弄ってたりして自己嫌悪することがしばしば続いた。
おっと、話しが逸れた。そんな風に着々とチンポ狂いの下僕として精神だけでなく身体の外側までヴィランに蝕まれていた中で、一人のヒーローがハンマー・ブレイカーの代わりとして来たんだ。そのヒーローは既に御代家と呼ばれている狼代、獅子代、鷲代、虎代を疑っていて、すぐに資料を寄越せと言ってきた。
俺はまぁ、嗅ぎ回られていることをすぐに報告したんだろう。あの時の精神状態ならしないという選択肢はなかっただろうし。で、これまた多分、虎代は俺にそいつも洗脳するから連れて来いと言ったんだろう。この辺からもう、記憶があやふやだ。
ただ、それが虎代史博の最大のミスだったのは事実だ。仕事の打ち合わせとして警察署に連れて来て、俺が不意打ちしてそいつを気絶させる。後はディザイアを手錠で封じて虎代がその力で洗脳するという計画。言葉にすればこんなに簡単なことだが、それは不可能だった。
あの時はその名前を聞いても邪魔なヒーローが来たとしか思っていなかったのだろう。今にしてみればどうして俺に勝算が万に一つでもあると思ったのか、理解に苦しむ。俺が、あのダーク・トレイターに太刀打ち出来るわけがない。
結論から言えば不意打ちは失敗し、俺は一瞬で制圧されることとなった。勿論虎代も一緒に。俺が無力化されている目の前で、虎代が拷問されて、あっさりと獅子代と鷲代の関与を認めていたのは、今も覚えている。というより、あの拷問の手際の良さといい的確さといい、虎代が上げるのが信じられなかった悲鳴といい、洗脳されて服従状態にあったからこそ忘れられずに残っているんだ。
ゲロってしまえばもう、虎代も獅子代もすぐに逮捕されることになった。鷲代はヒーロー協会の動きを察知していたのかなんなのか、一人逃走して今も捕まっていないらしい。虎代と獅子代の証言から、ディザイアに覚醒させる力を持っていたようだから、他の配下がいた可能性も否定出来ない状態だ。
さて、これで全てが丸く収まったならば、この事後報告は必要なかっただろう。俺も心身ともに傷を負ったものの、まだ立ち直れる範囲だ。問題があるとすれば、今も乳首が擦れてスーツの改良が必要になりそうなことくらいのこと。問題は、おやっさんの方になる。
俺達が解放されて二週間。ヒーロー協会本部直属のヒーロー専属医療施設。主に俺やおやっさんのように、ヴィランにディザイアで洗脳されたヒーローの治療、更生を行うための施設だ。ディザイアの影響が残っている状態では、普通の治療は意味がないから、専属のディザイア能力を持つ医師がいる。
コンコン
「おやっさーん、入りますよー」
なんて言いはするけど、病室に入るのに返事は待たない。あまり待つ必要もないし。
「もう、そのおやっさんっていうの、止めてよ」
小綺麗な個室の病室のベッドに一人、病院着の灰毛の狼獣人の子供が座っていた。俺が最後に見た、子供にされたおやっさんの姿そのものだ。
そう、おやっさんはある程度ディザイアの影響が回復しているにも関わらず、未だに身体は全く元に戻っていないんだ。幸い『パパ』のことで癇癪を起こしたりぐずったりすることはなくなったものの、未だに子供口調だし、記憶も混濁している状態にあるらしい。
おやっさんがこんな状態でも、獅子代明護のディザイアの消去は行われていないし、これから先に行われることもない。初犯であり被害者がヒーロー一人のみという現状、死刑にも等しい判決にはならないということだ。当人に悪意が一切なかったというのも、この判決を強固にしてしまう要因だ。とはいえこういうケースは少なくない。少なくないからこそ、この病院があるわけだし。
「どう見たって、来人兄ちゃんより僕の方が子供じゃん」
「そりゃ見た目はそうですけどね?」
正直、とてもじゃないけど目の前のショタがおやっさんには思えない。記憶が無ければ別人だとも言えなくもないから、本当に別人説はあるけど、間違いなく破壊のハンマーのディザイアを持ってる、狼代範真さんその人なんだ。だから、ちゃんとおやっさんとして扱うことにしている。
「それで、どうしたの?」
「どうしたの、って……どうせ漏らしてるだろうなって思って、おむつの替え、持って来たんですよ」
これもおやっさんの後遺症の一つだ。どうも獅子代のディザイアでおむつにおもらしをさせられ続けてたようで、その時の癖が抜けなくて、小便だけ我慢出来ないらしい。大の方はちゃんと我慢してトイレに行けるのに……って言っても、ベッドのすぐ側の簡易トイレだけど。
「やっぱり。ほら、替えますよ」
病院着をめくると、下にはおむつしか穿いておらず、そのおむつの前面が薄黄色く汚れてしまっている。俺の洗脳がようやく解けたのが一週間前で、それからは俺がおやっさんの世話をちょくちょくしていた。おやっさんがこんな状態では仕事復帰出来ない。いや、スーツの改良待ちなのもあるけど、それは二の次だ。
抵抗せずに股を開いて座るおやっさんのおむつを開く。開いた途端にムワッと小便の臭いがしてきた。黄色く汚れたおむつを見ていると、おやっさんがまだヴィランに堕とされたままなんだと、悔しくなってくる。
俺の憧れのヒーローであるおやっさんが、今俺にシモの世話をされている。おやっさんだって屈辱的なはずなのに……そのはずなのに、濡れタオルで股間を拭かれているおやっさんの可愛らしい顔は、恥ずかしそうながらも何処か嬉しそうに見えた。
痒くならないように一通り綺麗にしてから、新しいおむつを穿かせる。無地のシンプルなそれを見て、おやっさんの顔が少し残念そうになるのが見えた。
「どうしたんっすか?」
「……可愛くないなぁって」
おやっさんの口からポツリとそんな言葉が零れ落ちる。まさかおやっさんの口からそんな言葉が出てくるなんて、思ってもみなかった。
……本当に、あの証言は本当なんだろうか。獅子代のエゴだと思っていたけど、もしかしたら、本当におやっさんは……。
「おやっさん、元に戻りたくないんっすか?」
「……っ!」
図星を突かれたように、ビクンッと身体を震わせて、不安そうな顔をする幼いおやっさん。まさかそんなと思っていたけど、懸念してたことが真実だったようだ。
「どうして……?」
「……今の僕は、可愛いでしょ?」
「え? ま、まぁ……」
まさか、それで元に戻りたくないって? あのおやっさんが?! いやいや、マジかよ……存外気に入っちゃったの? それとも、案外強面気にしてたのかな。
「子供の頃にも、そんなこと言われたことなかった。可愛いだけじゃない、おもらししちゃう以外は、体調もすこぶる良いし、前より身体もよく動く。また、ボロボロのおっさんに戻らなきゃいけないなんて、やだよ……」
「おやっさん……とっくに記憶、戻ってたんっすね……」
え、それじゃあ、おやっさん、心は素のままこんな子供みたいなことを? おねしょしておむつ替えられてたりして、恥ずかしくなかったのかな。でも、それも戻っちゃったら、ただ恥ずかしいだけになるのか……。
「でも、そのままじゃ……」
「ダメ、なの?」
「ダメって……」
俺を見上げて、わずかに涙目になっているおやっさんの姿を見ていると、胸がキュンとなって、こんな顔をさせてしまっていることに罪悪感を覚えてしまう。待て待て、相手はあのおやっさんなんだぞ? ハンマー・ブレイカーなんだぞ? ハンマー……ブレイカー……。
「ハンマー・ブレイカーも、ヒーローも辞めちゃうんすか? そんなの、俺、嫌っすよ」
「……このままでも、ヒーロー、続けられないかな」
「へっ……?」
意外な答えがおやっさんから返ってくる。てっきり、獅子代の言っていた通り、ヒーローも何もかも辞めてしまいたいのかと思ってたけど、違うのかな。
「だって、僕は僕としてブリッツ・ライトニングに勝ったじゃない」
「や、そ、そうっすね……」
うん、そういや弱体化するどころか強くなってたもんな。しかも、武器がピコハンになったおかげで、今まで懸念してた殺してしまわないかということさえ、問題なくなってるし……。あれ、ヒーロー適正上がってるくらいなのか?
「え、それじゃあ、ヒーローは続けてくれるんすね?」
「んー、そうだなぁ……来人兄ちゃんが、僕のことハンくんとして扱ってくれたら、考えてあげる」
そう言って、子供っぽいながらむしろあざとくて子供らしさとは離れた、作られた可愛さを押し出して、おやっさんは俺に寄り添ってくる。
究極の選択だ。おやっさんには俺のおやっさんで居て欲しい気持ちはある。ずっとおやっさんって言ってたのも、どうにかおやっさんに元に戻って欲しかったからだ。けど、当のおやっさんはそれを望んでなくて、なんならショタでいてショタ扱いされたいと、そう言ってる。
俺の抱いてるおやっさん像をぶっ壊して、目の前の狼獣人の少年を少年として受け入れれば、またハンマー・ブレイカーと一緒にヒーローをやれる。俺の憧れのヒーローとは姿形も立場も変わってしまうけど……それでも……。
「……分かりました。いや、分かった」
隣に座ってるおやっさんを、ハンくんを抱き上げて、俺の膝の間に座らせてから、ギュッと後ろから抱き締める。
「パパにはなれないけど、俺がハンくんのお兄ちゃんになるから。これからも、バディでいて欲しい」
「うん、ありがとう、来人兄ちゃん……ごめんな……」
ポツリと、本当に小さな言葉で聞こえた、おやっさんとしての謝罪。ハンくんを受け入れようと、心に決めたのに、少しだけぐらついてしまいそうだ。でも、一度決めたことだから、覆さない。おやっさんがハンくんでいたいなら、好きなだけ付き合おう。
「そうと決まれば、トイレの練習しないとな。ヒーローがおもらししてちゃ、格好付かないぞ」
「えー?」
こうして、俺とおやっさんの、ハンくんとの新たな関係が始まることになった。立場が入れ替わるどころか、もっと下になってしまったけど、今まで頑張ってきたおやっさんを、これからは支えていこう。そうハンくんをギュッと抱き締めて誓ったのであった。