熊瀬鍼灸院の日常2

  1

  土曜日の夕方。

  鍼灸院を片付けて、生活スペースである2階に上がると、煮物の匂いがしていた。

  「おお、ええ匂いしてるやないか」

  「うん、今日はすじ肉と里芋炊いてみた」

  台所で似合わないエプロン姿をした虎獣人が、仏頂面のまま出迎えてくれる。

  「うれしいなぁ。俺、すじ肉好きやねん」

  鍋の中を覗き込むと見せかけて、その頬に軽く口をつけると、もう半年も一緒に暮らしているというのに、かずは眉をひそめながらも顔を赤らめた。

  「な、何すんだよ!」

  「しょうがないやろ、かずがかわええんやから」

  いつまでもうぶなままのかずはかわいいが、もうそろそろ慣れても欲しい。

  そんな葛藤を抱いていると、諦めたように愛しの虎獣人はため息をつく。

  「……うっせぇよ、おっさん。さっさと手を洗ってこいよ」

  「はいはい」

  すじ肉と里芋の甘辛煮に、だし巻き卵。ほうれん草のバター炒めに、ポテトサラダ。

  茶碗に大盛りのご飯を盛りつけると、かずはすっ、と俺の前に置いてくれた。

  「おおきに。……学校終わってから、ようこれだけ作ったな」

  「なんか食べたくなっちゃって。ほら、これも。先飲んじゃって」

  立っているついでとばかり、冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、俺に手渡してくる。

  「おお、ありがとな。……ほなお先に」

  受け取った俺は、冷たいビールを一息に喉に流し込む。

  「くぅぅっ」

  仕事を終えた後だと、めっぽううまい。

  「かずも飲むか?」

  「いや、今日はいいかな」

  席に座ったかずは俺の誘いを断ると、茶碗片手に煮物をぱくつく。

  「うん、悪くない。ゆうさんも食べてみてよ」

  「ああ」

  ……こいつ、無愛想さや仏頂面が、最近少しゆるんできたなぁ。

  大学1年の厳つい顔した虎獣人の顔を見ながら、俺は答える。

  箸でつまんで口に放り込むと、甘辛く炊いたすじ肉が、口の中でほどける。

  「うまい! ……これは、ビールよりも焼酎やな」

  俺はのっそり立ちあがると、焼酎の瓶を台所へ取りに行った。

  

  「そう言えばさ、ゆうさん。今日、笹川から電話があってさ」

  食事終わりにお茶を飲みながら、ふと思い出したようにかずは言う。

  「笹川? 笹川ってあれか? 高校の……」

  俺の顔が一瞬、曇る。

  俺の教え子でもあった、天真爛漫なパンダ獣人。

  確か、同級生のかずと仲が良かったはずだ。

  「うん」

  「元気にしとるんか?」

  「元気は元気みたい。でさ、笹川がこっちに遊びに来たいから、一晩ここに泊めて欲しいって言ってるんだけど……いいかな?」

  「……俺はかめへんけど……。かずはええんか?」

  自暴自棄だった頃の俺はかつて一度、高校の教え子である笹川と寝たことがある。このパンダ、年上好きでおっさんキラーだったのだ。そして、それを知ったかずに泣かれたという、苦い思い出がある。

  かずはそれを気にしているのだろう。

  「わしは大丈夫だけど。……ゆうさんこそ」

  少し不安げな顔に、俺は慌てて答える。

  「い、今はかずだけや!」

  「……うん」

  素直に頷いてみせるときは、大抵不安に思っている証拠だ。

  でも、ここで追及しても仕方ないので、それは夜の時間に取っておくことにする。

  「それにしても、大学はどないしたんや。まだ休みと違うやろ」

  あいつの進学先は、ここからだいぶ離れた地方だったはずだ。

  「なんか、辞めたって」

  「はぁ?」

  ……まだ一年も経ってないやないか。

  「そりゃ、話聞いてやらんとあかんかもな。いつ来たい言うとったんや?」

  「来週でもどうかなって」

  「まあ、かまへんけど……。かずは我慢できるんか?」

  「え?」

  「あいつがいてる間は、さすがにかわいがってやられへんで。俺のチンコなしで寝られるか?」

  にしし、と笑う俺の顔にふきんが飛んでくる。

  「わ、わしが茶碗洗っとくから、おっさんはテーブル拭いとけよ!」

  2

  その夜。

  俺が2つ並べた自分の布団の中に入ると、かずは珍しく俺の布団の方に潜り込んできた。

  「どないした?」

  「……」

  何も言わずに俺の体にギュッと抱き着いてくる。

  俺は何も言わずにその頭を撫でてやった。

  「なんや、心配なんか」

  友達が来てくれるのは嬉しいが、俺が浮気しないかが気になるのだろう。

  「……だって、あの時、あいつのこと『具合いいから』って、ゆうさん言ってたみたいだから……」

  俺の胸に顔を埋めたまま、かずは呟く。

  ……こんなおっさん相手に嫉妬してくれるんか。

  あかん、むらむらしてまうやないか。

  「あほやなあ。……そりゃ、よくない言うたら嘘になるけど、かずの方がなんぼもええで」

  俺はかずの顔を持ち上げて、じっと目を見る。

  「俺のことが信じられんか?」

  「だって、ゆうさん格好いいし、モテるから……」

  こんな時にしか本当の気持ちを言ってくれないかずは、ほんまに罪作りや。

  「そんなに気になるんやったら、俺の金玉、すっからかんになるまで搾り取ってや」

  そう言いながら、掛け布団をはぎ、俺は虎獣人の服に手を伸ばす。

  「ちょっと体見せてみぃ」

  「なんだよ、急に」

  言葉では抵抗しながらも、かずは素直に服を脱いだ。

  未だ10代の筋肉質の体。

  がっしりしているが、余計な脂肪などついていない。

  「若くてええ体やなぁ。毛並みも艶があって」

  指で梳くように、その黄色と黒の体毛を撫でつける。

  40代の俺とは全然違う。

  この体が俺のものだと思うと、それだけでみなぎってくる。

  俺はそっと唇にキスを落とすと、そのまま乳首に舌を這わす。

  「んん……」

  「乳首も感じるようになったやないか」

  これまでの俺の努力が実を結んだのか、かずの体は確実に感じやすくなっていた。

  くすぐったいだけだった感覚から、確実に快感をくみ取るようになっているのだ。

  まだまだ薄ピンクの中心を嬲るように、舌先でぺろぺろと撫でてやると、ぴくぴくと体を震わせる。

  気持ちいいのだ。

  ……でも、まだまだやで。

  せつない顔をするかずに、おっさん臭い笑みを見せると、反対の乳首目掛けて、左手の指を伸ばす。

  優しく摘まみ上げると、こりこりと指先を交差させた。

  「んぁっ」

  声をあげると、指を離し、今度は乳輪を円を描くようにゆっくりとなぞっていく。レコードのように少しずつ中央に近づくと、またコリコリと摘まみ上げる。

  「あぁ……」

  唇だってお留守にはしていない。舌先で思う存分嬲った後、唇で優しく吸い上げ、鋭い牙で痕が残るぐらいの甘噛みをして痛みと気持ちよさを交互に与えるのだ。

  「ゆうさん……」

  とろけた顔をするかずの唇にもう一度キスをすると、俺は体をずらし、すでに俺を待ち構えている立派な息子に舌を伸ばした。

  勃起しているにも関わらず、相変わらず剥けきっていない先っぽの包皮を、唇でつまむように咥えると、皮でできた盃の中に溜まっている先走りをチュっと吸う。

  そして、ずるりと舌を伸ばして、まだまだ初々しい亀頭の周囲をそろそろとなぞるように舐めた。

  「んんっ!」

  まだまだここへの刺激は、この敏感な亀頭にとっては強すぎるのだろう。

  それでも、俺はその動きを止めない。

  ……くすぐったくて悶えてたって、この体は俺のもんやから。

  唇を尖らせて少しずつ包皮を剥くと、その粘膜を使って亀頭だけをしごいてやる。

  優しく、柔らかく。

  くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ。

  決して痛くないように、唾液をまぶして、先走りと絡めて。

  まるで羽毛で撫でるようなそのソフトな刺激でも、かずにとっては拷問のような刺激のようだ。

  「ゆうさん、わし!」

  体をばたつかせるが、俺はそんなことは許さない。

  太い腕でぐいと押さえつけると、俺だけのチンコを心ゆくまで堪能していく。

  くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ。

  「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」

  先走りの味が、塩辛さから青臭さに変わっていく。

  「イキたいんか?」

  俺の言葉に、こくこくと頷く虎獣人。

  きっと強い刺激で、一気に吐精できることを期待しているのだろう。

  しかし、今日はそんな甘いことはしない。

  俺の好きにさせてもらうのだ。

  刺激量はそのままにゆっくりゆっくりと亀頭を舐める。

  くちゅり、くちゅくちゅ。くちゅり。くちゅくちゅくちゅ。くちゅり、くちゃり、ねちゃり。くちゅり、くちゅくちゅ。

  イキそうだけど、イケない。

  なのに、快感の限界値には近づいていく。

  気持ちいいのに、発射できない。

  「なに、これ……。ゆうさん、わし、わし……!」

  「イカんでも、いつもまでも感じてたらええんやで。気持ちええやろ。たまらんやろ」

  そう言いながら、俺は右手をそっと自分の股間へと伸ばす。

  そこは我慢しきれないドラ息子が、涎をだらだら垂らして若虎の体に喰らいつけるのを待っていた。

  その涎をしっかりと中指で掬い取ると、そっと、かずの菊穴に塗り付ける。

  何度も何度も。

  ぐちゅぐちゅと音がするほどに濡れると、さすがにかずも気づいたのだろう。

  何かを求めるようなせつない顔をする。

  俺はそれに気づかないふりで、中指をグイ、と押し込む。

  くちゅり。

  すでに俺の肉棒の味を覚えた秘穴は、そのぐらいの太さはものともしない。

  簡単に呑み込んでしまう。

  「……ああ」

  快感の中に、物足りなさを覚えたのだろう。

  違う、欲しいのはそれじゃない。

  そう言いたげなかずを無視して、俺は指を動かした。

  初めの頃のように、やたらめったらに動かしはしない。

  一番感じる前立腺だけを執拗に撫でる。

  さわ、さわ、さわ、さわ、さわ、さわ。

  「ああっ!」

  かずの嬌声が部屋に響く。

  俺は指先をわざとゆっくり、優しく動かし、膨れ上がる前立腺を甘く撫ぜる。

  まるで舌先で軽く愛撫するように。

  絹で軽くさするように。

  「……なんで」

  すでに涙目で、かずは俺に訴えかける。

  俺の激しい愛撫に慣れてしまったかずにとって、こんな刺激では物足りないはずだ。

  「どうした?」

  俺は意地悪く言う。

  「どないしたんや?」

  かずが望んでいる答えはわかっている。

  だが、今日はそれをかずの口から言わせたかった。

  「……」

  いつも恥ずかしがって口に出せない、この若虎の口から直接聞きたかったのだ。

  俺の体を求める声を。

  くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ。

  さわ、さわ、さわ、さわ、さわ、さわ。

  必死に目で訴えるかずを無視して、俺は決して限界に達しない快感を前から後ろからと延々と与え続ける。

  「ゆうさん!」

  俺は突き放したように言う。

  「なんや?」

  「……」

  「言わな、わかれへんぞ」

  俺の言葉に、こらえきれなくなって呟く。

  「入れて……」

  「なんやと?」

  「……」

  俺は意地悪するように、上目遣いでかずをみつめる。

  「聞こえんなぁ。 なんて言ったんや?」

  一度口にしてさえしまえば、もう我慢することなどできないのだ。

  くしゃくしゃに歪めた顔で、虎獣人は叫び声をあげた。

  「入れて、……入れてください! ゆうさんのチンコ、わしのケツに入れてください!」

  すすり泣いているその声に、俺の頭は真っ白になる。

  「よう言えた! ちゃんとご褒美やるからなぁ!」

  これまでにないほどいきり勃つ逸物を、童貞のガキのように興奮させたまま、俺はかずのケツに思いきり突き立てる。

  がちゅんっ!

  待ちわびた俺の肉棒を、物欲しげに蠢く肉襞は、一切の抵抗もなく受け入れた。

  「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

  その衝撃だけで、かずは体を震わせる。

  ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ。

  何の勢いもないザーメンが、押し出されるように亀頭から零れ落ちる。

  俺はそれを指先ですくって、口に入れた。

  ……かずの味や。

  こいつが俺のもんなんや。

  俺だけのもんなんや!

  俺は満たされた征服欲で、きっと野獣のような笑みを浮かべていただろう。

  俺は興奮に震える手で若虎の体を押さえつける。

  壊れるほど腰を打ちつけても、どこにも逃げ出さないように。

  そして、最大威力で肉杭を叩きつける。

  がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん!

  「ひゃああああああああ!」

  どれだけ泣き叫んでも、俺はかずを攻める手を緩めない。

  ひたすら、掘削機になってしまったように、その体に俺という痕跡を打ちつけていく。

  俺がその体を貫くたびに、かずは体を震わせて、その衝撃に縮こまってしまった包茎から、ぴゅ、ぴゅと白い液体をこぼす。

  その度に肉襞はきゅっ、きゅっ、と誘うように俺の竿を締め付け、雄の子種をねだる。

  その刺激に、泣き叫ぶかずの声に、俺は我慢できなかった。

  「くそ、くそ! ……孕めぇぇぇぇぇぇぇ!」

  どぴゅっ、どぴゅっ、どぴゅっ、びゅるるるるるるるるっ!

  全身の力を吐き出すような勢いで、濃い雄汁が、俺だけのメス穴に染み込んでいく。

  その勢いにまたもイッたのか、虎獣人は、白目をむいていた。

  俺はその顔に荒々しく口づけして言う。

  「今日は寝かさへんで。孕むまで種付けしたるからな!」

  3

  こないだは、やりすぎた。

  次の日が日曜日だというのもあって、ついつい朝まで、いや、昼まで。いやいや、夕方までやってもええやろ、と時間を伸ばしていたら、なんと24時間耐久レースになってしまったのだ。

  いや、違うねん。

  かずがかわいすぎるせいで、金玉がなかなかすっからかんにはならんかったんや。

  おかげで、最愛の虎獣人は2日寝込んでしまう羽目に。

  まあ、そのせいで、俺がどれだけかずが好きかをわかってもらえた(多分)ので、結果オーライやったとは思いたい。

  あれ以来、ずっと不機嫌でやらせてもらってないのは割とダメージデカかったりするんやけど。

  

  「先生、俺なんで腰こんなに弱いんですかね?」

  ぎっくり腰は治ったものの、予防の意味でも月に2回は顔を見せる猪獣人。

  そんな相手に俺は鍼をしながら答えてやる。

  「そりゃ、印刷工やったら、重たいもの持つんやろ。治りきってないのに、無理したらそら痛なるわ。ちゃんとコルセット使うてるか?」

  「いや、面倒でつい……」

  まだ若い猪獣人の言葉に、俺はため息をつく。

  「調子の悪い時は、コルセットは大事やでぇ。そんなんやったら、若いおねえちゃん相手に腰振ったかて、すぐにあかんようになるで。こないだの合コンかてあかんかったんやろ」

  「……」

  俺の言葉に、がっくりしたように肩を落とす24歳童貞猪獣人。

  「それと、猪野ちゃん。マスの掻きすぎはあかんでぇ。房事過多言うてな。子種出しすぎると腎をやられるんや。元々精が強くなかったら、腰も弱なるで。日に何回ぐらいやってる?」

  この歳やったら、何発抜いても足らんやろ。

  「えと、……週に1、2回ぐらいかな。多すぎますかね」

  「はあ?」

  俺は目を剥く。

  「いや、そのぐらいなら問題ないと思うが……若いのによう、そんなんでいけるなぁ」

  「そうですかね?」

  最近の若者はようわからん。

  ガラガラガラ。

  俺は講釈を垂れながら、24歳童貞猪獣人に鍼を打っていると、入り口の引き戸が開き、誰かが入ってくる気配がする。

  今日は他に予約は入っていないはずだが。

  ……ああ、笹川か。

  確か昼頃訪ねてくると、かずが言うてたしなぁ。

  ……あいつには、何事もなく穏便に過ごしてもらわないと。

  俺はもう、あんなかずの泣き顔は見たくないのだ。

  そんなことを思っていると。

  「はぁっ?」

  ガタン。

  受付の方から、驚いたようなかずの声がする。

  ……なんや、なんや。

  俺は気になって、鍼を打ち終えると、遠赤で猪野ちゃんの腰を温めたまま、受付を覗く。

  「かず、どないしたんや? 笹川来たんと違うんか? ……げ」

  そこにいるのは、小柄なパンダ獣人ではなく……俺と同じぐらいに大柄な虎獣人だった。

  その顔を見て、俺の頬がひくつく。

  半端ない威圧感の男が、そこに立っていた。

  スーツの上からでもわかるほど盛り上がった筋肉は、きっと鍛錬で鍛え抜かれて作られた代物だ。俺の脂肪交じりのそれとは全然質が違う。

  物腰は柔らかいが、その糸目のように鋭い瞳からは、殺気が感じられる。

  片耳の端は噛み千切られたようにギザギザになっていて、顔にもいくつか古傷のようなものが残っていた。

  横幅のあるあごには、きれいに整えられた黒髭がまとわりついている。

  お世辞にも堅気っぽいとは言えない。

  ……なんで。

  今、世界で一番苦手だといっても過言ではないその男は、俺の姿を認めると礼儀正しく、ぺこり、と頭を下げた。

  あり余るほどの威圧感はそのままに。

  「こんにちは、先生。和幸が、お世話になっております」

  「か、かずのお父さん……」

  虎島正敏。

  『獣王ビッグライガー』というリングネームでプロレスラーをやっている、かずの父親だ。

  俺はそっちの世界にはとんと疎いのだが、なんでもちょくちょくテレビで試合が放映されるぐらいの有名人なのだとか。

  ちょうどこの近くで興業があったため、俺に挨拶がてら、かずの普段の様子を偵察しに来たらしい。

  ……うう。

  俺はこの人が苦手なのだ。

  ただでさえ、高校生のかずに手を出してしまったという親御さんに対する引け目もあるのに、そこに『熊殺し』なんて言われる、尋常でない威圧感まで合わさると、思わず腰が引けてしまう。

  俺が夜な夜なかずに手を出してるなんて知られたら、確実に殺されてしまうだろう。

  そんなことを逡巡していると。

  「……そんなわけで、1日こちらにご厄介になってもよろしいですか?」

  「は、はい?」

  ……へ?

  親父さん、今何言うた?

  うちに泊まるってこと?

  なんで、急にそんな話に?

  「ありがとうございます」

  理解が追い付かない俺に、親父さんは頭を下げた。

  「よかったね、父さん。この辺、泊まるところないからなぁ」

  かずは当たり前のように喜んでいる。

  「へ、あの……」

  俺が現実逃避をしている間に、なんか勝手に話が進んでいた。

  どうも、こんな田舎には泊まれるホテルもないから、一泊うちに泊めてくれと言うことらしい。

  「ああ、場所なんて、台所でも部屋の隅でも寝られさえすれば大丈夫ですので。興行で寝るところがなくて皆で雑魚寝なんて、よくあるんですよ」

  その鋭い牙を見せつけながら、茶目っ気たっぷりに笑ってみせる。

  ……いや、笑う前にその威圧感何とかしてほしいんやけど。

  俺は怖すぎて、拒否するなんて選択肢を思い浮かべることが出来なかった。

  ガラガラガラ。

  「せんせー、お久しぶり!」

  遅れて、鍼灸院のガラス戸を開ける、ややこしいパンダ獣人の姿が。

  なんで同じタイミングでこんな面倒くさいことに。

  ……もう勘弁してくれや。

  4

  「和幸。お前、料理なんて出来るようになったんだな」

  「ああ。ゆうさんに教えてもらって」

  いつものテーブルだとガタイのいい男4人では狭いのだが、ここしかないのでしょうがない。

  所狭しと並んだ料理を見て、親父さんは感心する。

  あの後、猪野ちゃんにはさっさと帰ってもらうと、臨時で鍼灸院を閉めた俺は、親父さんを案内して田舎巡りをしてもらった。

  かずには同じように、別ルートでパンダの案内をしてもらう。

  一番やばいのが、何も知らないパンダが親父さんに余計なことを言って、激怒させてしまうことだからだ。

  俺が高校生のかずに手を出したとか。

  俺が高校生の笹川に手を出したとか。

  俺にとって、かずはただの居候ではなく、恋人になっていることとか。

  俺が夜な夜なかずの体を堪能していることとか。

  ていうか、冷静に考えてみると、これ、けっこうやばいやん!

  ばれないためにも、2人を共に行動させるわけにはいかない。

  ……俺はまだ、死にたくないんや!

  「ささ、親父さん。一杯お注ぎします」

  俺は台所からさりげなく泡盛を出してきて、親父さんのコップに注ぐ。

  ここぞというときの秘蔵の一品。アルコール度85%の泡盛の古酒、『虎殺し』だ。

  うるさい奴はアルコールで酔わせて寝かしてしまおう大作戦なのだ。

  「これはご丁寧に。では、私も……」

  「いやいや、俺は手酌で大丈夫ですので」

  俺はお茶を入れたコップを掲げて見せると、きっ、と鋭い視線が俺をとらえる。

  「ひっ!」

  「先生はお酒飲めないんですか?」

  「いや……」

  「じゃあ、ぜひ私からも」

  ……これって、俺の酒が呑めんのか、ってことだよな!

  俺は仕方なくお茶を飲み干すとコップを差し出す。

  親父さんは慣れた様子で一升瓶を掴むと、トクトクと注ぎ入れる。

  ……いや、そんなに入れんでも。85%やで。

  俺がコップに口をつけるのを見ると、自分も、となみなみと注がれた泡盛に口をつけ、親父さんは嬉しそうにコップの酒を一息に飲み干した。

  ……何度も言うけど、85%やで。

  「ああ、これはうまい酒だ」

  にっこりと笑うと、手酌で泡盛をコップに流し込む。

  ……早いとこ酔ぉて、寝てくれたらええんやけど。

  そう言えば、もう一人、寝てくれた方がいい奴がいるのだ。

  「笹川、お前も吞んでみるか?」

  「僕はチューハイがいいなぁ」

  俺の酒を拒否するパンダ獣人。

  ……ちっ。

  「先生、未成年に酒を勧めるのですか?」

  ぎろり、とこちらの顔を見る強面虎獣人。

  ……この人、プロレスラーの癖にむっちゃしっかりしてるやん!

  普通、もうちょっと砕けてるんと違うんかい!

  「あ、いや……その……。まあ、大人になったときの予行演習というか……」

  「なるほど」

  苦し紛れの俺の言い訳に、虎獣人は納得したようにうなずいて見せる。

  「そう言われてみると、そうですね。大人のいるところならちょっとぐらい失態してもリカバーできますし」

  「そ、そうそう! そうなんです!」

  「かずのお父さん、遅れてるなぁ。今どきの若者は普通に酒吞んでるよ」

  勝手に冷蔵庫からチューハイを取り出したパンダが、何でもないように言っている。

  「和幸、そうなのか?」

  「いや、どうだろうね。わしは違うけど」

  無難な返答に、俺はほっ、と胸をなでおろした。

  ……こんな具合じゃ、かずと初めて会ったのがバーだなんて言ったら、どうなるんやろ。

  「ささ、親父さん、もう一杯」

  俺は必死に酒瓶を掴むと、強面プロレスラーに、にっこり笑って見せた。

  5

  恐怖の宴も滞りなく終わらせて。

  早々に酔いつぶれてくれたパンダはかずに任せて、俺は酔ったようには見えない親父さん(虎殺し2本空けてるんやで!)と並んで床に就く。

  たいして広くないこの家は、大人2人が寝られるような部屋が2つしかないのだ。

  必然的に別れ方は、俺と親父さん、かずと笹川になってしまう。

  俺が笹川と一緒になるのはかずが嫌がるし、かといって親父さんと笹川を一緒にすると、あの腐れパンダがこの強面の虎獣人に何を吹き込むかわからない。

  消去法で、この班分けしかできなかったのだ。

  ……まあ、何とかやり過ごしたなあ。

  朝起きて、飯を食わせてしまえば、2人とも帰っていくだろう。

  どうやら親父さんも眠ってしまったのか、先ほどまでは話しかけてきていたのに、今は静かになっている。

  ……そやけど、たった1日でも、かずが隣にいないのは寂しいもんやなぁ。

  俺はそんなことを考えながら、とろとろと眠りについた。

  ……んん?

  ふと気づくと、夢見心地のまま、俺の肌に温かい何かが触れる感触がした。

  それは俺の体を軽く撫でると、ゆっくりと服を剝いでいく。

  完全に剥かれてしまうと、優しく優しく俺の体は愛撫される。

  ……かずか?

  最愛の人に触られているせいか、その感触は今まで感じたことがないほど心地よかった。

  そのまま再び眠りに落ちてしまいそうな安堵感と、体の奥底からグズグズにとろけてしまいそうになる気持ちよさと。

  そんな感覚は、生まれて初めてだった。

  ……なんや、かず。今日は積極的やなあ。

  そのことに嬉しくなって、俺は目の前の体に抱き着いた。

  「ん?」

  ……なんか、えらいごつごつしてるやないか。

  筋肉質なかずの身体よりも、もっと肉厚でもう一つ硬い。

  いつもよりでかいし。

  ……あれ?

  「先生、目が覚めたのか……」

  「へ?」

  野太い声に夢から覚めると、俺が抱き着いているのは、いかついガタイの強面の虎獣人。

  かずの親父さんだった。

  そうだ、この厳ついおっさんと2人で並んで寝ていたんだった。

  俺は慌てて身を離す。

  「な! 親父さん、何を……」

  そのいかつい体は、すでに真っ裸になっていた。

  顔と同じように傷だらけのそこは、着痩せするのか、スーツを着ているよりも筋肉が膨れ上がって見える。

  「何って、決まっているだろう」

  当たり前のように強面プロレスラーは言う。

  「ムラムラしてきたからな。良さそうな穴が隣にあったら、我慢できるもんじゃないだろう」

  「はい?」

  良さそうな穴?

  「男なら、そこに穴があれば入れたくなるもんだ」

  「……親父さん?」

  それ、俺の事か?

  いや、そこに山があるから、みたいに言われても……。

  当たり前の事のように言う強面虎獣人の目は、完全に据わっていた。

  ……おっさん、酔っとるんかいな!

  さっきまで素面やったのに。

  酔ってないように見えただけで、このおっさん、ちゃんと酔っぱらってたのだ。

  しかも、遅れて酔ってくるやなんて、なんちゅう質が悪い……。

  頭のおかしいことを平然と言いながら、完全にはだけた俺の毛並みをかわいがるように、おっさん虎はさわさわと愛撫する。

  「んん!」

  ……おかしい。

  気持ちよすぎるのだ。

  ほとんど見ず知らずの男に、ただただ触れられているだけなのに。

  柔らかく俺の肌を撫でるその指先は、悔しいが驚くほど気持ちよかった。

  攻めることしか知らない雄の俺を、一瞬で感じさせるその手つきは、熟練の腕前を感じさせる。

  武骨な指先が軽く震えるだけで、電気が走るように俺の体は震えてしまう。

  ああ……。

  吐息が漏れてしまいそうになる。

  ……なんで。

  こう見えて、感じやすい体はしていないはずだ。

  自暴自棄になっていた時期には、相手になった男たちの何人かが、戯れに俺の体をメスにしようと奮闘していたが、どれだけ愛撫をされても、結局一度だって感じることはなかった。中にはこの道何十年のベテランだっていたのに。

  何も感じずじまいだったのだ。

  身を任せて貫かれることを途中で諦めて、俺は逆に男たちをメスにして、よがり泣かせてきた。

  俺の体は泣かされるんじゃない、泣かすための生粋の雄の体やと思っとったのに……。

  それが。

  「んんっ!」

  ……魔法か、これは。

  ただ肌を触れるだけの単純な愛撫。

  その感覚に、雄の俺が身を任せてしまいそうになるのだ。

  疼くような快感だけではなく、ゆったりとした波に揺られるように、すべて身を任せてしまいたくなる感覚。

  「ああ……」

  気持ちよすぎて、抵抗すらできない。

  この親父、明らかに男と遊び慣れている。

  親父さんは指を滑らせ、かするように乳首を撫でた。

  ……ぐぅ!

  体をのけ反らせそうになるほどの気持ちよさに、俺は歯を食いしばる。

  前戯だけでこれだ。

  媚薬でも使われないと、普通はこんなに気持ちよくなるはずはないだろう。

  天性の才能なのか。

  ……これで乳首でもつままれたら。

  それだけでイッてしまうかもしれない。

  ……なんちゅう技術や。

  今まで感じたことのない、ケツの奥がじゅわじゅわと濡れていくような感覚。

  撫でられただけでこれなのだ。

  本格的にやられたら……。

  ……あかん、メスにされてまう。

  俺はそのことに恐怖を覚える。

  そんな俺の姿を見て、強面の虎獣人は鷹揚に笑った。

  「先生。感じやすい、いい体をしているな」

  「お、親父さん! あんた、ノンケと違うんか?」

  俺は喘ぎそうになる気持ちを抑えて、体を弄んでいる虎獣人に問いかける。

  「ノンケ?」

  だが、おっさん虎は首をかしげる。

  「ノンケというのはよくわからないが、男が男同士、性欲を発散させるのはよくある話だろう。私も練習生相手にはよくやっているぞ」

  「……」

  ……やばいやろ、それ。

  それとも業界的にはありなのか?

  「なんだ、初めてなのか? 心配するな。初めは嫌だと言っても、気持ちよくなればすぐに受け入れられるようになる」

  自らの言葉に頷くように、股間でそびえ立つ、かずの兄弟がビクビクと揺れていた。

  俺ほどの大きさはないが、ほれぼれするほど反り上がったそれは、何より硬そうで、男の泣き所を突くには最適な形をしていた。

  ……あんなもので突かれたら。

  もう2度と、雄としてかずを抱けない体にされてしまうかもしれない。

  そんな予感に、俺は怯える。

  親父さんは俺の体を撫でながら言う。

  「こういう体はケツの締りもいいんだ。柔らかすぎず、きつすぎず。入れられた方もすぐに気持ちよくなるのはわかっている」

  「そんなことあるわけ……」

  俺は藻掻こうとするが、そのとろけるような快感と、強い威圧感とで逃れることが出来なかった。

  「心配いらん。2000人近くやってるとな、見ただけで分かるようになるんだよ。ほら、この通り」

  ぎゅっ。

  「んがぁっ!」

  軽く乳首をつままれるだけで、逸物は絶頂寸前まで追い込まれる。

  それを、俺は気力で耐えた。

  「おお、今のをよく我慢した。ほとんどの男は、今のでイッてしまうというのに。……これはちょっと楽しませてもらえそうだな」

  「ちょ、ちょっと待て。2000人ってなんや?」

  歯を食いしばってその快感を押さえ込むと、俺は熊殺しの異名を持つ虎おっさんに問いただす。

  「相手には事欠かないのだ。選手に練習生、タニマチ、ファンだってたくさんいるのでな」

  「……」

  経験値の違いに、俺は言葉を発することが出来ない。

  「さてと……いただくとするか」

  親父さんは抵抗できないままの俺の太い両足を掴むと、軽々と自らの肩に乗せ、その濡れた逸物を俺のケツに押し当てた。

  怯えたまま、俺の体は固まってしまっている。

  「なに、初めは痛いかもしれんが、後悔はさせん」

  ……あかん、あかん!

  俺は泣きそうになりながら、首を横に振ることしかできない。

  こんな親父に……。

  それでも俺の体は、蛇に睨まれた蛙のように身動き一つすることが出来なかった。

  ……嫌や。

  嫌なのに、体が求めている。

  俺の目から、涙がポロリと零れる。

  「先生、かわいいな」

  優しく指先をその雫を拭う虎獣人。

  ……あかん。せめて、やられるなら、初めてはかずに……。

  藻掻こうとするものの、気持ちがよくて力が入らない。

  「天国に行かせてやるからな」

  ぬちゃり!

  ……ああ。

  その瞬間だった。

  「親父! 何やってるんだ!」

  俺の処女が散らされる寸前。

  ふすまを開けて強面親父の横暴を阻止したのは、俺の最愛の王子様だった。

  ……助かった。

  6

  「なんだ和幸。夜中にそんな大きな声を出して。駄目だぞ、ご近所に迷惑だろうが」

  虎獣人は当たり前のような顔をして、かずを諫める。

  俺の体を組み敷いたまま。

  「親父こそ、何やってるんだよ!」

  「……見てわからないのか? 男同士の軽いスキンシップと言うやつだ」

  首をかしげる虎おっさんは、本気でそう思っているのだろう。

  ……全然軽くないやんけ!

  「さてと、続きをしようか」

  「あ……」

  動きを止めていた腰に、力が入るのがわかる。

  必死に堪えている菊穴を、めりめりと肉杭が押し開いていく。

  ……あかん。

  俺、かずの前で男に犯されてまう……。

  「かず、助け……」

  「ゆうさん!」

  かずは駆け寄って、虎親父を突き飛ばした。

  ぬちゃり、と亀頭が潜り込む、その前に。

  「和幸、何をするんだ」

  押し倒された強面プロレスラーは、ムッとした顔で息子に言う。

  「それはこっちの台詞だ!」

  若い虎獣人は激昂する。

  「ゆうさん相手に何やってるんだよ! 親父には母さんがいるだろう! これは不倫じゃないか!」

  かずの詰問に、親父さんは不思議そうな顔をする。

  「……男同士だからこそ、不倫になんて、なりようがないだろうが。オナホ使うのと一緒だよ」

  「……」

  これがノンケの感覚なんやろうか。

  「それに他のレスラー仲間とも、いつもやっているぞ。お互いの了解があれば、何の問題もないだろう?」

  「……お互いの?」

  かずは、きっ、とこちらを睨みつける。

  ちゃうちゃう!

  「了解なんてしてへん! 寝込みを襲われたんや!」

  「事後承諾という言葉をしらんのか。和幸、所詮男なんぞ、嫌よ嫌よも好きのうち、というやつなんだぞ」

  「……」

  それ、レイプ魔のセリフやんけ。

  「ふうん。……なんか、楽しそうなことやってるねえ」

  ……またややこしい奴が。

  隣の部屋のふすまの影から、ひょっこり顔を覗かせたのは、小柄なパンダ獣人だった。

  「……笹川」

  「和幸の友達か。……ふむ。これまた良さそうな……」

  据わった眼でパンダをじろりと見やると、おっさんは標的をあからさまに俺から変えた。

  ……酔ぉてたら節操なしかい!

  それでも、助かったのは確かだ。

  俺は抜けたままの腰で這いつくばり、何とかかずのところまで逃げ出す。

  「かずのお父さん、なかなかいい体してるねえ」

  「君も、先生よりも数段、具合が良さそうだな」

  にっこりと笑ってみせる笹川に、ごくりと唾を飲み込む親父さん。

  「うまそうな体だ。これは見ただけで分かる。君は男を狂わせる名器だな。何人も男を狂わせて来ただろう?」

  ……己はソムリエかい!

  俺は心の中で突っ込みを入れる。

  「そうなの?」

  こんな時だというのに、不安そうな顔でかずは俺を見た。

  「そ、そんなことあらへん! 俺にとっちゃ、かずが一番気持ちええんや!」

  俺は否定するように、思わず叫んでしまう。

  「馬鹿、ゆうさん! 大きな声で……」

  かずの叱責に俺は慌てて口をふさぐ。

  ……しまった、親父さんに聞こえてしまう。

  だが、時すでに遅く。

  「……」

  振り向いた虎獣人は、じろりとかずの方を見た。

  ……やばい。息子とやってるってばれたら、俺、殺されてしまう。

  しかし、虎親父の思考は、俺たちの推し量れるレベルには存在していなかった。

  「ふうむ」

  親父さんは考え込む。

  「言われてみれば、息子をそんな目で見たことはなかったな。……確かにこの体つきなら、こっちの方が具合いいに違いない」

  にやりと笑うその眼つきは、獲物を見定めた獣そのものだった。

  ……鬼畜やんけ!

  「せっかくだから喰ってしまうか」

  完全に体をかずの方へ向き直すと、足を一歩踏み出す。

  「……」

  あまりのことに、かずは呆然としたまま逃げることもできない。

  ……あかん。

  どうすればいい!

  俺が悩む間に、親父さんはどんどん近づいてくる。

  くそ!

  俺は震える身体を奮い立たせ、壁になるように親父の前に立ちはだかる。

  「ゆうさん!」

  「邪魔をするなら、先にそっちを使ってからでもいいんだぞ」

  「かずは……。かずは渡さへん!」

  たとえ俺の処女が散らされようとも。

  かずだけは。

  かずだけは俺のもんなんや!

  と……。

  「まったく、僕も舐められたもんだね」

  鬼のような虎獣人を止めたのは、小柄なパンダ獣人の、その一言だった。

  「……なん、だと?」

  足を止めた強面プロレスラーは険しい表情で後ろを振り返る。

  「……ねえ、かずのお父さん」

  そう言いながら笹川は、服を脱ぎながらゆっくりと親父さんに近づいてくる。

  妖艶な笑みを浮かべて。

  「僕よりもかずの方が具合いいなんて、ご挨拶だね。そういう事は、僕と遊んでから言って欲しいもんだよ。……もっとも、僕を満足させられるならの話だけどね」

  侮るようなそのセリフに、おっさん虎は笹川をねめつける。

  「言ってくれるな……。よかろう。この、獣王ビックライガーを試そうとは笑止千万! 返り討ちにしてくれるわ!」

  「来なよ、おっさん。世間の厳しさを教えてあげるから」

  不敵な笑みを浮かべたパンダは、指をクイクイと動かし、プロレスラーを挑発してみせる。

  それを確認した瞬間、疾風のような速度で、虎獣人は襲い掛かった。

  「うぉぉぉぉぉっ!」

  「はぁぁぁぁぁっ!」

  がつん!

  大柄な虎獣人を、小柄なパンダ獣人が迎え撃った。

  お互いに、がっぷり四つに組む。

  ごぉぉ!

  炎のようなオーラが、2人を包むように見えた。

  超獣大決戦の火蓋が今、切って落とされたのだ!

  「……」

  「……今や、逃げるぞ」

  それを見た俺はかずを抱え、こっそりとその場から逃げ出したのだった。

  7

  1階の鍼灸院で、抱き合った2人は怯えながら眠り、気が付くと朝になっていた。

  恐る恐る2階へ上がると、ふすま越しに洩れだしている白い液体。

  「……」

  ずるり。

  やけに粘つくふすまを開けると、部屋は一面真っ白だった。

  ……嘘やろ。

  何もかもが粘つく白に覆われた部屋の中央で、燃え尽きて灰になった二人の漢が、仰向けに倒れていた。

  超獣大決戦は、怪獣同士の相打ちで終わったのだ……。

  安堵のため息をつくかずの隣で、俺は一人呟く。

  「これ、部屋の掃除費用、請求してもええよな」

  2人を起こして風呂に追いやり、その間にかずと掃除をして、気が付くと昼を回っていた。

  疲れ果てた顔をしている俺たちとは対照的に、笹川は満足げな顔をしているし、親父さんは当たり前のように平然としていた。

  その目は凪のように落ち着いているので、やはり昨日のことは酒のせいだったのだろう。

  ……。

  何か釈然としないものもあるが、蒸し返して藪蛇になるのも怖い。

  そんな憮然としている俺たちに、朗らかな顔で笹川は告げる。

  「先生、かず。僕、プロレスラーになることにしたよ」

  「はい?」

  「かずのお父さんが言ってくれたんだ! お前ならこの世界でトップを狙えるって!」

  その言葉に、親父さんは頷く。

  「こいつは逸材だ。齢19にして私をこれだけ翻弄する技術。天性の締りの良さ。これがあればどんな男たちとも互角以上に戦える」

  ……それ、肉便器になるってことやないんですかね。

  「例え、一対多数の戦いになったとしても、負けることはないだろう」

  ……乱交もOKってことやね。

  「笹川、お前。大学は……。そうか、辞めたんだったな」

  「うん。教授たちに手を出したら、誰が僕を独り占めるするかで揉めちゃって……。結局居づらくなって辞めたんだ」

  「……」

  まあ、確かに笹川には天職なのかもしれない。

  元教え子のこれからに若干の不安を感じたものの、最愛のかずを守るためだ。仕方ない。

  俺はそれ以上、何も言わなかった。

  その後、キューティーパンダボーイというふざけたリングネームでデビューした笹川が、その妖艶さと、幼く見えるその容姿を荒くれ男どもにもみくちゃにされる様とで、一部のファンを虜にして人気になるのは、また別のお話。

  ……解せぬ。