結実

  1

  『ちゃんと挨拶したいんや。これまでの事と、これからの事。……かずを俺にくださいって』

  わしは夕日に照らされた、ゆうさんの顔を一生忘れることはないだろう。

  何かに吹っ切れたような熊獣人の顔は、いつもよりどっしりしていて、頼りがいのある、大人の男の表情だった。

  ……本当にこの人はわしの事を大事にしてくれる。

  いつだってわしの事を考えてくれる。

  わしはこの人とずっと一緒にいたい。

  そのために、わしは何をしてあげられるんだろう。

  ゆうさんのために。

  

  「よし!」

  わしは気合を入れる。

  ゆうさんとともに『我が家』へ帰ってきたわしは、凍えた体を温めるためにゆっくり風呂へつかると、勇気を出して熊獣人の待つ寝室へと向かう。

  「なんや、えらいゆっくりやったやないか」

  先に烏の行水をしてきたゆうさんは、布団に寝転がり、わしが戻ってくるのを待っていたようだ。

  その股間は、服の上から見ても、すでに盛り上がっているのがわかる。

  それを少し残念に思いながらも、わしは熊おっさんを見下ろした。

  「なんや? そんなとこ突っ立っとらんと、こっちおいで」

  手招きするゆうさんを無視して、わしは着たばかりのパジャマを脱いでいく。

  ストリップでもするように、ゆっくりと。

  ボタンを一枚一枚外し、上着を脱いだ後、ズボンをすとん、と下におろす。

  「な、な……」

  目玉を真ん丸にして、二の句も告げない熊親父。

  わしは恥ずかしさに顔が赤らむのを感じながら、ゆうさんに見せつけた。

  股間にまとわりついている、小さな小さな赤いマイクロビキニを。

  それは生地が薄いのかスケスケで、チンコがはみ出しそうに盛り上がっているのが、履いてる自分でもよくわかった。

  「ど、どうかな?」

  いつもトランクスしか履かないわしのそんな姿に。

  ぶぅっ!

  ゆうさんは鼻血を吹いた。

  「な、なんやそれ!」

  布団を真っ赤に染めた熊獣人は、すごい剣幕で食って掛かる。

  「お、おかしいかな、これ」

  「おかしくない! そりゃ、最高やけど……。なんでそんなもん履いてるんや!」

  「上狼塚さんが、おっさんをその気にさせたいなら、これぐらい履かないとって……」

  ゆうさんが最近勃ちが悪いと悩んでいるという話を、ホテルで上狼塚さんにしたところ、爆笑した狼獣人は、これをくれたのだ。

  『これ履いてみせてやれば、EDなんて一発で治る』、と言って。

  『かず君のこと、あんなに大事にしてくれてるんだから、そのぐらいのご褒美あってもいいんじゃないかな』。

  あんな事言われたら、履かないわけにはいかないじゃないか。

  「あんの、くそ狼がぁぁぁぁぁ!」

  鼻血を拭いながら、ゆうさんが歯ぎしりする。

  「あいつ……。かず、ほんまに変なことされてないんやろな!」

  「そんなことしないよ。あの人は紳士なんだから」

  「ふん」

  拗ねたように鼻を鳴らす熊親父に、わしは言う。

  「でも、わしは紳士よりも野獣の方がいいな。……ゆうさんみたいな」

  ぎろり、と鋭い視線がわしを襲う。

  「……そんなこと、そんなこと言われたら……。俺がおさまりつかなくなるやないかぁ!」

  血まみれの熊獣人は、むくりと立ち上がると、わしの体に飛び掛かってくる。

  「ちょ、ちょっと、ゆうさん。鼻血ぐらい拭いてよ!」

  ティッシュで鼻に栓をした熊獣人は、引きちぎるように自らの服を脱ぎ捨てると、わしの体にむしゃぶりついてきた。

  唇を重ねると、当然とばかりに潜り込んでくる熊の分厚い舌。

  わしは舌を伸ばすと、必死に絡めて唾液を啜る。

  煙草と、血と、ゆうさんの味。

  我が物顔で闊歩する舌を、わしの口はただ受け入れる。

  熊は自分の味をわしの粘膜にこすりつけ、所有権を主張するのだ。

  血の味がするキスを念入りにした後、ゆうさんはわしの体をまさぐる。

  わしの腕を押さえつけたままで。

  「ねえ。わしにもやらせてよ」

  ……わしだって、ゆうさんの身体を触りたい。

  その、小さい乳首を、太い腕を、飛び出た腹を触りたい。

  でも、いくら甘くねだるように言っても、熊おっさんは決して首を縦に振らなかった。

  「あかん! 自分の愛撫は、親父さんと一緒で、もう……ちょっとおかしいレベルなんや。そこを自覚せなあかん」

  もう雌になるのは懲り懲りや、と熊獣人は小さく呟く。

  「それより、ビキニを初めて履いた、かずの体を堪能させてくれや。今日はビキニ記念日なんやぞ!」

  人の事をサラダ記念日か何かのように言うゆうさんは、愛おしそうにわしの体をまさぐる。

  その太い指先で、感じるようになってしまった乳首を優しく摘まみながら、わしの脇に舌を伸ばす。

  乳首の甘い痺れに濡れた声を出しながら、わしは訴える。

  「ゆ、ゆうさん駄目。そんなとこ……」

  くすぐったいし、匂いがするかも……。

  「ええやないか、そんなパンツ履いて、挑発までしとるんや。俺の好きなようにさせえ」

  従って当然と言わんばかりに、舌を大きく使って、べろべろとえぐるように舐めていく。

  普段触られることのない敏感な皮膚を、こそげ取るように舌先で嬲られると、それだけで体が震えだしてしまう。

  ……んん。

  「ゆうさん、くすぐったい……」

  「我慢するんや」

  力尽くで子供に言うことを聞かせるように、その太い腕はわしの体を押さえ込んだままだ。

  たとえ体を捩じらそうとしても逃げる事さえできない。

  目を血走らせ、興奮した面持ちで、獰猛な熊獣人は獲物の脇に舌を伸ばし続ける。

  ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり。

  子猫がミルクを舐めるような音が、部屋中に響く。

  慣れてくると、くすぐったさの中にひとかけらの気持ちよさが存在していることに気づく。

  「ちゃんと洗ったんかぁ、ここ。こっちはまだまだかずのええ味が残っとるでぇ」

  反対側をひと舐めすると、にやり、と顔をあげていやらしく笑う中年熊親父。

  その言葉に、わしの顔は羞恥心で真っ赤になる。

  「ゆうさん、やめてよ……」

  「やめへん! これも全部俺のもんなんや!」

  抵抗するわしを押さえつけたまま、その鋭い牙で傷つけないようにはむはむと脇の甘噛みを始める。

  「……ひぃっ」

  舐められるのとは違う、明らかに感じられる快感に、わしはうめく。

  舌で、牙で、心ゆくまでわしの脇を味わうと、ゆうさんはあふれる唾液でなめくじのようにわしの身体に道を作る。

  黄色い毛皮を掻き分け、皮膚に舌先をつけ、なぞるように動かす。

  気に入ったところでは、何度もぐりぐりと舌を動かし、その皮膚を味を確かめると、唇を押しつけ、キスマークを付ける。

  ジンジンと痛みが残るほど、強く吸いながら。

  きっとすべての毛を刈ってしまえば、わしの体は熊の唇の痕でいっぱいになっているはずだ。

  そうしてゆっくりゆっくり突き進む唇は、やがてお目当てのビキニまでたどり着く。

  時間をかけてじらされたせいで、わしの股間を覆う薄い生地からは、ぷっくりと先走りが染み出していた。

  鈍く光る雫を見た熊獣人は、嬉しそうに唸る。

  「おうおう、うまそうなもん、漏らしやがって……」

  すかさず、ちゅっ、と音を立ててそれを啜ると、じゅるり、と布越しに舌を這わす。

  「あっ!」

  待ちに待ったその刺激に、わしは体を震わせてしまう。

  「気持ちええんかぁ?」

  エロ親父が、わしの顔を見てにやりと笑う。

  そしてまた、小さな布に無理やりしまい込まれた性器を、愛おしむように舐めしゃぶるのだ。

  くちゅりくちゅり。

  じゅるじゅるじゅる。

  ビキニの上から、執拗に舐めしゃぶる。

  「んん!」

  布の上からチンコの形を確かめるようにゆっくりと舌を動かしたかと思うと、くりくりと雁首のみを磨くように唇で咥えて震わせる。

  先走りが滲み出る鈴口を、舌先で掃くように揺らし、刺激で蜜が分泌されると、飽きもせずにまたそれを吸う。

  薄い生地は熊親父の唾液でべたべたになり、うっすらとわしのチンコが浮き上がるように見えた。

  「ああ……」

  熊の舌ざわりは気持ちいいのだが、どうしても布越しの刺激で、物足りなさを感じてしまう。

  気持ちいい。

  気持ちいいけど、物足りない。

  布越しだと、舌先のざらついた感触を味わえないのだ。

  ……もう少し。せめて直接舐めてくれたら、もう少しでイケるのに。

  そんなわしの気持ちに気づかないのか、ゆうさんはぴちゃぴちゃと一心不乱で舐め続ける。

  中途半端な刺激だけを、わしに与えながら。

  ちんこに飽きると、内股の匂いが強そうなとこや、睾丸を甘噛みし、その刺激で先走りがあふれると、うっとりしながらそれを舐めとる。

  それは、わしのとって地獄のように続く、もどかしい快楽だった。

  「ゆうさん!」

  わしは堪えきれず、はしたなくも懇願してしまう。

  「お願いだから、ちゃんと……舐めて」

  「……なんや、物足りないんか?」

  わしの心を見透かしたように、うっすら笑う熊獣人。

  口元は、わしの蜜と唾液で、グチョグチョに濡れていた。

  「かずは欲しがりさんやなぁ。こんな淫乱な体になって。昔はこんなんやなかったでぇ。乳首かてこんなに色づいてしもうたし」

  「あっ」

  ぴん、と指先で弾かれると、それだけで声が漏れてしまう。

  「だって……ゆうさんのせいで……」

  ……わしの体を変えてしまったのは、この熊おっさんなのに。

  イキたくて、涙がこぼれてしまう。

  「そうやな、俺のせいや。……せやから、責任取って一生面倒見たるからな」

  「じゃあ、あの……ちんこ、舐めて……ください」

  「それはあかん」

  恥ずかしさに堪えながら口にしたわしの言葉を、無慈悲にも拒否する熊獣人。

  「なんで……」

  「今日はこのまま布越しにイッたらええんや」

  「……」

  でも、イケないのに。

  「お願いします。イカせて、イカせてくださいぃ!」

  もどかしさに耐えかねて、わしはしなをつくってまで、ゆうさんに求めてしまう。

  「しょうのないやつやなぁ。そんなかわええ顔したかてダメや。……ちんこはあかんけど、はしたないケツやったら、直接触ったる」

  ビキニを搔き分けて、熊獣人はすっ、と指を潜り込ませた。

  ずぶりっ!

  「ひぃぁぁっ!」

  まるで遊び慣れたおもちゃのように、その指はわしの体を知り尽くしているのだ。

  ぬぷ、ぬぷと音を立てながら潜り込む指先を、わしの体が歓迎しているのがわかる。

  粘膜を震わせて、もっと先へといざなっているのだ。

  ゆうさんもそれを分かっているのだろう。

  わしが感じやすいように、荒々しく指を動かした。

  「イクぅっ!」

  どぷり。

  奥へ奥へと入っていく指先は、たやすく前立腺を刺激して、精を吐き出させる。

  念願の射精が、旦那の手にかかれば、こんなにも簡単になされてしまう。

  ……わしは、ゆうさんのものなんだ。

  そんな事実をわしは思い知らされてしまう。

  でも、それが何よりも嬉しかった。

  どぷどぷと溢れる雄汁が、赤いビキニを真っ白に染めていく。

  「布越しに吸うザーメンもたまらんなぁ」

  俺の漏らしたそれを、甘露甘露と、ゆうさんはうまそうにちゅうちゅう吸いとる。

  「俺の嫁さんは、ほんまにかわええなあ」

  指をずぶりと抜きながら、ニタニタと笑う、中年の雄臭い熊おっさん。

  それでも、わしはこの人にすがることしかできないのだ。

  「ゆうさん、お願い。もう、入れて……」

  ぽっかりと空いた穴が、寂しさを覚えてひくつくのがわかった。

  この穴を、ゆうさん自身で埋めて欲しいのだ。

  「そうやなぁ」

  今日はいつもにも増して意地悪な熊獣人は、にやにや笑いながら考えるふりをする。

  振り回されているのはわかるけど、ケツの疼きが、それを突っぱねることを許さない。

  「お願いしますぅ! ゆうさんの入れて……」

  その黒い体に必死にすがりつくと、おもむろに仁王立ちになった熊獣人は言った。

  「俺のちんこに上手にご奉仕できたら、入れたるわ」

  そこには先走りを涎のように垂らしながら、ぶっとい逸物がびくびくとしゃくりあげている。

  「……はい」

  わしはその竿に、嬉々として舌を這わせた。

  ……これが、わしを雌にしてくれるんだ。

  「しっかりと味と匂いを覚えるんやで。これがかずを気持ちよくしてくれる、旦那様の味なんやから」

  わしはこくこくと頷きながら、必死に流れてくる先走りに逆らうように舐めあげていく。

  そのまま亀頭にしゃぶりつくと、口の粘膜をぐちゅぐちゅと動かしながら、塩辛い液体を喉を鳴らして呑み込んだ。

  「ほれ、ちんぽだけやないで。金玉にもご奉仕せんかい」

  その言葉に、わしは素直に口を離すと、濃い雄の匂いのする鼠径部に顔を埋める。

  意図的に烏の行水ですましたのか、そこはまだ蒸れた濃い匂いが残っていた。

  香ばしいような、鼻にツンと来る重たい匂い。

  ……ゆうさんの匂いだ。

  わしを雌にする、雄の匂い。

  好きな人の匂いが、こんなにも心地いいなんて。

  変態のようにその匂いにうっとりすると、舌を伸ばして、睾丸を味わう。

  少しピリピリするような刺激が舌に感じられた。

  わしはそれを堪能した後、握りこぶしほどある睾丸を大きく口を開けて咥え込む。

  唇を使い、くちゅくちゅと皮を甘噛みしながら、中の玉を舌で転がす。

  少しでもゆうさんに気に入ってもらえるように。

  「おい」

  見上げると、ゆうさんが目を尖らせていた。

  「かず、こんなの初めてやないか。……どこで覚えたんや!」

  「え?」

  「やっぱり、あのくそ狼に教えてもろうたんか!」

  「ち、違うよ!」

  疑うような目に、わしは慌てて首を振る。

  「信用できひんな。かずの体に直接確かめんと」

  ニタニタと笑う熊親父は、本当はそんなことを思ってはいないのだろう。

  『おっさんにとっては、恥ずかしさや嫉妬もセックスのスパイスになることがあるんだ』。

  ホテルで上狼塚さんが言っていたっけ。

  ふとそんなことを思い出していると、ゆうさんの顔色が変わる。

  「今、別の奴の事、考えたやろ」

  「え? ち、違……」

  ……す、鋭い。

  「違わへん! 嫁のことは俺が一番わかるんや! ……こりゃイキ狂うまでお仕置きせんといかんなぁ」

  そう言うと、厳つい熊獣人は、わしのビキニを引きちぎる。

  「ああ!」

  びりびりと音を立てて、ただの細い布切れに変わってしまう。

  せっかくもらったビキニが……。

  わしの悲しそうな眼が気に入らなかったのか。

  ゆうさんは口調を荒くする。

  「なんや! あいつにもらったビキニがそんなに惜しいんか! あいつのがそんなにええんか! そんなもん、なんぼでも買おたる! かずは俺のもんなんやからな!」

  嫉妬と興奮で、今にも発射せんばかりに膨れ上がった亀頭。

  ゆうさんはそれを、うつ伏せに押さえつけたわしの肉壺に突き立てた。

  ずこんっ!

  的確に前立腺をえぐる、極太の熊マラ。

  「ああぁぁっぁぁぁああぁ!」

  その一撃だけで、わしはどぷり、と精を漏らす。

  「ああ? こんなすぐにイキやがって。……どうや、あいつと俺とどっちがよかったんや?」

  わしのちんこから出たザーメンを指先で拭うと、それを確認するように口に運んで、熊獣人は言う。

  「違う、そんなこと……」

  「嘘ついたらあかん。こんなはしたない雌穴が、ホテルに連れ込まれて我慢できるわけないやろ。ちゃんと言うてみぃ。正直に言うたら許したる。どんな体位でやられて、何回イカされたんや!」

  「わ、わしはゆうさんだけしか……」

  気持ちよさに息絶え絶えになりながら、わしは必死で否定する。

  そんなわしの事が信じられないのか、額にしわを寄せたままの熊親父は、なおもわしを攻める。

  「ああ? こんな体位で乳首いじられながらイッたんか?」

  あぐらをかいたゆうさんの股座に後ろから抱え込まれ、ガツガツと激しく腰を突き上げられながら、わしは両方の乳首をぎゅっ、とつぶされる。

  頭が真っ白になるほどの衝撃が稲妻のように全身に突き刺さる。

  「い、イグうぅぅぅぅっ!」

  どくっ、どくっ……。

  ……息が、できない。

  脳が呼吸することを拒否しているのだ。

  それほどの快楽を、熊獣人の手管は与えてしまうのだ。

  「ほれ見てみぃ! こんなイキやすい体になってしもうて」

  ……違う、それはゆうさんだからなのに。

  「こんな発情したやらしい雌の体で、我慢できるわけないやないか! なんぼほどヤラれたんや!」

  「やってない。やってないからぁ……」

  「嘘つくな! ああ? 駅弁で、奥まで種付けされたんか? こんなふうに!」

  巨漢の熊獣人は、肉杭で固定したまま、わしの体をつかみ回転させる。

  そして正面になるように向けると、のそり、と立ち上がった。

  わしの体は重力に従い、これまでにない勢いで、ぐ、と押し付けられる。

  肉杭がそびえ勃つ、熊獣人の股間へ。

  「ひぃぃぃぃ!」

  ずりゅりゅりゅりゅ!

  その太い肉杭が俺の体重のせいで、今まで入ったことのないところまでめり込んでしまうのだ。

  「いやぁぁぁぁぁぁあぁっ!」

  まるで切っ先が喉まで届くように感じられて、息苦しくなったわしは、体をそり返した。

  わしは体全体で、ゆうさんの肉棒を呑み込んでいるようだった。

  熊獣人の逸物を包む、肉鞘なのだ。

  そんなわしの頬を一舐めすると、ゆさゆさと体を揺らす。

  「どうや、いくらあいつでも、こんなことはしてくれんかったやろう」

  「んんんんんっ!」

  ただ腰を振るのとは違う、いつもの数倍の衝撃が、脳の中心にまで快感をたたきつけるのだ。

  泣きわめく俺を抱きかかえたまま、熊獣人は、のそのそと部屋の中を歩き始めた。

  「やめてぇぇぇぇぇぇっ!」

  ずうん、ずうん、と内臓をえぐり取るような衝撃が、一歩歩くごとにわしの体に与えられる。

  「やぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁああああああ!」

  壊されてしまうようなその感覚は、ただただ気持ちよかった。

  もうわしのちんこは壊れてしまったのか、ただただ白濁液を垂れ流し続ける。

  どろどろと流れる出るザーメンが、やがて透明な液体に変わっても、こわれた蛇口のように止まることはなかった。

  それが、わしの体が雌に変わってしまった証明のように感じられた。

  わしは雌だ。

  ゆうさんの雌だ。

  ゆうさんの雄臭い匂いに包まれて、ただメスイキし続けることしかできない。

  抱きかかえられ、しがみつくことしかできないわしのケツを、熊親父は執拗に掘り続ける。

  がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん!

  「どうや、気持ちええやろう。こんなことかずにしてやれるのは、旦那の俺だけや」

  ただひたすらにわしの肉襞をえぐり続ける、厳つい熊獣人。

  「よその男に色目使う暇があったら、俺の子を孕むことだけ考えとったらええんや!」

  がちゅん、がちゅん、がつ、がつ、がつ、がつ、がつ、ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。

  壊れそうな頭の中で、幸福感だけが俺を一杯に包み込む。

  ……ああ。わしはゆうさんの雌なんだ。

  「俺の雄汁で、かずのこぶくろいっぱいにしたる!」

  「ああ、ゆうさん! 孕ませて、孕ませてぇっ!」

  わしは我を忘れて、思わず大声で叫んでしまう。

  「よし、孕んでしまぇぇぇぇぇ!」

  その巨大な砲身が破裂したように脈動する。

  びじゅりっ、びじゅりっ、びりゅるるるるるっ!

  今まで感じたことのないほどの大量の子種が、わしを孕ませようと、肉襞をさかのぼる。

  あるはずのない子宮を探して。

  吐き出され続ける雄種で、俺の腹は目に見えて膨らんでいく。

  ……ああ。

  まるで孕まされたように。

  やがて、じゅぷり、と肉杭を引き抜くと、ゆうさんはわしを布団に下ろし、強く抱きしめた。

  「絶対離さへんからなあ」

  わしも汗で濡れたその体を抱きしめながら、ケツたぶに力を入れる。

  出してもらえたゆうさんの子種が、決して流れ落ちないように。

  2

  「で。結局、あいつと何の話をしたんや。ホテルで、しかも二人きりで」

  わしを腕枕したまま、すねたような顔でゆうさんは言う。

  「何、まだ疑ってるの?」

  ピロートークにしちゃ、色気がない。

  「そうやないけど、一応聞いときたいやないか。かずの旦那としては」

  熊獣人の執着心は強いとは言うけど、これほどだったとは。

  でも、その気持ちが嬉しかったりする。

  「大したことじゃないよ。卒業したらプロレスラーにならないか、とか。父さんのこと教えてもらったりとか。あとはゆうさんの話かな」

  「俺の?」

  「……いっぱいかわいがってもらってるのかって」

  自分で言うのは、なんか恥ずかしい。

  「なんて答えたんや」

  「勃たなくても、毎晩、泣かせてもらってるって……」

  「勃たなくてもは、余計や!」

  ゆうさんは怒ったように言う。

  「ごめん……」

  「まあ、そのおかげでEDも治ったみたいなもんやからな。そこはあいつに感謝しなあかんのやけどな」

  素直じゃないなぁ。

  「あいつあいつって……。悪い奴みたいに言うけどさあ。ゆうさん、こっそり上狼塚さんとラインの交換してたんでしょ」

  帰りにごそごそしているのはちゃんと見ていたのだ。

  「そりゃあ、まあ。あいつとは友達になれそうやったから……」

  ゆうさんはバツが悪そうに言う。

  「せやけど、わざわざホテルなんかやなくても、よかったやないか」

  「でも、ベッドの上じゃないと駄目なことがあったとかって。どうしても教えておきたかったみたいで」

  「な、なんやと!」

  熊獣人は俺の言葉に目を剥く。

  「な、何を教えてもらったんや! セックスのやり方かぁ!」

  「……ドロップキック」

  「はぁ?」

  「ドロップキック。いや、プロレスの醍醐味を知ってほしいからって」

  『いつか使うことがあるかもしれないからね』と、上狼塚さんは冗談めかして言っていた。

  「……」

  「やってみると、結構難しいんだね、あれ。タイミングもあるし」

  助走をつけて、飛び上がって、両足の裏で狼獣人の胸板目がけて突っ込むのだ。

  いくらかまえてくれているとはいえ、なかなか思うようにはいかなかった。

  「上狼塚を蹴り飛ばしたんか?」

  「うん。ベッドの上にぶっ飛んでた」

  「よしよし、よくやった!」

  にやにやしながらゆうさんがわしの頭を撫でてくる。

  「なかなか筋がいいから、ぜひゆうさんを捨ててうちに来いって」

  「それはあかん!」

  [newpage]

  3

  ED騒動も終わり、日常が戻ってくる。

  ご両親に挨拶に行かないとな、とゆうさんは言ってくれるものの、そのタイミングがなかなかつかめないまま、日々は過ぎていった。

  「ただいま」

  いつもより疲れた顔をしてゆうさんが帰ってくる。

  どさり、と黒い鞄を置くと、大きく息をついた。

  「どうだった?」

  「あかんなぁ」

  水曜日の午後は、ゆうさんはいつも往診にでかけている。

  自分の足で、鍼灸院まで出向いてこれない患者さんを中心に回っているのだが。

  「猿坂さん、だいぶ悪いの?」

  「かなり後遺症が出とるからなぁ。まあリハビリ継続出来たら、少しは機能が戻ってくるかもしれんけど……。もう生活期に入っとるからなぁ」

  鍼灸院の常連である、猿坂さんが救急車で運ばれたと聞かされたのが、7か月前の事。

  奥さん曰く、脳梗塞だったそうだ。

  お酒も好きだしたばこも大量に吸うし、いい加減控えんと怖いでぇ、とゆうさんが脅していた矢先のことだった。

  自宅での発症だったおかげで、奥さんの通報もあり一命はとりとめたものの、左半身麻痺という後遺症は残ってしまったらしい。

  病院でリハビリはしたものの完全に元に戻ることはなく、今も車椅子生活だと言う。

  そんな状態で、少しでも回復に繋がればと、奥さんに請われて往診を始めたのだ。

  ゆうさんはため息をつく。

  「こればっかりは本人の頑張り次第やからなぁ。元に戻るのはほぼほぼ難しいし、リハビリかて辛いからなぁ」

  あいつに続けられるかどうか、とぽつりと言うゆうさん。

  患者というよりも友達という感覚だったゆうさんにとっては、つらいはずだ。

  わしも元気だった頃の猿坂さんの姿を知っているだけに、考えてしまう。

  「……こんな仕事してたらよく思うんや。体を本気で治したいなんて思う人間は、きっと一握りしかおらんのやろうなぁって」

  ぽつりとつぶやく熊獣人。

  「そんなことないんじゃない? みんな悪いところが治ればいいと思っているはずだよ」

  わしが言うと、ゆうさんは力なく首を振った。

  「皆が思ってるのは、何の努力もなしに自然に治ればええなあ、ということなんや。ある程度悪くなったものを本気で治そうと思ったら、それなりに努力が必要でな」

  ゆうさんは言う。

  「治療に通うこともそうやが、きちんとした服薬、生活習慣の改善、もちろん酒や煙草、食事の制限もある。つらいリハビリだってせなあかん。それをちゃんとこなせる人間はごく僅かやし、目に見える症状がおさまった後も、それを続けることが出来る人間なんてもっと少ない」

  「……」

  今まで聞いたことのないゆうさんの泣き言を、わしは黙って聞く。

  「一生懸命治療して、今後のために生活指導しても、結局変わらずに同じ症状で治療に来る患者を見ると、たまにものすごく不毛なことをやってる気がするんや。……まあ、治療に来てもらわんと、俺も生活に困るんやけどな」

  疲れた顔の熊獣人は、茶化すように笑う。

  「ごめんな、こんなくだらん愚痴なんか言うて」

  「ううん」

  わしは首を振ることしかできない。

  こんなことが言いたくなるほど、猿坂さんのことがショックだったのだろう。

  「諦めたら試合終了っていうやろ。人生も結局、そうなんや」

  「……」

  ゆうさんは続ける。

  「でも、人間なんて、順応するっちゅうか、うまく諦められるようにできとるからなぁ。痛いから、あかん。辛いから、やってられへん。努力したら多少なりとも改善するのがわかっとっても、辛い思いするぐらいなら、今のままでええってなってしまう」

  「そうなんだ」

  「特に男はあかんたれやさかい。諦めてしまうんや。ほんま打たれ弱い。女性は結構頑張ってくれるんやけどな」

  「……」

  ……犬司さんはどうだったんだろう。

  わしはふとそんなことを思う。

  癌に侵されて、自分が動けなくなって。

  それでも、生き抜こうと思ったのだろうか。

  それとも、すべてを諦めてしまったのだろうか。

  ゆうさんに聞けば、わかるかもしれない。

  でも、わしにはそれを聞くことはできなかった。

  そのままだと気まずいと思ったのだろう。

  白衣を脱ぎながら、ゆうさんは気分を変えるように明るい口調で言う。

  「そうや。来月、3連休あるやろ」

  「……うん」

  「あの辺で、かずの実家に行こうと思うんやけど、どうやろ」

  「……ねえ、ゆうさん」

  「なんや」

  「本当に。……本当に、このままうちの両親に挨拶に行くの?」

  わしの言葉に、ゆうさんは服を脱ぐ手を止める。

  「なんでや」

  「だって……」

  わしの言葉を勘違いしたのか、ゆうさんの顔が曇る。

  「……やっぱり、俺なんかと挨拶に行くのは嫌か」

  それは自信を無くしたような、小さな声だった。

  「え?」

  「そりゃ、俺は男やし、歳は離れているし。……俺なんかが相手やなんて親御さんに言うの、恥ずかしいよなぁ」

  「そうじゃなくて!」

  わしは強い口調で、ゆうさんを止める。

  「ゆうさんが恥ずかしいわけないだろ。わしの……わしの一番大事な人なのに……」

  「じゃあ、なんで」

  「犬司さんの事だよ。先に、報告しとくべきなんじゃないかと思って……」

  「……」

  ゆうさんは思いもよらなかった、という顔をしている。

  「このままなし崩しだと、犬司さんに申し訳なくて……」

  ずっと心の片隅で思っていたのだ。

  泥棒猫のように、勝手にゆうさんを奪ってしまって。

  今さらゆうさんを手放したいとは思えないけど、一度、きちんと謝っておきたかったのだ。

  「……」

  「せめて、実家に行く前に、犬司さんの墓前でちゃんとご挨拶したいんだ。それがわしのけじめだと思うから」

  「そうか」

  わしの言葉に、熊獣人は笑ってくれる。

  「おおきにな。そこまで考えてくれてたんか。……そうやな。じゃあ、三連休の初日に、墓参り行くか。それから、ご両親にご挨拶や」

  「うん!」

  4

  「お彼岸以来やなぁ」

  3連休初日。

  まだ比較的新しい墓石に線香を供えながら、ゆうさんはぽつりと呟く。

  犬司さんの墓は、鍼灸院とうちの実家との中間地点にある小さな町に建てられていた。

  ゆうさんの実家のある町らしい。

  とはいっても、そちらは皆亡くなっていて、もう誰も残っていない、と以前聞いたことがある。

  「そうなんだ。……お参りしたの、知らなかった」

  確かにその時期、ゆうさんは家を空けていた記憶があるが。

  わしがそう言うと、目の前の熊獣人はばつの悪そうな顔をする。

  「……そんなの気にしなくてもいいのに」

  「いや、でもなぁ」

  「ゆうさんがわしを大事にしてくれるのと、犬司さんを大事に想ってる気持ちは別だって、ちゃんとわかってるから」

  「おおきに」

  わしはゆうさんに微笑むと、犬司さんの墓に手を合わせる。

  犬司さんの代わりにゆうさんを守ります、なんておこがましいことは言えない。

  ただ、ゆうさんのそばにいることを許してください、とだけ心に想う。

  目を開けると、手を合わせるわしを優しい目で見るゆうさんの姿があった。

  「そろそろ行こか」

  「うん」

  わしが頷いて柄杓と手桶を持とうとしたその時。

  「あっ」

  ゆうさんが小さく叫ぶ。

  その目線の先にあるのは、どこかで見覚えのあるような老齢の犬獣人だった。

  「ちょいちょい花が供えられているなぁと思っていたが、やはり君だったのか」

  老齢の犬獣人、犬司さんのお父さんは、ま、一杯、と銚子を傾ける。

  あ、ありがとうございますと、しゃちほこばった熊獣人は、震える手でそれを受けた。

  「かず君だったね。君もどうだい?」

  「ありがとうございます……」

  その顔は写真で見た犬司さんの顔に、少しだけ似ていた。犬司さんよりもずっと優しい顔をしていたが。

  わしたちはなぜか、あの後犬司さんのご実家にお邪魔していた。

  立ち話もなんだし、うちで夕食でも食いながら話を聞かせてくれないか? なんだ、宿もとっていないのか。それなら、うちに泊まればいい。私1人だから気兼ねすることはない、と。

  2人の関係をなんとなく察しているはずなのに、親父さんはそのことについて何も言わなかった。

  それが妙に不安な気持ちにさせる。

  特にゆうさんは、心臓バクバクものだろう。まさか前の嫁のお父さんに、今嫁を連れているところを見られたのだから。

  節操ないと罵られても仕方がない。

  「ずっとお礼を言いたいと思っていたんだ。君は憔悴して犬司の葬式にも出られなかったからね」

  「……いえ、そんな」

  「……癌で闘病生活を送っていた時も、誰よりも息子のそばにいて勇気づけてくれた。亡くなったときは、父親の私よりも悲しんでくれた。そして、息子が死んだ後も、こうやって花を供えに来てくれる。私はゆう君に本当に感謝しているんだ」

  その言葉に堪えられなくなったのか、ゆうさんはちゃぶ台から数歩下がると、畳に頭をこすりつける。

  「す、すんません! 犬司がいなくなって日が浅いというのに、俺は別の……」

  「いいんだよ」

  親父さんはゆうさんの言葉を遮る。

  「そんなことを責めようと思って、うちに呼んだわけじゃないんだ。本当に、本当に感謝の気持ちを伝えたかっただけなんだ」

  親父さんは言う。

  「短い人生だったけど、君のおかげで犬司は幸せな日々を送れたんだ。本当に感謝している。私はそんな君にも幸せになってほしいんだ。犬司のことは忘れては欲しくない。でも、それに囚われすぎて、自分自身の幸せを逃してほしくはないんだ」

  「……」

  親父さんはわしを見る。

  「わざわざ一緒に犬司の墓に参ってくれるところを見れば、かず君がまっとうな心根をしているのはわかるよ。そんな子と付き合って幸せなら、私は嬉しいんだ」

  親父さんはわしに笑いかけた。

  「ゆう君が、君と付き合ったのはわかる気がする。その表情を見ると、種族は違うのに息子が帰ってきたのかと思ってしまった」

  「……」

  親父さんはもう一度ゆうさんに向き直る。

  「ゆう君。このタイミングで私と君とが出会えたのは、犬司がもういいんだよ、と言っているからだと思う。もう自分に囚われなくていいんだって、私と君に伝えたかったからだって」

  「……」

  ゆうさんはただ首を左右に振る。

  そこにどんな気持ちが込められているか、わしにはわからなかった。

  「あの時、犬司を亡くしたせいで君が荒れているという話は聞いていたけど、私はあれの父親として何も言ってやれなかった。……私も憔悴していたとはいえ、すまない」

  「いえ、そんなことは……」

  2人は、その後何も言わず、酒を酌み交わすことしかできなかった。

  わしはそんな2人をじっと見つめていた。

  「ここに来てよかったのかなぁ」

  静かなまま酒盛りは終わり、客間に通されたわしとゆうさん。

  2つ並べて敷いてくれた布団の上で、わしはぽつんと呟いた。

  「どうなんやろ」

  隣で、ゆうさんが応えてくれる。

  「ああは言っていたけど、親父さんもきっと複雑なんやろうな、とは思う」

  それはそうだろう。

  「それでも、俺とこうして会ったことで、一つの区切りはつけることはできたんやないかな。そういう区切りをつけながら前に進んでいくしか、人間は出来んもんやからなぁ」

  そう言うと、ゆうさんは腕を伸ばしてわしの頭を撫でてくれる。

  「今日は巻き込んでごめんな」

  「ううん。わしもちゃんとご挨拶できて、よかった」

  「そうか」

  ゆうさんは穏やかに笑う。

  「明日も大変やからな。ちゃんと寝るんやで」

  「ゆうさんもね」

  「ああ。おやすみ」

  「おやすみなさい」

  5

  その晩、わしは夢を見た。

  わしの体は虎ではなく、犬獣人だった。

  ベッドに横たわったこの体は、たくさんの管に繋がれていた。

  がりがりに痩せて、腕なんて枯れ木のような細さ。

  投薬で体の感覚はだいぶ麻痺しているはずだった。それでも、体中に痛みと熱を感じる。

  体力が尽きようとしているのが、自分でもわかる。

  それでも、死にたくなかった。

  死んだほうが楽なのはわかっていたが、ゆうさんと一緒にいたい、と心と体が訴えていた。

  ゆうさんが泣きながらこの体にしがみついている。

  看病しながら、次第にボロボロになっていくゆうさん。

  わしはそれを申し訳なく思う。

  そして、不意に体が楽になる。

  ……ああ、これで終わりなんだ。

  わしの頭をよぎったのは、安堵ではなく、寂しさだった。

  わしが事切れたと知った時、恥も外聞もなく、子供のように泣き叫ぶゆうさん。

  『犬司、頼む! 俺を1人にせんといてくれ! 頼むから! 頼むから!』

  わしは天に召されながら、その姿を見つめることしかできなかった。

  『ありがとう。君がいてくれてよかった』

  ……え?

  耳元で囁かれる、聞いたことのない声。

  『あいつが立ち直ることができたのは、君のおかげだ』

  「……」

  『俺はもう見守ることしかできないから。願わくば君が、あいつのそばにいてくれたら……』

  目が覚めると、ゆうさんが布団に座り込んで、わしの顔を眺めていた。

  「どうしたの?」

  「なんか眺めとるとな、かずの顔が犬司と重なって見えたような気がしたんや」

  ゆうさんはふふ、と笑う。

  「犬司の実家に来とるから、ちょっと弱気になっとるのかもしれんなぁ。今日はこれから、大事な挨拶に行かなあかんというのに」

  そんなことを言うゆうさんに、わしは夢の話をすることが出来なかった。

  6

  「おお、先生。よく来てくれた」

  「……どうも」

  ゆうさんは緊張しながら頭を下げる。

  犬司さんのご実家を出て、わしの故郷に向かったものの、その途中で学校に寄ったり、バーに声かけたりで、結局家に着いたのは、夕方遅くになっていた。

  きっと、すぐに足を向けることが出来るほど、ゆうさんも図太くはなれなかったのだろう。

  わしだって実家に帰るだけなのに、がちがちに緊張していた。

  供された夕食を4人で食った後、ゆうさんは覚悟を決めたのか、姿勢を正す。

  「お2人にお話したいことがあります」

  正座をしたまま、座卓の向こうの両親の目を見る。

  「なんです?」

  「何かしら?」

  「も、申し訳ありません!」

  ゆうさんは2人を前に土下座をする。

  「ちょ、ちょっと」

  両親は慌てたように顔を見合わせる。

  顔をあげたゆうさんは2人の目を見て、口を開いた。

  「実は……私は今、かず君とお付き合いさせていただいてます」

  「……え」

  「……」

  母さんはこの言葉に、顔を強張らせる。

  父さんの表情は、能面のようだった。

  「お付き合いさせていただいて、もう1年以上になります」

  「……」

  「もちろん、中途半端な気持ちではありません。男同士ですし、歳は離れておりますが、できれば……できれば同性婚をして、ずっと添い遂げたいと思っとります。……どうか、どうかかず君を私の嫁に、ください!」

  畳に額をこすりつけて、許しを請うゆうさん。

  「よ、よめ……」

  地の底から響くような声が部屋に響きわたる。

  それは、父さんの声だった。

  生まれてこの方聞いたことのないほどの、怒りのこもった父さんの唸り声。

  「私の息子を、嫁、だと……」

  ゆうさんの言葉を聞いて、父さんの顔が激情でわなないているのだ。

  「何を馬鹿なことを! ……嫁など……許せるわけないだろうが!」

  拒絶されるとは思っていた。でも、これほどまでに父さんが怒るとは思っていなかった。

  ……そんなにも、父さんはゲイを嫌悪しているのだろうか。

  その事実に、わしは泣きそうになる。

  それでも……。

  今しなければいけないことは、泣くことじゃない。

  ゆうさんとのことを認めてもらう。

  それだけだった。

  立ちあがった父さんは、ゆうさんの胸倉を掴み吊るし上げる。

  それでも、ゆうさんは抵抗せず、されるがままだった。

  「……必ず、必ず幸せにしてみせます。だから、かず君を嫁に……」

  ひたすらに懇願する。

  「お前が、お前が和幸を嫁にするというのか! ……虎島家の男を何と思っている! 嫁になどやれるか!」

  怒りに我を忘れ、拳を振り上げる虎獣人。

  「父さん、やめて!」

  わしは飛び出し、ゆうさんとの間に割り込む。現役プロレスラーの振り上げた腕を掴み、必死で抑え込んだ。

  「なんでかばう!」

  鬼のような形相でわしを睨みつける父さん。

  「こいつはお前をたぶ……」

  「違う、そうじゃない! 別に、ゆうさんにたぶらかされたりしたわけじゃないんだ!」

  わしは必死に叫ぶ。

  「……」

  「わしが、わしが最初にゆうさんを好きになったんだ!」

  「……」

  「この人はいつだってわしの事を考えてくれる。わしもこの人のために何かしてあげたい。1年以上ずっと一緒に過ごしてきて、ずっとそう思ってる。一緒に居られて、本当に幸せなんだ! ずっと2人で歩んでいきたいんだ!」

  「……」

  わしは両親に必死に語り続ける。

  「そりゃ、男同士が好きになることが普通じゃないってこともわかってる。……でも、でもわしは、昔から男が好きだったんだ!」

  「……そう、だったの」

  母さんがぽつりと呟く。

  「うん。なかなか言い出せなかったけど……」

  「ごめんね、気づいてあげられなくて」

  「ううん。だから、わしには恋愛なんて縁のないものだと思ってた。……でも、ゆうさんと出会って、本当に人を好きになるってことがわかったんだ。わしはゆうさんと一緒になりたいんだ!」

  「そ、そんなこと、許さん! 嫁だなんて……」

  父さんの怒りは収まらない。

  ……こんなにも拒絶されるとは。

  それでも、わしは納得してもらいたかった。

  わしは父さんに問い正す。

  「父さん。なんでゆうさんじゃ駄目なんだ」

  「……」

  「男同士だからか? 年が離れてるからダメなのか? ……ゆうさんは、誰よりもわしを大事にしてくれるのに!」

  気持ちの高ぶった、わしの語調は荒くなる。

  「どうして一緒になっちゃいけないんだよ! どうしてゆうさんじゃいけないんだよ!」

  「そうじゃない」

  父さんは言う。

  ……そうじゃない?

  「じゃあ、何が、何が駄目なんだよ!」

  「きまってるだろうが!」

  父さんはわしを怒鳴りつける。

  「……こいつはなぁ、お前を、嫁にくれと言ったんだ!」

  父さんは叫ぶ。

  「それは、お前が雌にされているということじゃないかっ!」

  「……」

  「……」

  「……」

  はい?

  「虎島家の男が嫁だと! ふざけるな! 入れるならともかく、入れられてどうするんだ! 雄は入れてなんぼだろうがっ!」

  「……」

  「……」

  「……えっと」

  わしは口を開く。

  「父さん、それだけ? じゃあ、わしとゆうさんが付き合うのは?」

  「そんなのは好きにすればいい。私の知ったこっちゃない。同性婚だってなんだってかまわない。俺が許せんのは、お前が雌になっているということだ!」

  「……。じゃ、じゃあ、俺が雄でゆうさんが雌だったら?」

  「……何の問題もないじゃないか」

  「……」

  「……」

  「……ふう」

  ため息をついたのは、ずっと黙っていた母さんだった。

  その目は、怒りに燃えていた。

  「まず、熊瀬先生。わざわざご挨拶に来ていただいてありがとうございます」

  「……は、はい」

  身を縮める熊獣人に、母さんは続ける。

  「年齢的なこと、男同士ということ、それなりに思うことがないわけじゃありませんが……ちゃんとけじめをつけて挨拶をしてくれる誠実さはわかりました」

  「……」

  「諸手を挙げて賛成、とはいいませんが、否定するつもりもありません。しばらく様子を見させてください」

  「あ、ありがとうございます!」

  ゆうさんは泣きそうになりながら頭を下げる。

  「母さん! 私は許したつもりは……」

  「だまらっしゃい!」

  父さんの言葉を母さんは強い口調で遮る。

  「あなたにそんなことを言う資格があるとでも思うの!」

  その目の怒りは、わしたちに向けられたものではなかった。父さんに向けられていたのだ。

  「あなたがあちこちで遊びまわっているのはわかっているのよ。女も男も相手にしていることも」

  ……ああ。だから母さん、そんなに抵抗なかったのか。

  そりゃ、わしは父さんの子供だからなぁ。

  「いや、ち、違うんだ。あれはすべて遊びで、本気じゃない……」

  怒りの矛先が自分に向いていることに気づいた父さんが、慌てたように言い訳する。

  「よく私の前で、そんなこと言えるわね!」

  「ご、ごめんなさい……」

  借りてきた猫のように、しゅん、となる厳つい虎獣人。

  「そういうのは芸の肥やしになるっていうし、あなたの精力が強いのも知ってるから黙ってたけど、そんなあなたが2人を否定する権利はないでしょうが!」

  いつの間にか、夫婦喧嘩にすり替わってしまっている。

  ゆうさんは隣で、ぽかん、と口を開けて眺めていた。

  「でもなあ、母さん。和幸が嫁だなんて……。嫁だぞ、嫁。虎島家の雄が、アンアン啼かされるなんて……」

  「いい加減にしなさい!」

  [newpage]

  7

  ……こんなことになるとは。

  結局、そのまま挨拶は有耶無耶になり、わしとゆうさんは実家に泊まることになった。

  わしはガキの頃から寝ていた部屋に。

  ゆうさんは離れで泊まることになった。

  ……さすがにいきなり一緒の部屋というわけにはいかないか。

  夜中に目を覚ましたわしは、ぼんやりと天井を眺める。

  よかったのか、悪かったのか。

  ともかく、ゆうさんはほっとしているだろう。

  最悪、うちを追い出されることだって考えられたのだから。

  「ふう」

  わしはため息をつく。

  「これからどうしようかな」

  父さんが、変なところであんな頑固だとは思わなかった。

  自分は男と遊んでいるくせに。

  いや、あれはノンケだからこその発想なのか。

  ……ゆうさん、どうしてるかな?

  父さんに拒否されて、ショックを受けてないかな。

  それは、虫の知らせ、というやつだったのだろう。

  わしは不意に思い立ち、部屋を後にする。

  ……ちょっとだけ。

  ゆうさんのことが気になったのだ。

  少し覗いてみよう。

  ゆうさんの顔を見たら、安心して寝られるはずだから。

  それなりに広い庭の隅に、うちの離れは建っている。

  わしは縁側でサンダルを履くと、庭を横切って離れに向かう。

  ……あ、電気ついてる。

  まだゆうさん起きてるんだ。

  「少し話が出来るかも」

  わしは嬉しくなって、サンダルをパタパタ鳴らしながら玄関に近づくと……。

  「おとなしくするんだ」

  「あ、あきません!」

  小さな声で言い争うような声が聞こえる。

  「何?」

  盛大に嫌な予感がしたわしは、駆け寄ると玄関から中をそっと覗き込む。

  そこには、強面虎獣人に押さえつけられ、乳首を摘ままれて喘ぐ熊獣人の姿があった。

  ……父さん、何をしてるんだ。

  「あぁ、親父さん。……お願いですからもう……」

  引きはがされた浴衣が、無残にも投げ捨てられていた。

  「ほうれ、気持ちいいだろう。こうして突き出た乳首を優しく撫でてやると……」

  「んんっ!」

  ゆうさんは体をのけ反らせる。その巨躯が、乳首に触れられるだけで、面白いように震えるのだ。

  「こんなに感じる身体をして、君が雄なわけはないだろう」

  「……っ」

  わしは息を飲む。

  ……父さんは、ゆうさんを雌にしようとしているんだ。

  おそらくは、わしのために。

  いや、虎島家の名誉のために。

  『お前が、お前が和幸を女にしたというのか! ……虎島家の男を何と思っている! 嫁になどやれるか!』。

  きっと、ゆうさんが異常だと評したその愛撫で、完全に雌にしてしまうつもりなのだ。

  ゆうさんも、自分の義理の父親になるかもしれない相手に、全力で抵抗することはできない。まして相手は敵を組み伏せることに特化したプロレスラーだ。

  父さんにしてみれば、いくらガタイがデカかろうと、赤子の手をひねる様なものなのだろう。

  「ち、違う! 俺はかずの……」

  「そう、雌になればいい」

  「ひぃっ!」

  父さんの指先が乳首の上で踊るだけで、熊獣人は抗う力を失ってしまう。

  「ほうら、先走りが出ているぞ。恥ずかしくないのかね」

  「そんな……」

  とろけた表情のゆうさんを、虎獣人は満足そうに見る。

  「そら、こりこりしてやろうな」

  「あ、あかんあかんんん!」

  背後から抱きしめ、両手の指先が2つの乳首を嬲るように動いた。

  「んんんんんんんっ!」

  その刺激に、逸物からは白みを帯びた先走りが、とろとろとこぼれる。

  「なんだ。我慢することすら出来ないようじゃないか。このまま乳首だけでイッてしまうか」

  「はぁ、はぁ」

  もはや、応える気力すらないのだろう。

  しかし、父さんは簡単にイカせるつもりはないようだった。

  虎獣人は弄ぶように股間に手を伸ばし、陰嚢をやわやわと揉み込む。

  「ああ……」

  先走りが垂れ落ちて濡れた陰嚢は、父さんの指の動きに迎合し、くにゅくにゅと容易く形を変えていく。

  その動きがまた、快感を呼び起こすのだ。

  「……」

  転がされる感触に、ゆうさんは熱い吐息を漏らした。

  「さわられるのは気持ちいいだろう。身を任せるのはたまらないだろう。……それは雌の証拠なんだ」

  父さんの教え諭すような口調に、ゆうさんは我に返る。

  「ち、違う……」

  「違わないなぁ」

  必死で首を振る熊獣人の耳元で、父さんは甘く囁く。

  「ほら、君の雌穴も、はしたなく濡れているよ」

  睾丸を触っていた指先を、ありの門渡りを伝いながら、ゆっくりと下げていく。

  ぬちゃ。

  濡れた音が聞こえた瞬間、ゆうさんが体を強張らせる。

  指が穴に達したのだ。

  「ほら、音が聞こえただろう。ここもこんなにも濡れているんだ。欲しがっているんだよ。雄の肉棒を。強い雄の種を」

  ぬちゃぬちゃと淫猥な音が部屋に響く。

  「そんな……」

  その事実に、ゆうさんは言葉を続けることが出来ない。

  「君の雌穴が、こんなにも簡単にほぐれていくじゃないか。ほら、この感触、気持ちいいんだろ? ぬちゃぬちゃと雌汁で濡れているじゃないか。雄だったらそんなことないだろう。こんな所を触られて、喘ぐはずがない」

  「……」

  「組み敷かれて、太い肉棒を入れられて、たっぷり孕まして欲しい。君の雌の体は、そう言っているんだ。その証拠に……」

  父さんは熊獣人の竿の根元をぎゅっと掴むと、力いっぱい乳首を捻り上げた。

  「イグぅぅぅぅっ!」

  ゆうさんは耐えきれず、逸物から涙を流した。

  「乳首だけで、こんなに簡単にイッてしまう」

  根元を押さえられているせいか、ザーメンはいつものような勢いはなく、だらだらと情けなく垂れるだけ。

  「しかも、なんだ? この情けない射精は。ほら、こんな勢いじゃ雌を孕ませることなんてできないだろう」

  蔑むように耳打ちする虎獣人。

  「君の体は雄じゃない。雌なんだ。和幸に入れようなんて考えは間違っている。君みたいな雌は、和幸や私のような雄に奉仕するために存在しているんだ」

  幼子のように、いやいやと首を振るゆうさんだが、それは傍から見て、陥落間近としか思えなかった。

  「次はメスイキを経験させてあげよう。雄の指で簡単にイケることに気づけば、自分が雌だってことを認識できるだろう?」

  「や、やめ……あぁぁ、イグぅぅぅぅっ!」

  初めて指を突っ込まれたはずなのに、目を見開いて体を硬直させる熊獣人。

  びくびくと、体が痙攣してる。

  「……な、んで」

  ケツだけで、こんなにもたやすく、メスイキさせられているのだ。

  ぶるぶると震える身体を見て、父さんは薄く笑った。

  「ほら、こんなにも締め付けてくるじゃないか。指なんかじゃ物足りないだろう? 私の太い肉棒だったら、もっともっと気持ちよくなれるんだぞ」

  「あ、ああ……」

  ……ゆうさん。

  ごくり。

  愛する人のピンチに、わしは唾を飲み込むことしかできない。

  このまま、ゆうさんがヤラれてしまったら。

  ……雌になれば、父さんも認めてくれるんだ。

  わしの中の悪魔が、そっと囁く。

  そうすれば、すべてが円満に解決するんじゃないのか。

  「このまま私の肉棒で、本当の雄というものを教えてやろう。大丈夫。朝まで掘ってやれば、2度と勃つことのない雌熊の完成だ。この無駄にデカい逸物だって、使い物にならなくなる。そうすれば和幸の嫁として我が家に迎え入れてやろう」

  勝ち誇ったように言う虎獣人。

  「なんなら和幸と2人同時に君をかわいがってやってもいいんだぞ。頭がおかしくなるぐらい、狂わせてやる」

  力なく崩れ落ちたその体を仰向けにすると、ニタニタと笑いながらその両足を抱える。

  「君が雄の資格を喪失する瞬間を堪能させてもらおうか。……大丈夫、怖くなんかない。ただ、雌になるだけなんだからな」

  ゆうさんはもう、抵抗する気力すらなかった。

  自らを襲う虎獣人に身を任せることしかできない。

  それでも、荒い息の中で、小さく呟いた。

  「俺は、俺はかずの旦那なんや……」

  「っ!」

  その言葉に、わしはガン、と頭を殴りつけられたようなショックを覚える。

  『俺はもう見守ることしかできないから、願わくば君が、あいつのそばにいてくれたら……』

  犬司さんに言われたじゃないか。

  ゆうさんを守れるのは、わしだけなんだ!

  『いつか使うことがあるかもしれないからね』。

  そんな狼獣人の言葉が、ふと脳裏をよぎる。

  ……使わせてもらいます。

  わしは玄関から部屋に向かって駆けだした。

  「うぉぉぉぉぉっ!」

  足を進めるたびに、体の中に野生の感覚が湧き上がる気がした。

  心の声が聞こえる。

  ……お前は獣なんだ!

  ……お前は虎になるんだ!

  助走をつけると、目標を確認する。その勢いのまま両膝を折り畳むようにジャンプして、鋭く突き出した両足の裏で、わしは虎獣人の胸板を蹴りつける。

  上狼塚さん仕込みの、ドロップキックで!

  どがんっ!

  「ぐぁぁぁぁっ!」

  突然の攻撃に何の防御姿勢も取ることのできなかった父さんは、ふっとばされて壁に叩きつけられた。

  さしものビッグライガーも、その衝撃に意識を失ってしまう。

  「うぉぉぉぉぉっ!」

  わしは勝利の雄たけびを上げる。

  「かず、助けに来てくれたんか!」

  ゆうさんは必死にわしの体に抱き着く。

  「ゆうさん……」

  「ありがとう、ありがとう……」

  涙を流しながら震える身体でわしにしがみつく。

  わしはその体を強く抱き返した。

  10分ばかりそうしていただろうか。

  「……でもこれ。どないしたらええんやろな」

  やがて落ち着きを見せた熊獣人は、未だ倒れたままの父さんを見つめ、困ったように言う。

  「……うん」

  わしも気絶した虎獣人に目をやった。

  目を覚ましたら、またゆうさんに襲い掛かるに違いない。

  頑固なこの人のことだ。

  決してあきらめないだろう。

  そうなったら、また同じことの繰り返しだ。

  きっとゆうさんが折れるまで。

  「そうやな」

  ゆうさんはしばし目をつぶっていたかと思うと、かっ、と見開いた。

  「こうなったら……覚悟を決めてヤルしかないか」

  「え?」

  ……やる?

  「殺るの?」

  「目には目を、ちゅう奴やな」

  一瞬、物騒なことを考えたわしにウィンクすると、ゆうさんは畳の上に落ちていた浴衣の紐で、父さんの両腕を後ろ手に縛り上げる。

  「さて、お仕置きやな」

  にやりと笑うその顔は、完全に雄を取り戻していた。

  8

  「おい、親父さん。起きろや」

  「ん、んん」

  わざと粗野な口調にした熊獣人は、ぺちぺちと頬を叩く。

  その感触で、虎獣人は目を覚ました。

  「くそ、何を……」

  後ろ手に縛られて、体を押さえつけられた状態に狼狽するが、もちろんゆうさんが逃がすはずはない。

  「私をどうするつもりだ」

  「決まっとるやろ。俺とかずの仲を認めさせるんや」

  正面に立った熊獣人は、腕組みをしたまま、父さんを見下ろした。

  「かずは俺の嫁やってな」

  「くそ!」

  歯噛みをする虎獣人。

  「そんなことは認めない! 虎島家の男は、すべからく雄であるべきなんだ! それを雌などと……」

  「そう言うと思ったわ」

  ゆうさんはせせら笑う。

  「君が和幸の雌になれば、すべて解決するんだ!」

  「いいや」

  裕さんは勿体ぶって首を振る。

  「もう一つええ方法があるやろ。……親父さんが雌になればええ」

  「な、なんだと!」

  「自分が雌になってしまえば、まさか息子に雌になるなとは言われへんやろ」

  ゆうさんのその目が笑ってないことに気づいた虎獣人が、真っ青な顔で拘束を外そうと身をよじる。

  「だ、だめだ、そんなこと……」

  「かず。ええで」

  その言葉に、自分が誰の腕に捕まっているのか気づいたのだろう。

  「和幸、やめるんだ!」

  虎獣人の言葉を無視して、わしはその巨体を抱え込んだまま、後ろから両手を伸ばす。

  狙うは、だれにも触れられたことのない、慎ましやかな2つの乳首。

  『俺にやるつもりで、やってみぃ』。

  そう言われていたわしは、ただ優しく、父親の突起を摘まむ。

  『自分の愛撫は、親父さんと一緒で、もう……ちょっとおかしいレベルなんや。そこを自覚せなあかん』。

  ゆうさんの言葉を信じて。

  「ああああっ!」

  今まで聞かせたことがないような淫らな喘ぎ声が、厳つい虎獣人の口から放たれる。

  「なんで……。和幸、お前……」

  自分の体が信じられないと、唖然としたままの顔を父さんは見せる。

  「父さん、ここが感じるんだね」

  わしは唾液を付けて濡らした指先で、もう一度ぽっちりを摘まむ。先ほどとは違うぬるついた感触に、うう、と声を漏らす。

  「そんなに気持ちいいんだ」

  わしは嬉しくなって耳元で囁く。

  「男なのに、恥ずかしいなぁ」

  「い、言うなぁ!」

  体から力が抜けてしまっているのか、抵抗することもできないようだ。

  「父さん、かわいいよ。女の子みたいだ」

  「お。雄に向かって、女の子、だと……」

  唾液を塗り込めるように、乳輪をやさしく撫でさする。

  気持ちいい、でも物足りないと、父さんの体が泣いているのが、わしにはわかった。

  「ここを強く摘まんでほしいんだろ」

  「ち、父親になんていうことを……」

  「大丈夫だよ、安心して。いっぱい気持ちよくしてあげるよ。……父さんは、雌になるんだから」

  「そ、そんなことは、させな……」

  わしを怒鳴りつけようとしたその瞬間、今までの優しい愛撫から、ねじ切るように乳首をひねり上げる。

  「いぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  父さんは叫びとともに体をのけぞらせる。

  一度も触れられたことのなかった逸物が、びゅくびゅくと雄汁を吐き出す。

  いや、これから誰も孕ますことのできない、雌汁に代わるのだ。

  「はしたなくイッちゃったね。いきなり乳首だけでイケるなんて、父さんには雌の才能があるみたいだ」

  「……もうイカせたんか。親父さん以上やないか……」

  ゆうさんは、ドン引きした顔でこちらを見ていた。

  父さんもあまりのショックで呆然とすることしかできない。

  「乳首がこんなに敏感なら、他はどうなのかな」

  「頼む、もう……やめてくれ」

  屈強な雄が泣き言をいうが、わしの手は止まらない。

  「大丈夫だよ、わしに身を任せて」

  体を撫でると、なぜかどこを感じるのかがわかる。

  耳、首筋。脇も感じるようだ。

  わしは虎獣人の耳を甘噛みすると、つぅ、と首筋に指先を走らせる。

  「ひゃうっ!」

  まるで子犬のような声をあげて、その厳つい体を震わせた。

  「ほら、父さんはも言っていただろ。触られるだけで気持ちいいのは、雌の証拠だって」

  違う違うと首を振るが、体は正直だ。

  「いいんだよ、気持ちよくなって」

  わしは耳の中に舌を潜り込ませながら、耳元で優しく許しを与える。

  「ああ……」

  くちゃくちゃと濡れた音が、直接鼓膜に響いているのだろう。

  それはまるで催眠術のように、父さんの心を侵していく。

  首筋から伸びた手が脇をくすぐり、また乳首へと帰っていく。

  流れるようなその動きに、もはや抵抗の意を示すことはできない。

  父さんは、わしの愛撫を黙って受け入れる。

  さわさわと触れるその感触をより感じ取りたいと、目を閉じてしまっていた。

  「いい……」

  そして、ついに虎獣人は呟いてしまう。

  父さんの心の防壁が、少しずつ崩れていくのがわかる。

  雌である自分を受け入れつつあるのだ。

  「そうだ。いっぱい感じて、いっぱい泣けばいいよ。父さんは雌なんだから」

  「わ、私は雄、なんだ……」

  それでも、雄であるというアイデンティティはその虎獣人にとって譲ることができないものなのだろう。

  持てる力を総動員して、父さんはわしの言葉に抵抗する。

  わしはそれを笑って受け流した。

  「そうかなぁ。こんなに雌の体をしてるのに?」

  わしは耳を唾液で濡らしながら、もう一度両手で乳首をコリコリと摘まみ上げる。

  「のぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉっぉ!」

  逸物がしゃくりあげながら、ぴゅっぴゅぴゅっぴゅと面白いように白濁液を飛ばし続ける。

  「こんな雄、いないよね。ほら、ほら、ほら、ほら」

  わしは笑いながら、乳首をこねくり回す。

  何度も、何度も。

  「あははははは」

  「ひぃぃぃぃぃっ!」

  漏れ続ける粘っこい液体が、完全に透明になるまで。

  「はあ、はあ。はあ、はあ」

  試合が終わった後でも、これほどまでに息を切らすことはないだろう。

  巨体のレスラーは、完全に放心していた。

  「ドSやないか……」

  ゆうさんが小さく呟く。

  「ね、わかるだろ。父さんは雄だっていうけど……」

  わしはそう言いながら正面に回り込むと、その体を軽く突いた。

  あっけなく仰向けに倒れる虎獣人の体。

  「ここは違うって言っているよ」

  子供の胴ほどはあるぶっとい太ももに、真ん中でいきり勃つ、使い込まれて飴色になった百戦錬磨の逸物。

  でも、用があるのはそこじゃなくて……。

  恥ずかし気に震える小さな蕾に、わしは指を触れた。

  「頼む、やめてくれぇ! これ以上やられたら、私は雄でなくなってしまう!」

  「……。父さん、かわいいよ」

  わしはたまらなくなって、その唇にキスをする。

  「む、息子と……」

  背徳感で逃れようとする頭を押さえつけると、わしはゆっくりと舌を差し込む。

  入ってしまえば、抵抗されることはなかった。

  乳飲み子が乳をねだるように、わしの舌を吸ってくる。

  わしは思う存分吸わせながら、小さな蕾をくすぐる。

  「ああ……」

  父さんは吐息を吐くが、さすがに初物は硬く、すんなり指が入らない。

  「かず」

  後ろから聞こえるゆうさんの声。

  「ケツをほぐすのは、俺がやったる。そのまま親父さんをかわいがったり」

  「うん」

  わしは父さんとキスをしながら、乳首を撫でまわす。

  ゆうさんは下半身に回り、べっとりと濡らした人差し指を、ケツの中に潜り込ませる。

  「うう」

  初めての異物感に呻く虎獣人。

  それを忘れさせるように、わしは乳首をかわいがる。

  父さんの目は、とろとろに蕩けていた。

  縋りつくように必死で舌先を絡めてくる。

  わしはそれを鷹揚に受け止める。

  「親父さん、あんたの雌穴、俺の指をずっぽりと咥えこんだで」

  ゆうさんは嬲るように言う。

  「しっかし、なかなかいい具合の肉壺やで。初めてのくせに、よく伸び縮みするやないか。ほれ、もう3本もわしの指を咥えこんでるで」

  「……」

  「もっと太いのを欲しいって泣いてるやないか。ほんま、雄の精を搾り取る、上質な雌穴や」

  「そんなことを……言うな! 私は立派な雄……」

  ゆうさんの嘲りに、父さんは正気を取り戻したように身をよじる。

  だが、わしはそんな厳つい虎獣人の乳首を、ピンと、弾いた。

  「うう……」

  とたんに体から力が抜けてしまう。

  「どうや? 息子に乳首いじられて喘ぐなんて、恥ずかしいのお。これが熊殺しのビッグライガーやなんてなぁ」

  「い、言わないでくれぇ!」

  父さんの目から、涙がポロリとこぼれた。

  心が、堕ちかけているのだ。

  「さあて、ぐっぽりと入れてやろうか」

  ゆうさんがその体を押さえ込む。

  父さんから見ても巨大であろう逸物が、びくびくとしゃくりあげていた。

  「息子の旦那のちんこで、雌にされる気持ちはどうや」

  「……」

  「そういえば、かずを雌にしたのも、俺のちんこやったな。親子2代で処女をもらえるなんて光栄やなぁ」

  怯えたような目で、その逸物を見上げる父さん。でもその瞳の奥には、媚びるような雌の色が存在するのを、わしは感じていた。

  「さあて、初めて雌になる猫ちゃんには優しく入れたるからな」

  ゆうさんは虎獣人の腹に飛び散った大量のザーメンを手に取ると、それを自らの逸物に塗りたくる。

  自身の先走りと合わせて、ずるずるになったそれを虎獣人の初穴に押し付ける。

  「わ、私は、雄なんだぁぁぁぁっ!」

  「違う、親父さんは、……雌や」

  ちゅるんっ。

  雄だとわめく初穴は、何の抵抗もなく逸物を吞み込んだ。

  「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  それだけで、肉壺に突っ込まれたそれだけで、そのはしたない雌の体は絶頂に達したのだ。

  すでに萎えてしまったちんこから、とろとろと透明な汁をこぼしてしまう。

  「かわええのぉ。よほど気持ちよかったんか。……初めてのくせに、もっと欲しい言うて、肉襞が、わしのちんこにくちゃくちゃしがみついてくるで」

  ゆうさんは笑う。

  「ちゃんと覚えとけよ。親父さんの体を雌にしたのは、この俺の肉棒なんやで。……まあ、雌は初めての雄のことは一生忘れん言うからな」

  「……」

  「あとはこの雌穴があふれるぐらいに中出しして、粘膜から吸収できるようにたっぷり雄汁こすりつけたる。ちゃんと自分が雌やって自覚できるようにな」

  その言葉に、自分の体が変えられてしまうことに恐怖を覚えたのか。

  虎獣人は首を振る。

  「や、やめ……」

  「やめられるかい!」

  興奮したように、熊獣人はその巨躯を押さえつけたまま、激しく腰を振り出してしまう。

  ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン!

  その太長い逸物を切っ先まで根元まで感じられるように、ぎりぎりまで引いて、急速に叩き込む。

  杭打機のような豪快な動きは、厳つい父さんの体を、頼りない小舟のように揺らしてしまう。

  「ああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  暴れるその体をわしは押さえつけて、容赦なく性感帯を刺激する。

  くちゃくちゃと首筋を舐め、じゅるじゅると乳首を吸い、指で耳の穴を搔きまわし、脇を撫でさする。

  雄という矜持がどんどん壊されていくのが、わしには手に取るように分かった。

  男二人による凌辱に、虎獣人は涙を流すことしかできない。

  「だのむぅぅぅぅっぅぅぅぅ! やべでぐれぇぇぇぇぇっ!」

  だが、その懇願はどこにも届くことはなかった。

  「ええでぇ、やわっこい肉壺が、俺の雁に絡みついてきとる」

  鼻息を荒くした熊獣人は、腰を振りながら舌なめずりをして言った。

  「種が欲しい種が欲しいって、ねだるのがよぅわかる。足かて必死にしがみついてきよるやないか」

  気が付けば、その太い脚はゆうさんの胴に絡みついていた。

  「ぢがぅぅぅぅっぅぅぅぅっ!」

  「違わへん! おのれは雌なんじゃぁぁ!」

  「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  「くそ、そろそろたんまり出したる。わしの濃ゆい熊汁で、たっぷり孕ませたるからなぁ」

  「い、いやだぁぁぁぁぁああぁぁっ!」

  がつん、がつん、がつ、がつ、がつ、がつ、がつ、がつがつがつがつがつがつがつがつ!

  ゆうさんの腰の動きが速くなり。

  「イグぞぉぉぉぉっ!」

  「やべぇでぇぐ……んんんんんんんんんんんんんんんっ!」

  その熊汁が発射にあわせるように、体を震わせ絶頂に至る虎獣人。

  わしはその口をキスで塞ぎ、舌を絡める。

  男2人に上下の口を犯されてイッたという事実を、父さんに教え込むように。

  「んんんんんんんんんんんんんんんっ!」

  吐き出された大量の雄汁はその割れた腹筋をうっすらと膨らませる。

  上と下の両方で男を受け入れた虎獣人の目は、完全に雌になっていた。

  「たっぷり中だししたったぞ。雄汁孕まされて、親父さんも立派な雌猫やなぁ」

  はあはあと息を荒げながら、ゆうさんが体を放す。

  どぷり、と大量のザーメンがケツからこぼれた。

  「ちょうどええ。かず、自分もここで童貞卒業しとき」

  何でもないことのように言うゆうさん。

  「……うん」

  このとんでもない空気に吞まれたのか、わしはつい頷いてしまう。

  ……実の父親を息子が犯すなんて。

  でもその背徳感で、わしのちんこはびんびんにおっ勃っていた。

  わしは力ないその体をゆっくりとうつ伏せにすると、かぱり、と両足を広げる。

  その拍子に、どぷり、とケツから白濁液が漏れだす。

  わしは白い泉の源泉にいきり勃つ肉棒をこすりつけた。

  「父さん、入れるよ」

  「……駄目だ、和幸。かずゆ、おぉぉぉぉぉぉっぉぉぉっぉぉぉ!」

  ぐちゅり。

  その濡れた柔らかい肉穴で、わしのちんこは童貞を卒業してしまう。

  「すげぇ。熱くて柔らかい肉襞が、わしのちんこに絡みついてくる。生きてるみたいにきゅっきゅきゅっきゅ締め付けてくる。ゆうさんのザーメンにまみれてるから、よけいにずるずるだ。ほんと、気持ちいい。雌穴ってこんなんだったんだ」

  「や、やめてくれぇ」

  息子に自らの肉壺を解説されるのは、さすがに堪えるのか。

  羞恥心で顔を真っ赤にしながら、涙目で訴える強面の虎獣人。

  だが、興奮した俺の体はもう止まらない。

  はじめはゆっくりと確かめるように、そして徐々にスピードを増していく。

  気持ちよくて、腰の動きが止まらないのだ。

  「ひぎゃぁっぁぁぁぁぁ……あぁっっぁぁぁぁぁっ!」

  息子に掘られているのに、それでも絶頂を止めることができないのだ。

  ゆうさんはそんな父さんの耳元で、いやらしく囁く。

  「息子に掘られてイカされる気分はどうや。雌にされる気分はどうや」

  「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

  その言葉に、わしは獣欲の昂ぶりを感じる。

  雌を支配する雄の昂ぶりを。

  ……もう、我慢できない。

  「イグぞぉぉっぉぉぉぉ!」

  「ああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  びじゅるっびじゅるっびじゅるっびじゅるっ!

  叩きつけるような勢いで、肉壺に精汁が吐き出される。

  わしのザーメンがゆうさんのザーメンと混じって、その粘膜に浸透していく。

  この屈強な虎獣人を雌にするために。

  精魂尽き果てたわしの肩に、ポンと手をのせて、ゆうさんは笑う。

  「よし、次はわしの番や。徹底的に雌にしたらんとな」

  [newpage]

  9

  翌日。

  正直、あれだけのことをしでかして戦々恐々だったのに、朝、座卓の前で座った父さんは、いつもと変わらない表情だった。

  ……早朝まで犯されてたのに。

  4人が席に着くと、晴れやかな顔で父さんは笑った。

  「昨日の話だが……。まあ、和幸の好きにすればいい。人生は一度きりだからな、後悔だけはするなよ」

  「……」

  「……」

  「……」

  その言葉を昨日のうちに聞けたら、もっと尊敬できたんだけど。

  『これが入れられる快感か』

  明け方までかかり、すべてが終わった後、雄汁でどろどろになったまま、父さんは感心したように言っていた。

  ぶっこわれるほど体を使われて、あれだけ淫らに喘いでいたのに、事が済んでしまえば平然としたまま、『なるほど、雌になるのもわるくない』とにこやかに笑っているのだ。

  青色吐息のわしやゆうさんとは違って、疲れた様子も見せずに。

  『タフすぎるやろ』とゆうさんはぼやいていたが。

  結局、この人は気持ちよければなんだってよかったみたいだ。

  これからは、雌になるのもいとわないに違いない。

  あとで、上狼塚に教えといてやらんと、と呟く熊獣人が印象的だった。

  そんな父親の変わり身を見て、何かを察したように、ため息をつく母さん。

  ……ご苦労様です。

  

  両親に別れを告げ、わしたちは2人で駅へと帰る道すがら、見覚えのある草むらを通った。

  『……もう、逃がさへんで』。

  思わず、わしは足を止める。

  あの夏、泣きながら逃げたわしをゆうさんが捕まえてくれたのは、この草むらだった。

  「……」

  あれから1年以上が過ぎて、色々あったけど、こうして2人で同じ場所に立てている。

  それが、何よりの幸せだった。

  ずっとこうしていたい。

  2人で、長い月日を過ごしていきたい。

  「どうした?」

  足を止めたわしに気づいて、ゆうさんが振り返る。

  「ねえ、ゆうさん」

  「なんや?」

  「……大好きだよ」

  「俺もや」

  すかさず、熊獣人が応える。

  当たり前のように。

  わしは嬉しくて、笑った。

  そして気付く。

  面と向かって、一番大事な人に、ちゃんと伝えていなかったことを。

  わしは姿勢を正し、ゆうさんの目をじっと見つめる。

  「ゆうさんが犬司さんを看取ったように、わしも最後までゆうさんと一緒にいたいんだ。だから、これからもずっとわしのそばにいてください」

  「……」

  見上げた年上の熊獣人は、驚いたように動きを止めた。

  と、みるみるその目に涙が浮かび上がってくる。

  ……え。

  わしが反応する前に、ゆうさんはごまかすように笑った。

  「なんや、俺が先にちゃんとプロポーズしようと思っとったのに、先を越されてしまったやないか。……旦那失格やな」

  顔をくしゃくしゃに歪めると、ぽろりと涙がこぼれた。

  あの時夢で見た、泣き叫ぶゆうさんの姿を思い出す。

  『犬司、頼む! 俺を一人にせんといてくれ! 頼むから! 頼むから!』。

  わしは、あんな思いは絶対にさせない。

  「わしは絶対、ゆうさんを1人にしないから」

  気が付くと、わしの体は強く抱きしめられていた。

  「かず。おおきに、おおきに……」

  人目もはばからず、号泣しているゆうさん。

  「頼むで。……ほんまに、ほんまに俺を1人にせんといてくれよ。俺、かずがおれへんようになったら……」

  蚊の鳴くような小さな声。

  「大丈夫だよ、わしはいなくならないから。ずっとゆうさんと一緒にいるから」

  ……ゆうさん、大好きだよ。

  そう伝わるよう、わしはその体を強く強く抱き返した。