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まちのおまわりさん

  「もうあぶないことしたらあかへんで、な?」

  その日、ぼくはおまわりさんになりたいと心から願うようになった。

  *

  通勤・通学のピークであるこの時間、ぼくは派出所の前に立って市民の安全を守っている——なんてかっこいいものだったらいいのだけど。実際には地元の子供会のおばちゃんの話し相手にされたり、生意気盛りのこどもたちに「やーいおまわりー」などとバカにされたり、向かいのパチンコ屋に並ぶ客のどっちが先に並んだだのといった諍いの仲裁などをしていたり、まったく心を癒やしてくれるのは横断歩道を渡る黄色い帽子を被ったこどもたちくらいのものだ。曇りなきまなこの少年少女たちがトコトコと……あっ、こどもが転んだぞ! まってろ、助けに行くからな!

  点滅する信号。他のこどもたちは最後尾にいた子に気づかず、こどもを置いて渡りきってしまった。転んだこどもは道路のなかほどにいるから、どちらかの車線が動き出しても大変なことになる。ぼくは急いで道路沿いを駆け抜けてそちらへ向かう。やがて横断歩道の信号は赤に変わった。——するとまだ信号が赤であるにも関わらず、右車線の車がゆるゆると進み始めて交差点に進入する。よく見ると運転手はスマホをいじっていて、信号のある上方だけをチラチラ見ている。ここは見通しのいいT字路だからと油断しているのだろう。マズい。このままこどもに気づかなければ、信号が変わった瞬間すぐにアクセルを踏んでしまうだろう。だめだ、いや、ダメなんてことがあってたまるか。こどもを横断歩道からどけている暇はない。急いで横断歩道に突っ込んだぼくは、咄嗟にこどもに覆い被さるようにした。もうこれしかないだろう。下手したら死ぬし、下手しなくても大けがだな。ああ……痛いだろうな。骨に当たったらヤバそうだな。そうしているうちにアクセルを踏む音が聞こえる。ああ————

  *

  ……などという昔のことをぼくはよく思い出す。なぜならこの事故で身を挺してこどもを助けたことはぼくの誇りでもあるからだ。背中の毛皮には少し大きな痕が残ってしまったけど、悔しくはあるものの勲章だと思っておくことにしている。それなりの事故とはいえぼくは治る怪我で済んだし、こどもは無事だったと言う話も聞くことが出来たからだ。

  ぼくが着任してすぐに起こったあの事故から十三年経った。ぼく、縞国環(しまくにたまき)は三十四歳の虎にして現在は巡査長だ。いわゆるノンキャリア組ってやつで、警察官になれたのもわりとギリギリだったし、様々な訓練の中では教官にダメじゃないけどそこそこだなあお前は、などと言われたものだ。巡査部長の昇進試験も落ちたし、客観的にみてぼくの警察官としての資質は本当にそこそこってとこだと思う。

  でもぼくは街の人達からの信頼は厚いと自分でも思う。困りごと、捜し物、雑務や仲裁、いけないことをしている人へのお説教まで、街のために精一杯尽くしてきたからだろう。先の事件だってそうだ、ちいさなこどもの命が守れた。だからぼくは「まちのおまわりさん」としての矜持は誰よりも強く持っていると自負している。

  やがて夕日も沈む頃、笑顔の猪が手を振って走ってくる。

  「縞国さーん。今日はもう終わり?」

  「うん、大地も部活終わり?」

  猪の好青年が近づいてくる。柔道部ならではのがっちりとした筋肉とむっちりとした肉の、ぼくとは比べものにならないいい体だ。じゃあ待ってるよというと、大地は交番の前のベンチに腰掛けた。

  涅原大地(くりはらだいち)。大学二年生で柔道部。元々人に好かれやすい子だから、近所の八百屋から奥様方までとても仲がよく、もちろんぼくたちにも挨拶してくれる。ぼくたちに挨拶してくれるのはもうひとつ理由があって、将来警察官になりたいから、ぼくらは憧れの存在なのだそうだ。

  彼は自分がほとんど覚えていないくらい小さい頃、交通事故に遭いそうになったところを警官が助けたのだ。……つまり、ぼくだ。彼は小さかったし、集団登校に彼の親御さんはいなかったし、ぼくはすぐに救急車で運ばれてしまったから、結果大地の家族にぼくのことが知れることはなく「おまわりさんが助けてくれた」で話は終わったのだ。こういうことは被害者家族には知られるべきではないと、ぼくはあわや飛ばされそうになったけど、十三年前の田舎の交番の話だし、お前が話さなきゃ問題ないだろという雑な理由で事なきを得た。

  どれだけ雑な時代と地域だったかというと、交番勤務の近所のぼんのところに勤務中にダイコンを届けるおばあさん、なんてこともよくあったほどだ。ちなみに公務員たる警察官にダイコンを渡すと賄賂にあたる。最近では世知辛いことに警察官はコーヒー一本受け取らないけど、個人的にはダイコンで便宜を図るつもりはないから、もう少しやさしいせかいだといいなと思うんだけどさ。

  でもぼくは上に止められていなかったとしても大地とぼくの事故について触れることはしなかっただろう。なぜなら今大地の頭の中にあるのは“身を挺して守ってくれたあこがれのおまわりさん”というぼんやりとしたイメージだけだけど、それが“背中に大けがをした目の前の縞国環”だと知ってしまったら、途端に大地は現実を、ぼくに対する後ろめたさや申し訳なさを背負うことになる。それにぼくに対しても今まで通り屈託なく接してくれることはもうないだろう。だからぼくは自分に言い聞かせている。ぼくと大地はあのとき出会わなかった。ぼくが助けたのはどこかのちいさなこどもだ。そして大地と初めて出会ったのは交番の前で挨拶されたときなんだ。ぼくらは断じて対等な関係なんだ————

  大地といよいよ陽の落ちかかった灰色の街を静かに歩きながら話をする。はじめのうちは大地が嬉しそうに警官や夢の話をしていたけど、もうふたりはすっかり友達だから、警察官としてじゃなくて素のぼくも見てくれるようになった。だからふたりでごはんに行ったり、ハタチになったときはケーキとお酒でお祝いしたり、うちに泊まりに来たりということもある。

  正直なところをいえば、最近大地からは友達以上に慕われているような気が——いや、ほぼまちがいなくそうなんだろう。スキンシップがとても多く、ことあるごとに飛びついてきて、ぴたっとくっついてぼくのスマホを一緒に見たりなんかして。そしてふたりがそれぞれの家に帰る分かれ道ではなんとか話題を出そうとして、あのさ、そういえばさなんて繰り返していたり。ぼくはそれを暖かく見守ってはいるけど、いつもそろそろ遅いから帰るねといって、残念がる大地を置いて家路につくのだった……。

  正直、そんな大地を愛しいと思わないわけではない。でもその前にぼくは事故の真相を隠しているという後ろめたさがある。そりゃ誰にだって隠し事はあるものさ。だけどぼくは大地との付き合いがある限り、ふたりの人生に大きく関わる事実をずっと隠し通さなければならないんだ。

  ぼくはどうしたらいいんだろう。このまま後ろめたさを隠しながら友達でいるのか。自分を慕ってくれる青年を冷たくあしらって遠ざけてしまうべきなのか。すべてを告白して彼に事実という重荷を背負わせるのか。今実感した。十三年前に終わった事故だとはいえ、関係者とここまで個人的に親しくなるべきではなかったのだ。大地とは、再び出会うべきではなかった————

  「縞国さーん。終わったよぉー」

  「ん、ああ……今日はもう少しかかるから」

  「ええー。ちょっとくらい待つよ」

  「今日は帰りなさい」

  大地にぼくは空虚な言葉を投げつけていた。大地に向けているようで、誰に向けて言ったものでもない言葉。大地など最初から目に入っていないようなうつろな目。ぼくはそうやって少しずつ大地を遠ざけた。願わくば“無感情で自分を見てくれない縞国さん”から手を離して欲しい。

  ……そう願って大地に金属質な言葉を投げつけたぼくの目からは涙が溢れていた。

  次に時間が合う日にも大地は来た。いつもはにこにこ顔で愛想のいい猪は、思い詰めたような顔をしてぼくのほうをじっと見ていた。ぼくは彼を一瞥すると、部下の庄野(しょうの)、柴犬に対応を——できるだけ外でしてくれと頼んだ。ぼくは書類に目を落としてチラリと交番の外を見る。大地が庄野に食ってかかっている感じか、まあ予想通りだ。大地も仮にも警察官を目指す身だ、公務執行妨害なんてやらかすことはないだろう。案の定大地を追い返した庄野はひとりで戻ってくると、大丈夫なんスかと声をかけてきた。これまで親身になって青年の話を聞いていたおまわりさんが突然冷たくなったのだから、庄野のいうことにも無理はないだろう。ぼくはすごすごと遠ざかって点になっていく大地の背中を見て思わず右手のプラスチックボールペンを軋ませた。

  何度来たって同じだ。庄野は今日も大地とモメている。ガラスの外じゃ話の内容までは聞こえないけれど、なにか口論していることはわかる。……ごめん、きみのためなんだ。頼むから、ぼくのことなんてもう忘れてくれ。立派な警察官になって、誰かを助けて、ちょっとした武勇伝なんか作って、パートナーをみつけて、幸せになってくれ。そこにぼくはいちゃいけないんだ。

  庄野は深くため息をついた。今日も大地はとぼとぼと帰っていった。ぼくは最初こそ何もなかったかのように書類を書いていたけれど、だんだんペンを握る力が強まり、こころが詰まったような感覚になり、今にも書類に突っ伏しそうなくらい頭を垂れた。

  「……………………ぼくは、頼れる『まちのおまわりさん』をめざして警察官になったのに、どうしてこんなことしてるんだろう」

  「え?」

  「ぼくはみんなを助け守るためにここにいるのに、どうして大地を追い返して、泣かせて、悲しい目に遭わせてるんだろう?」

  ぼくの手の中で折れたボールペンは床を跳ねる。

  わけもわからず大地を追い返させられ、目の前のぼくは頭を垂れるほど感情を軋ませ、庄野は一体なんなんだと訳が分からないという表情をしながらも、明らかに落ち込んでいるぼくを気遣ってかお茶を淹れてくれた。ぼくは少し落ちつくと、庄野に十三年前の事故の話のこと、関係者と仲良くなるべきではなかったと後悔しているということを伝えた。慕っているかどうかはぼくの主観なので、伏せたまま。

  「……で、どうするんスか。ずっと追い返し続けるんスか?」

  「どうしたらいいんだろう……大地はなにも悪いことなんかしてないのに……」

  「お話してあげましょうよ。突然縁切るなんて酷すぎッスよ」

  自分でもあまりにも酷いことをしているのは分かって、いや、慕われているのだとしたらぼくが想像しているのよりずっと酷いことをしているのかもしれない。“きみのためだ”なんて言ってるけど本当はぼくのためなんだ。大地を守るためと言いながら大地を傷つけているじゃないか。これは本当に大地のためになっているのだろうか? 自己満足で“守りました”と言いたいだけなんじゃないのか?

  「今度来たら、話してみるよ……」

  もし今度、それでもこんなぼくなんかに会いに来てくれるというのなら————

  大地は来た。ぼくは今度は全部任せてくれと庄野に頼んである。ぼくはどうすれば、どう応えればいいのかまったく思いつかなかったけど、少なくとも悲しい顔をしていたのだと思う。交番に入ってきた大地はなにかを思い詰めたような顔をしてぼくの前に立った。そして手に持って——おそらく力が入りすぎてしわくちゃになった——紙きれを両手でぼくに手渡した。その手は震えている。そして声をも震わせて祈るように唇を動かした。

  「もう、来ません。読んでください」

  ぼくが手紙を受け取るが早いか、大地はきびすを返して交番を出て行った。振り向いたときに涙がこぼれていた気がする。ぼくはやっぱりものすごく彼を傷つけていたんだな。この手紙にもさよならなんて書かれていたりするのかな。でも、もしそうならそれはさびしいけど結果的には……よかった、のかな、どうなのかな。何と書いてあっても、罵りであっても自分の行動の結果として受け止めよう。ぼくはゆっくり折り畳まれた紙を開いた。

  『ぼくを助けてくれて ありがとうございました』

  ……なんだ、なんでなんだ、十三年前の警察官がぼくだったことを知ってたのか。なんで気づいたのかはわからないけど、それを知っていてなお今まで普通に接してくれていたってことは、すでに事実を受け止めていたってことじゃないか。大地に事実の重荷は厳しい、耐えられないなんていうのはぼくの勝手な思い込みだった。そうだよな……なんで気づかなかったんだろう。いつもぼくと一緒にいたきみは、ぼくよりずっとずっと強いヤツだったもんな……。

  「庄野、三ぷ……いや五分うんこ!」

  「え、あ、はい」

  そういうとぼくは交番を飛び出した。そしてぼくは大地の家路をはし

  「どこにいくの? おまわりさん」

  交番前からのびる道沿いすぐ近くのフェンスにもたれかかる大地がいた。その顔は先ほどとはうってかわってニヤニヤしている。というかここは……十三年前の事故現場だ。ここで大地は転び、それを守ったぼくはひかれた。

  ぼくは思わずどうしてぼくがあの“おまわりさん”だと分かったのか問い詰めた。大地はぼくがその人だと知っていて近づいたわけじゃなかった。ただ自分を助けたその人はきっと“まちのおまわりさん”みたいな人だという漠然とした思いがあり、その中でたまたま知り合ったぼく、縞国環になんとなくそんな雰囲気がしたのだという。確かに勤務場所も年齢もソレっぽいのは認める。けど助けたのはたまたま巡回中だった他の警察官かも知れないし、ぼくだという確証はないはずだ。それなのに彼はあの手紙を持って来た。ぼくがそのおまわりさんだという、確信をもって。

  「縞国さんちに泊まりにいった日、見ちゃったんだ、あの傷」

  我ながら迂闊にも程があるけど、問題はそこじゃないんだ。涅原大地を助ける為に縞国環が大けがをした、という事実を知ってショックを受けなかったのかということが、ぼくが一番懸念していたことなんだ。すると大地はクスリと笑う。

  「後ろめたさかぁ……かなり悩んだんだけどね。でもぼくがごめんなさいって謝るのは違う気がする。それは脇見運転犯の役目だよ。ぼくがすることは縞国さんに命を助けてくれてありがとう、っていうことなんだって気づいたら、ぼくも縞国さんみたいな『まちのおまわりさん』になりたいって素直に思えたんだ」

  やっぱりこの子はぼくなんかより全然強かったんだ。受け止めるばかりかそれをバネにして将来を決めたんだ。こんないい子に、ぼくは……ぼくみたいなバカを好いてくれる人を、追い返して、独りにして、冷たくして。ぼくが項垂れると、それとは対称的に大地はニカッと笑う。そしていたずらっぽく訊いてくる。

  「それで、勤務中に何しに来たの? おまわりさん」

  「え……その、本当にひどいことをして……みんなを守らなきゃいけないぼくが、こんなぼくに親しくしてくれる子まで傷つけて……何やってんだろうって」

  すると大地は身を乗り出し、もうちょっと何かあるんじゃない? とさらにいたずらっぽく訊いてきた。このやろう、もう全部答えは知ってるくせに。ぼくが後ろめたかったのは隠し事だった。隠していたのは大地にかかる重圧が怖かったからだ。なら大地がそれを克服した今、ぼくたちは普通の友達としてやっていける。いや……

  「……そうだね。ずっと踏み込んじゃいけない、近づきすぎじゃいけないって思ってたから、自分の気持ちにふたをしてたんだろうね。……もちろん、好きになっちゃいけない、ってのも」

  「そうそう、そんなこと考えてるだろうと思ってた。じゃあ次は告白ね」

  「ま、まって。ぼく、そんなに分かりやすかったの!?」

  「うん。いつから傷のこと切り出してくれるのかなあって待ってたけどぼくが気づいてないと思ってたみたいだし。交番であんな極端な仕打ちをするからには、ああこの人やっぱりぼくのこと好きになっちゃダメって意識しちゃったから我慢してんだな、とか」

  ぼくは顔がほてる。まあ何にせよけじめはつけないといけない。

  「そうだなあ。『これからも』守っていくよ。この傷に誓ってね」

  「嬉しい。『これから』強くなって守るよ。命をくれて、ありがとう」

  制服警官が市民と路上でチューしているわけにはいかない。ぼくはあとでねといってだだをこねる大地を制すると、急いで交番に戻った。庄野には怒られた。

  ままままて。それはちょっと早すぎるんじゃないか、付き合ったばっかりでお父さんに会おうなんて。大地はいーからいーからと嫌がるぼくを涅原家へ引っ張ってゆく。なにがいいのかさっぱり分からないけど、とりあえずスーツ一式を着て来た。涅原家はなかなか大きな邸宅で、ますます入るのが憚られる。玄関でギャーギャー言っていると、中からアラフォーかアラフィフといったところの猪獣人が出てきた。さすが大地のお父さんというか、なかなかのむっちりがっちりボディだ。お父さんは笑顔だったけど、ぼくをじーっと見ると顔色が変わる。

  「……君はたしか」

  「ぼくをご存知なんですか?」

  「ふふふ、忘れてしもたか? ……やろな、もう三十年くらい前の話やでなあ」

  「あ……その話し方」

  「せや、ワシは飛び出すとこやった君を助けたなあ、懐かしい」

  そう、そうだ。大地がそうであったように、ぼくが警察官になろうと思ったきっかけとなった人だ。といってもお名前は存じ上げなかった。涅原玄(くりはらげん)さんで警部だそうだ。ノンキャリアで警部というのはなかなかに優秀な方だということがわかる。

  入りなさいと招き入れられて、お父さんと昔の話をする。ぼくがはっきり覚えていなかった当時の話とか。

  「今は何を?」

  「——県警————派出所の縞国巡査長ですが」

  警部は目を丸くする。

  「! ……警察官になってたとはなかなか因果やなあ。あの派出所にはちょうどワシと入れ替わりで入ったからお互い知らなんだんやろな」

  大地は嬉しそうに口をはさむ。

  「それで、昔ぼくを助けてくれたのがこの人なんだ」

  警部はこれ以上ないほど目を丸くする。

  「!! ワシが助けた子がワシの子を助けてくれたんか……おおきにな」

  警部がぼくを救ってくれたらぼくはいなかったし、もちろんぼくが助けるはずだった大地もいなかった。こうして誰かを救ってその人のよくない人生をいい方向へ変えることができたら、それはとても小さな事であったとしても、後々に大きな影響を与える事だってあるのかも知れない。ぼくらがそうであったように。

  しばらくいろんな話をしたあと、ぼくは警部に玄関で見送られて、……大地とともにぼくの部屋へ向かった。そりゃあまあ、ね、警部がいるおうちでアンアンするわけにはいかないし……。

  ぼくの部屋に入り安っぽいシリンダー錠をカチャリと閉めると、大地はぼくの胸に潜り込んで途端に泣き出した。

  「よかった……環が、もうぼくを捨ててしまったらと思ったら……」

  「……ごめんね……ごめんね。もう君を遠ざけてしまったりしないから……」

  ぼくは大地をやさしくベッドにエスコートすると、やさしく、時に激しく貪った。もう間違えないように。いつだって近くにいるよと誓うように。

  お互いの存在と愛情を確かめ合う儀式を終えたあと、ぼくらはベッドでしばらく話をした。大地はまったく気にすることもなくぼくの傷を触ってきた。

  「……ぼくがちいさな命を救った勲章だよ」

  「じゃあ、ぼくが確かに環に命を救われた証でもあるんだね」

  大地はぼくの傷を愛おしむようにキスし、舐め、愛撫した。

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