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足早に目的地へ向かうと、足下から時折シャリシャリと落ち葉を踏む音が聞こえる。もういくらかすれば木枯らしの季節だろう。俺は軽く縮こまりながら目的地へ向かった。
“貸切”の紙が貼られたこぢんまりとした定食屋に入るといつか遠い日に戻ったような気がした。高校のときみんながお世話になっていた定食屋だ。ここは全然変わっていないな。年は取ったけど相変わらず愛想のいいおばちゃんが、テキパキとみんなの注文をとっていた。
俺は縞川六助(しまかわろくすけ)。丁度五十歳の虎獣人。俺はここからそれほど遠くないところに住んでいるけど、わざわざこのあたりまで脚を伸ばすことはなかったから、とても懐かしい。
六助ぇーと大きな声で俺を呼びながら手を振る熊獣人がいる。親友の小熊藤太(おぐまとうた)だ。俺は藤太のとなりに座ると、久しぶり、と軽く挨拶をする。親友とはいっても仕事もあるし会うのは半年ぶりだ。軽く談笑していると反対どなりから女性が入ってくる。久しぶり、最近どうしてんの、なんて話をしていると、ビールジョッキとピッチャーがやってくる。藤太がビールを注いでくれると、周りのみんなで乾杯した。
そう、今日は高校の同窓会だ。卒業してから三十年ちょっと経っているとはいえ、高校生にもなれば顔立ちはほぼできあがっているから、今見ても誰が誰だったかは大体分かる。懐かしいなあと周りを見渡しながら、俺はおばちゃんに、ここの看板メニューの焼き鳥を注文した。
ふうむ、顔立ちこそ昔とさほど変わらないものの、振る舞いは随分じじくさく・ばばくさくなったヤツが多いし、体型も色々変わっている。中年太りが一番多いな。藤太も中年太り……よりさらに大きくなっていて、腹に双子が入っているのかというような出っ腹だ。そういう俺はジムに行っているから腹筋は軽く割れているし、腕も太く、脚はジーンズをピチピチにしている。とはいえあくまでいい年だから、バキバキというよりはガテン系に近いむっちりした体つきだ。
「六助、せっかく再会したんやからなんかやろうや。山にでも行かへんか」
「登山って色々いるんだろ、その、ピッケルとか」
「アホ、そんな険しいとこ登らへんわ。スニーカーでいけるとこや。ハイキングや思たらええ」
たしかにいい機会だし、何かするのも悪くないな。近況やつまらない話なんかしながらだらだらと歩く感じかな。そういう訳で今週の土曜日、俺は藤太たち数人とで登山に行くことになった。問題は、すでにできあがっている藤太がちゃんと約束を覚えているかということなのだが。
登山当日、天気は上々だ。季節柄、山の上からは紅葉が見られるだろう。藤太はなんとか集合時刻にバス停に来た。事前情報によると、この山は子連れ客も多く登山初心者には最適です——とのことだ。確かに藤太の言っていたとおり、ハイキングに近いという印象だ。
「藤太、普段から山登んのか?」
「い、いやそんなにやけど。アカンかったか?」
「まあ話がしやすいからいいんじゃないか?」
少しずつ上りはじめながら、藤太は今日のコースを説明する。標高は一キロメートル弱で、歩行距離は十キロメートル。山としては小さいけどハイキング的なノリで上るには結構な距離があるから、途中のひらけたところで山の景色や空気を堪能して折り返そうということだ。
俺たちは談笑しながら山を登っていく。同窓会で話しきれなかったこともあるから、昔のことをたくさん話した。藤太も楽しそうにしているが、みんなの話を聞くとき少し寂しそうな顔をしている気がしたのは気のせいではないのだろうな。何か昔の思い出の中に思うところがあるのだろう。それにしたって三十年ちょっとも前のことだ。何かあったところで笑い話になっていてもよさそうなものだ。まあ苦い思い出でもあるんだろうな。訊くことでもないし、考えてもしょうがない。俺は藤太の顔色をうかがうのをやめて、同窓生たちとの会話を楽しんだ。
やがてひらけた場所に出た。見下ろすと、大空と山に囲まれた一面の紅葉がそこにはあり、山のふもとが霞がかって見える。初心者向けの山といっても、自分の足で登ってきたのだと思うとそれなりに達成感がある。
「どや、凄いやろ」
「わあ、すごい。ちょっと歩くだけでもこんな景色が見られるんだねえ」
みんなこの壮大な景色に湧き、女性陣はスマホやカメラで写真を撮りまくっている。俺は藤太のとなりに立って、しばらくこの景色をながめていた。
「おっしゃ、そしたら折り返す人もおるやろし、まだ見てたいいう人もおるやろから、十九時に飯屋集合な。それまで休憩するもよし、風呂で汗流すもよし」
「りょうかーい」
女性陣はきれいだねーとしばらく撮影会をしていた。俺と藤太以外の男性陣はふもとの温泉に入ろうと、早々に山を下りていった。
「藤太はどうすんだ?」
「もうちょっと上まで行こう思うんやけど、来おへんか? 一人やと寂しいし」
「イイ年こいて何言ってんだ。……んじゃ、行きますか」
俺たちはさらに山の上へ向かった。
登山コースは一気に険しくなった。そういっても元が緩いから大した傾斜じゃないけど、どこまで続くか分からないというのは不安になるものだ。藤太があそこで解散にした理由が分かる。事前に見たコースマップによれば、この上にはもう休憩所のようなものはなかったはずだ。さっきのひらけた場所にも自販機すらなかった。入場料をとるわけでもないし有名な山でもなく人も少ないから、収入的にそこまで手が回らず、本当に最低限のメンテナンスしかされていないのだろうな。腹が減る前にぱぱっと登ってしまおう。
さっきまではみんながいたから昔からの話をしていたが、今は俺たち二人しかいないから普段通りの話をした。藤太とは頻繁に会うわけではないけど、半年に一回か二回くらいは会うから親戚よりは会っている。それにこの年でこれくらいの頻度で会っていたらかなり仲が良い方ではないだろうか。大抵の大人はよほど仲が良くて積極的に会いたいと思わない限り、面倒さが勝ってほとんど会わなくなる。俺たちは高校卒業からずっとこんな感じだから、やっぱりこいつは親友だ。みんなといたさっきまでが楽しくはなかったわけではないけど、気を遣わなくていいのは正直二人きりになってからだ。所帯は持たなくとも五十でこういう友人がいるのは幸せなことだろう。もっと頻繁に会えたら言うことはないのだが。
「ラクだよな」
「な」
藤太とのこれまでのことを思い出していると、いつの間にかかなり道幅が狭くなり、視界には——さっきよりもさらに壮大な紅葉が燃えるように地を染め、空も高くなっている。
「コレをお前に見せたかったからちょっと無理してもろたんや」
藤太は近くの岩に座り込む。俺もその隣に座る。
「あァ……着いてもうたか」
? 俺に今さら何か言いあぐねてるのか?
「その、なんや。お前のこと、好きやったんや」
「へえ、でも同窓会のとき言えばいいだろ、大昔の話なんだから」
「……えと……あの、うん、ちゃうんや。……今も、なんや」
俺は咄嗟にハァ!? と声を上げて藤太を見てしまう。太った五十のおっさんは年甲斐もなく下を向いてもじもじしている。そして「忘れてくれ、言いたかっただけや」とつぶやいて、景色のほうに向き直る。藤太は高校のときからずっと俺のことが好きだったという。そんなに長い間、俺はずっと生殺しにしてきたのか。うつむきながら気付かなくてすまんと言うと、藤太は気ィ遣うなや、と苦笑した。それにしたって、三十年ずっと好きだったなんてこと、あるのだろうか。高校の時好きで、同窓会に笑い話になることはよくある。でもそのまま好きなままなんて……。時々会っていたから恋心が冷めなかった、とかだろうか。
「最初はかっこええヤツや思てなあ。そやけど、年とったら見た目やのうて、コイツといて心地ええから、に変わってきてな」
「それは分かるかな」
「あとは……もう歳やから新しい友達もあらへんし、寂しいでな……」
「そうかもな」
「ワシら、一緒になれんかな」
「……そうだな、それもいいな」
藤太は特に喜ぶでも騒ぐでもなく、ただ少し微笑んでうつむいていた。俺には特に断る理由もなかったし、むしろ藤太がそのつもりだったならもっと早くそうしていればと思うくらいだった。恋や愛といった意味で好きなのかどうかまだわからないけど、こいつとなら一緒になってもいいかなと思った。
「伝えるのが遅うて悪かった、嫁さん」
「ホントだよ、三十年遅れってな。って俺が嫁かよ」
「お前と抱き合えるならワシが嫁でもええぞ、ひっひ」
「ああそうか、抱くのか」
「イヤなんか?」
「いや、むしろ驚くほど気にならない」
燃えるような紅葉風景を眼下に見渡せる山のてっぺんで、俺たち五十のごついおっさん達はとりあえずやっとくか、とキスをした。もうお互いが空気のような存在であり、一緒にいて心地よい存在であり、きっとケツやイキ顔を見られても今さら恥ずかしくもないけど、いまさら改まって向かい合ってキスなんて、かえって意識して恥ずかしいな。
「ほな旦那はん、エッチしよか」
「どこで? 食事の後?」
「今や今。そこに潰れた小屋あるぞ」
一応新婚なんだからムードくらい考えろと呆れると、藤太はワシらには丁度ええやろとうそぶいた。ハッキリ言って俺は藤太と一緒にいられればどっちでもいいんだけど、藤太は好きな人と結ばれたいだろうし、それなら俺も藤太を気持ち良くしてやりたい。ああ俺やっぱ藤太のこと好きなのかな——いや、どういう意味でかはともかく、好きなのは確かだよ。藤太と一緒に抱き合った証として、気持ち良く射精してやる。
俺たちは肩を深く組んで、コースを少し逸れたところにある小屋へ来た。中に残されたものを見ると、休憩するところというより山の管理とかそういうことに使われていたようだ。木はねずみ色になっていて年月を感じさせ、小屋の一角の木材が壊れて中に光が差し込んでいる。藤太はよいしょと両手で力を込めると、建て付けの悪くなった小屋の扉が開いた。扉開けたままシよかなどとアホなことを言う藤太にチョップを入れるとしぶしぶ扉を閉めた。木材の壊れたところや、板の継ぎ目などから光が漏れてくる。
俺たちは唇を合わせたまま上着を脱ぐ。季節柄さすがに寒いかなあと思ったけど、天気が良かったせいか小屋の中には熱気が籠もっている。それに藤太はスケベな顔をしてすぐに暑くなるでと冗談を飛ばした。
パーカーの裾を両手でめくり上げられると、乳首に電気が走る。心を許した人間に身を預けているからか刺激が強い。でもそれ以上に、たくましく優しい手で毛皮を撫でられるとすごくほっとする。俺も藤太の乳首をチクチクといじめる。途端に藤太はあっ、んっと高い声を上げる。かわいいな。俺は唇を離す。
「そういえば、やっぱ俺でオナニーしてたの?」
「あうっ、おう、そや、六助、かわええ、六助の、チンポ、入ってくる、太い、ぶっ放すで! とか、言って、んっんっ」
「いつも俺と会ってるとき何考えてたんだよ」
「ろくすけの、ケツ揉みたい、とか、エロい気持ちで、肩くんだり、とか、してた」
「今日は俺のケツも揉めるしチンポもしゃぶれるぞ?」
「最高や……ろくすけ……すきやで」
ありがとう、お前に好きと言ってもらえることは俺にとって最高の褒め言葉だ。存分に味わわせてお返ししてやりたい。俺たちは上半身裸になると、俺が上、藤太が下になって木の床にギシィと寝転んで、お互いの乳首を求め合い、股間をすり合わせ、唾液を交換した。しかし、三十数年間親友として過ごしてきた藤太との情事、藤太の喘いでる顔は、なんか変な感じだな。
「アカン、チンポもっとこすりあわせたい、もうたまらん」
「こんなにエロかったんだな、お前……」
「アカンねん、ホンマ六助とひとつになって射精したい」
「ふふ、お前結構かわいいな」
俺はジーンズを脱ぎ全裸になる。藤太はチノパンを脱ぐと……褌だ。しかも赤六尺だ。
「ん…? だって山歩きやしこすれたりしたらパンツ破れやすくなるやろ……お前のエロパンツ大丈夫か?」
「あー、そろそろ買い換えるヤツだったからいいか、なッ」
俺はビキニを確認する……ふりをして、藤太の顔に押しつける。藤太は一瞬驚いた後、目をとろんとさせて、スーハーと激しく呼吸する。がっしりして雄臭い、成熟したおっさんの股間のにおいを食らえ。
「ろくすけ……ろくすけや……ろくすけ欲しいで……」
「だったらコレはどうだ」
俺は股を開いて、頭のほうを向いて藤太の顔に座った。蟻の門渡りに藤太の黒く濡れた鼻が当たる。藤太は俺の股を嗅ぎながら、ペロペロとなめはじめた。こんな汚いところまで俺を求める藤太が可愛い。……愛おしい。俺も藤太が恋愛的に好きなのだろうか? だって普通、親友同士であっても股なんて舐められたらイヤだろう。いやでも、藤太はいい体だし、単にエロくて興奮しただけかも……
その、なんていうかパートナーになってから言うのもバカバカしいんだけど、藤太と一緒にいて心地いいとは思うけど、もし俺が本当に藤太に恋愛感情があったとしても、気恥ずかしくて今さら認めづらい。
股を舐めさせながら後ろ手で乳首をいじり倒すと、藤太はハアハアと息を上げながら金玉の裏までしゃぶっている。腰を浮かすと、あっ、と切なそうに声を上げた。俺は立ち上がってふと後ろを見ると、藤太の褌は当然テントを張って、そして手のひら大の染み——それも湿っているだけではなく、テントの先には大きな水滴が出来ていた。藤太がもじもじと動くと水滴は落ちて、褌の前袋のまだ乾いた部分に染みを拡げる。そして、少しずつまた新しい水滴が作られる。いやらしいエロ熊親父だなと思って見ていると、俺のデカいチンポがねっとりとした温かみで包まれる。俺の股を取り上げられて切ない藤太は、いよいよ俺のチンポを求めていた。通気性の悪いビキニの中で何時間も蒸らされていたチンポをしゃぶれ。
熊はうまいものにでも食いつくかのように、ペロペロ、しゃぶしゃぶとかぶりついてくる。咥え込んだり、横を舐めたり、裏筋を舐めたり、金玉を舐めたり。一瞬上目遣いに目が合うと、グッと来るものがあった。ああ、こいつはこんなに俺のことが好きなんだな。頭を撫でてやると、藤太はいっそう嬉しそうに俺の性器にむしゃぶりついた。
そんなふうにして必死に俺を求められて、俺の快感は徐々に上がり続けた。そろそろ余力を残しておきたい。腰を引いてちゅぽっと棒を引き抜くと、もっと、と子供のように求めた。普段の藤太からは考えられないな。俺は攻守交代かなと思って藤太の目の前にしゃがむと——掘ってくれ。藤太はそう懇願した。自分のリュックを取り出した藤太がジッパーを下ろすと、小さなポーチが出てきた。中にはローションとかコンドームが入っていた。
「それ、持ち歩いてんの?」
「いや、お前と遊ぶときだけやな。でけへんかな、気付いてくれんかな、ひょっとしたら同じ気持ちちゃうかな、とかずうっと思ててな」
「……三十年、か」
「一生でけへんこともあるんや、三十年で出来たと思たら、まだええほうやろ?」
けど、横に居たのに三十年間体を重ねることができなかった。それは辛かったんじゃないだろうか。気づけなくて本当に済まなかったと思う。
「正直、五十でアカンかったらもう諦めよう思とった。どういう関係であれ、お前は横におってくれるからな。……でも、横におるからこそ、絶対忘れられんかったやろとも思うけどな」
俺は藤太をギュッと抱き締めていた。自分をそんなに思ってくれていたこと、それだけ長い間辛い目に遭わせたこと、笑いながら俺の横に居るとき、どんな気持ちだったのだろうかということ。気付いたら、歯を噛みしめて少し涙を流していた。
「な、なんでお前が泣くんや、そりゃワシが泣くとこやろ」
「え……ば、バカ泣いてねえよ、お前のガマン汁が飛んだんだよ」
俺は乱暴に藤太を裏向けふんどしを解いた。その間ずーっと藤太はニヤニヤしながら、ワシのこと心配したんか? ワシが大事やったんか? やっぱ好きやったんちゃうか? とからかい続けていたのでしりをパーンと叩いた。
ご丁寧にふもとでしりを洗ってきた藤太はケツの穴を見せつけるようにローションを塗った。俺も股間をベチャベチャにした。どの体位でブチ込むか考えていたら、藤太は自分から正常位になり、両脚を上げてケツの穴を向けてきた。
「一番恥ずかしいポーズで、一番恥ずかしい顔、お前に見せたいんや」
ただ俺とつながることをひたすら望んでいた三十年か……などと神妙なことを考えながら、俺の太いチンポはゆっくり穴を進んでいく。しばらくすると、最奥にぶつかる。これで三十年の夢が叶ったのかなどとバカなことを言っていると、まだや、中だしされて終わりやと、またもやバカな答えが返ってくる。
五十のデブったおっさんがケツにチンポ挿れられて感激している姿は、一般的に見るとちょっとそれはという感じなのだろうけど、俺にはとても可愛く愛おしいものに見えた。やっぱりこいつのこと、恋愛対象として好きなんだろうな。やっぱり認めるのが恥ずかしかっただけだ。パートナーになった今さら意固地になることもないだろう。
「俺はお前のこと、好きなのに気付いてなかったのかな。今好きになったのかな。今、凄く愛おしいよ」
「めっちゃ嬉しいけどそれ今言うか。しりにチンポ刺さってんねんぞ」
「いいだろ、もう夫婦なんだからなんも気にすることないだろ」
「……最高やな。夢みたいや」
藤太の目に涙がにじんだ瞬間、俺の肉棒は藤太の前立腺にめり込んだ。ピストンしている間、藤太は泣きながらうれしい、好きや、六助、などうれしさを口に出していた。俺はのしかかって掘りながら、藤太にキスをする。
「ろくすけ、出してくれ! お前を、ワシに、くれ!」
「いくら、でも、やるよ!」
挿入されてなおビンビンの藤太のチンポをしごき、自分の波と合わせて同時に射精した。藤太の黒い毛皮が白くねばつく。キスはあとでもできるから股をなめさせてくれなどというのでデコピンして、仕方ないなと俺のビキニをやった。下山するまでずっと嗅いでいたから俺は気が気でなかったが、面積の少ないビキニだからか、ハンカチかなんかに見えていたからまあ、大丈夫だった、のだろうか。俺はノーパンで落ちつかなかった。
下山するとふもとは十七時だ。移動時間を考えても、十九時には余裕で間に合うな。どこで時間を潰そうかと考えていると、藤太は買い物を提案した。待ち合わせの飯屋の近くにショッピングモールがあったはずだ。じゃあ行こうと歩き出すと、やけに藤太は上機嫌だ。そりゃ三十年好きだった人と結ばれたら本当は飛び上がりたいほど嬉しいことだろう。むしろ俺のほうがドライ過ぎる……ように見えるだろうけど、それは単に感情表現が下手なだけだ。——今はもう藤太を離したくない。終電になれば、もうすぐ二人きりでいられなくなるのがもう寂しい。一緒に住みたい。はやくキスしたい。そんなこと藤太に言えるハズないけど、きっと気付いてるんだろうなあ、コイツ。
「お待たせ」
食事の時間になった。同窓会では脂っこいものが多かったので、今日はあっさりとした刺身なんかを日本酒で食べる。
指輪に気付いた女性陣に案の定驚かれ、そしてからかわれる。藤太は誇らしげにさっき告白してきたのだというけれど、さっきのは誇れるほど格好いい告白ではなかったよなあ。
「高校以来の片思い? すごーい」
片思いじゃなかったかもな。真相は闇の中だし、言わないけど。一方、男性陣からはもうヤッたのとかどこでヤッたのとか、定番のゲスい質問が飛んでくる。
「ひひ、山頂の小屋でシてきたわ。三十年越しのチンポは違うわあ」
「藤太、ぶん殴るぞ」
「え、今夜はSMプレイですか?」
「せえへんわ! あ、六助今日泊まるぞ」
「このタイミングで言うな」
その晩、もちろんやらしいこともしたけど、俺は話がしたかった。ベッドの中でパンツ一枚になり、お互いの毛皮がこすれる距離で話をする。思えば半年に一、二回だけ会う藤太と別れるときは、やけに名残惜しかった気がした。やはり隣にいて欲しかったのかもしれない。あるいは寂しかっただけかも知れない。藤太はどうだったんだと訊くと、俺が改札の向こうに消えるまで——消えてもしばらくは駅の前に立ち尽くしていたらしい。他にも色々、どこかにいるかもといつも探してたとか、似た人がいると足が止まったとか。長い間、どれだけ愛されていたんだろうなあ。
でも、今は俺も本気で愛おしいし可愛いのだ。……いや、仮にそういう一時の熱がいつか冷めたところで、俺たちはうまくやっていけるだろう。だって、いままでもうまくやってきたのだから。
「なんや、そのカオは。なんか言ってくれるんちゃうんか?」
「んーん。なんて言っても安っぽくなるつーか」
「ほやな。今さら愛してるもあらへんわな」
…………
「大切にするよ。今までよりも」
「ひひ。大切にすんで。今までどおり、な」
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