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青春【せいしゅん】夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたもの。青年時代。「青春を謳歌 (おうか) する」「青春時代」
恋愛が、よくわからない。
テレビ番組で歌って踊り、雑誌のグラビアにもなっているアイドルは確かにかっこいいんだけど、悪くないねって思うだけで別に好きってワケじゃない。それなのにアイドルファンの生徒達は、この人のためなら死ねるとか、この子とこの子とこの子サイコーとか、乳でけー愛してるとか言ってる。おかしくないだろうか?
会ったことのない人のためにルックスを見ただけで死ねるというのはまともだとは思えないし、そのアイドルユニットは五人なのだから、五分の三が恋愛対象とは惚れっぽいにしても程があるし、乳でけーのはまあ好き好きだけど、それは性癖である。ペラリと机の下の辞書をめくり「恋」の項を見ると、「切ないまでに深く思いを寄せること」などと書いている。……みんな切なそうじゃないんだけど、むしろエロ画像を見たときのように興奮してるけど。
大体みんながみんなグラビアアイドルに恋するというのがそもそもおかしい。あれはひょっとしたら恋愛対象ではなく、まだ恋愛対象の好みとかそういうものが固まっていないから、とりあえずみんなが騒いでるアイドルとか、顔が整ってて不快感がないとか、歌やダンスが上手くてカッコいいとか、そういう基準でステキとか言ってるんじゃないだろうか。
芥川龍之介は「愛はただ性欲の詩的表現を受けたものである」と言っていることから、アイドルがステキ、というのは、とりあえず文脈の無いただの性欲を恋愛と誤認していると仮定する。第二次性徴からが本格的な恋愛の始まりだとすると、ぼくらは高校二年生だから、そのはじまりからせいぜい三年ほどしか経っていない。その間に経験するまともな恋愛など知れているだろうから、誰も彼もが恋愛しなれていないのだろう、というぼくの考察はあながち間違っているとも言い難い。
もっと大人になって恋愛の経験を積めば次第に好みも定まり、他人と分化してきて、恋愛がアイドルに向かう感情のそれとは違うことが分かってくる。気がついたら好きになる対象がなんか似てきて、なんでいつもこんなおっさんが好きになるんだろうとか、意外と太いのもイケるよなとか、えっ、俺ってひょっとしてB専!? とか、そういうふうになっていくのだろう。そもそも、そうでなければ世の中アイドル顔の人以外は結婚したり恋愛したりできないだろう。
なんて、自分の”恋愛”について、みんなそんなふうに——例えば自分のは恋愛なのか、性欲なのかとか思わないのかな。だって自分と友達と隣のクラスのC子ちゃんが全員同じアイドルにベタ惚れなんてあるわけないじゃん。疑似恋愛として、「この人はイケてる」と右に倣えしてるだけじゃないだろうか。
本気で誰かを好きになった人は、本当に思い悩んでもじもじして友達に付き添ってもらって告白したりしてるじゃん。その切なく陰りのある、ぼくから見ても辛さと祈りの入り交じった様子と自分の“恋愛”がまったく違うのを目の当たりにしても、違和感を覚えないものだろうか。
まあ、ぼくも恋愛なんてしたことないんだけど、だからこそというか、なんか同級生の“疑似恋愛”を冷静な目で分析しているわけだ。別に恋愛感情が今までなかっただけで、興味が無いわけではない。これからぼくがどんな人を好きになるだろうか、いつ好きになるだろうか、どうやって好きになるだろうか、————体の関係になったりするんだろうか。一応ぼくもエロいことを想像してオナニーくらいはするのだから、それが好きな人と実際に重なって触れあってするものなら、それと比べものにならないほどの幸福感と快感があるのだろうと推測はできる。まあ、こればかりはね。ぼくはかっこいい虎縞がびよんびよんに伸びてしまっているほどのふとましい体格であるし、誰かを好きになることがあっても、すぐに付き合ってくれる人がいるかというと難しいだろう。おっと、チャイムだ。
「チャイム鳴ったぞ、起立遅い! 日直……虎沢!」
このおっさん、チャイムが鳴る一〜三分前に教室の扉の前に立って、チャイムが鳴った瞬間に教室に入り、三秒以内に起立と言わないとチョークを飛ばしてくる。軌道を把握しているぼくは、飛んできたチョークを下敷きで弾いた。教室が喝采の渦に包まれる。
「避けるな!」
殴られた。そりゃ避けるだろ、暴力なんだから。アホか。
ったく今どきチョークってバカか。粉は飛ぶし、割れたら面倒だし、誰かが拾わなきゃいけないし。ぼくは憤慨しながら保健室の扉を開けた。先生はいないようだ。
保健室には、独特の空気と時間が流れる。
西日が眩しく、ゆっくりと吹き込むそよ風がカーテンを膨らませる。校庭の砂のにおい、石灰のにおい。遠くからは歓声と、バットがボールを打ち上げる音だけが響く。けだるい午後の空気の中、逆光の中に人影が見える。
目が慣れるとそこにいたのはぼくと同じくずんぐりむっくりしたくまだった。ベッドの上でなにやら洋服——私服を畳んでいる。こちらには気づいていないようだ。チラリと顔を見ると、いかつい。ちょっとお友達にはなりたくないタイプだ。ぼくは恐る恐る声をかけた。
「……先生はいないんですか?」
「うわっ びっくりした、先生かと思った。今職員室に忘れ物だって————」
なんだ、恐い人かと思ったけど案外普通じゃないか。ぼくはため息をついて隣に座ると、なんとなく口を開いた。
「数学の熊谷に殴られまして……」
「えっ、そんな恐い先生が……って同じ色の名札ってことは二年じゃん、俺も俺も。転入生でA組の輪月だよ」
「ぼくもA組の虎沢。ぼくの隣が空いてたからたぶんそこだよ」
「そっか、んじゃよろしく!」
輪月は屈託のない笑顔で歯を見せ、少年のように笑う。なんだ、かわいらしいとこもあるじゃないか。なんか今も心はいたずらっこ少年、って感じだ。これなら友達にもなれそうだ。
「……ああ、そうか。制服の採寸して今日取りに来たんだな」
「そそ、よく分かったな。だから今日は制服だけ受け取って、教室には行かないんだ」
「なるほど、じゃあ明日から頼むよ」
「ああ。じゃあ先生によろしくな!」
輪月はまたあの笑顔で帰っていった。
保健の先生が帰ってくるとどうしたのと言われたので、正直に熊谷にぶん殴られたと報告しておいたらなかなかの怒りっぷりだった。そりゃ体罰云々は抜きにしても、生徒に怪我させたら保健の先生としては怒るわな。ざまみろ。
家に帰ると自室に上がり、かばんを床に放り投げる。ベッドに仰向けに横たわると、なんとなく輪月のことを考えていた。たぶん明日隣に転入してくるからだろう。変な意味はない。それよりなかなかいい尻だったな、あれは触ってみたい。……ちょっとムラッとした。今日は輪月で抜くか。本人はぱっとしないデブだけど、まあ尻だけは押しつけて擦りつけたいほどのいいものだった。
制服を脱いでパンツ一枚になると、すでに勃起したチンポにティッシュを巻き付けた。そしてうつ伏せになり、枕を抱きしめると、いやらしい腰つきで股間を布団に押しつけ、亀頭を擦りつけた。指を軽く乳首に当てると、腰を振る度に刺激される。
(はぁ、はぁ、輪月のケツ、エロ……輪月、わつき、わつ……んッ! んぐっ!)
ティッシュの中に射精したはずの精液は、ティッシュの隙間から漏れ出てパンツを少し漏らしていた。はぁ……こんなに気持ち良くていっぱい出たの、はじめてかも……。
ぼくはその日、ずっと輪月のあの笑顔と、卑猥な尻と姿をぼくにみせつけるのとを、交互に妄想していた。
翌日、輪月は入学してきた。扉から入ってきたときこそ恐いという声がひそひそ聞こえたものの、ハキハキとした声で挨拶し、そしてキメにあの笑顔。その後の休み時間、輪月は人気者でにこにこ笑いながらクラスメイトと話をしていた。なんか、気に入らないな。
「虎沢、帰ろうぜ!」
「ああ、うん」
現金なことに、今度はなにか嬉しかった。わざわざぼくなんかを誘ってくれたのが嬉しかったのだろう、多分。
このところずっと輪月でオナニーしている。一番エロくて感度が上がって、毎日射精しても全然飽きない。なんでだろう、あんなにデブで見てくれはパッとしないのに。他の筋肉質でいい体をしてるクラスメイトでもそこそこの気持ちよさだし、飽きるから順番にオカズにしている。それに——脳内クラスメイトに……輪月の尻を想像して当てはめてしまっている。
(輪月、はぁはぁ、わつき、輪月とエッチし……え)
思わず漏れた言葉に驚く。ぼくは輪月とエッチしたいのか? 劣情はふくれ上がる。ぼくの脳内の輪月は一糸まとわぬ姿になり、勃起したチンポをこちらに向けて、体を密着させて腰を振ってくる。まあその、アレだ。この年齢じゃ誰だってエッチに憧れるものだし、デブといってもしばらくオカズにさせてもらっているほどには魅力的なのだから、輪月とエッチしたいと考えるのはごく自然なことだろう。
(わつき、きもちい、わつきすき、輪月、わつき!)
びゅるびゅると音でも出そうなくらいの激しい射精をし、見なくてもパンツにかなり漏らしてしまったと分かる。漏れ出た液を拭きながら考える。
(でもぼく、輪月好き、って言ったよな、ぼく……オナニー中の言葉のはずみなのか、……本当にそうなのか)
ぼくは眠りに落ちるまで、かなり長い間輪月のことを考えていた。
相変わらず輪月は屈託のない笑顔でおはようと言ってくる。どうということのない話をしたり、授業の分からないところを教えたり、本当に普通の学校生活を送っていた。でもぼくの視線は輪月の体のいろんなところを向いていた。丸い手、頼れる肩、広い背中、大きな尻、扇情的なふともも、抱きつきたくなる腹。
体育の時は時間を区切って順繰りにペアが交代するから、輪月がバディのときはその体を目に焼き付けた。体操着に浮かび上がるもっこりとした股間、しりの割れ目、白い体操着の下にうっすら透ける茶色い毛皮。そしてその焼き付いた記憶を家に持ち帰って、どんどん想像の中で過激になっていく輪月との疑似セックスともいえる激しいオナニーをするようになった。そして、それに従って射精量もどんどん増えている気がする。
ぼくは輪月のことが好きなのだろうか? 芥川龍之介の「恋愛はただ性欲の詩的表現を受けたものである」に依れば、詩的表現をつければ恋愛となるわけだ。ぼくの高まる性欲も輪月へのつのる思いだと変換できるし、そもそも輪月で抜く、輪月でしか抜けないのも、輪月のことしか考えられないほど強く思っていると言い換えることができるだろう。ああ、性欲と恋愛の堺目というのはどこにあるのだろう。大御所の名言だけでは説明しきれないなにかが、ぼくと輪月の間にはあるような気がする。
三年生になった。特に変わらないどころか、思いは強くなるばかりだ。ぼくはもう輪月のことが本当に、狂おしい程好きなのだろう。これが性欲だろうが恋愛だろうがどっちだっていい。とにかく輪月に触って、輪月を抱きしめて、輪月と裸で抱き合って、輪月とエッチして、もっと——つながったりしたい。
プールの授業だ。着替え、水泳、濡れた水着、裸の毛皮、浮き出た股間、なまめかしい尻。全てを目に焼き付けたい。
うちの学校だけでなく、このあたりの高校なども含めて水泳が強い地域なので、水泳の授業はなかなか力が入っている。水着はブーメランパンツだ。今はスパッツのほうが記録が出るとか言うけど、まあこのへんは悪しき習慣ってやつだろう。輪月の裸を見たい今のぼくにはありがたいけど。
黒い生地が濡れてさらに黒くなった輪月の水着は中央に大きな盛り上がりを浮き出させていた。輪月くんのすごい、なんて場が色めき立つ。尻に張り付く生地にもくっきりと割れ目が見える。水着を身につけているとはいえ、体の線全てをくっきり浮き出させている輪月は————言葉に出来なかった。目の前にいるのに裸の輪月を抱きしめられない。
股間が持ち上がりつつあるぼくはあわてて先生にトイレに行くと告げ、更衣室横のトイレに入ってカギをかけた。水着を全部下ろし、輪月に全身を舐めるように触られているところを想像して、チンポ、金玉の裏、尻の間、ふとももの間など、全身を触りまくると、激しくしごき始めた。
(輪月、輪月の尻、輪月のチンポ、好きだ、好きだ!)
勢いよく白濁液が噴出する。
(あっ、あっ、輪月、もっとしゃぶって、乳首も……輪月ッ!)
再び思いは噴きだす。熱い精液はまだ勢いを失わない。
(ち、乳首、や、尻に挿れて……輪月が入ってるよぉ……)
何度も噴きだすと、ぐちゅぐちゅと握ったチンポの先からだらだらと竿を伝って精液が流れる。
(輪月、抱きたい、触りたい、死んでも良いから——)
好きだと伝えたい。ドロリと精液が落ちた。切なさと罪悪感を覚えながら荒らげた息を落ちつかせると、水着を上げてプールに戻った。
その日のプールのバディは輪月だった。体を伸ばすストレッチ体操をしていると、輪月がごく小さな声でささやいてきた。
「虎沢、水着に精液ついてるぞ? 抜いてきたのか? ん? 好きな人がいたら水着姿を拝めるもんなあ」
無遠慮なくまを押しのけて、いそいでシャワーに向かうと、射精後に漏れ出た精液を洗い流して、ストレッチのかけ声が聞こえなくなるまで隠れていた。……輪月に、輪月のことを思ってしたオナニーのあとを見られて指摘された。なんかわからないけど、どこか気持ちが落ち込む。その後ぼくはプールに戻ったけど、バディが輪月にも関わらず、心ここにあらずといった感じで機械的に泳いでいた。輪月はどこか心配そうだったけど、ぼくは何も言うことが出来なかった。
放課後、校門へ向かう道をとぼとぼ歩いていると、耳馴染みのある足音が聞こえてきた。歩幅、脚のすり方の癖、速さ、全部知っているものだ。
「その、ごめんよ、茶化したりして、真面目な虎沢があんなことするくらいなんだから、よっぽどのことなんだよな。俺にできることならするよ」
「ううん、何もないよ」
「手紙を渡すとか、一緒にいてやるとか、なんでもするよ」
「……無理だよ。もうあきらめるよ。もう受験期間だって始まるし、それどころじゃないだろ」
「俺のせいであきらめるなんて嫌だよ……」
「違うよ。誰のせいでもないよ。ぼくに勇気がないだけなんだ」
「……そうだよな、つらいよな」
「……てことは、輪月にも好きな人がいるんだな」
「……本当にダメなんだ。俺、家の都合で引っ越すんだ」
驚いて輪月の顔を初めて見た。きっとぼくの顔には悲壮感が漂っていただろう。
「最後に言おうかと思ったけど……万一成功したら、相手に悪いことしちゃうだろ。……だから、俺の初恋はおしまい」
「……」
「……」
「……」
「……ぁ」
輪月はぼくを抱きしめてきた。
「別れたくないよ、わかれたくないよぉ、虎沢……!」
「!」
「ごめんよ、ごめんよ、お別れするまえにこんなこと言ってごめん……」
「あ……あ……」
「……虎沢?」
ぼくも抱きしめ返すと、輪月は全てを悟ったようにもっと強く抱きしめてきた。
「ホントに好きだよぉ、虎沢、虎沢ぁ……」
「輪月、輪月……! 言えなかった……」
さすがに校門への道で抱き合って大泣きしているわけにはいかない。ぼくたちは肩を組んで、とりあえず輪月の部屋で話をしようということになった。
輪月の部屋にはすでにいくつかの段ボールが置かれていた。本当に引っ越す直前だったのだろう。すれ違いになっていたら、想いを伝えることすらできなかった。……いや、こんな状況で思いが伝わったことは本当によかったのだろうか? 成功したところでどうにもできない事情で別れ別れになってしまうだけじゃないか。
ぼくらは要は別れの会話になってしまうのだろう話を始めた。いつから好きになって、いつもどう思っていて、家でお互いのあられもない姿を妄想して射精して、触れたくて、抱きしめたくて……。そんな話をしていたら、この結論になるのは当然だった。
「虎沢、今エッチしよう?」
断る理由はなかった。お互いの制服を脱がせて、パンツ一枚になった。
抱き合うと、はじめて触れるお互いの毛皮に体をこすりつけると共に、お互いのほおを擦り付け、唇を合わせる。反応の良い若い股間はすぐに盛り上がり、ゴリゴリと押しつけ合う。パンツの後ろから手を入れ、割れ目から指を忍ばせる。
しばらくするとベッドにもつれ込み、下腹部を擦り合わせながら抱き合い続ける。舌を舐め合い、ほおの内側をこすり、興奮するごとに激しくクチュクチュとキスをし、同時に激しく体を擦り合わせる。お互いの距離はゼロだけど、本当はひとつに重なりたい。距離が遠い。その距離を埋めるために、せめて強くお互いをかたく強く抱きしめた。
二十分か三十分か抱き合っただろうか。前がベトベトになったパンツを脱がし合うと、ふたりとも起立したそれがあった。血液でパンパンにふくれ上がり、今までの人生で初めて好きになった人と交われるのだと、これまでで一番きつく勃起していた。すでにぬめる亀頭を合わせ、ぼくは二本を握ってぐちゅぐちゅと滑らせる。もう一本の手で、輪月は両手でぼくの乳首を刺激した。好きな人とチンポを握り合わせて、乳首をいじりあって、この若さで果てないわけがなかった。
「輪月、ぼくのをかけてやるから……」
「虎沢ぁ、今度は俺のも見せてやるから、イクとこしっかり見とけよ」
「はぁ、はぁ、わ、つき、輪月! 好きだ! すきだ! ああああッ!」
「虎沢、愛してる! んぐ……くはああああ、あああん!」
精液が尿道を通り、何度も痙攣して果てるまでの刹那、ぼくは思う。これが性欲だろうが恋愛だろうが、そんなものクソ食らえだ。ぼくは現に輪月を求めている。性欲だけだったらそこそこかわいい人だったら誰だって良いはずだ。もちろん性欲は否定できないけど、それはこの人だからぶつけられるものだ。つまり、この人には性欲以外の何かがある。惹きつけられる何かがある。この人でなければだめな何かがある。それが恋愛じゃなくてなんだというんだ。
ぼくの精液は輪月に、輪月の精液はぼくの胸にぶちまけられた、何も言わなくても、それぞれの胸の愛すべき液体を指にすくうと、それを口の中に入れて飲み込んだ。
その日はカラになるまで交わって、深夜になるまで話をして、いつまでも泣きながら抱き合って、後ろ髪を引かれる思いで家に帰った。
翌日、輪月はいなかった。結ばれただけいいという考え方もあるけど、いちど交わってしまったことで大きな爪痕が残ってしまったとも言える。この傷がなくなるまでの短くない間、ぼくは輪月を忘れられない。ずっとお互いの体が、顔が、声が記憶に残っている。ぼくの初恋は、終わった。
*
ぼくは今、車の助手席に乗って海沿いを走っている。車が欲しい大学生としては、新車に乗るのはなかなかに楽しい。ぼくの車じゃないとはいえ、まさか入学式の帰りに欲しかったミニバンに乗れるとは思わなかった。それより。
「もう会えないんじゃなかったのかな?」
「お、怒るなよ。実家に帰るとは言ったけど、大学で戻ってこないとは言ってなかっただろ」
「はあ……あの涙はなんだったんだ」
「……でも、俺たちふたりとも、ちゃんと大好きなままでいられてよかったよな」
「あ、話そらした」
「え、ええと、今日エッチするだろ?」
「……する」
初恋は実らないもんだっていうけど、案外そうでもなかったりして。ぼくらは初恋を経て、二回目の恋愛でも同じ人を好きでいられた。願わくば、この後もこの人を好きでいられますようにと思ってる。
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