蒼玉の翼の中で

  一

  ぱしゅっ、と軽やかな音を立ててロング缶を開ける。炭酸が弾けて、ごく小さな飛沫が指を濡らした。

  わざとらしい柑橘の香料の匂いのするチューハイを飲みながら俺は歩く。

  スラックスに半袖のシャツ、背中にはリュック。仕事終わりのサラリーマンスタイルで、背中にはじっとりと汗が染みていた。

  背後、遠くから盛り場の喧騒が聞こえてくる。人通りも少なく、駅や大通りに向かっていく者とたまにすれ違うくらい。しかし彼らは、あからさまに俺から距離を取っていた。

  当然と言えば当然だ。

  真っ赤な顔をして、数本の酒缶が入った袋をぶら下げた酔っ払いからは誰もが距離を取りたいだろう。

  低アルコール系へ向かっていく酒類市場に真っ向から逆らう、ストロング系缶チューハイを路上で空けて、まっすぐ歩くのもおぼつかない酔っ払いなのだ。

  俺でも、俺とすれ違いたくない。

  でも仕方ないのだ。今日は全て終わってたので。仕事は後輩の尻拭いをして、上司の御機嫌を伺って、実家からは恋人と孫のコール、そして今日の合コンの失敗である。

  いやまあぶっちゃけ、後輩も上司も実家も、俺としては別にどうでもいい、という枠に入れることができる。実際どうでもいいし……。一番キツいのは最後である。合コン失敗である。

  失敗というか、投了、が表現としては近いかもしれない。

  「っはぁ……」

  飲む。

  歩く。

  今回の合コンは、運び方としては悪くなかった。ヒューマンが好きな鰐の男と二軒目に行って、連絡先を交換することができた。俺はヒューマンなので、初期好感度から高めだったし、鰐の男も素敵だった。

  頭ひとつ分高くて、身体も分厚い。それに鱗のごつごつした感じがあって、話も面白かったし、店員にも敬語で、俺のことを大事にしてくれるだろうという予感があった。

  恋人として、あまりにも非の打ち所がない。

  非の打ちどころも、彼を選ばない理由もないのだが——そこにときめきもなかったのである。

  俺は大型種が好きなのだ。それも、超がつくほどの大型。種族で言えば、鯨や飛竜が好きなのだ。

  彼らの基本的な生活の場は、国の保護する特区だ。狩りや採集で日々の食事を得るが、生態系保全のために税金で彼らの生活を賄っている。人間の文化に馴染むやつは超大型種が対応できる力仕事や専門職に就いていることもあって、こういう森に近いところや、海沿いなんかには超大型種の人が経営する店もある。飛行や長期潜水のような、多くの種が退化させた機能を持っている大型種は、その能力を活かした店を経営することが多い。

  小学六年生の頃、レジャー施設に家族で行ったことがある。その目玉は、飛竜に抱えられて空を飛ぶ、という飛行体験だ。そこで働いている超大型飛竜のおじさんに抱えられて、空を飛んだ。

  頬に当たる風や、足元に無限に広がる街の光景は見事だった。

  でも大事なのはそれではない。

  赤くつやつやとした[[rb:柘榴石 > ガーネット]]の鱗に包まれた豪奢な腕が俺を抱えて(もちろん安全用のハーネスががっちりついていたけれど)、後ろにはクリーム色の胸を通して羽ばたきの筋肉や心臓の鼓動が響き、低くごろごろとした声が響いていた。鋭利な鉤爪で客を傷つけないように取り付けられた覆いさえユーモラスな親しみに見えた。

  それに俺は参ってしまったのだ。

  あの巨大な筋肉の躍動。鱗で組み上げられた華やかな建築。

  俺の初めての射精は、その飛竜のおじさんである。飛行体験から帰って、自室に閉じこもって、肉の感触が消えないうちにペニスを扱いた。精液を受け止めたティッシュの生臭さが厭わしくて、俺はゴミ箱の深くに押し込めた。

  それ以来、俺は何とかしてまともな性癖になろうとした。女で抜けないのはもう仕方がないけれど、もう少し手ごろな大きさの相手を好きになりたかった。

  小型~大型種は、どれも経済とテクノロジーが支配する近代社会文化圏で暮らしているが、3m越えのサイズ感が当たり前の超大型種は独自の文化圏を作っている。だから出会える確率は非常に低い。

  出会いが少ないのだから、いい仲になることはもっと確率が低いし、よしんばなれたとしても、その先の見通しは暗い。俺が超大型文化に慣れるか、相手が標準文化に合わせるかしかないのだ。

  その試みに、今日敗北した。

  結局、あんな素晴らしい鰐の男でもだめなら全部だめじゃん。

  「終わり終わり終わり、俺の人生終わりで~す」

  アルコールで口が緩い。

  ひとりごとが出てしまう。

  缶に口を付けて上を向く。飲み干す。

  あ~あ、でっけえ飛竜と仲良くなってみてえなあ。そうそう今まさに俺に向かって飛んできてる飛竜みたいな……。

  「みたいなぁ——っ!?」

  滑空する飛竜が目に入った瞬間、それは恐ろしい速度で迫ってくる。頭上すれすれに高度が落とされると、飛竜特有の短く太い腕が広げられた。反応する間もなく抱え上られてしまう。中身の入った酒の袋が手の平を離れる。

  うわあ強い! でかい!

  いやそうじゃなくて!

  「ああっ! 酒がっ!」

  いや酒でもないんだけど! 酒大事だけど!

  抱え上げられたときに落ちた酒を、長い首がぐるりとうねって咥える。白いビニール袋の持ち手が、鋭い牙にひっかかり、飛竜の唇にぶら下がった。

  俺を持ち上げたまま、飛竜は羽ばたく。

  翼膜が空気を捉えて、巨躯が宙に浮いていく。

  安全ベルトもどころか、合意のない飛行は犯罪になる。それに危険だ。

  それでも、俺はアルコールや自棄の気持ちもあって、逆に高揚していた。

  こういう颶風のような暴力的な雄を俺は待っていたのだ!

  分厚い筋肉と、黒に近い深い藍の鱗で鎧った身体。飛竜の中でも、[[rb:蒼玉竜 > サファイア]]と呼ばれるタイプ。淡い空色の胸と腹部。刃物の鋭く危険な指先の鉤爪、節くれだった関節。羽ばたきの際に胸の筋肉が大きく膨張して収縮する。その雄大な鼓動。

  長く飢えていた俺を魅了するには十分すぎた。

  すでに飛行体験のときの高度をはるかに超えている。しかし飛竜は俺をしっかりと掴んでいるから、恐怖はない。

  翼が空気を打つ低い音が一定間隔で繰り返され、ある程度の高度に至ると、飛竜は翼を広げて旋回する。それは止まり木を探しているように見えた。

  だから、地上のある一点に指をさした。

  「あれは廃ビルだよ。人がいない」

  「どこだ?」

  人間の言葉は理解するようだ。飛竜は人間を越える知能の持ち主と聞くが、だからと言って誰もが人間の言葉を解するわけではないから、俺は少しだけ安心する。

  意外に素直な聞き返しに、詳しく教える。

  「ほら、灰色のビルがあるだろ。

  あそこはもう封鎖されていて、お前が止まる分には悪くないと思うんだけど」

  「人間と竜は色の感覚が違う。どれだ」

  「ほら、ええと——森のそばに一番高いビルがあるだろう。

  明かりが一つもついてないやつ」

  「あれか」

  飛竜は思いのほか素直に旋回して、俺が示したビルに向かっていく。新条ビルと呼ばれている廃墟で、耐震基準の改正に伴って打ち捨てられた廃ビルである。

  こういった廃墟は、飛竜や空鯨のような空棲種の止まり木になるので、そのまま最低限の整備だけされて残っていることが多い。崩壊しないようにだけ、国税で舗装されている。

  ぐうん、と抱えた相手のことを考えていない暴風のような旋回で、飛竜は止まり木に向かう。上空の風を捕まえて、流線形の巨体が空を泳ぐ。

  止まり木が近くなったのか、飛竜は勢いを殺すように翼をはためかせ、脚を下に向ける。そしてゆっくりと羽ばたきながら古びたコンクリートに着地する。

  「……あー、と」

  竜は二足直立のまま困ったような声を漏らす。俺としてはこのままでもいいのだけれど、手を離されてはかなわない。酔っているのだ、うまく着地できずに足をくじくかもしれない。

  「人間の下ろし方、分かるか?」

  「うるさい! 分かってる……!」

  言い方のわりに優しい手つきで、そろりそろりと床に下ろされる。竜の長い胴は半端に腰を下ろすと背骨に大きな負担をかけるから、本来は専用の器具を使うのだ。しかしハーネスもないような状態では、できるだけ股を開き独特の体勢になって人を下ろす。

  超大型種、特に頑健な飛竜からすれば中型以下の種族は弱者のそれにしか見えないのだろう。少し爪をかすれば血が皮膚を裂いてしまう。

  あの飛竜のおじさんと同じような、逆方向の怖さを知っている飛竜の手つきだった。

  地面に降り立つと、俺は飛竜に笑いかける。直立だと声が届きにくいのか、飛竜は身体を横たわらせ、俺を囲い込むようにとぐろを巻いている。

  「ありがとう。下ろすのがうまいな」

  「……お前、何で落ち着いてんの……。飛竜訓練所にいたのか?」

  飛竜がこっちの文化圏に慣れるための訓練所である。

  一度だけ志望していたが、彼らを邪な目で見てしまうのでやめた。

  「いいや。ただのサラリーマンだよ」

  「さら……? なんだ?」

  「仕事をしてお金をもらって、それで暮らすんだ」

  「ふうん。まあ訓練所にいないならいいや」

  さして興味がなさそうに、飛竜は牙にひっかけていた袋をこちらに渡してくる。

  「ほら。お前のだろ」

  「ありがとう」

  袋の中を見る。缶はへこんだり割れたりはしていない。飛竜は興味深げに覗き込む。

  「なんだそれ」

  「酒だよ。そっちの文化圏だと……、ほら、落ちた果物食って変になるって見たことないか?」

  果物が落ちて、そこで発酵することがあるのだ。醸された果物は自然の酒になって、稀にそれを野生動物が食べることがあるのだ。

  飛竜はうなずいた。

  「たまにいた。真似して食ってみたが、けっこううまい」

  「あれを飲み物にしたようなものなんだ。飲んでみるか?」

  飛竜は肉体だけでなく内臓まで頑健だ。アボカドや玉ねぎ、チョコレートまで難なく消化してしまう。アルコールだって問題ない。そういう文献を読んだことがある。

  そう思って俺は、缶を一つ取り出す。

  銀色の缶はまだ冷えていて、水滴を纏っている。

  「ほら、注いでやるから口をこっちに……」

  「いらん」

  舌が伸ばされて、俺の手から缶を絡めとる。にゅるりとした温かい感触に、心臓が跳ねるのが分かる。

  マジで逆ナンじゃねーのこれ!

  訓練所のことを気にしているから、恐らく純正の森育ちじゃない。訓練所からの脱走だろう。一番物騒なのは、俺を逃走のために人質にする、だ。一番楽観的なのは、ちょっと脱走してる間に、面白そうなもの(相手の興味から考えると酒だ)を持っている人間がいたからからかいに来た、辺りだろう。

  どっちだ……!? 下心ってこっちから出していいやつ!?

  俺の駆け引きの計算をよそに、飛竜は長い顔を上に向けて——缶を噛み砕いた。

  挟み込んでいた牙がアルミ缶を破り、中身がこぼれる。一口で酒が彼の喉を流れていった。数回ほど喉仏が上下して、ぷっ、と缶が吐き出される。無残に穴だらけである。

  「ううん……まじい」

  味の薄い、酒の感じを楽しむものである。初心者が口にするにはハードルが高かったのかもしれない。

  喉を鳴らして、飛竜は俺に覆いかぶさる。

  あ、これよくないかも。

  有翼種の習性だ。捕まえた獲物を逃さないために、あるいは奪われないために翼で隠す行為がある。動物用語でいうところのマントリング。獲物というのも大きく分けて二種類だ。上からがぶりといかれるか、巣に持ち帰られておもちゃルートくらいか。

  く、喰われて死ぬのはさすがに嫌だ、せめておもちゃルートを引きたい……!

  飛竜文化における小型・中型種は、かなり扱いが違う。言葉も文化も違うので、食人被害もないではない。鴉が光物を集めるみたいに、お気に入りの生き物を巣に連れ帰ることだってある。

  訓練所から脱走して、自分の巣に帰るときに俺を連れて帰ろうとしている?

  わ、悪くないが俺にもいろいろと準備がある……! アパートの契約切って、身辺整理して……! 大型種のおもちゃルートの生存率ってどれくらいだっけ……!?

  円錐状のテントになっている翼膜の中、薄青色に透かした月光を受けながら、がぱりと飛竜が口を開ける。とろりとした唾液が俺の頬にこぼれ落ちる。

  あーこれ前者ですわ!

  俺は一瞬で生存を諦める。こちとら諦めるのだけはうまいのだ。

  しかしギロチンに首を落とされても、数秒は意識が残るという。

  それは嫌だ。せめて数秒で終われ、中途半端に生きながらえるな、すぐに死ね俺!

  べろん。

  温かくぬめる舌が、俺の顔全体を舐めた。舌は柔らかく、顎から唇、鼻、瞼に額を舐め上げ、すぐに額から顎まで舐め下ろされる。

  「……は?」

  ぽかんとしているうちに、飛竜は興奮した様子で、俺の顔じゅうを舐め回している。アルコールの匂いを帯びた舌肉が、ぬっちゃぬっちゃと俺の顔に塗りつけられている。

  何だこれは。

  夢?

  「お前、俺のことが怖くねえのか」

  舌を離して、低い声で囁かれる。

  飛竜の喉がどうどうと響いているのが分かる。

  「怖いは怖いけど……」

  俺は飛竜の唇に唇を付けた。

  これは逆ナンだ。

  求愛かもしれんが、それは今はどうだっていい。求愛でもいい。

  たとえ何か後遺症だとか、まずいことになったとしても、一生のオカズになるだろう。それは俺みたいな奴にとってはものすごく重要なのだ。

  忘れさせてくれ。これまでのことも、これからのことも。

  「俺を殺すつもりじゃないんだろう」

  「む……」

  ちろりと飛竜の舌が漏れてくる。青い光の下で、淫らに赤く照っている舌の肉を食んだ。びくん、と飛竜の身体が跳ねた。そこには、多分、自分よりも弱くて小さい生き物を壊してしまわないかという恐れが隠れていた。

  飛竜の方が覗かせた恐れを払拭させるように、むしろ俺の方が努めて明るく言う。

  「じゃあ、合意だな」[newpage]

  二

  深い藍の鱗に覆われた口吻を、ずりずりと顔にすりつけられる。訓練所で丁寧に手入れされているのか、鱗はなめらかでやすりのような感じではなかった。硬い凹凸ではあるが丸みを帯びているので、ヒューマンの柔らかい皮膚でも削れたりはしない。

  助かった、と安堵しながら、飛竜種の愛情表現を受ける。

  「訓練所には好きな相手はいなかったのか?」

  「……あそこは好きじゃない」

  鼻を鳴らす飛竜。その勢いで俺の髪が揺れた。温かい息は、酒の匂いに加えて飛竜種の香ばしさも混ざっている。

  「空が狭い」

  短く言うと、飛竜は、俺の額を舐めた。

  「狩りをしなくても飯が食えるのはいい。金……? がもらえるのもいいんだろう。でも空が狭いのは耐えられん」

  「だから訓練所から脱走したのか?」

  「ちょっと抜けただけだ。ほら、人間に合わせてやるから口を開けろ」

  つまらない話をするな、と言わんばかりに飛竜は情事を進めていく。俺も乗り気なので、性急な運び方でも構わない。多少乱暴でもいいくらいだ。

  唇を割り開いて、長い舌が入ってくる。歯列をなぞるとか、口蓋をくすぐるだとかの技巧はなく、とにかく質量と体積で押し込まれる。

  「むぐ……!?」

  愛撫というよりも蹂躙だ。一方的に貪られてしまっている。顎もつらいし、息もほとんど塞がれている。はるかに大きな体格でなければ成立しないキスだ。

  反射的に飛竜から離れようとするが、とぐろを巻く長い胴が俺の身体を絡め取っていてまともに動けない。しかも翼が俺を外界から隠している。ここは飛竜の檻だ。逃げることはもちろん、もがくことさえできない。

  「っん、う、ふう……っ」

  酸欠と、嘔吐反射で身体が跳ねる。舌が喉奥を越えてくる。加減が分からないのか、飛竜の舌は深くまで入ってくるのだ。

  「ぐ、っんぐ、げえぇ……っ!」

  耐え切れなくなって、えずきながら身体を反らす。流石にまずいと思ったのか、凄まじい速さで舌が引き抜かれた。粘膜を柔らかな肉が擦過していく、嘔吐に近い感覚。神経が勝手に胃を突き上げる。

  「大丈夫か?」

  「っげ、……っほ……」

  胃液が渦巻いている。しかし吐くまでには至らない。

  嘔吐と胸焼けの不快感が腹の中に溜まっているのにどこにも行かない。

  しかし、とぐろの下で、俺のペニスだけが興奮を示している。

  「そうか、あまり奥に入れるときついんだな」

  面白そうに言いながら、とんとんと舌先が俺の唇を叩く。口を開けると、舌が絡まってくる。酒の匂いの染み込んだ唾液がじゅるじゅるに流れ込んでくるので、舌でこそげとるようにして飲み込む。

  じゅるぷ……じゅぷじゅぷ……。

  じゅるるるる……っ!

  飛竜の唾液は柑橘の香料とアルコールがあって、その向こうにかすかな甘さがある。緩めの餡かけのようにとろりとした粘性を帯びていて、ひどく熱い。唾液を飲み込むたびに俺の腹の中で燃えるようで、興奮させられる。

  強く、大きく、堅牢な雄の唾液を、俺の身体が欲してしまう。

  知らない欲望におののいて、反射的に飛竜から離れようとするが、とぐろを巻く長い胴が俺の身体を絡め取っていてまともに動けない。しかも翼が俺を外界から隠している。ここは飛竜の檻だ。逃げることはもちろん、もがくことさえできない。

  力の差を明確に感じた途端、俺の深いところが震えた。

  「ん……ふあ……あぁっ!」

  喉の奥から脊椎にかけて、甘い痺れが走る。

  興奮が、キスの刺激だけで一つの頂を越える。

  「暴れるな」

  絡みつく竜体が俺を拘束している。だが興奮を煽るだけだ。

  俺はこういう風に食われたかったのだから。

  「ん……っ」

  硬くなっている股間が竜の鱗に押さえつけられて、淡く直接的な快感が走る。ズボンの中で擦れて気持ちがいい。

  舌を再度抜いて、飛竜が身体を緩める。

  「おい、何か持っているのか?」

  飛竜が俺の股間のテントに目を向けると、首を伸ばして、牙で器用にズボンを下ろされてしまう。ばねのように、硬くなったペニスが反り返って、飛竜の額に俺のペニスが当たってしまう。

  「うぁ……、ご、ごめん……」

  しかし飛竜は、にやりと笑って舌なめずりする。

  「これがヒューマンの生殖器だな?」

  にゅる……と、赤く濡れそぼった飛竜の口に俺のペニスが絡めとられる、熱く柔らかな肉の感覚に包まれる。超大型種の性質である、高い体温。彼らしか持たない熱。

  にゅるにゅる、にちゃにちゃ……。

  「あ……、気持ちいい……」

  巻き付いた舌が蠢いて、俺のペニスを柔らかく扱く。飛竜の炎のような体温だけでもイきそうなのに、粘つく唾液のぬめりもペニスに絡みつく。ざわざわとした甘い痺れが腰にわだかまり始まめる。

  それに、唇からのぞく牙の危うい輝き、死の予感が俺を興奮させていく。この飛竜が、少し気が変わるだけで、うっかりするだけで俺のペニスは噛み取られてしまうのだ。

  それを自覚した瞬間に、俺の視界が真っ白に染まる。

  「っ、う……、もう……!」

  背筋がざわめく。下腹の痺れが、甘く尿道を駆けて吐き出される。絡みついた舌肉の中で、俺のペニスが何度も跳ねる。とろけるような快感の中で、俺は無意識に腰を振り立て、舌肉にペニスを擦りつけた。

  「っぐ……!?」

  口で精液を受け止めるのはおろか、ヒューマンの射精自体初めてなのだろう。飛竜は目を白黒させている。

  「んく……っく……」

  「あ、吸われると……」

  俺の射精が落ち着くと、飛竜はペニスを咥えたまま、喉を鳴らして精液を飲み干す。陰圧がかかって、尿道の精液が吸われる。精液が尿道口をくぐる射精直後にはキツい快感。

  ちゅるんとペニスを吐き出して、満足そうに飛竜が息をついた。

  「これがヒューマンの射精か。可愛かったなあ……。

  ぷりぷりしてて、ねっとりしてて……」

  瞳に強い光がこもっている。お気に入りの光物を愛でる竜の眼差しだった。普段よりずっと早い射精をそう言われてしまうのがいたたまれなくて、俺は目を逸らした。

  だが、飛竜の情事がそれで終わるはずもない。

  俺に絡みついている竜の胴がうねり、肉色の怒張が俺の目の前に突きつけられる。

  で、でっか……!

  長さは前腕と手を加えたくらい。形状は反転したS字型に二度湾曲した円錐形で、先端は親指ほどまで細くなっている。だが根本に近づくほど太くなっている。

  「ほら、俺のも面倒見てくれよ」

  勃起を頬に押し付けながら囁かれる。圧倒的に上位の雄としての響きが満ちていて、心臓が跳ねた。恐怖と興奮がぐちゃぐちゃに入り乱れていて、蒸れた雄の香りと、生殖器にまとわりつく濃厚なフェロモンが、鼻孔に流れ込んできて、危機感をとろけさせてしまう。

  「…………」

  口を開いて、肉槍を咥え込む。湾曲した円錐形の肉棒は、俺のものよりはるかに巨大だ。しかし先端くらいは咥えることができる。

  味はほとんどなく、わずかに体液の塩味がするくらいだ。鱗のない薄い粘膜のつるりとした表面を舌が滑るのが心地良い。

  「ん……」

  挟み込む唇が刺激になったのか、肉槍が跳ねて口蓋を叩く。

  太い手が俺の頭を撫でる。

  くそう、この飛竜、初めてのくせに愛情表現の挟み方だけはやたらうまい……!

  歯が当たらないように唇を歯でくるみ込む。強めの圧力をかけながら、口蓋で先端を擦るようにして、唇全体で扱く。

  口内が刺激されるせいで大量に分泌される唾液を肉棒にまぶし、首を前後させて愛撫を続ける。

  「っはあぁ……! ヒューマン[[rb:口 > クチ]]マンコたまんねえ……!」

  口マンコって……!

  どこでそんな言葉聞いてくるんだ。

  でも実際マンコだ。こうやって、雄に剛直を突き入れられて悦んでいるんだから。

  ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ……。

  とろりとした液体が、先端からこぼれてくる。先走りだ。

  熱く、塩辛く、わずかに苦いそれを舌で絡めとって、唾液と一緒に肉棒に纏わせ、愛撫の足しにする。

  ヒューマンのペニスと構造が全く違うから、気持ちいい場所が分からない。裏筋や亀頭がないので、痛みを与えないようにだけ気を付けて、とにかくぬめりを多くして、唇の輪で刺激する。

  「へっへ……口、ちっちゃあ……!」

  じろじろとフェラをしている顔を覗き込まれる。

  な、なんか微妙な感じ……。

  しゃぶってるときの顔とか、みっともないからあまり見てほしくない。しかし飛竜的にはときめきポイントなのかもしれない。俺だって、飛竜の荒々しい口元が好きなのだし。

  「あ、やべ、イ、イく……! 飛竜ザーメン出る出る出るぅ……!」

  飛竜の腰が震える。ペニスが硬さを増す。

  慌てて舌を先端に当てた瞬間、唇の中で肉棒が脈動した。

  びゅるるるっぶびゅるるるっ!!

  びゅううううっ!!

  どぷん、どぷどぷどぷ……。

  大量のザーメンがペニスから吹き上がる。舌で受け止めるどころではない。雄のフェロモンに満ちた青臭く粘つく精液が、さながら白い津波のように俺の口内を埋め尽くす。

  凄まじい勢い。舌の壁を押しのけて、口蓋を打ち、喉奥に押し寄せてくる。嚥下しようとするが、匂いが濃く、粘性が強すぎるせいで飲み込むのに手間がかかる。

  口内を満たした精液は逆流して、ペニスと唇の先からこぼれていく。

  「っん……、げぶっ! うぶぅっ!」

  えずく俺を気にしている余裕がないのだろう、飛竜は俺をきつく抱きしめる。竜体はぎしぎしと身体を締め付け、翼膜はより狭く俺を囲い込む。

  口から漏れた精液が顎を伝って、飛竜の胴に落ちる。濃紺の鱗に、白い体液がてらてらとした。

  飛竜の射精は長く続き、俺はほとんどのザーメンをこぼしてしまう。口を満たした精液は非常に濃く、飲み込むことも容易ではない。

  「う……ふう……」

  俺の口からペニスを引き抜いた飛竜は、躊躇のそぶり一つなく、俺に顔を寄せてくる。

  キスをするつもりだ。

  しかしこちらは、相手の精液でいっぱいなので、つい顔を反らしてしまう。

  「ん……」

  「おい、逃げるな。どうせ俺の出したものなんだ」

  「ん、んぐ、ふ……っ」

  長い首を伸ばして難なく捕えられる。巨大な口に齧られるようなキス。舌に唇を割り開かれ、中の精液を啜られる。雄汁がじゅるじゅると音を立てて舌の上を流れていく。

  口を付けたまま、飛竜は自分のザーメンをぐちゅぐちゅと咀嚼して、まるで求愛のように俺に一口ずつ分け与えてくる。

  「っく、ん、こく……っ」

  「飲みやすいようにツバも混ぜてやったぞお……? ザーメンうまいか?」

  「んぐ……、お、おいしい……」

  嘘ではなかった。

  細かく噛み分けられた一口分を喉奥に運ばれて、受け取るたびに飲み込む。口も胃も飛竜に塗り潰されていく感覚。腹の奥から精子とフェロモンの甘い匂いが立ち昇る。

  噛み砕かれて、唾液とぐちゅぐちゅに混ぜられた雄汁を、俺は今度こそこぼさないように飲み干す。

  上位の雄の香りが、俺の内臓に塗り込まれていく、被虐的な感覚に酔う。

  くらくらする。

  酩酊の中で、飛竜は丁寧に精液を飲ませる。俺の口の中に残った欠片も舐め取り、飲み込みやすいように唾液と混ぜて、流し込んでくれる。

  最後の一滴が終わると、飛竜は俺の顔をべろりと舐め上げた。

  ◇

  まだ勃起が残っている。

  「なあ……。いいか?」

  飛竜の言わんとすることが俺には分かった。

  頷くと、飛竜は竜体の拘束を解いた。そして翼の片方を床に敷き、俺をその上に横たわらせる。

  翼膜は風を捕まえる飛竜の生命線だ。強靭な部位とはいえ、あまり危ないことはしたくない。

  「これ……痛まないか?」

  「お前の重さくらいで翼は痛まない。お前は柔すぎる」

  俺のことを気遣ってくれているらしい。舐めるな、という感じで飛竜は言って、もう片方で目隠しのように翼が広がる。

  薄闇の中で、ぼんやりと飛竜の瞳の輝きが浮かんでいる。琥珀色の細い瞳孔が、俺を捕らえていた。

  飛竜の尻尾が器用にズボンを下ろして、尻を露わにする。下半身裸になると、俺は脚を持ち上げ、身体をくの字に折るようにして穴を向ける。

  途端、熱いものが押し付けられた。

  「う……」

  あれだけ巨大なものが入ってくると思うと、やはり怖い。

  こわばりに察したのか、飛竜が先端を押し付けたまま、俺の唇に唇を重ねた。

  「……ん、ちゅ、ふ……っ」

  「ちゅっ……じゅる、じゅぷ……」

  舌を絡める。飛竜の舌はやはり熱く、そして柔らかい。

  瞳が、いいな? と探るので、俺は尻を押し付けて答える。

  ぐ……。

  唾液と先走りで濡れた肉棒は、少しずつ俺の中に入ってくる。

  凄まじい違和感。排泄に近い異物の感覚が、尻を逆流する。その度に反応する神経が尻穴を収縮させる。

  「く……、もう少し、力を抜け……!」

  「ん、っく、……んん……」

  分かっていたことだが、かなりきつい。肉槍は恐ろしく熱く、そして太い。

  深い呼吸を繰り返し、筋肉の緊張が緩む瞬間に僅かずつ剛直が俺の中を進んでいく。深くなるたびに尻の筋肉がみちみちと無理矢理に拡張されていく。

  飛竜の胴に脚を回す。内腿の薄い皮膚に、よく磨かれた鱗が触れて気持ちいい。呼吸の度に腹が膨らんで萎むのが可愛い。そう思ったときに尻穴が緩くなり、また一歩肉棒が踏み込む。

  半分ほど入ったあたりで、飛竜が動きを止める。俺の下腹部が中から押されていて、山ができていた。飛竜が喉を鳴らす。

  「ぐう……、きつい……」

  「い、……痛むか? ごめんな」

  「痛むのはそっちだろ……」

  すりすりと尻尾がうねって俺の頬を撫でる。体格差のせいで唇が届かなくてキスができないのだ。

  ゆっくりと、飛竜が腰を引いた。ぞりぞりと湾曲した肉槍が腸壁を抉る。凶悪なほどの快感があった。

  「あぐ……っ!?」

  湾曲の面が、前立腺を捉えたのだ。

  引きつりや異物感の向こうに、確かに甘い快感があった。

  細かく飛竜がピストンする。俺の腸を破らないように気遣われたピストンだ。不自由そうに、ペニスを俺の腸で擦っている。

  本来は快感を得る器官じゃない。しかし、この荒々しい肉体に貪られている感覚が、気持ちよさにじわじわと変わっている。

  「人マンコ、小っせえ……!」

  言葉面はともかく、甘ったるい口調で飛竜がこぼす。

  「なあ……! こんだけキツキツなら初めてだよな……!」

  「ん、ん、そう……! ってか……、ケツは、初めて……!」

  「やったあ、処女もらっちまった!

  こんなに可愛いのに、俺がもらっちまった……!」

  言いながら、ずちゅずちゅと細かなピストンが繰り返される。その度に下腹の山が移動する。

  内臓を圧迫する苦しさに、前立腺の甘い快楽が滲んでいる。

  「っは……! んは……っ!」

  「初めての飛竜チンポだぞ……! 気持ちいいか……!?」

  「あ、ああっ! 気持ちいい、飛竜チンポ気持ちいい……!」

  ずっちゅ、ずっちゅ、ずっちゅ……!

  浅いピストンだが、絶えず前立腺をごりごりと犯されている。

  尻穴が肉棒にくらいついて離さない。でも俺の意志じゃない。俺から俺の身体が引きはがされている。俺の身体が肉の筒になって、飛竜に犯されている。

  それがたまらなく気持ちいい。

  もっと。

  もっと食われたい。

  「あ、また……! また出る、飛竜ザーメン出る……っ! ううぐうううぅぅ……っ!」

  ずるるるぅ、と飛竜が俺の胎内からペニスを引きずり出す。

  返しのように湾曲した先端がごりごりと肉壁を擦り上げる。

  殴りつけられるような暴力的な快感。

  ぬらりとした粘液を纏う雄槍が脈動して精液を吐き出した。

  ぶびゅうううううっびゅるるるるるっ!!!

  びちゃびちゃびちゃ……!

  淫らな水音を立てて、精液が俺の身体にぶちまけられる。

  二回目だというのにかなりの量だ。俺の勃起もシャツも、まるで噴水のような勢いの射精でべっとりと汚されてしまう。甘く焦げ臭い飛竜の精液が、顔や髪まで届いていた。汚される高揚が加速する。

  「ああ……! 気持ちよかったあ……!」

  精液でべとべとの俺を見下ろして、飛竜は満足げに息をつく。翼でくるみ込んだまま尻尾の先を俺のペニスに巻き付かせる。

  「っあ……!」

  「ほら、お前もイかせてやるからなあ」

  にゅくにゅくにゅく……。

  雑に扱かれるだけの刺激だが、前立腺を犯されていたから射精までの距離が恐ろしく近い。

  「ん……、あ、あう……」

  でも。

  でもまだ足りない。

  食われたい。

  「噛んで……」

  口をついて、呟きがこぼれた。

  「噛まれてえの? いいぜ」

  飛竜が答える。

  尻尾でペニスを扱きながら、俺の肩に口吻を寄せる。翼の隙間から漏れた月光を受けて、ぎらぎらと輝く牙が見えた。

  鋭角な刺激が、肩口で弾ける。牙が皮膚を破いたのが分かる。そして温かい液体がこぼれる。

  痛みが興奮を加速させる。もっと深くもっと強く、俺を噛んでほしい。食ってほしい。お前のものにしてほしい。

  「あ、あ、あ……! イく、イく、イく……っ!」

  尻尾の中で俺のペニスが跳ねて射精する。鋭い快感をさせて、精液が放たれて、俺の腹の上で飛竜の精液と混ざった。

  射精がおさまる頃、ぬちゃあ、と血と唾液の混ざった糸を引いて、牙が離れる。

  飛竜は微笑すると、[[rb:蒼玉 > サファイア]]の鱗に覆われた額を精液がついているのも構わず俺の額に擦りつけた。[newpage]

  三

  「ちょっとそこらから、拭く物を取ってくる」

  と飛竜が呟いたとき、屋上のドアが開く。

  何だ、と思った瞬間、銃声が轟く。飛竜の翼膜がびりびりと震え、俺をぴったりと囲い込んだ。

  「えっ……」

  なにごとだ。翼膜にさえぎられて様子が分からない。

  足音からすると、闖入者は複数人いる。

  若い男の声が響いた。拡声器を通しているようで、反響するような感じがある。

  「一発目は空砲です、二発目は当てます。こんな夜更けに仕事させないで下さい」

  「せ——先生」

  飛竜が、若い男を先生と呼んでいる。心なしか、驚きだけではなく委縮しているようだ。

  「止まり木の管理者から通報がありました。

  あなたが頑張って適応しようとしているのは分かっていたので、空を見るくらいは許していましたが……裏目に出たようですね」

  「通報って……」

  「人間の拉致監禁、性的暴行は重罪です」

  う……うわ、話が見えちゃった。

  そりゃあそうか……監視カメラくらいあるか。

  じゃあこれ、一部始終見られてたってこと?

  暗視の監視カメラの荒い画質では、どう見ても飛竜が人間をレイプするものなのだろう。

  思った途端、俺は翼の中から叫んだ。

  「ご……合意です!」

  「は?」

  先生と呼ばれた声が虚を衝かれたような声を出す。

  敷かれていた翼膜を踏まないように立ち上がって身体を出そうとすると、慌てて飛竜が翼膜を広げる。

  「あーっバカ出てくんな!

  ほら、ヒューマンってこういうとこ他人に見せないんだろ!?」

  「え、でも説明しないと君が怒られるんだろ?」

  「だからって……!」

  「いいからいいから」

  半ば押し切るかたちで、のれんをめくるように翼膜から顔を出す。

  屋上の入り口には、銃を構えた警官らしき男が数人と、拡声器を持った若い男がいる。この若い男が先生らしい。涼やかな顔に黒縁眼鏡をかけて、白衣に長い髪をハーフアップにしている。

  警官は精液まみれの俺を見て、一瞬だけ気まずそうにするが、視線を外さない。

  「ええ……っと、すみません、こんな格好で」

  「あ……いや」

  さすがに先生は目を逸らしている。バスタオルを脇に抱えているが、ここまでどろどろだと思わなかったのかもしれない。

  「ねえ、これって最初から話した方がいいよね?」

  と、飛竜を見上げると、どうしよう、といった風情で先生と俺を見比べて、

  「そ、その、先生、この人は……」

  「彼から逆ナンされました! めっちゃ合意です! こんなところでほんとにすみません!」

  「おい黙ってろ、お前が入ると話が変になる!」

  「でもレイプ犯になるよりいいだろ! 先生、でしたよね? すみません深夜にご迷惑をおかけしまして……」

  先生が頭痛を持て余すように、眉間を押さえる。もしかしたらこの人はけっこう苦労人なのかもしれない。

  警官たちに銃を下ろさせ、

  「あの……ちょっと人間同士で会話をしたいのですが、来ていただいても」

  「わ、分かりました」

  「だめだ」

  俺は了承するが、飛竜が拒んだ。

  「おい、話を難しくするなよ」

  「今のお前を人前に出したくない」

  「……む」

  それはそうだ、というか、俺だって全身精液まみれで出るのに抵抗がないわけがない。

  先生がため息をつく。

  「分かりました。じゃあタオルを投げるので、それで彼を隠してあげて下さい」

  畳まれた白いバスタオルが投げられる。首を伸ばして咥える飛竜。

  飛竜の翼の覆いに俺は再び戻り、バスタオルを受け取って広げる。特注なのかかなり大きい。大人の男でも問題なく隠せそうだ。

  顔や髪に絡んだ精液をふき取り、俺は服の上から布を巻きつける。こぼれた精液でスラックスやパンツは穿ける状態ではなくなっているので、そのまま拾う。

  うへー、このスーツは買い直しだな。

  「その……すまん、こんなことになって」

  と、飛竜が俺に囁く。

  「こっちこそ悪かった。止まり木にカメラがあるなんて知らなかったんだ」

  さっきまであれだけ雄らしかったのに、自信なさげに俺を覗き込む琥珀色がなんだかおかしくて、俺は背伸びをして、軽く彼の口吻に口づけた。

  俺は翼から身体を出す。

  ◇

  結論から言うと、飛竜はお咎めなし——というかめちゃくちゃ怒られるだけで済むようだった。

  公共の場所のセックスということで、さすがに俺は罰せられるかと思ったが、飛竜に言い寄られた場合は下手に断ると危険があるということで、何もなかった。

  「本当に合意なんですよね? 脅されたとかレイプとかではなく」

  「ええ、まあ、はい」

  「でも肛門裂傷だけじゃなくて噛まれていますよね? それに、別に面識があったわけじゃないんですよね、彼と」

  「面識はないんですけど……ビビビと来たと言いますか。あと、噛み傷は、私がねだって……」

  性的な事柄なので、事情聴取は訓練所の事務室で先生と一対一だった。ギリギリ犯罪にならない——内々で収められるかどうかの境界線上——ということで恐ろしく神経を使っているようだった。

  シャワーを浴びて、着替えを貸してもらい、長い時間の聴取が行われた。

  俺の一言で飛竜が有罪になるかどうか、訓練所の監督不行き届きになるかどうかだったのだろう。

  結局、内々で済ますことになった。

  「あの子の息抜きになると思って、見ないふりしていたんですよ。前からちょくちょくしていましたし……。

  そりゃあ山からこんな宿舎に暮らすことになったら、息が詰まるでしょう。

  でも、これが犯罪になれば飛竜の訓練環境はもっと厳しくなるところでした」

  先生は聴取の終わりにそう言って、息をついた。

  「彼のことが好きなんですか。飛竜なのに?」

  「え、……ええ、まあ。まだ知り合ったばかりですが」

  「まるで人間同士の恋みたいに仰るんですね」

  「そんな変わんないと思いますけど……」

  そう返すと、先生はパイプ椅子の背もたれに、体重をかけた。

  「あの子はこっちに来てから、飛竜の友達もできないし、訓練士ともうまくやれていません。

  もしよければ、ちょくちょく顔を出しませんか」

  「いいんですか?」

  「誰だって、好きな人が応援してくれたら頑張れるでしょう」

  そういうことで、飛竜との交友がなし崩しに認められたのだった。俺は訓練所からスーツの弁償をしてもらった上に、飛竜との関係構築までできてしまった。

  すげー。

  聴取が終わってから、俺は職員に連れられて飛竜の宿舎に顔を出した。

  「よう」

  宿舎は山の環境が再現されている。土に草、木、傾斜があって、壁に囲われてはいるが十分に広い。天井は吹き抜けになっていて、見上げると、四角に朝方の空が切り取られていた。

  [[rb:蒼玉竜 > サファイア]]は地面にとぐろを巻いてぐったりとしていたが、こちらに気付くとがばっと身体を起こした。

  そのまま立ったまま翼で覆われてしまう。日光が遮られて、薄闇に閉ざされた中に、覗き込むように首が伸びる。

  こいつもしかして相当独占欲強いんじゃないのか?

  「大丈夫か! 先生にねちねち説教されなかったか!?」

  ねちねち説教されてるんだ……。

  先生はお前のことけっこう大事そうだぞ。

  俺は手を伸ばして、飛竜の首をかりかりとかいた。ぐるるる、と心地よさそうに喉を鳴らしながら、飛竜が瞼を細めた。

  「たまに来てもいいってさ」

  「え、また会えるのか?」

  「だから訓練を頑張れよ」

  翼の中で、俺たちは誰にも見えないように唇を重ねた。