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クリスマスイブの夜は窓を閉めなければならない

  月日が経つのは早いものだね、もうすぐクリスマスだよ。非モテかつ友達がほとんどいないぼくにとっては全く関係のないイベントだと思っていたけど、この間仕事中に見ていたWebサイトによると最近はそうでもないらしい。グルメツアーやセールやディナーショーなど、おひとり様にもやさしいイベントが増えているのだとか。

  それにしてもハロウィンの時は不覚を取ってしまった。中心街で行われている大規模で楽しいハロウィンイベントに参加するはずだったのに、町内会に捕まって町のハロウィンイベントで生意気なこどもたちにお菓子を配ることになってしまったのだ。

  今年のクリスマスにしたって、町内会に捕まってしまうと今度はサンタ役でプレゼントを配ってくれなどと言われるのが目に見えている。でも二度同じ事を繰り返すぼくではない。今回は先手を打って、町内会長にクリスマスとイブの両日は法事ですと言っておいた。これで大丈夫なはずだ。

  *

  今日の夕方から街で行われるクリスマスイブのイベントは、都会の中心街というだけあってかなり大規模に行われるようだ。なんでも商業街から駅や公園まで、民間と公共施設がコラボレーションしてイベントを行うのだという。ぼくもディスカウントショップで買った五千円のサンタ服を着て公園にかけつけた。

  なぜディスカウントなのに五千円もしたかというと、ぼくのサイズは大きいサイズ扱いになってしまうので他のサイズより高いからだ。ちくしょう! これから大いに飲んで騒いでいやなことは忘れようと思っていたのに、サンタ衣装を買っただけで心理的にも金銭的にも手痛いダメージを負ってしまったよ!

  すっかり日が沈んだ空の下には煌びやかな電飾が輝く。街の中心に設置された超大型のクリスマスツリーは、Webサイトの前情報によると十メートルあるらしい。へえ、先端がショッピングモールの二階に届きそうだね。さすが大きなイベントだけあって電飾や飾り付けもびっくりするほどゴージャスだ。もちろん公園や周囲のお店も思い思いに飾り付けをしていて煌びやかだ。これを見ることができただけでも来た甲斐があったというものだ。

  町内会のイベントに参加していたらきっとサンタ役は神社に集合で、ちょうちんがクリスマスイルミネーション代わりになっていたことだろう。少子高齢化が進んだ町だから参加者はお年寄りと子供ばっかりだし気にならないのかも知れないけど、ナウなヤングなシティーボーイのぼくとしてはやっぱり派手なイベントに参加したいのだ。

  ええと、たしか公園では二十時頃から大きなイベントが始まるはずだ。それまでに食事を済ませておこうか。せっかくだから今日は豪華なものが食べたい。Webサイトによれば今日はクリスマス限定メニューをやっているところが多いはずだ。

  飲食街を歩いて一軒一軒回っているのだけど、看板には『クリスマスディナー・二名様五千円から』とか、『ファミリー限定・クリスマスメニュー』とか書かれている。ジーザス! 独り身には肉を食べる権利もないのかい!

  だからといってコンビニはイヤなので、結局いつものファミレスに来た。中心街にあっていつもは混雑しているファミレスの店内は閑散としており、ぽつぽついるのはスーツのサラリーマンや学生らしき人などいずれもおひとり様ばかりだ。普段は一人でも特に気にすることはないのに、食べたかった豪華な肉料理にありつけなかった上にひとりでファミレスというのはどこか惨めな気分だ。おまけにせっかく非日常をサンタ服で楽しんでいたのに、突然夢から現実に引き戻された気分だ。

  このむなしさはアレに似ている。テーマパークへ行った帰りに、キャラクターになりきれる耳のついたカチューシャを被ったまま電車に乗るときだ。数駅は友達と楽しかったね、なんてキャラ耳をつけたまま余韻に浸るのだけど、友達がひとり、またひとりと帰っていくにつれて徐々に現実に引き戻されていく。やがてひとりになってふと窓を見ると、そこにはいい歳してポップでキュートなキャラ耳をつけた自分が映っている。

  周りを見たら休日出勤でくたびれたサラリーマンが泥酔してポカンと口を開けて寝ている。隣の席では塾帰りの高校生が参考書を持ってなにかを暗記している。ぼくは何をしているんだろうとむなしさに襲われる。そしてなんとなく恥ずかしげに周りを見回して、隠すようにキャラ耳をしまうのだ。

  ……まあそんな感じの気持ちでサンタ帽とつけひげを取ると、何事もなかったかのように九百八十円のチキンステーキを頼んだ。

  ちょっと現実に引き戻されてしまったけど、ファミレスの外に出さえすれば再び非日常だ。ここからテンションを上げていこう。今日は限定販売やショップイベントもやっているし、せっかくだからどこかのお店に入ってみようね。そういえば冬服をもう少し買い増したいと思っていたところだ。中心街のおしゃれな服屋はいつもなら敷居が高くてぼくには入れないけど、今日はセールもやっているからお財布にも優しい。ぼくにも買えるものがあるかも知れない。

  そんなわけで最寄りの服屋に入ってみた。普段見かけることがない、お洒落で高そうな生地や縫製やデザインの服が並んでいる。格安店で買ったぼくの服とは大違いだ。値札を見るとTシャツ五千円とかパーカー一万五千円とか書いてあって、とてもぼくの財力では買おうとは思えないものばかりだ。

  しかしぼくの狙いは店の一角で売られている福袋だ。なんでも一袋一万円で三万円分の商品が入っているという。一万円ならなんとか出せる。それでいつもよりお洒落な服が三万円分も入っているとすれば買うこともやぶさかではない。迷わず一番近くのXXLサイズの福袋を手に取って購入した。

  店を出て公園のベンチでわくわくしながら福袋を開ける。……どれ、ひとつめはTシャツだ。いいね! ぼくが普段着ている九百八十円でペラッペラで乳首が透けそうな生地のシャツとはえらい違いだ。ぼくにしては幸先がいい。なんだかわからないけど格好いい文字が書かれている。ファッキンヘルってどういう意味なのかな。

  次に入っていたのはマフラーだ。オレンジとブラウンのシンプルなデザインで、毛糸も潤沢に使われているようでとても暖かそうだ。さっそく巻いてみると実際暖かいし、なにかお洒落になったような気分だ。これは大事に使いたいね。

  パンツが入っているよ。どれ、なかなかいいカラーだね。パッケージを裏返すとパンツのサイズや形が書かれている。後ろ側のデザインはどうなっているのかな。……しり側はゴムひもだ。つまりしり丸出しのいやらしいパンツだ。これはちょっと履く機会がないね、悲しいことに。オークションで売ることにしよう。福袋には欲しいものだけが入っているとは限らないから仕方ないね。気を取り直して次に行こう。

  お洒落なキャップが入っているけど、ぼくはハンチングやキャスケットしか被らないんだよなあ。残念、これもオークションで売ることにしよう。

  ……ビーチサンダルが入っている。この季節に誰が使うというのだろう。まあ福袋というのは売れ残りが入っている場合も多いし仕方ないとは思うんだけど、洋梨体型デブのぼくは海やプールに行くのには抵抗がある。ビーチサンダルなんか持っていても使うことはなさそうだ。これもオークション行きかな、この時期に買ってくれる人がいるのかは分からないけど。

  あとは小物類が……タイピンと、ハンカチと、缶バッジと……なんだこれ。これはコンドームですね。パッケージにはモテる男のエチケットがどーたら書いてある。うるさいよ! これを使う相手がいないよ! 前に興味本位で買ったゴムは使うことなく使用期限が過ぎてしまったよ!

  うんまあ好みが分かれる服屋の福袋でシャツとマフラーという使えるものが入っていただけでも、ぼくにしては運のいい方じゃないだろうか。

  服屋を出て、ほかにめぼしい店がないかとあたりを見回してみたけど、虎の子の一万円を使ってしまったからほかの店の福袋はちょっと買えない。しかたないので街ブラしながらメインイベント会場である公園に向かった。すると公園の端にはケータリングのバンがいくつも並んでいて、七面鳥サンドや暖かいドリンクを売……なぜかタコス屋の店員が見覚えのあるヒグマだ。味は期待できなそうだ。

  公園の特設会場にあるステージ脇には巨大ディスプレイが置いてあり、イベントの本気度をうかがわせる。このクリスマスイベントは、ごはんを食べたあとポイントラリーをしながらショップを回り、最後にこの公園に集まってライブなどの催し物を見て最高に盛り上がる、というのがおすすめのルートらしい。つまり今から始まるのは、このお祭り最大のイベントである豪華抽選会だ。

  サンタやトナカイのコスプレ姿の人が集まった人混みを見ていると、なんだか気持ちが盛り上がってくる。やがてスポットライトがついて司会者が登場すると、会場は熱気に包まれた。まもなく抽選会が始まりますというアナウンスが流れた。事前にWebサイトで発行されていたぼくの抽選番号は512番だ。

  さっそく協賛店から提供された豪華な景品が発表される。一位はなんと車だ。ミニバンではあるけれど、最新のモデルでオプションもいろいろついてくるらしい。ぼくは車を持っていないけど、会社の車に乗ることはあるから免許は持っている。自家用車はちょっと憧れるというものだ。……まあ、当たるとは思っていないけど。

  ディスプレイにはルーレットがみっつ表示された。なるほど、あれで一桁ずつ番号を決めていくというわけか。司会者がステージに設置されたボタンを押してルーレットを止めるわけだな。やがてルーレットが回転しはじめると、会場の人々は息を呑んでディスプレイを見つめる。司会者がボタンを押すと、まず一の位が止まる。歓喜の声と落胆の声が入り交じる。同じように十の位、百の位とルーレットが止められると、結果ディスプレイには096と表示された。

  まあ、運の悪いぼくはこんなに大勢の人が参加している抽選会で当たるとは思っていない。とはいえこの大きなイベントで用意されるプレゼントはきっと期待できるようなものだろうから、どうしても小さな期待を寄せてしまうのも仕方のないことだろう。

  司会者に呼ばれていかにもリア充っぽい虎男子がステージに上がると、今度はディスプレイではなく本物のルーレットが運ばれてきた。ルーレットの円盤は円グラフのようにいくつかに仕切られている。ははあ、ダーツを投げて刺さったところの景品がもらえるというやつか。いい景品が当たる部分の面積は小さく、そうでない大きくなるわけだ。ちなみにすでにその景品の獲得者がいる部分に当たるとハズレ扱いで参加賞になるらしい。つまり早く呼ばれた人ほど何かしらが当たる確率が高いわけだな。

  いよいよルーレットが回され、照明がスポットライトのみになる。参加者たちは「く・る・ま! く・る・ま!」と異口同音にコールする。虎は狙いを定めてダーツを投げた。ダーツは高速回転するルーレットに刺さったようだ。さて、何がもらえるんだろう。まだ一番目だから、ダーツが刺さった=どれかしらがもらえるはずだ。やがてルーレットが止まる——

  カランカランと商店街のくじ引きのようなベルが鳴り響く。ディスプレイには三等賞と書かれている。三等賞は大型テレビだ。車を狙っていたらしい虎は悔しいけど嬉しいというような複雑な表情をして笑っている。目録が渡されると虎は人混みに戻っていった。

  次の番号は129だった。おっとりした猫の女の子がステージに上がる。箸より重いものを持ったことがなさそうな風貌なのに、ダーツを持った途端スッと構える。ぼくはダーツの経験はないけど、それでもあの迷いない動きはそれなりの経験者だろうということが分かる。やがて猫はシュッとダーツを投げた。さっきの虎よりも速かった気がする。当然のようにダーツはルーレットに刺さった。

  やがてルーレットが止まる。四等賞だ。賞品はゲーミングノートパソコンだ。知ってる、最新のゲームをサクサク動かせるパソコンはめちゃくちゃ高性能で、お値段もぼくのお給料の……まあ、結構なお値段がするのだ。あの子がゲームをするかどうかは分からないけど、普通のパソコンとして使うにしても高性能であるに越したことはない。すると司会者が女の子にマイクを向けて現在の気持ちを訊く。彼女はピアニストで普段からパソコンで曲作りをしているそうなのだけど、ノートパソコンならスタジオに持ち込めると喜んでいる。うん、欲しい人のところに行き渡ったのならよかったね。ぼくも欲しかったけど。

  その後も空気清浄機、家具店の○万円分商品券、お米などとみんな順調に景品を獲得していく。ルーレットのハズレ部分の割合がどんどん増えていく。自分には当たらないだろうと分かっていても、なんだかやきもきしてしまう。

  半分くらいの景品はすでに誰かが獲っていったけど車はまだ残っている。そりゃ幅三センチくらいのところを狙わないと行けないし、ルーレットは高速で回転しているから実力というよりほとんど運だ。ふたたび抽選番号ルーレットが回る。当たった人は——512番だって。へえ、よかったですね。あれ、誰も出てこないな。会場にいないのかな? もったいない。

  ……ぼく?

  番号を確認すると確かにぼくだ。手を上げて興奮気味にステージへ走った。ステージに上がったら緊張するかと思ったけど、スポットライトで客席が逆光になっていて、それからなにより当たったことに気が動転していて緊張どころではない。動揺はしている。

  司会者にマイクを向けられて問われるがままに名前を答えるけど、自分が何を言っているのかほとんど上の空だ。今なら銀行の暗証番号を教えてくれと言われても答えてしまうかも知れない。司会者は苦笑すると、ポンポンと肩を叩いて深呼吸を促した。スゥー、ハァー……

  視界がハッキリしてくると司会者はにこやかにダーツを渡してきた。欲しい景品を訊かれたのでくまのぬいぐるみと答えると笑いが起こった。なぜなら参加賞は各店から提供された高額の福袋で、ハズレと言っても最低でも三万円以上の賞品が入っているから、十等賞のくまのぬいぐるみは実質大ハズレなのだ。まあ、実際に欲しいのは車なのでどうだっていいけど。

  いよいよルーレットが回る。ダーツなんて持ったのも初めてだから、そもそもルーレットまで届くかも不安だ。これまでの当選者を思い出して見よう見まねで投げる。ほりゃっ!

  ドスッ

  刺さっ……た? よく見るとルーレットの中心に刺さっている。あれはどうなるんだろう。ダーツは中央がいちばん高得点だということは知っている。じゃあひょっとして特別なシークレット景品が出てきたりするのだろうか? わくわくしていると司会者が額を押さえてどう見ても残念そうな顔で苦笑している。近づいて中心部分をよく見てごらんと言う。近眼のぼくはルーレットにぐっと近づいて目をこらす。中心部分には小さい文字が書かれている。

  『たわし』

  ガッデム! シークレット残念賞だよ! こんな豪華賞品揃いなのにどうしてタワシを入れたんだい! ぼくはトボトボとステージを下りて人混みの最後尾に戻った。周りの人たちは拍手をしながらおいしかったねなどといって迎えてくれたけど恥ずかしいだけだ。ちなみに車はぼくの次にステージに上がったゴリラのおっさんがかっさらっていった。本当にままならないものだね、人生というものは。

  自宅最寄りの駅まで戻り、服とタワシの入った紙袋を持って家に帰ろうとすると、町内会のおばさんに呼び止められた。クリスマスイブとクリスマスは法事だと言ったのに、サンタの服装で何をしていたんだと大層怒られた。ハロウィンのときは事後承諾で無理矢理駆り出されただけで、ぼくに参加義務はないんだけど……などと言うと余計面倒臭いことになるので、はあすみませんと適当に頭を下げておいた。明日こそは参加してもらうよなどと無茶を言うので、明日は休日出勤だとごまかしておばさんの返事を待たずにダッシュで逃げた。まあ、仮に休日出勤があったとしても夜には帰宅しているのだけど。

  せめてケーキくらい買っていこうとコンビニに立ち寄ると、すでに半額シールが貼られたケーキが積んである。早いなあ、まだ二十一時過ぎじゃない。きっとこの時間に売れなかった分はこれ以降の時間にはあまり売れないということだろう。まあ確かに二十一時以降にケーキを買ってまでクリスマスパーティをするご家庭はそれほど多くないだろう。もったいないなあと思いつつ、四号のホールケーキや軽食や飲み物を買ってコンビニを出た。

  アパートの前まで戻ると、うちのアパートの隣にある一戸建てからハッスルしている男女の声が聞こえる。声の感じからしてまあまあのお歳のようだ。歳を重ねても仲がいいようでなによりですね。でもちゃんと聞こえないようにした方がいいですよ、町内の噂になるし。……ここさっきのおばちゃんの家だ。知っている人の情事はあまり想像したくないものだ。

  そういえば性の六時間が始まっているんだな、一年の中でもっとも行為をする人が多い時間帯というやつだ。このやろう! ぼくには町内イベントに参加しろと散々怒ったクセに、旦那さんは町内行事に全然参加しないじゃない! 夜の大運動会には参加するのかい!

  なんだか疲れたなあ。楽しかったけど、今回も色々と残念すぎた。とりあえず部屋着になるとホールケーキをデスクに置き、焼酎をグラスに入れてさきイカを出した。イカを引き千切るようにしながらケーキをやけ食いしているとインターフォンが鳴った。ハロウィンのときに来てくれたしろくまがワインを持って笑っている。どうしてあいつは来る前に一報くれないのだろうか。

  オートロックを開けたぼくは適当な服をひっつかんで着替えると、床に転がっている服類を全部洗濯機に押し込んで、ごみを袋に突っ込んで浴室に隠した。やがて足音が玄関の前で止まる。インターフォンが鳴ったのでドアを開けた。

  「メリー・クリスマス」

  しろくまを家の中に招き入れてベッドに座らせた。まったくぼくと違ってセンスもいいし気遣いもできるヤツで困るなあ、なんて思っていると彼はクリスマスプレゼントを差し出した。ぼくは何も買っていないからと慌てて断ると、これは自分の気持ちだからとグイグイプレゼントを押しつけてきた。仕方なく受け取って包みを取ると、ぼくが欲しがっていたスマートウォッチが入っていた。興奮気味に腕につけてみせると似合ってるよと喜んでくれた。

  彼はぼくのデスクにあるケーキと小中とさきイカの酒盛りセットを見ると苦笑して、新しいグラスにワインを注いだ。ぼくは散々な目に遭った今日の出来事を話しながらケーキを食べた。彼はずっとぼくの話を聞いてくれていた。

  遅い時間になって会話が途切れると、しろくまはまた来るよといって靴を履いた。

  「たまには母さんに連絡してやりなよ」

  そういうとしろくまは手をひらひらと振って帰っていった。ぼくはベッドに飛び込むと、そのままうとうとしはじめた——

  ——などといい話で終わるハズもなかった。窓の外が妙に騒がしいので窓を開けると、相変わらず隣の家から男女の嬌声が聞こえる。何時だと思ってんの! ていうか何回戦だよ! いつまで玉転がししたら気が済むんだい! しかもなにか趣味性の高いお道具を利用したピシッピシッという音がするけど聞かなかったことにする。今度おばちゃんと顔を合わせるのイヤだなあ。

  あまりにもうるさいのでベランダから下の様子を伺うと、道路には近所の人が集まっているのが見える。パーティ中だった人もいるのだろう、サンタやトナカイのコスプレをした人たちが嬌声を聞きながら呆然と立ち尽くす場面は非常にシュールだ。スマホで録音している人もいるようだ。あーあ、これだけご近所に知られてしまっては奥様方の町内バイラルで広まってしまうだろう。

  *

  二十五日はクリスマス当日とはいえ、巷ではイブを過ぎたら一気に日常に戻るという感じだ。商店街もイルミネーションが外され、一気に年末年始への準備ムードが強くなる。街のほうも今日はもうイベントはないみたいだし、町内会のクリスマスに参加しようかな。町内会行事とはいっても、他に用事がないなら参加することはやぶさかではない。

  夕食を食べ終わると、サンタ服を着て近所の神社に集ま——誰もいないな。時間を間違えているのかとスマートウォッチで確認したけどそんなことはない。神社の掲示板があるので『今月の催し物』をチェックする。二十五日のイベント欄はマジックで取り消し線を引かれており、すみっこに赤マジックで文字が書かれている。

  『役員急病のため中止になりました』

  色々と察して帰った。

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