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人生シミュレーションゲームのキャラに自分の名前をつけてはいけない
あけましたね、おめでたいね。今年こそはいいことがあるといいね。正月の浮かれた気分で今年の幸運を願いながら外を歩いていると、こどもたちがやーい鏡餅と明らかにぼくをバカにしてくる。なんだろう、鏡餅って。
不思議に思いながらコンビニの前を通りがかると窓ガラスに自分の姿が映った。デ……少しだけふくよかなしろくまは、オレンジのぽんぽんがついたニットキャップを被っている。しろくまの頂天にみかんのようなものが乗っていると確かにそれっぽい。なるほど鏡餅とはよく言ったものだね。こどもたちの発想力は時折目を見張るものがあるよ。まあなんにせよぼくはディスられているようなので、なんか恥ずかしくなってキャップを取ってかばんにしまった。
今日の商店街はお正月ムードだ。法被や着物を着た人が店の前で呼び込みをしている。個人商店はしばらく正月休みかと思っていたけど最近はそうでもないらしい。大変だね、自営業というものは。
せっかくだから商店街を覗いていくことにした。特に買いたいものがあるわけではないけど、どのみちコンビニでごはんを買うつもりだったのだから、どうせなら今お惣菜などを買っていくのも悪くない。商店街は少し歩くから面倒であまり来ないけど、普段は食べられない手作りのおいしいごはんが食べられるのは魅力的だ。
お惣菜を売っている店でぶり大根や煮しめなど正月らしいものを買い込んでいると、お会計のときに商店街の福引き券をもらった。へえ、千円ごとに一枚もらえて、十枚で一回福引きができるんだね。普段なら商店街で一万円使うのはなかなか大変だけど、どうせ後で必要になるものを今買っておくのも悪くないかも知れない。この機会に肌着や靴下などを買っていこう。
お惣菜、靴下とシャツ、お酒、ちょっとしたお菓子、消耗品。それでも一万円には全然届かなかったので、定食屋へ行った後に千円カットで毛並みを整え、グリーンのニットキャップを買った。これでこどもたちにバカにされることはないだろう。結果、予定通り十枚の福引き券が集まった。両手に大荷物を抱え、上機嫌で福引き所に向かった。
福引き所には長蛇の列が出来ている。きっと正月で財布の緩んだ人たちがたくさん買い込んでいくのだろう。福引きの賞品を確認する。へえ、一等は海外旅行なんだね。不景気なのになかなか太っ腹だ。当然海外旅行を当てたいところだ。
でもぼくはクリスマスイベントで大勢の中から当選してしまったし、もし運というものに総量が決まっているとしたらもうそのほとんどを使い果たしてしまっているだろう。……いやまてよ、結局あのとき当たった賞品はタワシだった。むしろ運が蓄積されているとは考えられないだろうか。……まあ、本当に運の総量があるなんて信じてはいないのだけど。
ついにぼくの番だ。無理だろうなとは思いつつ、その裏では期待でどこか浮ついた気持ちが隠せない。わくわくしながら抽選器のハンドルを握った。海外旅行の玉の色は金色のようだ。ぼくは普段は信じてもいない神様に祈りながらハンドルを回した——
「大当たり〜!」
コロンと出てきたのは赤い玉だった。あーあ、やっぱり海外旅行はダメだったね。でもハズレのティッシュは白い玉のハズだから、何らかの賞品が当たったことになる。やや興奮気味で賞品一覧を確認する。……え?
「商品券三万円、大当たり!」
まさか、運の悪いぼくが二等賞を当てるなんて信じられないよ! ぼくはガランガランとベルを振っていたおじさんからきれいな封筒を渡された。
浮かれながら家に帰って荷物を置き、福引き券を確認する。確かに一万円と書かれた券が三枚入っている。注意書きによると、この券は市内でしか使えないらしい。なるほど、地域活性化が目的だったりするんだろうね。でも利用可能な店一覧を見ると、結構有名なデパートや家電量販店でも使えるとあるから十分だ。
そういえば家電量販店といえば、最近ノートパソコンの調子がよくないから新しいのに買い換えるかどうか悩んでいたところだ。小説を書くだけなら問題ないんだけど、起動時やアプリケーションを立ち上げるときにやたら時間がかかるし、3Dゲームなんかはすぐに落ちてしまう。最近グラフィックの美麗な都市開発シミュレーションゲームでの街作りにハマっているのだ。上司の家を建てて隕石を落としたりしてね。
ぼくはあまりパソコンに詳しいほうではないけれど、詳しそうな同僚に聞いたところではゲームに使うなら高性能なGPUというものや、出来るだけたくさんのメモリが必要になってくるらしい。
とはいえ、ぼくにはどのくらいの性能やメモリが必要なのか分からない。こういうときはあやふやな情報を頼りにするよりもプロに頼るのが確実だとぼくは知っている。商品券も当たったことだし市内の家電量販店に行こうかな。
街のみんなの電器屋さんというCMでおなじみの家電アストロボーイに来た。さっそくパソコン売り場に到着すると、メーカー別のラインナップがずらりと並んでいる。さすが大型電器店だけのことはあるね。
きょろきょろ見回していると若いトラの店員さんが近づいてきた。なかなかのお腹をしている。多分年齢的にアルバイトといったところだろうか。社員さんじゃないみたいだけど、ぼくにぴったりのパソコンを選ぶにあたって頼りにしてもいいものなのかな。ぼくはとりあえず今のパソコンのことと、新しいパソコンに求めるものを店員さんに伝えた。彼は迷わずぼくを売り場のすみっこのほうに案内した。
「外国のメーカーなんですけど、安い割に性能が良くて……」
へえ、聞いたことのないメーカーだけど触った感じではきびきび動いている。モタつきが解消されてストレスが減れば創作意欲も湧いてくるというものだ。でも、お高いんでしょう? ……と思ったら予算範囲内だ。こんなにいいものがお安く手に入るんだね。
「こちらより下位モデルだと一、二年で買い換えることになるので……」
なるほど、安物買いの銭失いというやつだね。確かに六万円で低性能のパソコンを二年ごとに買い換えるより、隣の九万円するけど高機能でストレスのないモデルを五年使い続けるほうが結果的に値段もストレスがたまらないという意味でもお得だ。
それに今のぼくには三万円分の商品券がある。ぼくが調べた感じでは元々今の六万円のパソコンと同等の性能で十分かなと思っていたけど、どうせならそこに三万円上乗せして九万円のパソコンを買うのがベストかも知れない。
……まてよ、ちょっと背伸びしてもうワンランク高いものを買えばもっと長い間快適に使えるのではないだろうか。
「うーん、お客様の用途だとそこまでは必要ないのに高いお金を払っちゃうことになりますから……」
ぼくの用途であればミドルレンジという中くらいの性能のものを買えば快適に使えるようだ。そうだね、無理して高いお金を払って持て余すよりも、さすがに五年も使ったらそこそこのお値段で新しいものに買い換えていくほうがいいのかも知れない。何年か経てば性能のいいものがよりお安く買えるようになるからね。
この店員さんはいたずらに高いものを薦めるのではなく、ぼくのほしいものを提案してくれるから好感が持てる。前のパソコンを買ったときは店員さんに二十万円のパソコンや使いもしない周辺機器をゴリ押しされたものだけど、一方の彼はといえば困ったことがあればどうぞと名刺を渡してくれた。へえ、虎山さんって言うんですね。そういえばメーカーのロゴが入った服を着ているし、名刺を持っているからアルバイトの中では大事なポジションを任されているのかな。プリンタを買い換えようか悩んでいると言ったらいつでもお待ちしてますと言ってくれた。若いのになかなか商売のうまい店員さんだね。
結局ぼくは店員さんの詳細な説明のおかげで迷いなく九万円のパソコンを選ぶことができた。ちなみにこのモデルはカラーが選べるのでかわいいピンクにした。レジで商品券を出し、残りの六万円を支払った。
ぼくにしてはとてもいい買い物をした。さっそく家に帰ってセットアップをする。小説を書くためのアプリケーションはどれもきびきび動く。次に美麗な3D都市開発シミュレーションゲームをプレイする。……いいじゃない! 前はもっと動作がカクカクしていたし線も少しギザギザしていたけど、今はまるで実写を見ているようだよ。
これならもっといい小説が書けるかも知れない。作業に没頭しているときに待たされたり引っかかったりするのは思いのほかストレスになるというか、思考の妨げになるものなのだ。高尚な文筆家であるぼくとしては、この情熱を余すところなくぶつけることができるのはありがたい。さっそく3Dゲームのことも忘れて執筆作業に取りかかった——
炎上した。自分では渾身の出来だと思っていたのに何故だろう。いつもと違うのは新しいパソコンで書いたことと、投稿タグにパイズリと書いたことくらいだ。巨人デブクマ親父がトラ獣人におっぱいから倒れ込んで潰されるところから恋が発展するというドラマティックな話なのにどうして荒れたんだろう。
ああ、でもやっぱり執筆作業中は快適だったよ。やっぱり高性能なパソコンはいいものだね。昨日は小説をみっちり書いたから今日はごほうびに3Dゲームで都市開発をしよう。ゲームを立ち上げる。これまでも同じゲームをしてきたハズなんだけど、遠くかすむ画面の奥行きの表現や、自然な影の落ち方などが実写であるかのように錯覚させる。これは楽しいね! そうだ、ぼくの街を再現してみようかな。これこそシミュレーションゲームの醍醐味というものだ。
——結局深夜の二時半までゲームをやっていた。ぼくの街は大方できたのだけど、途中で資金が足りなくなって消防署が建てられなくなってしまい、延焼して住人が全て街から出て行ってしまってゲームオーバーになった。精巧にできているだけあって、ぼくのアパートが燃えてしまうとより悲しい気持ちになる。
幸いデータはセーブしてあるから街があらかた出来たところから再開できるはずだ。今日仕事から帰ったら再開しようかな。……いや、街を舞台にした小説のネタを思いついてしまったからアイデアが温かいうちに文章に起こしてしまいたいところだ。うーん、それより夜更かししてしまって集中できないから、今日はぐっすり寝て明日リベンジすべきではないだろうか。いや、それなら〇時くらいまではゲームをしてからでも……。
結局昨日も深夜一時前までゲームをしてしまった。あんなにきれいで面白いから悪いのだ。しかしこの流れはマズい。以前休日はみっちり小説を書こうと思ったときに、休憩中にふと見た動画サイトで面白い投稿者を見つけてしまい、過去の投稿動画を全て見ていたら休日が終わってしまったのと状況が似ている。小説やゲームはやらないと死んでしまう訳ではないので、自分を律するのは完全に自制心の問題になってしまうけど、残念ながらぼくに自制心はない。そんなものがあったらこんなに太ってないよ!
ふう、今日はなんとか一本書き上げられた。結局カレンダーに小説の日とゲームの日をあらかじめ設定し、小説の日は一切動画サイトとゲームには触れないことにした。もちろんぼくに自制心などないのでついやってしまいそうになるけど、“破っても構わないけどそのかわりその日はおやつを食べてはいけない”とルールをつけたら案外守ることができた。だっておやつを人質に取られては守らざるを得ないのだ。書かなかった上におやつを食べないというルールまで破ってしまわないか正直心配ではあったけど、さすがにふたつもルールを破ればいくらぼくでも罪悪感に苛まれてしまうというものだ。それに小説はしっかり続けていきたいものだからね、ついつい楽しい娯楽に目を奪われてしまいそうになるけど。
それより今日は一本書き上げられたし早めに終わったので、残った時間でゲームの続きが出来そうだ。この都市開発シミュレーションゲームはリアルさが売りで、建物ごとに名前をつけられるどころか、街を歩いている市民にも名前を付けられたりする。自分の街をモデルに都市をつくったのだから当然ぼくのアパートに該当する建物もあり、そこに住んでいる人に湯川優大と名前をつけておいた。前回は消防署が設置できなくて全滅してしまったけど、今回は資金が潤沢にある。このゲームの住人は何かよくないことが起きたら街から出て行ってしまうだけだから、実質病気以外で死んでしまうことはない。街をよりよくしながら発展させていけばゲーム内の湯川優大は幸せに生きていけるのだ。よりぼくが幸せに生きてくれるように、アパートの周りには公園やランドマークを置き、街がますます発展するように商業エリアを設定した。これで早送りすれば建物が自動的に増えていくはずだ。
ああああ。ゲーム内の湯川優大が死んでしまったよ! 元気で幸福度もMAXで暮らしていたけど、このゲームはきちんと寿命が設定されているのを忘れていた。早送りしたからゲーム内の時間が五〇年進んでいたのだ。ぼくは妙な喪失感を覚えながらゲームをそっと閉じた。
そんなわけで人生シミュレーションゲームで架空の自分を作ってはいけないね。なんとなくやりきれなくなって商店街で買っておいた酒をガブ飲みしていたらひどく酔っ払って号泣してしまった。翌日二日酔いになってしまったことは言うまでもない。
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