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最近小説を書いているとやけに肩こりがひどい。色々と調べてみると、やはりみんな同じような悩みを抱えているんだろうね。肩こり解消グッズの情報がわんさか出てくる。変な形のツボ押しグッズ、筋肉の緊張をほぐすアロマや温熱グッズ、はては人間工学に基づいて作られた椅子なんてものまである。
数百円の安いツボ押しグッズで首筋を押してみると確かに気持ちが良い。でもパソコンに向かって執筆作業を再開すると、ものの十分もしないうちに辛さが戻ってしまう。やはり対症療法というだけあって、一時的に症状を和らげることは出来ても根本的な解決には至らないのだろう。
やはり肩こりを治すには根本的な見直しをする必要がある。……へえ、現代人は長時間椅子に座っているから、椅子を替えると劇的に改善することもあるんだね。特にしろくまは首が長くてパソコン作業中の負担がかかりやすいので、姿勢を改善することができるなら購入を考えたいところだ。でも姿勢に良い椅子一覧を見ると五万円や十万円はあたりまえのようにするみたいで、簡単に手を出せるものではない。
さらに根本的な改善方法を調べてみると、マッサージや整体などがあるようだ。マッサージは一時的な症状を和らげるにはとても効果的だという。しかし、骨格そのものが歪んでいてはマッサージをしてもすぐに悪くなってしまうというのだ。一方の整体は、骨のゆがみそのものを何とかしましょうというものらしい。継続的に通い続けないといけないから費用が心配だったけど、よく読むと保険が適用されるので一回あたりの費用は数百円とお財布にも優しい。
仕事帰りに近くの整体に寄った。待合室で症状や特に凝る部位、毎日の運動量などを記入すると大きめの部屋に通された。五つほど簡易ベッドが並んでおり、おじいさんや仕事帰りのサラリーマンが寝て整体師に体を押されている。
「ええと、湯川さんは首肩が特に辛いんですね」
そう言うと、マッチョなお兄さんの指がぼくの患部にクリティカルヒットする。あだだだだだ。痛いよ! ……とはいえ骨格を治そうというのだからこれくらいは仕方ないのかも知れない。結局、気持ちよさと痛さを交互に味わいながら、十分間ほどマッサージを受けた。
続いて一番奥の部屋に通される。少し広めの診察室にはゴリマッチョの医師と助手らしき人がいて、床にはマットが敷き詰められている。何かイヤな予感がする。
「よし、じゃあ骨の歪みを取っていきますねー。じゃあマットに座って」
何をされるか分からない不安を抱えながらもぼくは言われたとおりに床のマットに三角座りをする。すると助手さんはぼくの脚を抱え込み、先生は背中からぼくを羽交い締めにした。えっえっ、これヤバいやつじゃな——
「いきますよー。ふんッ」
ボギョボギィ
あああああ! すごい音がしたよ! テレビのコントでよくこういうシーンがあるけど、ああいう効果音は大げさにしてあるのかと思っていたよ。まさか自分の体の中からこんな激しい音が出るとは思わなかったよ!
施術の痛みはまったくなかったのだけど、体の内側からとんでもない音がするという初めての経験に精神が動揺する。骨とか筋とか神経とかってこんなに乱暴な扱いをして大丈夫なの? それに先生がいくら百戦錬磨でも、ちょっと手元が狂ったら即死したりするんじゃないの?
ともあれ、とにかく歪み取りは終わったのだからコーヒーでも飲んで落ちつきたい。ぼくはバンジージャンプから生還して憔悴しきった人のような顔をしながら立ち上がる。
「あ、まだ首と腰があるから座っててね」
アアアアア!
骨の歪みは継続的にやることで治っていくものだからすぐに効果が実感できるものではないそうだけど、マッサージの効果はさっそく出ているようだ。いつもより肩が軽いし首もラクなように感じる。
……とはいえ、やっぱり十分間やそこらほぐしただけでは、一時間とか二時間とかぶっ続けでパソコンに向かっているとすぐに凝りが戻ってしまう。凝り取りグッズで首筋を押して和らげてはいるけど、このままでは焼け石に水だろう。
さっき揉まれている間に整体師の先生から聞いたところによると、現代人は常に体に負担がかかっているので、整体だけ受けるのではなくて色んな方向から対策していくといいそうだ。ぼくがキーボードを替えたのも有効な対策だし、それこそ椅子を替えるのもひとつの方法だ。
でも先述のとおり、五万十万もする椅子を簡単に買うわけにはいかない。それに自分に合う椅子を見つけるには家具屋さんでお試しして検討する必要もあるだろう。椅子のことは後に回すとして、もうちょっと気軽にできる対策方法はないだろうか。
……なるほど、寝具を替えるというのも有効なんだね。安いマットレスやまくらを使っていると、就寝中の背骨や首の骨が歪んでしまうわけだ。適度に沈み込むマットレスや、きちんと高さが合うまくらを選ぶ必要があるようだ。
Webサイトによると、マットレスにはいろんな種類があるようだ。お使いのマットレスの上に敷くだけの比較的安いものから、本格的なマットレスそのものまである。うーん、どうせお金を出すなら安物買いの銭失いをしてしまうより、きちんと本格的なものを買いたいものだ。でも良さそうなマットレスは最低四万円もする。パソコンを買ったばかりでお財布の寂しいぼくにはちょっと重い負担だ。
一方のまくらは——へえ、オーダーメイドまくらなんていうのがあるんだね。店にある測定用のベッドで骨格や姿勢を測り、それに基づいてまくらの詰め物の量を調節するそうだ。お値段は——一万円。
一万円は決して安いお値段というわけではないけれど、ぼくは長期的に使うものや体のことに関してはお金を惜しまないほうだ。まくらは肩こりの改善にとどまらず、深い眠りによって、昼間どうも疲れるといった症状にも効果があるらしい。それだけQOLが上がるのなら購入もやぶさかでない。さっそくデパートのまくら売り場に行くことにした。
へえ、ひとくちにまくらと言っても色々なものがあるんだね。低反発まくらとか、マイクロビーズとか、そば殻とか。ウレタンのまくらをギュッと押して離すと、押しつけた指のあとがにゅーっと戻って消える。
「まくらをお探しですか?」
声をかけてきたショップのお姉さんにまくらを作りたい旨を説明すると、測定ベッドに案内された。靴を脱いで横たわると、お姉さんは端末を起動する。画面にはぼくの背骨とおぼしきカーブが映し出されている。なるほど、これを元にして中の詰め物をしていくわけだね。お姉さんは画面を見ながら、ペチャンコの枕に詰め物をしていった。
「こちらを試してみてください」
詰め物が終わったまくらを置いて再び寝転ぶ。……いいじゃない! 何年も使い続けてへたってしまった今の枕と違ってしっかりと高さがある。かといって首を無理矢理押し上げられるような感じじゃない。
しかもこのまくら、へたったら無料でつめものを足したり調節したりしてくれるらしい。生地がダメになってしまうまでずっと最新の状態で使えるわけだ。これはなかなかいい買い物をしたね。ぼくはお姉さんにお礼を言ってお店を後にした。
さて、目的の買い物は終わったのだけど、せっかくだからマットレスも見ておきたい。今すぐ買えるわけではないけど、すごくいいものだと感じたら購入を考えたいのだ。
ベッド売り場に行くといくつもベッドが並んでいる。肩こり改善……これだね。これはスプリングが入っておらず、なんと中身のすべてが樹脂製のフォームで出来ているらしい。さっそく寝転んでみる。
……すごいじゃない! 全然体に負担がないよ! 逆に言えば今まではそれなりの負荷がかかっていたというわけだね。これは積極的に購入を考えたいところだ。そうだ、せっかくだからさっき買ったまくらも使って寝てみよう。……すごいね、まるで水の中にでもいるみたいだ。すごく心地いいね——
「——様? お客様?」
眠い目をこすると知らない声で起こされた。ゆっくり目を開けると知らない天井だ。どうしてここに寝ているのかゆっくり思い出す。ああ、ベッドを試しているうちに寝てしまったんだね。まあ、快適な寝具を試せばそういうお客さんもたくさんいるだろう。ぼくはすみませんとまくらを回収する。すると遠くから声が聞こえてくる。
「凄いいびきねえ」
「やだーお父さんみたい」
ぼくの顔は急速に火照る。そういえば最近時折凄い音がして起こされたと思ったら、自分の鼻息だったということが度々あった。最近また太ったことと何か関係があるかも知れない。
ぼくはまくらを引っつかんで急いでデパートを後にした。
*
あれから仕事や執筆作業中には凝り取りグッズを、仕事帰りには整体を、そして寝るときにはまくらを使って、これまでよりずっと体への負担が少ない生活を続けてきた。お金が貯まったらマットレスも買うつもりだ。人間は一日の三〜四分の一ほど寝ているのだから、その間快適に過ごせるようにしておくのはとても大切なことなのかも知れない。それに何よりこれまでよりとても心地いい。
今日も整体に来ると、整体師さんが嬉しそうに報告してくれた。
「初めて来られたときよりだいぶ改善していますねー」
えっ、やっぱり色々頑張った効果が出たのかな?
「うーん、要手術状態は回避できた感じですかね」
えええ、そんなに悪かったの。いつものぼくなら憤慨して勢いでマットレスを購入してしまうところだけど、さすがにない袖は振れない。消沈しながらトボトボと部屋に帰った。
「兄さん、誕生日おめでとう」
家に帰ると弟の雄大が待っていた。雄大は嬉しそうにケーキとシャンパンをテーブルに置く。そういえば四月四日はぼくの誕生日だった。ぼくはケーキを食べながら、最近凝り改善のために色々していることや、出来たまくらのことや、体がガッチガチなことや、マットレスは買わなかったことなどを話した。
「それならお祝いにぼくが買ってあげるよ」
雄大は双子なのだから当たり前だけど誕生日が同じな訳で、一方的にプレゼントをもらうというのはおかしな話だ。それにこの前もスマートウォッチを買ってもらったし、何より四万円もするものを買ってもらってもお返しする術がない。残念だけどお断りすることにした。
「じゃあその代わりに、兄さんがぼくに小説を書いてくれるというのはどうだい」
雄大はぼくが官能小説を書いていることを分かっているのだろうか。ぼくの脳裏には雄大がエッチなことをされている画がまじまじと浮かぶ。ただでさえ身内のエッチなシーンは考えたくないものだけど、特にぼくと全く顔が同じ双子の兄弟がそういうことをされているところは余計に考えたくない。
「いやいや、普通のヒューマンドラマとかあるでしょう。兄さんなら書けるよね?」
ぼくの小説にそんな価値があるのだろうか。
「書いて欲しい人という人がいるなら、その人にとっては確かにそれだけの価値があるんだよ」
なるほど。しばらく逡巡したものの、ぼくは人の厚意を無下にするタイプではない。それならといって今度デパートに行く約束をした。
*
「へえ、思ったよりずっといいね! ぼくも買おうかな」
デパートの寝具売り場、雄大はマットレスを押したりしてはしゃいでいる。
そして雄大と隣同士のベッドに寝転んだ。いやあ、弟と一緒の場所で寝るというのも懐かしいものだね。しばらくゴロゴロして感想を言い合ったりした——
「——様? お客様?」
以前と同じ店員さんに起こされた。すると雄大も隣のベッドで大いびきをかいていた。叩き起こすと途端に雄大も恥ずかしそうな顔をする。ぼくらは二人で顔を火照らせながら、マットレスの購入手続きを済ませた。
*
——そんなわけで、寝具売り場で寝落ちしてはいけない。特にいびきをかいてしまう人は絶対にいけない。しかも兄弟で揃っていびきをかくのはもっといけない。大層恥ずかしい思いをすることになるからだ。
一方で、これまで寝具にあまりこだわってこなかったのなら、寝具売り場で色々なまくらやマットレスを試すのはいいかもしれない。凝りだけではなくて眠りの深さも変わってくるから、日中の体の軽さも違う。
*
「湯川さん、だいぶ体の歪みが取れてきましたね。ふんッ」
ボギョボギョ
アアアアア!
これだけは慣れそうにないね。
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