ファンドの耳を頼りに、再び目の前に熊猫を捕らえた。
裸足の熊猫はその巨大からは考えられない俊敏な動きで、レイヴンの投げる火球をかわしていた。
「元から当てる気ないとはいえ、わざと大袈裟に避けてやがるなアイツ……。」
誘導に使ったほどの火球ではなく、火の粉よりちょい大きいくらいの火の玉を連発して投げまくる。
狙いは熊猫に当たるギリ後ろだったり、近くの壁だったりを狙って、敢えて外すように投げてるのだが、熊猫はわざわざ大袈裟にその火を避けてのける。
当たらなくていいのだが、あそこまで大袈裟に避けられると当てたくなる。
が、当てたくなる衝動を我慢して、計画通り投げ続ける。レイヴンの狙いはただ一つ。合図になる球に気づかせないこと。
罠の位置はここを真っ直ぐに行った先にある分かれ道。そこにレンとファンドが控えている。
「そろそろか。」
熊猫と罠までの距離の間隔を目視で測り、再び左手に赤い光が灯る。
右手はあいも変わらず火の玉を適当に四方八方に投げ飛ばしている。
訓練用に使える魔石は一人一つ。魔力をセーブしつつ、有効な魔法を使うために余計な分は持たされていない。
つまり、合図用の一発は残しておかないといけないわけでーー
「ヴっ……ちょっと適当に投げすぎたか……?」
左手に魔力を練っている最中に体に負担が来る。
いきなり魔力を体内から徴収したせいで、わずかに頭がズキッと痛む。
走る足取りも少し遅くなったが、なんとか火球を作り上げーー
「後は任せたぞ……レン」
火球が空に打ち上がった。
→→→→→→→→→→→→→→→
「お、来た。」
空を眺めてると手はず通り、火球が登ってくるのが見えた。
目を閉じて、魔力の流れに集中し、待機中に反応させた魔素を地中の種に送り出す。
魔素を受け取った植物は、地面から顔を出して葉をつけ、淡く、緑の光を浮かべながらどんどん伸びていく。
「…………」
発芽に成功したことを確認し、そこからは地面をつたい、壁を張って四方を囲えるようにする。
一個分の魔石、全ての魔力を使って反応させた魔素はレンの思う通りに、植物の形を変えていった。
「よし、後はーー」
植物の形成を終え、緑の瞳で壁の上のファンドを見上げる。
見上げられたファンドは『任せて』と言わんばかりにウインクをし、熊猫の方を見やる。
後は、タイミングだけ。植物を伸ばし、対象の四肢を絡めて身動きを止める。
今までの訓練で、植物の形成までは毎回うまくいっていた。
が、やはり形成に必要な魔素量が多いため、どうしても最後、捉える時には自分の魔力を消費しなければいけなくなる。
しかし、レンはどういうわけか、本来反応する以上の魔力を放出しなければ魔素が反応しないという最大の欠点がある。それ故、毎回タイミングが遅れて失敗してしまうのだが。
だが、今回は違う。
ファンドが先回りしてレンに魔石を貸すことで、その問題を無理やり解決してしまおう、ということになった。
今手元にある魔石は本来ファンドに与えられた一個なのだ。
この一個で、決める。
もう失敗は終わりだ。
「来たよ!」
ファンドの合図を受け、目を開ける。
目を開けたと同時に魔素を流し込み、その動きを制御する。
上下左右に四本、長さは十分。
後は目で見て制御する。
熊猫がレンの横を走って横切ろうとしたその瞬間ーー
ーー「ーーーー!!」
心の中で叫ぶと共に植物は暴れ出し、緑の光を放ちながら対象を捉えるためにその力を振るう。
足に絡まり手を捉え、熊猫を磔のように宙に捉えーー
→→→→→→→→→→→→→→→
「………はずだったんだけどなぁ。」
「まぁ、別に動きは止められてるしいいんじゃない?」
熊猫に引っかかったツルは一本、右足に絡みついたものだけだ。
一本しか絡み付かなかったものの、そのツルは熊猫を逃すことを許さず、見事転倒させて見せたのだった。
ちなみに、他の三本はどうなったのかというと
「ごめんねぇ、レイヴン。まさかそうなるとは思わなかった。」
「俺だって流石にコレは想定してなかったわ…」
二本はレイヴンのそれぞれ左右の腕に、もう一本は左足に絡み付いていて、宙に浮いていた。
「これって成功なの?転んではいるけど……」
レイヴンの惨状と熊猫の状態を見比べて、屋根の上にいるファンドに尋ねると、ファンドは腕を組み首を捻る。
「……うーん…どうなんだろう。『身動け取れなくする』の定義によるんじゃないかしら。」
ファンドが屋根から飛び降りながらそう考える。
「とりあえず縛ったらどうだ?レンまだ行けるだろ?」
宙に浮いたレイヴンが顎で熊猫を指しながらレンに聞く。
「いやぁ…….それが今ので魔石の中身使い切っちゃってさぁ。ほんと燃費悪いよね僕の魔法。」
レンが魔力を使い果たし、ただの石になったものをポケットから取り出す。
見ると、本来は魔力を帯びて色があるはずの魔石がその力を使い果たし、その辺の石ころと同じく灰色になっていた。
「二個使ってコレでギリか。こりゃもっと考えないと………って、あ!」
その時、熊猫が立ち上がり再び走り出そうとしていた
が、ツタは足を逃すことなくその長さの上限で引っかかり、再び熊猫は転んだ。
転んだ後熊猫が何度かそのツタから逃げようと力任せに引っ張るが、それは決して逃すことを許さなかった。
その光景を見て
「これはもう、大成功と言っても過言じゃないのじゃないかな?」
と、レンがドヤ顔で胸を張った。
その後ファンドとレンが喜んでキャッキャした後、
「早く降ろせ」
「ミンチッ!」
と、レンの腹にレイヴンのそこそこの蹴りが入ってこの訓練は終わった。
→→→→→→→→→→→→→→→
数分後ーー
訓練を終えたレン達は救護室に来ていた。
「いやぁ、してやられたね。」
と、笑いながら先程まで足をぐるぐるに巻かれていた熊猫ーーリオンがいう。
「まさかあそこまでしっかり縛られてるとは思わなかったよ。」
「俺もまさかあんなに強く縛られてると思わなかったよ。」
とリオンに合わせレイヴンもレンを笑顔で睨みながら言う。
リオンの場合は素直な賞賛だがレイヴンのは皮肉だ。
「ごめんって。だってあんなに速くレイヴンが走ってくるなんて思ってなかったから…。」
レンの想定では同時に四肢を縛り、動かなくさせるつもりだったのだ。
しかし最初に伸ばした一本目が速すぎたが故に他の三本が間に合わず、転ばせるだけになった。
その結果熊猫ではなく、レイヴンが擬似的磔になったわけだ。
「見たかったんだけどなぁ。リオン先生の宙ぶらりん」
「そんなもん見たがるんじゃないの!ま、そう簡単に捕まってやらんけどな。」
リオンが笑いながらレンの話に突っ込む。
でも実際にリオン程の巨漢が宙に浮いてるのは見てみたい。
「でもでもリオン先生が転ぶなんて、それだけでもお宝シーンじゃない?普通にしてたら転ぶなんてほぼないでしょ。」
「そりゃそうだ。リオンが転んでるの初めて見たわ。他の奴らも見たことねぇんじゃね?」
と、リオンの擦り剥いた足に消毒をしながらファンド。それを受けてレイヴンが牙をむいて笑う。
「でも、ようやく形になったねえ。構想はよかっただけにいつも惜しいところまでは行ってたからね。完成してよかったよ。」
リオンの言うとおり、今まではまずレンの植物を当てるまでいくことがなかった。
魔力が不足し、発動までが遅すぎて標的が通り過ぎていった後にうじゃうじゃと罠が発動する。
結果いつもレイヴンが足で追いついて標的を投げ飛ばす……的なことをしていた。
「標的を怪我させないっていう決まりさえなければレイヴンに全投げでもいいけどね。そして僕はレイヴンがつけた怪我を癒してあげる……やっぱこっちの方が良くない?」
「ま、そうだよな。俺らの班だとそれが一番効率的な気がするけど……。そもそも捕らえる相手なのに怪我させるなってわけわかんないよな。現にリオンは転んでる擦り剥いてるわけだろ?無傷でなんて無茶な話だぜ。」
レンの提案にレイヴンが重ねて疑問を唱える。
椅子に跨りぐるぐる回りながらレイヴンが言う。ぐるぐるまきにされたりぐるぐる回ったり忙しいやつだとレンは思う。
「はい、おしまい。あとはリオン先生なら勝手に治ってるでしょ。」
「はいよ。ありがとさん。」
リオンが擦りむいた足の処置していたファンドが階段から下に降りてくる。
それに続いてリオンも降りる。
「標的が標的だからね。話を聞けなくなるのは困るのだよ。だからまぁ、軽度の怪我程度ならそれはいいんだけどね?」
とレイヴンの話に応えるようにリオンが応えた。