三話『それぞれの戦果』

  「そんじゃ、明日一日休んで、明後日から頑張ってねえ。」

  リオンに手を振られながら見送られ、救護室を出て廊下を三人で並んで歩く。

  長い廊下を歩く三人は今日の訓練の反省点を話し合っていた。

  「んー!!今日は満点だったね!ね、ファンド。」

  と、茶色の毛に緑の瞳を持つ鼠ーーレンが二人の顔を覗き込んで同意を求める。

  それに対し、

  「そうね。リオン先生の評価も上々だったし、レンくんの頑張りのおかげね。。それに、レイヴンのあられも無い姿をお見受け致せましたし。」

  と、わざとらしく身振りをしながら同意をするのは、白い毛に覆われた兎ーーファンドだ。

  「あれが満点だぁ?味方を攻撃しといてそりゃねぇだろおがよぉ。あれが実戦だったら俺死んでるかもしれねぇんだぞ。」

  一方でレンの言葉に対して不満げに返すのは金色の立髪に赤い瞳を灯した獅子ーーレイヴンだ。

  「レイヴンまだ怒ってるの?ごめんって言ったじゃん、許してよ。」

  「そうそう、短気は損気ってね。」

  レンの謝罪に乗っかるようにファンドが付け足す。

  「いや、怒ってねぇよ……。いや、やっぱちょっと怒ってるぞ。お前の悪気がなさそうな態度にな。」

  レイヴンがファンドを挟んで腰を折、レンの顔を

  覗き込む。

  「えー、そんなことないよぉ。ちゃんとごめんって思ってるってば。ただ申し訳ないなーって気持ちより上手くいって嬉しーっていう気持ちが勝ってるだけで。」

  「そうだよ。レイヴンがあられもない姿を晒してじたばたした珍事より作戦成功したことに気持ちが傾くのは当たり前でしょ?」

  「おまえらもっと俺に申し訳なく思えよ!」

  レンはともかく、ファンドがレンを擁護するような発言があって少し理不尽に感じる。

  「俺が何したっていうんだよ……。」

  「まあそうね、強いて言うならリオン先生の身代わりになって磔になったくらいかしらね。流石のギャグ担当ね。」

  「え、それ俺が悪いのか?俺、ファンドを怒らせることしたっけ。あとギャグ担当ってなんだ。」

  さっきからのファンドの突き刺さるような言葉の応酬に目を丸くする。

  ファンドはふふん、と鼻を鳴らして満足そうな笑顔をしている。

  「はぁ……。まぁいいぜ、そのことは水に流してやるよ。ただ次からは気をつけてくれよ?本当に。」

  「次があるといいね!」

  「笑顔で言うなよ怖えんだよ。」

  悪戯っぽく笑うレンにデコピンをかましてやった。

  ちょっと泣いた。

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  長い廊下が終わり、寮のロビー

  「それじゃ、明日休んでまた明後日頑張ろうぜ。」

  と、レイヴンが手を挙げ、一時的な別れを告げる。

  それに対し

  「そうね。レイヴン、くれぐれも明日は暴れないこと。わかった?」

  とファンドがレイヴンの掌を指で刺す。

  それに対してレイヴンがにっと歯をむけて笑い、

  「それは確約できないな、ファンド。いいか?最強への努力ってのは誰に咎められるものでもないんだぜ。」

  と、刺された指を払い、赤い目を輝かせながらレイヴンが語る。

  それを見てファンドは『やれやれ』と言わんばかりに首を振る。

  「もう、レンもなんか言ってやってよ。このバカに。」

  「え?……ああ、うん。そうだね。レイヴンは強いね。」

  「なんの話?話聞いてた?」

  相変わらずレンはぽやんとしている。話をちゃんと聞いていなかった様子のレンをファンドが軽くこずき、さっきレイヴンにデコピンされた額を撫でていたレンが首を傾げる。

  「まあ、とにかく明日は無茶しないでよ?明日休んで、明後日みんなで調査するの!わかった?特にレイヴンは自分の魔力使っちゃったんだから、絶対に安静にすること!」

  「へいへい分かってるよ。明日は軽く筋トレするだけにしとくから。」

  ひらひらと手を振り、適当に返すレイヴン。

  全く、と言いたげな目で今度はレンを見やり

  「レンくんも。いい?急に変なところから出てきたりしないでね。」

  「変なところって何?僕そんな変なところにいたっけ?」

  顎に手を当てて考える。最近行った場所といえば並木道かパン屋さんか下水道かーー

  「あのなぁ、レン。普通ヒトはマンホールから出てきたりしないんだぜ?」

  『そんなこと言われても』と言いたげな顔をするレンにレイヴンも呆れた顔だ。

  「レイヴンは明日しっかり休んで!レンくんはちゃんとした道を通って!分かった?」

  「分かった。ちゃんと『道』通ってくるね。」

  とファンドの全力の訴えにレンが納得してない様子で応じ、この日は解散になった。

  別れ際、女子寮と男子寮に分かれる前、ファンドがレイヴンに

  「明日は、本当に無茶しないでね。」とさらに念押しされていたことを書いて置こう。

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  「そんじゃ、またな。レン」

  「うん。また明日。ノットによろしくね。」

  と挨拶をし、レイヴンとレンもそれぞれの部屋に入る。

  寮は左側に女性寮、右側に男子寮、そしてその間にさっきファンドと別れたロビーで成り立っている。

  日中は男女ともにロビーでわちゃわちゃしていたりもするが、もう日はくれて廊下を歩いているものはいなかった。

  二人一部屋で、風呂トイレがある。なかなかにいい部屋だろう。ちなみにノットというのはレイヴンのルームメイトだ。

  「ただまー」

  と、部屋の扉を開ける。返事は無い。

  「……いないのかな。」

  ルームメイトからの返事がなかったのを少し悲しく思いつつ、靴をぬいで段差を上がり風呂兼トイレ兼洗面所に向かい、そのドアを開ける。

  「あ、おかえり」

  「ただいま」

  扉を開けるとレンのルームメイトのライが風呂でゆったりしていた。

  本来ならラッキーなすけべ的な場面なのだろうが、残念ながらライは同性なのだ。そんなラッキーなすけべ的な展開は無い。

  「先に一人で入ってるなんて珍しいね。手伝わなくても大丈夫?」

  「いけるいける。あ、夕飯テーブルに置いてるから食べてね。」

  「わーい。あ、手伝い必要になったら呼んでね。」

  レンが手を洗い終え浴室から出る前に言うと、ライはそれに自信満々にサムズアップで答える。

  それを見てドアを閉じそのままリビング兼寝室へ。

  「お、今日はパイだあ」

  部屋の真ん中にあるテーブルを見るとそこには切り分けられたパイが一切れフォークと共に置いてあった。

  「そんじゃ、いただきまする。」

  床に胡座で座り、パイを食べる。

  冷めてこそいるが、使われている素材のいい香りがする。良くもまあこんなに美味しいものを作れるなと感心する。

  素材の味を噛み締め、早々に食べ終わり食器を洗っていると

  「レン、次いいよ」

  と、僅かに毛を濡らしているライが浴室から出てきた。その少し濡れたままの水色の毛が水滴で光っている。しかし、満足に拭てないせいでライの体からポタポタと水滴が落ちそう。

  「どお、かなり頑張ってみたんだけど何点!?」

  と、ライがワクワクした様子で自身の今の状態の点数を求める。といっても、体の美しさとかそういう物ではなく、ただ単にどれだけ乾いているかなのだが。

  「……うーん……。30点。」

  「30点中!?」

  「いや、100点満点のうちの30点」

  『ウソ……』とでも言いたげな顔だがこのままではお婿に出せない。いや、出さないのだけども。

  「やっぱ左腕が届かないところがちゃんと拭けて無いし、乾かせて無いよ。」

  「ボクなりに頑張ったんだけどなぁ。」

  とライの持ってたタオルで頭から背中にかけてわしゃわしゃと拭きながら評価する。

  ライは、右腕が無い。右腕が無いなりに色々と左腕は器用に使えるが、それでも物理的に無理なものは無理らしい。

  「無茶な足掻きはやめて、そろそろ諦めるのが賢明だと思いますよ、僕は。」

  「いやだって流石に友達に体の世話させるの恥ずかしいじゃん?」

  「もう3年目だけどね。」

  ライがわずかに頬を赤らめる。

  3年間、同室の彼との付き合いだ。最初は互いに恥ずかしさを持ってやってたが流石に慣れた。

  だがライはまだ羞恥心が残ってたらしい。

  「ほらもう……この辺凍ってきてない?これもう取れないよ。」

  「うわ、ほんとだ。」

  とんでもないことだろう。さっき上がってきたばかりだというのに彼の体に付着していたお湯はその温度を奪われ、水となるだけでなく、凍り始めていた。

  それを無理やり引っぺがすと痛みで一瞬ライの肩がビクッと上がる。

  レンのルームメイトであるライは、色々と特異な体質の持ち主だ。まず毛色。透き通った水色の毛をしている。染めてこの色にしてるヒトもいるからそんなに目新しいものでは無いようだが、ライの場合地毛だ。

  三年間、その水色が消えるのを見たことはない。

  そしてその水色の原因は、その器に収まりきらないほど溢れ出るライの魔力だ。

  そして、目の色。左は赤く、左は緑色の目している。いわゆるオッドアイ、というやつだ。

  そして、一番は右腕が二の腕から先が存在しないこと。

  見た目の情報量の多さはレンの見てきた中でトップである。

  「ほら、終わったよ。」

  タオルをライの頭の上に落とし、その作業が終わったことを伝える。

  ライは頭の上のタオルを手に取り振り返り、左右の色違いの目でレンを見て

  「わぁ、ありがとう。明日もよろしく」

  と笑顔でお礼をされる。そしてちゃっかり明日の分まで任される。

  もはやこれも日課の一つなので任されるまでも無いのだが。ちなみにたまに着替えも手伝ってたりもする。

  「そういえばさ、今日の訓練……試験?の結果はどうだったの?これで五回目だよね。」

  ライがタオルを首にかけベッドの上に座り、首を傾げて尋ねる。

  レン達の班は他の班に比べて圧倒的に遅れていた。

  1回目、2回目はレイヴンが無理やり捕らえに行く方法で、どちらもレイヴンが加減を知らないせいでリオンに『相手が死ぬわ!』と怒られた。

  3回目以降、初めてレンが魔法使おうと言う話になった。

  その後の2回の失敗を経て今回ようやく成功したと言うわけだ。

  ちなみにライの班は一発合格だ。リオンの足を地面に合わせて凍結させて動かなくしたらしい。その氷を溶かすのに相当時間がかかったとか。

  「明日からはライバルだから!僕達が先に『魔道士狩り』を捕まえるから!」

  「おおー。合格できたんだね。おめでとー。」

  素直に『合格』したと言うのはなんか恥ずかしいので、ライに指を突きつけ宣言。その事実上の照れ隠し混じりの合格宣言にライは片手で拍手し、祝福する。

  

  相手は超絶的な魔法の才能の持ち主。力不足甚だしいが、結局は捕らえたもん勝ちなのだ。

  だからーー

  「情報交換しよう!!いや、こっちから出せる情報ないけども。」

  「情報交換?」

  「そう!こっちからは出せないけどライが持ってる情報をせめて渡してくれても良かったりするんじゃないかな?」

  レンがテーブルに足を組んで座る。ライと目線の高さが合う形だ。

  実力で劣る代わりに、情報をもとに的を絞るくらいだったらできる。

  というか実力も情報も劣ってて勝てるわけがない。

  だからせめて、情報量だけでも等しくーー

  「無いよ。」

  「…え?」

  「新しく得られた情報は無いよ。だから進展なし。」

  と、まるで当然のことのように平然とライが言った。

  →→→→→→→→→→→→→→→

  「は?新情報無いのか?お前ら聞き込みとかして回ってたんじゃ無いのかよ。」

  

  「うにゃー、耳が痛いね。」

  濡れた立髪を乾かしながら、金色の獅子ーーレイヴンが、赤い目を丸くして尋ねる。

  その質問に対して答えるのは、レイヴンのルームメイト、朝日のような黄色い瞳とレイヴンと同じく、金色の毛を持つ猫ーーノットだ。

  「そりゃあ、ぼく達だって頑張ってあっちそっちこっちどっちに聞き込みだったりしに行ったよ?でもね、誰もにゃーにも教えてくれないんだよ。」

  立髪が濡れてるせいでその種族に見合った威圧感が無いレイヴンの足元で、ゴロゴロしながらノットが答える。

  「何も教えてくれないって……隠匿罪とかになるんじゃねぇの、それ。」

  「んにゃ、そうじゃないんだよね。」

  眠そうな瞳を開き、ノットはレイヴンを見上げる。

  「レイヴンは無いものを有るって言えちゃうタイプ?」

  「あー……。なるほどな。そもそも証言するものそのものが無いってことか?」

  ノットが瞬きでその推測を肯定する。

  しかし、その通りだとして疑問が湧く。

  「いや、でも何も無いっておかしくないか?警備の目だって有るし何より被害者だっているだろ?その辺に聞けば何か一つくらいあるんじゃないか?」

  「そうだと良かったねぇ。」

  「え、本当になんもないのか?」

  現在狩人として活動してるのは、レイヴン達三人を除いて十三人。そのうち一人は別の作業にあたっていて、もう一人は狩人の本部から離れることができない。ので、実質今狩人として活動しているのは十一人だ。

  「動ける十一人全員で出て一週間、なんも成果ないなんてな……。」

  狩人十一人の平均年齢は14歳、まだ幼さが残る少年少女がその半数を占めている。

  経験も浅いし、実績もない。が、しかし確かに彼等は無能では無いし、しっかりとその立場を測られ認められた人材だ。

  それで進展なしというのはなんとも

  「それだけ相手が慎重ってことか……。」

  「んー、ちょっと違うかな?」

  レイヴンなりに考え辿り着いた結論に対し、ノットが閉じていた目を開いて応じる。

  「何が違うんだよ。」

  「端的に言うとね、疑われてるのはぼく達の方なんだよ。理由は簡単、魔法を使えるから。」

  「ーーーー。」

  ノットのその言葉にレイヴンは顔をこわばらせる。

  現時点でレイヴン含め狩人が掴んでいる情報は、大きく3つある。

  襲撃されるのは魔術師、奪われるのは魔導書、そして被害者がいる場合は必ず『魔法による攻撃』がされている。

  魔法を攻撃に使う訓練をしているのは、この国では狩人達だけだ。

  「疑われているのは狩人、それはぼく以外のみんなも感じているみたい。まあしょうがないんだけどね。」

  「疑われてるから何も話してくれない、って思うのは野暮か?」

  「あぁ、それに関しては大丈夫だと思うよ。何にも話さないんじゃなくて、既にこっちが知ってることは話してくれたから。あと、レイヴン早く着替えた方がいいよ。タオルの下から丸見えだから。」

  「早く言えよ!ていうか覗くな!」

  立髪を拭いていたタオルをノットの顔に投げつける。

  タオルで腰を覆っただけのレイヴンの足元でノットは寝っ転がっていたのだ。ノットが投げられたタオルの下からニヤニヤした顔をしているのを見て、確信犯だと断定する。

  急いで着替えて、ノットを飛び越えてベッドの上に腰掛ける。

  「全く油断も隙もねぇな。本当に。」

  「今更恥ずかしがることでも無いでしょ?普段から部屋では半裸じゃにゃーい。」

  ベッドの下に垂れるレイヴンの尻尾をちょいちょいと触って遊ぶノットを尻目に、レイヴンは大きいため息を吐く。

  「そんで、結局それだけか?分かったのは俺達が疑われてるってことだけ、他はないのかよ。」

  太ももに肘をついて、話の流れを元に戻す。

  ノットはレイヴンの尻尾から手を離して、再び手足を一直線に伸ばして寝っ転がる。

  「他にもあるよ。といってもいろんなところで言われた戯言にすぎないけどね。」

  「言えよ、それもなんかヒントになってるかもしんねぇだろ。」

  ノットは一瞬考えるように腕を組み、しばらくした後レイヴンの方を見上げて

  「鼠の仕業じゃないかって、みんながね、どこに聞いて回ってもそう言われるんだよね。」

  「………鼠…。」

  レイヴンの赤い瞳が僅かに翳る。それを見てノットも目を伏せる。

  何でもかんでも足取りが分からなければ鼠のせい、というのはさほど珍しいことではない。鼠族の生態を考えれば簡単に結びつくことだ。

  鼠の生態ーー鼠だけに関わらず、ヒトにはそれぞれの種族ごとに『固有本能』と呼ばれるものが存在する。まだ四足歩行だった頃の名残らしい。

  鼠の固有本能というのがこれまた厄介なもので、抜け道を探すことにかけてはピカイチのなんとも傍迷惑なものなのだ。

  「良くねぇ風習だよな。何でもかんでもとりあえず鼠のせいにしようって。」

  「よくないけど、それが現実にゃんだよね。ほら、この前もレンくんがマンホールからこんにちはしてきたでしょ?ああいうの見てると、みんなが鼠を疑いたくなるのもしょうがないかにゃーってね。」

  さっきファンド達と話した事だ。

  校外訓練の時、遅刻スレスレの時間で現れたレンはあろうことかマンホールを開けて足元から出てきた。そのことにリオンも他の訓練生達も呆れていたが、レンにとってはただそこにある道を通ってきただけに過ぎない。

  が、やはり鼠以外のヒトから見るとその判断は異常でしかない。

  「それはそう。……なんだが、やっぱ種族で決めつけるってのはな、思考停止がすぎる。」

  「でもさ、対策しても対策しても、その対策が意味をなさないんだもの。なおさら、鼠族が疑われる要因が揃っちゃってるんだよね。」

  隙間があって、そこを通れるならそれは道。

  そんな感じで通ってくるので最早国も対策に関してはお手上げなのだった。

  どうしても入れたくなければ隙間なく壁を敷き詰めるしかない。

  が、それができれば苦労はしない。

  「待て、狩人も疑われてるって言ったよな?」

  「そうだね。」

  「じゃあ……レンの立場は……」

  「まぁ、そうだねぇ。最有力候補って言われちゃうかもね?」

  ノットが片目を開き、レイヴンを見上げる。

  レイヴンの目は微かに怒りで揺れていた。『狩人』の中で誰より正義感の強い男だ。理不尽で仲間が傷つく事は許せないのだ。

  今現在、『狩人』として動ける鼠はレン一人だけ。レンも鼠族として、その悪しき風習に晒されてきただろう。『鼠』というだけで避けられ、蔑まれ、疎まれる。そんな鼠族への信頼の無さは皆がよく知っている。

  そんな中、レンという一人の鼠が信用仕事の『狩人』を目指すというのだ。勿論最初は他のみんなも意図的にレンを避けていた部分がある。当たり前のようにマンホールから出てくるし、天井から落ちてくるし、屋根の上を歩いてたりする。

  でもそれは、他のヒトも抱える『固有本能』の性分でしかない。

  話せば普通の男の子だし、食べる物も寝る場所も同じで、一緒に暮らしてみればなんてことない普通の男の子なのだ。

  しかし今、狩人で鼠、というだけで盗人扱いされる可能性があるとは。なんとふざけた話だろうか。

  「レンには 、言うなよ?アイツだって鼠だけど、そんな風に自分の力を悪事に使うような奴じゃない。俺はそれを知ってる。お前だって知ってんだろ?」

  「そうだねぇ。レンくんは奇行に走ることがあるだけで、いい子だもんねぇ」

  「だろ?だからレンにはそれ、言ってくれるなよ。」

  「あーい。」

  気の抜けた返事を聞き、静かに拳を固め、決意する。

  鼠だろうがなんだろうが罪を犯した者が悪いのであって、種族全体が悪いのではない。

  そのことはレイヴンが一番知っている。

  種族への執着は何も生み出さない。

  周りがどう思おうがレイヴンの中でレンはレンで、その他の誰かが思うような悪党ではない。

  狩人で、鼠だからってその信用を奪わせはしない。

  「…捕まえてやるよ、真犯人」

  静かに決意を固めるレイヴンを横目に、ノットは

  ーー鼠のせいだって思ってそうだな。

  と、見透かしたように静かに笑った