「そもそもノットの剣は『殺す』ことに特化しているのだよ。」
と、リオンはライの頭をメモ用紙で軽く叩きながら、ノットの剣を評価する。
「正確にいうと、効率よく『殺すための一撃』へ繋げると言ったほうがいいかな?相手を消耗させるとか、動けなくするとか、そんな複雑なものじゃなくて、ただとどめを刺す一撃へ向けるための剣さ。』
「ふーん。……つまりノットくんは加減してたってこと?」
「加減、と言われるととちょっと違うかな。でも、本当の意味で本気はだせなかったんじゃないのかな。殺したらこっちが悪者だからね。その辺りもノットは考えていたと思うのだよ。」
リオンはライとファンドを交互に見て、
「だから、君達がノットの負傷の責任を、全部抱えようだとか考える必要はない。あくまで、相手が悪かった、といい話さ。」
そう言って、リオンはライの頭からメモ用紙を退けた。ぽんぽんと軽く叩かれてた頭をライは左手でぐしゃぐしゃと頭を掻き回し、ファンドは組んでいた腕を下ろして、「ふぅ」とため息をついて
「となるとライくんもそうよね。ほら、ライくん……寒いから…?」
「あぁ、そうだねぇ。ボクが本気出したら凄いことになっちゃうよねぇ。」
ノットも大概だが、ライはそれを超えて化け物クラスの力を持つ。そしてそれはやっぱり、ノットと同じく、『殺す』ことに使った方が脅威になる。
「ちょっと気になったんだけどさ、誰も殺してないよな?ライ。」
ライの想定する『凄いこと』がどれ程かは知らないが戦ったとなるとその辺がとても気になる。
「多分大丈夫じゃないかなぁ?みんなまとめて消えちゃったし多分死んでないよ?』
「消えちゃったっていうのが不穏すぎるのだよ…。」
ライの実力的に『消えちゃった』というのが『魔法で消し去った』ように聞こえるのはレイヴンだけじゃなくリオンもだったらしい。
まぁ、ファンドが何も言わないあたり本当に誰も死んでいないのだと思うが。
ともかく、ライの魔法も使いようによっては万能に使えるだろうが、
「ライは…まだ制御しきれてないんだっけ?自分の魔力を」
今朝見せつけられたライの力。あれだけの数の氷を生み出して暴発しないように制御していた。
が、しかし
「そうだねぇ。何百年かけても制御し切れる気がしないよぉ。とりあえずこの漏れてる分だけでもどうにかならないかなぁ。」
今朝見せつけられただけでも圧倒されたというのに、あれではまだまだ制御しきれていないというのだから驚きものだ。
ライは、魔力の生成効率が高すぎるせいで、常に魔力が器に収まりきらず、勝手に漏れ出ている。
その漏れ出ている分が、勝手に魔素と反応して冷気になってライの周囲を覆っている。
「そう考えると、ライ班の連中って主戦力として考えない方がいいのかね。強えのは確かだけどさ。」
戦力的には誰が見ても最高クラスのライ班だが、ライもノットも、本気で戦うとなると死者を出しかねない。
ノットはうまくやれば程よく相手を無効化してくれる可能性がまだあるが、ライはそうはいかない。
「そうだねぇ。ノットはともかくボクはあんまりかもねぇ。うっかり暴発させちゃったらみんな死んじゃうもんねぇ。」
「うっかりで殺されたらたまったもんじゃねぇな。」
左手をグーパーさせながら、ライがレイヴンの言い分に肯定する。
「ボクが本気出すとみんな凍っちゃうからねぇ。ほらほらぁ。」
「冗談にならねぇから、絶対にやめろよ?」
ライが右袖を振り回しながらおどける。が、実際に本気を出されると、ここにリアルな氷像が三つほどできることになるのでぜひやめていただきたい。
ライが振り回す右袖をリオンが掴み止めて、
「ノットはともかく、ライはあんまり結界内では戦力としては考えない方が堅実そうだね。本業の方で大活躍してもらうのだよ。」
「どっちも本業だろうが。」
「うーん、どっちの仕事もがんばるよぉ。」
リオンのいう本業というのは、狩人の名の通り狩りをする事なのだろうが、結界内の不祥事に対応するのも立派な狩人の仕事の一つだ。
レイヴンに突っ込まれて、リオンは舌を悪戯っぽく出した後、
「とりあえず、今日はお疲れ様なのだよ。二人とも。ノットが目を覚ましたらまた詳しく話を聞くから、とりあえずもう部屋に戻っていい。」
と、とりあえず解散の流れになった。
ちなみに
「まだ業務時間だけどねぇ。」
と、ライが余計な一言を漏らしたので、ライとファンドにはそれぞれ報告書の作業と倉庫整理の仕事が与えられた。
その時のファンドの顔がえげつなかったのをここに記しておく。
→→→→→→→→→→→→→→→
ライが大きなあくびをしながら部屋を出て、それに続いて、ファンドはライを鋭い視線で睨みながらスタスタと出ていった。
リオンは二人を見送った後、レイヴンのベッドから離れて、メモをもとにカリカリと何かを書き出していた。
再び一人になったレイヴンは、仰向けに寝っ転がって思考を巡らしていた。
「ファンドとライって仲悪かったっけ……」
話し合いの最中、終始睨まれっぱなしだったライ。今部屋を出ていくときも、ファンドは他には向けないような視線でライを睨みながら出ていった。
朝、二人でレイヴンを訪ねて来た時は結構良好な関係に思えたのだが、何かあったのだろうか。
レイヴンも一度ライを責めたとはいえ、さっきの話を聞いている限りライの落ち度はそこまでないように見える。
どちらかと言うと、落ち度があるとすれば
「リオン…」
リオンはさっきの発言から見るに、ノットの剣の特性を、ライの魔法の加減を把握しているように見えた。
しかし、それを以てしてあの二人を戦力としてカウントして実際に現場に投入する判断を下した。
つまり今回の事態の責任はーー
「いや……結果論……か。」
実力的に、魔道士狩りを『捕らえる』だけなら可能であることは、訓練内で証明されている。
捕獲訓練において最速で結果を出したのはライ班の三人だ。
エルドは実際に現場に出ることはないが、それでも、ライとノットの二人だけでも十分すぎる結果を残すことは可能だろう。
ただ、想定外だったのは二人が強力すぎるが故に起こる弊害ではなく、相手の戦力が思ったより高かったところにあるだろう。
実際にレイヴンも、昨日敗走している。万全でなかったとはいえ、一対一もまともに対応できなかった。
ライやファンドの話を聞く限り、ノットは複数人を相手にして、それでも圧倒していたという。
複数人を相手に圧倒していたノットを、打ち破る程の実力を持つ謎の鼠ーー
「魔法……」
ノットが一昨日『狩人が疑われてる』と言っていたことを思い出した。
魔法が使えるから、という理由で犯人の候補として、狩人の名前が上がっていると。
そもそも、この国では魔法を日常的に使う職業は、農家、医者、魔導士、魔術士、そして狩人。
その内、農家や医者はそもそも攻撃的な魔法を使えないし、魔道士や魔術士は、襲撃を受けている側なのでそもそも候補から外れる。
攻撃手段として魔法が使えて、日常的にそれを使っているのは狩人だけ。
そして、魔道士狩りは攻撃手段として魔法を使っているケースがある。
だから、魔道士狩りの犯人の候補として狩人の名前が上がっている。
「……。」
こう並べてみると、明らかに誘われてるような気がする。
魔法関連の事件は、いやでも狩人の耳に入るし、何より信用仕事である狩人の悪評が流れているとなればそりゃあ狩人は動き出すだろう。
そして、レイヴンに続いてノットまでがこうして帰って来ているのだ。
「……狙いは魔道書か、狩人か、もしくは…。」
ーー『王様』
昨日散々騒がれた、頭の中を蹂躙した言葉がふと頭をよぎった。
「俺か…?」
嫌な記憶が蘇り、頭にズキンと痛みがのしかかる。
過去との決別というのはどうしても簡単なものではないらしい。
「もし……もし狙いが俺なら……俺は……」
→→→→→→→→→→→→→→→
「行くぞ……ソラッ!!」
振り上げられた剣先から、僅か数秒ーー剣の輝きと共に水の刃が真っ直ぐと、静かに流れる沢の上を滑っていった。
「わ……すごい…。これが魔法剣の力?」
「そ。スゲーだろ?」
出てきた水の刃は、魔法のそれと見た目はそう変わらないが、魔法とは明らかに違うその現象に思わず息を呑んでしまう。
水刃は、しばらく真っ直ぐ進むと徐々に勢いを失って、魔素となって還元されキラキラと光を放ちながら消失した。
「これがオイラの魔法剣の力さ。」
ヴァンは魔法剣を自慢げに振り回すと、レンの方へ差し出した。
差し出された剣は、よく見ると先ほどまでの淡い輝きが消えていた。
「なんか、みすぼらしくなったね。」
「言い方!…まあ、魔力を使い果たしたからな。貯めればまた光るぞ。オイラにはできないけどなあ。」
「へぇ…。え、ヴァンの武器なのに魔力貯めれないの?」
「言ったろ?この剣は空気中にある魔力を吸収するって。さっき使ったのは、返してなかったレンの魔力だ。」
「え、あれ僕の魔力からできたの?ほぇーすごー。」
レンの呆けた顔に、ヴァンが「にししッ」と笑うと、
「オイラ達鼠はさ、種族柄どうしても力が弱いからこうやって他のところで戦える武器が欲しくなるんだ。」
「あぁ、それ、わかるかもしれない。」
ヴァンのいう通り、鼠という種族に生まれてしまった以上、どうしても種族的な壁が生まれてしまう。最高まで鍛え上げたとしても、犬や猫、ましてや獅子になんて届きやしないだろう。
「それに、レンと違ってオイラは才能がなかったからさ…。だからこうやって魔法剣を使わないといけないんだ。」
「…才能…?」
「そ。魔法の才能。才能が無いから、こうして魔術に頼るしかないのさ。ま、真似事ができるだけで結構楽しいけどな。」
剣をクルクルと投げながら、ヴァンがレンを見る。
おそらく、ヴァンから見たらレンは才能がある側のヒトであるのだ。
だが、
「僕に、僕に才能なんて…」
無い、と思う。
魔法は使える。けど、使えるだけでなんの役にも立っていない。
役に立たない、ならそれはもう無いのと変わらない。
「才能ないなんて、言ってくれるなよ。レン先生ヨォ。」
「……でも、僕なんて本当にまだまだで」
「はぁ……分かってねぇな。レン。」
ヴァンは自己を下げるレンの目を見て、「いいか?」と指を立てると
「魔法の才能のあるなしってのは、使えるか、使えないか、の二択だけ。オイラは使えなくて、オマエは使えるんだ。分かるか?」
「…うん。」
「そして、オマエは魔法が使える側だ。それだけで十分才能アリだろ。」
「……でも、僕は…なんの役にも立ててない。」
一昨日も偶然うまく行っただけで、しかも想定通りの成功ではない。
あのときは、とにかく初めての成功でファンドもレイヴンも喜んでくれてはいたが。しかし魔法を操るレン自身が毎回あれができるのかと言われると、胸を張って頷けないというのが本音だ。
要するに、班の足手纏いなのだ。
レイヴンのように肉弾戦が得意でもないし、ファンドのように何か特化した、自分だけが差し出せるものもない。
「そおか?ケガ治してくれたの、オイラ的には超役に立っちゃってるけどなぁ。」
「……そう?」
「おうよ。」
グッドポーズではを見せてヴァンはそう微笑む。
「それにさ、レンが才能ないなんて言われたらオイラ達はもはやクズだぜ?魔法を使うことすらままならないんだからさ。」
「ごめん、そんなつもりはなくて…。」
「いいって。レンのいる環境の中で、自分は才能がないって話だろ?でもさ、オイラの生きる世界では、レンは喉から手が出るほど羨ましい存在なんだわ。」
魔法が使えて当たり前の『狩人』という環境に生きるレンにとっては、自分はまだまだ未熟な存在だ。だが、そうじゃないヴァンから見たらレンは魔法が使えるという『才能のある』者に見えるのだ。
「ヴァンはさ、なんで魔法が使いたいの?」
純粋に疑問に思った。
だって別に使えたところで便利なわけじゃない。むしろ危険がいっぱいだ。
そもそも魔力の供給がなければ自身の魔力を使うしかなく、自身の魔力を使うのは体への負担が強い。それに、下手をすれば魔法の巻き添えになる可能性だってある。
魔術を使ってまで魔法が使いたいその理由とは。
「だってさ…なんかカッコいいじゃん?魔法使えたらさ。」
「…え?」
「いや、まあさっきも言ったけど種族的にどうしようもない弱さを補うために欲しいってのもあるんだけどサ、それ以上にやっぱカッケエじゃん?」
「う、うん。」
熱弁するヴァンの圧に押されながら答える。
「完全に油断してるところにさ、突然魔法を使って逆転する感覚、アレはやっぱ最高だったな。」
「へ、へえ。」
ヴァンが身振り手振りを使っておそらくその逆転したであろう瞬間を表現する。
この話振りを見るに相当嬉しかったように見える。
……その魔法が当たったヒトには御愁傷様というしかない。