アリエイトに言われてリオンを呼びに植物園へ向かったレン。
植物園を開いて目に入った光景に唖然としていた。
「あ、レンおかえり。何か用かな?」
と、手で汗を拭いながら話すリオン。
そんなリオンの横で正座させられているレイヴンが気まずそうな顔で
「よう……おかえり。」
と手を振った。
「あぁ、うん……ただいま」
どういう状況なのだろうか。いや、ぱっと見だとどう見てもレイヴンがリオンに説教されている現場なのだろうが。
それだけならまあ、まだ飲み込めるのだが不自然に焦げた地面となぜかリオンが愛用の竹を思いっきり成長させて戦闘体制なことだ。
「それでレン、用事とはなんだろう。」
「ん、え、あぁ、ノットくんが起きたから呼んできてってアリィ先生がーー」
「マジか!?」
正座していたレイヴンがレンの言葉を遮って、立ち上がると同時に大声を上げる。
そしてそのままレンに駆け寄って肩を掴んで
「本当に、ノット起きたのか!?」
肩を掴まれて揺らされながらそう尋ねられる。
「う、うん。」
「良かった……よかった…。」
レイヴンの腕から力が抜けていって、掴まれた肩が解放される。
そして、解放されたと同時に無意識にレイヴンから距離を取っていた。
そんなレンを見て、
「あぁ、すまん。痛かったよな…。大丈夫か?」
「…うん、大丈夫。早く行こ。」
「おぅ、ってリオンのやつもういねぇし…。」
いつのまにか姿を消したリオンにレイヴンが若干イラついた顔を見せるが、すぐにまた嬉しそうな表情に戻り、植物園の出口へ向かう。
「…?レンもほら、行こうぜ。」
立ち尽くしたままのレンにレイヴンが笑顔で手招きする。
本当なら、レンもついていきたい。が、しかし
「ううん。僕はもうノットくんと話したから。それに契約してる子達の様子も見ないといけないから。」
「そうか?んじゃ、俺行ってくるわ」
そう言って出ていくレイヴンに、手を振って見送る。
レイヴンの姿が完全に見えなくなってから数秒、レンの体から力が抜けて、地面に座り込む。
「ハァ……ハァ…」
緊張が解けて、いつのまにか止まっていた呼吸を再開する。
自分でも何が起こっているのか、分かっているけど分からない。
レイヴンが怖い。
ズキズキと痛みを主張する頬の傷に触れる。
瘡蓋ができてザラザラしている。
その痛みを忘れるために、レンは魔法を発動して自分自身の傷を癒す。
勿論魔力はゴッソリと取られるため頭痛と体から力が抜けて倒れたくなるような怠けに襲われる。
だが、それでもレンにとっては傷を治すことの方が何倍も大事なことだった。
「…妄言だから…違うから……」
昨晩、リオンに話した言葉を思い出しながら気持ちを落ち着かせる。
妄言であると、事実ではないとそう思い込みたい。
レイヴンがレンに襲いかかるだなんて、そんなことありえない。
正直、さっき肩を掴まれた時、逃げ出したいと思った。否、その時だけではない。距離を詰められた時、立ち上がられた時、顔を上げた時、レイヴンの一挙一動に心臓が敏感に反応し、脳が逃げろと騒ぎ立てた。
体が自然と、硬くなってしまう。
レイヴンの立派な牙が、体を掴んでいる手の力が、体を掴んでいる手の先についている爪が、またレンに襲いかかるのではないのかと、恐怖する。
実際付けられたのは、ほおのかすり傷だけだし、なんならその程度の傷なんて今までの訓練で何度も追ってきたというのに、なぜ今更。
「こ…心が…」
心がやばい、と思った。
レイヴンを信じたい心と、レイヴンが怖い、逃げたいという心が存在する。
傷の治癒が終わり、そのまま地面に倒れ込む。
植物園の天井はガラス張りになっていて空がよく見える。
日が沈んできて、空は赤く染まってきていた。
赤く染まった空はまるで、闘志を宿した瞳のように見えた。
「…レイヴンの目みたい…。」
赤く染まる空を眺めながら、レンの意識はそのまま深く落ちていった。
→→→→→→→→→→→→→→→
「やっほ〜、レイヴン。元気?」
「バカやろう!」
部屋に入るなり、ノットとレイヴンのそんなやりとりが交わされた。
額に汗が浮かんで、だらしなく腕をダラーンと伸ばしたノット。傷の痛みで動けないだろうし、それに口調こそいつも通りたが若干覇気を感じないところからかなり弱っているのだろう。
だが、
「生きてて良かった…。」
レイヴンの言いたいことはこの一言に集約される。
どう見ても容態は大丈夫では無い。後遺症があるかもしれない。
ただ、ノットを失う恐怖から解放されて本当の意味で安心した。
「私は大丈夫って言ったからね?でも、良かった。」
「本当に、良かったのだよ。…もしものことがあったらサクラに顔向けできないからね。」
どうやら安堵しているのはレイヴンだけじゃなく、治療を担当したアリィやリオンもらしい。
二人とも特に慌てた様子も見せずにいたが内心やっぱり穏やかではなかったのだろう。
「さて、ノット。気分はどうかな?」
「りおんせんせー、背中がいたいです。」
「そうだね。…ライもそうだがなんで君たちは会話の発展性が望めない解答をするんだい?」
「それは俺も思う。」
ノットが首を傾げるのを見て、リオンが大きくため息を吐く。
さっきのライも何があったのかと聞かれて『襲われました』とか抜かした。
そんな見てわかる事を堂々と言われてもそれ以上どうしろと言うのか。
「…背中が痛い以外では特に問題なさそうかな?」
「うーみゅ…あ、ちょっと目眩?がするかも知れない。あー、あまあまが足りない…。」
「貧血起こしてるわね。ちょっとずつでいいからちゃんと水飲むのよ?」
「あまあまは?」
「あまあまはもうちょっと様子見てからね。」
甘味を望むノットにアリィは医者としての立場から淡々と答える。その答えにノットは少し、多分ちょっと肩を落とした。多分。元から下がりきってるから分からないけど。
「あまあま……あまあまで思い出したけど、ノット達あまあま買いに行ったんだよな多分…。」
「そうそう、どっかの誰かさんが勝手に食べたあまあまをぼくじきじきに買いに行ったんだよぉ。あまあま……」
「悪かったって、ほらまた今度あまあま買ってくるから。」
「君達、一回あまあま言うのやめようか。頭が混乱してくるのだよ。」
ノットが悪戯っぽく舌を出して、それを見てレイヴンも歯を向いて笑った。
その様子を見てリオンも小さく微笑むと、一回喉をならしてから緩んだ頬を締める。
「さて……それじゃ少しだけ話をしようか。」
りおんの声色は重い雰囲気を纏っていて、ノットの無事を祝うムードから一気に狩人としての仕事の雰囲気へと一変した。
「起きたばかりで申し訳ないが、話を聞きたい。君が戦った相手についてだ。」
「ふむ…その辺はファンドちゃんとかライから聞いてるんじゃないの?」
「聞いてはいるが、やはり直接戦った君の意見が一番求められるのだよ。それによって今後の方針が変わる。」
いまいち容量を得ていない顔をするノットにリオンは「いいかい?」と指を立ててそれに対してノットが「良くないよ?」と返した。
それをリオンは意味のない戯れと捉えて、
「……君の強さを知ってる私達からしたら、君が大怪我をして帰ってきたと言う事実は何よりも重要視するべき事なのだよ。」
「あ、強行しやがった。」
「ライとファンドが無傷で帰ってきたと思ったらノットの大怪我だ。一体なにがあったんだろう。」
リオンは腰を下ろして、ノットと目線の高さを合わせる。
しばらくの沈黙の後、ノットが
「奇襲されたよ。」
と、ライと全く同じことを言った。
そのデジャブ感にレイヴンがため息をつき、
「その流れはもうやった。もっと詳しく話せ。」
「あ、そう?うーんと…何から話せばいい?」
「戦力とか、どうかな?」
「戦力ね……うーんと、奇襲には慣れてるって感じだったけど…戦闘力はないって感じかなあ。多分、戦い方を知らないんだろうね。」
「ふむ…ファンドの報告で相手方は魔法を使ったと聞いてるんだけど…」
「そうそう、アレびっくりした。どうやったんだろうね?」
「なんでお前ら揃いも揃って楽しそうに話すんだよ。」
自分がやられた原因であろう物を、さも当たり前のようにキラキラとした好奇心を宿した瞳で話す。
ライもそうだったが、強者の余裕という奴なのだろうか。
「だって、楽しいもの。強い相手と戦うのは。勝っても負けても、ね。」
「その気持ちは分かるが……こういう場合は負けは死と同義なのだよ。君たちは死ぬにはまだ若すぎる。もうちょっと命を大事にしてほしいものだね。」
「うみゅう…」
リオンの大きな手で頭を撫でられて、珍しくノットが素直にリオンの言葉を受け止める。
そしてリオンの視線はレイヴンにも向けられる。
「戦って強くなるのは私の求めるところだから止めはしないけど、命あってのものだねだからね。」
「……分かってるよ…。だから、その目やめろよ。なんかむず痒くなんだろ。」
「わ、レイヴン照れてるの?かーわいー。」
「うるっせぇなぁ…いいから話進めろよ。」
リオンの大きい手に頭を押し付けながら、ノットがレイヴンを揶揄って小さく笑う。
だが笑うたびに背中の傷の痛みに表情が少し歪むのが痛々しくてほんとに、もう、早く話進めてほしい。
「どこまで話したかな……」
「魔法がどうのって話だろ?」
「そうそう、それ、それだ。その魔法っていうのは本当に魔法だったのか。それが問題だ。」
「あー、ね。相手多分魔術使ってたよ。アレは魔法のでかたじゃなかったね。」
ノットが見た水の刃ーーそれは見た目は普通の魔法といった感じだったが、その出現があまりにも機械的すぎたのだ。
普通、魔法というのは形が一気に現れるのではなく、術式を少しずつ通って組み立てられて出てくるため、一つの魔法として成るまでに最初と最後で明らかなラグが発生する。
それと違って魔術というのは、術式が完全に起動してから効果が現れるため、完成された状態で出てくる。
つまり、『そこ』が明らかに違って見えるのだ。
「やっぱり魔術か…。となるとめんどくさいな…。」
「あ?魔術って言ってもやってることは魔法と変わらないんだろ?だったらめんどいも何もないんじゃ」
ノットを撫でているのとは逆の手で頭をわしゃわしゃと乱しながら唸るリオンにレイヴンが尋ねる。
魔術といえど、やってることは狩人のやってる攻撃魔法と変わらない。ならば対処するのは別に苦ではない、というのがレイヴンの考えだが。
「どんな術式なのか分からないと、下手に手を出せないのだよ。効果が本当にそれだけなのかも分からないしね。」
「…?どゆこと?」
「たとえば今回ノットを襲った魔術、それの効果が本当に『魔法を発動させる』ことなのかどうか、ということだよ。」
「せんせー、どゆことですか?ぼくもイマイチわかんないかも…。」
「一口に魔術といっても、形が複雑だということだよ。それも、おそらく魔術師狩りの一派だろう?どんな魔術が媒体になってるか分かったもんじゃないね。」
「ごちゃまぜってこと?」
「ざっくりいうと、そういうこと。」
リオンの話を聞いてもイマイチハッキリと理解できないレイヴンをよそに、納得した答えを得たような顔で再び喉を唸らせるノット。
会話が停滞し、その方面でそれ以上の情報が得られないと判断したリオンが、『それじゃあ』と口を開き、
「相手の…容姿、種族はどうかな。何か、特徴的なものはあったかな。」
「それはもうバッチリ。」
喉を唸らせていたさっきとうってかわって、今度は自信満々にサムズアップ。
「睨んでた通り、やっぱ鼠達だったね。うんうん。間違いなし。」
「…やっぱりか……。それで、他には何かあるかな?」
自信満々に報告するノットとは違い、がっかりしたような声を出すリオン。額に手を当てて、ため息混じりに。応対する。
そんなリオンを他所に、自信満々にノットは続けて
「みんな基本黒い服着て顔も覆ってたねぇ。だけど、魔術?使ってきた子の顔は見えたよ。その子が多分主力かなあ。」
「強かったのか?」
「強かった…というより、戦ってる最中に強くなっていった、って言ったほうがいいかも。レンくんとか、いい勝負するんじゃにゃいかなあ。ふふふ。」
「…はぁ……それじゃあ、その子の特徴だけ教えてもらってもいいかな?」
「リオン、なんか怒ってねぇか?」
「怒ってない。呆れてるだけだよ。そんでほら、ノット。」
声のトーンが落ちてる。これは怒ってる。
ノットをペンで指して、話の続きするように促す。
「はーい。えっとねぇ、毛は薄橙って言えばいいのかな。黒に対してめっちゃ目立つ色だった。そんで……あ、そうそう、なんかね、剣が面白かった。」
「面白かったっていうのは?」
「剣がね、水色に光ってた。やっぱなんか特殊な剣使ってるのかな?アレ欲しいなって思った。」
ワクワクした、子供のような顔をするノットに反してまたまたリオンは神妙な面持ちをしていた。
そして、暫く考えたように腕を組みながら
「…それ、もしかして魔法剣なんじゃないかい?」
と、結論づけた。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
すっかり眠りこけて、日が沈んでしまっていた。
どれだけの時間が経ったのだろうか。
レンは真っ暗な植物園で目を覚まして、そのまま再び救護室へと向かった。
廊下に電気がついていたことから、まだ消灯時間になってないことだけは分かった。
そして救護室へと向かうと、二人の話し声が聞こえた。
おそらく、ノットとレイヴンの二人の声だった。
部屋へ入ろうとしたところで、なんとなく今入るのは違うかな、と思い、ドアのすぐ横へと座り込み、聞こえる会話を盗み聞きしていた。
ノットとレイヴンは寮のルームメイトであり、昨日はレイヴンが部屋に帰らず、そして今日は救護室でノットとレイヴンの二人。水入らずで話したいこともあるだろうなという、レンなりの気遣いである。
と、盗み聞きしている理由を後付けで考える。
というか、気遣いするんだったらさっさとこの場を離れるべきでは?とも思ったが、普段二人がどんな会話をしているのか気になったのでこのまま盗み聞き続行。
聴き始めた時は、互いに心配していた旨と、ノットがどんな激闘を繰り広げたかについて話していた。
聞こえたところから判断するに、ノットは四人を同時に相手していたのだろうか。
相変わらず化け物じみているというかなんというか。
本当に、主人公適正たかいなぁ、とそんなことを思う。
そして、レイヴンが盗み食いしたプリンについての話が出てきて、思わず笑ってしまう。
普段あんなに毅然としてて正義面かましてるくせに、裏でそんな矮小な事をしていたのかと思うと、おかしくて笑ってしまう。
そう、多分自分が怖いと思ってしまうレイヴンは、レイヴンのほんの一面で、本当は怖くない面の方が多い筈だ。
今までだって、恐ろしいと思ったことなんてこれっぽっちもなかったのだ。
約三年間、これまでの訓練の日々において何度も喧嘩したし、何度も訓練で撃ち合ったし、何度も負かされた。
けど、それでもレイヴンのことは嫌いになることはなかった。怖くなかったし、なんなら一番の友達に思っていた。
今自分の中にある二つのレイヴンのイメージ。多分、先日襲われたことが新鮮すぎて、今はそっちに引っ張られてるだけだ。本心は、ずっと一緒にいたいと思ってる。
なんなら、本人は認めようとしないが、本当はメチャクチャに繊細で可愛らしい面の方が多いのだ。
ちょうどノットの方も、『盗み食いしたいくらいプリン好きなの?か〜わい〜』と、からかって遊んでいた。
それに対してレイヴンが、おそらく赤面しながら『うるせぇ!仕方ねぇだろ腹減ってたんだから!たまたま、プリンしかなかっただけだ!』と、可愛らしい言い訳をしていた。
そう。それこそレンのよく知るレイヴンだ。
怖いけど、今は怖いと思うけど、それでもレンはレイヴンのそんな面が好きなのだ。
だから、今は無理かもしれないけど、心のほとぼりが冷めたら、また一緒に笑おうとそう思った。
そんな他愛の無い会話を聞いて、話題はぐるぐると巡る。
そして、数分二人の会話を聞いて、その話してる内容にレンは謎の焦りを感じていた。今まで座り込んでいたドアのそばからすぐさま立ち上がり、ライの待つ、寮部屋へと歩を進めた。
レイヴンの可愛らしいトークにしんみりしていたというのに、さっきから冷や汗をかいてばかりで、心臓も騒がしい。
会話は再び、ノットの武勇伝へと戻っていた。
戦ったこと、戦った場所、戦った相手のこと、そして負った怪我のこと。
聞こえた言葉は、『鼠』、『橙』、『魔導書』ーーそして、『魔法剣』。
そう、レンには心当たりがあった。否、心当たりしかなかった。
そして、何より、レンがその場を離れる決断をしたのが、
ーー『俺を襲ったやつに似てる。』
という、レイヴンの一言だった。
なんだ、なんなのだ、なんなんだ。本当に、そんなことがあり得るのだろうか。
頭に浮かぶのは、ある一人の鼠の姿ーー。
その人物は薄橙の毛を持っていて、青い瞳で、そして魔法剣を自慢げに高らかに掲げて、そして魔術を行使するーー。
そんな、二人が話すドンピシャな姿が頭に浮かんでくる。
「あり…ありえない….。違う……ちが…。」
ただ、似ているだけだ。似た特徴を持った人物がたまたまレンの知り合いにいるだけ。
そう思った。
怪我を治しさえしなければーーそう思うだけで済んだかもしれない。
ーー『イヤァ、ちょっと喧嘩してきちゃってさぁ。それでこの様ってわけさ。』
その人物は、喧嘩をしてきたと言った。
今回は少し相手の腕が立ったと言っていた。切り傷があった。見覚えがあった。だって、三年間訓練してきた中で何度も見た傷口だったから。
点と点が繋がっていく。
気づくな、と言っている脳の静止を押し除けて、点と点が繋がって線になり、一つの答えを紡ぎ出す。
廊下を走りながら、頭がぐるぐると回る。頭がぐるぐる回るのと同じように視界もぐるぐると回る。
部屋の前について、必死にノブをガチャガチャと回す。
が、しかし
「なんで……なんで開かないの…!ライ、いる?ねぇ、起きてる?ライ…!?」
開かないドアをガチャガチャと、バンバンと叩いて部屋にいるであろうライへと語りかける。
が、しかし応答はなく。
それはまるで、『逃げるな』と言われているようで、レンはいたたまれなくなって、再び走り出した。
何かに追われてるような寒気を感じて、頭と足が回り回る。
回って回って、回り回ってそしてドアを開き、入ったのは
「うやぁ、なんだなんだぁ!……レ、レン?」
ノックも無しに、いきなりドアを勢いよく開かれて、半裸で既に休憩モードのリオンが慌てふためく。
布団を敷いて、もう寝る準備は万端といったところだ。
しかし、リオンは息も絶え絶えなレンの様子を見て、すぐさまスイッチが入り
「レン、どうしたんだい?顔色が良く無いようだが…私に何か用事かな?もう消灯も近いが…。」
と、落ち着いた声で教官スイッチオンで対応する。
レンの様子を見て心配そうな顔をするリオンを他所に、レンは尚思考をぐるぐると巡らしていた。
言っていいのか、本当に言ってしまっていいのか。
自分も、レイヴンとノットの被害の片棒を掴んでいたのでは無いのか。
勘違いかもしれない、自分の思い込みかもしれない。
もし本当だったとして、友達を売るような真似をしてしまっていいのか。
何もかも分からず、でもリオンの部屋へ飛び込んだのはきっと、どうするべきか、何が正しいのか分かっているから。
ーー『自分が主役だー!って思ってれば勝手に状況が動いてくれるさ。』
脳裏に、そんな言葉が思い出されて、もう『どうにでもなれ』と思い、口にする。
「先生……僕、魔導士狩りの正体を…知ってます。」
「っ…!はぁ!?」
と、遂に伝えてしまった。言った後に、後悔した。しかしもう言ってしまった。もう戻すことはできない。
言ってしまった以上、ここからは責任が伴う。もう取り消すことはできない。
頭の中で未だに葛藤が交差するレンの他所で、想像し得なかった事を言い出したレンに唖然とするリオン。
もう、主役になり切るしか無いと、レンは頭の中でその人物を、『主人公像』を必死に作り上げていた。
もう、どうにでもなってしまえ。
半ば投げやりなレンの顔は、苦悶の顔から、余裕のあるような笑みへと変わっていった。