ほんのりイザ武な人間×獣人パロのみっち愛され
幻覚とか妄想とかを捏ねくり回した結果の産物
最後の世界線から並行世界に移動してる
みーんな仲良く会社立ち上げて社畜してるよ
獣人は今のところみっちのみ
最終的にはハッピーエンド……を目指したい
今回は東卍との交流編
書いててすごくムーチョと春千夜のコンビ……好きです
いずれ本になるかもしれない
もう文字数気にすんのはやめたといったがこのままいくと全部で10万文字いきそうだなってちょっと震えてしまった
今までのにコメント・スタンプやいいねにタグなどなどありがとうございます
フォローもありがとうございます
年内……はもう1回上げれたらいいなぁ
著作権は放棄してないんで無断転載とか止めてくだせぇ
[newpage]
「じゃあタケミチは頼んだ、ムーチョ」
「あぁ」
ギリギリとイザナは悔しそうな顔をし、鶴蝶もどこかしょんぼりとしている。武藤に抱き上げられた武道はそんなイザナ達を見下ろす。
「速攻で終わらす」
「どう頑張っても深夜になるから無理だぞイザナ」
「いや、終わらす」
「……頑張れよ鶴蝶」
「キャン!キャン!(頑張れイザナくん!カクちゃん!)」
どうして武道が武藤に預けられるのかというと、遠出の仕事がイザナ達に入ってしまったからである。本来であれば九井との約束で黒龍を第一優先で武道を預けることになるのだが、月末で経理も忙しい上に大寿や乾にも予定が詰まっていたためである。
そして運の悪いことに武道の定期検診も入っていた。定期検診には場地が毎回一緒に行っているが、場地だけに預けると万次郎に会う可能性が高い。そのため東卍でも顔見知りの多い武藤に預けられたのであった。
「最悪万次郎に会うのは……嫌だが許す。だがタケミチと2人だけにするとかは絶対に止めろ」
「……会った場合は善処する」
イザナの中でだいぶ譲歩した条件を出し、渋々と仕事へと向かっていった。武道はつい先日追加で届けられた三ツ谷印の洋服に身を包み、イザナからプレゼントで貰ったチョーカー。そして天竺の陰陽が描かれたキーホルダーを身に着けている。それらを装備した武道は足元をちょろちょろ歩かれると蹴飛ばしそうで怖いという武藤の言葉により現在その身を抱き上げられている。
怖いというのは建前で、裏の人間や欲深い人間に拐われたりしないようにするための対策である。武道は残念なことに一切気づいていないが、イザナが天竺の面子に情報を探るように命令してから暫く、やたらとイザナの周りを嗅ぎ回るヤツらが案の定現れたからだ。
いつも一緒にいるため向こうも手出しできないのか何か企みがあるのかは未だ不明だが、抱き上げていればそのリスクは低くなるため、積極的に武道は誰か抱き上げられているか最低でも手を繋いで歩くくらいだ。中には喜んで武道を抱き上げている……むしろそっちのが多いのはここだけの話。
いくら強面である武藤でも1人で幼子な獣人の面倒を見るのは難しい。場地と合流するまでの道中は車での移動もあるため、先手を打って助っ人を頼んでいた。果たしてその相手は助っ人になれるのか些か不安だが。
時間にはきっちりしているので遅刻してくることはほとんどない。あったとしてもファンサービスをしててとかなので、そこは仕方ないものと割り切っている。もうそろそろか……と武道を膝上に座らせ手遊びをしていると扉がノックされた。
「武藤さん、頼みって……」
「……わん!(春千夜くんだ!)」
「来てくれてありがとな、春千夜」
会社内の芸能部門に所属し、尚且つ妹と共に有名配信者でもある春千夜が、武藤の上に座る武道をガン見していた。
「……ソイツは?」
「コイツの名前はタケミチ、イザナの家族だ。今日はイザナが多忙でオレが預かってる。今日に定期検診が入ってて後から場地と合流するが1人だと不安でな」
「圭介が来るなら松野とかじゃ駄目だったんです?」
「松野は店がある。オフの日に悪いがいいか?」
「……わかりました」
「タケミチ、アイツは明司春千夜。明司は3人いるから春千夜で覚えればいい。今日一緒に居てくれるヤツだ、挨拶するか?」
そっと膝から床に下ろしてもらい、春千夜へとおずおずと近寄る。この春千夜の性格がどんな性格かわからないため慎重にならざるを得ない。
1つ前の世界線であれば幼馴染にはでろ甘な春千夜で、武道に苦言を呈すも自分の枠内に入れた者には甘い。枠外には大変厳しい暴れ馬。
そしてそれ以外の世界線の場合、マイキー至上主義な過激なヤツになる。なんせ刀をぶんぶん振り回すし、刀で傷を負った身としては思い出したくないトラウマだ。
気難しい顔をして武道を見つめる春千夜を見上げる。ぐぐぐっと春千夜の眉間に皺が寄った。ちょっと潔癖なとこもあったし、もしかしたら触るのも駄目かもしれないと一定の距離を保ちながらお互いに視線を外さない。
先に動いたのは春千夜だった。
「……武藤さん」
「なんだ?」
「コイツ……近寄ったり撫でても大丈夫なんですか?」
「基本は人懐っこいぞ。お前が気難しそうな顔してるからビビってるんじゃないか?」
「……オレ、獣人触るの初めてなんですよね。本とかで読んだことあるんですけど、初対面の人間に対しては警戒心が強いんでしょう?」
「タケミチの警戒心か……慣れたらそんなの死んでんな」
「え?」
会話から察するにどうやら春千夜の態度は武道を気づかっての対応だったようだ。眉間の皺は困らせないようにと考え込んだからできたものらしい。遠回しにディスられたような気がするが、気にしたら負けと武道は判断する。
(きっとこの春千夜くんは1つ前の世界線な性格っぽいし大丈夫か!)
急に思考を切り替え、春千夜へと近寄る。確証も得ていないのにポジティブに考えるその姿勢。単純なのは美徳ということにしておこう。
対して春千夜は急に満面の笑みになり近寄ってきた武道に対して気後れしていた。何せ獣人は個体によっては主人と認めた人間以外に触れられるのを嫌ったりするし、そもそも人間嫌いも多く共に生活するのも難しかったりする。なのに急に笑顔できゅんきゅん鳴いてこっちに向かってくるから驚くのも無理はない。
「コイツ、こんなんで大丈夫ですか?」
「……今のところこんな態度を取るのは、会社の身内にだけだから大目に見てやってくれ」
ハァとため息をついてしゃがみ込み武道と目線を合わせる。サファイアのような透明感のある蒼、水面を見上げたような青い瞳が印象的だ。そろそろと手を伸ばすと自ら進んでその手に頭を収めてくる。こんなにも人懐っこい獣人がいるのかと驚くと共に、野生が息してなくて大丈夫かと心配になる。これだけ警戒心が死んでいたら武藤も春千夜にヘルプを求めるのも無理はないと納得することにした。
「これだと確かに大変ですね」
「わかってくれるか? いくら抱えて一緒にいるにしてもちょっとな……」
武藤に同情すると共に手は未だに武道の頭を撫でくりまわしていた。どうやら春千夜もお気に召したようである。
[newpage]
武藤は春千夜と共に場地と合流予定の場所へと向かう。待ち合わせの場所は場地の勤務するペットショップ。ペットショップなら万次郎と会うことはないはずというイザナからの指示だ。
現在武道は武藤に抱きかかえられながら、春千夜に何かを話しかけるみたいにご機嫌に鳴いている。
春千夜も春千夜で言葉はわからないが、そーだなとかうんうんとか相槌を返している。春千夜と会わせるのは少し不安なところもあったが、元々妹に対して面倒見の良い兄である。この様子なら問題なさそうだと安心した。
「ムーチョ!タケミチ!」
ペットショップ前には場地が立っておりこちらに手を振っている。ペットショップの扉から松野・羽宮がこちらをジッと扉の隙間から顔を少し出し、トーテムポールのように見つめている。某有名なホラー映画を彷彿とさせるスタイルだ。とりあえずそっちは一旦無視。
「元気だったかー?」
「きゅーん!!(圭介くんだー!!)」
初めて会った時から既に何回かあっているため、武道の尻尾も千切れんばかりに振られている。場地も嬉しそうに武藤から武道を取り上げ、片手に乗せながら器用に頭をわしゃわしゃと遠慮なく撫で回す。扉から見つめる4つの瞳がかなり怖いことになっているが、それに気づいているのは武藤と春千夜だけであった。
「春千夜はどうしたんだ?」
「武藤さんに頼まれてサポート」
「……お前が?」
「なんだよ」
場地の腕に座りきゃらきゃらと笑っていた武道が急にびくん!と身体が震えたかと思えばきゅっと場地に抱きついた。なんだ?と思い場地も振り返ると同じようにビクリと震える。
扉から顔だけ出し、トーテムポールのように見つめる松野と羽宮にようやく気づいたようだ。
「……どうしたんだよお前ら」
「場地さん、何スかその可愛い獣人」
「オレら会ったことねェんだけど?」
どこか恨めしそうにギリギリとこちらを見つめる姿は完璧ホラー映画。武道は映画が好きでレンタルアルバイトや映画監督を目指しただけあって、勿論作品もよく知っている。震えて目を背けたのは色んなものを見たほうがいいとアドバイスを貰い、ホラーが苦手なのに見たことを思い出してしまったからである。
うるうると瞳から涙が零れ落ちそうになるが、すかさずハンカチを出した春千夜が拭ってやる。場地に抱きつきながらピスピス泣いてる姿はどこか痛ましい。そのまま場地の肩に顔を伏せてしまう。そんな武道の背中を撫でながら松野と羽宮と話す場地の姿はさながらお父さん。とてもカオス。
「それだとタケミチが怖がるから出てこい。いいよなムーチョ」
「タケミチが怖がるからな……仕方ない」
そろそろと出てきた2人は場地の両隣から武道を覗き込んだ。
「うわ〜ちっせぇ……誰んとこの子?」
「場地さん、この子まだ相当幼いっスよね? それにしても人慣れしまくってません?」
「コイツはタケミチ、イザナくんの家族なんだわ。センセーが言うにはだいぶ人寄りだってよ」
流石ペットショップの店員と言うべきか、動物や獣人に対してもある程度の知識はあるようで、一定の距離から近寄らないようにしている。
「タケミチならそんな離れて見なくても大丈夫だろ」
「え! そうなんです?」
「春千夜だって今日が初めてだよな?」
「あぁ」
「コイツ、本当に獣要素が耳と尻尾くれぇなんじゃねェかって思うくらい人に懐くぞ? タケミチ、挨拶してぇってさ、顔上げろー?」
場地の声にソロソロと顔を上げる武道。松野と羽宮と顔を合わせると先程まで伏せられていた耳もピンと立つ。パタパタと尻尾も揺れているのでどうやら機嫌が戻ったこともよくわかる。
「わんわん!きゅん!きゅーん!(千冬!千冬だ!髪の毛黒い千冬じゃん!あ、一虎くんもいる)」
「……何か千冬見て興奮してねェ?」
「気に入れられたんじゃないか千冬」
「っスかね?」
「武藤さん……タケミチ本当に大丈夫です?」
「……不安になってきた」
三者三様、それぞれ思うところはあるものの武道はこれから定期検診が控えている。そのため一旦は医者へ行き、帰りにまた寄ることを約束して松野と羽宮とは1度別れることになった。
◇◆◇
定期検診はかかりつけ医からも健康に対しては花丸を貰い、まだ少し痩せているので今より痩せないように気をつけようと言われたくらいだった。すんなり終わった検診から松野達のいるペットショップに戻ると何故かそこにドラケンと渾名で呼ばれる龍宮寺堅がいた。
「ドラケンじゃねーか。なんでここに?」
「出張修理。一虎のバイクが前から調子悪ィって連絡あったからな」
「あー……そういやそんなこと言ってたな」
真っ先に気づいた場地が2人と話していたドラケンに近寄って、何故いるのかと問いかけるとまさかの出張修理。武藤はその時点で嫌な予感がし、春千夜が抱き上げている武道を見る。
もしかしてここにマイキーが来るのでは?そんな考えが過る。ドラケンのいる所にはマイキーもいる。ニコイチセットがどうにも頭を離れない。
「その抱き上げてんのなんだ?」
どうやらドラケンは春千夜が抱き上げている武道に気づいたらしい。それもそう。あの春千夜が抱き上げているのだから。これには武藤も場地も驚いた。
さぁペットショップに戻るぞというところで場地が誰に抱っこされたい? なんて面白半分に聞いて、武道が駆け寄った先が春千夜だったのだ。これには全員驚いた。春千夜も断るかと思いきやどうやら武道のあの眼には勝てなかったらしい。そして自分達のところに来なかったことが少なからずショックだったのは誰にも言えない。
武道的にはムーチョくん、圭介くんってきたら次は春千夜くんでしょ! というどうでもいい理由だったりする。真相は武道が人語を喋れないので闇の中。
「黒川の家族。武藤さんが今日1日預かってる。オレは頼まれたから一緒に面倒見てる」
「名前はなんて言うんだ」
「タケミチ」
「へー……なんかめっちゃ目輝かせてねェか?」
「おい……」
またか、という気持ちになる。どうにもさっきから自分達の知り合いに対して獣要素が仕事をしていない。いや、尻尾は常に振られているからそこは仕事しているか……なんて下らないことを思ってしまう程、自分達の知り合い相手に対して人嫌いをしていない。
しかし春千夜は道中観察した結果、それはイザナから紹介された人物を経由していれば、人懐っこい反応をしているということに気がついた。クリニックに行くまでは車だったが、クリニック内の他人に対しては尻尾を振るほどの反応はしていない。医師に対してもである。
クリニック内に居た女性が可愛いですねなんて声もかけてきたが、チラリと見たくらいで武藤の影に隠れたくらいだ。
もしかしたら女性が苦手なのもあるかもしれない。確証はないがこれには武藤も場地も気づいていた。
千壽……はアクが強いからイザナとマイキーの妹とかに協力して貰って確認してもいいかもな……なんてことを考えていた。
誰かのために利益もないのに動いているということは、相当武道が気に入ったことに未だ気づいていない春千夜である。
「へー懐っこいな、オマエ」
武道がドラケンに向かって手を伸ばすので渋々武道をドラケンに手渡す。腕から重みが消えたのが少し寂しいなんてそんなことないと思い込む。
ドラケンも場地のように腕に武道を座らせて頬を触ったり頭を撫でている。きゅんきゅん鳴いているので相当ご機嫌のようだ。
「すっげ、タケミチ超喜んでるな……」
「流石ドラケンくん」
「マイキーの世話してるから世話スキルカンストしてんじゃん」
「オイ、そこうるせェぞ。特に一虎」
ドラケンは自身の仕事は終わったのかまだ帰る気配はなくタケミチを可愛がっている。そしてそのドラケンの周りにペットショップ3人組が囲み絡んでいる。武藤はこの光景に頭が痛くなる。マイキーが居なくてコレなのだ。イザナの嫌な予感は大当たりしそうだな……と思ってしまったのは仕方ない。
「武藤さん、この後の予定とかは?」
武藤と共に少し離れた場所に一緒に立っていた春千夜から予定を聞かれる。もうすぐお昼時なのでとりあえず食事に行くのは確定だ。好き嫌いがないことは鶴蝶から聞いているのでファミレス辺りでいいかと思うが、春千夜が聞いているのは昼食後のことだろう。
「あれくらいなら公園とかいいんだろうが、裏のこともあるしな」
「……ですね」
春千夜には前日にメールでだが裏のことは軽く話していた。武道が狙われていること、未だその理由は不明。灰谷兄弟の兵隊を使っても上澄みくらいしかわからず難航していることも。灰谷の兵隊でも難航しているなら相手のバックに金持ちがいるだろうとイザナが言っていた。元より長期戦覚悟の上で、さらに会社の身内を巻き込むつもりだったので話したことに問題はない。
しかし育ち盛りで外でのいい思い出がない武道に対して、楽しく遊ばせてやりたいという葛藤もあった。
「とりあえず飯にしてそこで決めるか」
「オレもいくつかピックアップしておきますね」
「助かる。タケミチ、行くぞ」
未だに遊んでもらっているタケミチに声をかけるとブーイングが上がった。上げたのは扉からホラー演出をしていた2人。
「えーいいじゃんまだいてもさー! オレ抱っこしてねェんだけど」
「オレもしてないっスよムーチョくん!」
「……武藤さんに迷惑かけんじゃねェよ」
ぶーぶーと武藤と春千夜に対して文句を言ってくる。春千夜の額に青筋がピキリと走ったのが見えた。口汚い言葉をいつも以上に使わないのは武道がいるからだろう。そういう配慮もやればできる春千夜。
「そろそろ飯だもんな、オレも戻らねぇとイヌピーがうるせェし。今度は時間ある時に遊ぼうな」
「じゃあなタケミチ。また今度の定期検診かそれ以外の時でもいいからな」
未だに武道を抱き上げていたドラケンと撫でていた場地は大人の対応だ。ちゃっかり次の約束をしているのは抜かりない。最後にそれぞれに頭を撫でられてから、再度武藤に抱き上げられペットショップを後にした。
[newpage]
ファミレスで昼食を取った後、3人が訪れていたのは三ツ谷のアトリエだった。どうやらまた武道の新しい服が出来上がったから試着をして欲しいと鶴蝶経由で連絡が入ったためだ。
「三ツ谷のヤツ、この間ショーが終わったばっかだろ。鶴蝶が言うには隙あらば作ってるって聞いたが……大丈夫なのか?」
「コイツに着せたい欲が爆発しているんでしょうね」
武藤に抱き上げられている武道の頬をつつきながら、何となく気持ちはわかるけどなんて思いながら素知らぬ顔をする。特徴的な大きな青い瞳もだが、何より犬耳と尻尾が愛らしいのだ。自分達を見て身体全身を使って会えて嬉しいと表現されるその姿は見ていてこちらもほっこりするし、可愛いものに可愛いものを着せるのは正義なので誰も止める者はいない。
(こんだけ身体ちっこい時は着せ替え人形にさせられるよな。対象がオレなのは残念だけど)
武道は武道で諦めの境地に達していた。何せどこに行っても可愛い可愛いと言われる上に、意図せず動いてしまう耳と尻尾。感情も身体に引っ張られがち。未だにこの世界線に来た原因も突き止められないし、歩く練習すらままならないがみんな幸せならいいんじゃないか?なんて思い始めてもいた。
「オイ、三ツ谷」
「反応がないな……」
「何の音もしませんね」
「きゅーん……(三ツ谷くーん……)」
チャイムを鳴らしても何も反応しないアトリエに立ち尽くす3人。携帯を鳴らしても扉を叩いてもうんともすんともいわない。
「あれ、ムーチョくん?」
「何してんの?」
後ろから声をかけられ振り向くとそこには柴八戒と柴柚葉の姿。2人はモデルとマネージャーとして世界を飛び回っているが、つい先日三ツ谷のショーに出演するため日本に帰国していた。
「わ! 何か可愛い子抱っこしてる!」
「どうしたのその子」
武道の事情、そして三ツ谷のことを伝えるとなるほどねと柚葉が呟く。
「アイツ、すっごい顔してたから寝かせたのよ」
「飯もろくに食ってないからオレと柚葉で買い出し行ってたんだ」
「多分爆睡してるから気づいてないと思う。ちょっと待ってて鍵開けるから」
「……イザナの話だとショー前にタケミチに会わせたって言ってたな」
「……インスピレーションが止まらなかったんですよ、多分」
呆れながらアトリエ内に入るとアトリエは比較的綺麗だった。ソファーの上にこんもりしている物体以外は。
武藤から降ろされた武道は止める間もなく、てててっとその物体に走り寄る。布を捲ると目の下にクマをつくって寝ている三ツ谷。控えめに鳴くとその小さな手で三ツ谷の頭を撫でた。
「え、何アレ」
「うわぁタカちゃんいいなぁ」
「……」
「羨ましい」
柚葉は驚き、八戒は純粋に羨ましがっている。武藤は沈黙を貫くが、春千夜は本音が駄々漏れだった。武道の撫でる手に三ツ谷が反応する。眠りも浅くなっていたため目が覚めようとしているのだろう。いつもより少し草臥れた感じで緩々と目が開けられる。
(うわ、色気やば……クマと無精髭あってコレってイケメンは得だよなぁ)
「……あれ、タケミチ?」
「わん!(おはよー三ツ谷くん!)」
「タカちゃん起きた?」
「はっかい?」
「……まだ寝ぼけてる?」
起きたと思ったが結構深い眠りに入っていたのかぽやぽやしている。武道の頭を逆に撫で回しながら八戒を見上げる目はまだ寝ているように見えた。
◇◆◇
「悪いな、作るの楽しくてちょっと無理しちまった」
三ツ谷も覚醒し軽く身なりを整え、食事もしっかりとした後で連れてこられたのは武道用に作った洋服を置いているスペース。
「楽しいのはいいが」
「これがちょっと……」
武藤と春千夜は少し引き気味に言うが無理もない。何せどこの店? というくらい武道サイズの服が置かれているからだ。
「タカちゃん、ショーの合間にも前後にもやってたって聞いたけど……」
「おう! タケミチ、これとかお勧めだから着てみてくれ」
「うわ、これまだハイじゃない?」
会話もそこそこに武道に洋服を勧める三ツ谷。春千夜が言った通りインスピレーションが刺激されてハイ状態が続いているようだ。
「これ、いつまで続くんだ?」
「タカちゃんがこうなったら暫くはこうだね」
「……オレ、写真撮ってきますね」
「あ、ならアタシも」
武藤はマイキーと会う確率は低くなったことに安心すればいいのか、それともこのハイな三ツ谷に暫く付き合えばいいのかと頭が痛くなる。無情にも三ツ谷が満足するまで解放はされなさそうだ。武道も三ツ谷のテンションに戸惑いつつも服を着替えているあたりいい子すぎるだろと頭を抱える。
春千夜は早々に諦めたのか自分も楽しめる方向にシフトチェンジしたようだ。柚葉もそれに乗っかっている。後で拡散するのは身内までと言わなければならない。武藤は色々考えたが結局現状外で遊ばせることができないからコレでいいかと諦め、椅子に座りながらこの騒がしくどこか楽しげな光景を眺めることにした。
夕食も三ツ谷のアトリエで食べ、帰りにこれは武道用だからと紙袋に大量に積められた洋服を受け取った2人は帰路へとついていた。武道は流石に1日中動き回って、着せ替えまでさせられていたからか眠りそうになっている。
頭がガクガクと動くその姿は危なっかしいことこの上ない。そっと春千夜は自身の肩に頭を持たれかけさせて背中を数回ぽんぽんと叩くとストンと眠りに落ちた。
「寝たか?」
「一瞬でしたね」
「施設の子供もそうだが、急に寝落ちるから心臓に悪いな」
日中の騒がしさとは程遠く、会話は少ないが居心地は悪くない空気が流れる。時折、武道からぷすーぷすーと寝息が聞こえるのが笑えるくらい。
「そういえば、今日の夜はどうするんです?」
「それがな……イザナが宣言通り速攻で仕事を終わらせたらしい」
「……夜中までどう頑張ってもかかるって言ってませんでした?」
「どうやって終わらせたのか不明だが、さっき三ツ谷のとこの写真を送ったらそう返ってきた」
「コワ……」
「そう言うな」
そこまでイザナが突き動かすのはひとえに武道への愛でしかない。まぁ少し?重い気がしなくもないが。そのため武藤の車はイザナと武道の住むマンションへと向かっている。
「そういえばタケミチ、柴柚葉は平気そうでしたね」
「そうだな……オレらの知り合いってのもあるのかもしれんが」
「もしかしたら年のいったババァとか無理なんじゃないです?」
「一応イザナにも伝えておくか……」
柚葉に対しては普通に懐いていた武道。今のところイザナ経由で知り合ったり、そこから経由した人物には人懐っこいためどんな人物が苦手だったりトラウマなのか不明のままだ。ただそこは武道の気持ちもあるため焦らず調べればいいと皆の中での共通認識だ。
また武道のため、イザナには今日知り合ったヤツらには裏のことを伝えることも忘れずに伝えなければいけないなと武藤は思う。
「今日はありがとな」
「いえ、こちらもソコソコ楽しめましたから」
たった1日、されど1日。また1人……いや実際はそれ以上、会社の身内で武道の沼に堕ちた者が増えたのであった。
[newpage]
初めてほぼ1日イザナと武道は離れていたが、武道はそこまでだったのに対し、翌日以降イザナが駄目だった。
元々ここ最近、ただでさえ一緒にいる時間が短い上に、また仕事量も増えていたからだ。
そのため普段業務中の時は公私混同をしないのだが、翌日以降は膝の上に武道を乗せながら仕事をしている始末。鶴蝶は既に諦めているし、武道も同様だった。乗せていれば仕事はしているので。
さて、あれだけ東卍の面子に武道が会ったらどうなるか。定期検診から3日後、ノックもなしにいきなり扉が開かれたことで察せるだろう。
「なんでオレに教えてくんねーのイザナ!」
「……うるさ」
「オレが真一郎から聞いた気持ちわかんねェ!?」
「知らねェよ」
扉から勢いよく入ってきたのはイザナの義弟でもある佐野万次郎。どうやら武道のことをやっと把握し、突撃してきたらしい。経由としてはドラケンから乾、乾から真一郎だろうか。
「で!どこ!」
「何が?」
「そのタケミチっていう獣人……いた!」
「だからうるせェって言ってんだろ!」
マイキーからはイザナの膝に武道が座っていてもギリギリ頭が見えるかどうかで気づかなかったようで、近寄ったことで武道に気づきぐるりと机を周り込んでさらに近寄る。
イザナはマイキーが突撃して来た時からうるさくなることを察し、武道の耳をすかさず塞いでいた。そんな武道を見ると目をキラキラとさせながらマイキーを見つめている。嫌な予感しかしない。
(マイキーくんだ……闇堕ちしてない!やっぱこの世界線も平和なんだ!)
武道はただ感動していた。何せ佐野万次郎という男は常に闇堕ち一直線で、1つ前以外は尽く反社になっていたからである。気持ち的にはやればできんじゃん! と言いたい気持ちもあるが嬉しさの方が勝っていた。
「コイツがタケミチ……そしたらタケミっちだな!」
「勝手に変な渾名付けんな!」
「いいじゃん! なー?タケミっち!」
「止めろ! 覚えたらどうすんだ!」
イザナが耳を塞いでいるとはいえ至近距離のためほぼほぼ意味をなさない。会話も全部聞こえていて未だに2人とも口喧嘩をしているが、仲は良さそうだ。にこりと笑いこちらを見るマイキーの顔が、初めて対面した時を思い出させる。
(いつでも君はオレを見つけてくれるんだね……)
感動でうるうると涙腺が刺激されるのをグッと堪えて、武道は万次郎に向かってわん! と鳴いた。