ほんのりイザ武な人間×獣人パロのみっち愛され
幻覚とか妄想とかを捏ねくり回した結果の産物
最後の世界線から並行世界に移動してる
みーんな仲良く会社立ち上げて社畜してるよ
獣人は今のところみっちのみ
最終的にハッピーエンド
一旦は犬みっちのお話は完結です
本にします
6月の東京イベントに勢いで申し込みしたので、webに上げた分+書き下ろしで作ろうかなと
ぺけったーのが多分進捗はわかりやすいかも
サークル参加がくっっっっそ久しぶりな上に小説で部数が本当に読めないので、近くなったらアンケなりしようかなとは思ってます
通販はちょっと考え中
今までのにコメント・スタンプやいいねにタグなどなどありがとうございます
フォローもありがとうございます
著作権は放棄してないんで無断転載とか止めてくだせぇ
[newpage]
武道が定期検診で外に出た日からあからさまにちょっかいが増えていた。会社への無言電話や脅迫とも取れそうな手紙。外で仕事の際に余計な視線が増えたりなど、小さいことだが明らかに数が増えている。
だがこちらも進展していないわけではない。どうやら武道を管理していた施設、そしてそのバックにいる金持ちとやらの黒幕の目星は付いていた。
施設は幼い獣人を拐って育てた上で、金持ち主催の裏オークションに出品しているようだ。またその金持ちの会社は、イザナ達にとってもライバル会社である上に黒い噂が大量にある。潰しても特に問題がないことも掴んでいた。
しかしちょっかいをかけるだけで相手は踏み込んでこない。そのことにはストレスを溜めるばかりだ。
「次の議題な。裏と繋がっててタケミチにも関係ある施設と会社について」
会社内での会議。議題は会社内の話から例のヤツらの話へと移る。会議室には会社内の重役……つまりほぼ武道と顔合わせをし、一緒に遊んだりした仲の良い者ばかり。そのためチラチラと殺気が漏れている。あれだけキュンキュンきゃんきゃん鳴いて懐いてくれたら過保護者を量産してもおかしいくない。
「はいはーい、じゃあまずオレからの報告な〜」
「兄ちゃん……オレら、な」
始めに手を上げたのは調査する兵隊を1番多く動かしている灰谷兄弟。ふざけた様に見えるが武道を気に入っている2人は特に調査に力を入れていた。
「施設のヤツら、相当悪どいことしてるのがわかったわ。獣人の子供を拐ってるって前回伝えたけど、それ以外に獣人で薬物実験もしてるな」
「どうにも力のリミッターを外して生物兵器にする実験だってよ、胸糞悪ィ」
灰谷兄弟の報告で空気も重くなるも、そんなことは気にせずに軽いノリで報告を続ける。
「で、金持ちのやってるオークション。そういった薬漬けにした獣人や見目が良い獣人を他のクズに売るためにやってる」
「オークションやってる日付も突き止めだぜ。毎月最終週の金曜夜に開催。招待状を持ってれば参加可能っていうアナログ方式」
「つまり今夜な」
ちなみに招待状はこれな、と蘭が紙をヒラヒラと揺らす。
「どうやって手に入れた?」
「夜のお客さん経由ってとこ」
「お前らの顔は割れてないな?」
「あったり前でしょ大将、そんなヘマしねぇよ」
「ならいい」
突っ込みどころは多々あるが、灰谷兄弟の上司でもあるイザナがいいと言っているので他の者は黙っている。
「そういえばイザナくん、今日タケミっちはどうしてるんです?」
「タケミっちじゃねぇタケミチな」
この場にはいない武道のことが気になったのか、松野がイザナに問いかける。すかさず渾名の訂正に入るあたり、マイキー命名の渾名はまだ許されていないようだ。
イザナはとにかくマイキーもどこか不機嫌そうな顔になる。そしてその質問に対して答えたのはイザナではなくマイキーだった。
「今日はエマとヒナちゃんと一緒にいる。あと真一郎」
「三ツ谷の服だけじゃなくて自分達で選んだ服を着せたいんだと」
その面子……大丈夫なのか、と一抹の不安が過る。
「一応女子だけだと不安だからな。兵隊に見張らせてる」
そこで付け足すよう稀咲から兵隊が離れて護衛していることを告げられ、それならばまぁ安心か? と一応は納得する。真一郎は端から戦力に数えられていない悲しさ。
イザナとマイキーが不機嫌なのは、本来であればそこに自分達もいるはずなのに会議のため一緒に居られない。途中合流はもちろんするつもりだが、武道に関わることだから会議も手が抜けないというジレンマ。
つい先日、残りの面子やついでに佐野家と初代黒龍面子にも武道を紹介したがやはり武道を気に入り、エマに至ってはずっと着せ替えをさせたいと粘られての今日だ。妹に対してはどうしても甘くなってしまうお兄ちゃん達である。
「じゃあ次に金持ちの会社についてだが……」
資金面で裏から支えている会社について話そうとした直後、イザナと稀咲の携帯音が会議室に鳴り響く。イザナはメールだったようで画面に目を落とし、稀咲は着信だったため断りを入れて電話に出る。ほぼ同時だったがイザナから殺気が漏れ出てダンッ! と強く机に握りこぶしが振り下ろしていた。強く握りしめられた拳からはミシミシと音が鳴るかと思うくらい握られている。
「……わかった」
電話を終えた稀咲も人1人殺せそうな顔を面々に向ける。
「……お前ら動くぞ」
続けて漏れ出る殺気を抑えることもなくイザナが面々に告げた。
「真一郎が居れば大きいことはしてこねぇと踏んでたが、馬鹿は考えが足りてねェのか切羽詰まってたのかどっちだろうなァ……」
真一郎とイザナの義兄の名が出てきたことで、先程話題にも上がった3人に何かあったことが察せられた。
「あっちから喧嘩を売ってきたんだ。それに全力で乗っかるしかねェよなァ?」
イザナから見せられた携帯には2枚の画像。画像は顔色の良くない佐野エマ・橘日向に抱きしめている武道の画像。武道にしては珍しく威嚇をしているようにも見える。そしてもう1枚は椅子に縛られ、殴られた跡がある佐野真一郎の画像であった。
イザナ達が動くのは速かった。元々稀咲が受けた電話も護衛につけていた兵隊からの電話で、カフェで4人が寛いでいたところ、ガラの悪そうな男達と獣人らが近寄ってきたということだ。
明らかに異質なため護衛も姿を出して応戦したが、獣人もいる上に人数も多かったため不意をつかれて4人が連れ去られたらしい。何人かの人間は拘束できたが、一部の人間と獣人には逃げられたという報告だった。
イザナの携帯に入ったものは、真一郎の携帯を使い犯人が送ったもので間違いないだろう。画像が2枚添付されたメールとは別に、場所指定のメールがもう一通来ていた。場所は都内とはいえ街からは少し離れている廃倉庫だった。
九井と稀咲を中心に会社内に伝達要員を残し、一部がイザナと共に指定された場所へ向かうこととなった。
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時を少し遡ること渋谷。武道を真一郎が抱っこをし、テンション高めなエマとヒナの2人組に振り回されていた。
「可愛いからなんでも似合うのが悩みどころよね〜」
「あっ! エマちゃん、アレも可愛いよ!」
「ほんとだ! タケミっちおいで!」
頑張れーなんて軽く言われながら地面に降ろされ背中を押される。いつの時代でもどの世界線でも女の子は強いな……なんて武道は思いながら2人に近寄る。手に持っている服はどう見ても女児用の服に見える。これほど人語を話せないことを悔やむとは思わなかった。
練習しても未だに人語は発せず、きゃんきゃんと鳴いたりわうわうとしか口からは出てこない。最近絵本を読みながら発する練習をしているが、鶴蝶の目線が優しいのもちょっと悲しい。
様々な服に着せ替えをさせられて流石に真一郎からストップが入ったため、一行は休憩がてらカフェへと来ていた。
「全く……ニィも隠したい気持ちわかるけど、私達家族くらいには早く教えて欲しかった!」
「タケミチくん可愛いからね、一人占めしたい気持ちはちょっとわかるけど」
「オレが青宗から知って漸くだったもんな」
「束縛が強い彼氏かっつーの!」
「わっふ……(イザナくん……めちゃくちゃ好き勝手言われてるよ)」
今日は基本的に真一郎に抱き上げられながら移動や食事をしている。今も小さく切り分けられた焼き菓子を食べさせられていた。小さい頃からマイキーの面倒も見ていたため、小さい子に対しては手慣れているようだ。
「真一郎さん、すごい手慣れてますね」
「万次郎がちっこい時はよく面倒見てたからな」
「なーんで真ニィは子供の面倒も見れるのに、未だに彼女の1人もいないんだろうね」
「……それはオレが聞きてぇな」
がっくりと頭を深く下げる。未だにこの世界線でも彼女はいないらしい。武道は手を伸ばし、深く下げられている真一郎の頭を撫でた。
「わん、わっふ(真一郎くん、かっけーのにね)」
「慰めてくれるかタケミチィ〜」
「真ニィ……推定5歳以下の子に慰められるって」
「まぁまぁ」
ほのぼのとした空間は武道にとっていつも通りの日常になるはずだった。しかし急に真一郎の頭を撫でていた手を止めて下ろし、辺りを見渡す。いつもより犬耳もピンと立ち上がっている。
「タケミチ?」
「急にどうしたの?」
未来視ではなく獣人としての本能だろうか。嫌な気配がそこらに点在している。何故今まで気づかなかったのだろうか。そして何故急に存在を主張してきたのだろうか。
辺りをキョロキョロと見渡し、真一郎の服をキュッと握りしめる。何かとても嫌な予感がする。こんな街中で襲われるとは考えにくいが、常識を考えないヤツらなら? 戦えそうなのが真一郎だけしかいない今とても危険と判断する。
3人は急に警戒し、喉からも唸り声を上げる武道に困惑していた。前回初めて会った時もイザナからも威嚇したり唸り声を上げたことがないと聞いていた武道が、初めて周りを警戒して声を上げているからだ。耳も尻尾も警戒して毛が逆立っている。
「……エマ、ヒナちゃん。一旦こっから離れるぞ」
「そうだね。こんなタケミっち見たことないし、ニィにも連絡しよう」
急いでその場から離れようとした時だった。成人した獣人を連れたガラの悪そうな男達が近づいてくる。獣人の首にはゴツめの首輪が付けられており異質さを放っている上、どこか目も虚ろげで正気ではなさそうだ。男達は周りから見えない位置でナイフを取り出し、真一郎達に突きつけてきた。
「騒ぐなよ、騒いだらどうなるかわかるよな」
「……何が目的だ」
「俺らの雇い主が会いたいってご所望だ。着いてきてくれるよな?」
真一郎達に問いかけてはいるものの、拒否権が一切ない強さを出していた。
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武道はエマ達と離れさせられ恐らく眠らされた後、目を覚ますと1人檻の中に入れられていた。周りは暗くまだ目も慣れていないが、同じような獣人が複数人おり、それぞれ檻の中に入れられているようだ。
(劣悪な環境のペットショップみたいだな。さっさと脱出して真一郎くん達と合流してェけど……)
檻を触ってみたところ、だいぶ頑丈に作られている。いくら獣人とはいえこれを壊すのは容易ではない。部屋には同等の檻が複数あり、暴れている獣人も居ればぐったりと横たわったまま動かないのもいる。そして外からの音が微かに聞こえるが、歓声のような声や拍手が時たま聞こえた。
(これはもしかしなくても漫画みてぇな展開が待ち受けてる? や、オレ自身が漫画みてぇだけど……なんちゃって)
心の中で茶化すものの状況は変わらない。真一郎達は心配だが、イザナ達なら絶対に何とかしてくれるという気持ちしかない。ただ問題はいい歳した大人で会社の重役でもあるイザナ達が暴走しないかが気がかりだった。暴力、ダメ絶対。
檻の中に入れられた獣人達が次々と幕の外に連れ出されていく。最終的に残っているのは武道と暴れ続けている獣人くらいだ。その暴れている獣人の檻にタキシードをかっちりと着た大人が2人、獣人の檻を覗き込んでいる。ぼそぼそと小さく話しているが武道の耳でも聞こえないからよっぽど小さい声なのだろう。数言話して片方首を横に振ったかと思ったら、今度は武道の方へと向かってくる。
「最後はコイツか」
「あぁ、今日の大トリだからな」
「よし運ぶぞ」
檻を2人がかりで持ち上げて台車に乗せる。固定した後に厚手のベルベットのような布を被せられた。いよいよ予想をしていた最悪のできごとが頭を過る。
(こいつは本当にもしかしてな展開になるんじゃ……)
ガタガタと檻ごと揺らされる。幕を抜けたのだろうか、微かに聞こえていた歓声のような大勢の声が大きくなる。
「さぁ本日最後の目玉! 蒼の瞳が特徴的、性格も人間寄りな珍しい獣人の子供です!」
バサリと上にかけられた布を外されて、突然触れる光に目が眩む。
(チラチラ見えてた未来視どおりじゃん!!)
武道の未来視はこの未来を見せていた。しかし檻の中に入れられていることもあり、どうにもできない。嫌な未来が当たってしまった。自分が動かなければ未来視が外れることがないのは武道自身よくわかっているが、現実逃避をしたい時もある。
会場はどうやらオークション会場のようで目玉と言われているように、商品は武道のようだ。漫画のようなことがリアルに行われていて、かつ商品になるとは思うまい。
(嘘だろ……オレ、イザナくんの家族から卒業するつもりねェけど……)
武道のことはお構い無しに、百万円からのスタートという声から始まり値段がつり上がっていく。落札されてしまえば武道はそいつのものになってしまう。しかし頑丈な檻がそれを阻んでいる。
(こうなったらオレが落札されて檻が開けられたら逃げるしかねェ……!)
値段は遂に三千万円台になっていた。徐々に声を上げる人の数も減ってきている。そんな中、凛とした低音の声が会場内を通る。
「一億円」
下がっていた頭をパッと慌てて上げると、顔は仮面で隠れているがオールバックな小柄な男と頭1つ分は大きい髪を下ろした長髪の男が手を上げて宣言していた。
「え、えっと……」
「だから、一億円」
髪型がいつもと違うが、それはどう見てもマイキーとドラケンの2人であった。本人にその記憶はないはずなのに、かつての世界線で武道に賭けると言ってくれた金額をドラケン自身が宣言している。
「ほ、他にいらっしゃいませんか」
オークションの司会者が慌てて周りを確認するが萎縮して誰も手を上げない。凸凹な2人組に決定になり、司会者から何かコメントをと振られ小柄な男……マイキーが口を開く。
「オレさぁ、自分のモンって思ったモン取られるの嫌いなんだよね」
「は……はぁ……」
「エマも真一郎も家族、イザナももちろん家族。で、タケミっちがイザナの家族ならオレの家族だろ?」
そうマイキーが宣言するのとほぼ同時に扉が開かれる。大量に入ってきたのは警察官。警察官がここに入ってきた理由を大声で言っているが、会場内はパニックになっていた。声を上げているのはどうやら橘直人だと武道は気づく。
(もしかしてイザナくんも来てる?)
キョロキョロと会場を見渡すと見知った顔が何人かいるのに今更気がついた。暴れている黒服に対して暴力を振るっているのは髪色を紫ベースに黒メッシュ、そしてガッツリと髪の毛を切った灰谷兄弟。オールバックのマイキーと髪を下ろしたドラケンはゆっくりと階段を下りてきていて、その近くで髪を結んでいる乾が黒服をぶん殴っている姿が見えた。だがどこを探してもイザナの姿は見えない。
「タケミっち」
イザナを探すことに必死になっていると、いつの間にかマイキーとドラケンは檻の前まで来ていた。ちょっと奥に身体を寄せているように言われたので慌てて奥に身体を寄せる。
マイキーがグッと足に力を入れたかと思うと、その足が鍵をかけられている南京錠を横蹴りにした。檻ごと揺さぶられる衝撃にビリビリしながら、南京錠を見ると見事に壊れている。鉄の塊ですらものともしないマイキー……末恐ろしい。
宙ぶらりんにぶら下がっている南京錠を取ってそこらに捨てるとゆっくりと檻の扉が開かれた。
「迎えに来るの遅くなってごめんな。エマも真一郎もヒナちゃんもみんな無事」
「大将がこっち向かってるって連絡入ったぜ」
「怪我してないか? 大丈夫か?」
マイキーからは一緒に居た人らの無事を、ゆったりとした動きで蘭が近寄りイザナが向かっていることを告げる。胸ぐらを掴み上げていた乾はソイツをポイッと捨てると、慌ててこっちに駆け寄ってきた。
「帰ろう、タケミっち」
しゃがんでこちらに手を伸ばすマイキー。そっとその手に自身の手を乗せるとやっと戻ってこれたと実感することができた。
[newpage]
警察が会場に居た客を連行し、人がごった返している中、見慣れた車が停められた。そこから降りてきたのは焦りを隠さないイザナ。
「タケミチッ!」
顔色はあまりよくないが、イザナにも怪我はなさそうだ。マイキーに抱き上げられていた武道はそっと地面に降ろされる。いつもなら既に身体に精神が引っ張られて泣いてもおかしくないのに、武道は未だ泣いていなかった。
ヨタヨタとイザナに向かって歩き始め、徐々にスピードを上げる。イザナも始め武道を待っていたが、待ちきれなくなり武道へと駆け寄った。
イザナに近寄れば近寄るほど涙が溢れてくる。イザナが降りた車から、真一郎達が見えたのもトドメになったともいえる。イザナの元に駆け寄れた時には目から滝のように涙を流していた。
イザナは武道を抱き上げるとキツく抱きしめてきた。少し苦しいが誰も死んだり大怪我をせずに会えたことがただただ嬉しい。
「……無事でよかった」
本当に小さく、武道にしか聞こえない声でイザナが呟く。
「わ……ぃ……」
「タケミチ?」
「い、イ……じゃナく……」
「お前、喋って」
「よか……た……ゔぅ〜」
今まで鳴き声しか上げれなかった口から人語が飛び出す。イザナはもちろん、周りの者も驚きで固まる。辿々しい言葉使いだし、イザナの名前も上手く呼べてない。発しているのも途切れ途切れの単語だけ。顔が涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃなのにそれすらも愛おしく見れる。
「あぁ……オレもお前と再会できて嬉しいよ」
再び強く武道を抱きしめるイザナ。こうして武道の誘拐事件含め、施設や金持ちに対する問題も一旦は解決するのであった。
◇◆◇
漸く日常が戻ってきた武道は、自身が誘拐されている間、イザナ達がどういう動きをしていたのかを後日イザナに連れられた会議での会話で察することができた。
本来であれば留守番なり誰かに預けるのだが、誘拐されたばかりで離れることをイザナが嫌がったため、会議室に武道を連れて行くことになったのだった。会議には勿論参戦できず、部屋の隅で松野に面倒を見てもらっている。
しかし獣人になり聴力がかなり上がっているので、あの日どういう行動を取ったのか、普通に話しているので丸聞こえだ。武道が幼くてわからないと向こうが判断しているだろうが、中身はいい年した大人である。全部聞こえちゃってるもんは仕方ないよね! オレは悪くない! と開き直って聞き耳を立てていた。
まず会社に伝達要員として残っていた九井・稀咲達だが、ただ待っているだけでは芸が無いということで、施設のバックにいる金持ちの会社に打撃を与えることにしたらしい。普段から指一本で大金を動かす九井とずば抜けた頭脳を持つ稀咲にとって、赤子の手をひねるよりも簡単だっただろう。
「情報は揃ってたからな。そしたらこうちょちょいと……」
「橘弟経由で警察に協力してもらいがてら、記者や出版社にリークした」
九井と稀咲は実に晴れやかな笑顔……端から見たら邪悪な笑顔を浮かべていた。どっちが悪役かわからない。
会議室の傍らに置かれているテレビからは例の会社のニュースがひっきりなしに流れている。色んなところに飛び火もしているが、こちらには被害がないので対岸の火事状態だ。
次にオークション会場に現れたマイキー達。灰谷兄弟が手に入れたチケットで、最大5人まで入れたということで変装をした上で潜入。
直人ら警察には中の音が聞こえるようにした上で、言い逃れができないようにボイスレコーダーや小型の録画機器を装備するという徹底ぶり。
武道が一番疑問であったのは何故イザナではなくマイキー達だったのか……であった。
「しっかし思いきり変えたな、特に蘭と竜胆」
「鶴蝶、潜入するってなったら変装じゃん?」
「だったら髪型変えるのが一番だよなぁ、兄貴」
「大将と鶴蝶が迎えに行きたい気持ちはわからなくないけど、2人共特徴的だからな〜」
「……うるせ」
以前水族館に共に行った時もその後も蘭は見慣れた金髪と黒の三つ編み、竜胆は金髪に水色のメッシュだったが2人共髪はバッサリと切られ色も紫をベースに黒のメッシュが入っている。イケメンはどんな髪型にしようが、どんな色にしようが変わらないのだなと再認識させられた気がする。
乾は長髪だった髪の毛を一本に纏めていただけだが、タキシードを着ているのもあってあの時はどこぞの貴族かと思わせるかっこよさだった。
しかしキレてたりぶん殴っている姿はバーサーカーなので、黙ってただ静かに立っていればという言葉がつく。
そしてマイキーとドラケン。マイキーは髪の毛を黒から金髪に染め直しオールバックに。いつぞやの隠し撮りで見た裏社会のボス時を思い出させたし、ドラケンも黒髪から金髪に染め直し、特徴的な入れ墨を隠すため髪を下ろしていた。2人共今は色は戻さずそのままに髪を下ろしたりいつも通り三つ編みにしているが、色が違うだけでも懐かしい姿をしていると感じる。
しかし2人の変装している姿を見た時に心臓がヒュッっとなったのは、余程トラウマとして植え付けられていることを再認識させられた。
そして確かにあの会場にイザナや鶴蝶が居れば仮面を着けていたとしてもバレただろうと思う。イザナは髪型は変えることはするかもしれないが髪の毛を染めたりはしないだろうし、また特徴的な褐色肌は隠せない。鶴蝶も髪型を変えても特徴的なオッドアイや傷痕もあり、同じく誤魔化せないだろう。
一応オークションに参戦した面々の選出は、チケットを貰ったのは自分達だからと権利を主張した灰谷兄弟、イザナの家族はオレの家族! と言い張るマイキーに御目付け役としてドラケン。だったら残りは黒龍から出すのがバランスいいだろうとゴリ押しした乾というメンバーだったらしい。
武道の場所を示すGPSがオークション会場だったのもありイザナも行きたがったが、呼び出されていたのもあったため本当に渋々譲ったらしい。未だにグチグチと文句を言っているのが証拠だ。
そして施設の奴らと対面しに行ったイザナ達だが、こっちもこっちで大変だったらしい。
「施設の奴と金持ち関連以外にタケミチ達を襲った獣人も居てな」
そう話すのは鶴蝶。呼び出されたのは街からは少し離れている場所にある廃倉庫。まずはイザナ1人で中に入り、施設の奴と金持ち関係者2人組と対峙したという。
「怪我はなさそうだから大丈夫とは思うけどさぁ……」
そう言ってどことなく心配しているマイキー。チラチラとイザナを見るがイザナはどこ吹く風である。
廃倉庫には小綺麗な男と神経質そうな男の2人がおり、施設と金持ち関連の主犯格に近い立ち位置っぽいのは一目で見てわかったらしい。ぐだぐだとどうでもいいことをムカつく敬語で話していたが、話した内容は簡単にまとめると武道を寄越せという話だった。想像通りの展開だ。
しかしイザナは相手に不利になるよう言葉を引き出し録音をするだけしてから、イザナは録音されないように黙りながら、おととい来やがれと言わんばかりに舌を出し中指を立ててやったそう。もう不良以前に悪餓鬼な態度に会議室に笑い声が漏れる。
「馬鹿にしまくりじゃん……!」
「見たかったな〜それ」
「で、その後タケミチを拐ったであろう獣人がゾロゾロ出てきた」
「でもどうにかしたんだろ?」
「当たり前」
楽しげに問うマイキーに当然というように返事をする。普通であれば明らかに不利になる状況なのにどう対処したのかと周りはワクワクとしている。いい年した大人なのに悪餓鬼だらけだ。
「タケミチを迎える際に獣人という種族について改めて調べたが、獣人が人間よりも聴覚や嗅覚、味覚などの五感が敏感なのは知ってるか?」
「犬とか猫とかの動物よりかは劣るけど、人間に比べたら数倍も違うってヤツだな」
イザナの会話を補足するように場地が付け足す。ピンと来る者もいればそれがどうしたとわからないといった者様々だ。
「前にタケミチが粗相してな。部屋に胡椒をぶち撒けたことがある」
あの時か……と武道は思い出す。机ギリギリに置かれていた胡椒が危ないと思い、親切心で机の中ほどに戻そうとしたのだが、小さい身体では届かず胡椒の瓶を床に落としたのだ。案の定床に胡椒が飛び散りそして宙に舞う大惨事。
慌ててイザナや鶴蝶が駆け寄り助けてもらったが、ずっとくしゃみや鼻水極めつけに涙が止まらなかったことを覚えている。
「あの時は大変だった……掃除もそこそこに慌ててタケミチを医者に連れてったな」
「その時に色々話も聞いてな。改めて獣人と人間の違いを調べた」
「オレ、なんかわかっちゃったかも」
鶴蝶は遠い目をして当時を思い出しているが、イザナは淡々と話を続けていく。そんな中、マイキーがわかったと言わんばかりに目を輝かす。
「獣人が出てくることは報告を受けた時点でわかってたからな。だから外で待機してたムーチョ達に催涙弾もどきを投げ入れてもらった」
「あれ? イザナは平気だったの?」
「被害に合う前にさっさと出たに決まってるだろ」
「あと催涙弾もどきってナニ?」
「胡椒とか唐辛子とか刺激物混ぜまくったヤツだな」
倉庫の中は阿鼻叫喚であっただろう。獣人に効くくらいの催涙弾もどきであれば人間にも有効だ。イザナはいい笑顔で気持ちいいくらい悲鳴を上げていたぜと笑っている。暴力で解決しなかったのはいいと思うが、如何せんやっていることはただの悪餓鬼で武道は複雑な気持ちになる。昔に比べて丸くなったといったらそれまでだが。
「で、催涙弾もどきが落ち着いたら主犯を縛って警察に引き渡したってわけだ。真一郎達は別室で無害だったから問題ないだろ」
「真一郎だけボコられてたからある意味カワイソーだけどな」
「アレは弱い真一郎が悪い」
結果としては真一郎だけが殴られ、エマや日向・武道には危害を加えられていなかったので概ね救出は成功といえる。
また廃倉庫に来ていた2人組もほぼ主犯格だったため、警察に逮捕されたことによりオークションと合わせて、叩けば叩くほど余罪が出まくっているとは橘直人からの情報である。
「とりあえずこれで一段落?」
「警察の聴取もあるが、こっちからは手を出してはいない。録音で正当防衛だと主張できる。一旦はだが漸く落ち着く」
「そしたらやっとタケミっちと出かけられるじゃん!」
「そんなことさせるわけねェだろ」
「なんで!」
わーぎゃーと会社のトップである兄弟の喧嘩が始まる。周りも止める気配もなくやんややんやと囃し立てているので、もう会議どころではない騒ぎだ。少し離れたところで一部始終を眺めていた武道と松野は呆れた目で見つめる。
「あーあー……今日はもう会議は無理だな」
「だいじょぶ?」
「ヘーキヘーキ、みんなタケミっちに構いたいから何とかイザナくんを説得しようとしているだけだし」
「そか」
武道は喋れるようになったとはいえ、発音の仕方が下手くそなのか単語でしかうまく発せない。それでも格段に意思の疎通はできるようになったのは有り難いことだ。
一番始めに発したのがイザナの名前だったので、周りは次に自分の名前も呼んでほしいため一緒に出かけたいらしい。そのためイザナにウザ絡みしてすごく嫌がられているが。
ちなみにイザナの次に言った個人名は『カクちゃ』だったのはイザナと鶴蝶以外まだ誰も知らない。バレた時の鶴蝶の運命は如何に……。
「クッソ、やってられるか」
「抜け出せられたんスね、イザナくん」
「ちげェよ。勝手にタケミチと出かけるじゃんけんとか始めやがった」
「え! なんスかそれ! オレもちょっと参戦してきます!」
抱き上げていた武道をイザナに手早く渡すとそのままじゃんけん大会へと参戦しに行く松野。その景品にいつの間にかさせられている武道はポカンとしていた。
「アイツら好き勝手しすぎだろ。何かめんどくせぇな……出るか」
「何処に?」
「もうこんな時間なら昼飯だな。たまには外で食うか」
「カクちゃ」
「あいつも参戦してるから置いてく」
そしてそのままシレッと2人して会議室を抜け出した。2人がいないことに気づくのはもう暫く後だろう。
[newpage]
さっさとタクシーに乗り込んで馴染みの店で昼食を取った後、イザナと武道は散歩と称して街中を歩いていた。携帯は連絡が来すぎて五月蝿くなるとわかっているので既にオフにしている。
武道も始めは戻らなくていいのかと気にしていたが、あんな状態だと戻っても仕事にならないことは予想できたし、イザナもいいと言っているため気にせずに抱き上げられている。
いくら黒幕が捕まったとはいえ、武道は獣人にしては珍しく人懐っこい。誘拐されるリスクはあると判断されて未だによく抱き上げられているし、武道も武道でズボラな性格が災いし、もうこれでもいいんじゃないかと思っている。
「いじゃなく?」
「また上手く言えてねェぞ」
「んー! なんで!」
「ま、がんばれ」
「……がんばる」
意識している時はそうでもないが、ぼけっとしながら喋ると滑舌が途端に鈍る。恐らく人間と獣人の違いの1つとして舌が関係しているとは聞いているが、1つ前の世界線では人間で喋れていただけに地味にストレスがかかる。だがイザナは優しい瞳で見守ってくるものだからどことなくこそばゆい。
イザナは腕の中で滑舌が甘いながらもイザナの名前を繰り返す武道を見つめる。初めて抱き上げた時、身体はガリガリのボロボロ。吹けば飛ぶような軽さに驚いたが蒼く輝く瞳が印象的だった。
今はずっしりと年相応に重く、健康的な身体になっている。身体にあった傷はどこにも見当たらない。ただ蒼く輝く瞳は変わらず強い光を宿している。
「……タケミチ」
「んゆ」
「オレと家族になってくれて、ありがとな」
「……わん!」
イザナはふと、武道が大きくなったらこの関係性は変わるのだろうかと思う。しかしこのキラキラと光る瞳は、変わらずイザナを見つめてくれるだろうと強く思うし、家族という大きな括りは変わらないだろう。小さな括りはどう変化していくのかそれもまた楽しみだ。