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陸と白峰(サンプル)

  ▼1

  [[rb:墨雲 > すみぐも]]は戻ってこなかった。

  「なぜだ。どうして……」

  離れの塔の窓際。緋色のカーテンを握りしめ、[[rb:陸 > くが]]王子は唇を震わせる。まだタテガミも生えていない年頃の、獅子獣人の少年。父親は『左目』の国王〈[[rb:端倪 > たんげい]]〉、母親はその実の娘の一人である。潜性遺伝の為にその毛皮は黒く染まり、一見すると黒豹獣人の子供のようだった。

  ――黄色っぽい瞳で再び、カーテンの陰から神経質に地上を見下ろす陸だったが、どこをどう探しても、彼が年の離れた兄のように、或いはおじのように慕っていたその黒豹獣人は見つからない。『[[rb:顎 > あぎと]]』軍との戦に[[rb:出立 > しゅったつ]]する日、塔のこの窓から見送ったのが最後の姿になるとは思ってもいなかった。

  「……いや、そんなはずはない」

  震える指で守り袋を開き、貝殻の片割れを取り出す陸。それはあの日、『左目の国』に古くから伝わるまじないを施して分け合った物。墨雲の血が塗られたそれは、ヒビ割れも砕けもしていない。

  ――従って、彼は無事でいるはずなのだ。少なくとも命だけは。

  「だったら、どうして……」

  墨雲が消息を絶ってからこの一ヶ月の間、幾度と無く繰り返してきた問いが再び頭をもたげてくる。戦で重傷を負い、それが癒えるまでどこかで身を潜めているのでは……とも思ったが、それなら何らかの手段で連絡の一つは寄越してくるだろう。墨雲は〈端倪〉王に、祖国を丸ごと人質に取られているも同然なのだから。

  墨雲は『右足の国』の王統に連なる男。本人は玉座に興味は無い様子だったが、誰よりも黒いその毛皮から、有力な王位継承権者と見なされていた。

  ――しかし戦に敗れたことで『右足』はこの『左目』の属国となった。本来ならば即刻処刑されて当然の立場だったが、その武人としての能力や《アニマ》の希少さが完全実力主義者の〈端倪〉王の目に留まり、一軍の将に取り立てられるに至ったのである。

  「それなのに……」

  だが、あんなにお気に入りだったはずの墨雲のことを、〈端倪〉王はもう覚えてもいない様子だった。『右足』の王族や墨雲の肉親達は一応生かされているものの、それは慈悲でも何でも無く、単にまだ利用価値があるから。〈端倪〉王は――彼の父親は、そう言う男。たとえ自分の血を分けた子供だろうが孫だろうが、「見込みがある」「無い」の判断基準しか持たない男……。

  「……」

  陸は決して〈端倪〉のことを嫌っている訳では無い。為政者としての手腕も術士としての実力も疑いの余地は無く、徹底した実力主義と言う意味では極めて公明正大な王である。心臓に欠陥を抱えて生まれてきた[[rb:末子 > ばっし]]=陸のことも、「素質がそれを補って余りある」と高く評価してくれていた。

  ――唯そこには、父親としての愛情がこれっぽっちも含まれていないだけ。

  だからこそ陸は墨雲のことを兄のように、或いはおじのように慕っていたのだった。「優秀な仔を孕む見込みがある」と判断するが早いか実の娘を平気で犯した父親に比べると、物静かでストイックな彼の方が男らしく見えたと言う部分もある。

  ――その墨雲までもが父親にオモチャにされていると知った時、自分の胸に込み上がった気持ちの正体を、今も陸は分析し兼ねている。

  「ううっ……! うっ、くっ……!」

  左胸をつかんでその場にうずくまる陸。墨雲が行方不明になって以来、心労の為か、陸が発作を起こす頻度は明らかに増えていた。呼吸を整えながらアニマで心臓の血流を操り、何とか発作を鎮める。『左目』王家に代々伝わるこの「流体操作」のアニマが無ければ、陸はもう何度死んでいたか分からない。

  ――心臓の先天性の欠陥もこの毛皮の色と同様、近親交配の影響だろうから、別に運が良い訳でも無いのだろうが。

  「墨雲……」

  『顎』軍を率いていたのは今、《楽土》を騒がせている〝赤子〟。遥か昔に滅びたはずの「伝説上の化け物」、人間の子供であると言う。滅亡の危機に瀕した『下顎の国』に突如として現れ、『上顎』との再統一を果たすと他国への侵攻を開始した。その兵士は〝赤子〟のことを神の使いや神そのものの化身として熱狂的に崇め、異常なまでに士気が高いらしい。現に『右足』の精鋭達も予想外の苦戦を強いられ、指揮官である墨雲を失ったことで潰走を余儀なくさせられたと聞く。

  ――辛うじて生き延びた副官は戦場となった湿地帯に墨雲を探しに戻ったが、どんなによつんばいになって泥をかき回しても、遺体も遺品も見つからなかった……。

  「『右足』最強とも[[rb:謳 > うた]]われたあの墨雲が、そう簡単に負ける訳がない。相性的に不利なアニマ持ちでも、必ず一矢報いていたはず。

  ――きっと、何か卑怯な手を使われたのだ……!」

  墨雲が〝赤子〟の手に落ちたとすれば、きっと今頃酷い目に遭わされているに違いない。そう思うと陸は生きた心地もしなかったが、〈端倪〉王は追討の軍を出すことも無く、そんな男など最初からこの国にいなかったかのように、今日も誰か「見込みのある」相手を犯している。

  「う……。くうっ……!」

  心の乱れと共に心臓がまた狂い、悶える。豪奢なベッドに上半身を預け、クッションに顔をうずめながら陸はぎゅっと両目をつぶり、歯を喰いしばった。

  ――泣いては駄目だ。こんなことで泣きベソをかいたりしたら、きっと墨雲にだって呆れられる。墨雲は死んでなんかいない。いつか、絶対に自分の元に帰ってくる……。

  「帰って来なければ、許さぬぞ……」

  祈りのような、呪いのようなその想いだけを頼りに、陸は今日一日を生きながらえるのであった。

  [newpage]

  ▼2

  〈端倪〉王が陸に「転地療養」を[[rb:勧 > すす]]めたのは、それから数日後のことだった。行き先は『鼻の国』。若き狼獣人の王〈[[rb:磨崖 > まがい]]〉が治める山岳国家である。単純な領土の広さでは『左目』はおろか『顎』にも劣るが、険しい岩山や雪山で足腰を鍛えられた兵は強者ぞろいで、平均的な練度では《楽土》一と名高い。地理的に近い『左目』は長年戦略的に友好関係を結んでおり、交流も盛んだった。

  「この所、汝は体調が思わしくない様子であったからな。かの国では空気が澄み、清らかな雪解け水も滋味豊かな食物も揃っておるゆえ、視察がてら、しばらく滞在してみてはどうかと。

  ――既に〈磨崖〉王には話も通してある」

  要は王命と言うことである。元々父親に逆らう選択肢など持っていなかった陸はありがたくそれを拝受すると、早々に離れの塔に戻って身支度を始めた。

  ――〈磨崖〉王の甥がアニマの使い方を学ぶ為、『左目』を訪れると言う情報は既に得ていた。つまりこれは留学と転地療養を名目にした、実質的な「人質の出し合い」なのだろう。〝赤子〟を頂く『顎の国』の快進撃を前に、『左目』『鼻』の両国が同盟を強化する必要に駆られたと言う訳だ。つい先日も、その旧領にちょっかいを出した『鼻』軍が難なく返り討ちにされたと言う噂だし。

  「……」

  慣れ親しんだ居室を見回す陸。ここでひたすら墨雲の帰りを待っていても、何にもならないことは理解していた。でもまさかこんな形で、こんなにもあっさりと――国を追い出されるとは想像していなかった。属国の将の一人や二人のことでいつまでも思いわずらっている王子など、もうそれ位しか利用価値が残っていないと言う訳だろうか。

  「考えてみれば、何一つ――良い思い出など、無かったな……」

  父親らしい愛情なんて一度も注いでくれなかった王。実父の仔を孕んだことに絶望し、月満ちる寸前に自ら首を掻っ切ったと言う母親。一体全部で何人いるのか分からない兄や姉。そんな父親に喜んで股を開き、尻を差し出す男女。どの国に行ったとしても、自分がひとりぼっちなのに変わりはない。

  ――唯一、心残りがあるとすれば。良い思い出と呼べるものがあるとすれば……。

  「……」

  未練を断ち切ろうとして守り袋を開き、貝殻を窓の外から投げ捨てようとした陸だったが、寸前で思いとどまって手をひっこめる。当然ながら出国時にも入国時にも手荷物検査はされるだろうが、守り袋の一つ位見逃してくれるだろう。

  翌朝にはもう『鼻の国』から迎えの者がやってきていた。〈磨崖〉王の甥と入れ違いになるような形で、陸は祖国を後にした。連れて行くことを許されたのは、ほんの数人の、アニマもまともに使えないような召使いだけ。騎獣の背に揺られながら、最後にもう一度だけ王城の方角を振り返り、陸は思う。

  ――もしも不在の間に墨雲が帰って来たら、自分のことを懐かしんでくれるだろうかと。

  それから三日後、陸は『鼻の国』に到着した。断崖絶壁にせり出すように建造された王城で、陸は〈磨崖〉王との謁見を許された。末子とは言え、強国の王子として恥ずかしくない立ち居振舞いや言葉づかいでもって、「転地療養」の礼を述べ上げる陸だったが、

  「まだ毛も生え揃ってねぇようなガキんちょが、そう肩肘張るモンじゃない。それより、体の方は大丈夫だったか? 腰がガタガタになったりしてないか? 『左目』との間は特に道が悪いので有名だからなあ」

  玉座にだらしなく腰かけていた〈磨崖〉王は、片手を振ってみせながらそう気さくに問いかけてきた。黒獅子の子供をはじめて見るのか、陸の鼻の頭から尻尾の先まで無遠慮に眺め回してくる。

  ――ボサボサの灰色の毛並み。瞳は氷のような薄い青色だが、不思議と冷たさや獰猛さは感じさせない。狼獣人の特徴である長いマズルも、とぼけた表情とあいまって何となく間が抜けたような印象を与える。

  「生まれつき心臓に穴が開いてるんだって? 気の毒に。俺のオヤジ殿も最後は胸の病でポックリ逝っちまったからなあ、くわばらくわばら」

  先王の死を受けて急遽王位を継いだ時、彼はまだ青年と呼んでも差し支えない年頃だった。種族差もあるので一概に比較できないとは言え、現在でも《楽土》諸国では最年少の王である。

  ――しかし今となっては、〈磨崖〉王をあなどる者は誰一人として存在しない。攻め込まれにくく攻め込みにくい、と言う他国との位置関係を最大限に活かした戦略面も、地の利を駆使し、形勢不利と見れば即座に退却すると言う戦術面も、若くして既に[[rb:老獪 > ろうかい]]な狼そのものだったのだから。

  「ま、どこまで効果があるか分からんが、好きなだけゆっくりしてってくれや。一応、国中から名医は呼び集めてある。城内は自由に見学してくれて構わないし、事前に一声かけてさえくれれば、外を見て回ってくれたっていい。何か必要なモンがあるなら教えてくれ、善処する」

  陸としては、てっきり「療養中」と称して[[rb:体 > てい]]よくどこかに幽閉されるものとばかり思っていた。意外な申し出に戸惑っている彼の顔を面白そうに眺めると、〈磨崖〉王は左右に居並んでいた重臣の中から、一人の白熊獣人を手招きした。過酷な環境で鍛え上げられたのか、いずれ劣らぬ屈強な男達の中でも一番の巨漢で、謁見の間に入ってきた時から陸も注意していた人物である。

  「こいつは俺の右腕でな。世話係でも護衛でも遊び相手でも、好きなように使ってくれ。もし礼儀に欠けるような所があっても多少は大目に見てやってくれよ、平民出だからな」

  自分の子供か、下手をすれば孫程の年齢の陸の前にうやうやしくひざまずき、こうべを垂れる大男。金属製の重厚な鎧は大小様々な傷に覆われ、片方の耳は破れ、唇も一部が裂けて牙や歯茎が露出している。いかつい顔にはそれ以外にも何本も派手な向こう傷が走り、雪のように白い毛並みにピンク色の線を刻んでいる。いかにも恐ろしげな容貌だったが、その声は柔らかく紳士的で、表情もまなざしも穏やかだった。

  「[[rb:白峰 > しらみね]]、と申します。どうかよろしくお見知り置きを、殿下」

  [newpage]

  ▼3

  それから一週間と言うもの、陸は自分に与えられた居室からほとんど外に出ずに過ごした。慣れない旅の疲れを癒す為や、新しい環境で無理をしては体に負担がかかるからと言う事情ももちろんあるが、それ以上に、敵陣のど真ん中でうかつな行動は取れないと判断したのである。

  まだ幼いとは言え、陸とて権謀術数が渦巻く王城で生き延びてきた者。〈磨崖〉王のように一見人当たりのいい男こそ、最も油断のならないタイプなのは理解している。何かと親切にしてくれる白峰だって、その実は王命で[[rb:監視役 > ・・・]]を務めているに過ぎないだろう。医者だって同じこと。

  ――実質的な人質である陸の身に万一のことが起きたなら。たとえそれが本当に持病の悪化による「病死」であろうが、〈端倪〉王はそれを「謀殺」であるとして政治的に利用するだろう。だからこそ自分が選ばれたのだ。彼の父親は、そう言う男……。

  「……」

  ここはあの離れの塔ではないと言うのに、日課のようにカーテンの陰から、窓の下を見てしまう陸。服の上から守り袋を、その中の貝殻を手のひらで押さえる。このまじないでは相手の無事は分かっても、具体的な居場所までは分からない。従って、墨雲がここに迎えに来てくれる道理はないのに。

  「殿下。白峰に御座います」

  控えめなノックと共に、深味のある声がドアの向こう側から響いた。とっさに胸元から手を離し、襟を正してヒモが見えないようにしてから深呼吸。一拍置くと、陸は威厳を取り繕った声色で、

  「何用か」

  「本日は絶好の行楽びよりに御座いますゆえ、殿下さえよろしければ、[[rb:儂 > わし]]と遠乗りにでも……と。儂のお気に入りの場所へと、是非ともご案内申し上げたく」

  陸がいつまでも心を閉ざしているのを見て、戦法を変えてきたのだろう。陸は窓際から動かないまま、

  「……それは、〈磨崖〉王陛下からの命令か?」

  しばらくの沈黙があった。

  「いいえ。年寄りのたわいのない思いつきに御座います。ご迷惑でしたら、これにて……」

  「待て。誰も行かぬとは申しておらぬであろう」

  カーテンを閉めると、陸はドアの[[rb:閂 > かんぬき]]と[[rb:蝶番 > ちょうつがい]]に意識を集中した。この一週間で既に分析を完了していたその構造を頭に思い描くと、そこに[[rb:注 > さ]]してある油をアニマで操作してドアを開かせる。平時だと言うのにガッチリ鎧を着込んでいる白峰が、廊下にひざまずいているのが見えた。

  ――「流体操作」の対象は文字通り気体と液体に限られるが、こうすれば固体も間接的に操作できるのだ。陸は両手を腰に当ててふんぞり返ると、

  「ところで、私は遠乗り用の装束など持って来ておらぬのだが。お前が着せてくれるのか?」

  白峰の騎獣は彼の体格に合わせて、見上げるような大きさだった。陸の背丈ではあぶみにも足が届かず、白峰に引っぱり上げてもらう。

  「遠乗りに参るだけなのに、そんな重装備をして行く必要があるのか?」

  白峰の前にまたがると、その股間を覆っている鎧のパーツが腰に当たる。陸が振り返りながら尋ねると、

  「軽装ではどうにも落ち着きませぬので。老兵の悲しきサガと言うことで、何とぞお許しを」

  傷だらけの顔に温和な笑みを浮かべると、白峰は騎獣の脇腹を蹴った。小柄な陸を胸の中にすっぽり包み込むようにして、[[rb:常歩 > なみあし]]で城門を出る。

  ――平静を装ってはいたものの、陸は内心騎獣の大きさや今の自分の視線の高さに圧倒され、おっかなびっくり鞍にまたがっていた。万が一騎獣が暴走し、振り落とされでもしたら命は無いだろうと思う。そんな陸の緊張や不安を敏感に感じ取ったように、白峰は巧みな手綱さばきで騎獣を操る一方、さりげなく片腕を陸の胴体に回し、抱き寄せた。

  「……本日は城下を一巡して戻りましょうか、殿下?」

  「何を言うか。せっかく弁当もこしらえてもらったと申すのに」

  強がって唇を「へ」の字に曲げる陸にほほ笑み返すと、白峰は騎獣を常歩から[[rb:速歩 > はやあし]]にした。石畳に軽快な[[rb:蹄 > ひずめ]]の音が響き、陸の矮躯が上下に揺られる。最初のうちは酔ってしまいそうだったが、体が揺れに慣れるに従ってそのリズムが心地よくなってくる。

  ――『左目の国』では、病弱な陸は一日の大半を離れの塔の一室で過ごしていた。一国の王子だと言うのに剣術や弓術どころか、騎乗術さえ心得が無い。墨雲に対する憧れは、そんな己の不甲斐なさに対する苛立ちの裏返しでもあった。墨雲の場合、騎獣に乗るより自分の足で駆ける方が余程速いかも知れないが……。

  「……」

  「流体操作」のアニマだけは誰に教えを乞う必要も無く、物心もつかない頃から、本能的に利用することが出来た。それは普段肉体や精神と言う檻に囚われている魂に、本来の力を解き放たせる[[rb:御業 > みわざ]]。偽りの火に惑わされ、魂の衰弱した人間には決して使いこなすことが出来なかったもの。その有無が全面戦争の勝敗を分け、邪知暴虐なる人類は滅ぼされたのだと。獣人の方が人間よりも優れていたのだと――歴史は、文学は語り継いでいる。従って、仮に「伝説上の化け物」がよみがえった所で恐るるに足らないのだと……未だに、多くの獣人達が信じている。

  「……」

  だがその人間に、しかも〝赤子〟に、墨雲は負けたのだ。今さら『鼻の国』と同盟関係を強化したりして何になる? もっと兵を与えるなり、〈端倪〉王じきじきに戦場に出向くなりしていれば、墨雲は今も自分の傍にいてくれたかも知れないのに。

  ――それともあの父親のことだから、最初から墨雲を捨て駒にするつもりだったのか? 〈磨崖〉王に〝赤子〟の危険性を訴える為に。

  「殿下。到着いたしましたぞ」

  白峰の声に、はっとして顔を上げる陸。道中の景色を楽しむ心の余裕も無く、長々と物思いにふけってしまっていたのだ。白峰は自分が先に鞍から飛び下りると、陸のことを抱え下ろした。騎獣を傍の木に繋ぎ、地面に敷皮を広げ始める。

  ――憂鬱な気持ちのまま、周囲の景色を見回す陸。白峰のお気に入りの場所と言うのは、切り立った山肌の合間にひっそりと広がるこの平地。雪解け水が小川となって流れ、高山植物が可憐な花を咲かせている、まるで絵本のように素朴で美しい野原である。

  「さあさあ、どうぞこちらへ、殿下。散策も良いですが、まずは腹ごしらえとしゃれ込みましょうぞ。お恥ずかしながら、儂は先程から腹が鳴りっぱなしで――」

  陸の返事も待たずに、いそいそと食事の支度を進める白峰。妙に荷物が多いと思っていたら、金属製のティーセットまで持って来ていた。小川から水を汲んでくると、ポットで直接茶葉を煮出し始める。片膝を立てて敷皮に座り、ランチのバスケットを開けると早速黒パンに具を挟んだ軽食を一つ取り出して、

  「では、お先に失礼して」

  と大人の握り拳程もあるそれをたった一口で頬張る。毒なんて入っていないとアピールするつもりなのだろうが、毒入りとそうでない物を見分ける目印があるのかも知れないし、そもそもこれだけ体格差があれば、白峰には平気でも陸には致死量になりうるだろう。

  ――現時点では『鼻の国』が自分を暗殺するメリットが無いと結論づけた陸は、バスケットから包みを一つ適当に選び出すと、それでも慎重に一口かじった。白峰がニコニコしてこちらを眺めている。

  「……硬い」

  「そう言えば、貴国では白パンが主流で御座いましたな。どうしても噛み切れぬようでありましたら」

  沸いたばかりの茶を自分のカップに注ぐと、

  「こうひたして、ふやかしまして」

  「行儀が悪い。それより、[[rb:篭手 > こて]]くらい外したらどうだ」

  陣営ではいつもそうして、鉄くさい硬いパンばかり食べているのだろう。自分にも注いでもらった茶をフーフー冷ましながら、陸は白峰を観察する。

  ――叩き上げの軍人らしく武骨で無神経だが、正直者で飾り気が無い。王からの信任が厚いのも頷けるし、きっと兵からも慕われていることだろう。家庭では理想的な夫として、そして父親として……。

  (無論、気品のある無しを言えば、墨雲を引き合いに出すのもおこがましいがな)

  墨雲のことを思い出してしまうと喉がつかえたが、パンのかけらを無理矢理茶で流し込む陸。口に合わなかったのかと心配して白峰が見つめてきたが、黙ってもう一かぶりする。栄養不足で衰弱した結果、〈磨崖〉王の呼んだ医者に得体の知れない薬を飲まされるより数倍マシだ。

  「……お前は平民出と聞いたが。この国に仕えるようになってもう長いのか?」

  まさか陸が自分の経歴に興味を持つとは思っていなかったのか、白峰は意外そうな顔をしながらも、

  「はい。流れ者の傭兵なんぞをしておった折、先代の王に取り立てていただいたのがきっかけで。ご推察の通り、『[[rb:鼻の国 > こちら]]』の生まれでは御座いませぬ。故郷はもっと北方の――今で言う『額の国』の辺境にあった、小さな村で」

  過去形に気づいた陸に淋しげにほほ笑み返すと、

  「……[[rb:匪賊 > ひぞく]]に、襲われたので御座います」

  それで身寄りを全て失い、傭兵として諸国を放浪しながら生きる他なかったと言う訳だろう。『鼻の国』に本来白熊獣人はいないはずだと思って尋ねたのだが、陸は白峰の傷だらけの顔を一瞥すると、カップの水鏡に己の傷一つ無い顔を映し、

  「悪かった」

  「昔のことです。もうずっと、大昔の……」

  ぎこちない沈黙。何とかしてそれを破れないかと考えた時、陸の術士としての感覚が無数の「流体」の接近を感じ取った。パラパラと小さな雨粒が木の葉を打つ音が響いたかと思うと、次の瞬間にはどしゃ降りの雨に変わる。

  「これはいかん。――殿下、どうかそんな物はお捨て置きくだされ!」

  バスケットやティーセットの類いも移動させようとしてグズグズしている陸に、白峰が早く木陰に避難するよう声を張り上げる。騎獣も突然の雨に驚いたように鳴き声を上げ、せわしなく足踏みをしている。

  ――敷皮をバスケットやティーセットごと丸めて木陰に引きずり込んでから、自分も雨宿りする白峰。ほんの短い間に、その白い毛並みはびっしょり濡れて貼りついてしまっていた。

  「何か拭く物を――」

  彼程ではないが陸も濡れているのを見て、体に[[rb:障 > さわ]]るといけないと思ったのか、荷物を引っ掻き回し始める白峰。しかし陸は意識を集中させると、

  「……ふん。この程度」

  「流体操作」で自分の毛皮や着衣から雨粒を分離させ、完全に乾かせる。ついでに白峰と騎獣も。さらに二人+一頭を覆うドーム状の結界を生み出すと、大粒の雨は一滴残らずそれに弾かれて、結界との境目を滝のように流れ落ちた。

  「これは……便利なものですな」

  「茶を冷ますことは出来ないがな」

  陸がコップをフーフー吹いていたのを思い出し、ほほ笑みを浮かべる白峰。そう、「流体操作」と言ってもあくまで気体や液体を物理的に動かすだけで、その温度や成分自体を操ることまでは出来ないのだ。

  「……ですが、本当によろしかったのですか? 殿下」

  「いかに友好関係にあるとは言え、他国の重臣の目の前で、己のアニマを明かしたことか?」

  遠慮がちに頷き返した白峰に、陸は益々口を「へ」の字に曲げてみせると、腕組みをしてふんぞり返り、

  「このアニマは『左目』の王族に代々受け継がれるものとして、《楽土》に知らぬ者は無い。今さら隠し立てて何になる?」

  (……それに、父上ならば雲を散らし、雨自体をやませることだって簡単にお出来になるだろう)

  唯一の取り柄とも言える術士としての能力も〈端倪〉王に遠く及ばない事実を改めて自覚して、またふさぎ込んでしまう陸。しかし白峰は心底感服したように、

  「全くもって[[rb:仰 > おお]]せの通り。それでも相手を欺き、惑わそうとするのが世の習いで御座いますが――殿下は見かけによらず、豪胆な御方であらせられるのですな。はっはっは!」

  傷だらけの顔をくしゃくしゃにし、あけっぴろげに笑う白峰の姿に、再び陸の心が痛んだ。

  ――墨雲は自分の前で、クスリとでも笑ってくれたことはなかった。いつも物思いに沈んでいるような、人知れず痛みに耐えているような深刻な顔をして。自分が甘えて抱きついても、抱き返してはくれなかった。たった一度も……。

  「……」

  「殿下?」

  陸がうなだれ、下唇を噛みしめているのに気づき、白峰が笑いを引っ込める。自分の気安い言動が陸の不興を買ってしまったものと勘違いしたのだろう。地面に片膝をつき、背中を丸めるとなるべく陸と目の高さを合わせて、

  「……[[rb:平 > ひら]]に御容赦を。これですから、野卑な傭兵上がりなどと申すものは――」

  陸が懐に飛び込んでくると白峰は驚いたようだったが、やがて柔らかな表情になると相変わらず篭手をはめたままの手で、ゆっくりと陸の背中をさすった。雨粒は一滴残らず弾き飛ばしたはずなのに、なぜか陸の視界がにじむ。

  ――白峰は腕に少しだけ力を込めて陸の矮躯を抱き寄せると、その頭を撫でながら優しく説き聞かせるように、

  「……今この場には、我々二人しか居りませぬゆえ」

  「うっ、うえっ……! す、墨雲……! すみぐ、もっ……!」

  それは陸が墨雲と生き別れになってから、いや、きっと物心ついてからはじめて流す涙だった。「流体操作」でも押しとどめることの出来ない熱い液体が次から次へとあふれ出て来て、白峰の鎧の胸元を濡らす。陸の集中が切れたことでドーム状の結界が破れ、滝のような雨が再び両者に降り注ぐ。

  ――陸を雨から庇い、マントの中にすっぽりと包み込む白峰。陸が目を閉じると、その肉体は益々大きく逞しく、そして温かく感じられた。雨のにおいや鎧の金属臭と共に、白峰自身の体臭が鼻腔に漂ってくる。香油も何もつけていない、獣本来のにおい……。

  (後略)

  [newpage]

  ▼4

  「……儂が殿下と遠乗りに行くと知っていたのは、ごく限られた者達だけ。儂が直前になって思いついた事なのだからな」

  地下牢の中でも、特に厳重に封鎖された一室。鎖の代わりに鎧をガチャガチャと鳴らし、檻に囚われた熊のように行ったり来たりしながら、白峰は曲者に問いかける。

  「城の中に内通者がいるのか? しかし儂は、具体的な行先は誰にも告げていなかった。儂のお気に入りの場所を知っている者など、それこそ片手で数える程……」

  床に金具で固定された椅子。蜥蜴獣人の刺客はそこに首と両手首、尻尾、そして残っている方の足首を拘束されている。白峰のアニマで膝から下を吹き飛ばされた方の脚は、〈磨崖〉王が陸の為に呼んでいた医者の手で、縫合を済ませてある。

  ――応急処置が終わるとすぐにここに運び込まれ、苛烈な尋問を受けたものの、既に死を覚悟しているのか何も吐こうとしない。そこで、白峰がその役目を替わったのだが……。

  「殿下の死で利益を得る者。真っ先に思い浮かぶのは『顎の国』だ。いかに〝赤子〟の戦の采配が優れていようと、『左目』と『鼻』両国を同時に相手取るのは避けたいだろうからな。そもそも蜥蜴獣人と言う時点で、『顎』出身と見なすのが順当な所だ。

  ――しかし、少々あからさま過ぎるかな」

  白峰が椅子の前を行き来する度、たいまつの光が遮られてその影が床や壁に長く伸びる。

  「ならば、『顎』の仕業に見せかける為の他国の工作か? 両国が対立するよう仕向けたいのはどの国も同じ。こうして暗殺が失敗しても、両国が『顎』を優先的に潰すと決めたなら漁夫の利を狙える。どちらに転んでも得をすると言う算段だ。

  ――儂としては、こちらの説を支持したいものだが」

  ピタリと足を止めると、扉を背にして巨躯を屈める白峰。蜥蜴獣人の上に、大きな影が覆いかぶさった。

  「……よもや、〈端倪〉王の差し金では無かろうな? 信じて預けた跡継ぎをみすみす死なせたと非難し、我が国に攻め入る口実を作る。あ奴ならば、その程度のことはやり兼ねん。最初からその目的で、殿下に『転地療養』を勧めたのだと。

  ――仮にそうだとすれば、儂は貴様も〈端倪〉も許さぬ。殿下はまだ……子供、なのだぞ……!」

  白峰が蜥蜴獣人の左手の小指に触れる。そこに〝空気穴〟が開き、見る見るうちに膨らんだかと思うと勢いよく破裂した。鉤爪や小さな鱗、肉片、骨のカケラが蜥蜴獣人自身にも、白峰の鎧にも飛び散り、血やそれ以外の体液で汚す。

  「ぐ……!」

  「吐け」

  しかし蜥蜴獣人は苦悶のうめきを噛み殺すと、瞬膜を開けて白峰の目を睨み返した。僅かな肉片が付着したその左目が膨れ上がって眼窩から飛び出し、浮かび上がる拍子に視神経を引きずり出してから、小気味いい音を立てて弾けた。血の混じったドロドロとしたゼリー状の物体が白峰の顔にも降りかかる。

  「うっ!? ブ」

  その衝撃が視神経を通じて脳にまでダイレクトに伝わり、椅子の上でガクガクと痙攣する蜥蜴獣人の体。空っぽになった眼窩を喰い入るように覗き込んでいた白峰が、唇に滴り落ちてきた眼球の残骸を真っ赤な舌で舐め取った。いつしかその目は先刻と同じように血走り、呼吸を荒げている。

  「吐けば、せめて――一思いに死なせてやるぞ」

  そんな脅し文句とは裏腹に、相手がいつまでも沈黙を守ることを本心では望んでいるような仕草で、白峰の篭手をはめた指が、どこか淫靡に蜥蜴獣人の肌をなぞる。いつどこにまた〝穴〟を開けられるか分からない恐怖から、その牙がガチガチと鳴り、股間のスリットからチョロチョロと小水が漏れ出した。

  「そうか、ここにしてほしいのか」

  スリットに指を突き入れると、奥底に縮こまっていた男性器に触れる白峰。拘束された手足と尻尾をばたつかせ抵抗する蜥蜴獣人だったが、〝穴〟を開けられたソレは恥知らずにも瞬く間に膨張し、ひとりでにスリットから露出してきた。

  ――見た目だけなら比較的似ている海竜族や、実際に類縁関係にある鰐獣人などと違って、二股に分かれたトゲだらけのペニス。その一方だけが限界を超えて勃起している。白峰はその〝穴〟をいったん指でふさいでやると、牙をむき出して笑いかけ、

  「どうせ二本あるのだから――片方、無くなっても平気だろう?」

  指を離した途端に、二股に分かれている根元からそのヘミペニスは弾け飛んだ。返り血が白峰の顔にまで飛ぶ。椅子の上で蜥蜴獣人が頭をのけ反らせ、尻尾をくねらせたかと思うと萎え切ったもう一方のペニスから、ドロドロと子種を垂れ流した。生殖能力の、いや生命その物の危機に肉体が本能的に、子孫を残そうとしたのだろう。

  ――同じ男ならば普通、直視できないに違いないその無残なありさまを前にして、しかしながら、白峰は明らかに興奮していた。陸に対して見せていた武骨だが優しい態度や、あけっぴろげな笑顔が嘘だったように血なまぐさい息を吐き、目を爛々と輝かせている。ゴクリと生唾を飲み込むと、鎧のパーツの上から己の股間を握りしめた。

  (後略)

  [newpage]

  ▼5

  (前略)

  「……だが、まあ、もっとてっとり早い手段があったな」

  陸の左目が妖しく輝いたかと思うと、白峰の下腹部に鈍痛が走った。性に目覚めてからこの方、なだめてもすかしても一般的なやり方では反応を示してくれなかった白峰の分身に芯が通り、たちまち下穿きの中で痛い程に膨れ上がって、固定用の革のベルトを弾け飛ばさんばかりに力強く鎧のパーツを突き上げる。

  ――陸がアニマで白峰の血流を操作し、その器官に集中させたのである。

  「くあっ……!? ぬっ、ぐ、うむ、う……!」

  あまりに突然の出来事に理解が追いつかないように、片手で股間を押さえながらモジモジとする白峰。まるで生まれてはじめて勃起を経験した子供である。陸はニヤニヤと相手を眺めつつ、

  「どうした、長らく御無沙汰だったのであろう? ぞんぶんに快楽を貪るがいい。遠乗りに連れ出してくれた礼……と申すのも何だが、私が手伝ってやろう。そのまま鎧の中に漏らすのがいいか? それとも――私が、触れてやろうか?」

  陸が続いて相手の体液を操作すると、その獣根の鈴口から小水のように先走りの汁があふれ出て来て、下穿きや鎧の内側をビシャビシャと汚すだけでは足りず、床にまで滴り落ちてちょっとした水たまりを作る。この一週間のうちに、白峰の肉体の構造は完璧に分析し終わっていたのだった。

  ――「流体操作」で無理矢理搾り出されているだけとは言え、最早忘れて久しかった快感に頬を染め、目と口を半開きにするとその小山のような体を小刻みに痙攣させる白峰。しかし何とか理性を保ち、

  「わ、儂は、殿下のことを……。畏れながら、実の息子や、孫の、ようにっ……!」

  「そうか。要らぬ世話だったな」

  あっさりと白峰の手を離す陸。それと同時にあれ程猛り狂っていた獣根がしゅるしゅると萎えるのを感じ、白峰は情けない表情で陸を見つめてくる。もう興味を失ったようにそっぽを向き、ベッドに座り直す陸の前にひざまずくと、すがりつくような顔と声色で、

  「殿下……」

  「私にどうして欲しいのだ?」

  横目で傲然と、冷たく己を見つめ返してくる陸の姿に、白峰は早くも[[rb:王者の風格 > ・・・・・]]と呼べるものを感じ取った。そして彼と言う男は、そんな相手には決して逆らえないように出来ているのだった。

  ――巨躯を恥辱に震わせながらも、白峰はその足元に平伏して哀願する。

  「ど、どうか……。殿下の、お情け、を……」

  「仕方のない奴だ」

  陸は皮肉っぽい笑みを浮かべると、相手を立ち上がらせた。白峰が震える指先で鎧のパーツを取り外すと、股間の膨らみとの間に長い粘液の糸が引く。続いてぐっしょり濡れた下穿きの前開きから獣根をつかみ出すと、陸は後ろで腕を組むよう彼に命じた。

  ――まだ「流体操作」は使わずに、萎え切った状態でもなお並の男の勃起時より太く長い白峰の持ち物を両手であれこれと検分する陸。指に粘液を絡めて竿をシゴいたり、包皮を剥いて亀頭を刺激したりしてみるが、その巨根は一向に反応を示さない。

  「も、申し訳、御座いませぬ……」

  平民出の傭兵上がりが、王族のお情けを頂戴できるなど光栄の極み。そして白峰は先程口にした通り、陸のことを個人的にも気にかけている。それなのに自分が男としては全くの役立たずであると言う事実を再認識し、白峰は今すぐ消えて無くなりたい気持ちになってしまう。陸が下穿きから白峰の陰嚢を引っぱり出し、揉んだり中身を転がしたりしても結果は同じ。

  ――しかし当の陸は機嫌を損ねるどころか、いつまでも芯が通らない獣根を支えると、その亀頭に接吻してきた。

  「なっ……!? でっ、殿下、なりませぬっ……!」

  「じっとしていろ」

  半ば包皮に覆われた、肉厚な亀頭を辛うじて口に咥えると、モゴモゴと不器用に舐め回す陸。同性の性器を咥える等はじめての経験だったが、不思議と嫌悪感や背徳感はなかった。先走りの汁の苦いような酸っぱいような味には慣れないが、別に吐き気を催したりはしない。猫科の獣人のザラザラした舌で鈴口をくすぐったり、唇を締めて亀頭をギュッギュと揉んだりしてみる陸。

  ――まだほんの子供と言ってもいい、やんごとなき御方が、己のごとき身分の卑しい男の、グロテスクな性器をしゃぶっている。その事実と光景に脳が痺れるような陶酔を感じ、心は紛れもなく陸のことを求めつつも、やはり白峰の肉体は一切反応を示さなかった。

  「殿下……」

  一通り試してみて納得したのか、いったん口を離す陸。再びその左目が妖しく輝くと共に、白峰の獣根は見る見るうちに充血して腹を打つ程に反り返った。亀頭など包皮が完全にめくれて今にも破裂しそうなまでに膨れ上がり、最早陸が幾ら大口を開けても入らないサイズである。戦場でどれだけの数の敵兵を爆死させても、こんなに硬く雄々しく勃起した事は未だ嘗て一度も無く、自分でも信じられないように己の分身を眺める白峰。

  ――その状態で陸が改めて陰嚢を揉んだり、竿をシゴいたりしてやると、白峰ははた目には少々滑稽な位に身もだえし、まるで小便でも我慢しているように足踏みしたり頑健な太腿を左右に揺らしたりして、懸命にあえぎ声を押し殺した。鎧からぴょこんとハミ出している短い丸い尻尾が、上下にプルプル震えている。

  「気持ち良いのか?」

  「は、はい……」

  「気をやりたいか?」

  頬を赤らめ、口ごもる白峰。しかし陸がイタズラっぽくほほ笑んでその顔を見上げつつ、粘液まみれの亀頭を手のひらでグルグルとこね回してやると、さしもの歴戦の勇士も射精の誘惑の前には膝を屈したようだった。

  「あう、う、く、うぬっ……! や、やりとう、御座います……」

  恥辱に巨躯を震わせながらボソボソと答える白峰だったが、陸は手の動きを速め、

  「聞こえんな?」

  「気を! やりとう、御座いますっ……! ど、どうか殿下の[[rb:御手 > みて]]で――儂の、汚らわしい子種を搾り出してくだされっ……!」

  「良かろう」

  (後略)

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