【コミッション】 狸御殿外伝

  彼女が陽子たちと別れてもう結構な距離を歩いただろうか。村からはだいぶ遠ざかってしまっていた。森の中はとても静かで一人と一匹以外に誰も無いのではないのかと思えてくるほどだ……しかし、熊退治にこうして駆り出されているのだから、きっとそうではないのだろう。

  こんな所通ったかな……と、当の本人である深雪は考えた。どうやら来た際とは別の、村の外へと向かっているらしい。

  「足場の悪い場所ですがついてこられますかな?」

  「はい、大丈夫です」

  「ふむ、それは良かった。なんにせよどうせじきに慣れるでしょうからご安心ください」

  そう言って吉郎狸はにこりと笑って見せた。だが深雪は安心できないでいた。

  言い方に引っかかるものを感じるのと、その着流しと羽織を着た二足歩行で、まるで太った中年男性のような狸がどうしても胡散臭く思えてならないのだ。

  しかし、一宿の礼もあるので熊を追い払う手伝いを引き受けたわけだし、見た目と決めつけで人? を判断してはいけないと、彼女はこれからのことに意識を向けた。

  そもそも熊を追い払うだけなら自分なんか必要ないだろう。村人の方が自然との生活に慣れているだろうし、この狸がただの熊に手を焼くのだろうかと疑問であった。

  余計に信用ならなくなってしまったような気もするが、真面目な性格である深雪はとにかくその手伝いをしっかり努めようと自分に言い聞かせた。

  それにしても体が熱い……森の中を歩いたせいだろうか? いや、確か陽子と一緒に食後の薬を飲まされたはずだ。そのせいだろうか妙に熱っぽい……。

  「あの……さっき飲んだ薬はどういったものなんですか?」

  「いや、ただの滋養の飲み薬でございます。これから一仕事していただくためにたっぷりと力をつけていただきたくて……」

  そう言って吉郎狸はにこりと笑う。その笑顔にはじっとりとするような薄気味悪さと不快さがあり、深雪は腑に落ちないような不信感をどうにも払しょく出来ずにいた。

  「さあそれでは本題に参りましょうか」

  案内されたのは入ればまず土間があり、そこを上がると板張りの床と囲炉裏があるだけという古風な一間だけの山小屋だった。

  布団こそあるものの箪笥や長持などの収納は無く、衝立すら置いていない一切の生活が欠如した小屋だった。

  とにかく食事と睡眠が安定して取れればそれでいいとでも言いたげな室内である。

  (まあ普段は使って無いのだろうからしょうがない……にしてもこれじゃ動物の巣みたいだわ)

  「この辺りに大きな羆が住み着いてしまいまして。なにぶん村の者は農作業ばかりでこういうことには不慣れでして。私もこの通りただの古狸でして……」

  (ただの古狸ねえ……)

  吉郎狸はどうにもとぼけているような気がしてならないが、彼女は話を進める。

  「そこであなたにお願いしたいのですよ。どうでしょうかねえ……?」

  「そんなこと言われても私ただの女の子ですよ。お手伝いって何をすればいいかも分からないですし……」

  「さっきお薬を飲んでいただいたでしょ? あれ力の湧いてくる薬でして、その力で追い払っていただきたいのですよ」

  「やっぱりさっきのって効果のある薬だったんじゃないですか」

  「滋養も力をつけるのも同じことではないですか。それにもうこちらの頼みを聞いて薬を飲んでいるんですから構わないじゃありませんか」

  よくもいけしゃあしゃあとそんなことが口から出せるのだという厚顔ぶりに、深雪はかえって関心してしまう。

  「なに力づくで追い払ってくれればそれでいいんですよ。出来れば生け捕りにしたいので、怪我を負わせ動けなくなった所を捕獲するのはいかがですかな? 先程は殺生は控えたいと申しましたが方便みたいなもので、最悪殺してしまっても構いませんよ」

  「そんな殺すなんて、それなら檻でも用意したらいいじゃないですか」

  茶化すような吉郎狸の態度に深雪は感情的になって答えた。

  「へえ、それが本来なら熊など出没するはずが無い土地でして……ええ、そんな物の用意も無く、作ってるうちに襲撃されたらと思うと。それに作ったことが無いとなると不出来な檻になるでしょうし……」

  急にふてぶてしくなったかと思えば、都合が悪くなると弱者で被害者らしく振舞う狸親父に、温厚な深雪でさえもいらだち始めてしまっている。

  「それにもうお薬は飲んだでしょう? 先ほどもお伝えしましたよね」

  不信感は確信へと変わり、もはや一切信用ならなかったが、もう後戻りも出来ないので深雪は何も言い返せずにいた。

  「何はともあれ手段はそちらにお任せしますよ……それより体が熱くありませんか?」

  吉郎狸がは楽しそうにニタニタと笑いながら目を細め、深雪の全身を舐めるようにくまなく観察すると、深雪はゾッとするような悪寒と不快さに打たれるのだった。

  「へへへ……おやこれはいけない、日も暮れてきましたな。もう屋敷へ帰らなければ。さて、私はこれでおいとましますが、体が火照るようなら冷ますためにも体を動かしてここらの散策をお勧めしますよ。本番に備えて土地にも慣れた方がよろしいでしょうしな……」

  古狸が不快な笑みを浮かべていたので、これから何かされてしまうのでは心配になっていた深雪だが、吉郎狸は素知らぬ顔であっさりと彼女を残して帰ってしまう。

  「まいったなあ……こんなことなら引き受けなければよかったなあ」

  風が吹くように態度をコロコロと変えるので、深雪はもしかして狸に化かされているのではとも考えた。信用してはいけない相手だったし、陽子たちもどうなっているのか安心ならない。

  「あー……でも、こうなったらしょうがないお手伝いはするだけしよう」

  追い払え生け捕りにしろと言われても自分は中学生でしかなく、いくら妖怪のような狸が渡してきたものとはいえ、一度薬を飲んだくらいで野生の熊をどうにか出来るとも思えない。

  失敗しても問題ないだろう。嘘をつくのは良くないことだが、相手があんな感じだし、熊を直接追い払うなんて怖いし、見つからなかったことにしてもいいだろうという結論に彼女は達したのだった。

  「ふう……なんだか疲れちゃった」

  熱っぽさはここへ来る前に薬を飲んだあの時からあった。しかし、今は身体の芯からじんわりと熱と、これまでには存在していなかった何かが発せられている。

  「力の薬か……」

  自分の体温ではない熱、自分のものでは無いなんともいえない体感……火照る体は気だるく体力を別の何かに奪われている気がする。

  これじゃ力なんて出てこないよと思いながら、深雪も今日の一日を終えることにしたのだった。[newpage]

  目覚ましもかけていないのに、彼女は早朝に目を覚ました。

  熱はまだあるようだが、疲労もだるさもどこへやらでとても快調であり、爽快な一日の始まりだった。

  「よく寝たからなんだか元気なったみたいね」

  外へ出て厠というのがぴったりな古風なトイレで用を足し、井戸の手押しポンプを動かして顔を洗う。飲めるのだろうかと不安だったが問題なさそうだった。

  風呂は幸いにも露天だが温泉が湧いているのですませることが出来たが、電気も何も無いというのはやはり不便である。

  「んー空気が美味しい」

  しかし、昨日は熱やだるさで気がつかなったが、森の中というのはなんと様々な香りにあふれてるのだろう。土の匂い、草木の匂い、どこからか漂ってくる水の匂い。

  温泉の硫黄臭さや、井戸の湿った生臭さや、厠の臭気までもが鮮明に彼女の鼻へ届いてくるものだから全てというわけにはいかないが、多くの香りに彩られるのは嬉しいことだった。

  「あれ……?」

  顔を洗ってからふと手を見ると指から黒い毛が生えているのだった。大人の男の人みたいで困ったなあ、おかしいなあと思って彼女がよく見ると、それは体毛とは生え方も柔らかさもちょっと違ったように思えた。

  「なんだろうこれ?」

  訝しがりながら小屋へと戻るといい匂いがする。どうやら朝食が用意されたらしく、快調なこともあって深雪は喜んで食事を始めたのだった。

  「こんなに朝早くなのにいったい誰がいつ届けに来たのかしら?」

  しかし、そんなことは些細なことで、いつもよりも食事が楽しい気がする。

  お膳にあるのは米とみそ汁と山菜に魚の質素な少食だが量があり、どれも香りが良く、素材と出汁以外に何かが加えられているかのような匂いがしていた。

  「ふーお腹いっぱい。こんなに朝ごはん食べたの初めてだわ」

  普段の彼女なら朝はそんなに食べられないのだが、今朝は食が進みいつもなら残しているであろう量を完食していた。

  「これは何の匂い? 落ち着くなあ」

  昨日は気がつかなかったが、どうやらお香のようなものも焚かれているらしく、その香りは深雪によく馴染むようで彼女を落ち着かせてくれた。

  それから深雪は体をほぐすのと、一応手伝いのために外へ散策へ出かけたのだった。やはり森の中は様々な匂いであふれていた。

  「何かなあれ? トゲでいっぱいの植物ばかり生えてるから、あそこには近寄らないようにしよう」

  いい匂い、嫌な臭い、自然の豊かな情報が新たな刺激となって彼女の嗅覚をくすぐる。

  木々のせせらぎ、川の流れる水音、木の葉の落ちる音……聴覚でさえいつもより冴えていて、彼女をおおいに楽しませてくれた。

  何故か今は森の中を散策しながら歩くだけでとても楽しかった。

  「わあ美味しそう!」

  肉体を動かすのもなんだか体が楽になってちょうど良いのである。歩くと楽しくて予定よりも遠出してしまった。

  深雪が腹を空かせて小屋に戻るとすでに昼食のお膳が用意された後だった。いつもはさほど食事に興味が無いのだが、空腹だったこともあり彼女は昼食に夢中になった。

  「あー美味しかった」

  退屈だと思っていた森の散策も意外と楽しく、彼女の知らない臭いや音が新鮮で昼からも出かけることにしたのであった。

  森の中を歩くのも予想よりも簡単で疲れない。これなら熊を見つけるくらいならしてもいいかなと深雪は手伝いに対して前向きになる。

  「自然の中って案外いい所なのね。知らなかったなあ。景色はそこまで変わらないけど、匂いと音がいつもより違う気がするなあ。あまり疲れないし……けど、やっぱり歩くとちょっとお腹が空くかな」

  ちょうどその時彼女が甘い良い匂いがした方を見ると、木の実がたわわに実っている木を見つけた。木の実を見ていると食欲が刺激されるだけでなく、歯茎がムズムズしてくる。

  「上の方に生えてるから届きそうにないわ。下の樹液なら届くのだけど……えっ? なぜかしら?」

  深雪が残念に思いながら視線を下に移すと、木の表面から樹液が滲んでいるのが目に留まった。

  どうしてそんなものが気になったか不明で興味も無いはずなのだが、どうしてか樹皮から染み出している樹液が美味しそうだと思ってしまったのだった。

  「そんなわけないじゃない。樹液なんて虫じゃあるまいし……」

  と、言いつつもう一度樹液を見てみると、やはり美味しそうで、樹液の甘い匂いが漂ってきてよだれが出て来てしまう。

  「そんなことあるわけがないわ。まったくもうっ」

  深雪は言い訳をするようにそこから離れた。失敗したわけでないのになんだか恥ずかしくなって、わけが分からなくなっていそいそと逃げるように小屋へと帰ったのだ。

  小屋に戻るとしっかり夕食が用意してあった。誰も居なかったが、ちゃんとした人間の食事に彼女は喜び少し前までのことはどこへやら、楽しそうに腹を満たしていく。

  食事中はまるで熊のように他のことなど頭に入らないようだ。

  「あー美味しかった。もっと食べたいなあ」

  食欲が満たされると、満足して温泉に浸かってから布団に入ってしまうのだった。お香のような香りが彼女を安らかにしてくれて余計なことなど忘れさせてくれているようだ。

  「うーん……なんだろう」

  体も動かしたし充実した一日になった。それなのにどうにも寝つきが悪い……何かのフラストレーションがたまっているかのような。

  「まいったなあ……することも無くて暇なのに」

  辺りは暗くもう何も行動できなかった。もう一度温泉という気分でもない。

  「なんだろうなあこれ?」

  どうにも彼女が体験したことの無い感覚だった。下半身に違和感がある。ムラっとでも表現したらいいのだろうかという、なんとも言い難い未知の生理現象に襲われてしまっている。

  「え? これが保険で習った生理なのかしら?」

  それこそ生理そのものかと深雪は疑ったが、まだ初潮すら迎えてなかったので判断がつかなかった。

  彼女は手に余る感覚に大きく腰を捻るように寝返りを打った。その際に股が敷布団にこすれると痺れのようなものが走り驚きへと変わる。

  「んっ!」

  よく分からないが一瞬だけ楽になった……そしてなんだか気持ちのいいような……深雪は無意識に床に敷かれた布団に向かってヘコヘコと腰を押し付けた。

  股間が刺激され布団に染みが出来ていく……。

  実はこの時点で昨日……今朝よりも現在進行形でやや体が大きくなっているのだが、彼女は気がついていない。

  「あっ……あっ……」

  初めてのタイプの快感だった。もっと取り入れて確かめたいが、まだ早いと全身が警告しているような焦りも感じる。

  欲求と拒否。二つのさざ波の不協和音は性欲が勝り、深雪は辛そうに布団へ腰を上下させて股間を押し付ける。

  全身が伸びていくようなものが内側から発生している。それとは別に下半身がじんじんする。いい感じとも思えるのに、防衛機構が働くように彼女の意識は強制的に閉じていった……。

  「ふあ……? もう朝か」

  寝ぼけながら深雪はいったい昨日のはなんだったのだろうかと首をかしげたが、布団の一部が湿っていたので夢ではないことを知る。

  体に熱はあるが絶好調だ。本人は知らぬことだが昨夜よりもまた体が大きくなり、筋肉がつき始めている。

  胸も大きくなっていたが、あまり女性的には形作られていない。

  「あれは何なのかしら……まさかあの薬のせい?」

  不安になって来たが、鼻先へ朝食の匂いがするとそちらに意識が行ってしまう。本能が食事を求めてしまう。

  「早く食べなきゃ」

  まずは朝の支度をすませようと深雪は外へ出た。厠へ行き、顔を洗う

  「あれっ?」

  なんだかおかしい。まるで毛深いようなと思い彼女は自分の顔に手を触れる。

  確かにやや毛が濃くなっている。怪訝に思っていると手も昨日より毛むくじゃらだ。それに爪が伸びるのがあまりにも早く、そして尖っている。

  「私こんなに毛深くないのに……」

  確認したいけど井戸にはポンプと蓋が設置されているので顔を映せそうにはない。小屋にも家具すらないので鏡も無いだろう。

  「昨日からなんなの?」

  なんだか独特の臭いが筋肉の付き始めた自分の体からしている。体毛もあちこち濃くなっている。

  確認出来ないので彼女は分からないのだが、顔つきもやや成長してお姉さんらしくも見えた。

  「これな何かしら……?」

  お尻には毛玉のようなものがついている。何故? 原因は思い当たるが理由が分からない。

  そして自分の体のことで不安なのに、こうしていると誰かに食事をとられないか心配になり、その不安よりも心配の方を優先してしまうのだった。

  「美味しい! 美味しい!」

  食事をしていると夢中になって他のことが考えられなくなる。妙なお香のようないい匂いが心を落ち着かせてくれる。

  「美味しかった。けど、ちょっと物足りないな……」

  むしろ量は初日増えているはずなのに、彼女には少し足りないように思えてしまっていた。

  今日は昨日よりも匂いがはっきりと嗅ぎ分けられ、それは食事に加えられている何かとお香の匂いのよく似ていてどこかで嗅いだことのある匂いだった……。

  「あー思い出した。あのお屋敷で飲んだ薬と同じ匂いだわ」

  体は不安だったが、食後に意味も無く小屋の中をウロウロと行ったり来たりを動物園の檻の中の熊のように繰り返してしまっていたので、それならと今日も深雪は散策に出かけた。

  外を歩くのはやはり楽しく、もうこの辺りを自分のなわばりのように彼女は捉えていた。

  あの木の実のなる木も自分の物のように思えてならなかった。

  「お腹空いたしやっぱりあれ食べたいなあ……」

  木の所まで来ると、何となく彼女はその木で背中をこすりたくなり、そうした。

  そして上を見上げると長くなった爪を器用にひっかけてスルスルと登っていく。

  「私木登りなんかしたこと無いんだけどな……」

  人間ならそんなことをすれば確実に爪が剥がれてしなう所だが、木に食い込んで実は重くなっている彼女の体重もしっかり支えてくれていた。

  力も実際に強くなっているようで、簡単に上まで登ることが出来た。

  「木登りも悪くないわね……でも、本当ならこんなこと無理なはずなのに」

  中学生にもなって木登りなんて恥ずかしいし、出来ないことが出来るようになってるのはなんだか複雑だった……。

  だが、目の前に木の実がくるとそうも言ってられなくなってしまうのである。

  「うん美味しい! もっともっと欲しい!」

  深雪は木の実をムシャムシャとほおばっていく。食欲が増しているだけでなく、腹に入る限界量も食べ物に対しての執着も強くなっているのだが、彼女は気がついていない。

  「木登りしてよかったなあ」

  食べ物が得られるなら……今まで自分が出来なかったことが、こうも簡単に出来るようになるのはいいことであり、誇らしい気持ちになると彼女は思い直したのだった。

  そして、やはり下の樹液も気になるのだが木の実があるのだからと無視しようとした。

  はやり小屋に戻るとすでに夕食のお膳が置かれてあり。誰もいないのだった。

  「誰か来たなら匂いがするはずなのにな……」

  ごく自然にそう頭に浮かんできたことがなんだか嫌だった。

  そして匂いといえば、やはりあの時の薬と同じ匂いが夕食からしている。それも嫌なのだが、今の彼女が目の前にある食事を我慢できるはずもなく、まるで動物のようにがっついてしまうのだった。

  「美味しい……けどなんかまた少なくなったような……」

  実際には食事の量こそ増えているのだが、彼女には全く足りなくなっていていた……。そして今朝よりもはっきりと大きく筋肉質になっている彼女の肉体……胸は少しばかり膨らみが減り平たくなり、体つきが女性らしい柔らかなものから男性的な筋張ったものになってしまっている。

  そしてその夜、また言い難い感覚が彼女を襲う。

  「なんなのこれぇ……」

  しかし昨夜よりもはっきりとどこから来ているのか理解できた。しかし、その現象そのものは彼女にとって理解しがたいことであり、好ましくはないものであった。

  「私……もうこれ以上は……んっ!!」

  深雪の肉体は拒否を示しているのに、それが明確であるのに、今の彼女には欲望を我慢することが不可能だった。

  自分の独特な体臭と共にあそこからいやらしい臭いがして、黒ずんできた鼻先にまとわりついてくるのだ。

  嗅いだことの無いたまらない臭い。耐え切れず彼女は股間の割れ目へ毛むくじゃらになった指を滑り込ませた。

  そこはささやかながらすでに湿っていて、指をスムーズに入れることが可能だった。

  「あっ……これっ何? なんなのっ!?」

  無理やりともいえるやり方で性欲を目覚めさせられた少女は、それに対して不信と戸惑いを隠せない。それでも行動はあべこべで、尖ってしまった爪で傷つけないように、自分のデリケートな場所をゆっくりかき混ぜていく。

  「あっ……ダメよこんなの……でもっもうっ……きゃっ!?」

  特に入れるよりも、入口についてある出っ張りを触るのが気持ちが良かった。ここを触ると痺れではなく、快感と沸き上がる不明の何かが覚醒していく。

  新しい何かが生まれて来て伸びていくのが実感出来た。

  「ああっダメっ変になる。私じゃないみたいっ!」

  彼女はそこがクリトリスということを知らないのにヴァギナに指を滑らせながら、雌のスイッチを揉みほぐした。

  「あっあっあっダメなの。ここは……なのにっ!」

  触ると伸びて大きくなって成長していく彼女の牝の核と身体。それでも深雪は自分の股を大胆に触るのをやめられない。

  「だっダメなのに……あっう、くぅぅ……」

  大人の階段を上ったように、少女の口から艶めかしい吐息が漏れるようになった。

  しかし、股間をまさぐるのに夢中になりながらも肉体は拒否しようとしている。反目する感情に板挟みになり、彼女は初めての喘ぎ声を出しながらぷっつりと原電が切れるように意識を失ってしまった。

  「え……朝なの?」

  気がつくと途中なのに眠ってしまったらしいと彼女は理解した。

  肉体は火照っているのに絶好調で、こみ上げるものが抑えられないほどだ……顔は産毛のようなものが生え始めているのに女性っぽくも見え、長い髪の毛が少し抜け落ちてしまい、体つきは少女というよりも成人男性のようなしっかりとした体格になっていた。

  胸も増々平たくなり、女性の乳房ではなく肥えた男性のたるんだ胸のようであった。

  「んっ」

  そんなことも知らず、クチュクチュと卑猥な音を立てて少女は、中断してしまっていた続きを再開した。

  まだ認めたくはないが、昨夜ほどの拒否感はすでに無く、これなら最後まで続けられそうだと思ったて少しほっとするのである。

  「やだ……どうしてこんなことに。 それなのにもっとしたい……」

  指を股間の割れ目に入れて動かすとセンスティブな感覚を全身が突き抜ける。

  そして、なによりも割れ目の中についている豆のような物をいじると『沸く』のである。

  「何かが無くなってる?」

  強く、より強く体の中から新しい何かが沸いてきて澱のように沈殿していき、追いやられるようにいままで在ったものがいらなくなったものとして出て行くようだった。

  「あっこれおっきくなっちゃってる……」

  クリトリスは昨夜よりも腫れていて、そら豆ほどのサイズになりつかみやすくなっている。

  彼女の指は昨日よりも物をつかみにくくなっているような気がしてならないが、クリトリスは確実にいじりやすくなっているので、そこを無我夢中でいじるのある。

  「んあっ!?」

  彼女がクリトリスを刺激すればそこが固くなり、快感が強くまる。それ以外の何かが湧いてくる……同時に自分自身がすり減っているような気もする。肉体は膨らんでいく感覚にとらわれ、実際に膨らんでいた。

  「あっあっあっ来ちゃう何かが来ちゃうっ! イク、イク、イク!!」

  絶頂の瞬間、彼女の脳裏には何故か熊の姿が浮かんでいた。

  逞しく大きく野生的なその姿をイメージしながら少女は全身を弓なりにのけぞらせる。初潮も迎えてなかったのにもかかわらず、自慰により初めての絶頂で盛大に潮を吹き、割れ目から牝の液体を飛ばすと、腹の奥がキュンと収縮するのだった……。

  「あっ……出ちゃった……これなあに?」

  ただ気持ち良くなっただけでなく、何か大切なものまで出してしまったような喪失感と虚脱感の中、ふわりと朝食の臭いが漂ってくる。

  自慰の余韻と衝撃で混乱してもおかしくない状況であるにもかかわらず、大慌てで早く食べなくてはと執着心丸出しに身を起こすのであった。

  深雪は身支度を終えると朝食を獣のように食い散らかしていく。

  「ぜんぜん足りないよこんなの……」

  やはり指は動かし辛く、顔つきはまだ人間らしさが残っているが、こげ茶に近い黒色のような毛で全身が覆われ始めているし、耳の位置まで変わってしまっている気がする。お尻には毛玉の塊があり、中に感覚のある出来物まである。

  独特の体臭だってまた強くなったと彼女は思った。しかし、筋肉質で成人男性のようになった自分の今の姿を確認しようがないのである……。

  「今日も見て回らないとね」

  不安はあったが、それでもなわばりの見回りを怠るわけにはいかなかった。途中あちこちの木に自分の背中をこすりつけていく。ひっかいて爪痕を残したりもした。

  背も伸びたのに、足や手の長さはそのままで胴ばかり伸びていて、おまけに腹まで出て来てしまっているので、彼女のその姿はまるで熊のようである。

  「あれ……おかしいな?」

  木の実の木に着いたのだが、なんだかごっそり減っているような気がしてならない。彼女は自分のものが誰かに取られるのがたまらなく許せない気がしてきて、犯人を執拗に追いかけたくなる衝動にかられる。

  「誰よ私の食料に手を付けたのは……許さないわよ!」

  イライラしながら歩き回り臭いを嗅ぎ周ったが、何の痕跡も見つからず落胆した。

  「誰よこんなことしたの。許せない!」

  ただでさえ食事が減っている(実際にはかなり増えている)のに、木の実まで少なくなるなんてと落ち込んで木から降りると樹液が目に飛び込んでくる。

  とても美味しいお菓子のように思えてならないが、彼女はそこから逃げるように走り出した。

  「あれ……おかしいなあ?」

  力も体力もついてきているのにどうにも『二本足』で走りにくいのだ。変だなあと思いつつ彼女は川までやって来た。

  「そうだ、魚でも捕まえたらいいじゃない」

  服も着たまま何の躊躇もなく川に飛び込んで泳ぎ始める。

  「見つからないなあ……そうか、待ち構えなきゃいけないんだわ」

  ジャバジャバ音を立てて泳いでいても魚は見つからず、沢で待ち構えることにしたのだが、鮭は飛んでくるはずもなく失敗に終わった。

  「ダメかあ……なんで私魚なんて捕まえられると思ったんだろう……服乾かさなきゃ……って!?」

  川から上がるとより彼女の体はより大きくなり、より太くなってきていた。ここでようやく深雪は、自分が服を着たまま泳いでしまったことが恥かしくなり、火が出そうなほど顔が赤くなる。

  「失敗しちゃったなあ……誰にも見られてなくてよかった」

  そして、その服のサイズが小さすぎてパツパツになってしまっていること気がついていない。

  体つきの変化はあまり気にしていないようで、靴と靴下が内側から破けていつの間にかどこかへ消えてしまったのも、森歩きに合っていないのか二本足で歩きにくいからちょうどいいや、としか思わなかったのだ。

  そのまま彼女は裸足のまま濡れた服を乾かそうと、崖のまでやってきた。地形の悪い場所なのに、深雪は羆の習性のように真っすぐ登ろうとしている。

  「よいしょ、よいしょ。さすがに歩きにくいなあ……まあしょうがないか」

  彼女は手を地面について崖を登り始めた。これがしっくりきてかなり歩きやすいのだ。獣のように裸足になったことも森歩きに適しているのだと深雪は理解した。

  それから服を着たまま彼女は体を乾かそうと寝転んだ。それは毛干しと呼ばれる崖での羆の行動と同じであった……。

  その夜、深雪は温泉に入らなかった。川で泳いだのと、なにより自分の体臭が落ちるのを嫌ったのである。

  「あっ、あっ、あっすごい! すごく気持ちがいいっ!」

  昨夜も今朝も深雪は自慰をしてしまった。今や彼女は手伝いを忘れ食事と自慰となわばりに執着するだけになっていた。

  髪の抜け毛が多くなり、肉体はだいぶぽっちゃりしてきてしまい、体つきもますます男らしい……というよりも、丸くて厚い熊っぽいものになっている。

  胸板は少女どころか男性的ですらなく、動物の胸部のようでしかない。

  クリトリスは親指の先から根元までの長さと太さほどのサイズになり、周りの小陰唇の肉事持ち上げるように勃起している。

  「私こんなのが自分の股に付いていたなんて知らなかったわ!」

  本当にこんなものが股間に最初からついていたかは非常に怪しかったが、彼女はまったく疑いもしていない。

  「なんで? なんで熊なの?」

  しかも、人間ではなく牡の熊のことを想像しながらクリをしごいている。

  深雪があそこをいじると牡熊のことばかり浮かんできてしまい、牡熊に自分が犯される妄想に行きついてしまったのだ。

  「熊なんかとしたくないのに……こんなのっ……んうっ!」

  彼女は獣みたいいだらしなく舌を垂らし、仰向けではしたなく大股を開き、まるで男性のペニスのようにクリトリスをしごいて快感をむさぼっている。下半身の中で何かが閉じていくような腹痛もあるのだが、それよりも不自然に腫れ上がった陰核をしごくのに没頭している。

  「あおおっ! グルル! 気持ちいいわ!」

  大陰唇は大きき腫れあがって下へ垂れ、その真ん中の膣の入り口である割れ目は明らかに縮小化していた。

  「おおおっイクっ!!」

  彼女が身をのけ反ぞらせて絶頂するとあくまでも、割れ目の方の穴から透明な液体が飛び出して、痛みと共に女性器がキュッと収縮し、クリトリスと大陰唇の腫れが大きくなった。

  同時にとてつもない失敗をしてしまったかのような寒気がする。

  「おっおっおっ!?」

  潮はさらりとした液体ではなく、先走り汁のような透明で粘り気のあるものになっている。それがクリトリスの先端からも、まるで樹液のように滲み出て来てしまっている……。

  「いたた……オナニーって最後はお腹が痛くなるんだなあ……あそこの割れ目も腫れてる所もじんじん痛みがして重たい感じがするし……今朝は胸まで痛くなった。知らなかったわ」

  深雪は朝の支度をしなかったので、自分の顔がもう成人男性のようになり、大きく成長し太くなった全身が黒に近いこげ茶色の毛皮に包まれ、まるで中年の熊人間のような姿になっていることに気がついていない。

  「豆ちゃんが元に戻らないなあ……困ったぞ。なんか忘れ物か失くし物をしたような気もするし……」

  服は今にも破れそうなほど伸びていて、体を隠せていない箇所ばかりでもう布切れに近い。

  「おっ、こっちのことちゃんと考えてくれてるんだなあ……」

  毛むくじゃらで大きくて爪の長い手では箸もまともにつかめなくなっていたが、今朝の朝食は大皿に生の果物や野菜を中心に生肉がいくつか入ったものだった……。

  深雪がそれを気が利いてると、床に手をついて何の疑問も抱かずに直接口で獣のように食べてしまった。

  「なんだか照れ臭いなあ……どうしてか変なことでもしてるみたいだ」

  なわばりの見回りに出ると熊らしく木へ背中をこすりつけて、自分の濃い独特の体臭で自分のなわばりであることを主張していく。

  自分の強さだけでなく牝へのアピールでもあるのだ。

  「でも、お腹空いたなあ……」

  食事は全く足りず、木の実も今全て腹に入れてしまった。ひもじさにうなだれながら木から降りると芳醇な香りがして、無意識に口が動いていた。

  「あっ美味しい! なんだもっと早く食べればよかったな」

  これだけは口にしまいとあれだけ否定していた樹液を、彼女は美味しそうに長い舌で舐め回している。

  樹液を舐めようと樹皮に舌をはわしていると何か食べられそうなものが当たったので、そのまま口に入れてしまう。

  「樹液もいい臭いだけど、これも美味しくていい臭いがするなあ……なんだろう? きゃああ!?」

  そう思いながら固くて筋みたいなものを口から出してみると、昆虫の足だったのだ。

  彼女は虫を美味しい食事だと認識してしまっているのだ。

  「えっ、虫? そんなはず……いやでも、そうよイナゴだって食べるんだし」

  と、これには驚きながら言い訳をしていたが、美味しいものとして抵抗がありつつもそのままカブト虫やカナブンを食べてしまうのだった……。

  「あーでももっと食べたいなあ……あっ」

  樹液と昆虫では彼女の腹の足しにはならなかったが、途中で鹿を見つけたのだ。

  ここへ来て初めて見る動物である。そうだ狩ってしまおうと、今の深雪が思うのは自然なことだった。

  じりじりゆっくりと距離をを詰めていく……そして一気に走り出した。

  「あれっ? なんで、なんで?」

  力の付いた深雪なら鹿くらいちょろいはずだった……だが、距離はどんどん離れていく。

  せっかくの獲物が逃げていくのにたまらず、彼女は手を地面につけて四つ足で走り出した。

  「早い……こんなに早く走れるのね私!」

  自分が森の中を疾走出来ているのに深雪は感動していた。けれども初手に問題があり、そもそも熊は狩が苦手なので鹿に遅れを取っていた。

  「あっ……あーあ、クソっ」

  トゲのある植物の茂みを鹿は軽々と超えて熊は立ち止まる。そのまま獲物には完全に逃げられてしまった……。

  その日の夜深雪はフラストレーションをぶつけるように自慰を激しく行いふて寝してしまう。最中は重要な失くし物をした時のような焦りでいっぱいだったが、それをやつあたりのように自慰をして忘れようとした。

  果てた際に先走り汁が棒状に膨らんだクリトリスの先端に開いた穴から、強い喪失感と共に大量に飛んで行ったのも気にせずに。彼女の肉体はまた変化を見せる……。

  そして起きてから今日も寝起きの自慰にいそしむのである。

  「おっおっおっ! すげえ! 今日はまた一味違うぜ! にしても、なんだ? なんか足りないというか、失くしたようなやばい感じがすんだよな……」

  確かに今日はいつもよりも快感の種類が違った。絶対的にしてはならいという危機感を肉体が訴えているが、今の体の感覚に特別な素晴らしものを期待してしまっているので、自慰はまったくやめられそうになかった。

  「でも、やっぱ女同士で牝のほうがいいよな」

  具体的な理由が分からない不安に対してそんな言い訳をしながら、今朝のオカズは牝の熊であった。

  牝熊の通常ではありえない、いやらしい卑猥なシチュエーションを想像すると、中の通路が開通した彼女のクリトリスはギンギンに固くなるので、熊獣人はそれをペニスのようにしごいた。

  「あーこれたまんねえな」

  そこには成熟した牡の熊獣人が自慰にふけっていた。

  顔はまだ人間寄りではあるが、産毛の生えたむさくるしい中年親父になり、その男らしい体つきは筋肉で逞しく大柄で、そして肥えていて熊らしいずんぐりした寸胴体型で、腹が出てしまっている。

  数日前までは細身の少女だった面影として残った髪形とイヤリングだけが、元の人間の性別を連想させたが、髪の毛はカツラみたいに不似合いで、乳房は退化して肥えた牡の獣の胸部に近い形だ。その髪の毛はまだまだ残っているが、寝起きにごっそり抜けてしまっている。

  クリトリスは人間のペニスのような形状になっていて、木の実のように膨らんだ大陰唇は中身の入った毛だらけの皮袋となって睾丸の位置に収まっている。

  「おっ! おおっ!」

  睾丸としての使用こそまだのようであるが、その精子工場はすでにフル稼働を開始しているので初出荷もまもなくだろう。

  「んっ、腹がいてえな……」

  閉じかけの女の子の割れ目は今も睾丸の後ろで縮小していっている。そんなことも知らずに彼女はクリトリスだったものを下品に必死でしごいていた。

  「おっ! すげっ! おっおっおっ! すげ!」

  牡の人面熊は、熊らしい丸い体の背をさらに丸めて、執拗に自分の野太いクリトリスをしごくその姿は滑稽であり、彼女の友人たちが見たらなんというだろうか……まあ、現在あちらも似たようなものではあるのだが。

  「イク、イク、イグッ! グルルイグゥウ!?」

  牡の人面熊の睾丸がギュッと持ち上がる。出来たばかりの精子工場から初物の精液が出荷され、これまた出来立ての専用道路を通ってクリトリスだった肉の棒に送られる。

  睾丸からは牡の精だけではなく、今までの自分のとても大切な何かまでが熊の玉袋で圧縮されて牡の熱いエキスとして前立腺を経由して尿道へと送られてしまった。

  「出るウウウウウ!!」

  

  ビュルッ、ビュルッ、ビュルッ、ビュルッ……。

  熊は低く情けない声を出して射精した。女として、人間としての在り方や肉体的成分までも一緒に、不要物を混ぜた獣のザーメンとして体の外に排泄した……。

  牡のエキスは量こそ多いものの勢いが無く、肉棒の先からボタボタと作りたての精液が垂れていった。

  これで彼の肉の棒はただの太くて短いペニスとなったのだ。

  「おおおおおおっ!」

  精通して体のつくりが変化した。ついには人間体型ですらなく、動物そのものの体格に変わってしまったのだ。

  鼻先は長く前に伸びていき、顔の産毛は獣毛となって顔面を包んでいく……。

  「うおお、体がおかしい!?」

  頭部は熊により近づいていく。肉体も肥大化し厚く、腹にも体全体にも脂肪が蓄えられ、深雪は立派な羆へと仕上がっていく。

  「おっ? おっ? おっ???」

  勢いのない射精はまだ続いていたが、深雪はそのまま仰向けに布団へ倒れこんだ。骨格の変化に合わせて体もまた大きくなり、その拍子に服はビリビリに弾けるように破けてしまい、体から滑り落ちた。

  小屋の中に歳を重ねていそうなただの羆の牡が気持ちよさそうに寝転がっていた……。

  「ああよく出たぜ……」

  食べ物の臭いがしたので、深雪はだらだらと寝転がっていた身を起こした。相変わらず誰の臭いもしないので、急に食べ物だけが現われたかのようであった。

  そして『何が』出たのかはよく分かってはいないが、彼は非常にすっきりしていた。その行為の直後は気だるかったが、今はもう元気そのもので全身に力がみなぎっているのがよく分かる。

  「なんなんだ? 分からんぞ」

  起きてからの彼の喪失感は酷いもので、かなりショックを受けて動揺している感じが何となくあるのだが、それがなんであるかは分からず……それよりも新しい力が体中からあふれているので、かき消されてしまう。

  「うーん? そういえば俺は何でここに来たんだ?」

  朝食は土間へ無造作に木の実や野菜、熊用のペレット等が転がっていたので、四つ足でのしりのしりと歩いていき、四つん這いのままかじったり地面ごと舐めとったりして食べている。

  「これも変だな?」

  普通に餌を食べてるだけなのに、意識ではかなりの違和感があった。体的にはとてもしっくりきているというのに。

  「おかしいぞ?」

  違和感と言えば二本足で立つと不安定で難しい。まあわざわざ二本足で立つ必要も無いのではあるが……それよりも、股間についている二つの袋と一本の棒が強烈に違和感があってポジションが落ち着かないのだ。

  「豆と膨らみも前からついてるもんだしなあ……?」

  股間をのぞき込んでも、雄の羆である深雪には何の異常も見当たらないのだが、心は平静ではとてもいられないといった様子がした。

  「まあ、見回りしてくるか……」

  怪訝に思いながらなわばりを歩くと、四つ足は非常に森歩きに適しており、彼はこれを慣れてきたからだと捉えた。

  股間にヘンテコな症状を抱えているが、体調はやはり絶好調で、元気でいっぱいでその元気の元を体内から外へ飛ばしたいくらいだ。

  木々に背中をこすりつけマーキングしていると、ある木から餌になるものとは別の独特のひどくいい臭いがして元気が爆発しそうになった。

  その木に自分の独特な体臭をこすりつけて上書きをする。嬉しくて探したくて会いたくて、彼が豆だと思い込んでいるペニスがギンギンに固くなり、熱い元気の元が股間に集まってここから出て行きそうになる。

  「あっ……あれは!」

  トゲのある植物に触れても皮膚が剛毛に覆われているので平気だった。なので、血の臭いが遠くから漂ってきたので、トゲの茂みを超えてそこへ向かうと、昨日の鹿がちょうど狼か野犬の小さな群れに仕留められた所だった。

  「グオオオオオオオッ!!」

  深雪はそれを見た瞬間、怒りで血液が全身で沸騰し、肉体が爆ぜたのだった。

  雄叫びを上げ無意識に獰猛な勢いで駆け出していた。怒りのままに自分よりも小さくて弱い生き物を蹴散らすと、それは一目散に逃げだしていった。

  「俺の獲物だぞ。まったく……」

  仕留めそこなってはいたが、すで彼の物であるので執着が強いのだ。それに他の動物から獲物を横取りするのも羆なら珍しくもない。

  すでに少し食べられてしまっているが、彼はまだ温かい鹿の腹部に何の躊躇も無く牙を突き立てた。ツンとするような血生臭さと味が熊の口に、広がりとてもそそられる。

  「   」

  喉をやられている鹿は声にならない断末魔の叫びを上げた。ヒグマは嬉々としてバリバリ、クチャリと骨や肉をかみ砕きながら獲物を生きたまま喰らっていく……。

  「グルル、うめえ……うめ……」

  心身共に充実して全身が震えて満たされる。羆としての本能が彼を一人前の獣に仕立て上げていく……。[newpage]

  その日小屋に帰ると餌はもう置かれていなかった。食べ残した鹿を地面に埋めておいて正解だったと深雪は思った。

  それよりも大きな問題があった。今の彼の熊手では自分の竿が上手くつかめないのだ。床にこすりつけても上手くいかず、つかんでしごくことも叶わない。

  「グルッルル! なんでだよ? こんなにムラムラすんのに。今日だっていいにおいがしておまめがこんなでっかくなっちまってんのに……」

  それからは彼にとって苦難の日々だった。餌は自分で何とかしなければならず、自慰も満足に行えず酷い欲求不満に悩まされる。

  「グルル、ガウッ! ちん……ちんぽ」

  股間の違和感と妙な精神のずれなんてどこへ行ったのやらという毎日である。

  そうしているうちにすっかりただ牡の羆として馴染んでしまった。

  (ああ、ちんちんが……ちんぽ、ちんぽしてえ。交びしたい)

  いつの間にか彼の頭の中は交尾のことばかり考えるようになっていた。

  「調子はどうですかな?」

  そんなある日、吉郎狸が様子を見にやってきたのだ。

  「グオオオン……?」

  いままで放置してどうしていたのか等、色々と言いたいことがあったのだが……ここ数日の生活と肉体と精神の変化のせいで、話すことすら出来なくなってしまっていたのだ。

  「おやおや、もう言葉を扱えなくなってしまわれたようで……まあ熊には必要ありませんから問題ないでしょう」

  平然とそう言い放つ吉郎狸に言い返そうとしても、獣の唸り声しか出せずに困惑してしまう。

  「ううむ……はあ……あやつが雄狸なんぞになりよったから見に来たが、やはり牝熊に当てられて牡になっておったか……まあ熊はついでに抱いてもよい程度だったからどうでもよいが、雄狸になったのは実にもったいないことをした」

  吉郎狸は深雪の後ろに回り込み、話しかける訳ではなく独り言のようにぶつぶつと言いはじめた。

  「グオ……」

  意味は分からないが、あんまりな言い方だったので、彼は何か言い返そうとして言葉を遮らてしまう。

  「あんた中途半端に牡になっておるぞ。これじゃ牝も警戒して近寄らんじゃろう。なに牡には興味ないのじゃが、たまには珍味も味わってみとうなった。手伝いの手伝いをしてやろう。ほれしゃぶれ」

  (えっ……おす? なんなんだ? なにをいって……)

  深雪が何を言われているのか理解できないまま、吉郎狸は着流しと羽織を脱いで裸になった。

  屋敷で見たときは気がつかなかったが……認識できなくされていたのか、古狸は胡散臭い狸親父というだけでなく、熊に負けず劣らずの体格で相撲取りのように肥えていて、恰幅が良く迫力がある。大妖怪さながらの畏れがあった。

  そして狸らしい巨大な金玉とふてぶてしい皮かむりのペニスを顔に近づけられると、そんなことするつもりもなかったのに、深雪は操られたように勝手に自分の口が狸の性器をしゃぶっていたのだ。

  「んごごご!?」

  獣はうなる。熊とは違った獣臭さと小便臭さがあり、一刻も口から放したいのにしゃぶり続けてしまう。

  「これ逆らうでない。早く友達の元へ帰りたいだろう? なら大人しくするのだ」

  言い聞かせられるように深雪は従わせられてしまう。口へいっぱいに生臭くて獣臭いドロドロを出されて、それを飲ませられると雄狸に向かって尻を向けるように命令された。

  「マラもいっちょ前に人のままではないか、獣の物に変えといてやろう。チンポだけ人間だと上手くいかんかもしれんからな。ついでにふぐりにも細工をしておいてやろう」

  (えっ……ちんぽ……? ガルッ!? まさかおれ、いまおすなのか……? ええっ!?)

  「グオオオオオオオ!!」

  ようやく正体不明の不安や失くし物が何なのか理解できたが、全てが遅かった。自分が牡の熊になったことを元凶に指摘されることで初めて認識可能になったが、何も変わらない。

  吉郎狸は深雪の睾丸に術をかける。

  「うむ、これからは牡なのだから深雪ではなく雪雄と名乗るがよい。まあ獣には名前すら不要であるが」

  雪雄の睾丸が発熱してより重たく大きくなっていく。性欲も精子の生産量も不自然に倍増していき、羆の頭の中は熊どうしはもちろん……あらゆる生き物との変態的行為の妄想で埋め尽くされていく。

  (ガルルルル! ああっ……やめろお……やめやがれ……おれをもとにもどせっ! おれはにんげ

  のめすだ! ちゃんとにんげんのおすどうしでこうびするんだ! ん? おすどうし……?)

  エッチなことばかり考えてしまうので、まともに思考できない。男のことを考えると牡どうしになるし、女のこと考えると本当は牝なのに牡が牝を犯す普通? のことになりこんがらがってしまう。

  そもそも交尾のことしか考えられないのがおかしいのだが、そのことには頭が回らない。

  「では仕上げてやろう」

  吉郎狸の相撲取りのような手の指で肛門を巧みにほぐされていき、あっけなく狸のマラを挿入されてしまう。

  「それ、とくと堪能せよ。ワシは本来雌しか抱かぬのだぞ」

  自分は牝であると否定しながら、雪雄は自分の尻に狸の生殖器が入ってくるのを感じてそれを自分の意思で受け入れてしまう。

  肛門を犯されながら、本当はクリトリスだったペニスが本来の熊と同じ細長いものへ変形していく。

  「オッ! オッ! オオっ! ゴアアアッ!」

  吉郎狸が腰を牡熊の尻に打ち付けると、二匹の腹の肉も胸も大きな睾丸もブルンブルン揺れた。

  それでも雪雄はある衝動にかられ腰をヘコヘコ前に振り始めた。

  「おお、牡であることにちょうど良い素材であったようだな。牝の膣でしか絶頂出来ぬようになる術でもかけてやろうかと思ったが、これならそんなものなくとも万事上手く行くであろう。なによりなにより……」

  (ガルル……おれ……めす……ちんぽ)

  気持ちが良いからではない。自分が犯したくて、犯す側になりたくて体が動いてしまっているのだ。

  事実彼は感じてはいるものの、いま一つ足りないものを感じているのである。自分の股についている体格に対して短い細い棒をどこかへ突っ込んでやりたくてしょうがないのだ。

  狸に不本意に犯され、彼の頭からパラパラと頭髪が抜けていく……そして人間としての人格さえもが消えていってしまう。

  「それ出すぞ」

  「オオオオオ!」

  ドクドクと狸の雄汁が大量に自分の中に出されて、彼はもう一歩届かないもどかしさを抱えたまま相手が果てたのをうらやましく思ってしまうのだ。

  (グル……おれ……こうび……ガウ、だしたい……)

  自分も出したい。誰かと交尾したい……自分自身は絶頂できぬまま犯され、大切な何にかが消えていく。雪雄を何度も吉郎狸は犯して中へ射精した。

  (オオオオオ、おれ……おれ……なんだ? こう……び……)

  雪雄は生殺しのまま雄の劣情を狸にぶつけられ慰み者にされ、人間性が削られていき頭の中が交尾すること、自分のペニスを挿入することのみになる。

  肥えた巨漢の狸に好き放題犯され、牝役をされられながら自分が牝を犯す妄想で腰をヘコヘコ情けなく振り、細いペニスのさきから先走りをダラダラと垂らした。もはや人間の少女であった性格や精神などは残ってはいない。

  (グルル……こう……び……こ……グルルルル!)

  だが自身が絶頂することは無く、一度もメスイキさえしないのだった……そして人としての意識が完全に無くなってゆく。ただの牡の熊へと身も心もなり果てるのだった。

  「ふう、珍味もなかなかだった。だがやはり抱くなら雌がよい。あの雄狸が雌になればなあ……まあ、難しかろう。当てが外れた……ふむ、ではひとまずあの小僧を女狐にして遊ぶとするか」

  吉郎狸はさんざん雪雄の尻穴を弄び、興味をすぐに失くして次の相手のことを考え始めた。雪雄はただ性器をいじられ、最後までイケないままただ犯されただけだった……。

  「準備は整った。お前は立派な牡の羆となったのだ。存分に励むがよい……」

  それから雪雄は森の中の木に縛られて放置された。あのいい臭いのした木である……。

  縛られて放置られていると生贄のようであり、そのものかもしれなかった。

  「フーッ……フーッ……」

  だがしかし、牡熊は牝の臭いを嗅いで興奮状態で息を荒くするだけだった。

  警戒してるのか興味が無いのか牝はしばらく経てども現れる気配は無い。どこからか漂う香りはその存在を証明しているのだが、姿は無く牡をいらだたせるだけだった。

  「ウウウウウ……」

  雪雄は縛られたまま妄想の中にいた。妄想の中ではやはり同族がいいらしく、現実のように彼は縛られた状態で他の熊に自分のペニスをしゃぶられている。

  頭髪がまたパラパラ抜けていく。想像も現実も身動きが取れず生殺しの状態で、彼の肉体はムワリと獣臭く汗臭く、キツイ体臭を漂わせている。

  吉郎狸に犯された影響か、想像の中で同じく蒸れて臭そうな牡の熊が雪雄の身体をネチネチと責め立て、ペニスをしゃぶっていたが……やがて現実の牝の臭いに引っぱられるように、牝の熊が熱心に彼のペニスにむしゃぶりつく妄想に変わった。

  「ガルルルッ!」

  想像の中でついに絶頂し、熊の口内へザーメンをぶちまけた。だが、実際には放置されているだけなので、そんな相手は虚像であり、虚しくペニスがピクンと跳ねただけだった……。

  「……」

  しかしそれは最後の一押しをするのに十分であった。牡は脳内で果てたと同時に自身が縛り付けられている縄を引きちぎった。今の肉体ならいつでも可能だったが、これまでそうしようとする意思がなかったのだ。

  そして牡の羆は牝の臭いを辿り四本足で走り出す。

  今や元は人間の少女だった雪雄ですらなく、自分のなわばりにいる牝を犯すことしか考えられない牡熊でしかないのだ。性欲と生殖能力が異常なだけなただの牡の羆なのだ。

  「ハァハァハァ……」

  発情し、もう交尾のみを行う機械のようになった獣は、一直線に牝の臭いをたどって行き、ついにその存在を発見したのだった。

  「!?」

  いるであろう牡に発情していた牝の羆であったが、突然現れた獰猛な牡が駆けてくるので慌てて逃げ出そうとした。

  しかし、全速力で走っていた牡の方が早く、そのままの勢いで牝の尻にしがみつき捕まえてしまう。

  「グルル! ゴアッ! ガガッ!」

  どちらが出したのか判断できない、それとも二匹ともなのか、野性味あふれる獣の唸り声が森にこだまする。

  牝は通常の羆よりも大きかったが、牡はそれを上回る立派な巨体であった。牡は逃げようとする自分よりも一回り小さい牝の腰を前足でしっかりつかんで、背中の肉にかみついて逃げられないようにすると素早く腰を振り始めた。

  それでも牝は逃げ出そうとするので獣らしく力ずくで押さえつけ、待ち望んでいた初めての交尾を行おうと必死で腰を振った。

  熊の細いペニスは膣へなかなか入らなかったが、暴れる牝を押さえつけてようやく挿入を果たし、羆の生殖器どうしが結合したのだった。

  「グルル!?」

  牡は息を荒くし背を丸くして牝に覆いかぶさると、大きな尻を揺らして小刻みにカクカク腰を振る。牝はようやく観念したように背筋をピンと伸ばしてじっとしている。

  実に動物らしい交尾の仕方であり、本当に交尾としかいいようのない行為であった。動物であるのに肉がブルブル揺れて、素早く腰を五秒程度振っただけであっさり絶頂を迎えてしまう。

  「ヴオオオオォォ……」

  快楽を求めてだとか牝を喜ばせるという目的はなく、ただ獣の本能にのみしたがっての行動だった。

  この交尾の最中に残っていた深雪の頃の頭髪はすべて牡の頭部から抜け落ちてしまった。

  牡はイク瞬間に腰を前に突き出して雌の背にかみついたまま動かなくなっていたのだが、ヨタヨタと牝が再び逃げ出そうとしたので雌の腰を引き寄せるように、また力ずくで押さえつけ逃げられないようにした。

  「ヴルルル!」

  もがく二匹の熊はまるで相撲を取っているかのようで、牡が力士のように尻に力を入れて腰を落とした。この勝負、牡の押さえ込みで勝ちである……。

  再び牡は丸い巨体を揺らしながら小刻みに腰を振り、五秒ほどで果てて大人しくなり、そして余韻が抜けた頃にまた腰を振り、何度も何度も牝を連続で犯した。

  「ウオオオンッ!!」

  通常は羆は連続で交尾などしないものなのだが、この特別な牡は異常な性欲があり全く収まる気配が無かった。

  牝はやがてぐったりとされるがままになっていったが、牡は息を荒げたまま勢いを衰えさせることなく、何度も交尾を繰り返し絶頂し、牝へ牡のエキスである精を放つのだった……。

  そこには人間としての理性などどこにも残っていないのである。

  もうどれほど濃厚なザーメンを牝へ提供したのか、何日経ったのかすら分からなくなっていた。ただ本当に交尾のことしか頭にないのだ。

  牡は腰をカクカク振り、牝は大人しくそれを受け入れている。

  「捕獲にご協力ありがとうございました。それでは私の屋敷に戻りましょうか……」

  吉郎狸に発見された時も羆は交尾をやめなかった。いきすぎではあるが、熊らしく食事などに夢中になると周りに気が回らなくなるのだ。そして呆れるほどの生殖機能、交尾をやめるはずがないのである。

  「おや……あなた様の大事なものが落ちていますよ。どれ私がお付けして差し上げましょう」

  吉郎狸は地面へ落ちていたイヤリングを拾うと、不似合いな牡のの羆の耳につけてしまう。

  イヤリングは元の持ち主に正しくつけられているのだが、不自然でまったくに合わないその存在がやけに目立っている……。

  「ガウ……ガウッ……」

  二匹とも交尾したまま夢中でやめる気配が無いので、そのまま村人が総出で屋敷の小屋まで運んでいく。

  牡は檻に閉じ込められても、かつての友人である雄狸にその姿を見られても交尾をやめようとはしなかった……。