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“ムキ…ムキ…”
ガス灯の薄暗い廊下が、建てられたばかりの別荘のあちこちへと伸びる。
窓の外では、呪われた森の木々が不気味に揺れ、微かな瘴気が漂っていた。
そんな別荘の、人気のない裏口から聞こえる、奇妙な声。
外へと続く裏口の扉に、数匹のネズミが器用にも鍵穴に針金を差し込んでいた。
“ムキムキ!”
筋肉質なネズミが針金を回すと、開錠の音が鍵穴から漏れた。
ネズミが退くと同時に、勢いよく扉が開かれる。
「フハハハハ!よくやった、ネズミども!」
扉を蹴り開け、イノシシの被り物をする青年が飛び込む。
すると、ネズミ達は慌てたように、シーッシーッと口元に指を当てる。
「おっと、いけねぇ。紋逸に言われてたんだった!」
慌てて声を潜める青年は口元を抑えると、ネズミが案内する方向へと、静かに走り始める。
「ここか!猪突…猛進!」
バン!
勢いよく書斎へと突入する青年に、ネズミ達はまたもや静かにしろと言わんばかりに声を上げた。
“ムッキー!”
「よくやった。お前達、褒美に艶々のどんぐりをやる!」
“ムッキー!!!”
今度は感激したように声を上げるネズミ達。
そんな彼らを余所に、青年改め魔法騎士団第八番隊、通称“瑞獣”の隊長:嘴平伊之助は、光沢のある机の引き出しをガサゴソと漁り始めた。
「お、こいつか?」
伊之助が、魔鉱石採掘計画書と書かれた紙を見つけ、手に取った時だった。
ゆらり―――
「ん?」
伊之助が窓へと視線を向けると、窓の向こうで黒い霧が揺れた。
その拍子に、机の上に無造作に置かれた巻物が落ちる。
土地神絵巻と書かれたそれを拾い、伊之助は被り物越しに窓を睨む。
「ぞわぞわと嫌な気配だぜ。早いとこ残りの証拠見つけて合流したほうが良さそうだな」
遠くのホールから聞こえる洋楽器の音と、ゲラゲラと下品な笑い声。
それらに混じって聞こえる唸り声に、伊之助は目的のものを全て探すべく、机だけでなく部屋中を漁り始めたのであった。
雷狼のBeast 第二話 呪われた森への誘い
ガヤガヤ―――
タキシードやイブニングドレスに身を包んだ人々が、ホールの中で談笑する。
煌めくシャンデリア、弦楽器の美しい音色、高級食材をふんだんに使用した料理と、銘柄のついた酒。
そんな中、一際大声で笑う中年男性に、金糸に白衣の騎士服に軍帽を被った善逸は、苦笑いを浮かべていた。
「ガハハハ!いやはや我妻隊長は本当に話がわかる。君の歳でそこまで物事を診れる隊長は今までいなかったよ!」
「ハハ…恐れ入ります」
「今までの護衛は皆生意気な若僧ばかりだったからな。特にあの竈門とかいう青二才と猪め!これからは、ずっと君にお願いしよう。期待しているよ」
「ありがとうございます」
そう言って、善逸の肩を叩くのは、この別荘の持ち主であり、このパーティーの主催者である金持ちだった。
整えられた髭に、恰幅の良い体付き。
突き出た腹を隠すために、シルク生地に金や宝石をふんだんに使ったジャボ付き衣装を身に纏っているが、暖色の色合いを選んだせいで、益々太って見えた。
そんな金持ちの指には、金の指輪がいくつも嵌められており、その全てに色違いの大振りな宝石が使用されていた。
鈍く光る宝石に、善逸は僅かに目を細める。
「ご立派な指輪ですね」
善逸が何気ないふりをして問うと、男は自慢げに指輪を見せつけた。
「この指輪か?これは特別製でな。我が領地で新しく採取した魔鉱石を贅沢に使った一点ものだ」
「なるほど、閣下の領地で採取されたものなのですね。実に質の良い魔鉱石と見えます。魔道具や結界にも使えそうだ」
「ほう、この魔鉱石の価値がわかるか。流石、我妻隊長だ!では、引き続き護衛をしっかり頼むよ」
「承知致しました」
ようやく、宝石のついた指輪が嵌まった手が離れる。
上機嫌で次の来賓の元に行く男の姿に、善逸は人知れず安堵した。
叩かれた肩が若干ヒリヒリする。
一方、副官の宇髄もまた、態度には出さないが、内心うんざりしていた。
「ねぇ、よろしいでしょう?」
ふくよかな中年女性が、香水のキツい匂いを漂わせ、赤いドレスで宇髄の腕にしなだれ掛かる。
その拍子に、真珠のネックレスがジャラジャラと音を立てた。
「こんな素晴らしい夜ですもの。素敵な騎士様。私と踊って下さらない?」
「いけませんよ、マダム」
いつもと違い、きっちりと金糸に黒衣の騎士服を着用し、軍帽を被った宇髄が女性の手をやんわりと解く。
「私は護衛の身。それに獣人です。貴女の手をとって踊るなど、分不相応です」
「いいじゃない、一曲くらい。こんな機会は滅多にないんだから、踊らなきゃ勿体ないわよ?」
「マダム」
宇髄がそっとふくよかな手を取る。
主催の男の指輪と同じ材質の宝石でできたブレスレット。
それを見て僅かに口角を上げると、宇髄は女性を真剣な表情で見つめた。
「貴女のような美しい方に声をかけられた。それだけで、私には身に余る光栄ですよ」
チュッ
宇髄が女性の指先に、触れるか触れないかの距離でリップ音を鳴らす。
それだけで、中年女性はうっとりと息を漏らした。
「さあ、旦那様が呼んでいますよ」
「あぁ、名残惜しいわ!騎士様、必ず私を守ってね」
「勿論です」
中年女性は、最後に宇髄の手をギュッと握ると、渋々といった感じで自らの配偶者の元へと去っていった。
去った後も周囲に残る中年女性が付けていた香水の残り香。顔には出さないが、宇髄の尻尾が疲れたように項垂れる。
「…ったく、とんだ茶番だぜ」
宇髄は独りごちると、一足先にホールの壁際に避難した善逸の元へと歩み寄る。
「よう、我妻隊長」
「……何、その呼び方。あのおっさんの真似?」
わざとらしい呼び方に、善逸がジロッと睨む。
基本的に宇髄が善逸を隊長と呼ぶのは、仕事中か、もしくは機嫌が悪い時だ。
今は仕事中とはいえ、二人きり。
恐らく後者だろう。
「別に?ただ、あのオヤジに絡まれて大変だったであろう隊長殿に敬意を示しただけだ」
「そういう騎士様こそよかったの?折角のダンスの誘いを断って」
「ハッ、冗談じゃねぇ。見せびらかされるだけの装飾品なんざ、まっぴらだ」
そう言って、宇髄は善逸の隣に立ち、壁に背を預ける。
二人は、ようやく軍帽を脱いだ。
「全く、室内では軍帽を脱ぐのがマナーなのにさ。いくら、珍しいからって…」
「成金は権力と財力と見てくれに命をかけてるからな。それさえ手に入れば礼儀作法なんて気にしないんだよ、隊長」
片手で器用に軍帽を弄ぶ宇髄に、善逸は自身の軍帽で口元を隠した。
「……そっちはどうだった?」
二人しか聞こえない声で問えば、宇髄もまた軍帽で口元を隠す。
「ビンゴだ。ここの来賓の奴ら、全員魔鉱石を身に着けてやがる。それもかなり上質のな」
「やっぱりね―――あのおっさんの指輪、ただの魔鉱石じゃないよ。恐らく、この森の結界を支えていた魔鉱石の一つだ」
善逸がチラッと主催の男へと視線を向ける。
ほとんどの指に嵌められた指輪。
その中でも、特に光沢を放つ、透明な魔鉱石。
金剛石のように輝き、時折脈打つ鼓動のように青白く光るそれは、以前呪われた森の結界強化で産屋敷当主の護衛に就いた時に見たことがある。
あれは、その九つある結界を支える柱の一つだ。
「呪われた森とその周辺の土地は勝手に私有地にすることを禁じられてる。土地の権利書とか他の証拠は、今頃伊之助が見つけてるはずだけど…」
「問題は、欠けた結界から漏れ出る瘴気のほうだな。あの成金、マジで事の重大さをわかってねぇし」
宇髄がホールの奥に見える窓を睨む。
先程からガラス張りのテラスの奥で蠢く黒い影。
それは、徐々に増えていき、時折シューと音を立てて、こちらを威嚇する。
二人は、軍帽を魔法で消すと、代わりに各々の武器を手元に召還する。
「どうやら、来ちゃったみたいだね」
「ハッ、成金の欲は魔物まで引き寄せるわけか」
二人は、スタスタとホールの真ん中を突き進む。
その間に、ホール内に散った部下達に視線だけで合図を送る。
「お、おい。貴様ら、そんな物騒なものを持って何をしている?」
ダンスを踊っていた人々が、脇に避難する。
これで、テラスの周辺から人はいなくなった。
「おい!聞いているのか!我妻隊長、何故せっかくのパーティーに水を差すような真似を…!」
「閣下、後ろに退いて下さい」
善逸が前方を見据えたまま、刀の柄を握る。
ガラスが膨張したように膨れ上がり、シャンデリアの灯りが点滅し、やがて消えた。
突然の暗闇に、人々からヒッと声が上がる。
「き、騎士様?これは一体…?」
「下がってて下さい。マダム」
宇髄が二本の太刀を構えたまま、目を細める。
「早速、お出ましか」
「………」
「隊長、忘れたのか?お前の隣にいる奴も狼だぜ?」
「わ、わかってるよ!」
「まあ、他にもいるみたいだけどな」
パリン!!!
その瞬間、テラスのガラスが砕け散った。
砕け散り、床に散乱するガラスを踏みつけ、黒い霧の中から赤く光る目の狼が咆哮を上げて飛び込む。
「わあぁっ!?」
「きゃああっ!!!」
途端に人々が悲鳴をあげ、我先にと奥へと逃げようとする。
そんな彼らに対し、狼の魔物はグルルルと威嚇した。
その後ろから、蛇型の魔物がシューと音を立てて床を這う。
「いやぁっ!」
蛇を見た瞬間、宇髄のそばにいた中年女性が声をあげ、一目散に逃げていく。
「どきなさい!」
「あっ!?」
ドサッ!
一人の幼い給仕が女性とぶつかり、足を躓いた。
兎の獣人である彼女を、狼は見過ごさない。
グルルルーーー
「…ぁ…助けて…」
腰を抜かし、体を引きずる少女に、魔物は牙を向いた。
グワッ!!!
「きゃあっ!」
ザシュッ!!!
「大丈夫!?」
魔物を斬った善逸が膝をつき、少女を抱き起こす。
「あ…」
「ほら、行って」
「はい!ありがとうございます!」
少女は善逸に礼を言い、直ぐ様奥へと避難した。
少女を逃がした善逸に、今度は彼目掛けて割れたテラスからの攻撃が迫る。
キン!!!
「宇髄さん!」
「無事か?」
善逸を狙った風の刃を宇髄が弾く。
善逸は、テラスの外…上空を舞う翼の音を聞き、鳥型の魔物がいることを察知した。
「この音…鷲の魔物だ!」
「空中にもう一種類の魔物か…いいねぇ、面白くなってきやがった!」
「どこが!?こっちはさっきから足が震えてんだけど!?」
ニヤリと笑う宇髄に、すかさず善逸が突っ込んだ。
生来、臆病な善逸にとって、戦いなど怖いだけなのだ。
さっさと終わらせたい。
「うちのモットー忘れたの!?鳴神のモットーはーーー」
「迅雷のごとく敵を貫け、だろ?」
宇髄は善逸を振り返り、ニッと笑った。
その瞬間、宇髄の目の前に狼が飛び掛かる。
ザシュッ!
狼が一瞬で斬られ、塵と化す。
「隊長、優しい~」
「わかってたんなら、自分で斬れよ!」
怒鳴りながらも、周囲を警戒する善逸。
その様子を、天元は楽しそうに見つめた。
しかし、善逸の横に迫る蛇の魔物を目視した瞬間、宇髄の纏う空気が変わる。
ザシュッ!
「ーーーおい、お前ら」
蛇を斬った宇髄が、低い声で魔物達に凄む。
グルルという唸り声。
その声に、狼達が一瞬動きを止める。
「もうわかってんだろ?俺様とお前らの力の差をーーー!」
アオオオオォン!!!!!
善逸が急いで耳を保護した瞬間、宇髄の咆哮が周囲に響き渡る。
宇髄の咆哮は、狼だけでなく蛇にも効果があったらしく、彼等は途端に萎縮し、動けなくなった。
同時に善逸は目を瞑り、刀に魔力を込め始める。
バチバチと音を立て、刀に稲妻が走る。
善逸は刀に構えたまま、静かに目を開いた。
「雷鳴よ、闇に堕ちし敵を貫けーーー霹靂一閃!」
ドオオォン!!!!!
善逸の雷魔法が狼と蛇を貫通した。
その様に、宇髄が軽口を叩く。
「隊長、やる~」
「総員、前方の敵を排除せよ!」
からかう宇髄を無視し、善逸は号令を出した。
善逸の掛け声とともに、鳴神の魔法騎士達が一斉に飛び掛かった。
ガシャン!
しかし、天井が盛大な音を立てて、一部が崩落した。
ぽっかりと空いた天井の穴を見上げると、そこには巨大な鷲がシャンデリアを咥えている。
「デカッ!」
「ハハ、こりゃド派手な魔物だな」
額に魔鉱石が埋め込まれた鷲型の魔物。
羽には、無数の魔鉱石が使われており、緑色の目がギロッと善逸と宇髄を睨む。
鷲型の魔物は咥えていたシャンデリアを嘴で砕くと、強靭な風の刃を起こし、善逸と宇髄を攻撃した。
咄嗟に結界を張り、周囲の人間を守る。
それでも威力は凄まじく、風圧で破片だけでなく、テーブルや家具がひっくり返った。
「キャー! 私のドレス!」
「私の別荘が! 」
「そんなこと気にしてる場合じゃねぇだろ!隊長、上の奴何とかしないと全滅だぞ」
「わかってる!けど…」
焦る善逸の額から汗が流れる。
しかし、こちらへと近づいてくる聞き馴染みのある音に、善逸はハッと顔を上げた。
パリリリィン!!!
後方の窓を割り、猪の被り物をした青年が飛び込んでくる。
「伊之助!」
「ナハハハハ!見つけたぜ!証拠の書類!」
伊之助が書類と巻物を掲げる。
「どうやら、この魔物どもは元々この辺の主だったようだな!全部巻物に描かれてたぜ!空の主は俺に任せろ!」
「頼む!」
「頼まれた!オラァ!勝負だ!空の主!」
伊之助が上へと登り、そのまま高く跳躍して鷲の背中に飛び乗った。
「ハハハハ、背中に人間乗せてたら、思うように飛べねぇようだな!」
大型の鷲が背中にしがみつく伊之助を振り落とそうと、右往左往に飛び回る。
「観念しやがれ!猪突猛進!」
「よし、あっちは猪頭隊長に任せて俺らはこっちを片付けるぞ!」
宇髄の声に周囲を見渡すと、そこには狼の群れと蛇の大群。
一瞬、脳裏を過る過去の映像に、善逸は思わず胸元を抑える。
「善逸?」
「ーーー大丈夫。行こう!」
善逸は一度目を瞑ると、思い出される記憶を振り払うように頭を振り、目の前の魔物に刃を向けたのであった。
「フハハハ!空の主、討ち取ったり!」
自慢の回転斬りで鷲の首を落とし、塵と化す魔物。
その背中に乗ったまま、伊之助が拳を突き上げる。
一方の善逸達は、魔物の残りがいないか周囲を伺っていた。
「よし、もう魔物はいないみたいだな」
「うん……」
「それにしても、土地の権利書偽造してまでこの森で魔鉱石を採取するとはな。強欲もあそこまでくれば天晴れだわ」
呆れたように宇髄が息を吐く。
彼の視線の先には、パーティーの主催者と、彼から魔鉱石を購入した人間が伊之助の部下の獣人達に捕縛され、項垂れていた。
主催者の男は、たった数刻で全てを失い、意気消沈の様子だった。
「そんな…私の魔鉱石が…私の金が…!」
「……事の重大さをわかってないみたいだね」
「ったく、少しは反省しろっての。あいつらが結界の魔鉱石を盗まなきゃ、こいつらだって魔物に堕ちなかったんだからな」
宇髄の言葉に、善逸は目の前で消えゆく魔物…いや、元土地神へと視線を向ける。
伊之助が持ってきた巻物。
それには、周辺の地を守護していた神としての彼等が描かれていた。
この周辺に広がる、呪われた森。
ここは、かつて魔王と呼ばれた男の亡骸が封印されている場所だ。
名前を口にすることすら恐ろしいとされる男は、一人の魔法騎士によって、九年前ここで討たれた。
しかし、彼の魔力と残留思念は死後も残り続けており、その結果瘴気を発し、近くの土地神や精霊を狂わせ、魔物に堕としてしまうのだ。
その結果、九つの魔鉱石を支柱に、この地に封印されたのである。
私有地にできないのは、その為だ。
それでも、魔王の魔力はこの地に上質な魔鉱石を生む為、狙う者は多い。
だからこそ、今回のように金目当てでこの森のルールを破る人間を摘発する。
それも、魔法騎士団の仕事なのである。
魔物へと堕ちてしまった、元神達。
その体が光の粒子となり、完全に消えた。
粒子はそのまま夜空へと高く登っていく。
その光景に、善逸は軍帽を胸に当て、祈りを捧げた。
「隊長、優しい~」
「オレは炭治郎の真似をしてるだけだよ。そういうアンタだってやってるじゃん」
隣に立ち、同じく軍帽を胸に当てる宇髄にチラッと視線を向けると、宇髄はフッと笑った。
「こいつらは神だ。神は崇め讃えてやるもんだろ」
「……そうだね」
宇髄の言葉に、善逸も小さく笑った。
魔物に堕ちた彼等は、自然へと返り、きっとまた神として生まれてくるだろう。
祈りを終え、後始末をしようとする二人の所に、善逸が助けた兎の少女が小走りで駆けてきた。
「あの、先程はありがとうございました!」
「どこも怪我はしてない?」
「はい!おかげさまで!」
ペコリと頭を下げ、笑いかける少女に、善逸もまた笑顔になる。
こういう時は、魔法騎士になって良かったと、善逸はほんの少しだけ思う。
善逸と少女の交流に宇髄はフッと笑うと、近くで後始末をする部下に声をかけた。
「お前ら!片付けが終わったら祝杯だ。さっさと終わらせるぞ!」
「「「はい!」」」
「猪頭隊長!八番隊:“瑞獣”も参加するだろ?」
「勿論だ!喜べ、お前ら!食って食って食いまくるぞ!」
伊之助の声に、彼の部下である獣人の騎士とムキムキネズミ達が歓声をあげる。
「だとよ、隊長。支払いよろしく」
「はあ!?奢るのはうちの部下だけだし!」
からかう宇髄に、思わず突っ込みを入れた。
その時だった。
「えっ?」
目の前の少女に巻き付く蔦に、善逸は咄嗟に動けなかった。
魔力も、伊之助の空間認知も、そして善逸の優れた聴覚ですら気付かずに近づいていた蔦は、まるで蛇のように少女を絡めとると、あっという間に兎の少女を森のほうへと連れ去っていく。
「ンン!?」
「待て!」
少女へと手を伸ばすが、その手は虚しく空を切る。
そして、茨のような蔦の獲物は少女だけではなかった。
「わあっ!?」
「た、隊長!副長~!」
「た、助けて!」
善逸の部下や草食動物の獣人など、蔦は手当たり次第連れ去ろうとする。
「森のそばにいる隊員は防御しろ!」
「お前ら!結界で来賓と自身を守れ!」
「おら!離しやがれ!」
善逸と宇髄が号令を掛け、伊之助が自身の部下に巻き付いた蔦を切り裂く。
「ヒイ!?」
主催の男を執拗に狙う蔦に、善逸は彼の指に嵌まる赤い指輪が不気味な光を発していることに気付く。
「宇髄さん!」
善逸の声に、宇髄は結界内に入り、その指輪を無理矢理奪うと、森に向かって物凄い勢いで放り投げた。
蔦は指輪を素早く掴むと、そのまま森の奥へと去っていく。
しかし、先に連れ去られた兎の少女と善逸の部下三人が戻って来ない。
「オイ、おっさん」
ズカズカと歩み寄る伊之助が、涙目で震えている主催の男の胸ぐらを掴む。
「あの魔鉱石はどこで盗んだやつだ?」
「ひっ!?わ、私は何も!」
「とぼけんな!あれはどう考えても禁域にあったもんだろうが!」
「き、禁域?」
怒りを露にする伊之助に、善逸が肩を掴む。
「伊之助、落ち着け!ーーー閣下」
善逸が努めて冷静な声音で状況を説明する。
「この呪われた森は、絶対に人間が立ち入ってはならない場所があるんです。そこは太古の神々の領域。それが禁域です」
「なっ!?嘘つけ!太古の神々は人間とともに魔王を倒したと聞いた!人間に仇なすわけがない!」
男の言葉に、宇髄が鼻で笑う。
「アイツらは自分達も被害を被ったから一時的に力を貸しただけだ。元々、神も精霊も人間の味方なわけじゃない。現に、魔王側に付いた奴らもいただろ?」
「そんな…!」
宇髄の冷ややかな声に、男は項垂れた。
善逸が男の前に立ち、言葉を続けた。
「呪われた森の封印は、支柱の結界だけでなく、禁域に棲む神や精霊の力を借りることで成り立っています。あなたは禁域から魔鉱石を盗んだ。だから、あの女の子とオレの部下が連れ去られた」
「そんな…!」
「あなたは自分の欲の為に土地神を魔物に堕とすきっかけを作り、それだけでなく神の怒りを買い、無関係な人達の命を危険に晒している。厳罰は免れないでしょう。覚悟して下さい」
「い、イヤだ!私は!」
ドカッ!!!
「ギャヒッ!」
「ウルセェ!ごちゃごちゃ喚くな!」
伊之助が男を蹴飛ばす。
「伊之助」
善逸が硬い表情のまま声をかける。
「本部と炭治郎に連絡を頼めるか?神の怒りを鎮めるには太陽神の加護を持つ炭治郎の力と産屋敷様の力が必要だから」
「キレ逸はどうするつもりだ?」
「オレは宇髄さんと攫われた人達を助けに行く」
「二人で平気か?」
珍しく伊之助が心配する。
山育ちであり、山の神の加護を持つ伊之助は、自然界の厳しさを肌で感じて育っている。
そんな彼に、善逸ではなく宇髄が笑って答えた。
「心配するな。猪頭隊長、神々と対話ができる産屋敷様が外から説得してくれるなら俺達が襲われる可能性は低い。竈門隊長も呼ぶなら尚更だ。寧ろ、残りの結界のほうが心配になってきたな」
宇髄の言葉に、伊之助が主催の男から強引に全ての指輪を奪うと、隼の獣人に本部への連絡を指示した。
隼の獣人は宇髄のムキムキネズミを背に乗せると、あっという間に飛んで行く。
「今、本部と権八郎には連絡した。オレは他の結界の様子を見に行く。他にも狂った主がいるかもしれねぇからな」
「一人で平気か?」
「フン、オレは親分だぞ!平気に決まってるだろ弱味噌が!よし、お前ら三人は俺様に付いてこい。残りの子分達は増員が来たらコイツらを連れてここから出ろ!それまではここでコイツらを守れ。いいな?」
伊之助は部下の獣人達にそう指示すると、猪突猛進!と叫びながら、数人の部下を引き連れ、その場を後にした。
善逸と宇髄も同じくここに残るよう残った部下に指示すると、二人で呪われた森に向かおうとする。
「ま、待て!置いていくのか!?」
主催の男が善逸の騎士服を掴む。
それと同時に、中年女性が宇髄の腕を掴んだ。
「騎士様!私を守って下さるのではなかったの?」
強い力で掴んでくる女性に、宇髄はタメ息をつき、振り返る。
「マダム。ここにいる騎士達は皆精鋭です。安心して下さい」
「イヤよ!こんなケダモノ達に守られるなんて!」
ピクッ
宇髄のこめかみが引きつく。
「同感だ!あの猪の部下など信用できるか!それに連れ去られた者など、もうとっくにやられているに決まってる!」
ピキッ
善逸のこめかみに青筋が浮かぶ。
「そうよ!亡くなった人じゃなくて、今生きてる人を守るべきじゃなくて?それに、部下なんていくらでも代わりはいるでしょ?」
「全くだ!そもそもお前達の今日の仕事は我々の護衛だろう?だからこそ、ここに残って我々のことを守…ーーー」
ドス!!!
ドス!!!
「「ヒイイイイ!?」」
各々の刃が、地面に深々と刺さる。
ゆらりと顔を上げた善逸と宇髄の顔に、二人は腰が抜けたように尻餅を付いた。
「「うっせえよ!それ以上ガタガタ騒いだらぶっ殺す!!!」」
凄まじい剣幕で凄む二人に、男と女は各々失神した。
それを、伊之助の部下である熊の獣人が抱え、のっしのっしと張ったばかりの結界の中に運んでいく。
「気が合うな、隊長」
「うるせぇですよ。ほら、行きますよ」
「クク、了解」
笑いを堪える宇髄に善逸は恥ずかしさを隠すように宇髄の脇腹を小突くと、各々使い魔の雀と烏を召還し、急いで呪われた森へと向かったのであった。
辺りは、不自然な程に暗闇と静寂に包まれ、瘴気が黒い霧となって漂う。
使い魔の雀に雷魔法を宿らせているので視界は確保されているが、それでも恐ろしいことこの上ない。
普段の善逸なら確実にビビっているだろうが、今彼にはそんな余裕がなかった。
何故ならーーー
「キツいのか?」
「えっ?」
「さっきから、ずっと胸を抑えてる」
宇髄の指摘に、善逸は何も答えない。
呪われた森に入ってから、熱を持ち、疼き出した黒百合の痣。
それは、禁域に近づく度に強くなり、徐々に体が火照り、息苦しさを覚える。
しかし、今ここで引き返すわけにはいかない。
そんなことをすれば、攫われた人々の身が危険に晒される。
瘴気と強い魔力に満ちているこの森は、人間や獣人には毒になる。
今、善逸と宇髄が平気なのは、魔法騎士なので瘴気に耐性があることと、宇髄の使い魔の烏が結界を張っているからだ。
魔法騎士である部下達はともかく、あの兎の少女には耐えられない。
(急がないと…急がないと、また…あの時みたいに!)
脳裏を過る光景。
火の海と化した村と、人々の悲鳴。
そして、子狼の姿。
(もう、あんな思いはごめんだ……)
勝手に脳内で再生される過去の記憶に、善逸が胸を抑え、歯を食い縛った時だった。
「善逸」
「何…っ!?」
不意に名前を呼ばれると同時に、唐突に宇髄に抱き寄せられる。
驚いて離れようとするが、もう一度善逸と名前を呼ばれた。
それだけで、善逸の身体は勝手に動くのを止めた。
不思議と、宇髄の言葉には力強さと安心感がある。
「そう、そのままでいい。俺の鼓動を聴け」
「…………」
「焦るな。何の為に俺がいる?」
宇髄の鼓動と言葉に、善逸の頭は冷静さを取り戻していった。
同時に体の熱が下がり、痣の疼きも弱まっていく。
「もう平気か?」
そう尋ねる宇髄に、善逸はそっと彼の厚い胸板を押す。
「うん、もう大丈夫ーーーありがと」
「………顔、真っ赤だぞ」
「はあ!?いつも通りですけど!?」
そう言って、プリプリと怒りながら前へと進む善逸。
その後ろ姿に宇髄はククッと笑い、その後を追った。
やがて二人は、巨大な洞窟に辿り着く。
「ここの奥から音が聞こえる」
「………」
「宇髄さん?」
「っ!……悪りぃ。考え事してた」
「大丈夫?早いとこ、この森から出たほうがいいね」
二人は雀の案内の元、無数の魔鉱石が存在する洞窟を突き進む。
やがて、光が差し、開けた場所に辿り着いた。
「ここは…」
目の前の光景に、善逸は息を呑む。
月明かりの下、自然そのままの木々が生い茂り、神聖な空気を醸し出す。
そんな場所の中心に、朽ちた拝殿と鳥居があった。
鳥居は横木がなく、代わりに千切かけた縄がかかり、拝殿には白い花瓶に黒百合の花が生けられている。
(黒百合…)
思わず胸元を抑える善逸。
はっきり言って、黒百合は痣のことを思い出す為、あまり好きではない。
「善逸!」
宇髄の声に善逸が彼の指し示すほうを見ると、そこには大樹の幹に埋まっている兎の少女がいた。
魔力を己の耳に注いで耳をすませば、近く茂みの中や巨大な岩、そして狼の形をした石像の中に、部下の存在を発見する。
「全員、この場所に取り込まれかけてる!」
「よし、手分けして引っ張り出すぞ!」
二人が駆け寄り、退呪魔法で自然の一部になり掛けていた少女と部下を救う。
魔法騎士である部下達は、すぐに意識を取り戻した。
「た、隊長、副長~!」
「助けに来てくれたんですね~」
「オ…オレ、一生お二人に付いていきます~」
むせび泣く三人の部下達。
そんな彼らを、善逸はよしよしと宥める。
「うん。皆よく頑張ったね。無事で何よりだ」
「「「はい~!」」」
オイオイと泣く部下達に、宇髄はやれやれと苦笑した。
「これだけ泣く元気があるならコイツらは大丈夫だな」
「ホント、元気で良かったよ。でも、女の子は意識がない。彼女は瘴気に耐えられないから、早くここから出ないと…それにあの蔦がまたいつ襲ってくるか…」
そう言って、善逸が石畳の上、参道にあたる場所に立った。
その時だった。
はらりーーー
生けられた花瓶の黒百合の花弁が音もなく落ちる。
その瞬間、拝殿に潜んでいた蔦が善逸目掛けて飛び出した。
「善逸!!!」
シュバ!!!
宇髄の叫び声が耳に届いたのと、背後に迫る蔦に善逸が気付いたのは、ほぼ同時だった。
「わあっ!また来た!」
「落ち着け!」
「結界を張れ!」
「善逸!」
部下達が兎の少女を守るように立ち、結界を張る。
そんな中、宇髄が善逸へと向かって走り、必死に手を伸ばす。
しかし、彼の手が届く前に、蔦の壁が二人を引き裂いた。
「ぜん!!!」
繭のようになった蔦に、宇髄は叫んだ。
一方、蔦の繭の中で善逸は四肢を拘束され、宙吊りにされていた。
「くっ!?」
踠く善逸を余所に、蔦は善逸を高く持ち上げた。
上部にぽっかりと空いた繭の穴から月の光が差し込み、善逸のはだけた胸の痣を照らす。
“さあ、時は満ちた”
突如耳元で囁く声に、善逸はゾクッと身を震わせる。
同時に、再び疼き始める黒百合の痣。
善逸の体が急速に火照り、その中心が熱を持ち始める。
「あっ!?」
ビクン!!!
不意に、耳を棘つきの蔦で撫でられる。
それだけで体の中心に甘い痺れが走り、拘束された足が魚のように跳ねる。
それは、紛れもない“発情”の証だった。
訳のわからない事態と発情による混乱に、善逸は恐怖と混乱の中、蔦から逃れようと必死に踠いた。
その間にも、声はねっとりと善逸に囁く。
“我等の後継に選ばれし者よ。今から生源の儀式を行う”
得体のしれない存在が善逸に囁きかける中、宇髄は自分の武器を召還し、構えた。
「響弦よ、我が行く手を阻みし敵を斬り刻めーーー」
宇髄が詠唱するとともに、彼の深紅の瞳が光を帯びる。
けれど、繭の中では蔦の儀式は着実に進んでいた。
「…はな…せ…っ…!」
善逸も、発情により意識が朦朧とする中、何とか己の武器を召還し、刃に魔力を込める。
けれど、蔦はそれを許さず、善逸の口まで覆ってしまった。
“逆らうな”
「ンン!!」
カランーーー
耳元に声を吹き込まれただけで、発情した善逸の体が痙攣し、一瞬意識が飛んだ。
力が抜けた善逸の手から、刀が滑り落ちる。
蔦は、そのまま小刻みに太ももを震わせている善逸の体を更に高く持ち上げた。
黒百合の痣が赤い光を帯び始める。
“刻印を刻まれし桃の血を引く者よ。生源を注がれし聖杯をその身に宿せ”
更に赤く発光する黒百合の痣。
同時に、善逸の琥珀色の瞳が見開かれ、ピンと身体が強ばった。
「……っ……ン……!」
“我らにその身を捧げよーーー我らの血と力を受け継ぎし者の苗床となりーーー”
「……っ……んぅ……」
“我らの血を繋げ”
「ンンンンンッ!!?」
激しく光る赤色の花の痣。
その光が、蔓を伸ばすように善逸の腹を滑り、ある場所に何かを描いた。
宇髄の魔法攻撃が繭を斬ったのは、ほぼ同時だった。
「鳴弦奏々!!!」
ザン!!!!!
直ぐ様、霧散した蔦の残骸が石畳に落ちる。
同時に、宙吊りにされていた善逸の体が解放され、そのまま落下した。
「善逸!」
ドサッ!
善逸の体を宇髄が抱き留める。
「善逸」
顔を覗き込む宇髄に、善逸がゆっくりと目を開けた。
「うず…さ…」
善逸の視界が宇髄の姿をはっきりと捉えた。
善逸の潤んだ瞳を見た瞬間、宇髄の深紅の瞳が本能的に光る。
その瞬間ーーー
ドクン!!!
「ぁっ!!!」
「ッ!?」
再び、善逸の体が勝手にビクビクと身悶えた。
驚く宇髄。
その表情に、善逸は泣きたくなった。
ドン!!!
「善逸!?」
突如、善逸が宇髄を突飛ばす。
そのまま距離をとる彼に、宇髄が再び近づこうと手を伸ばす。
「来ないで!」
しかし、善逸は手を翳してそれを制止した。
「ぜん……」
「来な…で…宇髄さ…」
「…………」
善逸の懇願に、宇髄はそれ以上近づけなかった。
伸ばされた手が力なく下ろされ、悔しそうに拳を作る。
「………何があった?」
俯く宇髄が、それだけを問う。
けれど、善逸は答えない。
未だ、赤く発光する花の痣。
ただ黙って、服を整え、花の痣を隠す。
けれど、狼の獣人である宇髄は気付いていた。
彼の体の変化をーーー
「善逸、何があったんだ?」
「…………」
「黙っててもわかんねぇだろ!お前の身に何があったんだって聞いてんだ!それにお前……匂いが……!」
「宇髄さん…」
彼の言葉を遮り、善逸は俯いたまま、何とか言葉を紡ぐ。
「今すぐ……皆を連れて……ここから…離れて…」
「何言ってんだ!できるわけねぇだろ!」
置いていけという善逸に対して宇髄が吠える。
けれど、善逸は震える手で己の刀を掴み、その切っ先で結界を張った。
「みんなも…早く…いって…」
「隊長!そんなことオレらもできませんよ!」
「隊長が残るなら俺も残ります!」
部下の一人の言葉に、善逸はただ微笑んだ。
「…大丈…夫…だから…早く……」
「隊長!」
「森…でたら…悲鳴嶼さ…知ら…せ…………」
ドサッーーー
「善逸!!!」
「「「隊長!!!」」」
意識を失う善逸に宇髄だけでなく、部下達も声をあげる。
「善逸…」
宇髄が善逸のそばまで歩みより、彼を包む結界に触れる。
「………」
「副長……」
部下の一人が声をかける。
背中を向けたままの宇髄に、もう一人がこう問いかけた。
「……本当に、隊長をここに置いていくつもりですか?」
「オイ!お前も知ってんだろ!隊長命令は絶対だぞ?」
「じゃあ、お前は隊長をここに置き去りにする気かよ!」
「誰もそんなこと言ってないだろ!」
「やめろ」
宇髄の静かな静止に、全員押し黙った。
副隊長である宇髄は、静かな時のほうが怖いのだ。
それは、部下である彼らが身を以って知っている。
「………」
「………」
「………」
「ーーーおい、お前ら全員動けるか?」
「「「えっ?」」」
問い返す三人に、宇髄は振り返りニヤリと笑う。
「隊長と兎のガキを抱えて森から出るには、俺一人じゃ荷が重いだろ?」
「…っ!…じゃあ!」
「あぁ、全員でこの森から出るぞ」
宇髄の決断に、部下達が嬉しそうに破顔する。
そして、三人はピシッと背筋を伸ばした。
「「「はい!了解です!」」」
「良い返事だ、お前ら!流石、鳴神の魔法騎士だ。ド派手に強い、最高の部下だよ。お前らは!」
パリン!!!
宇髄が手を翳し、善逸の結界を壊した。
そのまま、意識のない彼の体を抱き上げる。
「一人は前方を注意だ。道案内は隊長の使い魔がいるから安心しろ」
「はい!」
「もう一人は兎のガキを背負って右側を注意だ」
「はい!」
「最後の一人は左側を注意しろ。魔物は大抵西から襲ってくる。気を引き締めていけ」
「はい!」
「俺は隊長を連れて後方を注意する。なに、大丈夫だ。俺には虹丸がいるからな」
宇髄がそう言うと同時に烏が宇髄の肩に止まり、結界を張る。
「よし、お前ら!この場を離れるぞ!」
「「「はい!!!」」」
「ーーーお前一人をこんな所に置いてけるかよ…」
宇髄は腕の中の善逸に向かってそれだけを伝えると、部下とともに急いでこの場を離れたのであった。
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