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雷狼のBEAST 第三話 呪花の証

  宇髄たちが善逸を連れ、立ち去った後ーーー

  その様子を水面越しに見つめてた人物は、無機質な深紅の瞳を細め、何も言わず立ち上がった。

  「ーーーまさか、あんただったとはね」

  冷たい声が滝の水音に溶け、青年は水面すれすれを一撫でし、映像を消した。

  背後からおぞましい音が発せられる。

  振り返ると、巨大な狼の石像が赤い目を光らせていた。

  蔦に覆われた石の壁。

  その中央に鎮座する石像は、青年の頭に直接訴えてくる。

  その周りには、青白い炎のような霊魂が漂い、冷たい気配が肌を刺した。

  湿った石の重々しい唸りが耳に残る。

  「心配には及びません。儀式は成功です。あとは、あなた様の器を手に入れる準備をするだけ。全て私にお任せ下さい」

  そう言って、青年が深く頭を垂れると、石像の赤い目は消え、周りの霊魂も霧散した。

  「…………」

  胸のうちに一瞬だけ広がる波紋。

  けれど、その思いを心の奥深くに封じ、青年は立ち上がると、滝が流れる聖窟を出てた。

  その目の前には黒百合の群生と、先程善逸たちがいた拝殿の後ろ側が佇んでいる。

  「呪花の証を刻まれた人間の男がいる。証を刻まれた者は、孕むまで雄を誘惑する雌犬に成り下がる。今時、そんなもの刻んだ同族がいると知った時はもしやと思ったけど……兄さん…」

  咲き誇る黒百合の花弁に触れ、青年は言葉を続ける。

  「兄さんにも、役目を果たして貰うよ」

  ザアーーー

  満月の下、どこからともなく風が吹く。

  すると、黒百合の花弁が舞い上がり、月が輝く夜空へと吹かれて行ったのであった。

  雷狼のBEAST 第三話 呪花の証

  「………で?何でお前らは他の隊の連中と揉め事起こしたわけ?」

  鳴神の執務室、机に書類が山積みの中、呆れたように宇髄が頬杖をつく。

  その目の前には、以前蔦に攫われた部下三人がボロボロになり、頭を垂れていた。

  けれど、彼らは自分は悪くないと言わんばかりにムスッとした表情でだんまりを決め込んでいる。

  彼らは、先程別の隊の魔法騎士と殴り合いをしたのだ。

  今は、善逸がいないため、宇髄が彼らを詰問する。

  「だんまりを決め込むのはいいが、そうなるとお前らだけじゃなくて、今休んでる我妻隊長にも迷惑がかかるんだよ。それ、わかってんのか?」

  宇髄から出た善逸の名前に、三人がピクッと肩を震わせる。

  その姿に、宇髄は苦笑した。

  「隊長が聞いたら泣くぜ?話してみろよ。お前ら、元々喧嘩っ早い性格じゃねぇだろ?」

  宇髄の言葉に、ようやく三人のうちの一人が口を開く。

  「他の隊の奴らが噂してたんです。我妻隊長が呪いを受けて降ろされるって…」

  「それで、オレたち……カッてなって……」

  「俺たちを助けてくれたせいで…隊長、ずっと医療院に入ったままだし…すみません、副長…」

  シュンと頭を垂れる部下三人。

  その姿に、宇髄はやれやれと肩をすくめると、立ち上がって三人の頭に各々一発ずつ軽い手刀を落とした。

  「バーカ。お前らこそ、そんな噂に踊らされてるんじゃねぇよ」

  「ですが…」

  「お前らの知ってる隊長は、そんな柔な男じゃねぇだろ?いつも通り、死ぬかと思った~って泣き喚きながら帰ってくるさ」

  その姿を想像したのだろう。

  吹き出す部下達に、宇髄は笑いながら答えた。

  「だから、心配すんな。お前達は泣いて帰ってくる隊長をいつでも迎えられるよう、鍛練に励め。いいな?」

  「「「はい!」」」

  そう言って、始末書の用紙を持って退出する三人。

  その背中を見送った宇髄はクスッと笑うと立ち上がり、執務室を出た。

  向かう先は、指令室。

  魔法騎士団の上層部の人間がいる場所だった。

  あの事件の後、無事に宇髄たちは森を出ることができ、三人の部下と兎の少女は軽傷だった為、すぐに回復した。

  しかし、善逸は森を出た瞬間、総司令官の悲鳴嶼と、救助隊の胡蝶しのぶに、宇髄の腕の中から奪われ、そのまま連れていかれてしまった。

  それから一月以上……善逸は、未だに帰って来ない。

  だから、今は宇髄が善逸に代わり、鳴神を率いていた。

  (祝ってくれるんじゃなかったのかよ…善逸…)

  心の中で、悔しそうにそう問い掛ける。

  奇しくも、明日は宇髄の誕生日だった。

  以前、蛇猫亭で桃パフェを奢った時に、善逸本人が言ったのだ。

  宇髄の誕生日には、善逸が祝うとーーー

  コン、コン、コンーーー

  「失礼致します。鳴神副団長:宇髄天元。参りました」

  入室し、敬礼をする宇髄。

  指令室には、総司令官の悲鳴嶼がいた。

  普段は、この広い部屋の中を書記官の後藤がバタバタと動き回っているが、今は姿はない。

  巨体な宇髄よりも遥かに大柄な悲鳴嶼は、広大な指令室の中央で、よく磨かれた漆黒の机に肘をつき、手を組んでいた。

  窓から差し込む夕日が、机の表面に赤く反射している。

  「うむ、よく来た」

  悲鳴嶼は机に手をつき、特注の椅子から立ち上がると、後ろの窓に背を向けた。

  人払いをしたであろう状況を察し、宇髄が先に口を開く。

  「悲鳴嶼の旦那。わざわざ人払いまでして、一体何だ?」

  「………口の聞き方に気を付けろ。どこで誰に聞かれているかわからない」

  敢えて、砕けた口調で話し出す宇髄に、悲鳴嶼は一言釘を刺す。

  本来、上官に対する口の聞き方ではないが、実はこの二人は、宇髄が魔法騎士団に入る前から産屋敷を通じての知り合いなのだ。

  だから、宇髄はプライベートの際は、悲鳴嶼のことを“悲鳴嶼の旦那”と呼ぶ。

  「人払いさせておいて何言ってんだ。それより、何かあるんだろ?」

  話を促す宇髄に、悲鳴嶼がゆっくりと振り返る。

  「宇髄よ。鳴神の新たな隊長候補として、お前の名前が上がっている」

  「………あ?」

  「今まで、魔力が低い獣人が魔法騎士団の隊長となった前例はない。だが、お前なら魔力だけでなく、人望もある。我妻から推薦もあった。考えておけ」

  「いや、ちょっと待て!」

  悲鳴嶼の肩を掴み、宇髄が問い詰める。

  「あんた、何言ってんだ?鳴神の隊長は善逸だろ!」

  「………我妻は、隊長の任から降ろす。もうすぐ上層部でその話がまとまる」

  「てめぇ…!善逸が何したってんだ!」

  「………彼は、呪いを受けた。そして、我妻は後任にお前を推薦した」

  「………は?」

  「私とて、苦渋の決断だった。しかし、今の彼を鳴神に…特にお前のそばに置いておくわけにはいかない」

  悲鳴嶼は低く呟くと、盲目の目で虚空を見つめるように顔を上げた。

  そして、宇髄の手を掴むと軽々と引き離し、言葉を続ける。

  「宇髄よ。総司令としての命令だ。もう我妻には会うな」

  その瞬間、宇髄の頭が真っ白になる。

  彼の震えを掴んだ手から感じ、悲鳴嶼は申し訳なさそうに目を伏せ、手を離す。

  「何言ってんだ?旦那…わけわかんねえよ」

  「彼の呪いは古代の神の血筋に根差すものだ。この呪いは謎も多い。解呪の方法も今探している段階なのだ」

  「それと俺に何の関係がある…?」

  宇髄の問いに、悲鳴嶼は一瞬沈黙する。

  けれど、躊躇いながらもはっきりと低い声でこう返した。

  「この呪いは狼や犬の先祖にあたる神が作ったものだ。それだけ言えば理解するか?」

  「!」

  「そうだ。狼の獣人であるお前の血が、呪いを呼び覚ます。会わせれば、取り返しのつかぬことになる可能性がある。だから、会わせるわけにはいかないのだ」

  震えている宇髄に、悲鳴嶼は黙って懐から手紙を出す。

  その手紙を震えている宇髄の手に掴ませ、言葉を続けた。

  「読め。我妻からお前への手紙だ。手紙でなら、やり取りをしても構わない」

  未だに震えが収まらない手で、善逸からの手紙を開く。

  手紙には“隊に迷惑をかけたくない……もう宇髄さんとは会えない……隊長になって皆を率いて欲しい”と綴られていた。

  “ちょっと早いけど、誕生日おめでとう。約束守れなくてごめん”

  「約束破んなよっ…!」

  苦しげな声で、そう吐き出すのが精一杯だった。

  文字は所々歪み、涙の痕が幾つか残されていた。

  彼の言葉と涙の痕に、宇髄の胸が締め付けられる。

  「………」

  「話は以上だ。下がって良い」

  そのまま、背中を向ける悲鳴嶼に、宇髄は手元の手紙をクシャッと握り潰す。

  握り潰した手紙を睨みつけたまま、胸の内で渦巻く怒りと、善逸の涙の痕がちらつき、言葉が詰まる。

  けれどーーー

  「………旦那。善逸と会うなっていうのは、あいつの痣と俺が狼だってのが関係してるのか?」

  宇髄の問いに、悲鳴嶼は何も言わない。

  けれど、その無言こそ肯定の証だった。

  宇髄はゆっくりと顔を上げる。

  「そうかよ……」

  「………」

  「だったら、俺はこの話を蹴るぞ。鳴神の隊長は、我妻善逸ただ一人。それ以外は認めない!」

  凄む宇髄に、悲鳴嶼は盲目の目で彼を睨む。

  「宇髄」

  「大方、善逸が自分から降りるって言ったんだろ?そして、もう俺には会わないって言ったのも…」

  「………」

  「俺があいつを説得する。旦那、善逸に会わせてくれ」

  宇髄の願いに、悲鳴嶼は静かに首を振る。

  「ダメだ」

  「んでだよ!」

  「彼の尊厳を傷付ける」

  悲鳴嶼はそのまま背を向けてしまった。

  「ああ、そうかよ」

  「………」

  相変わらずの無言に、宇髄も背中を向けた。

  「………どこに行く気だ」

  悲鳴嶼の声に、宇髄が一度立ち止まる。

  「決まってんだろ。善逸に会いに行く」

  「………いつもの冷静さはどうした」

  「俺は派手に冷静だぜ?」

  「宇髄」

  諌める悲鳴嶼に、宇髄は顔だけ振り返り、上官であるはずの彼を睨む。

  「悪いが勝手にさせて貰う。俺は諦めが悪いからな」

  そう言い捨てると、宇髄はそのまま指令室を出ていってしまった。

  悲鳴嶼は、やれやれと息を吐く。

  「派手に冷静なのではなかったのか?全く…」

  悲鳴嶼は一人そう呟くと、宇髄が出ていった扉がある方向を見つめたのであった。

  カッ…コッ…

  靴の音が、石畳の渡り廊下に響き渡る。

  夜の帳が降り、満月の光が薬草の草花を照らす中、彼女こと胡蝶カナエはその先にある重い扉を開けた。

  ここは、魔法騎士団直属の医療機関:癒聖院。

  怪我や病を患った者や、身体機能回復訓練、そして呪いを受けた者の解呪をするための機関。

  そして、今彼女が足を踏み入れた場所は、魔法や呪いなどの資料が保管されている資料室だ。

  その奥。

  魔法陣で厳重に施錠された扉に手を翳し、カナエは中に入る。

  そこは、触れることを禁じられた書物が保管されている部屋だった。

  本来、触れられなければ埃を被るはずの書物達は、何故か埃を被っておらず、僅かに光を放っているものもある。

  カナエはその隅で項垂れている狼の青年に声をかけた。

  「これでわかったでしょう?」

  カナエは気遣いながらも、でもはっきりとした口調で宇髄の背中に声をかけた。

  宇髄は振り向かず項垂れたまま、一度だけ返事をするように尻尾を振る。

  「我妻くんの呪いは、解き方がないの。何故なら、目的は命を奪うことじゃない。子孫を残す為のものだから」

  「………」

  「でもね、黒百合の痣を付けた存在がわかれば、何かしら方法を知っているかもしれないわ。それは、今妹のしのぶが調べているの。だから…」

  「無理だ」

  「えっ?」

  「黒百合の呪いは、術者と対象者を深く結び付ける為のものだ。解呪するなら最初から刻まねえよ」

  そういうと、宇髄は立ち上がり、そのままカナエの隣を通り過ぎていく。

  「待って」

  振り返り声をかけるカナエに、宇髄が歩みを止める。

  「どういうこと?そんな話、どの書物にも記されていなかった」

  「………」

  「宇髄さん、あなた一体…」

  「胡蝶」

  宇髄が振り返り、真剣な表情でカナエを見据える。

  「もし、俺のことが信用ならねぇってんなら、遠慮はいらねぇ。今ここで俺を斬れ」

  「………」

  「だが、少しでも俺のことを信用してくれるなら……」

  「今日は駄目よ。もう夜も遅いし、我妻くんをちゃんと休ませないと…」

  「胡蝶…」

  意外な答えに、宇髄は目を見開いた。

  そんな彼に、カナエは微笑み、言葉を続ける。

  「悲鳴嶼総司令には、私から話してみるわ。だから、今日はもう休んで。ね?」

  「あぁ、すまねえな」

  ニコニコと笑うカナエに、宇髄は僅かに安堵すると、そのまま背を向け、資料室を後にしたのだった。

  癒聖院の資料室を後にした宇髄は、夜陰に包まれる薬草畑を歩く。

  満月の光が魔除けの草花を銀色に照らす中、彼はふと立ち止まり、空を見上げた。

  「善逸…」

  胸に渦巻く善逸への想いが、月光に溶ける。

  ひらりーーー

  「ん?」

  視界を横切る花びらに、ふと足を止める。

  見ると、足元に薄桃色の花—ー—笹百合がひっそりと咲いているのに気づいた。

  宇髄は膝をつき、そっと笹百合の花弁を優しく指先で撫でる。

  「こんな季節外れに咲くとはな。流石、癒聖院だ」

  フッと笑い、一輪だけ失敬する。

  笹百合は、善逸との思い出の花であった。

  本来、初夏に咲く為、十月のこの時期に咲くことはない。

  しかし、ここ癒聖院では薬草だけでなく、まじないや浄化にも使われる植物を育てている。

  必要となった時に不足していては困る為、敷地に魔法陣を描き、季節問わず育てられるようにしているのだ。

  ふわっ…ーーー

  「っ!?」

  その瞬間、どこからともなく甘い香りが漂い、風に乗って彼の鼻をくすぐる。

  「……何だ、この匂い?」

  宇髄は目を細める。

  熟した果実のような、甘い香り。

  善逸を思わせる桃と百合の甘さに、本能的な欲望が呼び起こされる。

  「くそ、何なんだ…!」

  沸き上がる欲望を何とか理性で抑えながら、香りに引き寄せられるように足を進める。

  すると、草花の小道が途切れた。

  目の前には、魔除けの花壇に囲まれた、小さな離れの屋根が月明かりに照らされている。

  「ここは……」

  “はぁっ……ぁ…っ…!”

  途端に聞こえてくる声に、心臓が音を立てた。

  “ンン…ふっ……”

  「っ!?」

  耳を犯す喘ぎ声に、気付けば誘われるように離れの扉まで足を進めていた。

  ザッ…ザッ…

  “あっ!…んぅ……やぁっ……!”

  「………ハッ……」

  近づけば近づくほど濃くなる、甘い香り。

  徐々にはっきりしてくる喘ぎ声は宇髄の耳だけでなく思考まで溶かし、気付けば熱い吐息を溢していた。

  “…ぁ…あ!……うず…い……さ…”

  「っ!」

  高まる欲望に、けれど思わず出た自分の名前に、罪悪感が広がった。

  宇髄は、そっと扉に手を置き、問いかける。

  「善逸……お前なのか?」

  宇髄がそれだけを問うと、扉の向こう側から息をのむ気配がした。

  「…うず…さ……?」

  久々に聞くその声に、宇髄は今にも泣きそうな顔で笑った。

  聞き間違えるはずがない。

  この声の主に、宇髄はずっと会いたかったのだから。

  「善逸」

  「やっ…待ってっ…開けないで!」

  善逸の制止に、けれど宇髄はそれを聞き入れず、鍵を壊し、扉を開けた。

  「あぁっ…!」

  足を踏み入れる宇髄に、善逸は絶望の声をあげた。

  「…………」

  「やっ…見な…で…」

  恥じらうように体をくねらせる善逸。

  その琥珀色の瞳から、はらはらと涙がこぼれ落ちた。

  離れにある病人用のベッド。

  真っ白なシーツの上に広がる、光の魔法陣。

  その中心で、善逸は裸にシャツだけを羽織った状態で、魔法陣から生えている蔦に体を縛りあげられていた。

  その胸にある黒百合の痣は赤くなり、そして臍の下……下腹部には、西洋のハートを象ったような痣が刻まれている。

  潤む瞳、熱い吐息を漏らす唇、そして滑らかな太ももを伝う一筋の汗。

  その淫靡な光景に、宇髄の瞳がまたもや本能的に赤く光ってしまった。

  その瞬間、善逸が目を見開き、痙攣し始める。

  「あっ…やぁっ!」

  ビクッ!ビクン!

  宇髄の目の前で、善逸が蔦に縛られたまま身悶え、鍛えられた腹筋と太ももが汚れてしまう。

  その姿に、宇髄は己の本能を恥じ、罪悪感を覚えた。

  一方の善逸は、宇髄の前で軽く達してしまったことに対し、泣きじゃくっていた。

  「うぅっ…えっ…ぐっ…」

  「善逸……」

  「ひどい……オレ…開けな…でって…言った…!」

  泣き続ける善逸に、宇髄は怖がらせないよう、ゆっくりと歩み寄る。

  「………悪い」

  「じゃあ、帰って…早く…!」

  「それはできねぇ。今のお前を一人にしておけねぇよ」

  「帰れっていってんだよ!」

  泣きながら声を荒げる善逸。

  しかし、宇髄は一切耳を貸さず、ずっと会いたかった存在に腕を伸ばした。

  ぎゅっーーー

  「っ!?」

  宇髄に抱き締められ、息を飲む善逸。

  宇髄は笹百合を持っている手でその体を抱き締め、空いた手で彼の金の髪を撫でる。

  「放っておけねぇよ。お前のこと」

  「……っ…!」

  「ぜん…」

  宇髄の声に、善逸は声をあげて泣いた。

  「うずさっ…には…みら…れた…く…なかった…!こ…な…すが…た…」

  「………」

  「オレ…男なのに!……こんなっ…おんな…の…こ……みた…い…っなって…!」

  自らの腕の中で泣きじゃくる善逸の髪を宇髄が優しく撫でる。

  「お前のせいじゃない…」

  「な…んで…オレ…こんな…なっちゃったんだろ?」

  「……それは…」

  「なんで……こんな痣…!つけたくてつけられたんじゃないのに!」

  「………」

  「痣持ちって言われて…こんな体にさせられて…オレ……子どもの時に…十年前に…死んでいれば良かったのかな?そしたら、オレ……っ!?」

  それ以上は聞けなかった。

  宇髄は善逸から死という言葉を聞きたくなくて、気付けば己の唇で彼の唇を塞いでいた。

  「ンン!…ふ…ぁ…っ…」

  「……っ…!」

  唇の間から舌を挿し込み、怯えて奥で震えている善逸の舌を誘うようにつつく。

  すると、おずおずと出てきたそれをまるでダンスに誘うように絡み取れば、善逸からうっとりとした吐息が漏れた。

  「……ハァ…!」

  唇を離せば、互いの唾液でできた銀の糸が二人を繋いでいた。

  宇髄は、蕩けた表情で息を乱す善逸の唇を指で拭うと、彼を戒める蔦を掴み、睨んだ。

  “消えろ”

  声を出さずにそう告げると、蔦は一瞬で灰と化した。

  蔦が消えたことで、呪いを抑え込んでいた魔法陣が消滅する。

  「…え……蔦が……?」

  (……やっぱ、俺の血のせいか)

  驚く善逸に、けれど宇髄は苦い顔で俯いた。

  「………あの蔦は、呪いの力…発情を魔法陣で無理やり押さえつけようとしたから出てきたんだ。それさえしなければ出てこない」

  「そ…なの?」

  「この魔法陣は胡蝶妹のだろ?大方、お前が発情して眠れないことを案じての処置だろうが…逆効果だったな」

  「…な…で…そんなこと…知ってるの?」

  「………俺のせいだからな…全部…」

  宇髄の言葉に、けれど長期の発情で思考が溶けた善逸は理解できなかったようだった。

  蔦から解放された喜びに、善逸はとろりと蜂蜜のような瞳で宇髄に微笑み、唾液で潤った唇で言葉を紡ぐ。

  「ありがとう。助けてくれて」

  「……っ…」

  「でも、ちょっと恥ずかしい…かな。俺、シャツ以外何も着てないし…」

  そう言って、頬を染め、恥じらうように俯く善逸の視線を追うように、宇髄も善逸の体を見下ろした。

  扇情的な光景に、再び宇髄の瞳が本能的に赤くなる。

  「んぁっ!?」

  「っ!」

  腕の中で再び善逸が達し、身悶える。

  その際、宇髄の騎士服まで汚してしまい、善逸は羞恥と情けなさで再び泣きそうになった。

  「ううっ…ごめ…!ごめ……な…さ……はずかし…」

  「……悪い」

  真っ赤な顔でビクビクと身悶える善逸を抱き、宇髄が謝る。

  宇髄の頬も赤く染まっていた。

  そして、彼自身の体も、既に限界を迎えていた。

  「うずいさ…?」

  手に持っていた笹百合を善逸の耳の上に挿し、頬に触れる。

  そして、今しがた貪った唇を親指で撫で、こう問い掛けた。

  「善逸…何で嫌がらない?」

  「えっ…」

  「お前は俺とキスしたんだぞ。わかってんのか?」

  宇髄の言葉に、カアッと善逸の顔が真っ赤に染まる。

  その反応に、宇髄は安堵する。

  少なくとも、触れられることに嫌悪されてはいないらしい。

  「善逸」

  宇髄は善逸の名前を呼ぶと、少しだけ緊張した面持ちでこう問い掛けた。

  「呪いを…発情を抑制する方法を……聞いてるか?」

  ピクッ

  体を震わせる善逸に、宇髄は確信する。

  「知ってるんだな。胡蝶姉妹があんな魔法陣を施すくらいだから、聞いているとは思ったが…」

  「………」

  「ーーー俺の体を使え」

  宇髄の言葉に、善逸が驚いたように目を見開く。

  「は?」

  「俺の体を使え。それでお前が楽になるなら、それがいいだろ?」

  宇髄の提案に、けれど善逸は目に涙を浮かべると、ふるふると首を振った。

  「ダメ…」

  「どうしてだ?」

  「これ以上、宇髄さんに迷惑かけたくない…!」

  そう言って、腕の中から離れる善逸の手首を宇髄が掴む。

  「離せよ!アンタだって、好き好んで男を抱く必要ないだろ!」

  「善逸…」

  「アンタのこと汚したくないんだよ!どうせ抱くならちゃんと望んだ相手を…!」

  ドサッ!!!

  「……安心しろ。俺はちゃんと望んだ相手を抱こうとしてる」

  押し倒しそう告げれば、善逸は驚いた表情で自分を見上げた。

  そのまま彼の手を引き、自らの硬くなった雄芯へと導けば、真っ赤な顔で固まる。

  「嫌じゃねぇんだな?」

  「………っ…」

  「ここに入る前、名前呼んでたもんな?宇髄さんって」

  「それは…!」

  「ぜん」

  押し倒したまま、優しく頬を撫でる。

  彼の金の髪に挿した笹百合が僅かに揺れた。

  「抱いていい?お前が欲しい」

  「……宇髄さん、痣の匂いは効かないんじゃなかったの?」

  「そうだな、全く効かないわけじゃなかった」

  「それなら…」

  「言っただろ?望んだ相手を抱こうとしてるって」

  「………」

  「お前と離れたくない」

  宇髄の真摯な眼差しに、善逸はやがて観念したかのように、おずおずと腕を伸ばした。

  「そばにいて」

  泣き腫らした瞳には、再び涙が浮かんでいた。

  「抱かれるなら…宇髄さんがいい…」

  そう言って、善逸は泣きながら温もりを確かめるように震える腕を宇髄の太い首に回してきた。

  宇髄は泣きそうな顔で笑うと、善逸の唇にキスを落とす。

  (……俺のもんだ)

  「宇髄さん、ごめんね…」

  「もう謝るな。それに、俺は最高の誕生日プレゼントを貰えるからな」

  「えっ?…あっ…」

  何かに気付いたような善逸に、宇髄はフッと笑う。

  「日付、もう変わったからな」

  「そっか…オレ、約束守れたんだ…宇髄さん…」

  「ん?」

  「ーーー誕生日、おめでとう」

  善逸の微笑みに、宇髄は唇を寄せる。

  そのまま、二人は肌を重ねた。

  善逸は、初めての行為である上に、男を受け入れる側である為、宇髄の予想どおり初めは怯えていた。

  けれど、その度に宇髄があやし、念入りに入口を解してやると、発情の効果も相まってすぐに宇髄を求め始めた。

  「うず…さっ…も……きて!」

  意識が混濁し、体が蕩けた善逸が泣きながら懇願する。

  そして、宇髄は呪いによって蜜壺と化した善逸の入口に、硬くなった自身を押し当てた。

  「善逸…」

  「んっ……ああっ!!!」

  ぐちゅっと粘着質な音とともに、宇髄は善逸の中へと押し入った。

  まるで、温かな泉の中にいるかのような感触に、宇髄は震えた。

  「はっ…!」

  「……っ…ぁ……」

  一方の善逸は、初めて男を胎内に招き入れた衝撃で、目を見開いたまま震えている。

  しかし、奥へと侵入する宇髄が胎内のある部分を擦った瞬間ーーー

  「んあっ!」

  ビクンと体を震わせ、胎内の宇髄をキツく締め付けた。

  イイ所を擦ったのが、手に取るようにわかる。

  その反応に、宇髄は口角を上げた。

  そしてーーー

  「あっ…やぁっ…ん!」

  そのまま、イイ所を擦りながら奥を突いてやると、善逸は腕の中で甘い喘ぎ声を漏らし始めた。

  吸われて赤くなった唇から漏れる吐息、潤んだ蜂蜜色の瞳に悩ましげに寄せられた眉、玉の汗を弾きながら、悦びに染まっていく肌。

  重ねた体から伝わる鼓動は高鳴っており、勃ち上がり天を仰ぐ彼自身からは悦びの涙が溢れている。

  初めてであるにも関わらず、自分を受け入れ、感じ、悦ぶ様に、宇髄は歓喜のあまり震えた。

  そして、この扇情的で美しい存在の全てが自分のものであるという至福に、宇髄は幸せそうに目を細め、善逸の乱れる様をしっかりと脳裏に焼き付ける。

  「イイんだな?さっきまで処女だったくせに…中で感じてるんだな?」

  意地悪く囁けば、善逸は目を見開き、カアッと顔を赤くした。

  「ち、ちが…!」

  「恥ずかしがるなよ。もっと見せて。善逸の感じてる姿」

  「……ぁ…」

  「もっと俺を欲しがって。俺を求めて甘く鳴いて。もっと善逸のド派手に厭らしくて淫らな姿、俺に見せて」

  「あっ…はあっ!」

  感じやすい耳を舐め、吐息を吹き込むように囁けば、善逸は更に体を熱く火照らせ、鍛えぬかれた足を宇髄の腰にしっかりと絡めてきた。

  そして、胎内にいる宇髄の雄芯を締め付けながら、淫らに腰をくねらせ、宇髄を奥へと誘う。

  「ハア…ハアッ…!こ、擦って!あん!…も…もっと…もっと…奥…突いて!」

  「……あぁ、いいぜ…」

  「いっぱい…ン…痕…つけて…!オレのなか…っ…うずさ…で…っ…いっぱいにして!」

  「………ッ…いくらでも満たしてやるよ…お前の…ためなら…!」

  善逸の懇願に、宇髄は応えるように彼の肌を余すとこなく吸い上げ、時折歯形を刻みながら、腰を打ち付ける。

  「うっ…はぁ…!…イイか?…ぜん…」

  「ンン…ぁ…あぅ!……イイ…きもち…イイ…!」

  熱に浮かされたように自らの腕の中で乱れる善逸に、宇髄はうっとりとその姿を視姦する。

  やがて、善逸の声に余裕が無くなり、宇髄もまた己の中で煮えたぎる欲望に、汗を流しながらその柳眉を寄せる。

  「あっ!ン…あん!うずい…さ…うず…さ…!」

  「ぜ…いつ…!」

  「ああっ!」

  「…っ…くぅ…!」

  熱い締めつけに、宇髄が堪らず善逸の胎内に欲望を吐き出す。

  同時に、善逸もまた自身の欲を宇髄の鍛え上げられた腹に吹き掛けていた。

  すると、善逸の下腹部にある痣の色が変化する。

  「あ……な…んか…へん…」

  そう言って、ベッドに沈む善逸が下腹部の痣に触れる。

  よく見ると、禍々しいくらいに赤くなっていた痣の光が落ち着き、鼓動を打つように脈打っていた。

  「これは…」

  脈打つハートの痣に、宇髄は理解する。

  この痣が、書物に載っていた聖杯なのであろう。

  ならば、生源はーーー

  「うずいさ…の…」

  ビクッ

  善逸の言葉に、宇髄は表情を固くしたまま、身を震わせる。

  けれど、善逸は宇髄の想像とは裏腹に、愛おしそうに下腹部の痣に手を添えた。

  「フフ…うず…さ…の…とっても、あったかい……」

  「っ!」

  「…オレのなかで…いっぱい…きもちいい…」

  痣に触れ、微笑む善逸の姿。

  その光景に、未だ善逸の中にいる宇髄自身が瞬く間に硬度を取り戻し、目が赤く光った。

  そしてーーー

  「んぁっ!?」

  「っ?!…くぅっ!」

  欲情する宇髄と連動するように、善逸が身悶える。

  その拍子に、咥え込まれていた宇髄の雄芯が締めつけられてしまい、宇髄はキツく眉を寄せる。

  「ハア…ハア…」

  「……悪かった。俺のせいで」

  「……?」

  「俺が善逸に欲情するせいで…お前は…」

  俯く宇髄に、けれど善逸は手を伸ばし、宇髄の顔を両手で包み込んだ。

  「欲情してよ」

  「っ!?」

  「宇髄さんもオレを欲しがって…オレのせいで余裕ない姿…もっと見せて…」

  「ぜん…」

  「オレだって見せたんだから...これでお相子でしょ?」

  泣きながら微笑む善逸に、宇髄は嬉しそうに笑うと、可愛らしいことを言った唇を塞ぎ、再び善逸を求め、幾度も彼の聖杯に命の源を注いでいった。

  こうして、静かで熱い夜が過ぎ、朝日が離れを金色に染める。

  一晩中宇髄と交わった善逸は、一糸纏わぬ姿となり、彼の胸で穏やかに眠っていた。

  髪に挿した笹百合は、二人が縺れあう中で潰れ、花びらが一枚取れている。

  それが、まるで純潔を失い、男を知った今の善逸のようで、思わず宇髄は苦笑する。

  そんな彼の金の髪を撫でながら、善逸と違い、シャツだけを羽織った宇髄は心の内で固く誓った。

  (ーーー俺が守る)

  そのまま、涙の痕が残る目尻に口付けた。

  その時だった。

  バン!!!

  「善逸くん!」

  救助隊隊長であり、善逸の以前の副官だった、胡蝶しのぶが慌てたように入ってくる。

  驚いたように、息を飲むしのぶ。

  その後ろから、胡蝶カナエと総司令官の悲鳴嶼が、遅れて入ってくる。

  「宇髄さん?!」

  「宇髄…!」

  カナエが手で口を覆い、悲鳴嶼が眉間に皺を寄せる。

  無理もなかった。

  今、二人はベッドの上、しかもほぼ裸だ。

  おまけに、善逸の体には赤い痕と歯形があちこちついており、更に内股にはベットリと白濁がこびりついている。

  何が行われていたか明らかだった。

  その光景に、誰よりも先に激昂したのはしのぶだった。

  「――ー蝶よ舞え、毒を纏え…魔力の糸を紡ぎ、敵の血を凍らせよ」

  「しのぶ!」

  剣を抜き、魔力を込める妹に声をあげるカナエ。

  しかし、しのぶはもう飛び掛かっていた。

  眼孔を広げ、目の前の宇髄に刃を構える。

  「蝶の舞…戯れ」

  ズドン!

  しのぶの毒を纏った刃がベッドを突き刺す。

  しかし、そこにはもう宇髄たちの姿はない。

  「ーーーオイ、危ねぇだろ」

  しのぶが振り向くと、後ろのソファの上に善逸を抱えたまま、宇髄が凄んでいる。

  「こいつに当たったらどうするつもりだった」

  グルルルと宇髄が唸り声をあげる。

  けれど、しのぶは怯むことなくゆっくりと正面を向く。

  「安心して下さい。ちゃんとあなただけを狙いましたから」

  「…………」

  「ーーー次は、外しません」

  そう言って、再び彼女が刃を構える。

  その姿に、牙を剥き、威嚇する宇髄。

  一触即発な二人を止めたのは、カナエだった。

  「待ちなさい。しのぶ」

  そう言って、手首を掴む姉に、しのぶは抗議する。

  「姉さん!」

  「落ち着きなさい。あなたは隊長でしょう?隊長が感情に流されてはいけないわ」

  「……!」

  「それに、よく見て。我妻くんの手」

  姉の言葉に、しのぶが善逸へと視線を向ける。

  そこには、宇髄のシャツを掴んで離さない、善逸の手があった。

  そして、宇髄はそんな彼を優しい眼差しで見下ろしている。

  しのぶは、疑いながらも漸く剣を下ろした。

  「宇髄さん」

  今度は、カナエが宇髄に視線を向ける。

  「一応、確認するけれど……合意の上よね?もし、無理矢理だった場合、今ここであなたを粛清しないといけないけれど」

  厳しい空気を醸し出し、真意を確かめようとするカナエに、宇髄は鼻をならす。

  「ったりめぇだろ。俺は無理矢理する趣味はねえ」

  「そう……よかった…」

  宇髄の言葉に嘘がないとわかったのだろう。

  カナエはホッと安堵したように息を吐いた。

  その横から、悲鳴嶼が険しい表情で宇髄を詰問した。

  「お前は、事の重大さを理解しているのか?」

  「………」

  「この呪いは、繁殖を目的としたものだ。今の我妻は狼の血を引くお前にとっては女人と同じ。つまり、妊娠する危険性があるということだ」

  悲鳴嶼の言葉に、けれど宇髄は動じず、真っ直ぐに悲鳴嶼を見返す。

  「ああ、理解していた。わかっていて善逸と交わった」

  「宇髄!」

  「善逸の発情を抑えるには、これしかなかった。旦那達も知ってたんだろ?」

  宇髄の言葉に、悲鳴嶼は答えなかった。

  そんな彼に対し、宇髄は善逸をぎゅっと抱き、 言葉を紡ぐ。

  「安心しろ、責任はとる」

  「何?」

  「善逸は、俺を受け入れてくれた。そして、俺もこいつのことを離したくない」

  「宇髄さん…」

  「善逸は、俺のもんだ」

  そう言って、決意を見せるかのようにぎゅっと善逸を抱く宇髄に、悲鳴嶼はやれやれと息を吐いた。

  カナエは苦笑し、しのぶは未だに宇髄を睨んでいる。

  「責任を取る人が不法侵入をした上に器物破損をするんですか?」

  「オイ、確かに無断で離れには入ったが、器物破損ってなんだよ。何も壊してねぇぞ」

  わけのわからない宇髄に、しのぶは青筋を浮かべたまま、ニッコリと笑った。

  「鍵、壊れてますけど?」

  しのぶが指を指した方向を向くと、そこには鍵が壊れた扉が一つ。

  そこで、宇髄は漸く鍵を壊したことを思い出す。

  「………ヤベ…」

  「宇髄!」

  眉を吊り上げる悲鳴嶼に、宇髄が冷や汗を流しながら言い募る。

  「悪い、旦那!わざとじゃねぇんだ!」

  「お前という奴は…!」

  「だから、ド派手に悪かったって!」

  悲鳴嶼に怒られる宇髄を横目に、胡蝶姉妹が意識のない善逸を宇髄から離し、彼の体を清め、緊急避妊薬を飲ませる。

  「口の中ですぐ溶けるタイプだから、意識のない我妻くんにも使えるわ」

  「……よかった。善逸くんの症状が落ち着いて」

  安心したように眠る善逸に、しのぶが安堵する。

  そんな妹に、カナエは笑って声をかけた。

  「しのぶはずっと心配してたものね。我妻くんのこと…」

  「痣持ち…呪いを受けた人の苦しみは、想像を絶するもの。姉さんだってよく知っているでしょ?」

  「そうね…」

  俯くしのぶに、カナエが苦笑する。

  「でも、今は宇髄さんがいるわ。私にあなたがいてくれたように…」

  「………」

  「だから、信じてあげましょう。ね?」

  カナエの微笑みに、しのぶは苦笑した。

  その後ろでは、宇髄が悲鳴嶼に責められ、たじたじになっていた。

  「だから、派手に悪かったって!」

  平謝りする宇髄に、ため息を吐く悲鳴嶼。

  「扉の弁償は後日だ。給料から天引きする。そして、命令を無視したのだから、三ヶ月の減給だ。よく心得ておけ」

  「マジかよ!」

  頭を抱える宇髄の声に、善逸が目を覚ます。

  「……えっ?何事?」

  あまりにも混沌とした状況に固まる善逸。

  そんな彼に対し、宇髄はすぐさま彼を抱き寄せた。

  「善逸、体はどうだ?」

  宇髄が心配そうに尋ねると、善逸は戸惑ったように口を開いた。

  「うん…大丈夫みたい。腰は痛いけど…」

  「まだ発情するか?」

  「ううん、今はしないよ。あんなに体が火照って仕方なかったのに…」

  「そうか…よかった」

  善逸の答えに、宇髄は安堵したように笑い、悲鳴嶼と胡蝶姉妹は驚いたように目を見開く。

  「ずっと善逸くんを苛んでいた発情が治まった?」

  「一時的なものかもしれないわ。けれど、宇髄さんとの交わりが我妻くんの発情を抑えたのは確かよ」

  胡蝶姉妹の言葉に、悲鳴嶼が考え込むように顔を伏せる。

  「どうやら、宇髄についてお館様に尋ねなくてはいけないようだ」

  思案する三人を他所に、宇髄は善逸を抱きしめ、そんな彼の抱擁に善逸が真っ赤になって離れた。

  しかし、宇髄は彼を再び抱き寄せると、耳元でこう囁いたのであった。

  お前は俺が守る、とーーー

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