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離れの障子が開き、善逸と宇髄がもつれ合いながら、中へと入る。
「んぅっ…ハッ…」
互いに唇を貪りながら、服を脱ぐ時間も惜しいと云わんばかりに、抱き合い、脱がし合う。
二週間ぶりの発情…宇髄と再会し、彼に抱き締められ、彼の匂いと音を五感で感じた瞬間、それは始まった。
潤んだ瞳と火照った体に、けれどそれは宇髄も同じだったらしく、気付けば二人はどちらからともなく、唇を寄せていた。
精霊が咲かせる純白の花が咲く中、互いの温もりを分け与えるように、キスを交わす二人。
そのまま宇髄に抱き上げられ、善逸は離れへとやってきたのである。
まだ、完全に服を脱いでいない中、善逸は宇髄によって布団の上に押し倒された。
「ぜんいつっ…!」
「んあぁっ…!」
久し振りに押し入ってくる、硬く熱い感触。
焦がれて止まなかった熱に、善逸の胎内は悦んでそれを受け入れた。
熱い粘膜が宇髄の雄芯に絡み付く。
「はっ…!」
ドクン!
早々に注がれる、熱い種。
宇髄の口から、歓喜の吐息が漏れる。
「……相変わらず、善逸の中は熱いな…溶けちまいそうだ…」
そのまま、宇髄は上体を起こすと、善逸の蜜壺を突き上げ始めた。
彼が胎内を突く度に、善逸は乱れ、喘ぎ声を漏らす。
「あっン…あんっ…うずい、さ…っ…うず、さ!」
「ハア…ハア…!ぜんっ…」
チュッ…チュッ…
宇髄の腰に足を絡め、善逸は淫らな腰づかいで、宇髄自身を締め付け、奥へと誘う。
宇髄もまた、ずっと求めていた存在の体温にキスを繰り返し、再び濃厚な種を注ぎ込んだ。
それでも彼は止まらず、善逸の放つ色香と誘惑に乗り、ガツガツと淫らな体を貪り、欲を放つ。
「ンン…んぅ…っ…ぁ…」
チュッ…チュッ…チュッ…
宇髄の太い首に腕を回し、後頭部の髪に手を差し込んで、善逸は宇髄とのキスに酔いしれる。
既に、善逸の胎内は宇髄の放つ欲で満たされ、腹が膨らんでおり、善逸自身も幾度も達し、透明な液がダラダラと零れている。
「…っ…ぜん…一度、抜くぞ。いいな?」
「や、イヤ!」
「お、おい!」
ガシッと宇髄にしがみつき、首を振る。
「抜かないで…」
「………」
「まだ…なかにいて…」
善逸の願いに、宇髄はその頬に涙を拭った。
そしてーーー
ぐちゅっ!!!
「あっ!!!」
奥を貫かれ、善逸の体がのけ反る。
そのまま、激しく最奥を突く宇髄に、それでも善逸は嬉しそうに宇髄にしがみつき、涙を零したのだった。
雷狼のBEAST 第六話 牙の鳴く記憶~後編~
パチパチーーー
火鉢の音が、耳に心地よく届く。
宇髄が住まう産屋敷邸の離れ。
その布団の上に、善逸は寝巻を纏い、しどけなく横たわっていた。
あれだけ、抱き合ったのだ。
体は気だるく、腰に至っては感覚がない。
そこに、宇髄が帰ってくる。
「体はどうだ?」
宇髄に抱き起こされ、膝の上に乗せられる。
「ほら」
「ん……ありがと…」
宇髄が持ってきた柑橘と蜂蜜でできた飲み物を飲む。
正直、喉が乾いていたのでありがたかった。
そのまま、緊急避妊薬を飲み、宇髄の胸に身を預ける。
けれど、善逸には大事なことが残っていた。
自分は、宇髄に抱かれる為にここに来たのではない。
宇髄のことを知り、受け止める為に来たのだから。
「宇髄さん…」
「あぁ、お館様からお借りした」
彼の手には、藤の花の形をした鈴が握られていた。
「…本当にいいのか?」
宇髄が鈴を持った手で善逸の手を握る。
「俺の記憶を見るのは構わねぇが…血塗られた記憶だ、見ていて心地よいもんじゃねぇぞ?」
「構わないよ」
善逸は宇髄を真っ直ぐに見つめ、ギュッと手を握り返す。
「見せて。宇髄さんの記憶」
「………」
「大丈夫。逃げないって約束したでしょ?」
善逸の覚悟に、宇髄はそっと額を寄せた。
「目を瞑れ」
宇髄と額を合わせた善逸が目を閉じる。
握り合った手が揺れ、鈴が鳴る。
清らかな鈴の音に、善逸の意識はどんどん遠ざかっていくのであった。
気付けば、善逸は見知らぬ場所に立っていた。
辺りを見回すと、宇髄の声が耳元で囁かれる。
(懐かしいな…この頃の神域はまだ綺麗だった)
宇髄の言葉に、善逸はかつて足を踏み入れた森の禁域を思い出す。
確かに、そこは見覚えがあった。
けれど……
(本当に同じ場所?全然雰囲気違わない?)
善逸がそう言うのも無理はなかった。
あの時、足を踏み入れた場所は瘴気に覆われ、生命の息吹を微塵も感じなかった。
だが、今目の前に広がる光景は、清らかな空気に満ち、美しい草花が咲き、綺麗な小川が流れている。
(神域は、そこを統べる神によって左右されるんだ。この頃はまだ良かった。けどな…)
すると、場面が代わり今度は洞窟のような場所へと移動する。
バチン!!!
音がする方向に視線を向けると、中年の男性が怒りに満ちた表情をしていた。
そして、視線の先には白銀の髪に深紅の瞳を持つ、美しい少年が膝をついていた。
十代前半くらいの少年は片頬を腫らし、男性を睨んでいる。
(あれ、宇髄さん…?)
(あぁ、昔の俺だ。それで、あの男が俺の父親)
バチン!!!
立ち上がる幼い宇髄を、父親が叩く。
思わず駆け寄りそうになったが、宇髄の声が止めた。
そこで、ここは彼の過去の記憶であり、実体ではないことを思い出す。
“ぐっ…!”
蹲る小さな背中を踏みつけ、宇髄の父は言った。
“貴様は我が掟を忘れたか?”
“………”
“一族の当主の言葉は絶対だ。当主の命令を覆すことはできぬ。例え、跡取りだとしてもな”
“……うるせぇ”
それでも、少年は父を睨み上げた。
その瞳の力に、父親が一瞬怯んだように顔を歪める。
“そのご当主様の地味な命令のせいでどれだけの同胞が消えた?”
“……何?”
“俺はもうごめんだ。同胞を失うのは…”
“天元…貴様…っ!”
“あんたが魔王につくって言うなら、俺は全力で止める!”
そう言って、飛び掛かる少年。
しかし、その小さな体は父が翳した手から発せられた光によって消えた。
場面は代わり、傷だらけの少年が桜の木の下で倒れている。
(俺は魔王側につこうとする親父を止める為に決闘を挑んだ。だが、幼い俺が親父に勝てるわけもなく、結果瀕死の状態で一族から追放された)
倒れた少年の上に、はらり、ひらりと桜の花弁が舞い落ちる。
すると、遠くから足音が聞こえてきた。
ピクッと身を震わせた少年が瞬く間に子狼の姿に変わる。
(さっきも思ったけど、本来のアンタは人の姿と変わらないんだね。尻尾はないし、耳だって…)
(狼の姿は野山を駈けるのに便利だからな。俺たちの先祖はその姿で子孫を残すこともあった。それが狼や犬といった種族を生んだのさ)
宇髄の声が説明してる間に、どんどん大きくなる足音。
すると、小さな体がひょこっと姿を現した。
金色の髪に琥珀色の瞳…間違いなく、幼い善逸だった。
幼い善逸が子狼を発見し、慌てて駆け寄る。
“だいじょうぶ?”
“………”
“おやつ、食べる?”
拙い声に、善逸は何だか気恥ずかしくなる。
すると、耳元でククッと宇髄が笑った。
(正直、「何言ってんだ?このガキ」って思ったよ)
(う、仕方ないじゃん!まだ七歳だったんだから!)
抗議する善逸に対し、幼い善逸はキョロキョロと辺りを見回すと、近くの木々のそばに寄り、枝と枝を結び始めた。
そして、違う葉を集め、魔法陣で水を弾く布を作り、上に被せる。
(…今思うと、不恰好な家だったよね?)
目の前で自信満々な表情で満足する幼い自分に、羞恥のあまり赤くなる善逸。
けれど、宇髄は楽しそうに言った。
(いいや、派手に良い棲み家だったぜ?)
幼い善逸は持っていたハンカチで傷の手当てをすると、子狼を抱き上げ、家の中に入れた。
それからは、幼い善逸は足繁く通い、子狼の面倒を見た。
村で育てている回復と浄化の桃を持参し、それをすりつぶしてミルクとともに子狼に飲ませる。
子狼の横に座り、桃を囓る幼い自分の姿に、善逸は懐かしさを覚える。
(おかしな話だよね。肉食の狼に桃を食べさせるなんてさ)
(そんなことないぜ。野生の狼は果実も食べる。それに、お前があの桃を食べさせて毎日傷を診てくれたから、俺は回復したんだ)
幼い善逸が子狼の包帯を替え、わしゃわしゃと撫でる。
若干、鬱陶しそうな子狼。
それを、宇髄の声が説明する。
(あの頃の俺は、全てがどうでもよくなっていた。親父に負け、一族を追われ…憎しみしかなかった。正直、怪我を診てくれるお前のことさえ利用しようとしてた。それが、俺たち一族の考えだったからな)
利用できるものは、全て利用する。
それが、宇髄一族の考えだった。
善逸は、一見頼りなく臆病な子どもだが、その実魔力が高く、才能があった。
それを見抜いた宇髄は、善逸が幼い子どもで、まだ無知だったことをいいことに、彼を利用しようとしたのだという。
善逸が回復させてくれるのを良いことに、可愛らしい子狼を演じ、虎視眈々と善逸の力を狙う。
しかし、それはある日を境に変化した。
村の虐めっ子集団が宇髄を発見し、石を投げてきたのだ。
それを守ってくれたのが善逸だった。
その姿に、心を動かされたのだという。
“やめろ!”
激しい稲妻とともに、善逸が割って入る。
“何で…”
目の前に立つ小さい背中に、子狼こと宇髄は思ったという。
普段は臆病で逃げ腰なクセに、何故こんな時に勇敢になるのか…
何故、何の価値もない存在の為に、その強さを発揮するのかとーーー
(神は、力が全てだ。特に、俺たち宇髄一族は利用できないものに手を差し伸べない。そう教えられて生きてきた)
けれど、と…善逸の頬に何かが触れる。
それが宇髄の掌だと、彼にたくさん触れられてきた善逸はすぐに理解した。
(あの稲妻が、俺の凍てついた牙を溶かした。善逸の強さと勇敢さが、俺に他者を守る強さとーーー人間の心の温かさを教えてくれたんだ)
そう話す宇髄に、善逸は過去の記憶を見ながら、彼の言葉を噛み締めていた。
幼い善逸が、走れるようになった子狼に笑いかける。
“ケガが治ったら、一緒に遊ぶんだからな?約束”
一方的な言葉に、けれど子狼は任せとけと言わんばかりに、尻尾を振った。
しかし、そこで場面は切り替わる。
“お前はここにいて!”
そう言って、火の手が上がる方向へと走っていく幼い善逸に、子狼はすぐさまその後を追った。
目の前に広がる光景に、善逸は自らの悪夢を思い出す。
(これ……)
宇髄が着いた時には、既に村人の殆どが息絶えていた。
宇髄一族は、村を襲うにあたり、手始めに回復の桃の木を全て焼き払った。
回復魔法が使えない者が多いこの村において、桃の消滅は決定打だった。
同時に、外へと連絡する使い魔を全て消し、村を孤立させる。
あとは、簡単だった。
(………)
(善逸…)
(大丈夫…)
青ざめた善逸に宇髄が声をかけるが、善逸は目をそらさない。
やがて、幼い自分が魔狼に取り囲まれている場面へと移った。
アオオオォォン!!!
宇髄の遠吠えに、善逸を取り囲んでいた狼が凍りついた。
駆けていく子狼に、善逸がこっちに来るなと叫ぶ。
けれど、背後に迫った黒い狼。
その存在が、善逸目掛けて牙を剥いた。
“やめろー!!!”
宇髄が初めて善逸の前で声を出した。
しかし、その時には既に善逸の首に狼の牙が深々と突き刺さっていた。
“わああああっ!!!”
元の姿に戻った宇髄が激昂し、飛び掛かる。
善逸を襲った黒狼も人の姿となった。
ザシュッ!!!
宇髄の鋭くなった爪が黒狼の青年の腕を裂く。
すると、周囲にいた魔狼が宇髄目掛けて飛び掛かった。
けれど、一瞬の閃光とともに、魔狼たちは灰と化した。
その中心に立つ、怒りに満ちた表情で唸る宇髄の姿。
その様子に、黒狼の青年が腕から血を流しつつも、意識を失っている善逸を掴み、宇髄目掛けて放り投げた。
“っ!”
それを抱き留め、宇髄は涙を流す。
“善逸!”
血が流れ、どんどん冷たくなっていく幼い少年に、宇髄は懸命に呼び掛ける。
そんな姿に、黒狼の青年は無表情のまま、ため息を吐いた。
“兄さん。その人間の子どもはもう助からないよ?そんなの見てたらわかるだろ?”
“うるせぇ!お前なんかにコイツの命を語らせねぇ!”
必死な宇髄の姿に、青年が再度ため息を吐く。
“そんなんだから、一族から追い出されるんだよ。今回だけは父上の判断は正しかったかな?”
“何?”
“魔王陛下の命令なんだ。攻撃力の高い魔法使いの村を殲滅せよとーーー雷属性の連中は回復魔法を使えない奴らばかりだったからね。簡単に殲滅できたよ”
“お前…!”
“何、戦うの?悪いけど、今は兄さんに構ってる暇はないんだ。そもそも、兄さんはもう一族を追放された存在。そんな存在に目をかけたりはしない。知ってるだろ?”
そう言って、青年はあっという間に姿を消した。
薄情ともとれる無関心さ。
宇髄は、腕の中で冷たくなる小さな体を抱いて泣いていた。
自分の一族が、命の恩人に対し、仇で返すような真似をした。
そして、そんな彼等と同じ血が自分にも流れている。
それが、どうしようもなく厭わしい。
“……何が神だっ…こんな……ガキ一人の命すら救えないなんて…何がっ…!”
しかし、宇髄は思い出す。
昔、父親に教わった術。
神の力の源を移植する術のことをーーー
《こんなくだらない術、本当は必要ないと思うが、先祖代々受け継がれし術だ。一族の女が少なくなった場合の保険と思え》
まだ、子どもである宇髄は、その意味をよく知らなかった。
それが何を意味するのか……そして、宇髄もまだこの術を使って無事でいられるまでには回復していない。
だがーーー
“今は、迷っている暇はねぇ”
ビリッ!
弱まっていく善逸の鼓動に、宇髄は彼の服を破る。
まだ、鍛えられてすらいない、柔らかな子どもの肌。
“善逸…”
その肌に、宇髄は己の牙を寄せた。
そしてーーー
ガブ…
宇髄の牙が、善逸の胸に突き刺さる。
同時に、金色の光が二人から発せられた。
“頼む”
(………)
“死なないでくれ”
記憶の中の宇髄に、善逸の瞳から涙が溢れる。
そんな善逸の前で、場面はまた変わった。
(………)
衰弱した子狼が、ヨロヨロと山茶花の木の下で倒れるように座り込む。
あれから、子狼は異常に気づいた桃の村から応援に駆けつけた善逸の祖父:桑島に、善逸を託した。
“お、おい!お前さんどこへ行く?”
呼び止める桑島に背を向け、そのまま離れた。
これ以上、善逸に迷惑をかけたくなかったからだった。
息も絶え絶えに、浅い呼吸を繰り返し…子狼は静かに目を閉じた。
(…っ!)
(善逸、落ち着け。これは俺の記憶だから)
思わず駆け寄ろうとした善逸の肩に手が触れる。
そんな目の前に、再び誰かが現れた。
“君、大丈夫かい?”
黒髪の穏やかそうな少年が子狼に声をかけた。
それが、産屋敷耀哉であることはすぐにわかった。
耀哉が子狼を抱き上げ、歩き出す。
そのまま、子狼は産屋敷邸で治療を受け、やがて回復した。
そして、半年ほど経った後、ようやく子狼は耳と尻尾はあるが、人型の姿をできるようになった。
“………”
寝間着姿で縁側の柱に寄りかかり、ぼんやりと外の庭を眺める、若かりし頃の宇髄。
そんな彼の目の前では桜が咲き誇り、はらり、ひらりと花びらが舞い落ちる。
“やあ、天元。調子はどうだい?”
廊下を歩いてやってきた耀哉に、宇髄は力なくフッと笑った。
その表情に、耀哉が気遣わしげに声をかける。
“君の一族のこと、やはりショックだったかい?”
“そんなんじゃねぇよ。自業自得だ”
(一族のことって?)
(俺は産屋敷一族に宇髄一族の情報を売った。その結果、親父は撃たれ、生き残った残党も離散した)
(………)
(後悔してねぇよ。こうなることがわかっていたから、俺は魔王側につくことを反対したんだからな)
宇髄の声を聞きながら、善逸は記憶の中の宇髄を見守る。
耀哉が宇髄の隣に座り、声をかける。
“天元。君はこれからどうしたい?神族に戻りたいかい?”
“そんなもんに未練はねぇ。力だけの神なんざ、なんの役にも立たねぇからな”
“そう…”
“……ただ…”
“ただ?”
すると、突如宇髄が身構えを正し、耀哉の前で手をついた。
その姿に、耀哉が目を見開く。
“頼む。俺に、人間の世界で生きる方法を教えて欲しい”
そう言って、頭を下げる宇髄に、耀哉が問う
“天元…本気なのかい?”
耀哉の問いに、宇髄が顔を上げ、真っ直ぐに彼の顔を見つめた。
“約束したんだ。怪我が治ったら一緒に遊んでやるって。その為なら俺は神族の地位を捨てる”
宇髄の覚悟に、耀哉が静かに目を伏せる。
“神族は誇り高く自尊心が強い。だから、人間に対して決して頭を下げることはない。その自尊心を捨ててまで、君はその約束を果たしたい。そうなんだね?”
“あぁ、俺はもう一度アイツに会って…そして、今度こそアイツの相棒になりたいんだ”
それから、宇髄は懸命に人間社会のことを学んだ。
元々地頭は良く、文武両道ではあったが、やはり神として刷り込まれてきた価値観が時に邪魔をする。
けれど、その葛藤を耀哉が労ったことで、何とか宇髄は獣人として生きていく術を身につけた。
そして、ある日。
魔法騎士団の七番隊に、見覚えのある金色の少年を見つけた。
宇髄は早速、産屋敷家の後ろ楯を貰い、魔法騎士団の入団試験を受けた。
そして、獣人の騎士として、着実に実績を積み上げ、そして善逸が七番隊の隊長となり、副官を募集するという話が出たタイミングで、善逸の前に姿を現した。
“副官志望だ。よろしく、我妻隊長?”
志願書を持って、不敵に笑う宇髄に、成長した善逸は青ざめた顔で見上げてきた。
そしてーーー
“不合格!!!”
“あ?”
“オレ、狼苦手なの!ごめんなさいね~!”
そう言って、猫の如く資料棚の上に飛び乗る善逸に、けれど宇髄は動じなかった。
ここに来るまで、散々上官や同期に言われたのだ。
七番隊の隊長は、犬や狼の獣人が苦手だから、絶対入れない、やめておけ、とーーー
しかし、そんなことで引き下がる宇髄ではない。
“ぎゃっ!?”
資料棚に近づき、善逸の脇に手を差し込んで抱き上げる。
そして、怯え、涙目になった彼に、不敵に笑いかけた。
“大丈夫だ。俺が慣れさせるからな”
“はあっ!?”
“だから、問題ねぇよ。よろしくな”
“ふざけんな!苦手なのが慣れでどうにかなってたまるか!ってか、離せよ!匂い嗅ぐな~!!!”
善逸の首元に顔を埋め、くんくんと匂いを嗅ぐ。
今は苦手でも、必ず善逸の心を開かせる。
そして、彼が心を開いたら、思いっきり遊んでやるのだ。
あの日、果たせなかった約束を…ーーー
ーーー記憶が、ぷつりと途切れた。
鈴の音が遠ざかり、火鉢のパチパチという音が戻ってくる。
善逸は目を開けた。
頬を伝う熱いものが、自分でも気づかないうちに溢れていた。
「……宇髄さん……」
掠れた声が零れる。
宇髄は黙って、善逸の涙を指で拭った。
そして、そっと腕を回し、強く、強く抱きしめる。
「……ずっと、俺のこと見ててくれたの?」
善逸の声は震えていた。
宇髄は答えず、ただ背中を優しく撫でる。
「あんな些細な約束……守る為にここまでするなんて」
善逸は宇髄の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らした。
六年前の小さな約束を、宇髄は神の牙ごと捨ててまで守り続けてくれた。
「……バカだよ、アンタ」
「何とでも言え」
宇髄の声も、少し掠れている。
「俺はお前に生きていて欲しかった。ただ、お前の隣にいたかった、それだけだ。これからもお前といられるなら、それで……」
言葉の続きは、抱きしめる腕の強さで伝わった。
火鉢の炎がゆらゆらと揺れ、二人の影を優しく重ねる。
ーーー桜は散っても、また春が来る。
その春を、今度こそ一緒に迎えられる。
善逸は宇髄の胸で小さく頷いた。
涙と笑みが混じった顔で、ぎゅっと抱き返した。
「これからも……オレの隣にいて」
離れの中、二人の体温だけが、静かに世界を満たしていく。
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